説明

防波構造物

【課題】想定規模を超える津波に対しても破壊されてしまうことなく可及的に粘り強く防波機能を発揮し得るようなフェイルセーフ機能を備えた有効適切な防波構造物を提供する。
【解決手段】複数の杭体11を間隔をおいて海底面に打ち込んで自立状態で設置し、杭体11相互間に鋼板からなる版状の堤体12を設置する。杭体11は波高が想定規模を超えた際の波圧に抗しても自立状態を維持可能とする。堤体12は想定規模の波高に対しては杭体11相互間を締め切って防波機能を維持し、波高が想定規模を超えた際にはその波圧により陸側に開かれるとともに津波終息後には自ずと閉じられるように弾性的に開閉可能に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大規模な津波に対する防波施設としての防波構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、津波に対する防波施設としてはたとえば特許文献1に示されるようなケーソン式の防波堤が一般的であるが、特許文献2に示されるような特殊な構造のものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−70937号公報
【特許文献2】特開2007−239234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
東日本大震災では想定規模を超える大津波の発生により甚大な被害が生じたが、その一因は防波堤が早期に破壊されてしまって十分に機能し得なかったことにあるともいわれている。
すなわち、津波はあくまで「波」であって通常の波と同様に複数回にわたり繰り返し押し寄せてくるものであるのに対し、今般の震災では第1波で防波堤が重大な損傷を受けてしまって第2波以降の波に対してはもはや本来の防波機能を発揮し得ないものとなり、そのことが被害を拡大したと考えられている。
【0005】
想定規模を超える津波による防波堤の破壊メカニズムの主な例を図3〜図4に示す。
一般的なケーソン式の防波堤の場合には、図3に示すように第1波で個々のケーソン1が多少なりとも滑動してケーソン相互間に隙間が生じ、その隙間に強い水流が作用してケーソン1の滑動やマウンド2の洗掘が急速に進行し、ついには防波堤全体が完全に倒壊したり破壊されてしまうと考えられている。
また、図4に示すように、第1波の波高が防波堤4の高さを大きく超えて越流が生じた場合には、その越流により陸側の背面3が洗掘されてしまって防波堤4が波圧に抗しきれなくなり、そのまま陸側に倒壊してしまうことも想定される。
【0006】
このことは特許文献1に示されるケーソン式消波護岸や特許文献2に示される津波対策構造物においても同様であって、いずれにしても現状の防波構造物では想定規模を超える津波に対する防波機能は十分ではなく、それに対する対策が急務とされているのが実状である。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は想定規模を超える津波に対しても破壊されてしまうことなく可及的に粘り強く防波機能を発揮し得る有効適切な防波構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は大規模な津波に対する防波機能を有するとともに、波高が想定規模を超えた際にも破壊されないフェイルセーフ機能を備えた防波構造物であって、複数の杭体を間隔をおいて海底面に打ち込んで自立状態で設置するとともに、前記杭体相互間に鋼板からなる版状の堤体を設置してなり、前記杭体は波高が想定規模を超えた際の波圧に抗して自立状態を維持可能とされ、前記堤体は想定規模の波高に対しては前記杭体相互間を締め切って防波機能を維持可能とされかつ波高が想定規模を超えた際にはその波圧により陸側に開かれるように弾性的に開閉可能とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防波構造物は、想定規模を超える津波の際には防波機能を一部犠牲にして破壊を回避するというフェイルセーフ機能を備えたことにより、最悪の事態に至ることを回避することが可能である。
すなわち、本発明の防波構造物では、想定規模を超える津波の際には堤体が一時的に開かれて最少限の海水の流入は阻止し得ないが、その反面、堤体に過大な波圧が作用することを回避して防波構造物全体が破壊されてしまうことを回避することが可能であり、それにより粘り強く防波機能を維持して全体として津波被害の軽減を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態である防波構造物の概略構成を示す部分斜視図である。
【図2】同、部分平面図であって、(a)は想定規模の津波を受けた状況、(b)は想定規模を超えた津波を受けた状況を示す図である。
【図3】従来一般の防波堤の破壊メカニズムについての説明図である。
【図4】従来一般の防波堤の破壊メカニズムについての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の防波構造物の一実施形態を図1〜図2に示す。
本実施形態の防波構造物10は大規模な津波を想定してそれに対する防波機能を有するものであるが、特に想定規模を超える津波に対しても破壊されることなく可及的に粘り強く防波機能を維持し得る構造とすることにより、従来のように早期に破壊されてしまうことによる津波被害の拡大を防止することを目的とするものである。
【0012】
そのため、本実施形態の防波構造物10は、発生確率が100年に一度程度と想定される規模の津波(レベル1クラスの津波)に対しては通常の防波堤と同様に支障なく防波機能を発揮することを基本とし、そのうえで発生確率が1000年に一度程度と想定されるさらに大規模な津波(レベル2クラスの津波)が発生した場合においても破壊されてしまうことなく最少限の防波機能を維持し得るようなフェイルセーフ機能を備えたものとして設置されるものである。
【0013】
具体的には、本実施形態の防波構造物10は、複数の杭体11を間隔をおいて海底面に打ち込んで自立状態で設置し、それら杭体11相互間に鋼板からなる版状の堤体12を弾性的に開閉可能に設置したことを主眼とする。
【0014】
各杭体11は、想定規模であるレベル1の津波に対してはもとより想定規模を超えるレベル2の津波に対しても破壊されないものであることが必要であり、そのためにはレベル2クラスの津波による波高とそれによる波圧を想定し、堤体12を介して各杭体11にそのような波圧が作用してもそれに抗して支障なく自立状態をそのまま維持し得るように十分な強度と耐力を有するものとして設置しておく必要がある。
なお、杭体11の構造や断面形状、寸法等の仕様は所望強度が確保される限りは特に限定されないが、図示例のように大断面の中空ないし中実の円形鋼管杭とすることが好適であり現実的である。
【0015】
本実施形態では上記の杭体11を2本1組として所定間隔をおいて配列し、それら杭体相互間に一対2枚の版状の堤体12を両開き式の扉ないし門の形態で設置している。
すなわち、各堤体12を海側に若干膨出するような鋼板からなる湾曲版形状として、その一方の側縁部をそれぞれ両側の杭体11に対して接合し、他方の側縁部をそれぞれ自由端として双方の堤体の自由端どうしを杭体11間の中央部において若干ラップさせておくことにより、平常時は双方の堤体12により杭体11間を締め切っておくが、レベル2クラスの津波による過大な波圧を受けた際には双方の堤体12が陸側に弾性的に変形可能としておく。
【0016】
本実施形態の防波構造物10は、上記のように1組2本の杭体11とそれらの間に設置した一対2枚の版状の堤体12とによって1単位の構造物を構成し、それを海岸線に沿って多数(図1では2単位のみを図示)連続的に設置して、隣接配置した2本の杭体11どうしを隙間なく密接状態で強固に接合することにより、それらの全体でレベル1クラスの津波に対する十分な防波機能を有することはもとより、レベル2クラスの津波に対しても破壊されることなく最少限の防波機能を発揮し得るものである。
【0017】
すなわち、想定規模であるレベル1クラスの津波を受けた際には、図2(a)に示すように各堤体12がその波圧に抗して締め切り状態を維持し、通常の防波堤と同様に防波機能を支障なく発揮する。
その際、津波規模によっては図示しているように堤体12が波圧を受けて陸側に若干変形する余地はあるが、この段階においては双方の堤体12間に隙間が生じることがないように双方の堤体12の強度や変形性能、双方の堤体12どうしのラップ寸法を適切に設定しておく。
【0018】
一方、想定規模を超えるレベル2クラスの津波を受けた際には、各堤体12にさらに過大な波圧が作用するので、その際には図2(b)に示すようにその波圧によって各堤体12が陸側に弾性的に押し開かれるように変形し、それによって双方の堤体12間に隙間が生じてその隙間を通して海水が陸側に流入することが敢えて許容される。
このように、想定規模を超える津波の際にはその波圧によって堤体12が自ずと開かれて海水の流入を敢えて許容する構造とすることにより、堤体12にそれ以上の過大な波圧が作用することが回避されて堤体12や杭体11が完全に破壊されてしまう事態を未然に防止でき、したがって従来のように防波堤の全体がこの時点で完全に破壊されてしまう場合に比較すれば津波被害を最少限に食い止めることが可能である。
【0019】
そして、津波が終息して波高および波圧が低減すれば、堤体12はそれ自身の弾性により自ずと平常時の状態に復帰して隙間が閉じられるから、その状態では再び防波機能を回復してそれ以降の津波に対して備えることができ、繰り返し押し寄せてくる津波に対してもそれまでと同様に防波機能を発揮し得るものとなる。
【0020】
以上のように、本発明の防波構造物10によれば、想定規模を超える最大級の津波の際には一時的に防波機能は損なわれるが、その反面、防波構造物10全体が早期に破壊されてしまうことを回避し得るから、それにより全体として津波被害の軽減を図ることが可能である。
換言すれば、想定規模を超える津波の際にも堤体12が開かれることがなければ、過大な波圧によりついには堤体12が破壊に至ってその時点で防波機能が完全に消失してしまい、それ以降に押し寄せる津波に対しては全く対処し得ないものとなることが想定されるが、上記のように想定規模を超えた際には防波機能を一部犠牲にして破壊を回避するというフェイルセーフ機能を備えたことにより、粘り強く防波機能を維持することが可能であって最悪の事態に至ることを未然に回避することが可能である。
【0021】
但し、そのようなフェイルセーフ機能が確実に確保されるためには、想定規模を超える津波の際にも杭体11は破壊されることなく自立状態を維持し、かつ堤体12が弾性範囲内で変形して自ずと開閉し得るものであることが前提であるから、それが可能であるように杭体11の構造と強度、堤体12の素材やその版厚、形状、変形性能等の仕様を適切に設定しておく必要があることは当然である。
【0022】
なお、仮に、想定規模を超えた場合にも堤体12が破壊されないようにその強度を設定しておけば、堤体12を敢えて開くまでもなく(つまりフェイルセーフ機能を持たせるまでもなく)その破壊を自ずと防止できるのであるが、そのようなことは単に津波の想定規模をレベル2クラスに高めることと等価であって、そのためには堤体12および杭体11を極めて頑強なものとする必要があって現実的ではない。
【0023】
以上で本発明の一実施形態について説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、要は想定規模を超える津波に対して堤体が自ずと開かれかつ自身の弾性により自ずと閉じられるように構成すれば良いのであって、その限りにおいては各部の具体的な構成は津波の想定規模や立地条件を考慮して最適設計すれば良く、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜の設計的変更や応用が可能である。
たとえば、上記実施形態では1組2本の杭体の間に一対2枚の堤体を両開き(観音開き)の扉ないし門の形態で設置して1単位の防波構造物を構成したが、杭体や堤体の配置パターンやそれらの構造、形態は任意であって、1枚の堤体を片開きの形態で設置したり、杭体の回転剛性によって堤体の開閉を行ったり、杭体を単に等間隔で配列する等の変更も考えられる。
【符号の説明】
【0024】
10 防波構造物
11 杭体
12 堤体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大規模な津波に対する防波機能を有するとともに、波高が想定規模を超えた際にも破壊されないフェイルセーフ機能を備えた防波構造物であって、
複数の杭体を間隔をおいて海底面に打ち込んで自立状態で設置するとともに、前記杭体相互間に鋼板からなる版状の堤体を設置してなり、
前記杭体は波高が想定規模を超えた際の波圧に抗して自立状態を維持可能とされ、
前記堤体は想定規模の波高に対しては前記杭体相互間を締め切って防波機能を維持可能とされかつ波高が想定規模を超えた際にはその波圧により陸側に開かれるように弾性的に開閉可能とされていることを特徴とする防波構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87545(P2013−87545A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230706(P2011−230706)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】