説明

防火用の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤およびその使用方法

【課題】鉄骨の防火のための膨張コーティングをもたらすコーティング剤であって、一方で簡単かつ迅速に適用することができ、他方で高い耐候性を備え、さらに比較的低い熱安定性を有し、その結果、防火に必要な膨張特性を層厚を薄くした場合にも問題なく得ることができるものを提供する。
【解決手段】膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤は、少なくともエポキシ樹脂を含有する成分(A)と、少なくとも前記エポキシ樹脂のための硬化剤を含有する硬化剤成分(B)と、少なくとも酸化部分、少なくとも炭素源、および少なくともガス発生部を含有する膨張成分(C)とを含む。成分(A)および(B)が反応しないように互いに分離されたまま維持され、混合された際に始めて重合反応する。成分(A)が少なくともビニルエステルを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともエポキシ樹脂を含有する成分(A)と、少なくとも前記エポキシ樹脂のための硬化剤を含有する硬化剤成分(B)と、少なくとも酸化部分、少なくとも炭素源、および少なくともガス発生部を含有する膨張成分(C)とを含み、前記成分(A)および(B)が反応しないように互いに分離されたまま維持され、混合された際に始めて重合反応する、防火用の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨構造要素の防火のために、鉄骨構造要素に適用され、火災の際に含有された膨張剤成分が膨張し、その結果生じる長期燃焼性により優れた防火を可能にする膨張コーティング剤が使用される。このような防火コーティング剤は、一方で、簡単、迅速かつ可能な限り短い作業時間で保護されるべき鉄骨構造に適用されねばならず、乾燥時間が短い必要がある。同時に、所望の防火性を示すとともに、このほかにも耐候性がなければならず、これに関して、特に石油プラットフォーム上の鉄骨構造の場合には、コーティング剤に高度な要求がなされる。
【0003】
従来から市販されている可視範囲の鉄骨構造の防火のための膨張防火コーティング剤は、水または溶剤を基剤として合成され、スプレー装置の助力によって適用されるが、これにより、必要な層厚を得るために複数の作業工程での適用が必要になる。このような従来のコーティング剤は乾燥時間が比較的長いので、コーティングを完了する作業過程に手間がかかってしまう。加えて、水を基剤とするコーティング剤は、膨張を起こすための水溶性添加剤がコーティングから洗い流されるのを防止するため、いずれの場合にも付加的な表面コーティングを必要とし、これは、明らかに石油プラットフォームの鉄骨構造に使用する際に、それ自体に多額のコストがかかる。
【0004】
他にも、石油プラットフォームの鉄骨構造に対するこのようなコーティングの耐候性を安定させるために、エポキシ樹脂を基剤とする系を使用できることが知られている。もっとも、この場合にはこのようなコーティングの膨張特性に影響が生じる。これは、コーティングのエポキシ樹脂は硬化した際に非常に高い熱安定性を示し、従って、火災の際にコーティングが軟化せず、その結果、必要な規模の所望の膨張反応が生じないからである。さらに、防火コーティングの層厚を、センチメータ単位の非常に大きなものとする必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、本発明の根底にある課題は、鉄骨の防火のための膨張コーティングをもたらすコーティング剤であって、一方で簡単かつ迅速に適用することができ、他方で高い耐候性を備え、さらに比較的低い熱安定性を有し、その結果、防火に必要な膨張特性を層厚を薄くした場合にも問題なく得ることができるものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことには、この目的は、膨張構成材を含むエポキシ・ビニルエステル・ハイブリッドポリマー系によって解決できる。このようなハイブリッドポリマー系は、コーティングの高い耐候性を保証するエポキシ樹脂部分と、低い温度安定性により火災の際にコーティングの最適な膨張を実現するビニルエステル部分とを含む。
【0007】
従って、本発明の対象は、請求項1に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤である。従属請求項は、このような本発明の対象の好適な態様、およびこのようなコーティング剤を鉄骨構造要素の防火コーティングに使用することに関する。
【0008】
すなわち、本発明は、少なくともエポキシ樹脂を含有する成分(A)と、少なくとも前記エポキシ樹脂のための硬化剤を含有する硬化剤成分(B)と、少なくとも酸化部分、少なくとも炭素源、および少なくともガス発生部を含有する膨張成分(C)とを含み、前記成分(A)および(B)が反応しないように互いに分離されたまま維持され、混合された際に始めて重合反応する、防火用の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤において、前記成分(A)が少なくともビニルエステルを含有すること特徴とするコーティング剤である。
【0009】
また、ビニルエステルとして、アルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキルメタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、エーテル(メタ)アクリレート、多官能性網目状(メタ)アクリレート、ビニルエステルウレタン樹脂、アルコキシル化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、アルコキシル化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸無水物および(メタ)アクリルニトリルからなる群のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0010】
さらに、ビニルエステルとして、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジイソデシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸エステル13.0、(メタ)アクリル酸エステル17.4、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ジメチルアミノエチルメタアクリレート、3-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、2-トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレートクロライド、3-トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリルアミドクロライド、2-tert-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、エチルトリグリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メタオキシポリエチレングリコール350(メタ)アクリレート、メタオキシポリエチレングリコール500(メタ)アクリレート、メタオキシポリエチレングリコール750(メタ)アクリレート、メタオキシポリエチレングリコール1000(メタ)アクリレート、エトキシ化(25 mol EO)C16-C18-脂肪族アルコール溶液の(メタ)アクリル酸エステル、ブチルジグリコール(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール400ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-600-ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール1000ジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、ジウレタンジ(メタ)アクリレート、多官能性イソシアネート、場合によって多価アルコールおよび/または場合によって多価アミンおよびヒドロキシル(メタ)アクリレートの置換物、エトキシ化(2 EO)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化(10 EO)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸無水物、マレイン酸モノ-2-(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、N-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)エチレン尿素、エチレンシアンヒドリン、およびアセトンシアンヒドリンからなる群のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0011】
上述のビニルエステルの化学名称に使用される命名法「…(メタ)アクリレート」は、関連するメタアクリレート結合およびアクリレート結合が含まれることを意味する。従って、メチル(メタ)アクリレートは、メチルメタアクリレートおよびメチルアクリレートを示す。同様のことは、(メタ)アクリル酸誘導体および(メタ)アクリルアミドにもいえる。
【0012】
成分(A)は、エポキシ樹脂として、多価アルコールおよび/またはフェノールのグリシジルエーテル、ビスフェノールA樹脂、ビスフェノールF樹脂、ノボラック樹脂およびエポキシ化ポリスルフィドからなる群のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0013】
エポキシ化ポリスルフィドとして、一般式1
【化1】

(式中、R1は1〜6の炭素原子を有するアルキル基またはアリール基を、R2は化学式
-(CH2CH2OCH2OCH2CH2-SS)n-(CH2CH2OCH2OCH2CH2)- を、およびnは1〜8の値をとる整数を意味する。)の化合物を含むことが好ましい。
【0014】
エポキシ樹脂のための硬化剤として、脂肪族、脂環族、芳香族および/または芳香脂肪族のアミンおよびポリアミンを含む基の代表、好適にはベンジルメチルアミンおよび/またはジエチレントリアミンを少なくとも1つ含むことが好ましい。
【0015】
膨張成分(C)は、構成材として、リン酸メラミン、リン酸マグネシウム、ホウ酸およびポリリン酸アンモニウムからなる群のうちの少なくとも1つを含むことが好ましく、炭素源として、ペンタエリスリット、ジペンタエリスリット、トリペンタエリスリット、澱粉および膨張グラファイトからなる群のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0016】
膨張成分(C)のガス発生部として、メラミン、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ホウ酸メラミン、シアヌール酸メラミン、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ポリリン酸アンモニウムおよび塩化パラフィンからなる群のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0017】
さらに、本発明によると、コーティング剤が硬化反応のための促進剤、例えば2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを少なくとも1つ含むと好適である。
【0018】
硬化反応のための反応性希釈剤を少なくとも1つ含むことが好ましく、この硬化反応のための反応性希釈剤として、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリトリットテトラグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサジオールジグリシジルエーテル、およびプロピレングリコールジグリシジルエーテルからなる群のうちの少なくとも1つを含むことがさらに好ましい。
【0019】
5〜80重量%、好適には10〜60重量%のエポキシ樹脂、1〜80重量%、好適には5〜50重量%のビニルエステル、0.5〜10重量%、好適には1〜8重量%の硬化剤、0.1〜50重量%、好適には1〜30重量%の反応性希釈剤、0.1〜5重量%、好適には0.5〜3重量%の促進剤、1〜80重量%、好適には20〜70重量%の前記膨張成分(C)を含み、これらの構成材の総和が100重量%であることが好ましい。
【0020】
膨張成分(C)が、1〜50重量%、好適には5〜30重量%の酸化部分、1〜50重量%、好適には5〜30重量%の炭素源、0.1〜30重量%、好適には1〜20重量%のガス発生部を含み、これらの構成材の総和が100重量%であることが好ましい。
【0021】
無機充填剤、レオロジー補助剤、チキソトロピー剤、安定剤、粘着剤、着色剤、色素および/または溶剤をさらに含むことが好ましい。
【0022】
成分(A)、硬化剤成分(B)および膨張成分(C)が、二室または複数室容器に互いに別個に、使用条件下において反応可能に収容されることが好ましい。
【0023】
驚くべきことには、請求項に記載のコーティング剤のポリマーマトリクスのための本発明による少なくとも一種類のエポキシ樹脂と少なくとも一種類のビニルエステルとの組み合わせにより、鉄骨構造の防火の観点から好適な双方のポリマー系の特性がハイブリッド系に統合される。ハイブリッドポリマー系のエポキシ樹脂部分は、コーティングの高い天候安定性を保証するのに対し、ビニルエステル部分の比較的低い温度安定性は、膨張成分の最適な膨張を提供し、驚くべきことには、高い天候安定性は、例えば海上に固定された石油プラットフォーム上で課されるような過酷な条件下でももたらされる。さらに、予期しなかったことには、本発明によるコーティング剤により、鉄骨構造要素に求められる防火耐性が500〜3000μmの層厚で実現する。本発明によるコーティング剤は溶剤が不要な反応系であるので、きわめて短時間の間に多くの手間を必要とすることなく必要な層厚が得られる。
【0024】
樹脂成分(A)、硬化剤成分(B)および膨張成分(C)に関するコーティング剤の組成の変更により、加工特性、すなわち乾燥時間、天候安定性などあるいは防火耐久時間に関する要求仕様を目論見どおりに調節可能である。本発明によるコーティング剤の硬化は、熱によりまたは空間もしくは環境温度で実行できる。
【0025】
このような好適な特性があるので、本発明は、このような膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤を鉄骨構造要素の防火コーティングに使用することにも関連する。
【0026】
以下の実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
本発明による膨張二成分エポキシ樹脂コーティング剤の製造に、以下の構成材を使用する。
成分(A):
(1)エポキシ樹脂: 22.2重量% ビスフェノールA/F樹脂 (Epilox AF 18-30)
(2)エポキシ樹脂: 11.2重量% 樹脂化ポリスルフィド (Thioplast EPS 25)
(3)促進剤: 1.1重量% 2,4,6-トリス(ジエチルアミノメチル)-フェノール (TR-30)
(4)ビニルエステル: 2.2重量% ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド (DMAPMA)
(5)ビニルエステル: 11.2重量% エトキシ化(2EO)ビスフェノールAジメタクリレート (SR 348L)
硬化成分(B):
(6)硬化剤: 2.7重量% ジエチルトリアミン (DETA)
(7)硬化剤: 0.8重量% ベンジルメチルアミン
膨張成分(C):
(8)酸成分: 17.5重量% ポリリン酸アンモニウム (Exolith AP 422)
(9)炭素源: 13.2重量% ペンタエリトリトール
(10)ガス発生剤: 3.3重量% ポリリン酸メラミン
(11)ガス発生剤: 3.3重量% メラミン
(12)色素: 11.3重量% 二酸化チタン
【0028】
結合剤の構成材は液体なので、溶剤または水の使用は不要である。
【0029】
樹脂成分(A)の製造のために、結合構成材(1)から(5)を溶解器の中で混合し、次に膨張成分(C)の構成材を混ぜる。この結合混合物を、二室装置の一室に入れる。硬化成分(B)の構成材(6)および(7)を混合し、二室装置の第二室に入れる。
【0030】
規定に従って使用する際には、膨張成分(C)を含有する樹脂成分(A)を硬化成分(B)と混合し、合成されたコーティング材を下塗りした鋼板に適用し、90分間100℃で硬化させる。
【実施例2】
【0031】
成分(A):
(1)エポキシ樹脂: 22.2重量% ビスフェノールA/F樹脂 (Epilox AF 18-30)
(2)エポキシ樹脂: 11.2重量% 樹脂化ポリスルフィド (Thioplast EPS 25)
(3)促進剤: 1.1重量% 2,4,6-トリス(ジエチルアミノメチル)-フェノール (TR-30)
(4)ビニルエステル: 2.2重量% ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド (DMAPMA)
(5)ビニルエステル: 11.2重量% 6官能性芳香族ウレタンアクリレートオリゴマー (Carynor 975)
硬化成分(B):
(6)硬化剤: 2.7重量% ジエチルトリアミン (DETA)
(7)硬化剤: 0.8重量% ベンジルメチルアミン
膨張成分(C):
(8)酸成分: 17.5重量% ポリリン酸アンモニウム (Exolith AP 422)
(9)炭素源: 13.2重量% ペンタエリトリトール
(10)ガス発生剤: 3.3重量% ポリリン酸メラミン
(11)ガス発生剤: 3.3重量% メラミン
(12)色素: 11.3重量% 二酸化チタン
【0032】
結合剤の構成材は液体なので、溶剤または水の使用は不要である。
【0033】
実施例1に記載のやり方に従って合成されたコーティング剤を下塗りした鋼板に適用し、10分未満で硬化させる。本発明によるコーティング剤のこのような乾燥時間は驚くほど短く、というのも、水または溶剤を基剤とする市販の膨張コーティング剤では、およそ24時間の乾燥時間が必要である。
【実施例3】
【0034】
火災時の反応
実施例1の本発明によるコーティング剤の火災時の反応を市販の鉄骨防火コーティング剤と比較した。このために、5mmの厚さの金属板の、燃焼試験の際に炎と向かい合う側に50μmの下塗り層を設け、その後、膨張コーティング剤からなる2,000μmの厚みの層を設ける。このような金属板を実験室燃焼試験炉に入れ、その際板のコーティング剤を設けた側を炎にさらし、一方で、金属板の炎が当たらない側に、温度測定用の熱電素子を配置する。本発明および従来技術によりコーティングした鋼板の温度変化を添付の図1に示しており、実線の曲線が本発明による鉄骨防火コーティングを示し、点線の曲線が比較試料を示す。
【0035】
明らかに、本発明によるコーティング剤によると、顕著に優れた防火効果が得られた。本発明によりコーティングした板の耐火時間は500度℃で61分であったのに対し、操作試料の耐火時間はたった44分であった。
【実施例4】
【0036】
耐候性
耐候性を検討するために、DIN 50021 ASTM B 117-60による塩水噴霧試験を実行し、その際、鋼板を完全に下塗りしコーティングする通常の塩水噴霧試験とは異なり、純粋にコーティング剤のみを試験した。2×3cmの大きさの長方形の鋼板片の5箇所を層厚測定機械によって測定した。乾燥した層の初期の厚みがおよそ0.1mmとなるようにした。その後、試料を10mlの水で満たしたプラスチックペトリ皿に入れ、規定の時間の間35℃で保持した(時間ごとそれぞれ3つの試料)。次に、水を空け、試料を少なくとも24時間の間35℃で乾燥させ、その後再度少なくとも5箇所で厚みを図った。このようにして、乾燥した層の厚みの減少量の平均をパーセント単位で計算した。
【0037】
このような研究によって、本発明による膨張多成分エポキシコーティング剤によって形成された層の層厚は35℃の水中に14日間保持した際に一定であることが明らかになった。
【0038】
これに対し、従来の水を基剤とする膨張コーティング剤によるコーティングの厚みは、6時間後に既におよそ80パーセント減少し、その後ほぼ一定となった。市販の溶剤を基剤とするコーティング剤の助力によって形成されたコーティングは、水中保持の間に気泡を形成し、14日後には膨れ上がり、大きな気泡で一面が覆われた。完全に乾燥させたあとでは、層厚は水中保持の前とほぼ同一であったので、膨張成分の構成材は洗い流されていなかった。しかし、このような反応は、使用者にとって容認できない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明および従来技術によりコーティングした鋼板の温度変化を示すグラフであり、実線の曲線が本発明による鉄骨防火コーティングを示し、点線の曲線が比較試料を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともエポキシ樹脂を含有する成分(A)と、少なくとも前記エポキシ樹脂のための硬化剤を含有する硬化剤成分(B)と、少なくとも酸化部分、少なくとも炭素源、および少なくともガス発生部を含有する膨張成分(C)とを含み、前記成分(A)および(B)が反応しないように互いに分離されたまま維持され、混合された際に始めて重合反応する、防火用の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤において、前記成分(A)が少なくともビニルエステルを含有すること特徴とするコーティング剤。
【請求項2】
ビニルエステルとして、アルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキルメタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、エーテル(メタ)アクリレート、多官能性網目状(メタ)アクリレート、ビニルエステルウレタン樹脂、アルコキシル化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、アルコキシル化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸無水物および(メタ)アクリルニトリルからなる群のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項3】
ビニルエステルとして、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジイソデシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸エステル13.0、(メタ)アクリル酸エステル17.4、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ジメチルアミノエチルメタアクリレート、3-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、2-トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレートクロライド、3-トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリルアミドクロライド、2-tert-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、エチルトリグリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メタオキシポリエチレングリコール350(メタ)アクリレート、メタオキシポリエチレングリコール500(メタ)アクリレート、メタオキシポリエチレングリコール750(メタ)アクリレート、メタオキシポリエチレングリコール1000(メタ)アクリレート、エトキシ化(25 mol EO)C16-C18-脂肪族アルコール溶液の(メタ)アクリル酸エステル、ブチルジグリコール(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール400ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-600-ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール1000ジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、ジウレタンジ(メタ)アクリレート、多官能性イソシアネート、場合によって多価アルコールおよび/または場合によって多価アミンおよびヒドロキシル(メタ)アクリレートの置換物、エトキシ化(2 EO)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化(10 EO)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸無水物、マレイン酸モノ-2-(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、N-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)エチレン尿素、エチレンシアンヒドリン、およびアセトンシアンヒドリンからなる群のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項4】
前記成分(A)が、エポキシ樹脂として、多価アルコールおよび/またはフェノールのグリシジルエーテル、ビスフェノールA樹脂、ビスフェノールF樹脂、ノボラック樹脂およびエポキシ化ポリスルフィドからなる群のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項5】
エポキシ化ポリスルフィドとして、一般式1
【化1】

(式中、R1は1〜6の炭素原子を有するアルキル基またはアリール基を、R2は化学式 -(CH2CH2OCH2OCH2CH2-SS)n-(CH2CH2OCH2OCH2CH2)- を、およびnは1〜8の値をとる整数を意味する。)の化合物を含むことを特徴とする請求項4に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項6】
エポキシ樹脂のための硬化剤として、脂肪族、脂環族、芳香族および/または芳香脂肪族のアミンおよびポリアミンを含む基の代表、好適にはベンジルメチルアミンおよび/またはジエチレントリアミンを少なくとも1つ含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項7】
膨張成分(C)の構成材として、リン酸メラミン、リン酸マグネシウム、ホウ酸およびポリリン酸アンモニウムからなる群のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項8】
膨張成分(C)の炭素源として、ペンタエリスリット、ジペンタエリスリット、トリペンタエリスリット、澱粉および膨張グラファイトからなる群のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項9】
膨張成分(C)のガス発生部として、メラミン、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ホウ酸メラミン、シアヌール酸メラミン、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ポリリン酸アンモニウムおよび塩化パラフィンからなる群のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項10】
硬化反応のための促進剤を少なくとも1つ含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項11】
硬化反応のための反応性希釈剤を少なくとも1つ含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項12】
硬化反応のための反応性希釈剤として、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリトリットテトラグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサジオールジグリシジルエーテル、およびプロピレングリコールジグリシジルエーテルからなる群のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項11に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項13】
5〜80重量%、好適には10〜60重量%のエポキシ樹脂、1〜80重量%、好適には5〜50重量%のビニルエステル、0.5〜10重量%、好適には1〜8重量%の硬化剤、0.1〜50重量%、好適には1〜30重量%の反応性希釈剤、0.1〜5重量%、好適には0.5〜3重量%の促進剤、1〜80重量%、好適には20〜70重量%の前記膨張成分(C)を含み、これらの構成材の総和が100重量%であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項14】
前記膨張成分(C)が、1〜50重量%、好適には5〜30重量%の酸化部分、1〜50重量%、好適には5〜30重量%の炭素源、0.1〜30重量%、好適には1〜20重量%のガス発生部を含み、これらの構成材の総和が100重量%であることを特徴とする請求項13に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項15】
無機充填剤、レオロジー補助剤、チキソトロピー剤、安定剤、粘着剤、着色剤、色素および/または溶剤をさらに含むことを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項16】
前記成分(A)、前記硬化剤成分(B)および前記膨張成分(C)が、二室または複数室容器に互いに別個に、使用条件下において反応可能に収容されることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤。
【請求項17】
請求項1〜16のうち一項に記載の膨張多成分エポキシ樹脂コーティング剤を鉄骨構造要素の防火コーティングに使用する方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−138198(P2008−138198A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303677(P2007−303677)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【Fターム(参考)】