説明

防波堤

【課題】波浪エネルギーを減衰させると共に、港内外での海水循環を可能とし、防波堤付近への漁船の接近を可能とする防波堤を提供する。
【解決手段】本防波堤1は、海底に造成した基礎マウンド2上に、各側壁部14a、14bに横長開口部10及び縦長開口部11を設けると共に、上面に全面開放の開口部12を設けたブロック本体13を備えた中空消波型被覆ブロック3を、波浪方向と、該波浪方向に対して直交する方向とに夫々複数列敷設し、且つ海面上まで複数積み上げて構成した。これにより、波浪エネルギーを減衰させると共に、港内外での海水循環が可能で、港内の水質が向上され、しかも、防波堤1付近への漁船の接近が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、港湾や漁港等を外海との間で仕切るように配置され、港内外での海水循環を可能とする海水交換型の防波堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、港湾や漁港等を外海との間で仕切る防波堤としては、コンクリート製の函体を用い、該函体内に砂を詰め上面に蓋をして上部工及びパラペットを配置したケーソン式防波堤、ブロック塊を積み外海側の面に消波ブロックを積み上げたブロック式防波堤及びセルラーブロックを積み上げ内部に砂を詰めて上面に蓋をして上部工を配置した防波堤等が使用されてきた。
【0003】
しかしながら、上述したような防波堤では、港外からの波浪は、防波堤の港外側に面する壁部により大きな反射波として港外に向かって伝播され、一方、港内からの航跡波や吹送波(風波)についても防波堤の港内側に面する壁部により反射し、その反射波が港内の船舶や浮体に悪い影響を及ぼすことになる。
そのため、防波堤の港外側及び港内側に消波ブロックを積み上げることで、反射波を低減させるようにしているが、消波ブロックが海底面まで勾配を付けながら積み上げられるため、防波堤付近への漁船の接近が困難となり好ましくない。
しかも、上述したような防波堤では、港内と港外とが完全に遮断されているため、港内奥の海底域にある有機浮泥や細粒泥土などが沈殿、堆積し、港内で腐敗、発酵して水環境が悪化する現象を招く。
【0004】
そこで、上述した問題を解決すべく提案された特許文献1には、堤中に貫通孔を有するブロックが少なくとも1層積み上げられて構成される海水交換型防波堤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−165727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明では、堤中に貫通孔を有するブロックの上に、被覆石や消波ブロックが港外側及び港内側に海底面付近まで勾配を付けながら積み上げられているため、上述したように、防波堤付近への漁船の接近が困難となり好ましくない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、波浪エネルギーを減衰させると共に、港内外での海水循環を可能とし、防波堤付近への漁船の接近を可能とする防波堤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明は、海底に造成したマウンド上に、上面及び側面に開口部を有する中空消波型被覆ブロックを、波浪方向と、該波浪方向に対して直交する方向とに夫々複数列敷設し、且つ海面上まで複数積み上げて構成したことを特徴とするものである。
請求項1の発明では、港外から防波堤に到達した波浪は、各中空消波型被覆ブロック内に流動し、各中空消波型被覆ブロック内での渦及び乱流により波浪エネルギーが減衰され、港外への反射波及び港内への波浪の伝播が抑えられる。しかも、港外から港内への波浪エネルギーの伝播は抑制されるものの、港外から多量の海水が港内へ流入するために、港内に浮遊する有機浮泥や細粒泥土などが、海水交換により除去され、港内の水質が向上される。しかも、本防波堤では、消波ブロックを勾配を付けながら海底面付近まで積み上げていないので、防波堤付近への漁船の接近が可能となる。
【0009】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記各中空消波型被覆ブロック内には、開口部有り消波板または開口部無し消波板のいずれか一方が波浪に対向する向きで配置されることを特徴とするものである。
請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した発明において、前記各中空消波型被覆ブロック内には、沖側から最も離れた位置に複数積層された各中空消波型被覆ブロックのうち、最も海底に近い各中空消波型被覆ブロックを除く各中空消波型被覆ブロック内だけに前記開口部無し消波板が配置されることを特徴とするものである。
請求項2及び3の発明では、港外からの波浪に対する、港外への反射波及び港内への波浪の伝播をより一層抑制することができる。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれかに記載した発明において、前記各中空消波型被覆ブロックの下面には複数の脚部が突設されると共に、各中空消波型被覆ブロックの上面には前記各脚部が嵌合する凹部が形成されることを特徴とするものである。
請求項4の発明では、港外から波浪が衝突した際、上方に積み上げられた各中空消波型被覆ブロックが揺動することで、各中空消波型被覆ブロックの安定性が維持される。
【0011】
請求項5に記載した発明は、請求項4に記載した発明において、前記各脚部と前記凹部とは、鉛直面に対して傾斜するテーパ面で接触して嵌合することを特徴とするものである。
請求項5の発明では、港外からの波浪の衝撃により、上方に積み上げられた各中空消波型被覆ブロックが大きく揺動した場合でも容易に復元される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防波堤によれば、波浪エネルギーを減衰させると共に、港内外での海水循環を可能にし、防波堤付近への漁船の接近を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る防波堤を示す図である。
【図2】図2は、図1の防波堤に採用される中空消波型被覆ブロックの斜視図である。
【図3】図3は、(a)が中空消波型被覆ブロックの平面図であり、(b)が側面図であり、(c)が正面図である。
【図4】図4は、(a)が開口部有り消波板の斜視図であり、(b)が開口部無し消波板の斜視図である。
【図5】図5は、図1の防波堤における、開口率と無次元輸送流量との関係図を示している。
【図6】図6は、本実施形態に係る防波堤を使用した海水交換率を算出するための想定漁港を示す模式図である。
【図7】図7は、開口部有り消波板の他の実施形態を示す斜視図である。
【図8】図8は、図7の開口部有り消波板をブロック本体に装着した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図8に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る防波堤1が形成される海底の所定位置には、図1に示すように、基礎マウンド2が海底に石を投棄することにより造成される。該基礎マウンド2は、後述する中空消波型被覆ブロック3を安定的に複数敷設できるように、その天端が平坦に均される。また、基礎マウンド2の平坦面4から港外側及び港内側には、平坦面4から離れるに従って下方傾斜する傾斜面5、5がそれぞれ形成される。
この基礎マウンド2の平坦面4に底板6が敷設される。底板6の周りには、根固めブロック7が複数敷設される。また、基礎マウンド2に設けた、港外に向かって下方傾斜する傾斜面5には被覆ブロック8が複数敷設される。なお、底板6の上面には、後述する中空消波型被覆ブロック3の下面の4隅に設けた脚部20が嵌合する凹部9が、底板6上に敷設される中空消波型被覆ブロック3の数量に対応して形成される。該凹部9は、中空消波型被覆ブロック3の下面に設けた脚部20に対応した形状で形成される。
【0015】
そして、本発明の実施の形態に係る防波堤1は、上述した基礎マウンド2上の底板6の上面に、中空消波型被覆ブロック3が波浪方向と、該波浪方向に直交する方向に夫々複数列敷設され、且つ海面上まで複数積み上げられて構成される。
【0016】
中空消波型被覆ブロック3は、図2及び図3に示すように、一対の側板部14aに縦長開口部11を2箇所、また一対の側板部14bに横長開口部10を1箇所それぞれ設けると共に、上面に全面開放の開口部12を設けた有底のブロック本体13と、該ブロック本体13内に、該ブロック本体13の、縦長開口部11が形成された側板部14aと同じ向きに備えられた矩形板状の開口部有り消波板15(図4(a)に示す)または開口部無し消波板16(図4(b)に示す)とからなる。
【0017】
開口部有り消波板15及び開口部無し消波板16は、図4に示すように、コンクリート製からなり矩形状に形成される。また、開口部有り消波板15及び開口部無し消波板16は、これらをブロック本体13内に一体的に装着した際、ブロック本体13の上面より突出する高さで形成される。その突出量は、後述する突起板部材23の高さと略同じである。また、開口部有り消波板15には、図4(a)に示すように、略中央部に矩形の開口部15aが形成される。
【0018】
ブロック本体13は、図2及び図3に示すように、中空の有底直方体からなり、コンクリートにて後述するように一体成形される。ブロック本体13の下面の4隅には脚部20が形成されている。これらの脚部20は、互いに対向する面がハの字を描くように、鉛直面に対して傾斜したテーパ面21aがそれぞれ形成され、結果的に、1個の脚部20に対して2つのテーパ面21aが形成されることになる。このブロック本体13の対向する側板部14bには、その中央部に矩形の横長開口部10が一箇所形成され、その他の対向する側板部14aには、前記横長開口部10よりも面積の小さい矩形の縦長開口部11が二箇所形成される。
そして、ブロック本体13内には、横長開口部10が形成される各側板部14bの内面の幅方向略中央に、縦長開口部11が2箇所形成される各側板部14aと同方向に延びる開口部有り消波板15または開口部無し消波板16が一体的に装着される。なお、図3では、ブロック本体13内に開口部有り消波板15が一体的に装着される。
【0019】
そこで、開口部有り消波板15または開口部無し消波板16は、ブロック本体13をコンクリートにて一体成形する際に一体的に装着される。その成形手順を簡単に説明(図示略)する。まず、各脚部20を成形すべく4隅に下方突部を有する底型枠を設置し、該底型枠上にブロック本体13の形状に即して組まれた鉄筋を設置する。その後、鉄筋の外側に外型枠を設置すると共に、鉄筋の内部に既成のコンクリート製からなる開口部有り消波板15または開口部無し消波板16を設置して、鉄筋の一部を開口部有り消波板15または開口部無し消波板16の側面に連結部材を介して挿入する。この時、開口部有り消波板15または開口部無し消波板16の下面から延びる複数の鉄筋の先端が底型枠の上面に近接する位置に達する。その後、鉄筋の内部に内型枠を設置して、外型枠と内型枠との間にコンクリートを打設して養生した後、底型枠、外型枠及び内型枠を脱型して、開口部有り消波板15または開口部無し消波板16が内部に装着されたブロック本体13が完成される。
なお、ブロック本体13に横長開口部10が形成された各側板部14bの内面の幅方向略中央に縦溝を形成して、該一対の側板部14bに設けた縦溝に、モルタル、アスファルト等の接着材を介して差込み式で矩形板状の開口部有り消波板15または開口部無し消波板16を装着してもよい。
【0020】
さらに、ブロック本体13の各側板部14a、14bの上面には、突起板部材23、23がブロック本体13と共にそれぞれ一体成形される。なお、各突起板部材23は、上述したように、ブロック本体13を、内部に開口部有り消波板15または開口部無し消波板16を設置した上でコンクリートにて一体成形する際に簡易的な型枠を使用することでブロック本体13と一体成形される。
各突起板部材23、23は、ブロック本体13の各側板部14a、14bの厚みと同じ厚みを有し、ブロック本体13の下面に設けた各脚部20の高さと同じ高さを有するものである。また、これら突起板部材23、23は、ブロック本体13の各側板部14a、14bの長さよりも若干短く形成され、その両端面は、ハの字を描くように鉛直面に対して傾斜するテーパ面21b(脚部20に設けたテーパ面21aの傾斜角度と略同一)が形成される。その結果、ブロック本体13の上面の4隅には、ブロック本体13の下面に設けた脚部20が、互いのテーパ面21a、21bが接触して嵌合する凹部25が形成される。
【0021】
そして、本発明の実施の形態に係る防波堤1を形成する際には、図1に示すように、上述した中空消波型被覆ブロック3を、基礎マウンド2上の底板6の上面に、各ブロック本体13の、縦長開口部11が2箇所形成された側の一対の側板部14aが波浪と対向するように配置し、波浪方向に複数列(本実施の形態では3列)及び該波浪方向と直交する方向に複数列(図示はされてはいないが本実施の形態では5列)敷設する。この時、各中空消波型被覆ブロック3の下面の4隅に設けた各脚部20を、底板6に設けた各凹部9に嵌合させて位置決めする。
さらに、中空消波型被覆ブロック3を、上方に複数段(本実施の形態では4段)積層して、図1に示すように、最も上段の各中空消波型被覆ブロック3全体が海面から突出するように直方体の防波堤1を構成する。また、各中空消波型被覆ブロック3を積層する際には、上側の中空消波型被覆ブロック3の下面の4隅に設けた各脚部20を、下側の中空消波型被覆ブロック3の上面の4隅に設けた各凹部25に、互いのテーパ面21a、21bが接触するように嵌合して、順次積層していく。
【0022】
そこで、図1に示すように、最も港内側に位置する各中空消波型被覆ブロック3のうち、最も下段に位置する各中空消波型被覆ブロック3を除く上3段の中空消波型被覆ブロック3内だけに開口部無し消波板16が配置され、その他の各中空消波型被覆ブロック3内には開口部有り消波板15が配置されている。本実施の形態では、上述したように、各中空消波型被覆ブロック3に備えた開口部有り消波板15または開口部無し消波板16は、ブロック本体13内に、ブロック本体13をコンクリートにて一体成形する際に一体的に装着される。なお、図7に示すように、開口部有り消波板15または開口部無し消波板16(図7では開口部有り消波板15が図示されている)は、底板部26を有する形状としてもよく、この場合には、図8に示すように、開口部有り消波板15または開口部無し消波板16の底板部26をブロック本体13内の底部に、現場打ちのコンクリート層27により定着させて、ブロック本体13と一体化させてもよい。
【0023】
さらに、最も上段に位置する各中空消波型被覆ブロック3の上面開口部12を塞ぐように上部工30が配設される。この上部工30の上面で港外側に、断面台形状のパラペット31が配置される。なお、このパラぺット31の鉛直面が、最も港外側に位置する各中空消波型被覆ブロック3(ブロック本体13)の側板部14a(縦長開口部11が2箇所形成される)の外面と略一致する。
【0024】
そこで、本発明の実施形態に係る防波堤1において、港内外の海水交換作用、港外への反射率及び港内への波浪の伝達率の観点から、最も港内側(港外から3列目)に4段積層される各中空消波型被覆ブロック3における、開口部有り消波板15または開口部無し消波板16の配置を検討した結果を以下に説明する。
なお、下記に説明する第1試験形態〜第4試験形態では、最も港内側に4段積層される各中空消波型被覆ブロック3以外で、港外から1列目及び2列目それぞれに4層積層される各中空消波型被覆ブロック3内には、開口部有り消波板15が配置される。
【0025】
まず、防波堤1の開口率(港内と港外とを連通率)の相違による海水交換作用について図5に基いて説明する。図5は、開口率と無次元輸送流量との関係図を示しており、縦軸に無次元輸送流量、横軸に周期(波高4m)を示す。そこで、開口率とは、基礎マウンド2厚を含む防波堤1の海水中に配置される面積(以下面積Aという)に対する、波浪に対向する部位に形成された開口部の総面積(港内と港外とを連通する開口部の総面積)の比率である。また、無次元輸送流量は、港外から到達した波水塊が防波堤1を介して港内に流入した流量、すなわち、海水交換流量を示すものである。なお、図5では、港外からの波水塊を1とした場合の無次元輸送流量(海水交換流量)の値を示す。
【0026】
図5において、□印は、最も港内側(港外から3列目)に4段積層される各中空消波型被覆ブロック3(ブロック本体13)のうち、上から1段目〜3段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部無し消波板16を配置し、上から4段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部有り消波板15を配置した第1試験形態(開口率3.5%:面積Aに対する縦長開口部11の10個(ブロック本体13の一方の側壁部14aに設けた2個の縦長開口部11×5列)の総面積)によるものを示し、△印は、上から1段目、2段目及び4段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部無し消波板16を配置し、上から3段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部有り消波板15を配置した第2試験形態(開口率3.5%)によるものを示す。また、図5中の×印は、上から1段目、3段目及び4段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部無し消波板16を配置し、上から2段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部有り消波板15を配置した第3試験形態(開口率3.5%)によるものを示し、◇印は、上から1段目及び2段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部無し消波板16を配置し、上から3段目及び4段目の中空消波型被覆ブロック3内に開口部有り消波板15を配置した第4試験形態(開口率7.01%:面積Aに対する縦長開口部11の20個の総面積)によるものを示す。
【0027】
そして、第1〜第4試験形態の比較によると、無次元輸送流量(海水交換流量)は、波の周期の相違によって大きな差異はなく、海水交換作用の観点からは、第1試験形態(□印)である、上から1段目〜3段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部無し消波板16を配置し、上から4段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部有り消波板15を配置した試験形態が最適であることが解る。
【0028】
また、波高4m時の防波堤1からの反射波及び伝達率を前述の第1試験形態〜第4試験形態において比較した。
その結果、反射波については、第1試験形態〜第4試験形態において大きな差異はなくその値は0.5程度であった。また、伝達率についても、第1試験形態〜第4試験形態において大きな差異はなくその値は0.2程度であった。
【0029】
上述した試験結果に基いて、本発明の実施形態に係る防波堤1では、海水交換作用、波浪の反射率及び伝達率の観点から、最も港内側(港外から3列目)に4段積層される各中空消波型被覆ブロック3のうち、上から1段目、2段目及び3段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部無し消波板16を配置し、上から4段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部有り消波板15を配置した形態を採用することが好ましい。
【0030】
次に、想定漁港(図6に示すL1=100m,L2=100m,深さH=5m)に本実施の形態に係る防波堤1、すなわち、最も港内側に4段積層される各中空消波型被覆ブロック3のうち、上から1段目、2段目及び3段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部無し消波板16を配置し、上から4段目の各中空消波型被覆ブロック3内に開口部有り消波板15を配置した上述した第1試験形態(無次元輸送流量が略1.5%(図5では0.015)見込める)に係る防波堤1を使用した場合の海水交換率を算出した結果を説明する。なお、図5に示す無次元輸送流量は、波高4mの場合を想定して算出したものであるが、他の試験結果に基いて波高2mの場合でも、上述の第1試験形態では、周期に関係なく無次元輸送流量が略1.5%になることを確認している。
図6の漁港内の水塊量は50000mであり、試験した中で波峰水塊量の最も小さい波浪として、H1/3(波高)=2m,T(周期)=6sec,L(波長)=47mの場合の海水交換量を算出した。その結果、縦長開口部11が10孔(開口率3.5%)、防波堤1の幅が略15m程度であると、1日当たりの海水交換量が5373mとなり、1日の当たりの海水交換率が10.7%となる。
また、波浪条件をH1/3(波高)=4m,T(周期)=9sec,L(波長)=80mに設定すると、1日当たりの海水交換量が12046mとなり、1日当たりの海水交換率が24.1%となる。
なお、4段目に配列されるブロック本体13の一方の側壁部14aの縦長開口部11の数量や防波堤1の幅を適宜調整すれば、海水交換率をさらに増加させることが可能になる。
【0031】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る防波堤1では、各側壁部14a、14bに横長開口部10及び縦長開口部11を設けると共に上面に全面開放の開口部12を設けたブロック本体13を備えた中空消波型被覆ブロック3を、波浪方向と、該波浪方向に対して直交する方向とに夫々複数列敷設し、且つ海面上まで複数積み上げて構成したので、各中空消波型被覆ブロック3の内部に乱流及び渦が発生して、これらの相互干渉作用により波浪エネルギーが大きく減衰される。しかも、本防波堤1により、港外から港内への波浪エネルギーの伝播は抑制されるものの、本防波堤1を介して港外から多量の海水が港内へ流入するために、港内外の海水循環が可能になり、港内の水質が向上される。
【0032】
また、本発明の実施の形態に係る防波堤1では、港外から1列目及び2列目それぞれに4層積層される各中空消波型被覆ブロック3内に開口部有り消波板15を配置して、最も港内側(港外から3列目)に4段積層される各中空消波型被覆ブロック3のうち、上から1段目、2段目及び3段目の各中空消波型被覆ブロック3のブロック本体13内に開口部無し消波板16を配置し、上から4段目の各中空消波型被覆ブロック3のブロック本体13内に開口部有り消波板15を配置しているので、港内外の海水循環がより一層促進される。
【0033】
さらに、本発明の実施の形態に係る防波堤1では、各中空消波型被覆ブロック3の積層は、上側の中空消波型被覆ブロック3の下面に設けた各脚部20と、下側の中空消波型被覆ブロック3の上面に設けた各凹部25とが、互いのテーパ面21a、21bが接触して嵌合して構成されるため、港外からの波浪の衝撃により、各中空消波型被覆ブロック3が、鉛直面に対して多少傾斜(揺動)しても容易に復元され、安定性を維持することができる。
【0034】
しかも、本発明の実施の形態に係る防波堤1は直方体で構成されるため、従来の、消波ブロックを海底面付近まで勾配を付けながら積み上げた防波堤に比して、防波堤付近への漁船の接近が可能になる。
【符号の説明】
【0035】
1 防波堤,2 基礎マウンド,3 中空消波型被覆ブロック,10 横長開口部,11 縦長開口部,12 開口部,13 ブロック本体,15 開口部有り消波板,16 開口部無し消波板,20 脚部,21a、21b テーパ面,25 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に造成したマウンド上に、上面及び側面に開口部を有する中空消波型被覆ブロックを、波浪方向と、該波浪方向に対して直交する方向とに夫々複数列敷設し、且つ海面上まで複数積み上げて構成したことを特徴とする防波堤。
【請求項2】
前記各中空消波型被覆ブロック内には、開口部有り消波板または開口部無し消波板のいずれか一方が、波浪に対向する向きで配置されることを特徴とする請求項1に記載の防波堤。
【請求項3】
前記各中空消波型被覆ブロック内には、沖側から最も離れた位置に複数積層された各中空消波型被覆ブロックのうち、最も海底に近い各中空消波型被覆ブロックを除く各中空消波型被覆ブロック内だけに前記開口部無し消波板が配置されることを特徴とする請求項2に記載の防波堤。
【請求項4】
前記各中空消波型被覆ブロックの下面には複数の脚部が突設されると共に、各中空消波型被覆ブロックの上面には前記各脚部が嵌合する凹部が形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防波堤。
【請求項5】
前記各脚部と前記凹部とは、鉛直面に対して傾斜するテーパ面で接触して嵌合することを特徴とする請求項4に記載の防波堤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−58178(P2011−58178A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206093(P2009−206093)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【出願人】(509251604)
【Fターム(参考)】