説明

防火扉

【課題】輻射熱伝達を低減することで、非火災側の温度上昇を抑制することができる。
【解決手段】扉枠2に開閉自在に設置されると共に板状部材によって液密に囲われた内空部に空気層Eを有する扉本体3と、扉本体3の内面に沿って設けられた板状、あるいはシート状の輻射反射膜4と、内空部において扉面に平行に配列された板状、あるいはシート状の複数の輻射反射板5とを備え、輻射反射板5が内空部において扉本体3の厚さ方向に間隔をあけて複数配列された構成の防火扉1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非火災側の温度上昇を抑えることができる防火扉に関する。
【背景技術】
【0002】
扉などの開口部は、火災時に避難者の通りみちになると共に、熱気流の通りみちにもなっている。開口部を通して熱気流が建物内で拡大すると、避難路を閉鎖するとともに、内部の延焼拡大を促進することにもなることから、これらを防ぐために主要な開口部には、鋼製板からなる防火扉が設けられているのが一般的である。このような防火扉では、煙や火炎は遮断できるようになっており、自動閉鎖機構を有しているものもある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−307654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の防火扉では、以下のような問題があった。
すなわち、火災が勢いを増し、防火扉の火災側の温度が上昇してくると、火災側と非火災側を仕切っている防火扉が閉鎖していても、防火扉自体を媒介にして火災側の多量な熱を、輻射、対流、熱伝導により非火災側へ伝えてしまうことになる。これにより、熱を受けた非火災側の可燃物が着火し、防火扉が閉鎖していたにもかかわらず、火災側から非火災側へ火災が拡大するといった問題があった。
また、避難経路に面して防火扉が設けられている場合には、防火扉を介した熱により、避難者が避難経路を通れなくなるといった問題があった。
とくに火災側の火災が勢いを増してくると、その防火扉の内部での輻射熱伝達が増大することから、輻射熱伝達は非火災側の火災拡大の原因となっていた。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、輻射熱伝達を低減することで、非火災側の温度上昇を抑制することができる防火扉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る防火扉では、板状部材によって液密に囲われた内空部に空気層を有する扉本体と、板状、あるいはシート状をなし、内空部において面方向を扉面に略平行にして配置される輻射反射部材とを備えていることを特徴としている。
【0007】
本発明では、扉本体の内空部において輻射反射部材を扉板の面方向に平行に配しておくことで、この輻射反射部材によって火災側で高温となった扉板から入射される輻射熱を火災側へ向けて反射させることができる。つまり、輻射反射部材における非火災側の扉板側ヘの輻射率を抑えることができるとともに、非火災側裏面への輻射に対する反射率を高めることができる。そのため、防火扉の非火災側裏面への輻射熱伝達による入射熱が低減され、防火扉の非火災側表面の温度上昇を抑えることができる。
これにより、熱を受けた非火災側の可燃物が着火するのを防止でき、火災側から非火災側へ火災が拡大するのを防ぐことができる。しかも、避難経路に面して防火扉が設けられている場合には、防火扉を介して火災側の高温の熱が非火災側へ伝わりにくいので、非火災側の避難経路を確保することができる。
また、輻射反射部材が板状、あるいはシート状をなしているので、軽量であり、容易に施工できる利点がある。
【0008】
また、本発明に係る防火扉では、輻射反射部材は、内空部において扉本体の厚さ方向に間隔をあけて複数配列されていることが好ましい。
本発明では、輻射反射部材を扉本体の厚さ寸法、すなわち扉本体の内空部の大きさに応じて輻射反射部材の数量を調整して配置することができる。そのため、輻射反射部材の材質や厚さ寸法に応じた空気層の厚さ寸法となるように輻射反射部材を配列させることができる。また、中空部で扉板より間隔をあけて配置される輻射反射部材の数量を増やすことで、扉本体(扉板)の内面に沿って設けられる輻射反射部材を省略、或いは少なくすることができる。
【0009】
また、本発明に係る防火扉では、輻射反射部材によって仕切られる空気層の厚さ寸法は、1〜2cmであることが好ましい。
この場合、各空気層における厚さ寸法を1〜2cmとすることで、空気層内で対流を発生させることなく高い断熱性を確保することができる。
【0010】
また、本発明に係る防火扉では、扉本体は、その厚さ方向に延在する外周板の少なくとも一部が不燃材により形成されていることがより好ましい。
本発明では、不燃材部分の熱伝導が小さいので、外周板全体が鋼製からなる部材に比べて、少なくとも一部に不燃材が使用された外周板を介して防火扉の火災側表面から非火災側表面へ伝導する熱を抑えることができる。
【0011】
また、本発明に係る防火扉では、内空部には、対向する扉面同士が連結されるとともに、扉本体の厚さ方向に延在する支持材が設けられ、支持材の少なくとも一部が不燃材により形成されていることが好ましい。
本発明では、不燃材部分の熱伝導が小さいので、支持材全体が鋼製からなる部材に比べて、少なくとも一部に不燃材が使用された支持材を介して防火扉の火災側表面から非火災側表面へ伝導する熱を抑えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防火扉によれば、輻射反射部材における非火災側の扉板側ヘの輻射率を抑えるとともに、非火災側裏面への輻射に対する反射率を高めて輻射熱伝達を低減することで、防火扉を通しての火災側表面から非火災側表面への熱移動が抑制され、非火災側の温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態による防火扉の正面図である。
【図2】図1に示すA−A線断面図であって、防火扉の縦断面図である。
【図3】図2に示すB−B線断面図であって、防火扉の水平断面図である。
【図4】第1変形例による防火扉の部分水平断面図である。
【図5】第2変形例による防火扉の部分水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態による防火扉について、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1乃至図3に示すように、本実施の形態による防火扉1は、扉枠2に図示しないヒンジを介して開閉自在に設置されると共に板状部材によって液密に囲われた内空部に空気層Eを有する扉本体3と、扉本体3の内面に沿って設けられた輻射反射膜4(輻射反射部材)と、内空部において扉面に平行に配列された複数(ここでは2枚)の輻射反射板5(5A、5B)(輻射反射部材)とを備えて概略構成されている。
【0016】
扉本体3は、一対の扉板31A、31Bが一定の間隔をもって対向して配置され、それら扉板31A、31B同士間の空間の外周部の上下左右に位置する側面には一対の縦板32、32(外周板)と一対の横板33、33(外周板)とが設けられ、これら扉板31A、31B、縦板32、32、横板33、33によって箱状に且つ液密に枠組みされている。扉本体3としては、スチール製、ステンレス製などの構成板から形成されたものを採用することができる。なお、扉板31A、31Bの厚さ寸法は、例えば薄型仕様として用いられる1.0mm程度から一般的な仕様の1.6mm程度とすることが可能である。
【0017】
ここで、防火扉1において、扉板31A、31Bの板面に垂直となる方向を厚さ方向という。また、図2及び図3において、防火扉1の紙面左側を火災側(符号S)とし、同じく紙面右側を非火災側(符号T)とし、火災側Sに面する第1扉板31Aの表面に符号3aを付し、非火災側Tに面する第2扉板31Bの表面に符号3bを付して以下統一して用いる。
【0018】
図3に示すように、扉本体3には、その内空部において、対向する扉板31A、31B同士が連結されるとともに、扉本体3の厚さ方向に延在する支持材34が水平断面視で2本設けられている。また、支持材34は、扉板31A、31Bの表面を凹凸無く平滑に保つために設けられている。これら支持材34は、スチール製、或いはステンレス製の部材からなり、内空部において例えば扉本体3の幅方向で数十cm間隔で均等、あるいは集中的に配置されている。
【0019】
図2および図3に示すように、輻射反射膜4は、扉本体3の内面に沿ってほぼ全面を覆って貼り付けられている。なお、輻射反射膜4と扉本体3とは、密着した状態でも、僅かに隙間をもった状態であってもかまわない。この輻射反射膜4として、銅やアルミニウム等を薄くした材料が使用され、さらに銅やアルミニウムよりも耐熱温度が高く、反射率の高い材料を採用することも可能である。
【0020】
輻射反射板5A、5Bは、それぞれの面方向を扉板31に平行に配列され、互いに所定の間隔dをもって配置され、縦板32と横板33に固定されている。また、輻射反射板5A、5Bは、それぞれ扉本体3の内周面に設けられる輻射反射膜4に対しても所定の間隔dをあけて配置されている。この輻射反射板5A、5Bとして、銅やアルミニウム等を薄くフィルムやシート状にした材料が使用され、さらに銅やアルミニウムよりも耐熱温度が高く、反射率の高い材料を採用することも可能である。
【0021】
扉本体3の内空部には上述したように空気層Eが設けられており、この空気層Eは輻射反射板5A、5Bによって仕切られ、複数層(ここでは3層)の空気層E1、E2、E3が設けられた構成となっている。この各空気層E1、E2、E3の厚さ寸法dは、1〜2cmとなるように輻射反射板5の配置枚数により設定されている。ここで、空気層Eの厚さ寸法dを1〜2cmとすることで高い断熱性を確保することができる。2cmを超える厚さになると、空気層E内で対流が生じて断熱力が増えず、断熱効果が期待できなくなる。これは、「建築気候」(斎藤平蔵、p6−p7、共立出版)に記載されている。
【0022】
次に、上述した防火扉1の作用について図1乃至図3に基づいて詳細に説明する。
図2に示すように、防火扉1では、扉本体3の内空部において輻射反射膜4および輻射反射板5A、5Bを扉板31の面方向に平行に配しておくことで、これら輻射反射膜4および輻射反射板5A、5Bによって火災側で高温となった扉板31から入射される輻射熱を火災側Sへ向けて反射させることができる。つまり、輻射反射膜4および輻射反射板5A、5Bにおける非火災側Tの扉板31側ヘの輻射率を抑えることができるとともに、非火災側裏面への輻射に対する反射率を高めることができる。そのため、防火扉1の非火災側裏面への輻射熱伝達による入射熱が低減され、防火扉1の非火災側表面3bの温度上昇を抑えることができる。
【0023】
さらに具体的には、火災側Sの第1扉板31Aから入射される第1輻射熱H1は輻射反射膜4によって反射し、輻射熱量が低減された第2輻射熱H2が火災側Sの輻射反射板5Aによって反射(符号F2)し、さらに輻射熱量が低減された第3輻射熱H3が非火災側Tの輻射反射板5Bによって反射(符号F3)し、さらに第4輻射熱H4が非火災側Tの輻射反射膜4によって反射(符号F4)した第5輻射熱H5が非火災側Tの扉板31Bより出射することになる。このときの第5輻射熱H5は、複数回の反射により入射される第1輻射熱H1に比べ小さくなる。そして、本実施の形態では、縦材32や横材33の内周面側にも輻射反射膜4が設けられているので、この部分の輻射反射膜4においても輻射熱が反射されることになる。
【0024】
これにより、熱を受けた非火災側Tの可燃物が着火するのを防止でき、火災側Sから非火災側Tへ火災が拡大するのを防ぐことができる。しかも、避難経路に面して防火扉1が設けられている場合には、防火扉1を介して火災側Sの高温の熱が非火災側Tへ伝わりにくいので、非火災側Tの避難経路を確保することができる。
【0025】
また、輻射反射板5を扉本体3の厚さ寸法、すなわち扉本体3の内空部の大きさに応じて輻射反射板5の数量を調整して配置することができる。そのため、輻射反射板5の材質や厚さ寸法に応じた空気層Eの厚さ寸法となるように輻射反射板5を配列させることができる。また、中空部で扉板31より間隔をあけて配置される輻射反射板5の枚数を増やすことで、扉本体3(扉板31)の内面に沿って設けられる輻射反射部膜4を省略、或いは少なくすることができる。
【0026】
さらに、輻射反射膜4および輻射反射板5が板状、あるいはシート状をなしているので、軽量であり、容易に施工できる利点がある。
【0027】
上述のように本実施の形態による防火扉では、輻射反射膜4および輻射反射板5における非火災側Tの扉板31側ヘの輻射率を抑えるとともに、非火災側裏面への輻射に対する反射率を高めて輻射熱伝達を低減することで、防火扉3を通しての火災側表面3aから非火災側表面3bへの熱移動が抑制され、非火災側Tの温度上昇を抑制することができる。
【0028】
次に、上述した実施の形態による防火扉の変形例について、添付図面に基づいて説明するが、上述の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施の形態と異なる構成について説明する。
【0029】
図4に示すように、第1変形例による防火扉1Aは、扉本体3の厚さ方向に延在する外周部に位置する縦板32と支持材34に不燃材を用いた部分(図4で符号K)を備えた構造となっている。この不燃材としては、熱伝導率が小さく、軽量で、且つ大気圧に押し潰されないような圧縮強度を有する部材であって、例えばコンクリート、木材などが好ましい。
第1変形例では、不燃材部分Kの熱伝導が小さいので、縦板32及び支持材34の全体が鋼製からなる部材に比べて、不燃材が使用された縦板32及び支持材34を介して防火扉1の火災側表面3aから非火災側表面3bへ伝導する熱を抑えることができる。
【0030】
次に、図5に示す第2変形例による防火扉1Bは、縦材32及び支持材34のそれぞれの長さ方向の両端部に前記第1変形例と同様の不燃材部分Kを採用した構成となっている。支持材34の鋼製部分(符号I)と不燃材部分Kとは適宜な接着剤により固着されている。
このような防火扉1Bでは、縦材32及び支持材34の扉板31A、31Bとの接触部分に不燃材(不燃材部分K)が設けられているので、縦材32及び支持材34の全体が鋼製からなる部材に比べて、不燃材が使用された縦板32及び支持材34を介して防火扉1の火災側表面3aから非火災側表面3bへ伝導する熱を抑えることができる。
【0031】
以上、本発明による防火扉の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では輻射反射膜4及び輻射反射板5を扉本体3の中空部に備えているが、これらを設けることに限定されることはなく、輻射反射膜4及び輻射反射板5のいずれか一方を省略することも可能である。そして、本実施の形態では、輻射反射膜4を扉本体3の内周面全面にわたって配置しているが、これに限定されることはなく、扉板31A、31Bの内周面のみに沿って配置させるようにしても良い。
【0032】
また、輻射反射板5の配列枚数についても、本実施の形態では2枚を設ける構成としているが、1枚、あるいは3枚以上であってもかまわない。
そして、輻射反射板5の設置間隔、輻射反射板5と扉板31との間隔についても適宜設定可能であり、これらの間隔dが同一寸法であることに限定されることもない。
【0033】
さらに、本実施の形態では防火扉1として片開き式のものを対象としているが、これに限らず、親子式扉、両開き式扉などの防火扉を適用対象とすることができる。
【符号の説明】
【0034】
1、1A、1B 防火扉
2 扉枠
3 扉本体
4 輻射反射膜(輻射反射部材)
5、5A、5B 輻射反射板(輻射反射部材)
31A、31B 扉板
32 縦板
33 横板
34 支持材
K 不燃材部分
E、E1、E2、E3 空気層
S 火災側
T 非火災側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材によって液密に囲われた内空部に空気層を有する扉本体と、
板状、あるいはシート状をなし、前記内空部において面方向を扉面に略平行にして配置される輻射反射部材と、
を備えていることを特徴とする防火扉。
【請求項2】
前記輻射反射部材は、前記内空部において扉本体の厚さ方向に間隔をあけて複数配列されていることを特徴とする請求項1に記載の防火扉。
【請求項3】
前記輻射反射部材によって仕切られる前記空気層の厚さ寸法は、1〜2cmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の防火扉。
【請求項4】
前記扉本体は、その厚さ方向に延在する外周板の少なくとも一部が不燃材により形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の防火扉。
【請求項5】
前記内空部には、対向する扉面同士が連結されるとともに、前記扉本体の厚さ方向に延在する支持材が設けられ、
該支持材の少なくとも一部が不燃材により形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の防火扉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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