防波堤の補強方法
【課題】既設防波堤を覆う門型ケーソンを利用することで、防波堤の補強工事を、短期かつ安価に行う。
【解決手段】既設ケーソン2の大きさに対応する大きさの門型ケーソン3を製作するステップと、門型ケーソン3を、既設ケーソン2に被せるように据え付けるステップと、門型ケーソン3を既設ケーソン2に対し据え付けた状態で、門型ケーソン3と既設ケーソン2との間に各充填材を充填して一体化するステップとを備える。門型ケーソン3は、上側壁部3Aに膨張コンクリートなどの充填材を充填可能である複数の投入口3Aaが設けられている。
【解決手段】既設ケーソン2の大きさに対応する大きさの門型ケーソン3を製作するステップと、門型ケーソン3を、既設ケーソン2に被せるように据え付けるステップと、門型ケーソン3を既設ケーソン2に対し据え付けた状態で、門型ケーソン3と既設ケーソン2との間に各充填材を充填して一体化するステップとを備える。門型ケーソン3は、上側壁部3Aに膨張コンクリートなどの充填材を充填可能である複数の投入口3Aaが設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーソンタイプの防波堤の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーソンタイプの既設防波堤(第一線防波堤)が、地震や津波などによって被災すると、その防波堤によって港内を波浪から遮蔽することができなくなり、満足な港湾機能を確保できない状態になる。そのため、早急に防波堤を整備する必要があるにもかかわらず、新たに防波堤を施工するのは、時間と、コストを必要とする。
【0003】
そこで、まず、暫定措置として、まず被災したケーソンなどを再利用して、防波堤の原型復旧工事を行うことが通例である。
【0004】
しかしながら、単に原型復旧工事を行うだけでは、再度同様に被災するおそれがある。
【0005】
そのため、原型復旧工事を終了した後に、新たに定められる津波条件(次回予測される津波条件)に対応できる防波堤を築造することが必要である。
【0006】
ところで、ケーソンタイプの防波堤の補強方法として、ケーソンタイプの既設防波堤の前面壁または背面壁に沿って、断面で前後方向に非対称形状の増設ケーソンを設置して補強することは知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−190254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に記載の技術では、既設防波堤の前面壁または背面壁に沿って、断面で前後方向に非対称形状の増設ケーソンを設置するため、既設防波堤の高さより高い津波条件に対応できる補強はすることができない。
【0009】
発明者は、ケーソンタイプの既設防波堤を覆う門型のケーソンを用いれば、既設防波堤を利用して、既設防波堤の高さの高い津波条件に対応できるように既設防波堤を補強できることに着想し、本発明をなしたものである。
【0010】
本発明は、既設防波堤に被せられる大きさの門型ケーソンを利用することで、既設の防波堤の補強工事を、短期かつ安価にできる防波堤の補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、ケーソンタイプの既設防波堤の高さを高くする防波堤の補強方法であって、前記既設防波堤を構成する既設ケーソンに対応する大きさを有する門型ケーソンを製作するステップと、前記門型ケーソンを、前記既設防波堤に被せるように据え付けるステップと、前記門型ケーソンを前記既設防波堤に被せるように据え付けた状態で、前記門型ケーソンと前記既設防波堤との間に充填材を充填すると共に前記門型ケーソンを前記既設防波堤に対し一体化するステップとを備え、前記門型ケーソンは、前記既設防波堤と前記門型ケーソンとの間に前記充填材を充填可能である複数の投入口が設けられていることを特徴とする。ここで、門型ケーソンの大きさは、既設防波堤と一体であるとして、通常のケーソン式防波堤の設計法に準じて決定される。また、既設ケーソン(既設防波堤)には、災害などを受け、原型復旧されたケーソンも含まれる。さらに、被せるように据え付けるとは、据え付けた状態で被せる状態になっている、という意味である。
【0012】
このようにすれば、陸上作業ヤードなどにおいて製作した門型ケーソンを、前記既設防波堤(既設ケーソン)を被せるよう据え付けた状態で、前記門型ケーソンの複数の投入口を通じて、前記門型ケーソンと前記既設防波堤(既設ケーソン)との間に各種充填材を充填することで、それらを一体化し、防波堤を補強することが可能となる。特に、門型ケーソンを既設防波堤に被せるように据え付けるので、既存防波堤の高さを高くする上で有利な補強となる。
【0013】
この場合、請求項2に記載のように、前記門型ケーソンは、上側壁部と、平行に延びる2つの前後側壁部とを有し、前記上側壁部は、前記複数の投入口が形成され、前記前後側壁部はそれぞれ中空構造とされていることが望ましい。
【0014】
このようにすれば、外観上、新らたに防波堤を構築した場合と同様にすることができ、外観を損なうことがない。
【0015】
請求項3に記載のように、前記各投入口は、補強のための鉄骨が内部に架け渡されていることが望ましい。
【0016】
このようにすれば、必要な剛性を確保した上で、追加施工する門型ケーソンの軽量化が図れ、門型ケーソンの取り扱いが容易となる。
【0017】
請求項4に記載のように、前記一体化された門型ケーソンの前記複数の投入口も前記充填材で充填するステップと、その後前記上側壁部を覆う蓋コンクリートを設けるステップと、前記蓋コンクリートの上に上部コンクリート(いわゆる上部工)を設けるステップとを有する構成とすることができる。
【0018】
このようにすれば、外観に大きな変更を与えることなく、防波堤の高さを高くすることができる。
【0019】
請求項5に記載のように、前記門型ケーソンは、前記前後側壁部内には、前記門型ケーソンの下部と前記既設防波堤との間に止水材を充填するための配管があらかじめ設けられていることが望ましい。
【0020】
このようにすれば、前記配管を用いて前記門型ケーソンの下部と既設ケーソンとの間に止水材の充填を簡単に行うことができる。
【0021】
請求項6に記載のように、さらに、前記一体化する際に、前記既設防波堤と門型ケーソンの前後側壁部との間には、それらの間に形成される隙間を塞ぐ蓋部材を設けるステップを有し、前記蓋部材に、前記隙間に充填材を充填する配管を挿入するための挿入穴が設けられていることが望ましい。
【0022】
このようにすれば、蓋部材によって配管の安定した支持が可能となり、前記既設ケーソンと門型ケーソンの前後側壁部との間の隙間への充填材(例えば膨張コンクリート)の充填作業が容易になる。
【0023】
請求項7に記載のように、前記門型ケーソンに、前記既設防波堤の目地部に対応して止水材が充填される円筒型充填袋が配置され、前記充填袋への止水材の充填により前記既設防波堤と門型ケーソンとの間に海水が浸水するのを防止する止水部を形成するステップを有することが望ましい。
【0024】
このようにすれば、円筒型充填袋を利用して、前記既設ケーソンと門型ケーソンとの間に海水が浸水するのを防止する止水部を形成する作業が容易となる。
【0025】
請求項8に記載のように、前記既設防波堤の上部であって幅方向両側に、設置される前記門型ケーソンの内面に向かって延びる外壁を設けるステップを有することが望ましい。
【0026】
このようにすれば、前記既設ケーソンの上部と前記門型ケーソンとの間における充填材(例えば、中詰砂)が、外壁によって外部に漏れるのが防止される。
【0027】
ところで、前記門型ケーソンが大型で重量がある場合には、請求項9に記載のように、前記門型ケーソンは、前記既設防波堤の側方から差し込んで前記防波堤が延びる方向に移動させて据え付けるもので、前記既設防波堤の壁面を転がり前記既設防波堤と前記門型ケーソンとの接触を規制するローラが設けられていることが望ましい。
【0028】
このようにすれば、門型ケーソンを半没させた状態で、前記既設防波堤の側方から差し込んで前記防波堤が延びる方向に移動させて据え付ける際に、門型ケーソンが既設防波堤に接触して損傷するのが回避され、門型ケーソンが大型であっても無理なく、最終的に既設防波堤に被さる状態に据え付けることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は,上記のように構成したから、既設の防波堤を覆う門型ケーソンを利用することで、既設防波堤の高さを高くする補強工事を、短期かつ安価に行うことできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る既設防波堤(既設ケーソン)を、門型ケーソンで補強した後の状態を示す概略説明図である。
【図2】図1のA−A線における断面図である。
【図3】門型ケーソンを示す斜視図である。
【図4】門型ケーソンと既設ケーソンとの関係を示す斜視図である。
【図5】既設ケーソン復旧(ステップ1)の説明図である。
【図6】門型ケーソン据え付け前準備(ステップ2)の説明図である。
【図7】門型ケーソン据え付け(ステップ3)の説明図である。
【図8】門型ケーソンの運搬の説明図である。
【図9】図9(a)〜(e)はそれぞれ既設ケーソン・門型ケーソン一体化準備作業(ステップ4の説明図である。
【図10】図10(a)〜(e)はそれぞれ既設ケーソン・門型ケーソン一体化準備作業(ステップ4)の説明図である。
【図11】図11(a)(b)はそれぞれ既設ケーソン・門型ケーソン一体化作業(ステップ5)の説明図である。
【図12】中詰砂充填(ステップ6)の説明図である
【図13】蓋コンクリート打設(ステップ7)の説明図である。
【図14】止水グラウト充填袋天端部分切断撤去(ステップ8)の説明図である。
【図15】上部コンクリート打設(ステップ9)の説明図である。
【図16】門型ケーソンの他の実施の形態を示す説明図である。
【図17】門型ケーソンのさらに別の実施の形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。なお、次の説明において、既設ケーソン2が据え付けられている方向(防波堤が延びている方向)を左右方向(幅方向)、海(外洋)側を前側、陸側を後側として説明する。
【0032】
図1は本発明に係る既設防波堤(既設ケーソン)を、門型ケーソンで補強した後の状態を示す概略説明図、図2は図1のA−A線における断面図、図3は門型ケーソンを示す斜視図、図4は門型ケーソンと既設ケーソンとの関係を示す斜視図である。
【0033】
図1〜図4に示すように、本発明に係る防波堤の補強方法は、既設防波堤1を構成する既設ケーソン2(あるいは原型復旧されたケーソン)を門型ケーソン3で覆い、防波堤高さを既設防波堤1より高い補強防波堤4とするものである。
【0034】
各既設ケーソン2は、下部に、前後方向において安定化を図るために前後方向に突出したフーチング2aを有し、上面が均された捨石マウンド5上に据え付けられている。この捨石マウンド5は、補強のための門型ケーソン3の大きさに合わせて、補強マウンド5Aによって、門型ケーソン3による補強前の捨石マウンド5B上の前後が補強され、拡幅されている。
【0035】
門型ケーソン3は、左右方向において既設ケーソン2にほぼ等しい幅を有し前後方向において既設ケーソン2より長い矩形状の上側壁部3Aと、上側壁部3Aの前後両縁より鉛直下方に平行に延びる前後側壁部3B,3Cとを有し、門型状とされている。この門型ケーソン3は、基本的にはRC構造で、必要な剛性を確保するために所定の高さとされている。なお、前後側壁部3B,3Cの下端には、フーチング2aが嵌り込む段部3Ba,3Caが形成されている。
【0036】
既設ケーソン2と前後側壁部3B,3Cとの間には膨張コンクリート6(充填材)が、既設ケーソン2と上側壁部3Aとの間には、中詰砂7(充填材)がそれぞれ充填され、既設ケーソン2と門型ケーソン3とが一体化される。
【0037】
門型ケーソン3の上側には、蓋コンクリート11を挟んで、海側に凸部12aを有する上部コンクリート12(いわゆる上部工)が設けられる。
【0038】
上側壁部3Aは、複数の、空洞状の投入口3Aa(隔室)が上下方向に貫通して形成され、各投入口3Aaは、上方から見て矩形状で、その対角線方向に補強のために鉄骨13が架け渡すように設けられている。これにより、軽量化と、膨張コンクリート6、中詰砂7などの各種充填材の施工空間の確保との両立が図られている。前後側壁部3B,3Cには、軽量化のために、上下方向に延び底部を有する複数の中空部3Bb,3Cbがそれぞれ形成されており、その中空部3Bb,3Cbの内部には据え付け後、中詰砂7が充填される。また、投入口3Aaにも、据え付け後、内部に中詰砂7が充填される。
【0039】
なお、門型ケーソン3を据え付ける際の施工精度や既設ケーソン2のフーチング2aとの嵌め合いなどを考慮して,既設ケーソン2とそれの外側に据え付ける門型ケーソン3との間隙(クリアランス)が決定される。つまり、既設ケーソン2に門型ケーソン3を被せた状態でそれらの間に間隙が形成されるようになっており、その間隙は、通常、例えば50cm程度とされる。
【0040】
膨張コンクリート6(充填材)が両ケーソン2,3と密着し十分な強度を得ためには、堅固に密閉・拘束された状態で硬化させる必要があるので、既設ケーソン2と、門型ケーソン3との間の隙間の底部及び側部は水が浸入しないように、グラウト材14(止水材)を使用するなどして密閉する(図2参照)。なお、膨張コンクリート6には、ケーソン2,3と同程度の圧縮強度を持たせている。
【0041】
続いて、門型ケーソン3の施工の手順について詳細に説明する。
・ステップ1:既設ケーソンの復旧
既設ケーソンが損傷している場合には、まず、原型復旧工事により、据え付け当初の元の形状の既設ケーソン2とする(図5参照)。なお、捨石マウンド5は、門型ケーソン3の大きさに応じて前後が補強マウンド5Aにて補強され、マウンド面については均しが行われている。なお、基礎捨石は、例えば、200〜400kg/個である。
・ステップ2:門型ケーソンの据え付け前の準備
図6に示すように、既設ケーソン2のフーチング2aの上側(門型ケーソン3の支持部分となり段部3Ba,3Caが嵌合する部分)に、海水の浸入を防止するシート状の止水材21をセットすると共に、既設ケーソン2と門型ケーソン3との間に充填する材料を拘束し外部に漏れないようにするための板状の外壁22を、図6に示すように、既設ケーソン2の上部上であって、それにより若干上方まで延びるように門型ケーソン3の内面(あるいは下面)に向かって延びるように、幅方向両側に構築する。
【0042】
この際、門型ケーソン3の据え付け後に、図7及び図9(a)(b)に示すように、外壁22の上端縁と門型ケーソン3との間に隙間Sが形成されるように、あらかじめある程度高さを控えて外壁22を構築する。
・ステップ3:門型ケーソン製作・門型ケーソンの据え付け
それから、図7に示すように、外壁22を介して、既設ケーソン2(既設防波堤1)に対し上側から門型ケーソン3を被せるように据え付ける。
【0043】
この門型ケーソン3は、陸上作業ヤードで、既設ケーソン2に対応する大きさ、つまり既設防波堤1の既設ケーソン2を覆うことができる大きさに製作する。よって既設ケーソン2(既設防波堤1)に応じて門型ケーソン3の大きさは異なることになる。
【0044】
この製作後、図8に示すように、門型ケーソン3を例えばクレーン船23を用いて運搬し、既設の防波堤1の上空より門型ケーソン3を吊り下げて既設ケーソン2上に被せるように据え付けることになる。門型ケーソン3の据え付け後、外壁22の天端と門型ケーソン3の下面との間には、隙間Sが形成されている。
・ステップ4:既設ケーソンと門型ケーソンとの一体化準備作業
まず、外壁22の天端と門型ケーソン3の内面との間に形成されている隙間を埋める。これにより、中詰砂7を充填した際に、外部に漏れないようになる。
【0045】
門型ケーソン3を据え付け後、図9(a)に示すように、底部止水コンクリート24を打設する。底部止水コンクリート24の打設手順は、具体的には、図9(c)に示すように、門型ケーソン3の前後側壁部3B,3Cに下端から天端まで延びるようにあらかじめ埋め込まれている埋め込み配管25(既設設置管)に対し、天端付近でコンクリートプラント船(図示せず)の打設配管26を連結し、その埋め込み配管25を通じて、図9(d)に示すように、止水材21上に底部止水コンクリート24(止水材)を打設する。なお、埋め込み配管25は、各中空部3Bb,3Cb内にあらかじめ取付金具(図示せず)を用いて下端が底部を貫通するように取り付けられ(図9(d)参照)、この埋め込み配管25を通じて所定の箇所に、底部止水コンクリート24を無理なく充填できるようになっている。
【0046】
それから、図9(e)に示すように、蓋部材としての拘束蓋27(L型鋼製)をボルト28にて取り付ける。つまり、拘束蓋27の水平部を既設ケーソン2の上部に、鉛直部を門型ケーソン3の前後側壁部3B,3Cの内壁面側にそれぞれ固定する。この拘束蓋27には、幅方向に複数の挿入穴27aが形成されており、その挿入穴27aに、コンクリートプラント船(図示せず)の打設配管29が昇降可能に挿入される。
【0047】
さらに、図10(a)(b)(c)に示すように、グラウト材31(止水材)と充填孔32aを有する、止水グラウトの円筒型充填袋32が目地部33に取り付けられ、その充填袋32を通じて止水グラウト31を打設する。これにより、図10(d)に示すように、門型ケーソン3と既設ケーソン2との間に、充填袋32内に充填されたグラウト材31による止水部が形成され、海水34がある部分と膨張コンクリート6とが遮断され、既設ケーソン2と門型ケーソン3との間に海水が浸水するのが防止されるようになっている。なお、この充填袋32は、天端である突出部分32bを除き(図14参照)、グラウト材31と共に施工後も残される。
・ステップ5:既設ケーソンと門型ケーソンとの一体化作業
前述した目地施工の後、図11(a)に示すように、打設配管29を通じて膨張コンクリート6を打設する。つまり、拘束蓋27の挿入穴27aに打設配管29を挿入し、この打設配管29を一旦最下部まで下げてから打設配管29を順次引き上げながら、底部側から徐々に膨張コンクリート6を隙間に充填して行く。なお、膨張コンクリート6としては、水中不分離性膨張コンクリートを用い、側部に設置した圧力計により充填状況を管理する。
【0048】
これにより、上方から見て図11(b)に示すように、既設ケーソン2と門型ケーソン3との間に膨張コンクリート6とが充填され、その外側に底部止水コンクリート24が位置することになる。
・ステップ6:中詰砂充填
図12に示すように、既設ケーソン2の上部と門型ケーソン3との間に空間、前後側壁部3B,3Cの中空部3Bb,3Cb及び投入口3Aaに対し、中詰砂7を充填する。
ステップ7:蓋コンクリート打設
中詰め砂7を充填し空所部分をなくした後、図13に示すように、門型ケーソン3の上側に蓋コンクリート11を施工し、蓋コンクリート11によって門型ケーソン3の上側を覆う。
ステップ8:充填袋天端部分切断除去
それから、図14に示すように、止水グラウト充填袋32の突出部分32bを切断により除去する。
ステップ9:上部コンクリート打設
図15に示すように、上部コンクリート12(いわゆる上部工)を打設し、既設防波堤1より一定の高さだけ高い補強防波堤4とする。
【0049】
本発明は,前述した実施の形態に制限されるものではなく、次のように変更して実施することも可能である。
【0050】
(i)前記実施の形態では、既設ケーソンが損傷している場合であって、原型復旧工事を行うものに適用しているが、本発明は、それに限定されるものではなく、損傷していなくても、既設防波堤(既設ケーソン)の高さを高くしたい場合にも同様に適用することができるのはもちろんである。
【0051】
(ii)消波機能が必要な場合には、前面に消波ブロックを設置することができるのはもちろん、図16に示すように、門型ケーソン3’の前面に凹部3a(あるいは開孔)を設け、消波構造を組み込む構成とすることも可能である。
【0052】
(iii)例えば吊り上げ能力4000tのクレーンを用いれば、3200tの門型ケーソンまで吊り下げて施工可能であるが、陸上作業ヤードから門型ケーソンをクレーン船で吊り下げることができない場合には、次のようにして施工を行うことができる。
【0053】
まず、門型ケーソンの前後壁部を陸上ヤードで製作し、前記前後壁部をクレーン船により海上打継ぎヤードに移動させた後、ケーソン内に注水する。そして門型ケーソンの残部(上壁部など)を製作する。あるいはフローティングドック上で製作してもよい。なお、海上打継ぎ作業ヤードの水深は、完成した門型ケーソンを吊り上げる際のクレーン船の能力を考慮して決定する。
【0054】
それから、門型ケーソン内の水を排出し、門型ケーソンを海中に半没させながらクレーン船で据え付け現場まで吊り下げ運搬するか、あるいは前記フローティングドックを据え付け現場に回航する。
【0055】
据え付け現場では、門型ケーソン3”を半没させクレーン船23のクレーン23aで吊り下げた状態で、図17(a)(b)に示すように、既設防波堤1の側方から差し込み、所定の位置まで移動させて、既設ケーソンの上側に被せた状態に据え付ける。このとき、門型ケーソン3”の前後側壁部には複数のローラ3bが回転可能に設けられ、前記複数のローラ3bが前記移動の際に既設防波堤1の壁面を転がるので、門型ケーソン3”が、既設防波堤1に接触して既設防波堤を損傷するおそれがない。これにより、門型ケーソンの大きさに関係なく、本発明の適用が可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1 既設防波堤
2 既設ケーソン
3,3’ 門型ケーソン
3A 上側壁部
3Aa 投入口
3B 前側壁部
3Bb 中空部
3C 後側壁部
3Cb 中空部
4 補強防波堤
6 膨張コンクリート
7 中詰砂
11 蓋コンクリート
12 上部コンクリート
21 止水材
22 外壁
24 底部止水コンクリート
25 埋め込み配管
26,29 打設配管
27 拘束蓋
31 グラウト材
32 円筒型充填袋
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーソンタイプの防波堤の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーソンタイプの既設防波堤(第一線防波堤)が、地震や津波などによって被災すると、その防波堤によって港内を波浪から遮蔽することができなくなり、満足な港湾機能を確保できない状態になる。そのため、早急に防波堤を整備する必要があるにもかかわらず、新たに防波堤を施工するのは、時間と、コストを必要とする。
【0003】
そこで、まず、暫定措置として、まず被災したケーソンなどを再利用して、防波堤の原型復旧工事を行うことが通例である。
【0004】
しかしながら、単に原型復旧工事を行うだけでは、再度同様に被災するおそれがある。
【0005】
そのため、原型復旧工事を終了した後に、新たに定められる津波条件(次回予測される津波条件)に対応できる防波堤を築造することが必要である。
【0006】
ところで、ケーソンタイプの防波堤の補強方法として、ケーソンタイプの既設防波堤の前面壁または背面壁に沿って、断面で前後方向に非対称形状の増設ケーソンを設置して補強することは知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−190254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に記載の技術では、既設防波堤の前面壁または背面壁に沿って、断面で前後方向に非対称形状の増設ケーソンを設置するため、既設防波堤の高さより高い津波条件に対応できる補強はすることができない。
【0009】
発明者は、ケーソンタイプの既設防波堤を覆う門型のケーソンを用いれば、既設防波堤を利用して、既設防波堤の高さの高い津波条件に対応できるように既設防波堤を補強できることに着想し、本発明をなしたものである。
【0010】
本発明は、既設防波堤に被せられる大きさの門型ケーソンを利用することで、既設の防波堤の補強工事を、短期かつ安価にできる防波堤の補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、ケーソンタイプの既設防波堤の高さを高くする防波堤の補強方法であって、前記既設防波堤を構成する既設ケーソンに対応する大きさを有する門型ケーソンを製作するステップと、前記門型ケーソンを、前記既設防波堤に被せるように据え付けるステップと、前記門型ケーソンを前記既設防波堤に被せるように据え付けた状態で、前記門型ケーソンと前記既設防波堤との間に充填材を充填すると共に前記門型ケーソンを前記既設防波堤に対し一体化するステップとを備え、前記門型ケーソンは、前記既設防波堤と前記門型ケーソンとの間に前記充填材を充填可能である複数の投入口が設けられていることを特徴とする。ここで、門型ケーソンの大きさは、既設防波堤と一体であるとして、通常のケーソン式防波堤の設計法に準じて決定される。また、既設ケーソン(既設防波堤)には、災害などを受け、原型復旧されたケーソンも含まれる。さらに、被せるように据え付けるとは、据え付けた状態で被せる状態になっている、という意味である。
【0012】
このようにすれば、陸上作業ヤードなどにおいて製作した門型ケーソンを、前記既設防波堤(既設ケーソン)を被せるよう据え付けた状態で、前記門型ケーソンの複数の投入口を通じて、前記門型ケーソンと前記既設防波堤(既設ケーソン)との間に各種充填材を充填することで、それらを一体化し、防波堤を補強することが可能となる。特に、門型ケーソンを既設防波堤に被せるように据え付けるので、既存防波堤の高さを高くする上で有利な補強となる。
【0013】
この場合、請求項2に記載のように、前記門型ケーソンは、上側壁部と、平行に延びる2つの前後側壁部とを有し、前記上側壁部は、前記複数の投入口が形成され、前記前後側壁部はそれぞれ中空構造とされていることが望ましい。
【0014】
このようにすれば、外観上、新らたに防波堤を構築した場合と同様にすることができ、外観を損なうことがない。
【0015】
請求項3に記載のように、前記各投入口は、補強のための鉄骨が内部に架け渡されていることが望ましい。
【0016】
このようにすれば、必要な剛性を確保した上で、追加施工する門型ケーソンの軽量化が図れ、門型ケーソンの取り扱いが容易となる。
【0017】
請求項4に記載のように、前記一体化された門型ケーソンの前記複数の投入口も前記充填材で充填するステップと、その後前記上側壁部を覆う蓋コンクリートを設けるステップと、前記蓋コンクリートの上に上部コンクリート(いわゆる上部工)を設けるステップとを有する構成とすることができる。
【0018】
このようにすれば、外観に大きな変更を与えることなく、防波堤の高さを高くすることができる。
【0019】
請求項5に記載のように、前記門型ケーソンは、前記前後側壁部内には、前記門型ケーソンの下部と前記既設防波堤との間に止水材を充填するための配管があらかじめ設けられていることが望ましい。
【0020】
このようにすれば、前記配管を用いて前記門型ケーソンの下部と既設ケーソンとの間に止水材の充填を簡単に行うことができる。
【0021】
請求項6に記載のように、さらに、前記一体化する際に、前記既設防波堤と門型ケーソンの前後側壁部との間には、それらの間に形成される隙間を塞ぐ蓋部材を設けるステップを有し、前記蓋部材に、前記隙間に充填材を充填する配管を挿入するための挿入穴が設けられていることが望ましい。
【0022】
このようにすれば、蓋部材によって配管の安定した支持が可能となり、前記既設ケーソンと門型ケーソンの前後側壁部との間の隙間への充填材(例えば膨張コンクリート)の充填作業が容易になる。
【0023】
請求項7に記載のように、前記門型ケーソンに、前記既設防波堤の目地部に対応して止水材が充填される円筒型充填袋が配置され、前記充填袋への止水材の充填により前記既設防波堤と門型ケーソンとの間に海水が浸水するのを防止する止水部を形成するステップを有することが望ましい。
【0024】
このようにすれば、円筒型充填袋を利用して、前記既設ケーソンと門型ケーソンとの間に海水が浸水するのを防止する止水部を形成する作業が容易となる。
【0025】
請求項8に記載のように、前記既設防波堤の上部であって幅方向両側に、設置される前記門型ケーソンの内面に向かって延びる外壁を設けるステップを有することが望ましい。
【0026】
このようにすれば、前記既設ケーソンの上部と前記門型ケーソンとの間における充填材(例えば、中詰砂)が、外壁によって外部に漏れるのが防止される。
【0027】
ところで、前記門型ケーソンが大型で重量がある場合には、請求項9に記載のように、前記門型ケーソンは、前記既設防波堤の側方から差し込んで前記防波堤が延びる方向に移動させて据え付けるもので、前記既設防波堤の壁面を転がり前記既設防波堤と前記門型ケーソンとの接触を規制するローラが設けられていることが望ましい。
【0028】
このようにすれば、門型ケーソンを半没させた状態で、前記既設防波堤の側方から差し込んで前記防波堤が延びる方向に移動させて据え付ける際に、門型ケーソンが既設防波堤に接触して損傷するのが回避され、門型ケーソンが大型であっても無理なく、最終的に既設防波堤に被さる状態に据え付けることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は,上記のように構成したから、既設の防波堤を覆う門型ケーソンを利用することで、既設防波堤の高さを高くする補強工事を、短期かつ安価に行うことできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る既設防波堤(既設ケーソン)を、門型ケーソンで補強した後の状態を示す概略説明図である。
【図2】図1のA−A線における断面図である。
【図3】門型ケーソンを示す斜視図である。
【図4】門型ケーソンと既設ケーソンとの関係を示す斜視図である。
【図5】既設ケーソン復旧(ステップ1)の説明図である。
【図6】門型ケーソン据え付け前準備(ステップ2)の説明図である。
【図7】門型ケーソン据え付け(ステップ3)の説明図である。
【図8】門型ケーソンの運搬の説明図である。
【図9】図9(a)〜(e)はそれぞれ既設ケーソン・門型ケーソン一体化準備作業(ステップ4の説明図である。
【図10】図10(a)〜(e)はそれぞれ既設ケーソン・門型ケーソン一体化準備作業(ステップ4)の説明図である。
【図11】図11(a)(b)はそれぞれ既設ケーソン・門型ケーソン一体化作業(ステップ5)の説明図である。
【図12】中詰砂充填(ステップ6)の説明図である
【図13】蓋コンクリート打設(ステップ7)の説明図である。
【図14】止水グラウト充填袋天端部分切断撤去(ステップ8)の説明図である。
【図15】上部コンクリート打設(ステップ9)の説明図である。
【図16】門型ケーソンの他の実施の形態を示す説明図である。
【図17】門型ケーソンのさらに別の実施の形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。なお、次の説明において、既設ケーソン2が据え付けられている方向(防波堤が延びている方向)を左右方向(幅方向)、海(外洋)側を前側、陸側を後側として説明する。
【0032】
図1は本発明に係る既設防波堤(既設ケーソン)を、門型ケーソンで補強した後の状態を示す概略説明図、図2は図1のA−A線における断面図、図3は門型ケーソンを示す斜視図、図4は門型ケーソンと既設ケーソンとの関係を示す斜視図である。
【0033】
図1〜図4に示すように、本発明に係る防波堤の補強方法は、既設防波堤1を構成する既設ケーソン2(あるいは原型復旧されたケーソン)を門型ケーソン3で覆い、防波堤高さを既設防波堤1より高い補強防波堤4とするものである。
【0034】
各既設ケーソン2は、下部に、前後方向において安定化を図るために前後方向に突出したフーチング2aを有し、上面が均された捨石マウンド5上に据え付けられている。この捨石マウンド5は、補強のための門型ケーソン3の大きさに合わせて、補強マウンド5Aによって、門型ケーソン3による補強前の捨石マウンド5B上の前後が補強され、拡幅されている。
【0035】
門型ケーソン3は、左右方向において既設ケーソン2にほぼ等しい幅を有し前後方向において既設ケーソン2より長い矩形状の上側壁部3Aと、上側壁部3Aの前後両縁より鉛直下方に平行に延びる前後側壁部3B,3Cとを有し、門型状とされている。この門型ケーソン3は、基本的にはRC構造で、必要な剛性を確保するために所定の高さとされている。なお、前後側壁部3B,3Cの下端には、フーチング2aが嵌り込む段部3Ba,3Caが形成されている。
【0036】
既設ケーソン2と前後側壁部3B,3Cとの間には膨張コンクリート6(充填材)が、既設ケーソン2と上側壁部3Aとの間には、中詰砂7(充填材)がそれぞれ充填され、既設ケーソン2と門型ケーソン3とが一体化される。
【0037】
門型ケーソン3の上側には、蓋コンクリート11を挟んで、海側に凸部12aを有する上部コンクリート12(いわゆる上部工)が設けられる。
【0038】
上側壁部3Aは、複数の、空洞状の投入口3Aa(隔室)が上下方向に貫通して形成され、各投入口3Aaは、上方から見て矩形状で、その対角線方向に補強のために鉄骨13が架け渡すように設けられている。これにより、軽量化と、膨張コンクリート6、中詰砂7などの各種充填材の施工空間の確保との両立が図られている。前後側壁部3B,3Cには、軽量化のために、上下方向に延び底部を有する複数の中空部3Bb,3Cbがそれぞれ形成されており、その中空部3Bb,3Cbの内部には据え付け後、中詰砂7が充填される。また、投入口3Aaにも、据え付け後、内部に中詰砂7が充填される。
【0039】
なお、門型ケーソン3を据え付ける際の施工精度や既設ケーソン2のフーチング2aとの嵌め合いなどを考慮して,既設ケーソン2とそれの外側に据え付ける門型ケーソン3との間隙(クリアランス)が決定される。つまり、既設ケーソン2に門型ケーソン3を被せた状態でそれらの間に間隙が形成されるようになっており、その間隙は、通常、例えば50cm程度とされる。
【0040】
膨張コンクリート6(充填材)が両ケーソン2,3と密着し十分な強度を得ためには、堅固に密閉・拘束された状態で硬化させる必要があるので、既設ケーソン2と、門型ケーソン3との間の隙間の底部及び側部は水が浸入しないように、グラウト材14(止水材)を使用するなどして密閉する(図2参照)。なお、膨張コンクリート6には、ケーソン2,3と同程度の圧縮強度を持たせている。
【0041】
続いて、門型ケーソン3の施工の手順について詳細に説明する。
・ステップ1:既設ケーソンの復旧
既設ケーソンが損傷している場合には、まず、原型復旧工事により、据え付け当初の元の形状の既設ケーソン2とする(図5参照)。なお、捨石マウンド5は、門型ケーソン3の大きさに応じて前後が補強マウンド5Aにて補強され、マウンド面については均しが行われている。なお、基礎捨石は、例えば、200〜400kg/個である。
・ステップ2:門型ケーソンの据え付け前の準備
図6に示すように、既設ケーソン2のフーチング2aの上側(門型ケーソン3の支持部分となり段部3Ba,3Caが嵌合する部分)に、海水の浸入を防止するシート状の止水材21をセットすると共に、既設ケーソン2と門型ケーソン3との間に充填する材料を拘束し外部に漏れないようにするための板状の外壁22を、図6に示すように、既設ケーソン2の上部上であって、それにより若干上方まで延びるように門型ケーソン3の内面(あるいは下面)に向かって延びるように、幅方向両側に構築する。
【0042】
この際、門型ケーソン3の据え付け後に、図7及び図9(a)(b)に示すように、外壁22の上端縁と門型ケーソン3との間に隙間Sが形成されるように、あらかじめある程度高さを控えて外壁22を構築する。
・ステップ3:門型ケーソン製作・門型ケーソンの据え付け
それから、図7に示すように、外壁22を介して、既設ケーソン2(既設防波堤1)に対し上側から門型ケーソン3を被せるように据え付ける。
【0043】
この門型ケーソン3は、陸上作業ヤードで、既設ケーソン2に対応する大きさ、つまり既設防波堤1の既設ケーソン2を覆うことができる大きさに製作する。よって既設ケーソン2(既設防波堤1)に応じて門型ケーソン3の大きさは異なることになる。
【0044】
この製作後、図8に示すように、門型ケーソン3を例えばクレーン船23を用いて運搬し、既設の防波堤1の上空より門型ケーソン3を吊り下げて既設ケーソン2上に被せるように据え付けることになる。門型ケーソン3の据え付け後、外壁22の天端と門型ケーソン3の下面との間には、隙間Sが形成されている。
・ステップ4:既設ケーソンと門型ケーソンとの一体化準備作業
まず、外壁22の天端と門型ケーソン3の内面との間に形成されている隙間を埋める。これにより、中詰砂7を充填した際に、外部に漏れないようになる。
【0045】
門型ケーソン3を据え付け後、図9(a)に示すように、底部止水コンクリート24を打設する。底部止水コンクリート24の打設手順は、具体的には、図9(c)に示すように、門型ケーソン3の前後側壁部3B,3Cに下端から天端まで延びるようにあらかじめ埋め込まれている埋め込み配管25(既設設置管)に対し、天端付近でコンクリートプラント船(図示せず)の打設配管26を連結し、その埋め込み配管25を通じて、図9(d)に示すように、止水材21上に底部止水コンクリート24(止水材)を打設する。なお、埋め込み配管25は、各中空部3Bb,3Cb内にあらかじめ取付金具(図示せず)を用いて下端が底部を貫通するように取り付けられ(図9(d)参照)、この埋め込み配管25を通じて所定の箇所に、底部止水コンクリート24を無理なく充填できるようになっている。
【0046】
それから、図9(e)に示すように、蓋部材としての拘束蓋27(L型鋼製)をボルト28にて取り付ける。つまり、拘束蓋27の水平部を既設ケーソン2の上部に、鉛直部を門型ケーソン3の前後側壁部3B,3Cの内壁面側にそれぞれ固定する。この拘束蓋27には、幅方向に複数の挿入穴27aが形成されており、その挿入穴27aに、コンクリートプラント船(図示せず)の打設配管29が昇降可能に挿入される。
【0047】
さらに、図10(a)(b)(c)に示すように、グラウト材31(止水材)と充填孔32aを有する、止水グラウトの円筒型充填袋32が目地部33に取り付けられ、その充填袋32を通じて止水グラウト31を打設する。これにより、図10(d)に示すように、門型ケーソン3と既設ケーソン2との間に、充填袋32内に充填されたグラウト材31による止水部が形成され、海水34がある部分と膨張コンクリート6とが遮断され、既設ケーソン2と門型ケーソン3との間に海水が浸水するのが防止されるようになっている。なお、この充填袋32は、天端である突出部分32bを除き(図14参照)、グラウト材31と共に施工後も残される。
・ステップ5:既設ケーソンと門型ケーソンとの一体化作業
前述した目地施工の後、図11(a)に示すように、打設配管29を通じて膨張コンクリート6を打設する。つまり、拘束蓋27の挿入穴27aに打設配管29を挿入し、この打設配管29を一旦最下部まで下げてから打設配管29を順次引き上げながら、底部側から徐々に膨張コンクリート6を隙間に充填して行く。なお、膨張コンクリート6としては、水中不分離性膨張コンクリートを用い、側部に設置した圧力計により充填状況を管理する。
【0048】
これにより、上方から見て図11(b)に示すように、既設ケーソン2と門型ケーソン3との間に膨張コンクリート6とが充填され、その外側に底部止水コンクリート24が位置することになる。
・ステップ6:中詰砂充填
図12に示すように、既設ケーソン2の上部と門型ケーソン3との間に空間、前後側壁部3B,3Cの中空部3Bb,3Cb及び投入口3Aaに対し、中詰砂7を充填する。
ステップ7:蓋コンクリート打設
中詰め砂7を充填し空所部分をなくした後、図13に示すように、門型ケーソン3の上側に蓋コンクリート11を施工し、蓋コンクリート11によって門型ケーソン3の上側を覆う。
ステップ8:充填袋天端部分切断除去
それから、図14に示すように、止水グラウト充填袋32の突出部分32bを切断により除去する。
ステップ9:上部コンクリート打設
図15に示すように、上部コンクリート12(いわゆる上部工)を打設し、既設防波堤1より一定の高さだけ高い補強防波堤4とする。
【0049】
本発明は,前述した実施の形態に制限されるものではなく、次のように変更して実施することも可能である。
【0050】
(i)前記実施の形態では、既設ケーソンが損傷している場合であって、原型復旧工事を行うものに適用しているが、本発明は、それに限定されるものではなく、損傷していなくても、既設防波堤(既設ケーソン)の高さを高くしたい場合にも同様に適用することができるのはもちろんである。
【0051】
(ii)消波機能が必要な場合には、前面に消波ブロックを設置することができるのはもちろん、図16に示すように、門型ケーソン3’の前面に凹部3a(あるいは開孔)を設け、消波構造を組み込む構成とすることも可能である。
【0052】
(iii)例えば吊り上げ能力4000tのクレーンを用いれば、3200tの門型ケーソンまで吊り下げて施工可能であるが、陸上作業ヤードから門型ケーソンをクレーン船で吊り下げることができない場合には、次のようにして施工を行うことができる。
【0053】
まず、門型ケーソンの前後壁部を陸上ヤードで製作し、前記前後壁部をクレーン船により海上打継ぎヤードに移動させた後、ケーソン内に注水する。そして門型ケーソンの残部(上壁部など)を製作する。あるいはフローティングドック上で製作してもよい。なお、海上打継ぎ作業ヤードの水深は、完成した門型ケーソンを吊り上げる際のクレーン船の能力を考慮して決定する。
【0054】
それから、門型ケーソン内の水を排出し、門型ケーソンを海中に半没させながらクレーン船で据え付け現場まで吊り下げ運搬するか、あるいは前記フローティングドックを据え付け現場に回航する。
【0055】
据え付け現場では、門型ケーソン3”を半没させクレーン船23のクレーン23aで吊り下げた状態で、図17(a)(b)に示すように、既設防波堤1の側方から差し込み、所定の位置まで移動させて、既設ケーソンの上側に被せた状態に据え付ける。このとき、門型ケーソン3”の前後側壁部には複数のローラ3bが回転可能に設けられ、前記複数のローラ3bが前記移動の際に既設防波堤1の壁面を転がるので、門型ケーソン3”が、既設防波堤1に接触して既設防波堤を損傷するおそれがない。これにより、門型ケーソンの大きさに関係なく、本発明の適用が可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1 既設防波堤
2 既設ケーソン
3,3’ 門型ケーソン
3A 上側壁部
3Aa 投入口
3B 前側壁部
3Bb 中空部
3C 後側壁部
3Cb 中空部
4 補強防波堤
6 膨張コンクリート
7 中詰砂
11 蓋コンクリート
12 上部コンクリート
21 止水材
22 外壁
24 底部止水コンクリート
25 埋め込み配管
26,29 打設配管
27 拘束蓋
31 グラウト材
32 円筒型充填袋
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーソンタイプの既設防波堤の高さを高くする防波堤の補強方法であって、
前記既設防波堤を構成する既設ケーソンに対応する大きさを有する門型ケーソンを製作するステップと、
前記門型ケーソンを、前記既設防波堤に被せるように据え付けるステップと、
前記門型ケーソンを前記既設防波堤に被せるように据え付けた状態で、前記門型ケーソンと前記既設防波堤との間に充填材を充填すると共に前記門型ケーソンを前記既設防波堤に対し一体化するステップとを備え、
前記門型ケーソンは、前記既設防波堤と前記門型ケーソンとの間に前記充填材を充填可能である複数の投入口が設けられていることを特徴とする防波堤の補強方法。
【請求項2】
前記門型ケーソンは、上側壁部と、平行に延びる2つの前後側壁部とを有し、
前記上側壁部は、前記複数の投入口が形成され、前記前後側壁部はそれぞれ中空構造とされている請求項1記載の防波堤の補強方法。
【請求項3】
前記各投入口は、補強のための鉄骨が内部に架け渡されている請求項2記載の防波堤の補強方法。
【請求項4】
前記一体化された門型ケーソンの前記複数の投入口も前記充填材で充填するステップと、その後前記上側壁部を覆う蓋コンクリートを設けるステップと、前記蓋コンクリートの上に上部コンクリートを設けるステップとを有する請求項1〜3のいずれか1つに記載の防波堤の補強方法。
【請求項5】
前記門型ケーソンは、前記前後側壁部内には、前記門型ケーソンの下部と前記既設防波堤との間に止水材を充填するための配管があらかじめ設けられている請求項2に記載の防波堤の補強方法。
【請求項6】
さらに、前記一体化する際に、前記既設防波堤と門型ケーソンの前後側壁部との間には、それらの間に形成される隙間を塞ぐ蓋部材を設けるステップを有し、
前記蓋部材に、前記隙間に充填材を充填する配管を挿入するための挿入穴が設けられている請求項2に記載の防波堤の補強方法。
【請求項7】
前記門型ケーソンに、前記既設防波堤の目地部に対応して止水材が充填される円筒型充填袋が配置され、前記充填袋への止水材の充填により前記既設防波堤と門型ケーソンとの間に海水が浸水するのを防止する止水部を形成するステップを有する請求項1〜6のいずれか1つに記載の防波堤の補強方法。
【請求項8】
前記既設防波堤の上部であって幅方向両側に、設置される前記門型ケーソンの内面に向かって延びる外壁を設けるステップを有する請求項1〜7のいずれか1つに記載の防波堤の補強方法。
【請求項9】
前記門型ケーソンは、前記既設防波堤の側方から差し込んで前記防波堤が延びる方向に移動させて据え付けるもので、前記既設防波堤の壁面を転がり前記既設防波堤と前記門型ケーソンとの接触を規制するローラが設けられている請求項1〜8のいずれか1つに記載の防波堤の補強方法。
【請求項1】
ケーソンタイプの既設防波堤の高さを高くする防波堤の補強方法であって、
前記既設防波堤を構成する既設ケーソンに対応する大きさを有する門型ケーソンを製作するステップと、
前記門型ケーソンを、前記既設防波堤に被せるように据え付けるステップと、
前記門型ケーソンを前記既設防波堤に被せるように据え付けた状態で、前記門型ケーソンと前記既設防波堤との間に充填材を充填すると共に前記門型ケーソンを前記既設防波堤に対し一体化するステップとを備え、
前記門型ケーソンは、前記既設防波堤と前記門型ケーソンとの間に前記充填材を充填可能である複数の投入口が設けられていることを特徴とする防波堤の補強方法。
【請求項2】
前記門型ケーソンは、上側壁部と、平行に延びる2つの前後側壁部とを有し、
前記上側壁部は、前記複数の投入口が形成され、前記前後側壁部はそれぞれ中空構造とされている請求項1記載の防波堤の補強方法。
【請求項3】
前記各投入口は、補強のための鉄骨が内部に架け渡されている請求項2記載の防波堤の補強方法。
【請求項4】
前記一体化された門型ケーソンの前記複数の投入口も前記充填材で充填するステップと、その後前記上側壁部を覆う蓋コンクリートを設けるステップと、前記蓋コンクリートの上に上部コンクリートを設けるステップとを有する請求項1〜3のいずれか1つに記載の防波堤の補強方法。
【請求項5】
前記門型ケーソンは、前記前後側壁部内には、前記門型ケーソンの下部と前記既設防波堤との間に止水材を充填するための配管があらかじめ設けられている請求項2に記載の防波堤の補強方法。
【請求項6】
さらに、前記一体化する際に、前記既設防波堤と門型ケーソンの前後側壁部との間には、それらの間に形成される隙間を塞ぐ蓋部材を設けるステップを有し、
前記蓋部材に、前記隙間に充填材を充填する配管を挿入するための挿入穴が設けられている請求項2に記載の防波堤の補強方法。
【請求項7】
前記門型ケーソンに、前記既設防波堤の目地部に対応して止水材が充填される円筒型充填袋が配置され、前記充填袋への止水材の充填により前記既設防波堤と門型ケーソンとの間に海水が浸水するのを防止する止水部を形成するステップを有する請求項1〜6のいずれか1つに記載の防波堤の補強方法。
【請求項8】
前記既設防波堤の上部であって幅方向両側に、設置される前記門型ケーソンの内面に向かって延びる外壁を設けるステップを有する請求項1〜7のいずれか1つに記載の防波堤の補強方法。
【請求項9】
前記門型ケーソンは、前記既設防波堤の側方から差し込んで前記防波堤が延びる方向に移動させて据え付けるもので、前記既設防波堤の壁面を転がり前記既設防波堤と前記門型ケーソンとの接触を規制するローラが設けられている請求項1〜8のいずれか1つに記載の防波堤の補強方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図16】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図16】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【公開番号】特開2012−229543(P2012−229543A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97776(P2011−97776)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(591043477)寄神建設株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(591043477)寄神建設株式会社 (17)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]