説明

防滑性シート

【課題】湿潤状態下でも十分な防滑性を有し、素肌刺激性の小さな防滑性シートを提供する。
【解決手段】第一の主表面11と前記第一の主表面の反対側に第二の主表面12を有する基材10を含む防滑性シート1であって、第一主表面11は、第一の凹凸パターンと、その凸部上に配置される第二の凹凸パターンから構成されるエンボス形状を備え、第一の凹凸パターンの凹部のピッチが50μm以上200μm以下であり、第二の凹凸パターンの凹部のピッチが前記第一の凹凸パターンの凹部のピッチの20%以下であり、第一の凹凸パターンと第二の凹凸パターンを含むエリアの表面粗さの最大高さ(Rmax)が25μm以上50μm以下であり、第二の凹凸パターンのみを含むエリアの表面粗さの最大高さ(Rmax)が8μm以上15μm以下であり、エンボス形状を構成する第一の凹凸パターンの凹部と第二の凹凸パターンの凹部とは相互に連通する防滑性シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人が素肌で直接触れる施設、道具等の表面に貼り貼り付けられる防滑性シートであって、特に、サーフボードの表面のすべりを適度に防止するに適したサーフボード表面貼り付け用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、防滑処理は、実生活の中で湿潤環境のもとで使用する各種設備、道具等において多方面で施されており、用途に応じて適宜実用に供されている。例えば、サーフボードについて具体的に説明すれば以下のようである。
【0003】
サーフィンは年間を通して行われるマリーンスポーツであり、サーフボード使用者には、パドリングやゲッティングアウト、テイクオフ、ライディングなどの動作時において、ボード上での素早い動きや体重移動、そして繊細な足のコントロールを行うことが求められる。そのため、サーフボード使用者が湿潤環境下においてサーフボードを十分にコントロールできるように、サーフボードの表面は、使用者が使用時に滑りを生じない様に適当な処理が施されていることが必要とされている。
【0004】
例えば、従来においては防滑性を確保する手段として、サーフボード表面に、ワックスを塗布することにより、また、凹凸構造を有するシートを貼り付けることにより、サーフボード表面の滑りを制御することが一般的に実施されている。
【0005】
特許文献1には、1平方インチ当たり少なくとも100の直立したステムの配列を有する湿潤及び乾燥状態で使用する摩擦制御物品について記載されている。特許文献2には、複数の透水穴を有する表面層と該表面層の下面に連続気泡構造の発砲体かる基材層とで構成される滑り防止マットについて記載されている。特許文献3には、シート本体表面に等間隔に或いは不規則に間隔をおいて滑止突部、例えば滑止突部が四角柱形状のものを多数有するように弾性部材で形成してなるものが記載されている。特許文献4には、サーフボード表面に塗布する滑りどめワックスについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−505810号公報
【特許文献2】特開2000−14521号公報
【特許文献3】実登3006361号公報
【特許文献4】特開2006−305088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでの防滑性シートは、湿潤状態下でもある程度防滑性を確保できるものであったが、シート使用者が長時間素肌を直接接触させてこれらの防滑性シートを使用する場合には使用者が擦れによる痛みを覚えることがあり問題であった。
【0008】
本発明は、これらの問題点を解決する為になされたものであって、その課題とするところは、防滑性シートの防滑性については、湿潤状態下でも防滑性を確保でき、また防滑性シートの素肌刺激性については、極力素肌刺激を抑え得た防滑性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の一つの態様としては、(1)第一の主表面と前記第一の主表面の反対側に第二の主表面を有する基材を含む防滑性シートであって、第一主表面は、第一の凹凸パターンと、第一の凹凸パターンの凸部上に配置される第二の凹凸パターンから構成されるエンボス形状を備え、第一の凹凸パターンの凹部のピッチが50μm以上200μm以下であり、第二の凹凸パターンの凹部のピッチが前記第一の凹凸パターンの凹部のピッチの20%以下であり、第一の凹凸パターンと第二の凹凸パターンを含むエリアの表面粗さの最大高さ(Rmax)が25μm以上50μm以下であり、第二の凹凸パターンのみを含むエリアの表面粗さの最大高さ(Rmax)が8μm以上15μm以下であり、エンボス形状を構成する第一の凹凸パターンの凹部と第二の凹凸パターンの凹部とは相互に連通する防滑性シートが提供される。
【0010】
ここで、上記の凹凸パターンの凹部のピッチの値及び表面粗さの最大高さ値(Rmax)は、JISB0601に規定された表面粗さに準拠した値である。
これらの値は、具体的には、キーエンス社のレーザーマイクロスコープの粗さ計機能を用いて測定する値である。当該レーザーマイクロスコープは、レーザー式のため画像上で任意に直線・曲線の「線粗さ」、任意に指定した領域の「面粗さ」を非接触で計測できるものである。
【0011】
ここで、キーエンス社のレーザーマイクロスコープを用いた測定について以下詳述する。
【0012】
1)第一の凹凸パターンと第二の凹凸パターンを含むエリア(以下、「広域エリア」と呼ぶ。)とは、測定対象物表面において第一の凹凸パターンと第二の凹凸パターンの両者が含まれるように表面粗度測定範囲を縦100μm〜2000μm、横100μm〜2000μmの正方形・長方形で区切られた区画を言う。本発明の評価においては、具体的には当該広域エリアを縦300μm、横1300μmの長方形で区切られた区画とした。
【0013】
2)第二の凹凸パターンのみを含むエリア(以下、「狭域エリア」と呼ぶ。)とは、測定対象物表面において第二の凹凸パターンのみが含まれるように表面粗度測定範囲を縦10μm〜40μm、横10μm〜40μmの正方形・長方形に区切られた区画をいう。ここで、この狭域エリアの選定では、本発明にかかる第二の凹凸パターンのみが含まれるように、最初に、広域エリアの視野を観察した上で当該狭域エリアに第一の凹凸パターンの凹部が含まれない様に区画を選定したものである。本発明の評価においては、具体的には当該狭域エリアを縦20μm程度、横20μm程度の正方形で区切られた区画とした。
【0014】
3)第一の凹凸パターンの凹部のピッチとは、広域エリアの視野内において任意の位置で直線「線粗さ」を観察し、線分内に存在する第一の凹凸パターンの凹部の数を計測することで求めたものである。
【0015】
4)第二の凹凸パターンの凹部のピッチとは、広域エリアの視野内において任意の位置で直線「線粗さ」を観察し、線分内に存在する第二の凹凸パターンの凹部の数を計測することで求めたものである。
【0016】
5)広域エリアの最大高さ(Rmax)とは、上記に定義される広域エリアの「面粗さ」の最大高さ(Rmax)を計測することで求めたものである。
【0017】
6)狭域エリアの最大高さ(Rmax)とは、上記に定義される狭域エリアの「面粗さの最大高さ(Rmax)」を計測することで求めたものである。
【0018】
本発明の別の態様としては、(2)基材の表面硬度が、ショアAデュロメーター値で50〜75の範囲にある上記(1)に記載の防滑性シートが提供される。
【0019】
ここで、ショアAデュロメーター値は、JISK6253のタイプAデュロメーターに規定された値である。
【0020】
さらに、本発明の別の態様としては、(3)基材は第二の主表面側に硬質シート層を有し、硬質シート層は、基材面側と反対側表面に粘着剤層を設けた上記(1)または(2)のいずれかに記載の防滑性シートが提供される。
【0021】
さらに、本発明の別の態様としては、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の防滑性シートを有したサーフボードが提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の防滑性シートによれば、湿潤時使用下でも、十分な防滑性を確保でき、また防滑性シートの素肌刺激性については、当該防滑性シート使用者が、自己の素肌をシートに直接接触させても極力素肌への刺激を抑え得たものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明にかかる防滑性シートの一例の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明にかかる防滑性シートのエンボス層を微視的に観察した状況を示す模式断面図である。
【図3】図3は、本発明にかかる防滑性シートのエンボス層の連通チャネル構造を微視的に観察した状況を示す防滑性シートの平面図である。
【図4】図4は、防滑性シートの表面におけるエンボス層の連通チャネルを介しての水の排出状況・過程を示す模式断面図であって、図4(a)は、冠水した防滑性シート自体の断面図、図4(b)は、人間の足で踏みつぶされた冠水した防滑性シートの断面図、図4(c)は、防滑性シート上で水が排出される状況を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明にかかる防滑性シートを、サーフボードの表面(サーフボード使用者が騎乗する側)に貼り付けした状態を示すサーフボードの平面図である。
【図6】図6は、本発明にかかる粘着剤層を有した防滑性シートの製造工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で当業者の通常の知識に基づいて適宜設計の変更、改良等が加えることができると理解されるべきである。
【0025】
図1は、本発明にかかる防滑性シートの一つの実施形態を断面図を用いて示したものである。図1に示すように防滑性シート1は、エンボス層15としてエンボス形状を備えた基材層10、硬質層50、粘着剤層60をこの順で積層した積層体として構成されている。
【0026】
すなわち、第一主表面11と第二の主表面12を有する基材層10の第二の主表面側12に、硬質シート層50が設けられ、前記基材10とは反対側の硬質シート層50の表面に粘着剤層60を設けられている。
【0027】
図2は、本発明にかかる防滑性シート1の基材10の第一の主表面のエンボス層15を微視的に観察した状況を示す模式断面を示したものである。図2に示すように、本発明の防滑性シートの基材層の第一の主表面は、全面もしくは一部に第一の凹凸パターン30と、第一の凹凸パターンの凸部上に配置される第二の凹凸パターン20を有する。
【0028】
第一の凹凸パターンの凹のピッチ32は、平面視で50μm以上、好ましくは100μm以上、200μm以下、好ましくは150μm以下である。
【0029】
上記のピッチは、前述のレーザーマイクロスコープで表面を確認しながら計測して求めたものである。また、第一の凹凸パターンと第二の凹凸パターンを含む広域エリアの第一の凹凸パターンの凹部深さ36に関連する表面粗さの測定値すなわち最大高さ(Rmax)は、25μm以上50μm以下である。一方、第二の凹凸パターンの凹のピッチ22は、第一の凹凸パターンの凹のピッチの20%以下、好ましくは、10%以下、より好ましくは5%以下である。また、主として、第二の凹凸パターンの凹部深さ34に関連する狭域エリアの表面粗さの測定値すなわち最大高さ(Rmax)は、8μm以上15μm以下である。
【0030】
これらの範囲で、防滑性シートとして、実際に素肌への刺激が少なく、シート上の排水が良好に行い得るからである。
【0031】
すなわち、上記寸法で規定される第一の凹凸パターンと第二の凹凸パターンとの複数種類のパターンを有することで防滑性シート表面に凹凸をより高密度に配置することができ、その結果、シート表面が有する水に対する接触角を調整することができる。これにより、シート表面は、水をはじきやすくなるから水膜を形成しにくくなりハイドロプレーン現象が生じにくくなることで最終的にシート自体の持つ防滑特性を向上せしめることができる。
【0032】
尚、シート表面上からはじかれた水は、第一の凹凸パターンの凹部もしくは第二の凹凸パターンの凹部に導入されることになるから、後述するようにシート上から排出されることになる。また、シート表面上で大部分を占める第二の凹凸パターンの表面粗さは、最大高さ(Rmax)が8μm以上15μm以下であるから、当該シートに素肌が長時間直接触れても素肌への刺激は極めて少ないものとすることができる。
【0033】
図3は、本発明にかかる防滑性シートのエンボス形状を備えた基材の第一の主表面に存在するエンボス層15を上方から平面視で微視的に観察したものである。ここに示すようにエンボス層15は、第一の凹凸パターン30の凸部上に配置された第二の凹凸パターン20の凹部21は、相互に連通するとともに第一の凹凸パターン30の凹部31に連通する。それに加え第一の凹凸パターンの凹部31も相互に連通する。このように本発明にかかる防滑性シートのエンボス層15は、全体として緻密なチャネル(水路)構造を有している。ここで、凹部が相互に連通するとは、シート表面上からはじかれた水が、第一の凹凸パターンの凹部もしくは第二の凹凸パターンの凹部にそれぞれ導入された後、防滑性シート表面から排出されるに役立つチャネル(水路)を形成することをいう。上記防滑性シートの基材のエンボス形状を備えた第一の主表面11のエンボス層15は、基材層10を押し出し成型法で作製する場合、チルロールに設けた凹型のエンボス形状を凸型として転写することにより形成することができる。例えば、図6に示すチルロール123のロール表面を最初に、凹型のエンボスの深さが25〜100μmの範囲に含まれるようなパターンとなるように全面にわたって加工し、さらに、前記深さが25〜100μmの凹型のエンボス上に深さが5〜20μmの範囲に含まれるようなパターンで微小凹凸のエンボスを加工する。
【0034】
本発明にかかる防滑性シートの基材は、表面硬度が、ショアAデュロメーター値で50〜75範囲にあるものが好ましい。十分な柔軟性を確保することが必要だからである。これらの範囲が好ましいのは、50以下の柔らかい素材の場合、第一の凹凸パターンが使用時の荷重によって潰れてしまいチャネル(水路)を維持できなくなり、また、75以上の硬さの場合、例えば、サーフボード用防滑性シートにおいては、使用時の体重移動に全く追従しなくなるのでグリップ性を維持しにくくなるとともに、サーフボード使用者の素肌への刺激が大きくなってしまうことによる。
【0035】
また、本発明にかかる防滑性シートの基材の材料としては、加工性、耐候性、耐水性等に優れる、例えばポリオレフィン系の熱可塑性材料、特に、ポリエチレン系の熱可塑性材料が良い。具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好適である。
【0036】
基材として用いる前記樹脂には、架橋材、表面改質剤、硬化剤、界面活性剤、硬質ビーズ、難燃性付与剤、紫外線吸収剤、酸化安定剤、粘着付与樹脂、着色剤、抗菌剤等の添加剤を含むことができる。
【0037】
基材の厚さは、シート自体の材料強度及び軽量化の観点から、50μm以上、好ましくは、100μm以上、500μm以下、好ましくは300μm以下である。
本発明にかかる防滑性シートには、基材層10を補強するため硬質層50を設けることができる。
【0038】
硬質層を設けるのは、防滑性シートを例えばサーフボード等に張力を加えて貼り付ける際に防滑性シートが伸びるのを防止し、貼り付け作業を簡単に行い得るようにすることを目的とする。すなわち、硬質層を設けることで防滑性シートを伸びたまま貼ってしまうことを防止でき、防滑性シート内に無駄な残留応力の発生もないからシートが時間の経過とともに縮んでしまうようなこともなく、防滑性シートの粘着層とサーフボード本体との界面で防滑性シートが剥離を生ずることを防止できる。
【0039】
本発明にかかる防滑性シートの硬質層としては、伸縮抵抗性を有する重合体フィルムなどの柔軟ではあるが伸縮抵抗性の高い材料が良い。具体的には、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)が好適である。
【0040】
硬質層の厚さは、例えば20μm以上100μm以下で所望の強さを満たすべく決められる。
【0041】
本発明にかかる防滑性シートの粘着層としては、天然ゴム系樹脂を有する粘着剤、合成(SBR、SIS等)ゴム系樹脂を有する粘着剤、シリコーン系樹脂を有する粘着剤、アクリル系樹脂を有する粘着剤、ポリエチレン系樹脂を有する粘着剤等を用いることができる。
【0042】
特に、防滑性シートが屋外にて使用されるような場合は、粘着層は、耐候性の良いシリコーン系樹脂を有する粘着剤やアクリル系樹脂を有する粘着剤を用いることが好ましい。さらに言えば、材料自体の市場容易入手性等の観点からアクリル系樹脂を有する粘着剤を用いることがより好ましい。
【0043】
また、粘着層としてアクリル系樹脂を有する粘着剤を用いる場合、再剥離性を考慮し、粘着剤をイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤等で、適度に架橋することができる。
【0044】
図4は、防滑性シートの表面におけるエンボス層15の連通するチャネル(水路)を介しての水の排出状況・過程を示したものである。
【0045】
図4中(a)は、防滑性シートが湿潤時使用下で水により防滑性シートの第1主要面が冠水している状態を示す。
【0046】
また、図4中(b)は、防滑性シートに接触物体(例えば、サーフボードにおいては、サーフボード使用者の素肌(足)200)が荷重を負荷しつつ接触している状態を示す。この状態では、荷重が負荷されたエンボス層15部分は、第二の凹凸パターンの凹部21が、多少扁平化することが考えられるが、第一の凹凸パターンの凹部31は、断面内で上すぼまりになることはあるにしろチャネル(水路)は維持されたものとなっていると考えられる。
【0047】
図4中(c)は、防滑性シート1に接触物体が荷重を負荷しつつ接触した場合に防滑性シート上の冠水の排水状況を模式的に示したものである。図中、矢印は水がシート上から排出される方向を示す。よって、水は、防滑性シート上からエンボス層の第一凹凸パターンの凹部31が形成するチャネル(水路)を経由して効率よく排出されることになるから、滑りの原因の一つと考えられるハイドロプレーン現象を引き起こしにくくなり、結果的に防滑性シートの防滑特性を向上せしめることができることになる。この際、第二の凹凸パターンの凹凸部の扁平化は、接触物体との接触面積を拡大せしめ、両者間の吸着効果を高めることに寄与し、この観点からも防滑性シートの防滑特性を向上せしめることができることになる。
【0048】
図5は、本発明にかかる防滑性シートを貼り貼り付けしたサーフボード100の一例を示したものである。図5に示すように本発明にかかる防滑性シート1、2は、サーフボード使用者が騎乗する側のサーフボードの表面の全面もしくは一部に、サーフボード使用者の必要に応じて任意に貼り付けされている。
【0049】
例えば、本発明にかかる防滑性シート1、2は、従来の防滑性シートすなわち、ボードの動きをコントロールする為にテール部分に貼られる厚手(5mm以上)で大きな凸凹(5mm以上)を表面に形成した防滑性シート3以外の部分に矩形や円形の形状で貼ることができる。また、本発明にかかる防滑性シート1、2間は距離が空いていても離れていてもよく、乗り手のスタイルによってアレンジすることができる。この場合、サーフボード使用者は、騎乗するまでは上半身裸でサーフボード上で伏臥の姿勢になるので素肌への刺激が少ない本発明にかかる防滑性シートは、好適である。すなわち、本発明にかかる防滑性シート1、2は、サーフボード使用者の肌を極力刺激することなきようにスムーズな表面であり、かつサーフボード使用者が水中で騎乗する際に足裏との間で適度な摩擦力・トラクションを維持するに十分な表面の凸凹構造をもっているから好適である。
【0050】
尚、上記基材の材料に加え、サーフボード用の防滑性シートの基材の材料としては、透明な樹脂が用いることを考慮することが好ましい。サーフボード本体の有する意匠性をそのまま、確保するためである。透明な樹脂としては、これらに限定されるものではないが、たとえば、ポリウレタン、塩化ビニル系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリスチレン、シリコーン、フッ素系ポリマー、エポキシ系ポリマーのいずれか1種、または2種以上の混合物が使用できる。
【0051】
次に、図5に示すサーフボードに本発明にかかる防滑性シートを貼り貼り付ける場合に生じる効果を特記すれば以下のようになる。
【0052】
1)本発明にかかる防滑性シートを張り付けたサーフボードは、湿潤環境下でもサーフボード表面が適度の滑り止め性、グリップ性を有するから、ボード自体の騎乗制御性が良好なものとなっている。
【0053】
2)本発明にかかる防滑性シートを張り付けたサーフボードは、ワックスを塗布するものでないから、ボードのメンテナンスが容易で、かつ海の汚染を防止することができる。図6は、本発明にかかる防滑性シートの製造工程の一例を示したものである。
【0054】
防滑性シートの基材層の原料(例えばポリオレフィン系の熱可塑性樹脂)と防滑性シートの硬質層の原料(例えば、伸縮抵抗性重合体フィルムであるエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA))を、T−ダイ124を用いてシート状に共押出成形し、ニップロール122及びチルロール123を用いて加圧及び冷却する。これにより、チルロールに設けたエンボス形状を基材表面(第一の主表面)に転写する事ができる。チルロール123を矢印Pの方向に回転することで基材層と硬質層からなるシートは、前方に進行し、塗布工程において塗工機130を用いてさらに粘着剤の塗工液が塗工される。次に、防滑性シートは、乾燥工程で乾燥炉131にて熱風乾燥され、その後、巻き取りロール140により巻き取られる。
【0055】
ここで、チルロールは、そのロール面をサンドプラスト法にて次のように表面処理したものである。
【0056】
例えば、チルロールのロール面を、複数サイズのアルミナ粒子(10メッシュから200メッシュ、更に好ましくは、50メッシュから200メッシュ)を用いて、プラスト圧力を2.0Kgf/cmとしてサンドプラスト処理する。
【0057】
T−ダイ124から押出される防滑性シート原料の温度は、防滑性シート原料の種類によって適宜決定することができる。
【0058】
T−ダイ124から押し出された基材層と硬質層からなる防滑性シートの厚さは、70〜600μmが好ましい。
【0059】
また、防滑性シート原料を押出成形するために用いる押出成形機は、防滑性シート原料をシート状に共押出でき二層シートが成型できるものであれば、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、スクリュー式押出成形機等を用いることができる。押出条件は使用する防滑性シート原料により適宜決定することができる。押出成形機の先端にT−ダイ124を装着して、防滑性シート原料を、例えば、幅50cmから200cmのシート状に形成するが、T−ダイ124は、特に限定されず、作製する防滑性シートの形状等に合わせて適宜決定することができる。
【0060】
共押出した基材層と硬質層からなる防滑性シート素材A(基材表面にエンボス層なし)120をチルロール123とニップロール122とにより加圧するときの圧力は、0.4MPa以上であることが好ましく、0.5〜1.0MPaであることが更に好ましい。0.4MPaより小さい圧力であると、成型する原料(樹脂)の種類によりチルロール123のエンボス形状が転写しない恐れがある。
【0061】
また、チルロール123の温度は、10〜60℃が好ましく、20〜40℃が更に好ましい。10℃より低いと、結露して水を巻き込むことがあり、60℃より高いと、防滑性シートを十分に硬化させ難いことがあるからである。
【0062】
また、上記製造方法にて製造した基材層と硬質層からなる防滑性シート素材B(基材表面にエンボス層あり)126のエンボス加工面の反対側の表面に、さらにアクリル系粘着剤2を含有する塗工液129を塗工する。塗工装置としては、例えば、ナイフコ―ター130を用いることができる。
【0063】
本発明にかかる防滑性シートは、上記したサーフボードに用いる例に加えて人間が湿潤環境のもとで直接肌に触れて使用する各種設備、道具等の多くのものに用いることができる。例えば、水泳プール/浴場/スケートリンクの床張りシート、プール/浴場/スケートリンクの壁張りシート、階段を含む建築物床用シート、乗り物用床マット、運動具/玩具(ラケット、ゴルフクラブ、自転車を含む)のグリップ用シート、老人用介護マット等として用いることができる。
【実施例】
【0064】
本発明にかかる防滑性シートついての各種評価試験を行った。
1.サンプル準備
次の手順で防滑性シート試験用サンプルを作製した。
【0065】
実施例1
防滑性シート試験用サンプルは、まず、防滑性シートを、図6に示す製造工程を用いて作製した後、得られた防滑性シートを縦60cm、横9cmの長方形に裁断し、試験用サンプルとした。材料として、基材層には、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を、硬質層には、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)を、粘着剤層として、アクリル系粘着剤を使用した。厚さは、基材層を50μm、硬質層を100μm、粘着剤層を50μmとした。チルロールの表面処理方法を、50メッシュと100メッシュのアルミナ粒子を1:1の比率でブレンドしプラスト処理した。また、ニップ圧を1.0MPaにした。詳細条件を表1aに示した。
【0066】
実施例2
ニップ圧を0.4MPaにした以外は、実施例1と同様な条件で試験用サンプルを作製した。詳細条件を表1bに示した。
【0067】
比較例1
ニップ圧を0.1MPaにした以外は、実施例1と同様な条件で試験用サンプルを作製した。詳細条件を表1cに示した。
【0068】
比較例2
チルロールの表面処理方法を100メッシュのアルミナ粒子にした以外は、実施例1と同様な条件で試験用サンプルを作製した。詳細条件を表1dに示した。
【0069】
比較例3
チルロールの表面処理方法を50メッシュのアルミナ粒子にした以外は、実施例1と同様な条件で試験用サンプルを作製した。詳細条件を表1eに示した。
【0070】
比較例4
チルロールの表面処理方法を30と50メッシュのアルミナ粒子を1:1の比率でブレンドにした以外は、実施例1と同様な条件で試験用サンプルを作製した。詳細条件を表1fに示した。
【0071】
【表1】

【0072】
2.試験サンプル評価方法
(1)ピッチ,表面粗度の評価
サンプルのピッチ,表面粗さの評価は、キーエンス社のレーザーマイクロスコープ装置(機種VK9710)の粗さ計機能を用いて行った。
【0073】
評価条件として、広域エリアは300×1200μmとし、狭域エリア10×10μmとした。ピッチ測定の為の線分の長さは、第一の凹凸パターンの凹部のピッチとして1200μm、第二の凹凸パターンの凹部のピッチとして100μmとした。また、装置の解析性能は、縦方向768ピッチ、横方向1224ピッチである。試験数(n)は、5とし、その平均値を測定値とした。
(2)表面硬度の評価
サンプルの表面硬度の評価は、Asker社の表面硬度計(機種CL−150)の粗さ計機能を用いて行った。試験数(n)は、10とし、その平均値を測定値とした。
(3)官能評価
試験用サンプルをサーフボート表面に貼り、複数のサーフボード使用者による試験用サンプルの防滑性の有無・程度及び素肌への刺激性の有無・程度の評価を試みた。
【0074】
防滑性の有無・程度の評価の基準は、ワックスと同様に使用できるものを○、激しいアクションや強い踏ん貼りの時には滑ってしまうものを△、常に滑り不安定で使用できないものを×とした。試験数(n)は、10とし、その平均値を測定値とした。
【0075】
また、刺激性の有無・程度の評価の基準は、長時間使用に耐え得るもの(例えば、8時間経過しても素肌に痛みを生じない程度)を○、ある程度の時間の使用に耐え得るもの(例えば、4時間経過しても素肌に痛みを生じない程度)を△、短時間の使用にしか耐え得ないもの(例えば、1時間経過しても素肌に痛みを生じない程度)を×とした。試験数(n)は、10とし、その平均値を測定値とした。
【0076】
3.評価結果
本発明の評価結果を比較例とともに表2に示した。
【0077】
【表2】

【符号の説明】
【0078】
1、2 本発明にかかる防滑性シート
3 従来実施例にかかる防滑性シート
10 基材層
11 基材層の第一の主表面
12 基材層の第二の主表面
15 エンボス層
20 第二の凹凸パターン
21 第二の凹凸パターンの凹部
22 第二の凹凸パターンのピッチ
30 第一の凹凸パターン
31 第一の凹凸パターンの凹部
34 第二の凹凸パターンの凹の深さ
(狭域エリアの表面粗さの測定値が最大高さ(Rmax))
36 第一の凹凸パターンの凹の深さ
(広域エリアの表面粗さの測定値が最大高さ(Rmax))
50 硬質層
60 接着剤層もしくは粘着剤層
100 サーフボード
120 基材層と硬質層からなる防滑性シート素材A(基材表面にエンボス層なし)
122 ニップロール
123 チルロール
124 T−ダイ
126 基材層と硬質層からなる防滑性シート素材B(基材表面にエンボス層あり)
130 塗工機
131 乾燥炉
140 巻き取りロール
200 サーフボード使用者の素肌(足)
300 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の主表面と前記第一の主表面の反対側に第二の主表面を有する基材を含む防滑性シートであって、前記第一の主表面は、第一の凹凸パターンと、前記第一の凹凸パターンの凸部上に配置される第二の凹凸パターンから構成されるエンボス形状を備え、前記第一の凹凸パターンの凹部のピッチが50μm以上200μm以下であり、前記第二の凹凸パターンの凹部のピッチが前記第一の凹凸パターンの凹部のピッチの20%以下であり、第一の凹凸パターンと第二の凹凸パターンを含むエリアの表面粗さの最大高さ(Rmax)が25μm以上50μm以下であり、第二の凹凸パターンのみを含むエリアの表面粗さの最大高さ(Rmax)が8μm以上15μm以下であり、前記エンボス形状を構成する第一の凹凸パターンの凹部と第二の凹凸パターンの凹部とは相互に連通する防滑性シート。
【請求項2】
前記基材の表面硬度が、ショアAデュロメーター値で50〜75の範囲にある請求項1に記載の防滑性シート。
【請求項3】
前記基材は、前記第二の主表面側に硬質シート層を有し、前記硬質シート層は前記基材面側と反対側の表面に粘着剤層を有する請求項1または2に記載の防滑性シート。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の防滑性シートを有したサーフボード。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−22748(P2013−22748A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156497(P2011−156497)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】