説明

防波堤

【課題】津波等が作用した場合、構造的に弱点となる特定部位の基礎マウンドを安定させる防波堤を提供する。
【解決手段】本防波堤1は、特に、堤頭部14の基礎マウンド2の全域、及び隣接する堤体12間の開口部における基礎マウンド2の露出面の全域をスラグ材10にて被覆するので、隣接する堤体12、12間の開口部や堤頭部14に非常に大きな流れが発生しても、当該部位の基礎マウンド2を安定させることができ、防波堤1全体を安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾や海岸等に設置される防波堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、わが国の防波堤は、経済的な観点から基礎マウンド上に直立した函体(ケーソン)が複数配列され構成される混成堤が大半を占めている。混成堤の場合、各函体および基礎マウンドの安定性は作用波力に応じて定まり、一般に風波やうねりのような数秒から二十秒程度の周期を有する波の波力が、周期の長い津波(数分から数十分)に対する波力より大きい。一方、大津波によって、津波が集中するような地形・構造配置となった場合、波の収斂により水平流速が非常に大きくなり(グリーン効果)、その流体力によって基礎マウンドや各函体が破壊されることが確認され、それらに対する対策も必要となった。このような破壊は、基礎マウンドを構成するマウンド材および被覆材が安定を保持できなくなり、基礎マウンドが変形するほどに散乱することで各函体が基礎マウンド上から転落する機構によると推定されている。特に、防波堤の堤頭部においては、堤体が不連続になること、また隣接する堤体間の開口部には津波が収斂しやすい構造となることから、津波作用時には強大な水平流速が発生し、構造上の弱点となる。例えば、大津波による防波堤の被災例では、開口部における水平流速は最大10.5m/sであったと推定されており、これに対する石材の安定質量は1000tを越えることから、コンクリートブロックを用いるとしても上部の函体程度の大きさが予測され、現在考えられる対策では非現実的な規模になる。
【0003】
そこで、特許文献1には、港湾底部の地盤上に構築した捨石マウンド上に設置された防波堤の耐津波・高潮補強工法であって、捨石マウンドの港外側端部に根固めブロックを設置した後、この根固めブロックを設置した側の前記捨石マウンドの斜面部分に間詰め材を敷設し、その後、これら捨石マウンドの港外側部、間詰め材及び根固めブロックの上部に遮水板を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−168824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る発明では、津波防波堤のような基礎マウンドの高さが30mにもなるような条件に対しては非現実的な工法となり採用することはできない。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、津波等が作用した場合、構造的に弱点となる特定部位の基礎マウンドを安定させる防波堤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明は、基礎マウンドと、該基礎マウンド上に間隔を置いて複数配置される堤体とから構成される防波堤であって、堤頭部の前記基礎マウンドの全域をスラグ材にて被覆することを特徴とするものである。
請求項1の発明では、基礎マウンドの堤頭部の全域をスラグ材にて被覆するので、基礎マウンドの堤頭部への波の浸透を抑制することができる。また、スラグ材においては、その性質により施工初期の基礎マウンドの僅かな変形に追従することができ、またその後は、水と反応して膨張して、時間の経過と共に硬化して固化体となる性質を有するので、基礎マウンドへの波の浸透を長期間に亘って効果的に抑制することができる。スラグ材は、固化体となった後の透水係数が10−2cm/sのオーダーとなるため、基礎マウンド全体(石材やコンクリートブロック)としての透水係数を通常の10cm/sのオーダーから2オーダー低下させることができ、十分な遮蔽効果を発揮することが可能になる。また、固化後のスラグ材の安定性は急激に高まり、その厚みが1m〜2m程度で安定すると考えられる。この結果、基礎マウンドの堤頭部に非常に大きな流れが発生しても、基礎マウンドを安定させることができる。
また、請求項1の発明では、既存の防波堤の基礎マウンドにおいて、その堤頭部をスラグ材により被覆することにより、該堤頭部を安定させることも可能である。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記隣接する堤体間の基礎マウンドの露出面の全域をスラグ材にて被覆することを特徴とするものである。
請求項2の発明では、隣接する堤体間の開口部における基礎マウンドへの波の浸透を抑制することができ、この結果、隣接する堤体間の開口部に非常に大きな流れが発生しても、当該部位の基礎マウンドを安定させることができる。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明において、前記スラグ材は、柔軟性を有する網状の袋体内に充填されることを特徴とするものである。
請求項3の発明では、基礎マウンドの特定部位をスラグ材で被覆する作業を簡素化することができる。また、袋体には、吊り上げることが可能になるように吊りロープが備えられているので、起重機船による運搬、水中への仮置きや潜水士船により据付が容易となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防波堤によれば、基礎マウンドの各堤体が配置される部位を除く範囲、すなわち、堤頭部及び隣接する堤体間の開口部における基礎マウンドをスラグ材にて被覆するので、堤頭部や開口部に非常に大きな流れが発生しても、当該部位の基礎マウンドを安定させ、ひいては防波堤全体を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る防波堤の堤頭部の平面図である。
【図2】図2は、図1の側面図である。
【図3】図3は、図1のA−A線に沿う断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態に係る防波堤の平面図であり、隣接する堤体間に開口部が形成される領域の平面図である。
【図5】図5は、図4の側面図である。
【図6】図6は、図4のB−B線に沿う断面図である。
【図7】図7は、多量のスラグ材が充填された袋体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図7に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る防波堤1は、図1〜図6に示すように、波浪方向と直交する方向に延びる基礎マウンド2と、該基礎マウンド2上に間隔を置いて複数配列される堤体12とから構成される。各堤体12は、ケーソンとしての函体3を複数配列して構成される。基礎マウンド2上の各函体3、3間には目地5が形成され、隣接する堤体12、12間には開口部13が形成される。図1〜図3に示すように、基礎マウンド2は、沖側及び陸側に法面を有する断面台形状に形成されており、図2から解るように、本防波堤1の堤頭部14は、その安定性を増加させるために基礎マウンド2の延びる方向に沿って下方傾斜する法面が形成される。また、基礎マウンド2の各函体3が配置される部位を除く範囲、すなわち、基礎マウンド2の海中に露出する表面はスラグ材10にて被覆される。各函体3内には、石材等の中詰め材が充填される。
【0013】
スラグ材10は、転炉系製鋼スラグ材が使用される。該転炉系製鋼スラグ材10は、溶銑の精錬工程で生成される粒状の副産物である。転炉系製鋼スラグ材10の主な化学成分は、石灰、二酸化ケイ素、酸化鉄等であり、特に、水硬性、膨張性等の性質を有し、水と反応する前においては外力によって僅かに変形する性質を有し、水と反応して膨張した後は、時間の経過に伴って硬化して固化体となる性質を有している。また、スラグ材10は、透水性として、透水係数のオーダーから津波程度の周期を有する波に対しては、ほぼ流れを遮断して、一方、さらに周期の長い潮汐のような波に対しては十分に通水させる性質を有するものである。すなわち、防災対象となるような津波や台風時等の波に対しては遮水性を有し、環境上の潮汐のような波に対しては通水性を有することになる。
なお、本実施の形態では、スラグ材10は、製鋼スラグ材の分類となる転炉系製鋼スラグ材が採用されているが、その他のスラグ材10、例えば、溶融スラグ材の分類となる水砕スラグ材等を採用することもできる。
【0014】
図4に示すように、多量のスラグ材10が網状の袋体11内に充填される。該袋体11は、その材質として再生ポリエステル繊維が使用されており柔軟性に富む。袋体11には、内部にスラグ材10を充填した後吊り上げることが可能になるように吊りロープ(図示略)が備えられている。袋体11の編み目ピッチは、内部のスラグ材10が抜け出ない程度の適宜ピッチが採用される。また、袋体11は、スラグ材10により局所的に破断された場合でも、その箇所から破断が広がらない性質を有している。
【0015】
図3及び図6に示すように、基礎マウンド2は、捨石等が積層されて断面台形状に形成される。また、基礎マウンド2の各函体3が配置される部位を除く範囲、すなわち、基礎マウンド2の海中に露出する表面は多量のスラグ材10が充填された複数の袋体11により被覆される。
詳しくは、図1〜図3に示すように、基礎マウンド2の沖側及び陸側に延びる各法面及び法肩部(天端面において各函体3が配置される範囲を除く面)は、多量のスラグ材10が充填された複数の袋体11により被覆される。基礎マウンド2の各法面は、多量のスラグ材10が充填された袋体11が海底と略平行になるように複数積層されて、各法面がスラグ材10により被覆される。基礎マウンド2の各法肩部には、多量のスラグ材10が充填された袋体11がS字状を呈して複数配列され、該袋体11の一端部が、各函体3の下面の一部と基礎マウンド2の上面との間に入り込むように配置され、各法肩部がスラグ材10により被覆される。
【0016】
また、図1〜図3に示すように、防波堤1の堤頭部14における基礎マウンド2の全域(法肩部及び法面)に、多量のスラグ材10が充填された袋体11が複数積層されて被覆される。さらに、図4〜図6に示すように、基礎マウンド2上の隣接する堤体12、12間の開口部13の、海中に露出した基礎マウンド2の全域(天端面及び法面)にも、多量のスラグ材10が充填された袋体11が複数積層されて被覆される。さらにまた、隣接する函体3間の目地5の部分の基礎マウンド2の天端面及び法面にも、多量のスラグ材10が充填された袋体11が複数積層されて被覆される。
【0017】
この時、施工初期においては、スラグ材10は変形自在な性質を有するために、各函体3及び基礎マウンド2が僅かに変形した場合でも、各函体3及び基礎マウンド2の僅かな変形に追従することができる。その後は、スラグ材10は水と反応することにより膨張するので、各スラグ材10が互いに密着すると共に、基礎マウンド2の各函体3が配置される部位を除く範囲を被覆することができる。さらに、その後は、時間の経過と共にスラグ材10が硬化して固化体となりその状態が維持されるので、長期的に基礎マウンド2への波の浸透を抑制することができる。
【0018】
なお、複数種類の大きさの袋体11を用意し、それら各袋体11に多量のスラグ材10を充填しておき、複数種類の大きさの袋体11を、基礎マウンド2の各部位に沿って選定して密着するように積み重ねるようにしてもよい。
【0019】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る防波堤1では、特に、堤頭部14の基礎マウンド2の全域、及び隣接する堤体12、12間の開口部13における基礎マウンド2の露出面の全域を、多量のスラグ材10が充填された袋体11を複数積層して被覆する。この結果、津波等の発生時、非常に大きい流れが、隣接する堤体12、12間の開口部13や堤頭部14に発生しても、当該部位における基礎マウンド2内への波の浸透を抑制することができる。これにより、基礎マウンド2の崩壊を防止でき、ひいては、防波堤1全体の安定性を確保することが可能になる。また、スラグ材10は、上述したように、透水性として、津波や台風時等の波に対しては遮水性を有し、潮汐のような波に対しては通水性を有するので、堤頭部14や開口部13の領域の基礎マウンド2を被覆する部材として防災及び環境上最適である。
【0020】
また、本実施形態に係る防波堤1では、多量のスラグ材10を、柔軟性を有し吊り上げ用ロープが備えられる袋体11に充填して作業するので、スラグ材10の取り扱いが非常に容易になり、また、起重機船による運搬、水中への仮置きや潜水士船により据付が容易となる。
【0021】
なお、本実施形態に係る防波堤1では、作業の簡素化を図るために、多量のスラグ材10を袋体11に充填し、その袋体11を基礎マウンド2の海中に露出する表面に配置したが、スラグ材10を、直接、基礎マウンド2の海中に露出する表面に配置するようにしてもよい。また、本実施形態に係る防波堤1では、各函体3の下面の一部にS字状を呈したスラグ材10の一部が配置されているが、各函体3の下面の全範囲にスラグ材10を配置してもよい。
また、多量のスラグ材10を充填した複数の袋体11を、既設の防波堤1の基礎マウンド2の海中に露出する表面に配置して被覆するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 防波堤,2 基礎マウンド,3 函体,10 スラグ材,11 袋体,12 堤体,13 開口部,14 堤頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎マウンドと、該基礎マウンド上に間隔を置いて複数配置される堤体とから構成される防波堤であって、
堤頭部の前記基礎マウンドの全域をスラグ材にて被覆することを特徴とする防波堤。
【請求項2】
前記隣接する堤体間の基礎マウンドの露出面の全域をスラグ材にて被覆することを特徴とする請求項1に記載の防波堤。
【請求項3】
前記スラグ材は、柔軟性を有する網状の袋体内に充填されることを特徴とする請求項1または2に記載の防波堤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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