説明

防湿性積層体

【課題】多くの製造工程を経ることなく低コストで製造可能であって、薄層で高レベルの防湿性能を発揮でき、吸湿量の制御が容易であるとともに、透明性にも優れた防湿性積層体を提供する。
【解決手段】少なくとも2層の蒸着フィルム1を有し、蒸着フィルム1の層間に少なくとも1層の吸湿層2が挟持されてなる防湿性積層体である。蒸着フィルム1が、基材上に少なくとも金属酸化物の蒸着膜を有する透明フィルムよりなり、かつ、吸湿層2が、バインダ樹脂の溶液中に、1次粒子径が100nm以下である化学的水分吸着性物質が分散された液状混合物を用いて、蒸着フィルム1上に塗工形成された透明樹脂層よりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防湿性積層体に関し、詳しくは、食品や非食品および医薬品包装、電子機器関連部材などに用いられる包装用のシートまたはフィルム等の積層体であって、特に、高い水蒸気バリア性および透明性が要求される分野に適用される防湿性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELをはじめとする有機デバイスや電子ペーパーなど、フレキシブル化が可能な電子部材、および、医療包装の分野においては、水蒸気により、内容物の変質や製品寿命の短縮が生ずるため、高レベルの水蒸気バリア性を有する包装用のシートないしフィルムが求められている。
【0003】
このような要求に対し、例えば、特許文献1には、基板と、第1の電極層と第2の電極層との間に有機電界発光層を有し、基板の一面側に接する素子本体部と、有機層と無機層とが交互に成膜され積層された構造を有すると共に、素子本体部の基板と反対側の面に接するバリア層と、を備えた有機電界発光素子が開示されている。この有機電界発光素子においては、有機層と無機層との積層からなるバリア層が、水分や酸素の透過を防止する機能を奏する。また、特許文献2には、水分吸収保持能力のある透明プラスチック基体を、蒸着薄膜層を含む透明積層体で挟み込んだ構成のガスバリア性透明積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−17244号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2006−7565号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術には、バリア層の形成に時間がかかり、一括で製膜できないなど、大量生産に向かないという欠点があった。また、特許文献2に記載の技術においても、上記プラスチック基体単独では水分吸収の速度を任意に制御できないことに加え、上記プラスチック基体に無機系吸湿剤を分散させた場合には、プラスチック基材中の含有水分を無機系吸湿剤が吸湿するために、無機系吸湿剤の能力が十分に発揮されず、吸湿能力が失活するおそれがあり、吸湿量の制御が困難であるという問題があった。さらに、特許文献2に記載の技術では、プラスチック基体中に分散させた吸湿剤が再放湿する可能性もあり、また、高防湿性を得るためには上記プラスチック基体を数層積層する必要があることから、積層体が厚膜化しやすいという難点もあった。
【0006】
さらにまた、吸湿性を有する積層体において、吸湿剤として無機酸化物等の無機系吸湿剤を用いた場合には、この無機系吸湿剤により吸湿機能を有する層の透明性が損なわれるため、得られる積層体の製品としての使用用途が限定されてしまう。この点、特許文献2に記載されているような技術もあるが、特許文献2に記載の技術では、プラスチック基体中の無機系吸湿剤の添加量の増加にともない透明性が低下することが考えられ、かかる点においても十分なものではなかった。
【0007】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、多くの製造工程を経ることなく低コストで製造可能であって、薄層で高レベルの防湿性能を発揮でき、吸湿量の制御が容易であるとともに、透明性にも優れた防湿性積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討した結果、溶液状のバインダ樹脂に吸湿剤のナノ粒子を分散させた液状混合物を作製し、この液状混合物の塗工により透明吸湿層を形成することで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の防湿性積層体は、少なくとも2層の蒸着フィルムを有し、該蒸着フィルムの層間に少なくとも1層の吸湿層が挟持されてなる防湿性積層体であって、
前記蒸着フィルムが、基材上に少なくとも金属酸化物の蒸着膜を有する透明フィルムよりなり、かつ、前記吸湿層が、バインダ樹脂の溶液中に、1次粒子径が100nm以下である化学的水分吸着性物質が分散された液状混合物を用いて、前記蒸着フィルム上に塗工形成された透明樹脂層よりなることを特徴とすることを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、前記化学的水分吸着性物質が、無機酸化物粒子からなることが好ましい。また、前記吸湿層のバインダ樹脂の、含水率が1%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記構成としたことにより、多くの製造工程を経ることなく低コストで製造可能であって、薄層で高レベルの防湿性能を発揮でき、吸湿量の制御が容易であるとともに、透明性にも優れた防湿性積層体を実現することが可能となった。また、本発明によれば、吸湿剤をナノ粒子としたことで、層中に含まれる吸湿剤の表面積が増大して、吸湿剤の化学反応性が向上するとの効果も得ることができる。さらに、本発明に係る吸湿層は、蒸着フィルム上へのコーティングにより製造されるため、従来と比較して簡便な製品製造が可能となったものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の防湿性積層体の一構成例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明に係る蒸着フィルムの一構成例を示す模式的断面図である。
【図3】巻き取り式真空蒸着装置の一例を示す概略的構成図である。
【図4】低温プラズマ化学気相成長装置の一例を示す概略的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。本発明において、下記の記載は、その実施の形態の一例を示すものであり、これによって本発明が限定されるものではないことは言うまでもない。
本発明の防湿性積層体は、少なくとも2層の蒸着フィルムを有し、その層間に少なくとも1層の吸湿層が挟持されてなる構成を有する。図1に、本発明の防湿性積層体の一構成例を示す模式的断面図を示す。
【0014】
図示する本発明の一例の防湿性積層体10は、2層の蒸着フィルム1と、その層間に挟持されてなる1層の吸湿層2とからなる積層構造を有する。このうち蒸着フィルム1は、基材上に少なくとも金属酸化物の蒸着膜を有する透明フィルムよりなる。また、吸湿層2は、バインダ樹脂と、1次粒子径が100nm以下である化学的水分吸着性物質とからなり、バインダ樹脂の溶液中にかかる化学的水分吸着性物質が分散された液状混合物を用いて、蒸着フィルム1上に塗工形成された透明樹脂層よりなる。本発明においては、吸湿層2に用いる吸湿剤として化学的水分吸着性物質のナノ粒子を用いたことで、吸湿層2の透明性を確保しつつ、吸湿剤の化学反応性を向上して、薄層でも高レベルの防湿性能を発揮できるとともに、吸湿量の制御も容易である防湿性積層体を実現することが可能となった。また、本発明の防湿性積層体は、蒸着フィルム1上に塗工形成されるものであるので、従来と比較して、より簡易で低コストな工程によって製造することが可能である。
【0015】
本発明において吸湿層2に用いる化学的水分吸着性物質としては、再放湿性がなく、かつ、吸湿しても固体の形状を維持する特性を有し、1次粒子径が100nm以下、例えば、1nm〜60nm程度であるものであればよい。かかる化学的水分吸着性物質としては、具体的には例えば、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物、過塩素酸、有機物等が挙げられる。
【0016】
上記のうちアルカリ金属酸化物としては、酸化ナトリウム(NaO)や酸化カリウム(KO)等を挙げることができ、アルカリ土類金属酸化物としては、酸化カルシウム(CaO)や酸化マグネシウム(MgO)、酸化バリウム(BaO)等を挙げることができる。また、硫酸塩としては、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸リチウム(LiSO)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸コバルト(CoSO)、硫酸ガリウム(Ga(SO)、硫酸チタン(Ti(SO)、硫酸ニッケル(NiSO)等を挙げることができ、特には無水塩が好適である。
【0017】
さらに、金属ハロゲン化物としては、塩化カルシウム(CaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、塩化イットリウム(YCl)、塩化銅(CuCl)、臭化カルシウム(CaBr)、臭化セリウム(CeBr)、臭化セレン(SeBr)、臭化バナジウム(VBr)、臭化マグネシウム(MgBr)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化タンタル(TaF)、フッ化ニオブ(NbF)、ヨウ化バリウム(BaI)、ヨウ化マグネシウム(MgI)等を挙げることができ、特には無水塩が好適である。さらにまた、過塩素酸塩としては、過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO)、過塩素酸バリウム(Ba(ClO)等を挙げることができ、特には無水塩が好適である。なお、化学的吸着性物質として有機物を用いる場合においても、化学的に水分を吸着するとともに、吸湿しても固体状態を維持するものであることが必要である。
【0018】
本発明においては、上記のうちでも、化学的水分吸着性物質として無機酸化物粒子を好適に用いることができ、中でも、酸化カルシウム(CaO)や酸化マグネシウム(MgO)等が好適である。具体的には例えば、酸化マグネシウム(例えば、神島化学工業(株)製)や酸化カルシウム(例えば、宇部マテリアルズ(株)製)などを用いることができる。なお、本発明においては、バインダ樹脂に対する化学的水分吸湿性物質の分散性を維持するために、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
【0019】
吸湿層2に用いる樹脂バインダとしては、特に制限はなく、従来公知の樹脂材料のうちから適宜選択して用いることができるが、透明な層を形成するために、透明性に優れた材料を用いることが好ましい。具体的には例えば、環状ポリオレフィン(COPとして、例えば、日本ゼオン(株)製,環状オレフィン−エチレン共重合体(COC)として、例えば、ポリプラスチックス(株)製)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐酢酸ビニル共重合体(EVA)等を挙げることができる。また、吸湿層2の樹脂バインダとしては、接着剤や粘着剤を用いてもよい。かかる接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、アクリル酸のエチル、ブチル、2−エチルヘキシルエステル等のホモポリマー、あるいは、これらとメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、スチレン等との共重合体等からなるポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーとの共重合体等からなるエチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、尿素樹脂またはメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等からなるゴム系接着剤、シリコーン系接着剤、アルカリ金属シリケート、低融点ガラス等からなる無機系接着剤等を挙げることができる。また、上記接着剤の組成系は、水性型、溶液型、エマルジョン型、分散型等のいずれの組成物形態でもよく、また、その性状は、フィルム・シート状、粉末状、固形状等のいずれの形態でもよく、さらに、接着機構については、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれの形態でもよい。また、粘着剤としては、公知のゴム系、アクリル系、シリコーン系等の粘着剤を用いることができる。
【0020】
また、吸湿層2における上記バインダ樹脂と化学的水分吸着性物質との重量比率としては、バインダ樹脂20〜99質量部に対し、化学的水分吸着性物質を80〜1質量部にて混合することが好ましい。より好ましくは、バインダ樹脂30〜95質量部に対し、化学的水分吸着性物質70〜5質量部の重量比率とする。上記範囲よりバインダ樹脂の重量比率が高く、化学的水分吸着性物質の重量比率が低い場合、十分な吸湿性能が得られないおそれがある。一方、上記範囲よりバインダ樹脂の重量比率が低く、化学的水分吸着性物質の重量比率が高い場合、層形成が困難になることに加え、吸湿層2の透明性が損なわれるおそれが生ずる。さらに、吸湿層2のバインダ樹脂としては、含水率が1%以下であるものを用いることが好ましい。ここで、本発明において、かかるバインダ樹脂の含水率とは、防湿性積層体作製前におけるバインダ樹脂単体での含水率を意味し、例えば、カールフィッシャ法に基づき測定することができる。本発明において、バインダ樹脂の含水率は、低ければ低いほどよい。なお、吸湿層2の厚みについては、特に限定されるものではなく、25〜300μmの範囲で、用途により決定することができる。
【0021】
また、蒸着フィルム1としては、基材上に少なくとも、公知の物理蒸着法や化学蒸着法を用い形成された金属酸化物の蒸着膜を有するものであればよく、これにより一定の防湿性を確保することができるが、材料の選択により、透明性に優れたフィルムとすることが必要である。かかる蒸着フィルム1には、必要に応じて、水蒸気バリア性を向上させるためのガスバリア性塗布膜が積層されていてもよい。
【0022】
本発明において好適には、蒸着フィルム1として、図2に示すような、基材3の一方の面に、物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜4と、第1のガスバリア性塗布膜5と、物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜6と、第2のガスバリア性塗布膜7と、が順次形成されてなるものを用いる。かかる構成を有する蒸着フィルム1は、極めて高い防湿性能を有するものである。以下、かかる蒸着フィルム1の構成について、詳細に説明する。本発明に係る好適な蒸着フィルム1は、基材3の一方の面に、物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜4と、一般式RM(OR(但し、式中、RおよびRは炭素数1〜8の有機基を表し、Mは金属原子を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表し、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物による第1のガスバリア性塗布膜5と、物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜6と、一般式RM(OR(但し、式中、R、R、M、n、mおよびn+mは前記と同じものを表す)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物による第2のガスバリア性塗布膜7と、が順次形成されてなる。
【0023】
本発明に係る上記蒸着フィルム1は、以下のようにして作製される。すなわち、まず、基材3の一方の面に、不活性ガスによるプラズマ処理面を設け、このプラズマ処理面上に、物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜4を設ける。次に、この無機酸化物の蒸着膜4の面に、酸素ガスによるプラズマ処理面を設け、このプラズマ処理面上に、前記一般式RM(ORで表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物を用いて第1のガスバリア性塗布膜5を設ける。次に、この第1のガスバリア性塗布膜5の面に、物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜6を設け、この無機酸化物の蒸着膜6上に、酸素ガスによるプラズマ処理面を設けて、さらにこのプラズマ処理面上に、前記一般式RM(ORで表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物による第2のガスバリア性塗布膜7を設ける。
【0024】
本発明に係る上記蒸着フィルム1においては、第2のガスバリア性塗布膜7に代えて、ポリエステル系樹脂またはポリウレタン系樹脂をビヒクルの主成分とする組成物からなるプライマー剤層を設けてもよい。この場合も、極めて防湿性の高い蒸着フィルムとすることができ、本発明の所期の効果を奏するものである。
【0025】
また、上記蒸着フィルム1においては、第1のガスバリア性塗布膜5の面に、不活性ガスによるプラズマ処理面を設けて、このプラズマ処理面上に、物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜6を設けるものとすることもできる。この場合も、第2のガスバリア性塗布膜7に代えて、ポリエステル系樹脂またはポリウレタン系樹脂をビヒクルの主成分とする組成物からなるプライマー剤層を設けてもよい。
【0026】
蒸着フィルム1の基材3としては、蒸着フィルム1を構成する基本素材となること、および、無機酸化物の蒸着膜やガスバリア性塗布膜等を保持する基材であること等の点から、これら蒸着膜等の形成および加工等の条件に耐え、かつ、その特性を損なうことなくそれらを良好に保持できること等の条件を充足し得る樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。具体的には例えば、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種ナイロン樹脂等のポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等の各種樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。本発明においては、上記の樹脂のフィルムないしシートの中でも、特に、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂またはポリアミド系樹脂のフィルムないしシートを使用することが好ましい。
【0027】
本発明において、上記の各種樹脂のフィルムないしシートとしては、例えば、上記の各種樹脂の1種ないしそれ以上を使用して、押し出し法やキャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法等の製膜法を用いて、上記の各種樹脂を単独で製膜する方法、あるいは、2種以上の樹脂を使用して多層共押し出し製膜する方法、さらには、2種以上の樹脂を使用し、製膜する前に混合して製膜する方法等により、各種樹脂のフィルムないしシートを製造して、さらに、所望に応じ、例えば、テンター方式やチューブラー方式等を利用して1軸ないし2軸方向に延伸してなる各種樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。また、本発明において、各種樹脂のフィルムないしシートの膜厚としては、好適には6〜200μm、より好適には9〜100μmである。
【0028】
なお、上記の各種樹脂の1種ないしそれ以上を使用した製膜に際しては、例えば、フィルムの加工性や耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度等を改良ないし改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができる。その添加量としては、ごく微量から数十%まで、その目的に応じて、任意の量とすることができる。上記において、一般的な添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料等を使用することができ、さらには、改質用樹脂等も使用することができる。
【0029】
また、本発明において、不活性ガスによるプラズマ処理面は、基材3の一方の面、および、第1のガスバリア性塗布膜5の面に設けるものであって、基材3と物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜4との間の密接着性、あるいは、第1のガスバリア性塗布膜5と物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜6との間の密接着性等を向上させて、これら層間を強固に密着させ、層間剥離(デラミネーション)等の発生を防止するためのものである。
【0030】
かかる不活性ガスによるプラズマ処理面は、気体をアーク放電によって電離させることにより生ずるプラズマガスを利用して表面改質を行う、プラズマ表面処理法等を利用して形成することができる。すなわち、本発明においては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスをプラズマガスとして使用するプラズマ表面処理法でプラズマ処理を行うことにより、プラズマ処理面を形成することができる。なお、本発明において、プラズマガスとしては、上記不活性ガスに、さらに酸素ガスを添加した混合ガスを使用することもできる。
【0031】
また、本発明において、不活性ガスによるプラズマ処理面を形成する場合には、基材の一方の面に物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜を、あるいは、第1のガスバリア性塗布膜の面に物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜を、それぞれ形成する直前に、インラインでプラズマ処理を行うことが好ましく、これにより、基材あるいは第1のガスバリア性塗布膜の表面の水分や塵等を除去するとともにその表面の平滑化や活性化等を図ることができる。
【0032】
さらに、本発明において、上記プラズマ処理の際には、プラズマ出力、プラズマガスの種類、プラズマガスの供給量、処理時間等の条件を考慮してプラズマ放電処理を行うことが好ましい。さらにまた、本発明において、プラズマを発生させる方法としては、例えば、直流グロー放電、高周波放電、マイクロ波放電等の装置を用いることができる。
【0033】
次に、本発明に係る物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜は、基材3の一方の面に設けた不活性ガスによるプラズマ処理面上、あるいは、第1のガスバリア性塗布膜5の面(第1のガスバリア性塗布膜5の面に不活性ガスによるプラズマ処理面を設ける場合には、そのプラズマ処理面上)に設けるものである。かかる蒸着膜は、1層からなる単層膜のみならず2層以上からなる多層膜等から構成することもでき、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)を用いて形成することができる。具体的には例えば、金属または金属の酸化物を原料とし、これを加熱して蒸気化し、これを基材の一方の面に設けた不活性ガスによるプラズマ処理面上に蒸着する真空蒸着法や、金属または金属の酸化物を原料とし、酸素を導入してこれを酸化させて基材の一方の面に設けた不活性ガスによるプラズマ処理面上に蒸着する酸化反応蒸着法、酸化反応をプラズマで助成するプラズマ助成式の酸化反応蒸着法等を用いて、好適に蒸着膜を形成することができる。この場合、蒸着材料の加熱方式としては、例えば、抵抗加熱方式、高周波誘導加熱方式、エレクトロンビーム加熱方式(EB)等を用いることができる。
【0034】
以下、上記物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜の形成方法について、その具体例を挙げて説明する。図3は、巻き取り式真空蒸着装置の一例を示す概略的構成図である。図示するように、この場合、まず、巻き取り式真空蒸着装置31の真空チャンバー32内で、巻き出しロール33から、一方の面に不活性ガスによるプラズマ処理面を有する基材1を繰り出し、次いで、繰出した基材1を、必要に応じガイドロール34等を介して、冷却したコーティングドラム35に案内する。ここで、本発明においては、図示するように、ガイドロール34と冷却コーティングドラム35との間に、例えば、プラズマ処理等を行うマグネトロンスパッタリング装置45等を配設して、巻き出しロール33から基材1を繰出し、繰出された基材1を冷却コーティングドラム35に案内する前に、基材1の一方の面に不活性ガスによるプラズマ処理を施すことで、インラインでプラズマ処理面を形成することもできる。
【0035】
その後、冷却コーティングドラム35上に案内された基材1の一方の面に設けた不活性ガスによるプラズマ処理面上に、例えば、電子銃37にて電子線38を照射することにより熱せられた蒸着源39、例えば、金属アルミニウムや酸化アルミニウム等をるつぼ36内で蒸発させ、さらに、必要に応じて、巻き取り式真空蒸着装置31の外部に配置した酸素ガスボンベ40から酸素ガス吹出口41より酸素ガス等を噴出して、これを供給しながら、マスク42を介して、例えば、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を成膜する。次いで、この酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜が形成された基材1を、必要に応じて、ガイドロール43等を介して送り出し、巻き取りロール44に巻き取ることによって、一方の面に設けた不活性ガスによるプラズマ処理面上に、さらに無機酸化物の蒸着膜を設けた基材1を得ることができる。なお、上記において蒸着源39は、電子銃37等により電子線38を照射するエレクトロンビーム加熱方式(EB)等により加熱される。
【0036】
本発明においては、上記マグネトロンスパッタリング装置45等により、基材1の一方の面に、不活性ガスによるプラズマ処理を施してインラインでプラズマ処理面を形成することで、そのプラズマ処理面を介して、基材と無機酸化物の蒸着膜との密着性を向上させることができるものである。あるいは、かかる無機酸化物の蒸着膜の形成後さらに、製膜された無機酸化物の蒸着膜の面に酸素ガスによるプラズマ処理等を施して、インラインでプラズマ処理面を形成し、後述する第1または第2のガスバリア性塗布膜との密着性を向上させることも可能である。さらにまた、本発明においては、上記のような巻き取り式真空蒸着装置を用いて、まず、第1層の無機酸化物の蒸着膜を形成し、次いで、同様にして、この無機酸化物の蒸着膜の上に、さらに無機酸化物の蒸着膜を形成するか、あるいは、上記のような巻き取り式真空蒸着装置を用いて、これを2連に連接し、連続的に、無機酸化物の蒸着膜を形成することにより、2層以上の多層膜からなる無機酸化物の蒸着膜を形成することもできる。
【0037】
なお、第1のガスバリア性塗布膜5の面ないしその面上に設けた不活性ガスによるプラズマ処理面に上記蒸着膜を設ける場合も、上記と同様の手順で行うことができる。
【0038】
本発明において、無機酸化物の蒸着膜としては、基本的には、金属の酸化物を蒸着した薄膜であれば使用可能であり、例えば、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)等の金属の酸化物の蒸着膜を使用することができる。中でも、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)等の金属の酸化物の蒸着膜が好適である。また、本発明においては、金属または金属の酸化物を1種または2種以上の混合物にて使用して、異種の材質で混合した無機酸化物の蒸着膜を構成することもできる。
【0039】
また、上記の金属の酸化物の蒸着膜は、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物等のように金属酸化物として呼ぶことができ、その表記は、例えば、SiO、AlO、MgO等のようにMO(但し、式中、Mは金属元素を表し、Xの値は金属元素によってそれぞれ範囲が異なる)で表される。上記Xの値の範囲としては、ケイ素(Si)は0〜2、アルミニウム(Al)は0〜1.5、マグネシウム(Mg)は0〜1、カルシウム(Ca)は0〜1、カリウム(K)は0〜0.5、スズ(Sn)は0〜2、ナトリウム(Na)は0〜0.5、ホウ素(B)は0〜1、5、チタン(Ti)は0〜2、鉛(Pb)は0〜1、ジルコニウム(Zr)は0〜2、イットリウム(Y)は0〜1.5の範囲の値をとることができる。また、上記において、X=0の場合は完全な金属であり、透明ではなく全く使用することができない。また、Xの範囲の上限は、完全に酸化した値である。本発明においては、一般的に、ケイ素(Si)およびアルミニウム(Al)以外は使用される例に乏しく、ケイ素(Si)は1.0〜2.0、アルミニウム(Al)は0.5〜1.5の範囲の値のものを好適に使用することができる。
【0040】
本発明において、上記無機酸化物の蒸着膜の膜厚としては、使用する金属、または、金属の酸化物の種類等によって異なるが、例えば、50〜2000Å、好適には100〜1000Åの範囲内で任意に選択して形成することができる。
【0041】
次に、本発明における酸素ガスによるプラズマ処理面は、物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜4の面、あるいは、物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜6の面に設けるものであって、物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜4と第1のガスバリア性塗布膜5との間の密接着性、あるいは、物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜6と第2のガスバリア性塗布膜7またはプライマー剤層との間の密接着性等を向上させて、これら層間を強固に密着させ、層間剥離(デラミネーション)等の発生を防止するためのものである。
【0042】
本発明において、かかる酸素ガスによるプラズマ処理面は、前述の不活性ガスによるプラズマ処理面と同様に、気体をアーク放電によって電離させることにより生ずるプラズマガスを利用して表面改質を行う、プラズマ表面処理法等を利用して形成することができる。この場合、プラズマガスとしては、酸素ガス、または、酸素ガスと、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスとの混合ガス等を使用することができる。
【0043】
また、本発明において、酸素ガスによるプラズマ処理面は、基材の一方の面に設けた不活性ガスによるプラズマ処理面に物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜を形成した直後、あるいは、第1のガスバリア性塗布膜の面に物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜を形成した直後に、これら物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜、あるいは、物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜の面に、インラインで酸素ガスによるプラズマ放電処理を行うことにより、形成することもできる。
【0044】
さらに、本発明において、上記プラズマ処理の際には、プラズマ出力、プラズマガスの種類、プラズマガスの供給量、処理時間等の条件を考慮してプラズマ放電処理を行うことが好ましい。さらにまた、本発明において、プラズマを発生させる方法としては、例えば、直流グロー放電、高周波放電、マイクロ波放電等の装置を用いることができる。
【0045】
次に、本発明に係る第1または第2のガスバリア性塗布膜について説明する。かかる第1または第2のガスバリア性塗布膜は、前述したように、一般式RM(OR(但し、式中、RおよびRは炭素数1〜8の有機基を表し、Mは金属原子を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表し、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、さらに、ゾルゲル法触媒、酸、水および有機溶剤の存在下に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物を用いて形成される。したがって、かかる第1または第2のガスバリア性塗布膜は、上記ガスバリア性組成物を調製した後、これを、上記物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜上、あるいは、上記物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜上に、酸素ガスによるプラズマ処理面を介して塗工して塗工膜を設け、その後、20℃〜180℃の範囲で、かつ、上記基材の融点以下の温度で10秒〜10分間加熱処理することにより、形成することができる。
【0046】
なお、本発明において、上記第1または第2のガスバリア性塗布膜は、上記ガスバリア性組成物を、上記物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜上、あるいは、上記物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜上に、酸素ガスによるプラズマ処理面を介して塗工して塗工膜を2層以上重層した後に、上記と同様の加熱処理を施して、2層以上重層した複合ポリマー層として形成してもよい。
【0047】
ここで、上記一般式RM(ORで表されるアルコキシドとしては、アルコキシドの部分加水分解物およびアルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種以上を使用することができる。また、上記アルコキシドの部分加水分解物としては、アルコキシ基のすべてが加水分解されている必要はなく、1個以上が加水分解されているもの、および、それらの混合物であってもよく、さらに、加水分解縮合物としては、部分加水分解アルコキシドの2量体以上のもの、具体的には、2〜6量体のものを使用することができる。
【0048】
また、上記一般式RM(ORで表されるアルコキシドにおいて、Mで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム等を挙げることができ、中でも、好ましい金属としては、例えば、ケイ素を挙げることができる。さらに、本発明においては、単独または2種以上の異なる金属原子のアルコキシドを同一溶液中で混合して用いることもできる。さらにまた、上記一般式RM(ORで表されるアルコキシドにおいて、Rで表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等のアルキル基を挙げることができる。さらにまた、上記一般式RM(ORで表されるアルコキシドにおいて、Rで表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等を挙げることができる。なお、本発明において、同一分子中に含まれるこれらのアルキル基は、同一であっても、異なっていもよい。
【0049】
上記より、本発明において、上記一般式RM(ORで表されるアルコキシドとしては、例えば、MがSiであるアルコキシシランを使用することが好ましい。かかるアルコキシシランは、一般式Si(ORa)(但し、式中、Raは低級アルキル基を表す)で表される。ここで、Raとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等が用いられる。上記アルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシランSi(OCH、テトラエトキシシランSi(OC、テトラプロポキシシランSi(OC、テトラブトキシシランSi(OC等を使用することができる。
【0050】
また、本発明において、上記一般式RM(ORで表されるアルコキシドとしては、一般式RbSi(ORc)4−m(但し、式中、nは0以上の整数を表し、mは1〜3の整数を表し、RbおよびRcはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基を表す)で表されるアルキルアルコキシシランを使用することもできる。かかるアルキルアルコキシシランの具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシランCHSi(OCH、メチルトリエトキシシランCHSi(OC、ジメチルジメトキシシラン(CHSi(OCH、ジメチルジエトキシシラン(CHSi(OC等を使用することができる。なお、上記のアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン等は、単独、または2種以上を混合して用いることができる。さらに、本発明においては上記アルコキシシランの縮重合物も使用することができ、具体的には、例えば、ポリテトラメトキシシラン、ポリテトラエトキシシラン等を挙げることができる。
【0051】
さらに、本発明において、上記一般式RM(ORで表されるアルコキシドとしては、MがZrであるジルコニウムアルコキシドを使用することもできる。かかるジルコニウムアルコキシドの具体例としては、例えば、テトラメトキシジルコニウムZr(OCH、テトラエトキシジルコニウムZr(OC、テトラiプロポキシジルコニウムZr(iso−OC、テトラnブトキシジルコニウムZr(OC等を挙げることができる。
【0052】
さらにまた、本発明において、上記一般式RM(ORで表されるアルコキシドとしては、MがTiであるチタニウムアルコキシドを使用することもできる。かかるチタニウムアルコキシドの具体例としては、例えば、テトラメトキシチタニウムTi(OCH、テトラエトキシチタニウムTi(OC、テトライソプロポキシチタニウムTi(iso−OC、テトラnブトキシチタニウムTi(OCH9)等を挙げることができる。
【0053】
さらにまた、本発明において、上記一般式RM(ORで表されるアルコキシドとしては、MがAlであるアルミニウムアルコキシドを使用することもできる。かかるアルミニウムアルコキシドの具体例としては、例えば、テトラメトキシアルミニウムAl(OCH、テトラエトキシアルミニウムAl(OC、テトライソプロポキシアルミニウムAl(iso−OC、テトラnブトキシアルミニウムAl(OC等を挙げることができる。
【0054】
なお、本発明において、上記アルコキシドは、2種以上を混合して用いてもよい。特には、アルコキシシランとジルコニウムアルコキシドとを混合して用いることによって、得られる蒸着フィルムの靭性や耐熱性等を向上させることができる。この場合のジルコニウムアルコキシドの使用量は、アルコキシシラン100質量部に対して10質量部以下の範囲とすることができ、好ましくは5質量部程度とする。ジルコニウムアルコキシドの使用量が10質量部を超えると、形成されるガスバリア性塗布膜がゲル化し易くなり、また、その膜の脆性が高くなって、ガスバリア性塗布膜が剥離し易くなることから好ましくない。
【0055】
また、本発明においては、アルコキシシランとチタニウムアルコキシドを混合して用いることによって、得られるガスバリア性塗布膜の熱伝導率が低くなり、蒸着フィルムの耐熱性が著しく向上するという利点が得られる。この場合のチタニウムアルコキシドの使用量は、上記のアルコキシシラン100質量部に対して5質量部以下の範囲とすることができ、好ましくは3質量部程度とする。チタニウムアルコキシドの使用量が5質量部を超えると、形成されるガスバリア性塗布膜の脆性が大きくなって、ガスバリア性塗布膜が剥離し易くなることから好ましくない。
【0056】
次に、第1または第2のガスバリア性塗布膜を形成するポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体としては、ポリビニルアルコール系樹脂、または、エチレン・ビニルアルコール共重合体を単独で各々使用することができ、また、ポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用することができる。本発明においては、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体を使用することにより、得られるガスバリア性塗布膜のガスバリア性、耐水性、耐候性等の物性を著しく向上させることができる。特には、ポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用することにより、上記ガスバリア性、耐水性および耐候性等の物性に加えて、耐熱水性および熱水処理後のガスバリア性等に著しく優れたガスバリア性塗布膜を形成することができる。
【0057】
なお、本発明においては、上記ポリビニルアルコール系樹脂を含有するガスバリア性組成物により形成される塗工層、エチレン・ビニルアルコール共重合体を含有するガスバリア性組成物により形成される塗工層、および、ポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有するガスバリア性組成物により形成される塗工層を、適宜、複数層にて重層して形成してもよい。
【0058】
本発明において、ポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用する場合、その配合割合としては、重量比で、ポリビニルアルコール系樹脂:エチレン・ビニルアルコール共重合体=10:0.05〜10:6の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、10:1程度の配合割合とする。
【0059】
また、本発明において、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体の含有量は、上記アルコキシドの合計量100質量部に対して5〜500質量部の範囲とすることができ、好ましくは20〜200質量部程度の配合割合とする。ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体の含有量が500質量部を超えると、ガスバリア性塗布膜の脆性が大きくなって、得られる蒸着フィルムの耐水性および耐候性等も低下することから好ましくなく、一方、5質量部を下回ると、ガスバリア性が低下することから好ましくない。
【0060】
本発明において、上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、一般に、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られるものを使用することができる。かかるポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸基が数十%残存している部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂でも、酢酸基が残存しない完全ケン化ポリビニルアルコール樹脂でも、あるいは、OH基が変性された変性ポリビニルアルコール系樹脂でもよく、特に限定されるものではない。かかるポリビニルアルコール系樹脂の具体例としては、(株)クラレ製のRSポリマーであるRS−110(ケン化度=99%、重合度=1,000)、同社製のクラレポバールLM−20SO(ケン化度=40%、重合度=2,000)、日本合成化学工業(株)製のゴーセノールNM−14(ケン化度=99%、重合度=1,400)等を使用することができる。
【0061】
また、本発明において、上記エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物、すなわち、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体をケン化して得られるものを使用することができる。具体的には、酢酸基が数十モル%残存している部分ケン化物から、酢酸基が数モル%しか残存していないかまたは酢酸基が残存しない完全ケン化物まで含み、特に限定されるものではないが、ガスバリア性の観点から好ましいケン化度は、80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。さらに、上記エチレン・ビニルアルコール共重合体中のエチレンに由来する繰り返し単位の含量(以下「エチレン含量」ともいう)は、通常0〜50モル%、特には20〜45モル%であるものを使用することが好ましい。かかるエチレン・ビニルアルコール共重合体の具体例としては、(株)クラレ製のエバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)、日本合成化学工業(株)製のソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)等を使用することができる。
【0062】
本発明に係る上記ガスバリア性組成物を調製するに際しては、例えば、シランカップリング剤等を添加することもできる。かかるシランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランを用いることができ、特には、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適である。具体的には例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、あるいは、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を使用することができる。上記シランカップリング剤は、1種ないし2種以上を混合して用いてもよい。本発明において、上記シランカップリング剤の使用量は、上記アルコキシシラン100質量部に対して1〜20質量部位の範囲内とすることができる。シランカップリング剤の使用量が20質量部を超えると、形成されるガスバリア性塗布膜の剛性および脆性が大きくなり、また、ガスバリア性塗布膜の絶縁性および加工性が低下する傾向にあることから好ましくない。
【0063】
上記ガスバリア性組成物に用いられるゾルゲル法触媒、主として、重縮合触媒としては、水に実質的に不溶であり、かつ、有機溶媒に可溶な第三アミンが用いられる。具体的には例えば、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等を使用することができ、特には、N,N−ジメチルべンジルアミンが好適である。その使用量としては、アルコキシドおよびシランカップリング剤の合計量100質量部あたり、0.01〜1.0質量部、特には、0.03質量部程度で使用することが好ましい。また、上記のガスバリア性組成物に用いられる酸としては、上記ゾルゲル法の触媒、主として、アルコキシドやシランカップリング剤などの加水分解のための触媒として用いられる。かかる酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸や、酢酸、酒石酸などの有機酸等を使用することができる。かかる酸の使用量は、アルコキシドおよびシランカップリング剤のアルコキシド分(例えば、シリケート部分)の総モル量に対し、0.001〜0.05モル、特には、0.01モル程度とすることが好ましい。
【0064】
また、上記ガスバリア性組成物においては、上記アルコキシドの合計モル量1モルに対して、0.1〜100モル、好ましくは0.8〜2モルの範囲の水を用いることができる。この水の量が、2モルを超えると、上記アルコキシシランと金属アルコキシドとから得られるポリマーが球状粒子となり、さらに、この球状粒子同士が3次元的に架橋して、密度の低い多孔性のポリマーとなる。このような多孔性のポリマーは、蒸着フィルムのガスバリア性を改善することができなくなることから好ましくない。一方、上記の水の量が0.8モルを下回ると、加水分解反応が進行しにくくなることから好ましくない。
【0065】
さらに、上記ガスバリア性組成物に用いられる有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等を用いることができる。ここで、上記ガスバリア性組成物において、ポリビニルアルコ−ル系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体は、上記のアルコキシドやシランカップリング剤などを含む塗工液中で溶解した状態であることが好ましく、そのため上記有機溶媒の種類が適宜選択される。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用する場合には、n−ブタノールを使用することが好ましい。なお、本発明において、溶媒中に可溶化されたエチレン・ビニルアルコール共重合体は、例えば、ソアノール(商品名)として市販されているものを使用することができる。上記有機溶媒の使用量は、通常、上記のアルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコ−ル系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体、酸およびゾルゲル法触媒の合計量100質量部あたり、30〜500質量部である。
【0066】
本発明に係る上記ガスバリア性塗布膜は、具体的には例えば、以下のようにして形成される。すなわち、まず、上記アルコキシシラン等のアルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体、ゾルゲル法触媒、酸、水、有機溶媒、および、必要に応じて、金属アルコキシド等を混合して、ガスバリア性組成物(塗工液)を調製する。ここで、このガスバリア性組成物(塗工液)中では、次第に重縮合反応が進行する。次に、基材の一方の面に形成した無機酸化物の蒸着膜等の上に、常法に従い、上記ガスバリア性組成物(塗工液)を通常の方法で塗布し、乾燥する。これにより、上記アルコキシシラン等のアルコキシド、金属アルコキシド、シランカップリング剤およびポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体等の重縮合が進行して、塗工膜が形成される。好ましくは、さらに上記の塗布操作を繰り返して、2層以上からなる複数の塗工膜を積層する。最後に、上記の塗工液を塗布した基材を20℃〜180℃程度で、かつ、基材の融点以下である温度、好ましくは、50℃〜160℃の範囲の温度で、10秒〜10分間にて加熱処理して、基材の一方の面に形成した無機酸化物の蒸着膜等の上に、上記ガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を1層ないし2層以上にて形成することができる。このようにして形成されたガスバリア性塗布膜を有する本発明の蒸着フィルムは、ガスバリア性に極めて優れているものである。
【0067】
本発明に係る上記ガスバリア性塗布膜の形成方法について、アルコキシドとして、アルコキシシランをする場合を例にとってその作用を説明すると、まず、アルコキシシランおよび金属アルコキシドは、添加された水によって、加水分解される。その際、酸が加水分解の触媒となる。次いで、ゾルゲル法触媒の働きによって、生じた水酸基からプロトンが奪取され、加水分解生成物同士が脱水重縮合する。このとき、酸触媒により同時にシランカップリング剤も加水分解されて、アルコキシ基が水酸基となる。また、塩基触媒の働きにより、エポキシ基の開環も起こり、水酸基が生じる。さらに、加水分解されたシランカップリング剤と加水分解されたアルコキシドとの重縮合反応も進行する。さらにまた、反応系にはポリビニルアルコール系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体、または、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体が存在するため、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体が有する水酸基との反応も生ずる。生成する重縮合物は、例えば、Si−O−Si、Si−O−Zr、Si−O−Ti等の結合からなる無機質部分と、シランカップリング剤に起因する有機部分とを含有する複合ポリマーを構成する。上記の反応においては、例えば、下記の式(III)に示される部分構造式を有し、かつ、シランカップリング剤に起因する部分を有する直鎖状のポリマーがまず生成する。このポリマーは、OR基(エトキシ基などのアルコキシ基)を、直鎖状のポリマーから分岐した形で有する。このOR基は、存在する酸が触媒となって加水分解されてOH基となり、ゾルゲル法触媒(塩基触媒)の働きにより、まず、OH基が脱プロトン化し、次いで、重縮合が進行する。すなわち、このOH基が、下記の式(I)に示されるポリビニルアルコール系樹脂、または、下記の式(II)に示されるエチレン・ビニルアルコール共重合体と重縮合反応して、Si−O−Si結合を有する、例えば、下記の式(IV)に示される複合ポリマー、あるいは、下記の式(V)および(VI)に示される共重合した複合ポリマーが生ずると考えられる。
【0068】


【0069】
上記の反応は常温で進行し、ガスバリア性組成物(塗工液)は、調製中に粘度が増大する。このガスバリア性組成物(塗工液)を、基材の一方の面に設けた無機酸化物の蒸着膜等の上に塗布し、加熱して溶媒および重縮合反応により生成したアルコールを除去すると、重縮合反応が完結し、透明な塗工層が形成される。この塗工層を複数層積層する場合には、層間の塗工層中の複合ポリマー同士も縮合し、層と層との間が強固に結合する。また、シランカップリング剤中の有機反応性基や加水分解によって生じた水酸基が、上記無機酸化物の蒸着膜等の表面の水酸基等と結合するため、この無機酸化物の蒸着膜等の表面と塗工層との密着性および接着性等も良好なものとなる。
【0070】
本発明の方法においては、添加される水の量が、アルコキシド類1モルに対して0.8〜2モル、好ましくは、1.5モルに調節されているため、上記の直鎖状のポリマーが形成される。このような直鎖状ポリマーは、結晶性を有し、非晶質部分の中に多数の微小の結晶が埋包された構造をとる。このような結晶構造は、結晶性有機ポリマー(例えば、塩化ビニリデンやポリビニルアルコール)と同様であり、さらに極性基(OH基)が部分的に分子内に存在し、分子の凝集エネルギーが高く、分子鎖剛性も高いため、良好なガスバリア性を示す。
【0071】
本発明においては、上記無機酸化物の蒸着膜等と第1または第2のガスバリア性塗布膜とが、例えば、加水分解・共縮合反応による化学結合、水素結合、あるいは、配位結合などを形成し、これらの間の密着性が向上して、これら2層の相乗効果により、より良好なガスバリア性の効果を発揮し得るものである。
【0072】
上記ガスバリア性組成物を塗布する方法としては、例えば、グラビアロールコーターなどのロールコート、スプレーコート、スピンコート、ディッピング、刷毛、バーコード、アプリケータ等の塗布手段が挙げられ、1回または複数回の塗布で、乾燥膜厚が0.01〜30μm、好ましくは0.1〜10μmの塗工膜を形成することができる。また、通常の環境下、50〜300℃、好ましくは70〜200℃の温度で、0.005〜60分間、好ましくは、0.01〜10分間、加熱・乾操することにより、縮合が行われ、上記第1または第2のガスバリア性塗布膜を形成することができる。さらに、本発明のガスバリア性組成物を塗布する際には、所望に応じ、無機酸化物の蒸着膜の上にあらかじめ、プライマー剤等を塗布することもでき、コロナ放電処理あるいはプラズマ処理等の前処理も任意に施すことができる。
【0073】
次に、本発明に係る化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜について説明する。かかる化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜は、前述の第1のガスバリア性塗布膜の面(第1のガスバリア性塗布膜の面に不活性ガスによるプラズマ処理面を設ける場合には、そのプラズマ処理面上)に設けるものであり、例えば、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を用いて形成することができ、1層からなる単層膜のみならず2層以上からなる多層膜等から構成することもできる。
【0074】
具体的には、上記第1のガスバリア性塗布膜の面等に、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとしてアルゴンガスやヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、さらに、酸素供給ガスとして酸素ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成する。上記低温プラズマ発生装置としては、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができ、特に、高活性の安定したプラズマを得るためには、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが好ましい。
【0075】
以下に、上記低温プラズマ化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜の形成方法について、その具体例を挙げて説明する。図4は、低温プラズマ化学気相成長装置の一例を示す概略的構成図である。図示するプラズマ化学気相成長装置51は、基材を供給する供給室52、前処理室53、製膜室54、後処理室55、および、製膜後の基材を巻き取る巻取り室56等から構成される。本発明においては、まず、巻き出しロール57に巻き取られた、第1のガスバリア性塗布膜等を設けた基材を、ガイドロール58等を介して前処理室53に導く。その後、この前処理室53において、必要に応じ、例えば、マグネット59等を使用して、プラズマを発生させるとともに、ガス供給室60からガス供給パイプ61を通してプラズマガスを供給しながらプラズマ放電処理等を施して、上記第1のガスバリア性塗布膜の面にプラズマ処理面を形成する等の前処理を行う。
【0076】
次いで、基材を、補助ロール62,63等を介して製膜室54に導き、所定の速度で冷却・電極ドラム64周面上に搬送する。その後、原料揮発供給装置65およびガス供給装置66等から有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガス、酸素ガス、不活性ガス等を供給し、それらからなる蒸着用混合ガス組成物を調製しながら、原料供給ノズル67を通して、真空に保たれている製膜室54内にこの蒸着用混合ガス組成物を導入し、上記冷却・電極ドラム64周面上に搬送された基材の第1のガスバリア性塗布膜等の上に、グロー放電プラズマ68によってプラズマを発生させ、これを照射して、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を製膜する。この際、冷却・電極ドラム64には、製膜室54の外に配置されている電源(図示せず)から所定の電力が印加されており、また、冷却・電極ドラム64の近傍には、マグネット69等が配置されてプラズマの発生が促進されている。
【0077】
次いで、上記で酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成した基材は、ガイドロール70,71等を介して、後処理室55に導かれる。その後、この後処理室55において、前述と同様に、必要に応じ、例えば、マグネット72等を使用して、プラズマを発生させるとともに、ガス供給室73から供給パイプ74を通してプラズマガスを供給しながらプラズマ放電処理等を施して、上記の無機酸化物の蒸着膜の面に、プラズマ処理面を形成する等の後処理を行う。次いで、上記で酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成し、更に、必要に応じてその形成面に後処理を施した基材を、ガイドロール75等を介して巻取り室56に導き、その後、巻取り室56において基材を巻き取りロール76に巻き取ることで、プラズマ化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。なお、図示はしないが、プラズマ化学気相成長装置51には、真空ポンプ等が装着され、これにより製膜室内の真空度が保持される。
【0078】
この際、原料揮発供給装置においては、原料である有機珪素化合物を揮発させ、ガス供給装置から供給される酸素ガスや不活性ガス等と混合させて、この混合ガスを、原料供給ノズルを介して真空チャンバー内に導入する。この場合、混合ガス中の、有機珪素化合物の含有量は1〜40体積%、酸素ガスの含有量は10〜70体積%、不活性ガスの含有量は10〜60体積%の範囲とすることができ、例えば、有機珪素化合物と酸素ガスと不活性ガスとの混合比を、1:6:5〜1:17:14程度とすることができる。
【0079】
一方、冷却・電極ドラムには、電源から所定の電圧が印加されているため、真空チャンバー内の原料供給ノズルの開口部と冷却・電極ドラムとの近傍でグロー放電プラズマが生成される。このグロー放電プラズマは、混合ガス中の1つ以上のガス成分から導出されるものであり、この状態において、基材を一定速度で搬送することで、グロー放電プラズマによって、冷却・電極ドラム周面上の基材の上に、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。なお、このときの真空チャンバ−内の真空度は、1×10−1〜1×10−4Torr、特には、1×10−1〜1×10−2Torrに調整することが好ましい。また、基材の搬送速度は、10〜300m/分、特には50〜150m/分に調整することが好ましい。
【0080】
また、上記プラズマ化学気相成長装置において、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜は、基材上に、プラズマ化した原料ガスを酸素ガスで酸化しながらSiOの形で薄膜状に形成されるので、当該形成される酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜は、緻密で隙間の少ない、可撓性、柔軟性に富む連続層となり、基材上の第1のガスバリア性塗布膜等との密着性に優れたものとなる。また、本発明においては、SiOプラズマにより基材の表面が清浄化され、基材の表面に、極性基やフリーラジカル等が発生するので、形成される酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜と基材上の第1のガスバリア性塗布膜等との密接着性がより高いものとなるという利点を有する。さらに、上記のように、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜の形成時の真空度は、1×10−1〜1×10−4Torr、好ましくは1×10−1〜1×10−2Torrに調整され、従来の真空蒸着法により酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成する際の真空度である1×10−4〜1×10−5Torrと比較して低真空度であることから、基材の原反交換時の真空状態設定時間を短くすることができ、真空度を安定化しやすく、製膜プロセスが安定するものである。
【0081】
本発明において、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスを使用して形成される酸化珪素の蒸着膜は、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスと酸素ガス等とが化学反応して、その反応生成物が、基材上の第1のガスバリア性塗布膜の面に密接着して薄膜を形成するものであり、通常、一般式SiO(但し、Xは0〜2の数を表す)で表される酸化珪素を主体とする連続状の薄膜である。かかる酸化珪素の蒸着膜としては、透明性や密着性等の点から、一般式SiO(但し、Xは、1.3〜1.9の数を表す)で表される酸化珪素の蒸着膜を主体とする薄膜であることが好ましい。なお、上記において、Xの値は、蒸着モノマーガスと酸素ガスとのモル比や、プラズマのエネルギー等により変化するが、一般的に、Xの値が小さくなればガス透過度は小さくなるものの、膜自体が黄色性を帯びて、透明性が悪くなる。
【0082】
上記酸化珪素の蒸着膜は、酸化珪素を主体とし、さらに、炭素、水素、珪素および酸素からなる群から選択される1種または2種以上の元素からなる化合物の少なくとも1種以上を化学結合等により含有する。例えば、C−H結合を有する化合物、Si−H結合を有する化合物、Si−C結合を有する化合物、または、炭素単位がグラファイト状、ダイヤモンド状、フラーレン状等になっている場合、さらには、原料の有機珪素化合物やそれらの誘導体を化学結合等によって含有する場合が含まれる。具体的には例えば、CH部位を持つハイドロカーボン、SiHシリル、SiHシリレン等のハイドロシリカ、SiHOHシラノール等の水酸基誘導体等を挙げることができる。上記以外でも、蒸着過程の条件等を変化させることにより、酸化珪素の蒸着膜中に含有される化合物の種類や量等を変化させることができる。本発明において、酸化珪素の蒸着膜中における上記化合物の含有量としては、好適には0.1〜50質量%、より好適には5〜20質量%である。この含有量が0.1質量%未満であると、酸化珪素の蒸着膜の耐衝撃性、延展性、柔軟性、密着性等が不十分となって、曲げ等により擦り傷やクラック等が発生し易く、高い密着性を安定して維持することが困難になる。また、この含有量が50質量%を超えると、酸化珪素の蒸着膜に副次的に期待されるガスバリア性が低下するため、好ましくない。また、本発明においては、酸化珪素の蒸着膜において、上記化合物の含有量が、酸化珪素の蒸着膜の表面から深さ方向に向かって増加していることが好ましい。これにより、酸化珪素の蒸着膜の表面においては、上記の化合物等により耐衝撃性等を高めることができるとともに、他の基材との親和性等が増してその密着性が高められ、一方で、基材上の第1のガスバリア性塗布膜等との界面においては、上記化合物の含有量が多いために、基材上の第1のガスバリア性塗布膜と酸化珪素の蒸着膜との密接着性が強固なものとなる。
【0083】
本発明においては、上記酸化珪素の蒸着膜について、例えば、X線光電子分光装置(Xray Photoelectron Spectroscopy,XPS)、二次イオン質量分析装置(Secondary Ion Mass Spectroscopy,SIMS)等の表面分析装置を用いて、深さ方向にイオンエッチングする等して分析する方法を利用して元素分析を行うことより、上記のような物性を確認することができる。また、本発明において、上記酸化珪素の蒸着膜の膜厚は、30Å〜2000Åとすることが好ましく、より好ましくは50Å〜500Åとする。この膜厚が2000Å、特には、500Åより厚くなると、膜にクラック等が発生し易くなるので好ましくなく、一方、50Å、特には、30Å未満であると、その効果を奏することが困難になることから好ましくない。この酸化珪素の蒸着膜の膜厚は、例えば、(株)理学製の蛍光X線分析装置(機種名 RIX2000型)を用いて、ファンダメンタルパラメーター法で測定することができる。また、上記酸化珪素の蒸着膜の膜厚を変更する手段としては、蒸着膜の体積速度を大きくすること、すなわち、モノマーガスおよび酸素ガス量を多くする方法や、蒸着する速度を遅くする方法等が挙げられる。
【0084】
本発明において、上記酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成する有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスとしては、例えば、1.1.3.3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等を使用することができる。中でも、1.1.3.3−テトラメチルジシロキサンまたはヘキサメチルジシロキサンを原料として使用することが、その取り扱い性や、形成された連続膜の特性等の点から、特に好ましい。また、本発明において、不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスやヘリウムガス等を使用することができる。
【0085】
次に、本発明において、第2のガスバリア性塗布膜に代えて用いることができるプライマー剤層(図示せず)について説明する。かかるプライマー剤層は、第1のガスバリア性塗布膜の面(第1のガスバリア性塗布膜の面に不活性ガスによるプラズマ処理面を設ける場合には、そのプラズマ処理面の面)に物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜を設けた後、この無機酸化物の蒸着膜の面に、酸素ガスによるプラズマ処理面を介して設けるものである。かかるプライマー剤層は、ポリエステル系樹脂またはポリウレタン系樹脂をビヒクルの主成分とする組成物からなり、ポリエステル系樹脂またはポリウレタン系樹脂等1〜30質量%に対し、シランカップリング剤が0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%、充填剤が0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%の割合で添加され、さらに、必要に応じ、安定剤、硬化剤、架橋剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤が任意に添加されて、溶媒、希釈剤等を加えて充分に混合することにより調製されたポリエステル系またはポリウレタン系樹脂組成物を使用して形成される。具体的には例えば、かかるポリエステル系またはポリウレタン系樹脂組成物を、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、デップコート、スプレイコート等のコーティング法等により、上記無機酸化物の蒸着膜の面に、酸素ガスによるプラズマ処理面を介してコーティングし、その後、コーティング膜を乾燥させて、溶媒、希釈剤等を除去し、さらに、必要に応じてエージング処理等を行うことで、本発明に係るプライマー剤層を形成することができる。なお、本発明において、プライマー剤層の膜厚としては、例えば、0.1g/m〜1.0g/m(乾燥状態)が好ましい。
【0086】
本発明においては、上記のようなプライマー剤層を用いることで、上記無機酸化物の蒸着膜と吸湿層との密接着性等を向上させるとともに、プライマー剤層の伸長度を向上させて、例えば、ラミネート加工等の後加工適性を向上させ、かかる後加工時における無機酸化物の蒸着膜におけるクラック等の発生を防止することができる。
【0087】
上記ポリウレタン系樹脂としては、例えば、多官能イソシアネートとヒドロキシル基含有化合物との反応により得られるポリウレタン系樹脂を使用することができる。具体的には例えば、トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナート等の芳香族ポリイソシアナート、あるいは、ヘキサメチレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート等の脂肪族ポリイソシアナート等の多官能イソシアネートと、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール等のヒドロキシル基含有化合物との反応により得られる一液ないし二液硬化型のポリウレタン系樹脂を使用することができる。このようなポリウレタン系樹脂を使用することにより、無機酸化物の蒸着膜と吸湿層との密接着性等を向上させるとともにプライマー剤層の伸長度を向上させて、例えば、ラミネート加工等の後加工適性を向上させ、かかる後加工時における無機酸化物の蒸着膜におけるクラック等の発生を防止することができる。
【0088】
また、上記ポリエステル系樹脂としては、例えば、テレフタル酸等のベンゼン核を基本骨格とする芳香族飽和ジカルボン酸の一種またはそれ以上と、飽和二価アルコールの一種またはそれ以上との重縮合により生成する、熱可塑性のポリエステル系樹脂を使用することができる。上記ベンゼン核を基本骨格とする芳香族飽和ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフェニルエーテル−4,4−ジカルボン酸等を使用することができる。上記飽和二価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、2.2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ナフタレンジオール等の芳香族ジオール等を使用することができる。
【0089】
本発明において、上記ポリエステル系樹脂としては、具体的には例えば、テレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合により生成する熱可塑性ポリエチレンテレフタレート樹脂、テレフタル酸とテトラメチレングリコールとの重縮合により生成する熱可塑性ポリブチレンテレフタレート樹脂、テレフタル酸と1,4−シクロヘキサンジメタノールとの重縮合により生成する熱可塑性ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、テレフタル酸とイソフタル酸とエチレングリコールとの共重縮合により生成する熱可塑性ポリエチレンテレフタレート樹脂、テレフタル酸とエチレングリコールと1,4−シクロヘキサンジメタノールとの共重縮合により生成する熱可塑性ポリエチレンテレフタレート樹脂、テレフタル酸とイソフタル酸とエチレングリコールとプロピレングリコールとの共重縮合により生成する熱可塑性ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエステルポリオール樹脂等を使用することができる。
【0090】
なお、本発明においては、上記のようなベンゼン核を基本骨格とする飽和芳香族ジカルボン酸に、さらに、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸等の脂肪族飽和ジカルボン酸の一種ないしそれ以上を添加して共重縮合することもでき、その使用量としては、ベンゼン核を基本骨格とする芳香族飽和ジカルボン酸に対し、1〜10質量%とすることが好ましい。本発明においては、上記のようなポリエステル系樹脂を使用することにより、その密接着性等を向上させるとともにプライマー剤層の伸長度を向上させて、例えば、ラミネート加工等の後加工適性を向上させ、かかる後加工時における無機酸化物の蒸着膜におけるクラック等の発生を防止することができる。
【0091】
さらに、上記において、ポリウレタン系またはポリエステル系樹脂組成物を構成するシランカップリング剤としては、二元反応性を有する有機官能性シランモノマー類を使用することができ、例えば、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルシリコーンの水溶液等の1種ないしそれ以上を使用することができる。
【0092】
上記のようなシランカップリング剤においては、その分子の一端にある官能基、通常、クロロ、アルコキシ、または、アセトキシ基等が加水分解して、シラノール基(SiOH)を形成し、これが、無機酸化物の蒸着膜を構成する金属、あるいは、無機酸化物の蒸着膜の膜表面上の活性な基、例えば、水酸基等の官能基と、何らかの作用により、例えば、脱水縮合反応等の反応を起こして、無機酸化物の蒸着膜の膜表面上にシランカップリング剤が共有結合等により修飾され、さらに、シラノール基自体の無機酸化物の蒸着膜の膜表面に、吸着や水素結合等により強固な結合を形成する。一方で、シランカップリング剤の他端にあるビニル、メタクリロキシ、アミノ、エポキシ、あるいは、メルカプト等の有機官能基が、吸湿層または接着層等を構成する物質と反応して強固な結合を形成するので、これにより、本発明においては、ラミネート強度の高い強固な積層構造を形成することが可能となる。すなわち、本発明においては、シランカップリング剤が有する無機性と有機性とを利用して、無機酸化物の蒸着膜と、吸湿層との密接着性を向上させて、これによりラミネート強度等を高めるものである。
【0093】
次に、本発明において、上記ポリウレタン系またはポリエステル系樹脂組成物に用いる充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナホワイト、シリカ、タルク、ガラスフリット、樹脂粉末等を使用することができる。かかる充填剤は、ポリウレタン系またはポリエステル系樹脂組成物の粘度等を調整して、そのコーティング適性を向上させるとともに、バインダ樹脂としてのポリウレタン系またはポリエステル系樹脂とシランカップリング剤を介して結合し、コーティング膜の凝集力を向上させるものである。
【0094】
以上において説明したように、本発明に係る好適な蒸着フィルムは、基材の一方の面に、不活性ガスによるプラズマ処理面、物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜、酸素ガスによるプラズマ処理面、第1のガスバリア性塗布膜、必要に応じ不活性ガスによるプラズマ処理面、物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜、酸素ガスによるプラズマ処理面、および、第2のガスバリア性塗布膜を順次積層したもの、または、基材の一方の面に、不活性ガスによるプラズマ処理面、物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜、酸素ガスによるプラズマ処理面、第1のガスバリア性塗布膜、必要に応じ不活性ガスによるプラズマ処理面、物理気相成長法または化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜、酸素ガスによるプラズマ処理面、および、ポリエステル系樹脂またはポリウレタン系樹脂をビヒクルの主成分とする組成物からなるプライマー剤層を順次積層したものからなる。
【0095】
本発明において、蒸着フィルム1と吸湿層2との間には、必要に応じて、接着層やアンカーコート層、粘着層を配置してもよい。この場合、必要に応じて、互いに積層される表面に、例えば、コロナ処理、オゾン処理、フレーム処理等の前処理を任意に施すことができる。
【0096】
上記接着層を構成する接着剤としては、吸湿層2について挙げたのと同様のものを用いることができる。上記接着剤の組成系は、水性型、溶液型、エマルジョン型、分散型等のいずれの組成物形態でもよく、また、その性状は、フィルム・シート状、粉末状、固形状等のいずれの形態でもよく、さらに、接着機構については、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれの形態でもよい。
【0097】
上記接着層を形成するに際しては、蒸着フィルムの積層側の面に、上記接着剤を、例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法等のコート法、あるいは、印刷法等によって施し、次いで、溶剤等を乾燥させればよく、そのコーティングないし印刷量としては、0.1〜10g/m(乾燥状態)が好ましい。
【0098】
また、上記アンカーコート層を構成するアンカーコート剤としては、例えば、イソシアネ−ト系(ウレタン系)、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、有機チタン系等のアンカーコーティング剤を使用することができる。さらに、粘着層を形成する粘着剤としては、吸湿層2について挙げたのと同様のものを用いることができる。
【0099】
特には、上記アンカーコート剤および接着剤として、トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナート等の芳香族ポリイソシアナート、あるいは、ヘキサメチレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート等の脂肪族ポリイソシアナート等の多官能イソシアネートと、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリアクリレートポリオール等のヒドロキシル基含有化合物との反応により得られるポリエーテルポリウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン系樹脂、または、ポリアクリレートポリウレタン系樹脂を主成分とするものを使用することが好ましい。上記のようなアンカーコート剤または接着剤を使用して形成されるアンカーコート層または接着層は、柔らかく、柔軟性に富み、かつ、屈曲性に富む薄膜であり、引っ張り伸長度が高く、無機酸化物の蒸着膜に対し柔軟性、屈曲性等を有する被膜として作用し、ラミネート加工等の後加工時における無機酸化物の蒸着膜の後加工適性を向上させて、後加工時における無機酸化物の蒸着膜におけるクラックの発生等を防止する効果が得られるとともに、ラミネート強度を高めることができるものである。
【0100】
なお、本発明において、上記アンカーコート剤によるアンカーコート層および上記接着剤による接着層は、JIS K 7113規格に基づいて、100〜300%の範囲の引っ張り伸度を有する。この引っ張り伸度が100%未満であると、積層体としての柔軟性がなくなり、無機酸化物の蒸着膜へのクラック等が発生し易くなることから好ましくない。一方、この引っ張り伸度が300%を超えると、アンカーコート剤または接着剤としての接着性の強度が十分でなく、要求されるラミネート強度が発現されにくくなることから好ましくない。
【0101】
本発明においては、吸湿層2を、バインダ樹脂の溶液中に化学的水分吸着性物質が分散されてなる液状混合物をダイコーター、コンマコーターなど、塗布量に支障がない公知の塗布方法を用いて蒸着フィルム1上に塗工することにより形成する。具体的にはまず、溶媒を用いて液状化された吸湿層2のバインダ樹脂、もしくは、常態で液状のバインダ樹脂を準備する。次いで、この液状のバインダ樹脂中に化学的水分吸着性物質を添加し、攪拌することにより分散させて、液状混合物を調製する。本発明に用いる化学的水分吸着性物質のナノ粒子は、通常、凝集体の状態であるが、これにより、凝集がほぐれた化学的水分吸着性物質の分散体を形成することができる。次いで、一方の蒸着フィルム1の蒸着膜形成側の面に上記液状混合物をコーティングして、透明吸湿層を形成する。乾燥後、もう一方の蒸着フィルムと貼合せることにより、本発明の防湿性積層体を得ることができる。
【0102】
本発明の防湿性積層体は、例えば、食品や非食品および医薬品包装、電子機器関連部材などに用いられる包装用のシートまたはフィルム等として広範囲に用いることが可能であり、高い防湿性を有することから、中でも特に、有機EL素子を初めとする有機デバイスや電子ペーパー等のフレキシブル化が可能な電子部材および医療包装の分野などの、高い水蒸気バリア性が要求される分野において好適に使用することができる。また、本発明の防湿性積層体は透明性が高いため、透明性が特に要求されるEL素子のガラス基板代替材料などにおいて特に有用である。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1>
<蒸着フィルム1の作製>
基材としての、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、真空蒸着法によりシリカを蒸着し、2枚の蒸着フィルム1を作製した。
【0104】
<吸湿層2の作製>
バインダ樹脂としての環状ポリオレフィン(COP)(日本ゼオン(株)製,ゼオノア1020R)20質量部を、メチルシクロヘキサン80重量部に添加して攪拌し、完全に溶解させた。この液状混合物と、酸化マグネシウム(神島化学工業(株)製,スターマグU(1次粒子径10nm))とを、バインダ樹脂(環状ポリオレフィン):吸湿剤(酸化マグネシウム)=50:50(質量部)になる比率で混合し、ビーズミルを用いて攪拌して、液状混合物を調製した。
【0105】
一方の蒸着フィルム1上に、イソシアネート系接着剤を塗布し(固形分4g/m)、熱風乾燥後、この接着剤塗布面上にダイコーターを用いて上記液状混合物を塗布、乾燥して、透明樹脂層よりなる吸湿層(固形分30g/m)を形成した。さらに、もう一方の蒸着フィルム1にも上記と同様にイソシアネート系接着剤を塗布して、上記吸湿層/接着層/蒸着フィルムの積層体の吸湿層形成側にドライラミネーション法を用いて貼合せて、防湿性積層体を作製した。
【0106】
<比較例1>
吸湿剤として、1次粒子径が3μmの酸化マグネシウムを利用したこと以外は実施例1と同様にして、防湿性積層体を作製した。
【0107】
<評価方法>
上記実施例および比較例において作製した防湿性積層体について、温度40%湿度90%RHの条件で、米国のモコン(MOCON)社製の測定機(機種名 パーマトラン(PERMATRAN))を用いて、水蒸気透過度(水蒸気バリア性)を測定した。その測定結果を、下記の表中に示す。
【0108】
また、上記実施例および比較例において作製した防湿性積層体について、ZIS K7127に準拠して、ヘイズメーター(スガ試験機(株)製)を用いてヘイズを測定した。その測定結果を、下記の表中に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
上記表中に示すように、実施例1の防湿性積層体では、良好な水蒸気バリア性に加え、内容物視認可能なレベルの透明性が得られた。これに対し、比較例の防湿性積層体では、フィルムの外観が不透明であった。
【符号の説明】
【0111】
1 蒸着フィルム
2 吸湿層
3 基材
4 無機酸化物の蒸着膜
5 第1のガスバリア性塗布膜
6 無機酸化物の蒸着膜
7 第2のガスバリア性塗布膜
10 防湿性積層体
31 巻き取り式真空蒸着装置
32 真空チャンバー
33 巻き出しロール
34 ガイドロール
35 コーティングドラム
36 るつぼ
37 電子銃
38 電子線
39 蒸着源
40 酸素ガスボンベ
41 酸素ガス吹出口
42 マスク
43 ガイドロール
44 巻き取りロール
45 マグネトロンスパッタリング装置
51 プラズマ化学気相成長装置
52 供給室
53 前処理室
54 製膜室
55 後処理室
56 巻取り室
57 巻き出しロール
58 ガイドロール
59 マグネット
60 ガス供給室
61 ガス供給パイプ
62,63 補助ロール
64 冷却・電極ドラム
65 原料揮発供給装置
66 ガス供給装置
67 原料供給ノズル
68 グロー放電プラズマ
69 マグネット
70,71 ガイドロール
72 マグネット
73 ガス供給室
74 供給パイプ
75 ガイドロール
76 巻き取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層の蒸着フィルムを有し、該蒸着フィルムの層間に少なくとも1層の吸湿層が挟持されてなる防湿性積層体であって、
前記蒸着フィルムが、基材上に少なくとも金属酸化物の蒸着膜を有する透明フィルムよりなり、かつ、前記吸湿層が、バインダ樹脂の溶液中に、1次粒子径が100nm以下である化学的水分吸着性物質が分散された液状混合物を用いて、前記蒸着フィルム上に塗工形成された透明樹脂層よりなることを特徴とする防湿性積層体。
【請求項2】
前記化学的水分吸着性物質が、無機酸化物粒子からなる請求項1記載の防湿性積層体。
【請求項3】
前記吸湿層のバインダ樹脂の、含水率が1%以下である請求項1または2記載の防湿性積層体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−194652(P2011−194652A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62233(P2010−62233)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】