説明

防滑性カーペット

【課題】床面との滑りが少なく、風等により捲くれ上がることがないにもかかわらず、取り替える際には軽量とすることができることから取替え作業や運搬や洗濯の作業性に優れ、さらに従来の玄関マットと同様にタフト糸との接着性に優れていることでタフト糸の抜けが極めて少ないレンタル用に適した防滑性カーペット、特に玄関用マットを提供する。
【解決手段】基布裏面にゴム層が一体化されているタフッテッドカーペットの該ゴム層側に面ファスナーAが一体化されたタフッテッドカーペットと、面ファスナーBが一体化されたスチレン系エラストマーシートとが、該面ファスナーAと面ファスナーBが係合することによりタフテッドカーペット裏面にスチレン系エラストマーシートが固定されている防滑性カーペット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、店舗、事務所、工場建屋、ホテル、病院、学校等の多くの人々が利用する建物の出入口付近に敷設されて、履物に付着した塵埃や土泥等の汚れが建物内に侵入することを阻止するための玄関マットとして好適に使用される防滑性カーペットに関するものであり、その上を人が通ることにより敷設位置がズレたり、あるいは風等により簡単に捲くれたりすることがないカーペットであって、かつ、汚れが付着したカーペットを取り替える際に、簡単に取り外すことができ、しかも取り外したカーペットが軽量であることから運搬や洗濯が容易にでき、そして洗濯後に簡単に玄関等に再敷設することができる、すなわち取替えが容易な玄関用マットに適した防滑性カーペットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
玄関マット(ダストコントロールマットとも称される)は、基布にパイル糸をタフトし、基布の裏面に天然ゴムや合成ゴムのバッキング層を貼り付け、これによりタフト糸を固定すると共に該マットを床面から動き難くしたものが多く、店舗、事務所、工場建屋、ホテル、病院、学校、その他、多くの人が利用する建物の玄関に敷設され、履物に付着した塵埃や土泥等が建物内に侵入することを防ぐ目的で敷設されている。
【0003】
このような玄関マットは、通常、レンタルで、汚れたものを洗濯済のものに業者が定期的に取り替えるようなシステムとなっている場合が多い。このような玄関マットは上記したような場所に敷設されたものは大面積のものが多く、必然的に高重量のものとならざるを得ず、定期的に取り替える場合には、取り替えた玄関マットの運搬やそれを洗濯する際の作業が困難となっている。
このような困難を解消することから、玄関マットが軽量であることが強く求められている。しかしながら玄関マットを軽量化すると、その上を人が通ることによりマットが容易に位置ズレを生じたり、あるいは風によりマットが捲くれ上がるという新たな問題点が生じる。
【0004】
従来は、玄関マットのズレや捲くれ上がりを防ぐために、床面に両面テープにより玄関マットを固定するという方法が採用されているが、両面テープで固定する場合には、両面テープや粘着剤の一部が床面に残ったり、さらに玄関マットの取替え時に両面テープも取り替えることが必要であることから多量の使用済み両面テープが廃棄物として発生すると言う問題点を有している。
【0005】
一方、玄関マット等のカーペット類の移動を防止する手段として、スチレンと共役ジエン化合物との共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーからなる繊維から形成した不織布を玄関マットと床面との間に敷設することが公知である(特許文献1)。このようなスチレン系エラストマーからなる不織布を用いると、確かに床面と不織布の間の滑りはなくなるものの、今度は、新たに同不織布とカーペット裏面のゴム層との間で滑りが生じるという新たな問題点が発生する。
【0006】
このような不織布とカーペット裏面のゴム層との間で生じる滑りの問題を解消する方法として、カーペット裏面のゴム層と同不織布とを接着剤により固定一体化する方法や、あるいはカーペット裏面のゴム層に置き換えてスチレン系エラストマー層を用いる方法が考えられるが、カーペット裏面にスチレン系エラストマー不織布を接着一体化した場合には、カーペットが重くなり、運搬や洗濯の際の作業効率が低下することとなり、さらにスチレン系エラストマーは洗濯強度が低く、激しい洗濯に耐えることができないという問題点も有している。
【0007】
またカーペット裏面のゴム層に置き換えてスチレン系エラストマーを用いる方法の場合には、スチレン系エラストマーはタフト糸との接着性が低くタフト糸の抜け防止が不充分となり、さらにスチレン系エラストマーは、上記したように洗濯強度が低く、繰り返しの洗濯に耐えることができないという問題点に加えて、業務用の玄関マットには、通常、静電防止用のオイルが付与されているが、スチレン系エラストマーは同オイルを吸収して膨潤し、樹脂強度が著しく低下するという新たな問題点も生じることとなる。
【0008】
また、フロアマットをカーペットの表面に敷設した場合に、同フロアマットがカーペット表面を移動することを防止する目的で、基材の片面にフック状係合素子、反対面に再剥離性層を存在させたフロアマット移動防止用面ファスナーを、該再剥離性層がフロアマット裏面側となるようにフロアマット裏面に同面ファスナーを取り付け、そしてその面ファスナーのフック状係合素子をカーペットのループと係合させることによりフロアマットの移動防止を図ることが公知であるが(特許文献2)、この公知技術は、床面に敷き詰めたカーペットの上にフロアマットを敷設した場合のフロアマットの移動を防止するものであり、石、人工石、セメント、リノリウム等のように係合機能を有していない通常の床面にはこの公知の技術は適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−269347号公報(特許請求の範囲の欄)
【特許文献2】特開平5‐269005号公報(特許請求の範囲の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来の玄関マット、特にレンタルで敷設される業務用の玄関マットの有する問題点を解消するものであり、すなわち床面との滑りが少なく、風等により捲くれ上がることがないにもかかわらず、取り替える際には軽量とすることができることから運搬や洗濯の作業性に優れ、さらに従来の玄関マットと同様にタフト糸との接着性に優れていることでタフト糸の抜けが極めて少ないレンタル用に適した防滑性カーペットを提供するものであり、そして、この防滑性カーペットを用いる、洗濯繰り返し使用方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、基布裏面にゴム層が一体化され、さらに該ゴム層に面ファスナーAが一体化されたタフッテッドカーペットと、面ファスナーBが一体化されたスチレン系エラストマーシートとが、該面ファスナーAと該面ファスナーBが係合することによりタフテッドカーペット裏面にスチレン系エラストマーシートが固定されていることを特徴とする防滑性カーペットである。
【0012】
そして、好ましくは、面ファスナーAがトリコットループ編物である場合であり、またスチレン系エラストマーがスチレン系化合物と共役ジエン化合物との共重合体を水素添加して得られるスチレン系エラストマーである場合であり、またスチレン系エラストマーシートが、パラフィン系オイルをスチレン系エラストマー樹脂に対して100〜400重量%含有している場合であり、またタフテッドカーペットが、スパンボンド不織布またはフラットヤーンからなる織物を基布とし、同基布にパイル糸をタフトし、パイル層と反対側の基布裏面にゴム層が一体化されたものである場合であり、また基布裏面にゴム層が一体化されているタフッテッドカーペットの目付が該ゴム層を含めて500〜2500g/mの範囲である場合であり、そして面ファスナーA付きのタフテッドカーペットが、パイル層と反対側の基布裏面に未加硫ゴムシートを重ね合わせ、さらに未加硫ゴムシートにトリコットループ編物を重ね合わせて、加熱加硫することによりゴム層表面に該トリコットループ編地を一体化したものである場合である。
【0013】
また、本発明の好適な場合として、タフテッドカーペットが静電オイルが付与されたものである場合や、面ファスナーBが、プラスチック基板の表面に多数の雄型係合素子が立設された面ファスナーであって、該雄型係合素子が列をなして基板上に並んでおり、かつ該雄型係合素子は、該プラスチック基板から立ち上がるステムと、該列方向を縦方向とすると横方向にステムから突出する係合用突起を有している成形面ファスナーである場合、そして、この成形面ファスナーにおいて、雄型係合素子の高さが0.3〜2.0mmである場合、あるいは面ファスナーBが、基布の表面にモノフィラメントからなるフック状係合素子が存在している織物雄型面ファスナーである場合が挙げられる。
【0014】
また、本発明の好適な場合として、タフテッドカーペット裏面にスポット状に面ファスナーAが存在しており、かつ面ファスナーAが存在しているタフテッドカーペット裏面部分が存在していない裏面部分よりも窪んでおり、面ファスナーBが一体化されたスチレン系エラストマーシートがこの窪みに入るような形状と大きさを有している場合、また防滑性カーペットが、石、人工石、セメント、リノリウムからなる群から選ばれる材からなる床面に同カーペットを構成するスチレン系エラストマーシート面が接するように置かれている場合や、防滑性カーペットが玄関マットである場合、さらに玄関マットが、店舗、事務所、工場建屋、ホテル、病院、学校等の建物の玄関に敷設されたものである場合などが挙げられる。
【0015】
さらに、本発明は、基布裏面にゴム層が一体化され、さらに該ゴム層に面ファスナーAが一体化されたタフッテッドカーペットと、面ファスナーBが一体化されたスチレン系エラストマーシートとが、該面ファスナーAと該面ファスナーBが係合することによりタフテッドカーペット裏面にスチレン系エラストマーシートが固定されている防滑性カーペットを洗濯する際に、面ファスナーAと面ファスナーBの係合を外すことにより、カーペット裏面のゴム層からスチレン系エラストマーシートを剥がし、その状態でタフテッドカーペットを洗濯し、洗濯後に再度面ファスナーAと面ファスナーBを係合させることによりタフテッドカーペット裏面ゴム層にスチレン系エラストマーシートを一体化し、一体化された防滑性カーペットをスチレン系エラストマーシート面が床面側となるように床面に敷設する防滑性カーペットの洗濯再使用方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の防滑性カーペット(カーペット本体の裏面に面ファスナーによりスチレン系エラストマーシートが取り付けられたもの)は、裏面側に取り付けられている防滑性に優れたスチレン系エラストマーシートにより床面との間でズレを生じることが少なく、タフテッドカーペットを軽量化してもカーペットの位置ズレや風による捲くれ上がりという問題点を生じない。
【0017】
また、汚れたカーペットを洗濯済みのカーペットに取り替える際には、エラストマーシートはカーペット本体の裏面に面ファスナーにより取り付けられていることから、この面ファスナーの係合を外すことにより、防滑性カーペットからカーペット本体だけを簡単に取り外すことができ、しかも洗濯はカーペット本体だけをすればよいことから、軽量であることにより洗濯作業および運搬作業が極めて容易となる。さらに、洗濯の際には、洗濯強度に劣るスチレン系エラストマーシートが取り除かれていることから、洗濯の際にスチレン系エラストマーシートが破壊されることがない。
【0018】
さらに、タフト糸がカーペットを構成する基布の裏面側に存在しているゴム層により強固に固定されているため、従来の玄関マットと同様に、繰り返しの洗濯や使用によりゴム層が基布裏面から剥がれてタフト糸がカーペット基布から抜けるという問題も生じない。
また、該ゴム層は静電オイルにより膨潤するという問題もなく、静電オイルをカーペット表面に付与させても、それによりゴム層が膨潤して強度が低下する問題も生じない。
さらに従来の実施技術のように、両面テープで床面に固定する必要が全くないことから、両面テープや粘着剤の一部が床面に残るという問題や使用済みの両面粘着テープが廃棄物として大量に発生するという問題も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の防滑性カーペットを床面に敷設した時の断面の模式図である。
【図2】本発明の防滑性カーペットを構成する面ファスナーB付きスチレン系エラストマーシートの一例の斜視模式図である。
【図3】本発明の防滑性カーペットを構成する面ファスナーBとして好適に用いられる成形雄型面ファスナーを製造するために用いられる成形ノズルの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の防滑性カーペットは、カーペット本体(タフテッドカーペット)とその裏面に面ファスナーにより取り付けたスチレン系エラストマーシートからなる。
このうちカーペット本体は、図1に示すように、パイル糸(3)、基布(4)、ゴム層(5)およびゴム層(5)に取り付けた面ファスナーA(6)からなる。また、スチレン系エラストマーシート(8)は、面ファスナーB(7)がその表面に取り付けられており、面ファスナーAと面ファスナーBが係合することにより、カーペット本体裏面に一体化されている。
【0021】
基布(4)を構成する繊維としては、天然繊維、化学繊維、合成繊維のいずれでもよいが、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維で代表される合成繊維が耐久性の点で好適である。そして、このような繊維からなる織物、編物、不織布が基布として用いられる。特に、裏打ち層ゴムとの接着性がよく収縮性に方向性がないこと、さらに強度に優れていることからスパンボンド不織布やフラットヤーンからなる織物が好ましい。また基布とゴム層との接着性を高めるために、基布にはNBRラテックスを塗布するような処理が行われているのが好ましい。基布の目付けとしては30〜300g/mの範囲が接着性の点で好ましい。
【0022】
さらに、パイル糸(3)を構成する繊維としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等の合成繊維が好ましく、特にナイロン繊維が耐久性の点で好ましい。またパイル糸の太さとしては300〜1500dtexのものがタフティング性の点で好ましい。パイル層は、このようなパイル糸を目付量600〜1000g/mで基布に織り込まれ、形成される。
パイル糸の基布への織り込みには、通常のタフテッドカーペット織と同様の装置が用いられる。カーペットには、絨毯やウィルトンカーペット等もあるが、タフテッドカーペットがパイル繊維の脱落や表面材の収縮を防ぐ上でもっとも好ましい。パイル糸の好適な打ち込み密度としては、1/8ゲージにて7〜12ステッチである。パイル高さとしては、基布面から5〜30mmが好ましい。
【0023】
このようにタフティングされた基布(4)の裏面には、パイル糸が基布から抜けることを防ぐためにゴム層(5)が一体化される。ゴム層(5)を形成する素材としては、合成ゴムや天然ゴムが挙げられるが、耐磨耗性、耐永久歪性、耐油性の点から合成ゴム、特にアクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)等の合成ゴムが好ましい。
レンタル用ダストコントロールマットは静電オイルが塗布されることから、この静電オイルに対する耐油性の点からアクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)がもっとも好ましい。アクリロニトリルブタジエンゴムの耐油性は、結合アクリロニトリル量に影響されることから、なかでも結合アクリロニトリル量が30〜35重量%のアクリロニトリルブタジエンゴムが好ましい。
【0024】
これらのゴム素材に、加硫剤、補強剤、軟化材、充填材、老化防止剤、発泡剤、カーボン等を配合して混練・圧延したものを、タフトした基布の裏面に重ね合わせ、加圧・加熱して加硫し、成形するとともに基布裏面にタフト糸が抜けないように強固に結合される。ゴム層(5)の厚さとしては、0.5〜1.5mmが好ましい。またゴム層(5)は軽量性を得るために発泡されていても良い。
【0025】
前記したように、本発明を構成するタフテッドカーペットは軽量であることが本発明の効果を十分に発現する上で好ましく、具体的には、裏面に貼りあわされたゴム層(5)を含めて目付300〜3000g/mの範囲が好ましい。この値は、従来一般に玄関マット等に用いられているカーペットが目付2500〜5000g/mであることを考慮すると軽量であると言える。
【0026】
そして、玄関マット、特にレンタル用の玄関マットには、そのパイル面に静電オイルが付与される。使用される静電オイルとしては鉱物油が一般的であり、その付与量としては、玄関マット1m当たり25〜35g程度である。静電オイルを付与することにより、人が通過する際に発生する静電気を抑制することができ、それによりカーペットに付着している塵埃が靴に静電付着することを防ぐことができる。静電オイルの付与方法としては、洗濯の際に、静電オイルをカーペットのパイル面に塗付する方法や同オイルをパイル面に噴霧する方法等が挙げられる。
【0027】
このようなタフテッドカーペットの裏面には、スチレン系エラストマーシートを取り付けるための面ファスナーA(6)が一体化されている。面ファスナーAは、スチレン系エラストマーシートに一体化されている面ファスナーB(7)と係合できるものであるならばどのような面ファスナーであっても使用でき、例えば、フック型、キノコ型、鏃型等の雄型係合素子を有する雄型面ファスナー、ループ型の雌型係合素子を有する雌型面ファスナー、雄型係合素子と雌型係合素子が混在している雄雌混在型面ファスナー等が挙げられる。もちろん、面ファスナーAが雌型面ファスナーである場合には、面ファスナーBは雄型係合素子を有するものである必要がある。また面ファスナーAと面ファスナーBは雄型−雄型係合素子同士の組み合わせでもよい。
【0028】
本発明において、面ファスナーA(6)は、タフテッドカーペットの基布裏面に一体化されているゴム層に一体化されていることから、ゴム層を基布裏面に一体化する際、すなわちゴム層を加硫成形する際に、同時に面ファスナーAもゴム層に一体化でき、この一体化方法が工程の簡略性および接着強度の点で好ましい。したがって、加硫時の熱や圧力により係合能が損なわれず、かつ面ファスナーAが一体化されているにもかかわらず、面ファスナーが存在していることによるカーペット表面の盛り上がりが少ないような面ファスナーが好ましい。この点から、面ファスナーAとして、トリコットループ編物であることが特に好ましい。
【0029】
そして、好適なトリコットループ編物の具体例としては、片面にマルチフィラメントからなるループパイル層が形成されたトリコット地が挙げられる。トリコット編地表面にループパイル層を形成させる方法としては、パイル糸編立時に左右トラバースを2〜7針分にし、パイル糸を起こしループパイル層とすることができる。ループパイルを構成するマルチフィラメント糸としては、単繊維太さが2〜20デシテックスの繊維からなる20〜500デシテックスのマルチフィラメントが好ましい。単繊維太さが3デシテックス未満の場合には面ファスナーBとの係合−脱離を繰り返すうちに、繊維が切断され、係合能が大きく低下しやすい。また20デシテックスを越えると面ファスナーBと係合し難くなる。より好ましくは、単繊維太さが3〜15デシテックスの繊維からなる30〜200デシテックスのマルチフィラメントの場合である。
【0030】
トリコット編地は、トリコット編機を使用し、ゲージ数は20〜35ゲージとすることが好ましい。また、編立コース数は使用する糸の太さにもよるが50〜90コース/インチで編立てることが係合素子との係合性の点から好ましい。
そして、面ファスナーA(6)は、タフテッドカーペットの裏面全面に取り付けられている必要は全くなく、特に、タフテッドカーペットの周辺部裏面(すなわち玄関マットの場合にはその周辺部裏面)に取り付けられていれば、タフテッドカーペットのズレや捲くれ上がりという問題点を解消することができる。もちろん、商業用玄関マット等のように大面積を有するものである場合には、カーペットの中央部等にも面ファスナーAを取り付けてもよい。
【0031】
本発明において、面ファスナーA(6)は、タフテッドカーペットの基布裏面に一体化されているゴム層(5)に一体化されている。一体化方法としては、一般的な、接着剤による接着あるいは縫製による縫付等でもよいが、好ましくは、カーペット基布裏面に未加硫ゴムシートを重ね、そして未加硫ゴムシートにさらにトリコットループ編物を重ね合わせて、該ゴムシートを加熱・加圧して加硫する際に、同時にゴム層表面に該トリコットループ編地を一体化する方法であり、このような方法を用いると工程の簡略化と強固な一体化、さらに一体化することによるカーペット表面の盛り上がり等を抑制することが可能となる。加硫の際の熱と圧力により、面ファスナーAのループが倒れることもあるが、容易に起こすことができる。
【0032】
また加熱加硫の際の熱と圧力によりループが溶融したり、再起不能なほど倒れることを防ぐためには、トリコットループ編地を構成する繊維として、高融点の樹脂からなるものが好ましく、具体的には、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系の樹脂、ナイロン66で代表されるポリアミド系の樹脂が代表例として挙げられる。そして、トリコットループ編地の目付としては30〜300g/mが適切である。また、加熱加硫条件としては、150〜170℃で、0.7〜1.2気圧が一般に用いられ、この条件で5〜10分程度行なうのが好ましい。
【0033】
また、タフテッドカーペット裏面にスポット状に、特にカーペットの四隅付近にスポット状に面ファスナーAが存在しており、かつ面ファスナーAが存在している部分のタフテッドカーペット裏面が存在していない裏面部分よりも窪んでおり、面ファスナーBが一体化されたスチレン系エラストマーシートがこの窪みに嵌るような形状と大きさを有している場合には、カーペットを床面に敷設した際に面ファスナーとスチレン系エラストマーシートが存在している部分がカーペットの他の部分よりも表面が盛り上がることを防ぐことができるため好ましい。
【0034】
スポット状に存在させる際の、個々のスポットの大きさとしては4〜800cm、特に20〜200cmの範囲が好ましく、形状としては円形でも、またカーペットの隅の形状に合わせた三角形や四角形等の多角形、あるいは鉤型等でもよい。面ファスナーAを一体化させたタフテッドカーペット裏面部分を窪ます方法としては、加硫の際に、一体化させた部分を他の部分よりも特に強く押さえつけて、窪ます方法が用いられる。窪ます程度としては、面ファスナーAにスチレン系エラストマーシートを面ファスナーBにより係合させて一体化させた際に、スチレン系エラストマーが存在している部分のカーペット表面が他の部分より大きく盛り上がらない程度が好ましく、具体的には0.5〜2mm程度窪ませるのが好ましい。
【0035】
このようにして得られた、基布裏面にゴム層が一体化されており、さらに該ゴム層に面ファスナーAが一体化されたタフッテッドカーペットは、面ファスナーBが一体化されたスチレン系エラストマーシートと、該面ファスナーAの係合素子と該面ファスナーBの係合素子が係合することによりタフテッドカーペット裏面にスチレン系エラストマーシートが固定される。
【0036】
面ファスナーB(7)が一体化された面ファスナー付スチレン系エラストマーシート(8)を構成するスチレン系エラストマーとしては、スチレン系化合物と共役ジエン化合物との共重合体を水素添加して得られるものが好ましい。そして、スチレン系化合物としては、スチレン、α―メチルスチレン等が挙げられ、また共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、ヘキサジエン等が挙げられるが、イソプレンあるいはブタジエンがもっとも適している。
【0037】
そして、スチレン系化合物からなる重合体ブロックAを2個以上有し、かつ共役ジエン化合物からなる重合体ブロックBを1個以上有するブロック共重合体を水素添加して得られる水素添加ブロック共重合体、特に(A−B)−Aで表されるブロック共重合体の水素添加物が好ましい(nは1〜10の整数を表すが、1が好ましい)。そして、このようなスチレン系エラストマーの数平均分子量としては5万〜100万の範囲が成形性やクリープ特性の点で好ましい。ブロック共重合体におけるスチレン系重合体ブロックの含有率は5〜50質量%が好ましい。スチレン系重合体ブロックの含有率がこの範囲を逸脱すると、ブロック共重合体を含有する熱可塑性エラストマーに充分なゴム弾性を付与することができず好ましくない。
【0038】
本発明において、このようなスチレン系エラストマーをシート化するが、スチレン系エラストマーには、他の樹脂、例えばポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系樹脂、さらに鉱物油やパラフィン系やナフテン系のプロセスオイルが添加されていてもよく、これら以外に、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、ガラス繊維、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、滑剤、抗菌剤、難燃剤、発泡剤、顔料、染料等が添加されていても良い。
【0039】
特にパラフィン系オイルが添加されている場合には、スチレン系エラストマーの成形性および粘着性が大きく増加し、防滑性が著しく向上することから好ましい。好適なパラフィン系オイルの添加量としては、スチレン系エラストマーに対して100〜400重量%である。さらに、スチレン系エラストマー樹脂にパラフィン系オイルが添加されている場合には、スチレン系エラストマーシートにゴミや埃が付着しても、該シートを水洗いすることによりゴミや埃を簡単に取り除くことができ、最初の防滑性を取り戻すことが可能となる。
【0040】
さらに本発明において、スチレン系エラストマーシートは、スチレン系エラストマーからなる均一厚さの樹脂シートのみを意味するのではなく、スチレン系エラストマーからなる繊維を布帛や不織布にようにシート化したもの、あるいは他の樹脂からなるシートや布帛の表面にスチレン系エラストマーからなる繊維層を連続的にあるいは断続的に存在させたもの、さらに他の樹脂からなるシートの表面にスチレン系エラストマーを連続的にあるいは断続的(例えばスポット状やスジ状)に存在させたもの等も包含する。すなわち、シートの表面にスチレン系エラストマーが存在しているもの全てが本発明でいうスチレン系エラストマーシートに含まれる。
【0041】
そして、本発明において、スチレン系エラストマーシートの床面と接する面にスチレン系エラストマーが存在していれば、それによりエラストマーシートの滑りを防止することができる。
【0042】
スチレン系エラストマーシートの厚さとしては、0.5〜2.0mm、目付としては400〜2000g/mの範囲が好ましい。
さらに本発明において、スチレン系エラストマーシートはタフテッドカーペットの裏面全面に存在している必要はなく、例えばカーペットが設置される場所の周辺部にスポット状に存在していても良く、面ファスナーAに相対する位置にだけ存在していてもよい。
もちろん、カーペットのズレや厚さの差による段差等をより少なくするためには、カーペット設置場所全面に存在させてもよい。その場合には、上から見て敷設したカーペットの端からスチレン系エラストマーシートが見えないように、すなわちカーぺットより僅かに小さいサイズのものが好ましい。
スチレン系エラストマーシート(8)は、スチレン系エラストマーが床面側となるように設置されるので、したがって、面ファスナーB(7)は床面側と反対側の面に取り付けられる。
【0043】
スチレン系エラストマーシートの表面、正確にはスチレン系エラストマーが床面と接する面とは反対側の面には、面ファスナーB(7)が一体化されている。面ファスナーBとしては、タフテッドカーペットの裏面に一体化されている面ファスナーAと係合できるものであればいずれであってもよく、例えばフック型やキノコ型や鏃型等の雄型係合素子を有する雄型面ファスナー、ループ型の雌型係合素子を有する雌型面ファスナー、雄型係合素子と雌型係合素子が混在している雄雌混在型面ファスナー等が挙げられる。もちろん、面ファスナーAが雌型面ファスナーである場合には、面ファスナーBは雄型係合素子を有するものである必要がある。
【0044】
なかでも、図2に示すように、プラスチック基板(12)の表面に多数の雄型係合素子が立設された面ファスナーであって、該雄型係合素子が列をなして基板上に並んでおり、かつ該雄型係合素子は、該プラスチック基板から立ち上がるステム(11)と、該列方向(図2に示すX方向)を縦方向とすると横方向(図2に示すY方向)にステム(11)から突出する係合用突起(10)を有している成形面ファスナーが、人が上を踏みつけても係合素子が倒れたりすることが他の面ファスナーと比べて少なく、かつ面ファスナーの厚みが薄くても高い係合力が得られることから好ましい。
【0045】
このような成形面ファスナーは、例えば、まず、図3に示すような、基板スリット(13)と同基板スリットから立ち上がる複数のきのこ型スリット(14)を有するノズル(15)から溶融樹脂を押し出し、冷却することにより、基板表面に、基板に対して直立し、かつ長さ方向に連続しているキノコ状係合素子断面形状を有する複数の列条を有するテープ状物を成形する。列状の本数としては、延伸した後のテープ幅1cm当たり5〜15本が好ましい。またテープ幅としては、20mm〜100mmが好ましい。
また、このような成形面ファスナーの他に、モノフィラメントからなるフック状係合素子が織物基布の表面に存在している雄型織物面ファスナーであって、かつ該基布裏面には織り構造の凹凸が存在している場合には、凹凸がスチレン系エラストマーシートとの一体化の際にアンカー効果をもたらすことから、このような面ファスナーも好ましい。
【0046】
次に得られたテープ状物の表面に存在する係合素子用列条に、該列条長さ方向を横切る方向、好ましくはほぼ直交する方向に、小間隔で該列条の先端から付け根付近まで切れ目を入れる。切れ目の間隔としては0.2〜1.0mm、特に0.3〜0.7mmの範囲が適切である。
次いで、テープ状物を長さ方向に延伸する(図2に示すX方向に延伸)。延伸倍率としては、延伸後のテープ状物の長さが元の長さの1.3〜3.5倍となる程度が好ましい。
【0047】
この延伸により、列条に入れられた切れ目が広がり、列条が独立した多数の雄型係合素子の列となり、個々の係合素子は、プラスチック基板(12)から立ち上がるステム(11)と係合素子の列に対してほぼ直角方向(サイド方向)に同ステムから係合用突起(10)が突出した形状を有することとなる。係合素子の高さ(H)としては0.3〜2.0mmが、また係合素子密度としては基板1cm当たり40〜200本、ステム太さとしては0.05〜1.0mm、基板(12)の厚さとしては0.2〜0.6mm、係合突起本数としては各ステムに2本、すなわちステムから両横方向に左右対称に係合突起が突出している形状がそれぞれ好ましい。
【0048】
面ファスナーBを構成する樹脂としては、特に限定されず、通常の成形に用いられる樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐ビニルアルコール共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられるが、これら以外に、ポリエステル系のエラストマー樹脂や、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリウレタン系等のエラストマー樹脂でもよく、これらは共重合体であってもよい。また樹脂は単独で、あるいは2種以上のブレンド物でもよい。なかでも、延伸性の点で、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系が好ましい。
また、面ファスナー(B)の基体層の裏面(すなわち係合素子が存在していない面)には、スチレン系エラストマーシートとの耐剥離性を高めるために、アンカーとなる突起や不織布等が存在していてもよい。
【0049】
このような面ファスナーB(7)は、スチレン系エラストマーシート(8)の表面に一体化されていることが必要であるが、一体化方法としては、融着により一体化する方法、接着剤により一体化する方法、粘着剤により一体化する方法等が挙げられるが、なかでも接着剤により一体化する方法が好ましい。なお、面ファスナーBはスチレン系エラストマーシートの全面に存在している必要はなく、面ファスナーAに対峙する位置に取り付けられていれば十分である。また、スチレン系エラストマーシートもカーペット裏面全面に存在している必要はなく、カーペット四隅の裏面にのみ存在していても良い。もちろん、面ファスナー(A)が存在している場所に一致する場所であることが好ましい。
【0050】
前記したように本発明の防滑性カーペットが好適には玄関マットとして用いられるものであるが、特に多くの人々が出入りし、塵埃が建物内に侵入することを防ぐ必要がある建物、店舗、事務所、ビル、工場建屋、ホテル、病院、学校等のように、多くに人が出入りする建物の玄関に敷設されるレンタル用玄関マットに適している。
そして、本発明の防滑性カーペットは床面が石、人工石、セメント面、リノリウム等で形成されている、単にその上に玄関マットを敷設するだけでは、マットがズレたり、滑ったりして、最悪の場合には上を通る人が玄関マットのズレにより滑って転倒するような床面に敷設する玄関マットとして適している。
【0051】
本発明の防滑性カーペットは、レンタル用の玄関マットとして好適に用いられるものであり、定期的に、汚れた玄関マットを洗濯済みの玄関マットと取り返すような用途に適している。すなわち、取れ替える際には、面ファスナーAと面ファスナーBの係合を外して、スチレン系エラストマーシートを取り除き、そして洗濯済みのカーペットを、同カーペットの面ファスナーAとスチレン系エラストマーの面ファスナーBを係合させることにより、玄関に洗濯済みのカーペットが敷設される。一方、取り除かれた汚れたカーペットは、搬送され、集められて洗濯処理により付着した塵埃が除去され、再度、玄関マットとして使用され、このようなリサイクル使用を複数回繰り返し使用される。
【0052】
このようなリサイクル再使用する上で、本発明の防滑性カーペットは、床面に固定され、その上部のカーペット本体だけが取り替えられることから、カーペットが軽量で取替え作業や運搬や洗濯の作業性が大きく向上することとなる。しかも、裏面には、面ファスナーにより防滑性に優れたスチレン系エラストマーシートが一体化されていることから、軽量であることによるズレや風により捲くれ上がり等の問題も生じない。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明の一例を詳細に説明する。
【0054】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート繊維からなる目付90g/mのスパンボンド不織布を基布とし、20デシテックスのナイロン6繊維からなる2880デシテックスのマルチフィラメント糸をパイル糸とし、パイル糸目付800g/mとなるようにタフトし、その裏面にアクリロニトリル量33重量%のアクリロニトリルブタジエンゴムからなる厚さ0.7mmで目付830g/mの未加硫ゴムシートを重ね合わせ、さらに、該未加硫ゴムシートの四隅裏面に、6デシテックスのポリエチレンテレフタレート繊維からなる216デシテックスのマルチフィラメント糸から直径10cmの円形のトリコットループ編物(ゲージ数:22、編立コース数:11コース、左右トラバースを4針分)を面ファスナーAとして重ね合わせて、160℃で0.9気圧の加熱加圧条件で加硫発泡ゴムを一体化して、裏面周辺部にトリコットループ編物が一体化されたタフテッドカーペットを得た。特に、トリコットループ編物が存在している部分のみを窪ますように、加硫一体化する際にその部分のみを冶具で押さえつけ、他の部分より1.0mm窪むようにした。
【0055】
得られたタフテッドカーペットの大きさは75cm×90cmの大きさであり、重さ2070g/mであり、裏面に取り付けたトリコットループ編物のループは雄型係合素子と係合可能なように、編物面から立ち上がっている。そして、タフテッドカーペットのパイル面には静電オイルとして鉱物油が30g/mの量で付与されている。
【0056】
一方、スチレン−イソプレン−スチレン型ブロック共重合体を水素添加して得た水素添加率98%の水素添加ブロック共重合エラストマー[クラレプラスチックス(株)製、JC−0510−01]およびパラフィンオイルを該エラストマーに対して200重量%含有する組成物からなる厚さ1.5mm、目付1300g/mのスチレン系エラストマーシートを上記タフテッドカーペットの形状より若干小さめに切り取り、その片面の前記トリコットループ編物に対峙する場所に、ポリプロピレンからなる成形雄型面ファスナー[クラレファスニング(株)製マジロックL8210]を面ファスナーBとして接着剤により貼り付けた。
【0057】
なお、上記成形雄型面ファスナーは、図3に示すような、基板スリット上に16本のキノコ型係合素子用のスリットが直立しているノズル形状を有するノズルから溶融したポリプロピレン樹脂を押し出し、得られるキノコ状列条を有するテープ状物の該列条に、テープ長さ方向から75°の角度で、1.0mm間隔で列条の先端部から根元部まで至る基板面に対して垂直の切れ目を入れ、そして3.0倍の延伸を行なって得たものであり、テープ幅は25mm、係合素子密度は60本/cm、ステム太さは0.07mm、係合素子高さは0.8mm、基板厚さ:0.3mmである。
【0058】
そして、該トリコットループ編物と該成形雄型面ファスナーを係合させることにより、タフテッドカーペットの裏面に該スチレン系エラストマーシートを取り付けた。得られたエラストマーシート付カーペットを精密部品を製造する工場の玄関に玄関マットとして人工大理石面上に敷設した。
【0059】
その結果、玄関マットは、人の出入りによってもズレを生じることなく、また風等により捲くれ上がることも全くなかった。さらに玄関マットの表面には、凹凸が殆どなく、人がつまずいたり、あるいは玄関マットの端に靴を引掛けることもなかった。
使用開始から2週間後、汚れた玄関マットを取り替えるために、該面ファスナーの係合を外すことにより、タフテッドカーペットからスチレン系エラストマーシートを取り外し、洗濯処理に出したところ、タフテッドカーペットは軽量であることから、取替え作業、運搬および洗濯作業等が極めて容易であり、好評であった。
【0060】
なお、取り除いたスチレン系エラストマーシートに、上記と同様に、洗濯済みで静電オイルを付与したタフテッドカーペットを面ファスナーにより一体化し、同一の玄関床面に再度敷設した。そして、この操作を12回繰り返したが、これらの繰り返し洗濯によっても玄関マットは何ら損なわれることなく、当初の玄関マットと同様の塵埃および土泥除去能を有し、さらに防滑性能やタフト糸の耐抜け性等においても当初のものと全く変わりなかった。
【0061】
比較例1
上記実施例1において、タフテッドカーぺットの裏面にトリコットループ編物を一体化せず、さらにスチレン系エラストマーシートの表面に成形雄型面ファスナーを一体化せず、タフテッドカーペットをスチレン系エラストマーシートの表面に直接重ね合わせた。その結果、タフテッドカーペットはスチレン系エラストマーと固定されておらず、多数の人が上を通るとズレを生じ、さらに風により端部が捲くれたりして、場所を元に戻すため、再々の作業が必要であった。
ズレや風による捲くれ上がり等を防ぐために、カーペットに一体化するアクリロニトリルブタジエンゴムからなる未加硫ゴムシートを厚さ2.7mm、目付3240g/mの高重量のものに置き換えたところ、ズレはかなり解消できたが、持ち運びや取替え作業、洗濯作業等に多大な労力を要するものとなり、極めて不評であった。
【0062】
比較例2
上記実施例1において、タフテッドカーペットの裏面にスチレン系エラストマーシートを接着剤で直接貼り付けた。
このものを直接床面に敷設したところ、床面との間でズレを生じることがなく、当初は、使用上全く問題なかったが、汚れたタフテッドカーペットを洗濯した際に、ゴム層とスチレン系エラストマー層との間で所々剥離が生じ、そして、洗濯を繰り返す毎に剥離個所が広がり、9回目の洗濯において、両者は一体化物として取り扱うことに支障が生じるほどであった。また、カーペット表面に静電オイルを付与する際に、一部のオイルがスチレン系エラストマー層に付着し、付着した個所は膨潤して強度が低下し、洗濯の際の激しい処理によりカーペット裏面から破れ剥がれ落ちた。さらに、カーペット裏面にスチレン系エラストマーシートが一体化されており、取替え作業や運搬作業、洗濯作業等においてはこの一体化されたもの全体を取り扱う必要があることから、カーペット重量が実施例1のものより高重量となり、作業性に劣るものであった。
【0063】
実施例2
上記実施例1において、タフテッドカーペットの基布として、ポリプロピレンのフラットヤーンを織物にした目付80g/mの布帛を用い、面ファスナーAとして、通常のポリエステルマルチフィラメントからなるループ織物[クラレファスニング(株)製B2790Y]を用い、面ファスナーBとして通常の織物フック面ファスナー[クラレファスニング(株)A8693Y‐SE]を用い、それぞれ、タフテッドカーペットの裏面(ゴム層側)及びスチレン系エラストマーシートの表面に取り付けた。取り付け方法は、面ファスナーAは加硫の際に、また面ファスナーBは熱圧着により取り付けた。そして、実施例1と同様に、タフテッドカーペットとスチレン系エラストマーシートを面ファスナーAとBを係合させることにより一体化した。
【0064】
得られたカーペットを、実施例1と同様に、工場の事務棟の入口の人工大理石上に敷設し、玄関マットとして使用した。その結果、実施例1と同様に、当初においては係合力が実施例1のものより僅かに劣る程度で玄関マットとしての性能に何ら問題なかったが、使用期間および洗濯回数が多くなるにしたがって、係合力が徐々に低下し、12回の洗濯後においては、係合力が最初の時と比べて67%に低下した。
実施例1のものと比べて、面ファスナーが存在している個所が他の個所より盛り上がり、さらにその上を踏みつける人の荷重等により、その個所のタフト糸の傾き方向が他の個所と相違して、一見して裏面に異物が存在することが分るため、安っぽい印象を与えるものであった。
【0065】
実施例3
実施例1において、面ファスナーBとして用いる面ファスナーを、通常の織物フック面ファスナー[クラレファスニング(株)A8693Y‐SE]に変更する以外は実施例1と同様に実施し、防滑性カーペットを製造した。
実施例1の場合と同様に防滑性に優れたものであり、また裏面に取り付けたスチレン系エラストマーシートの表面に付着している塵埃を取り除くため水洗いしたところ、表面に付着した塵埃を簡単かつ完全に取り除くことができ、しかもエラストマーシート表面に取り付けている面ファスナーBの基布の組織内にエラストマー樹脂が侵入しており、エラストマーシートから面ファスナーBは極めて剥離し難い高い結合力で一体化されていた。
【符号の説明】
【0066】
1・・・防滑性カーペット
2・・・タフトカーペット
3・・・パイル糸
4・・・基布
5・・・ゴム層
6・・・面ファスナーA
7・・・面ファスナーB
8・・・スチレン系エラストマーシート
9・・・床面
10・・・係合用突起
11・・・ステム
12・・・面ファスナーBの基板
13・・・基板スリット
14・・・きのこ型スリット
15・・・ノズル
X・・・係合素子列方向
Y・・・係合素子列方向に直交する方向
H・・・面ファスナーBの係合素子高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布裏面にゴム層が一体化され、さらに該ゴム層に面ファスナーAが一体化されたタフッテッドカーペットと、面ファスナーBが一体化されたスチレン系エラストマーシートとが、該面ファスナーAと該面ファスナーBが係合することによりタフテッドカーペット裏面にスチレン系エラストマーシートが固定されていることを特徴とする防滑性カーペット。
【請求項2】
面ファスナーAがトリコットループ編物である請求項1に記載の防滑性カーペット。
【請求項3】
スチレン系エラストマーがスチレン系化合物と共役ジエン化合物との共重合体を水素添加して得られるものである請求項1または2に記載の防滑性カーペット。
【請求項4】
スチレン系エラストマーシートが、パラフィン系オイルをスチレン系エラストマー樹脂に対して100〜400重量%含有している請求項1〜3のいずれかに記載の防滑性カーペット。
【請求項5】
タフテッドカーペットが、スパンボンド不織布またはフラットヤーンからなる織物を基布とし、同基布にパイル糸がタフトされ、パイル層と反対側の基布裏面にゴム層が一体化されたものである請求項1〜4のいずれかに記載の防滑性カーペット。
【請求項6】
基布裏面にゴム層が一体化されているタフッテッドカーペットの目付が該ゴム層を含めて500〜2500g/mの範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の防滑性カーペット。
【請求項7】
面ファスナーA付きのタフテッドカーペットが、パイル層と反対側の基布裏面に未加硫ゴムシートを重ね合わせ、さらに未加硫ゴムシートにトリコットループ編物を重ね合わせて、加熱加硫することによりゴム層表面に該トリコットループ編地を一体化したものである請求項2〜6のいずれかに記載の防滑性カーペット。
【請求項8】
タフテッドカーペットが、静電オイルが付与されたものである請求項1〜7のいずれかに記載の防滑性カーペット。
【請求項9】
面ファスナーBが、プラスチック基板の表面に多数の雄型係合素子が立設された面ファスナーであって、該雄型係合素子が列をなして基板上に並んでおり、かつ該雄型係合素子は、該プラスチック基板から立ち上がるステムと、該列方向を縦方向とすると横方向にステムから突出する係合用突起を有している成形面ファスナーである請求項1〜8のいずれかに記載の防滑性カーペット。
【請求項10】
雄型係合素子の高さが0.3〜2.0mmである請求項9に記載の防滑性カーペット。
【請求項11】
面ファスナーBが、基布の表面にモノフィラメントからなるフック状係合素子が存在している織物雄型面ファスナーである請求項1〜8のいずれかに記載の防滑性カーペット。
【請求項12】
タフテッドカーペット裏面にスポット状に面ファスナーAが存在しており、かつ面ファスナーAが存在している部分が存在していない裏面よりもタフテッドカーペット裏面が窪んでおり、さらに面ファスナーBが一体化されたスチレン系エラストマーシートがこの窪みに入るような形状と大きさを有している請求項1〜11のいずれかに記載の防滑性カーペット。
【請求項13】
防滑性カーペットが、石、人工石、セメント、リノリウムからなる群から選ばれる材からなる床面に同カーペットを構成するスチレン系エラストマーシート面が接するように置かれている請求項1〜12のいずれかに記載の防滑性カーペット。
【請求項14】
防滑性カーペットが玄関マットである請求項1〜13のいずれかに記載の防滑性カーペット。
【請求項15】
玄関マットが、店舗、事務所、工場建屋、ホテル、病院、学校等の建物の玄関に敷設されたものである請求項14に記載の防滑性カーペット。
【請求項16】
基布裏面にゴム層が一体化され、さらに該ゴム層に面ファスナーAが一体化されたタフッテッドカーペットと、面ファスナーBが一体化されたスチレン系エラストマーシートとが、該面ファスナーAと該面ファスナーBが係合することによりタフテッドカーペット裏面にスチレン系エラストマーシートが固定されている防滑性カーペットを洗濯する際に、面ファスナーAと面ファスナーBの係合を外すことにより、カーペット裏面のゴム層からスチレン系エラストマーシートを剥がし、その状態でタフテッドカーペットを洗濯し、洗濯後に再度面ファスナーAと面ファスナーBを係合させることによりタフテッドカーペット裏面のゴム層にスチレン系エラストマーシートを一体化し、一体化された防滑性カーペットをスチレン系エラストマーシート面が床面側となるように床面に敷設する防滑性カーペットの洗濯再使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−110571(P2012−110571A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263586(P2010−263586)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(591017939)クラレファスニング株式会社 (43)
【出願人】(000104906)クラレプラスチックス株式会社 (52)
【Fターム(参考)】