説明

防湿紙

【課題】離解性、防湿性、リサイクル性に優れ、安価で生産性に優れた防湿紙を提供する。
【解決手段】上記課題は、メルトフローレート(MFR)が、0.1g/10分以上100g/10分未満であり、酢酸ビニル含有量が1〜15重量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(A)10〜90重量%、粘着性樹脂(B)5〜70重量%、および、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスから選ばれたワックス(C)5〜50重量%〔ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%〕を必須成分として配合してなる熱可塑性樹脂組成物を紙に塗工してなるリサイクル可能な防湿紙により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離解性と防湿性に優れたリサイクル可能な防湿紙に関する。
【背景技術】
【0002】
新聞用原紙やコピー用紙の包装紙などに用いられる防湿紙は、一般に、紙へポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマーを塗工したものが広く用いられている。 このオレフィン系ポリマーを塗工した防湿紙は、防湿性と加工性に優れ、低コストであるという長所を有している。しかし、これをリサイクル原料として再使用しようとすると、防湿層の被膜強度が強すぎるために、パルプ化する工程において離解機で十分に離解せず、紙から脱離したオレフィン系樹脂層がフィルムとして残り、再生紙の表面の滲みや凹凸となるため、古紙のリサイクルを不可能にしている。
【0003】
近年、リサイクル可能な防湿紙として、合成ゴムラテックスおよびワックスエマルジョン、または、合成ゴムラテックス、ワックスエマルジョン、および樹脂エマルジョンからなる、エマルジョンを塗工した防湿紙が提案されている。これらの防湿紙は、防湿性に優れ、リサイクル性も有しているが、塗工液がエマルジョンであるために長大な乾燥設備が必要となり生産性が悪い欠点がある。
【0004】
また近年、アモルファスポリアルファオレフィン(以下APAOと略す)と粘着付与樹脂とワックスを主成分としてなる防湿性熱可塑性樹脂組成物を塗工した防湿紙も提案されている(特開平9−316252号公報および特開平11−158330号公報)。この防湿紙は防湿性と離解性に優れ、しかも安価なAPAOを主成分とするため、低コストで生産できる利点がある。しかし、主成分として用いているAPAOが非結晶性で柔らかいため、防湿紙にタックが出易く、タックを抑えると折り曲げたときに防湿層が割れ易く、各種物性のバランスが取りにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−316252号公報
【特許文献2】特開平11−158330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題を背景になされたもので、離解性、防湿性、リサイクル性に優れ、安価で生産性に優れた防湿紙を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、メルトフローレート(MFR)が、0.1g/10分以上100g/10分未満であり、酢酸ビニル含有量が1〜15重量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(A)10〜90重量%、粘着性樹脂(B)5〜70重量%、および、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスから選ばれたワックス(C)5〜50重量%〔ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%〕を必須成分として配合してなる熱可塑性樹脂組成物を紙に塗工してなるリサイクル可能な防湿紙を用いることにより、上記課題を解決できることを見いだした。上記ワックス(C)の融点が、100〜170℃である防湿紙が好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防湿紙は、従来のオレフィン系樹脂組成物を塗工した防湿紙より優れた防湿性を有し、また、近年提案されているエマルジョン塗工タイプやホットメルトコーティグタイプのリサイクル性防湿紙と同等の優れた離解性を有する。さらに、安価なEVAをベースポリマーとして使用するため、リサイクル可能な防湿紙を安価に供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の防湿紙に用いられる熱可塑性樹脂組成物には、低MFRで低酢酸ビニル含有量のエチレン−酢酸ビニル共重合体(以下「EVA」と略称)()が、ベースポリマーとして用いられる。これらのポリマーは、従来の防湿紙に使用されているオレフィン系ポリマーに比べて機械強度が弱い。このため、このポリマーをベースポリマーとして含む熱可塑性樹脂組成物のフィルム強度を低く抑えることができ、リサイクル時のパルプ化する工程で、離解機による離解を可能にしている。また、このポリマーは適度な硬さと柔軟性を有するため、防湿紙用の熱可塑性樹脂組成物に要求される各種物性のバランスが取り易い。
【0010】
ここで、MFRについて詳述する。MFRは、一般に樹脂の流動性を表す時によく用いられるものである。MFRを求める方法は、径2.1mm、長さ8mmのオリフィスのあるシリンダ中に材料を入れ、190℃で2,160gの荷重をかけて溶融材料を押し出し、3分間に流出した材料の重量を測り、これを10分間当たりのグラム数に換算して、MFRの値とするものである。すなわち、MFRの大きいものほど流動性がよいことを意味する(JIS K6760参照)。
【0011】
熱可塑性組成物について; 本発明の防湿紙の熱可塑性樹脂組成物に用いられるEVA()のMFRは0.1〜100g/10分であり、かつ、酢酸ビニル含有量は1〜15重量%である。ここで、MFRは、好ましくは1〜50g/10分である。 MFRが100g/10分を超えるEVAを用いると、リサイクルの乾燥工程でドライヤーにピッチが付き易くなる。一方、MFRが0.1g/10分未満であると溶融粘度が高くなり、作業性が悪くなる。
【0012】
上記EVA()のエチレン/酢酸ビニル配合割合は、酢酸ビニル含有量が0.1重量%未満であると、市場からの入手が困難であり、一方、酢酸ビニル含有量が15重量%を超えると、リサイクルの乾燥工程でドライヤーにピッチが付き易くなる。
【0013】
上記熱可塑性樹脂組成物中のEVA(A)の配合割合は、10〜90重量%である。 好ましくは15〜60重量%、特に好ましくは25〜50重量%である。配合割合が10重量%未満では、この熱可塑性樹脂組成物を塗工した防湿紙を折り曲げたときに防湿層が割れ易く、一方、90重量%を超えると離解性が悪くなる。
【0014】
上記熱可塑性樹脂組成物中の粘着付与樹脂()は、熱可塑性樹脂組成物の離解性を上げる効果があるものであればよく、例えば、テルペン系樹脂、脂肪族系樹脂、脂環族系樹脂、芳香族系樹脂、クマロン・インデン樹脂、ロジンおよびその誘導体などである。テルペン系樹脂としては、テルペン樹脂や芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、およびそれらの水素化物などが挙げられる。粘着付与樹脂()としては、上記のいずれを用いても良いが、中でもテルペン系樹脂および脂環族系樹脂が防湿性に優れており、好ましい。 上記粘着付与樹脂()は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。テルペン系樹脂とは、例えば、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテンなどのテルペン単量体、もしくはそれらと芳香族単量体などを、有機溶媒中でフリーデルクラフト型触媒存在下で重合、または重合後さらに水素添加処理して得られる(共)重合体である。具体的には、ヤスハラケミカル(株)製、商品名「YSレジンPX」、「YSレジンTO」、「クリアロン」、「YSポリスター」、「マイティエース」などが挙げられる。また、脂環族系樹脂としては、例えば、トーネックス(株)製、商品名「エスコレッツ1202」などが挙げられる。
【0015】
粘着付与樹脂()の好ましい軟化点は、70〜180℃、さらに好ましくは、100〜160℃である。軟化点が70℃未満であると、タックが出やすくなり、加工した防湿紙をリサイクルするとき、乾燥工程でドライヤーにピッチが付きやすくなる。一方、180℃を超えると、防湿紙を折り曲げたとき防湿層が割れやすくなる。
【0016】
上記熱可塑性樹脂組成物中の粘着付与樹脂()の配合割合は、5〜70重量%、好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは20〜50重量%である。組成物中の粘着付与樹脂の配合割合が5重量%未満であると離解性が悪くなり、一方、配合割合が70重量%を超えると、折り曲げたときに防湿層が割れ易くなる。
【0017】
本発明のワックス()としては、本発明の熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度を下げ、軟化点を上げる効果があるものが使用される。このようなワックス()としては、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスが好ましい。上記ワックス()は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。ワックス()の好ましい融点は、100〜170℃であり、さらに好ましくは110〜160℃である。融点が100℃未満のワックスを用いると、リサイクルの乾燥工程でドライヤーにピッチ
が付き易くなる。一方、170℃を超えると取り扱いが難しくなる。
【0018】
熱可塑性樹脂組成物中のワックス()の配合割合は、5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%である。ワックス()の配合割合が5重量%未満であると加工した防湿紙をリサイクルするとき、乾燥工程でドライヤーにピッチが付きやすくなる。一方、50重量%を超えると、防湿紙を折り曲げたとき防湿層が割れやすくなる。
【0019】
上記熱可塑性樹脂組成物の軟化点は、好ましくは100〜200℃、さらに好ましくは120〜180℃である。組成物の軟化点が100℃未満であると防湿性紙のリサイクルの乾燥工程でドライヤーにピッチが付き易くなる。一方、200℃を超えると、紙への塗工性が悪くなる。
【0020】
上記熱可塑性樹脂組成物は、上記特定の物性を有するEVA()、粘着性樹脂()およびワックス()を混合することにより得られるが、本発明の作用効果を阻害しない範囲内で、ピッチ付着防止のためにポリプロピレンなどのポリオレフィンやポリスチレン、AS樹脂(スチレン−アクリルニトリル共重合物)、熱可塑性エラストマーなどを加えてもよい。さらに、必要に応じて本発明の目的の範囲内で、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、タルク、クレー、カーボンブラックなどの充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、可塑剤またはオイルなどの添加剤を配合することができる。これら添加剤は特に限定されるものではなく、通常、熱可塑性樹脂組成物に用いられる従来より公知のものが使用される。
【0021】
上記熱可塑性樹脂組成物を調製するに際しては、各成分の混合の方法は特に限定されず、全成分を一括添加して混合してもよく、各成分を段階的に添加してもよい。
【0022】
防湿紙について; 上記熱可塑性樹脂組成物を塗工する紙の種類は、特に限定されない。紙の坪量は、特に限定されないが、好ましくは50〜200g/m2である。
【0023】
上記熱可塑性樹脂組成物を紙に塗工する方法には、例えば、樹脂組成物を加熱溶融(ホットメルト)して使用する、ロールコーターやスロットオリフィスコーター、ヘッドコーター、エクストルージョンコーターなどが利用できるが、これらに限定されず、いかなる方法を用いても良い。 塗工量は、特に限定されないが、好ましくは10〜50g/m2である。上記塗工量の調整は、例えば、マイヤーバーなど一般に使用される方法で行われる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。以下、部および%は特記しない限り重量基準である。また、物性評価は、下記の方法によって測定した。
【0025】
(1)メルトフローレート(MFR):本文中に記載した。
(2)引っ張り破壊強さ:JIS K6760に準拠して測定した。
(3)軟化点:JIS K6714に準拠して測定した。
(4)融点:通常の方法に従った。
(5)タック:指触試験にて、防湿紙サンプル表面のタックを評価した。
【0026】
(6)離解性 防湿紙サンプル10gを1.5cm×1.5cmに切断し、離解機に40℃の温水500mLとともに入れて、30分間撹拌した後に再抄紙し、目視にて、再生紙表面の樹脂の存在を確認し、防湿紙サンプル中の樹脂の離解性を評価した。評価基準は、下記のとおりである。 ◎;非常に良好、 ○;良好、 ×;不可(7)耐滲み温度 上記離解性テストと同様に、防湿紙サンプルを再抄紙した後に、再生紙を乾燥機内に100〜160℃の温度(10℃刻み)で10分間入れて乾燥し、樹脂残存物などによる滲みの有無を確認し、滲みの発生しない上限温度を耐滲み温度とした。(8)透湿度 カップ法(JIS Z0208準拠)で透湿度を測定した。透湿度は平板状と十字折りについて測定した。なお、十字折りは、サンプルを中央から十文字に折り、2kgのロールを2往復させて折り目を付けた後に測定した。透湿度の単位は、24時間後のg/m2である。
【0027】
参考例1 ()成分として、下記のものを調製した。(A−1);EVA、三井デュポン(株)製、商品名「P−1207」(MFR:12g/10分、酢酸ビニル含有量12%)(A−2);EVA、試作品(MFR:200g/10分、酢酸ビニル含有量10%)
【0028】
参考例2 ()成分として下記のものを調製した。(B−1);芳香族変性テルペン樹脂〔ヤスハラケミカル(株)製、商品名「YSレジンTO−125」、軟化点125℃〕(B−2);テルペン樹脂〔ヤスハラケミカル(株)製、商品名「クリアロンP−148」、軟化点148℃〕(B−3);脂環族系樹脂〔トーネックス(株)製、商品名「エスコレッツ1202」、軟化点100℃〕
【0029】
参考例3 ()成分として下記のものを調製した。(C−1);ポリエチレンワックス〔ヤスハラケミカル(株)製、商品名「ネオワックスL」、融点110℃〕(C−2);ポリプロピレンワックス〔三井化学(株)製、商品名「三井ハイワックスNP−055」、融点136/145℃(DSC法測定)〕(C−3);パラフィンワックス〔日本精蝋(株)製、商品名「パラフィン145°F」、融点64℃〕
【0030】
実施例 EVA(−1)35部、テルペン樹脂(−2)40部およびポリプロピレンワックス(−2)25部を、実験室にて手動で混合しながら、180℃で溶融混合し、メルテックス(株)製ヘッドコーターを用いて、100g/m2のクラフト紙に塗工量22g/m2 で塗工して防湿紙サンプルを得た。
【0031】
実施例EVA(−1)70部、テルペン樹脂(−2)20部およびポリプロピレンワックス(−2)10部を使用し、120g/m2のクラフト紙に塗工した以外は実施例1と同様に行い、防湿紙サンプルを得た。
【0032】
実施例 EVA(−1)20部、テルペン樹脂(−2)40部およびパラフィンワックス(−3)40部を使用した以外は実施例1と同様に行い、防湿紙サンプルを得た。
【0033】
比較例 EVA(−1)80部と芳香族変性テルペン樹脂(−1)20部を使用した以外は実施例1と同様に行い、防湿紙サンプルを得た。
【0034】
比較例 EVA(−2)90部と芳香族変性テルペン樹脂(−1)10部を使用した以外は実施例1と同様に行い、防湿紙サンプルを得た。
【0035】
比較例 EVA(A−)10部と芳香族変性テルペン樹脂(−1)20部と脂環族系樹脂(B−3)30部およびパラフィンワックス(−3)40部を使用した以外は実施例1と同様に行い、防湿紙サンプルを得た。
【0036】
比較例 APAO系熱可塑性樹脂組成物を75g/m2のクラフト紙に塗工量20g/m2で塗工してある他社品の防湿紙〔五洋紙工(株)製、商品名「ニュージーワイ」〕を、評価に用いた。上記実施例1〜3、比較例1〜4の防湿紙サンプルの評価結果を、表1、2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の防湿紙は、リサイクル可能な各種用途の防湿紙として安価に供給することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレート(MFR)が、0.1g/10分以上100g/10分未満であり、酢酸ビニル含有量が1〜15重量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(A)10〜90重量%、粘着性樹脂(B)5〜70重量%、および、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスから選ばれたワックス(C)5〜50重量%〔ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%〕を必須成分として配合してなる熱可塑性樹脂組成物を紙に塗工してなるリサイクル可能な防湿紙。
【請求項2】
上記ワックス(C)の融点が、100〜170℃である請求項1記載の防湿紙。


【公開番号】特開2010−144321(P2010−144321A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15511(P2010−15511)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【分割の表示】特願2000−3129(P2000−3129)の分割
【原出願日】平成12年1月12日(2000.1.12)
【出願人】(000117319)ヤスハラケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】