説明

防湿絶縁塗料

【課題】ディスペンサーにより容易に塗布可能である粘度範囲において、塗布・乾燥後に十分な防湿性能を発現する厚みが確保できる固形分濃度であり、かつ、ガラス基材への密着性および長期絶縁信頼性に優れた防湿絶縁塗料、および該防湿絶縁塗料によって絶縁処理された電子部品を提供すること。
【解決手段】前記防湿絶縁塗料は、(a)熱可塑性ポリマー、(b)シランカップリング剤および/または粘着付与剤、および(c)酢酸n−プロピルを必須成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業性、速乾燥性に優れた電子部品の防湿絶縁塗料、およびその防湿絶縁塗料によって防湿処理された電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器の製造工程においては、実装回路板や電極などの金属露出部を、湿気や塵埃あるいは腐食性ガスなどから保護する目的で、絶縁性皮膜によるコーティングが行われている。このコーティング塗料には紫外線硬化型、湿気硬化型、溶剤乾燥型などのタイプがあり、それぞれアクリル樹脂、シリコーン樹脂、スチレンブロック共重合体樹脂などが使用されている。
【0003】
湿気硬化型のコーティング塗料は、シリコーン樹脂自身の耐湿性には優れているものの、透湿性があるため、回路や電極の金属を保護するためにはコーティング塗料を厚く塗布しなければならない問題点がある。
【0004】
紫外線硬化型のコーティング塗料は、短時間での硬化が可能で生産性に優れているため広く使用されている。このような紫外線硬化型コーティング塗料としては、例えば、特許文献1に記載のポリオレフィンポリオールや特許文献2に記載のポリカーボネートポリオールから誘導されたウレタン変性アクリレート化合物などが知られている。
【0005】
電子機器の製造工程においては、防湿絶縁塗料によるコーティング処理を実施した後に何らかの不具合が確認されると、その不具合が発生した部品を除去して再度新たな部品を接合し直すというリペア工程がある。このリペア工程において部品を再接合する際には、不具合の発生する部位が不確定であるため、紫外線照射時の位置決めが困難であり、溶剤乾燥型のコーティング塗料が使用されることが多い。
【0006】
溶剤乾燥型のコーティング塗料としては、例えば、特許文献3や特許文献4に記載のスチレンブロック共重合体樹脂などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−308681号公報
【特許文献2】特開2007−332279号公報
【特許文献3】特開2003−145687号公報
【特許文献4】特開2005−162986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
溶剤乾燥型のコーティング塗料は硬化反応を伴わないため、塗布・乾燥のみで必要な物性が発現できなければならず、そのため樹脂の分子量は大きくならざるを得ない。しかし樹脂の分子量が大きくなるほどコーティング塗料の粘度が高くなり、作業性が低下する。あるいは作業性を確保するためにコーティング塗料を希釈すると、塗布・乾燥後のコーティング膜の厚みが薄くなり、防湿性に劣る懸念がある。
【0009】
また、工程の効率化のため溶剤乾燥型のコーティング塗料は塗布後10分程度で次工程に移ることが望ましく、速乾燥性が求められる。しかし乾燥が速すぎると厚みが均一にならない、またポッティングの際には必要な範囲まで濡れ広がらないなどの不具合が生じるため、適度な乾燥性が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、スチレンブロック共重合体樹脂を含有する溶剤乾燥型コーティング塗料において、酢酸n−プロピルを用いることによって、低粘度かつ十分な固形分濃度を有し、適度な速乾燥性を発現する優れた防湿絶縁皮膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明(I)は、下記成分(a)、成分(b)および成分(c)を必須成分とする防湿絶縁塗料に関する。
成分(a) 熱可塑性ポリマー
成分(b) シランカップリング剤および/または粘着付与剤
成分(c) 酢酸n−プロピル
本発明(II)は、本発明(I)に記載の防湿絶縁塗料を用いて絶縁処理されることを特徴とする電子部品である。
【0012】
さらに言えば、本発明は以下の[1]〜[10]に関する。
[1] 下記成分(a)、成分(b)および成分(c)を必須成分とする防湿絶縁塗料。
成分(a) 熱可塑性ポリマー
成分(b) シランカップリング剤および/または粘着付与剤
成分(c) 酢酸n−プロピル
[2] 前記成分(a)が、スチレンブロックを含有するブロック共重合体であることを特徴とする[1]に記載の防湿絶縁塗料。
[3] 前記成分(a)が、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、またはそれらの混合物であることを特徴とする[1]または[2]に記載の防湿絶縁塗料。
[4] 前記シランカップリング剤が、アミノ基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤および(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の防湿絶縁塗料。
[5] 前記粘着付与剤が、石油系樹脂粘着付与剤および/またはテルペン系樹脂粘着付与剤であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の防湿絶縁塗料。
[6] 前記粘着付与剤が、脂環族系飽和炭化水素樹脂および脂環族系不飽和炭化水素樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の石油系樹脂粘着付与剤であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の防湿絶縁塗料。
[7] さらに、下記成分(d)を含有することを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の防湿絶縁塗料。
成分(d) 酢酸n−プロピル以外の有機溶剤
[8] 前記成分(d)が沸点140℃以下の有機溶剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[7]に記載の防湿絶縁塗料。
[9]さらに、レベリング剤、消泡剤および着色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有することを特徴とする[1]〜[8]のいずれかに記載の防湿絶縁塗料。
[10] [1]〜[9]のいずれかに記載の防湿絶縁塗料を用いて絶縁処理されることを特徴とする電子部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防湿絶縁塗料は、低粘度かつ十分な固形分濃度を有し、作業性、基材との密着性、防湿性、絶縁信頼性に優れ、この防湿絶縁塗料でコーティング処理することにより、高度に防湿絶縁保護された電子部品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明(I)の防湿絶縁塗料について説明する。
本発明(I)は、下記成分(a)、成分(b)および成分(c)を必須成分とする防湿絶縁塗料である。
成分(a) 熱可塑性ポリマー
成分(b) シランカップリング剤および/または粘着付与剤
成分(c) 酢酸n−プロピル
【0015】
本発明(I)の防湿絶縁塗料に用いられる熱可塑性ポリマーとしては、耐湿性、絶縁信頼性、入手の容易さなどからスチレンブロックを含有する共重合体樹脂が好ましい。スチレンブロックを含有する共重合体樹脂の例としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−エチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン/ブチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン/プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。このようなスチレンブロック共重合体樹脂の市販品としては、D1101、DKX405、DKX410、DKX415、D1192、D1161、D1171、G1652、G1730(以上、クレイトンポリマー社製)、タフプレン(登録商標)A、タフプレン(登録商標)125、タフプレン(登録商標)126S、タフテック(登録商標)H1141、タフテック(登録商標)H1041、タフテック(登録商標)H1043、タフテック(登録商標)H1052、(以上、旭化成ケミカルズ社製)などが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの熱可塑性ポリマーの配合量は、防湿絶縁塗料の質量に対して10〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がさらに好ましい。熱可塑性ポリマーの配合量が、防湿絶縁塗料の質量に対して10質量%よりも少ないとコーティング塗料の厚みが薄くなり、十分な防湿性と膜強度が得られず、熱可塑性ポリマーの配合量が、防湿絶縁塗料の質量に対して50質量%よりも多いとコーティング塗料の粘度が高くなって作業性が劣り、均一に塗布することが困難となる。
【0016】
本発明に用いられるシランカップリング剤とは、分子内に有機材料と反応結合する官能基、および無機材料と反応結合する官能基を同時に有する有機ケイ素化合物で、一般的にその構造は下記式(1)のように示される。
【0017】
【化1】

【0018】
ここで、Yは有機材料と反応結合する官能基で、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、置換アミノ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基等がその代表例として挙げられる。Xは無機材料と反応する官能基で、水、あるいは湿気により加水分解を受けてシラノールを生成する。このシラノールが無機材料と反応結合する。Xの代表例としてアルコキシ基、アセトキシ基、クロル塩素原子などを挙げることができる。Rは、2価の有機基であり、Rはアルキル基を表す。aは1〜3の整数を表し、bは0〜2の整数を表す。ただし、a+b=3である。
【0019】
シランカップリング剤としては、例えば、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0020】
これらのシランカップリング剤の中で、好ましいものとしては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基含有シランカップリング剤、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤が挙げられ、市販品としては、KBM−503(信越化学工業社製)、KBM−903(信越化学工業社製)、KBE−903(信越化学工業社製)、Z−6062(東レ・ダウコーニング社製)、Z−6023(東レ・ダウコーニング社製)などが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明(I)の防湿絶縁塗料に好適なガラス基材への密着性を与えるためにはシランカップリング剤(b)の配合量が、成分(a)100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜8質量部であることがさらに好ましい。シランカップリング剤(b)の配合量が、成分(a)100質量部に対して0.1質量部より少なければ、防湿絶縁塗料に必要なガラス基材への密着性が十分に付与できず、配合量が、成分(a)100質量部に対して10質量部より多ければガラス基材への密着力が過剰となり、防湿絶縁塗料に必要なリペア性が保持できなくなる場合があり、好ましいこととはいえない。
【0022】
本発明に用いられる粘着付与剤とは、ゴム系弾性を有するエラストマーに代表される高分子化合物に配合して粘着機能を持たせるための物質である。エラストマーに代表される高分子化合物に比べ、分子量ははるかに小さく、一般に、分子量数百〜数千のオリゴマー領域の樹脂であり、室温ではガラス状態でそのもの自体ではゴム弾性を示さない樹脂類である。
尚、本明細書では粘着付与剤は、成分(a)には含まれないものと定義する。
【0023】
粘着付与剤としては、一般に、石油系樹脂粘着付与剤、テルペン系樹脂粘着付与剤、ロジン系樹脂粘着付与剤、クマロンインデン樹脂粘着付与剤、スチレン系樹脂粘着付与剤などを用いることができる。
【0024】
石油系樹脂粘着付与剤としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族−芳香族共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂およびこれらの変性物などが挙げられる。合成石油樹脂は、C5系でも、C9系でもよい。
【0025】
テルペン系樹脂粘着付与剤としては、β−ピネン樹脂、α−ピネン樹脂、テルペン−フェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂などが挙げられる。これらのテルペン系樹脂の多くは、極性基を有しない樹脂である。
【0026】
ロジン系樹脂粘着付与剤としては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジンなどのロジン;水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、マレイン化ロジンなどの変性ロジン;ロジングリセリンエステル、水添ロジンエステル、水添ロジングリセリンエステルなどのロジンエステル;などが挙げられる。これらのロジン系樹脂は、極性基を有するものである。
【0027】
これらの粘着付与剤の中で、石油系樹脂粘着付与剤、テルペン系樹脂粘着付与剤が好ましい。さらに好ましくは、脂環族系飽和炭化水素樹脂、脂環族系不飽和炭化水素樹脂などの極性基を有しない石油系樹脂粘着付与剤である。
これらの粘着付与剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
粘着付与剤の配合量については、使用する粘着付与剤の種類によって異なるが、一般的には、成分(a)100質量部に対して0.1〜30質量部であり、さらに好ましくは0.5〜25質量部であり、特に好ましくは、1〜20質量部である。粘着付与剤の配合量が、成分(a)100質量部に対して0.1質量部未満である場合には、十分な粘着機能を発現することができない場合があり好ましくない。また、粘着付与剤の配合量が、成分(a)100質量部に対して30質量部より多い場合には、塗布乾燥後の皮膜の引張(破断)強度が、著しく低下してしまうことがある。その結果、前述の、不具合が発生した部品を除去して再度新たな部品を接合し直すというリペア工程の際に行われる防湿絶縁皮膜を引き剥がして除去する際に、防湿絶縁皮膜が切断されて1枚ものの膜として除去できなくなる場合が生じてしまい、好ましくない。
【0029】
本発明(I)の防湿絶縁塗料は、酢酸n−プロピルを必須成分として含む。本発明(I)の防湿絶縁塗料に用いられる溶剤は、防湿絶縁塗料を構成する各成分を溶解し、かつ、防湿絶縁塗料を塗布後、室温無風の条件下において10分程度で次工程に移ることを可能にするために、大気圧下での沸点が140℃以下であることが望ましく、ポッティングによる塗布を容易にするために、低粘度であり、かつ、乾燥後に十分な防湿性を発現できる厚みを確保するために、固形分濃度が20質量%以上であることが求められるが、これらの条件を満たす溶剤として酢酸n−プロピルを用いる。酢酸n−プロピルは、速乾燥性と希釈効率の面から優れている。
【0030】
また、酢酸n−プロピルと併用して、その他の溶剤を使用することも可能である。酢酸n−プロピルと併用して用いられる溶剤としては、例えば、トルエン等の芳香族炭化水素溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環構造を有する炭化水素溶剤、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t−ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸エチル等の酢酸n−プロピルを除く酢酸エステル系溶剤、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤および石油ナフサ等が挙げられる。本発明(I)の防湿絶縁塗料に用いられる溶剤として、酢酸n−プロピルを単独で用いることも可能であるが、1種または2種以上のその他の溶剤と組み合わせて用いることもできる。
【0031】
酢酸n−プロピルと併用される溶剤として好ましいものとしては、防湿絶縁塗料を塗布後、室温無風の条件下において10分程度で次工程に移ることを可能にするために、大気圧下での沸点が140℃以下であることが望ましく、具体的には、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環構造を有する炭化水素溶剤、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t−ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸エチル等の酢酸n−プロピルを除く酢酸エステル系溶剤が好ましく、さらに好ましくは、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、酢酸n−ブチルである。
【0032】
酢酸n−プロピルの配合量は塗布工程の作業性に応じて最適量が変化するが、防湿絶縁塗料の質量に対して10〜80質量%が好ましく、さらに、酢酸n−プロピルとその他の溶剤を合わせた配合量が、防湿絶縁塗料の質量に対して50〜80質量%となることが好ましい。酢酸n−プロピルの配合量が、防湿絶縁塗料の質量に対して10質量%よりも少ないと、防湿絶縁塗料の固形分濃度と粘度を好適な範囲に収めることが困難になる。
【0033】
本発明(I)の防湿絶縁塗料は、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、着色剤等の添加剤を用いることができる。
【0034】
レベリング剤としては、添加することにより塗膜表面のレベリング性を向上させる機能を有する材料であれば、特に制限はない。具体的には、ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン共重合物、ポリエステル変性ジメチルポリシロキサン共重合物、ポリエーテル変性メチルアルキルポリシロキサン共重合物、アラルキル変性メチルアルキルポリシロキサン共重合物等が使用できる。これらは、単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。本発明(I)の防湿絶縁塗料100質量部に対し、0.01〜10質量部添加することができる。0.01質量部未満の場合には、レベリング剤の添加効果が発現しない可能性がある。また、10質量部より多い場合には、使用するレベリング剤の種類によっては、表面タックが発生したり、絶縁特性を劣化させる可能性がある。
【0035】
消泡剤としては、本発明(I)の防湿絶縁塗料を塗布する際に、発生或いは残存する気泡を消す或いは抑制する作用を有するものであれば、特に制限はない。本発明(I)の防湿絶縁塗料に使用される消泡剤としては、シリコーン系オイル、フッ素含有化合物、ポリカルボン酸系化合物、ポリブタジエン系化合物、アセチレンジオール系化合物など公知の消泡剤が挙げられる。その具体例としては、例えば、BYK−077(ビックケミー・ジャパン社製)、SNデフォーマー470(サンノプコ社製)、TSA750S(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)、シリコーンオイルSH−203(東レ・ダウコーニング社製)等のシリコーン系消泡剤、ダッポーSN−348(サンノプコ社製)、ダッポーSN−354(サンノプコ社製)、ダッポーSN−368(サンノプコ社製)、ディスパロン230HF(楠本化成社製)等のアクリル重合体系消泡剤、サーフィノールDF−110D(日信化学工業社製)、サーフィノールDF−37(日信化学工業社製)等のアセチレンジオール系消泡剤、FA−630(信越化学工業社製)等のフッ素含有シリコーン系消泡剤等を挙げることができる。これらは、単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。通常、本発明(I)の防湿絶縁塗料100質量部に対し、0.001〜5質量部添加することができる。0.01質量部未満の場合には、消泡剤の添加効果が発現しない可能性がある。また、5質量部より多い場合には、使用する消泡剤の種類によっては、表面タックが発生したり、絶縁特性を劣化させる可能性がある。
【0036】
着色剤としては、公知の無機顔料、有機系顔料、および有機系染料等が挙げられ、所望する色調に応じてそれぞれを配合する。本発明(I)の防湿絶縁塗料に用いられる着色剤としては油溶性の染料が好ましく、具体例としては、例えば、OIL BLACK860(オリエント化学工業社製)、OIL BLACK 803(オリエント化学工業社製)、OIL BLUE 2N(オリエント化学工業社製)、OIL BLUE 630(オリエント化学工業社製)、SOT Black(保土谷化学工業社製)などを挙げることができる。これらは、単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。通常、これらの染料の添加量は、本発明(I)の防湿絶縁塗料100質量部に対し、0.01〜5質量部添加することができる。
【0037】
本発明(I)の防湿絶縁塗料の酸化劣化および加熱時の変色を押さえることが必要な場合には、酸化防止剤を使用することができ、かつ、好ましい。
酸化防止剤としては、本発明(I)の防湿絶縁塗料の熱劣化や変色を防止する作用のある化合物であれば特に制限は無く、例えば、フェノール系酸化防止剤等を使用することができる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、下記式(2)〜式(12)のような化合物を挙げることができる。
【0038】
【化2】

【0039】
【化3】

【0040】
【化4】

【0041】
【化5】

【0042】
【化6】

【0043】
【化7】

【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
【化10】

【0047】
【化11】

【0048】
【化12】

【0049】
本発明(I)の防湿絶縁塗料は、25℃での粘度が5.0Pa・s以下であることが好ましい。さらに好ましくは4.0Pa・s以下であり、特に好ましくは3.0Pa・sである。25℃での粘度が5.0Pa・sより高くなると、防湿絶縁塗料をディスペンサーにより塗布する場合に塗布後の広がりが抑制され、その結果、乾燥後の厚みが必要以上に厚くなる懸念がある。
【0050】
本発明(II)は、本発明(I)の防湿絶縁塗料を用いて絶縁処理されることを特徴とする電子部品である。このような電子部品としては、マイクロコンピュータ、トランジスタ、コンデンサ、抵抗、リレー、トランス等、およびこれらを搭載した実装回路板などが挙げられ、さらにこれら電子部品に接合されるリード線、ハーネス、フィルム基板等も含むことができる。
また、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、有機エレクトロルミネッセンスパネル、フィールドエミッションディスプレイパネル等のフラットパネルディスプレイパネルの信号入力部等も、電子部品として挙げられる。特に、電子部品用ディスプレイ用基板等のIC周辺部やパネル張り合わせ部等に、本発明(I)の防湿絶縁塗料を好ましく使用できる。
【0051】
本発明(II)の電子部品は、本発明(I)に記載の防湿絶縁塗料を電子部品に塗布し、次いで、塗布した防湿絶縁塗料中の有機溶剤を除去することにより製造することができる。
本発明(II)の電子部品は、防湿絶縁塗料を用いて電子部品を絶縁することにより製造される。本発明(II)の電子部品の具体的な製造方法としては、まず、一般に知られている浸漬法、ハケ塗り法、スプレー法、線引き塗布法等の方法によって上述した防湿絶縁塗料を上記電子部品に塗布し、防湿絶縁塗料に含まれる有機溶剤を揮発させて塗膜を乾燥させることにより、電子部品が得られる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ制限されるものではない。
【0053】
(実施例1)
スチレン−ブタジエンブロック共重合体樹脂としてタフプレン(登録商標)A(旭化成ケミカルズ社製)27g、粘着付与剤としてクイントン(登録商標)D100(日本ゼオン社製)3g、溶剤として酢酸n−プロピル(ダイセル化学工業社製)70g、シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製 商品名:KBE−903)0.3g、消泡剤としてTSA750S(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)0.13gを混合し、配合物D1とした。
【0054】
(実施例2)
スチレン−ブタジエンブロック共重合体樹脂としてタフプレン(登録商標)A(旭化成ケミカルズ社製)27g、粘着付与剤としてクイントン(登録商標)D100(日本ゼオン社製)3g、溶剤として酢酸n−プロピル(ダイセル化学工業社製)35g、エチルシクロヘキサン(丸善石油化学社製 商品名:スワクリーンECH)35g、シランカップリング剤として3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製 商品名:Z−6062)0.6g、消泡剤として、シリコーン系消泡剤TSA750S(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)0.13gを混合し、配合物D2とした。
【0055】
(実施例3)
スチレン−イソプレンブロック共重合体樹脂としてD1161(クレイトンポリマー社製)27g、粘着付与剤としてクイントン(登録商標)D100(日本ゼオン社製)3g、溶剤として酢酸n−プロピル(ダイセル化学工業社製)35g、酢酸ブチル(ダイセル化学工業社製)35g、シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製 商品名:KBE−903)0.3g、消泡剤として、シリコーン系消泡剤TSA750S(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)0.15gを混合し、配合物D3とした。
【0056】
(実施例4)
スチレン−ブタジエンブロック共重合体樹脂としてタフプレン(登録商標)A(旭化成ケミカルズ社製)15g、スチレン−イソプレン共重合体樹脂としてD1161(クレイトンポリマー社製)15g、溶剤として酢酸n−プロピル(ダイセル化学工業社製)35g、メチルシクロヘキサン(丸善石油化学社製 商品名:スワクリーンMCH)35g、シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製 商品名:KBE−903)0.3g、消泡剤としてシリコーン系消泡剤TSA750S(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)0.13gを混合し、配合物D4とした。
【0057】
(実施例5)
スチレン−ブタジエンブロック共重合体樹脂としてタフプレン(登録商標)A(旭化成ケミカルズ社製)27g、粘着付与剤としてクイントン(登録商標)D100(日本ゼオン社製)3g、溶剤として酢酸n−プロピル(ダイセル化学工業社製)70g、消泡剤としてTSA750S(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)0.13gを混合し、配合物D5とした。
【0058】
(比較例1)
スチレン−ブタジエンブロック共重合体樹脂としてタフプレン(登録商標)A(旭化成ケミカルズ社製)27g、粘着付与剤としてクイントン(登録商標)D100(日本ゼオン社製)3g、溶剤としてエチルシクロヘキサン(丸善石油化学社製 商品名:スワクリーンECH)70g、シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製 商品名:KBE−903)0.3g、消泡剤としてシリコーン系消泡剤TSA750S(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)0.13gを混合し、配合物E1とした。
【0059】
(比較例2)
スチレン−ブタジエンブロック共重合体樹脂としてタフプレン(登録商標)A(旭化成ケミカルズ社製)27g、粘着付与剤としてクイントン(登録商標)D100(日本ゼオン社製)3g、溶剤としてトルエン(純正化学社製)70g、シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製 商品名:KBE−903)0.3g、消泡剤としてシリコーン系消泡剤TSA750S(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)0.13gを混合し、配合物E2とした。
【0060】
(比較例3)
スチレン−ブタジエンブロック共重合体樹脂としてタフプレン(登録商標)A(旭化成ケミカルズ社製)27g、粘着付与剤としてクイントン(登録商標)D100(日本ゼオン社製)3g、溶剤として酢酸ブチル(ダイセル化学工業社製)70g、シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製 商品名:KBE−903)0.3g、消泡剤としてTSA750S(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ合同会社製)0.13gを混合し、配合物E3とした。
【0061】
[配合物の評価]
上記の組成により調製した配合物D1〜D5およびE1〜E3の特性を、以下に示す方法により評価した。結果を表1に示す。
【0062】
<粘度の測定>
粘度は以下の方法により測定した。
試料約0.8gを使用して、コーン/プレート型粘度計(Brookfield社製、型式:DV−II+Pro、スピンドルの型番:CPE−42)を用いて、温度25.0℃、回転数10rpmの条件で粘度がほぼ一定になったときの値を測定した。
【0063】
<乾燥性の評価>
乾燥性は以下の方法により評価した。
配合物D1〜D5およびE1〜E3をそれぞれガラス上に乾燥後の厚みが約100μmになるよう塗布し、10分間室温で保持した後に、表面のべたつきの有無を確認した。べたつきの有る場合を「×」、べたつきの無い場合を「○」とした。
【0064】
<ガラス密着性>
ガラス密着性は以下の方法により評価した。
配合物D1〜D5およびE1〜E3をそれぞれガラス上に乾燥後の厚みが100μmになるよう塗布し、室温で10分間保持した後に、70℃で1.5時間乾燥した。乾燥後の膜について、JIS K 5600に従ってクロスカット試験を行った。
【0065】
<長期絶縁信頼性の評価>
ガラス基板上にライン/スペースが40μm/10μmである櫛形パターン形状のITO配線を形成したパターン電極上に、配合物D1〜D5およびE1〜E3をそれぞれ乾燥後の厚みが100μmになるよう塗布し、室温で10分間保持した後に、70℃で1.5時間乾燥した。
この試験片を用いて、バイアス電圧30Vを印加し、温度120℃、湿度85%RHの条件での温湿度定常試験を、MIGRATION TESTER MODEL MIG−8600(IMV社製)を用いて行った。上記温湿度定常試験をスタートしてから200時間経過後に、抵抗値が1.0×10Ω未満である場合を「×」、抵抗値が1.0×10Ω以上ある場合を「○」とした。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の結果より、配合物D1〜D5は乾燥性、ガラス基材への密着性、長期絶縁信頼性に優れており、かつ、粘度が3.0Pa・s以下と低粘度であることがわかる。これに対して、配合物E1は粘度が高く、配合物E2および配合物E3は乾燥性に劣る結果となっており、配合物D1〜D5はディスペンサーを用いて塗布する防湿絶縁塗料に適していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の防湿絶縁塗料は、低粘度かつ速乾燥性を発現できる組成物であり、この防湿絶縁塗料でコーティング処理することにより、高度に防湿絶縁保護された電子部品を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(a)、成分(b)および成分(c)を必須成分とする防湿絶縁塗料。
成分(a) 熱可塑性ポリマー
成分(b) シランカップリング剤および/または粘着付与剤
成分(c) 酢酸n−プロピル
【請求項2】
前記成分(a)が、スチレンブロックを含有するブロック共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の防湿絶縁塗料。
【請求項3】
前記成分(a)が、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の防湿絶縁塗料。
【請求項4】
前記シランカップリング剤が、アミノ基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤および(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の防湿絶縁塗料。
【請求項5】
前記粘着付与剤が、石油系樹脂粘着付与剤および/またはテルペン系樹脂粘着付与剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の防湿絶縁塗料。
【請求項6】
前記粘着付与剤が、脂環族系飽和炭化水素樹脂および脂環族系不飽和炭化水素樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の石油系樹脂粘着付与剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の防湿絶縁塗料。
【請求項7】
さらに、下記成分(d)を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の防湿絶縁塗料。
成分(d) 酢酸n−プロピル以外の有機溶剤
【請求項8】
前記成分(d)が沸点140℃以下の有機溶剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項7に記載の防湿絶縁塗料。
【請求項9】
さらに、レベリング剤、消泡剤および着色剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の防湿絶縁塗料。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の防湿絶縁塗料を用いて絶縁処理されることを特徴とする電子部品。

【公開番号】特開2011−122051(P2011−122051A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280650(P2009−280650)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】