説明

防火耐火材料及びその製法

【課題】植物系天然素材を炭化して優れた防火耐火断熱性能を持つ材料を提供する。
【解決手段】処理溶液として、株式会社JERICOの防火薬剤ARTEX(アルテックス)MFの水溶液(濃度12重量%)を用意した。また、植物系天然素材として、綿、木、もみがら、稲わら、麻、パームヤシ、かやを用意した。各素材につき、各処理溶液に十分含浸させたあと、24時間自然乾燥するか70℃で3時間の強制乾燥を行い、サンプルを作製した。各サンプルを窒素ガス(5リットル/分、封入)雰囲気下、電気炉中、270℃で10分加熱することにより炭化を行った。こうして得られた材料は、優れた防火耐火性能を有していた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火耐火材料及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、木綿を焼成した炭化綿が知られている。例えば特許文献1では、木綿を400℃で1時間加熱後250℃まで冷却し、その後400℃で30分焼成後250℃まで冷却する操作を3回繰り返し、最後に250℃で6時間焼成することにより、炭化綿を製造している。また、特許文献2では、木綿を負圧条件下(圧力60mbar)、400℃で2時間加熱することにより、炭化綿を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−219357号公報
【特許文献2】特開2007−31914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の炭化綿は、人体に有害なガスなどを吸着除去するのに使用したり、廃油などを吸収させるために使用したりするものであり、防火カーテンや溶接・溶断養生シート、防火服などに使用可能な強度を持つ防火耐火材料に適する炭化綿は、これまで知られていなかった。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、植物系天然素材を炭化して優れた防火耐火性能を持つ材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
すなわち、本発明の防火耐火材料の製法は、植物系天然素材にアンモニウム塩を含む処理溶液に含浸させ、還元雰囲気又は蒸気雰囲気で200〜300℃で加熱して炭化することにより防火耐火材料を得るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、植物系天然素材を原料として優れた防火耐火性能を持つ材料を安価に製造することができる。例えば、得られた防火耐火材料について、ガスバーナーの火炎を120秒接触させる防火加熱試験やJIS A1322:1966「建築用薄物材料の難燃性試験方法」に準拠した難燃性試験を実施したところ、従来知られている無機の防火耐火材料(ガラス発泡材、砂、ロックウールなど)と同等の結果が得られることを確認した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の防火耐火材料の製法に用いる植物系天然素材としては、特に限定するものではないが、例えば、綿織布、綿不織布、綿わた、カポックわた、もみがら、稲わら、麻、パームヤシ、かやなどが挙げられる。このうち、綿織布、綿不織布、綿わたは、衣服や布団などに使用されることが多いが、それらが不用となったときに廃棄処分するのではなく本発明によって防火耐火材料としてリサイクルすることができる。
【0010】
本発明の防火耐火材料の製法に用いる処理溶液としては、アンモニウム塩の水溶液を用いることが好ましい。そのときの濃度は、例えば5〜20重量%とするのが好ましい。アンモニウム塩としては、ポリリン酸アンモニウムや硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウムなどが挙げられ、このうち、ポリリン酸アンモニウムや硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウムが好ましい。また、株式会社JERICOの防火薬剤ARTEX(アルテックス)MFは、ポリリン酸アンモニウムと硫酸アンモニウムを主成分とする薬剤であるため、これをそのまま又は希釈して処理溶液とするのが好ましい。
【0011】
本発明の防火耐火材料の製法において、植物系天然素材に処理溶液を含浸させるのに要する時間は、その植物系天然素材の材質、その使用量、厚さなどに応じて適宜設定すればよいが、概ね10〜200分である。また、処理溶液を含浸させたあとの植物系天然素材は、炭化の前に脱水して過剰の処理溶液を低減させたあと炭化してもよいし、更に100℃以下で乾燥したあと炭化してもよい。
【0012】
本発明の防火耐火材料の製法において、植物系天然素材を炭化するにあたり、(a)還元雰囲気で200〜300℃に加熱するか、(b)蒸気雰囲気で200〜300℃に加熱する。(a)において、還元雰囲気としては、例えば窒素ガス雰囲気が挙げられる。また、炭化時の温度が200℃未満では炭化不足になりやすく、温度が300℃を超えると破損しやすい。こうした炭化時の温度は、210℃〜260℃に設定するのが、安定した品質の防火耐火材料を得るうえで好ましい。また、(b)において、蒸気雰囲気は、例えばボイラーにより発生した水蒸気をヒータで加熱することにより生成することができる。また、炭化時の温度が200℃未満では炭化不足になりやすく、温度が300℃を超えると破損しやすい。こうした炭化時の温度は、210℃〜260℃に設定するのが、安定した品質の防火耐火材料を得るうえで好ましい。なお、蒸気雰囲気で加熱する炭化炉としては、例えば特開2000−63848号公報に記載されたものを使用可能である。
【0013】
本発明の防火耐火材料の製法において、植物系天然素材を炭化する際の加熱時間は、炭化時の温度や植物系天然素材の材質、その使用量、厚さなどに応じて適宜設定すればよいが、概ね5分〜60分、好ましくは5分〜20分である。
【0014】
本発明の防火耐火材料の製法により製造された防火耐火材料は、ガスバーナーの火炎を120秒接触させる防火加熱試験やJIS A1322:1966「建築用薄物材料の難燃性試験方法」に準拠した難燃性試験を実施したところ、従来知られている無機の防火耐火材料(ガラス発泡材、砂、ロックウールなど)と同等の結果が得られる。このため、防火カーテンや溶接・溶断養生シート、防火服などに使用することができる。
【実施例】
【0015】
[試験例1〜54]
処理溶液として、炭酸アンモニウム水溶液(濃度8重量%)と、株式会社JERICOの防火薬剤ARTEX(アルテックス)MFの水溶液(濃度12重量%)とを用意した。また、植物系天然素材として、綿、木、もみがら、稲わら、麻、パームヤシ、かやを用意し、動物系天然素材として、羊毛、絹を用意した。各素材につき、各処理溶液に十分含浸させたあと、24時間自然乾燥するか70℃で3時間の強制乾燥を行い、サンプルを作製した。各サンプルを窒素ガス(5リットル/分、封入)雰囲気下、電気炉中、種々の加熱条件を採用して加熱することにより炭化を行った。その結果を表1に示す。なお、表1中、◎は非常に良好、○は良好(ムラ・収縮変形あり)、△は不良(炭化不足又は破損)を示す。表1から明らかなように、試験例1〜21,28〜48は、植物系天然素材を用いた例であるが、210〜260℃では概ね良好な炭化状況となったが、170℃ではもみがらと稲わらを除いて炭化状況は不良となった。一方、試験例22〜27,49〜54は、動物系天然素材を用いた例であるが、170〜260℃の温度範囲ではすべて炭化状況は不良となった。
【0016】
【表1】

【0017】
[試験例55〜79]
処理溶液として、株式会社JERICOの防火薬剤ARTEX(アルテックス)MFの水溶液(濃度12重量%)を用意した。また、植物系天然素材として、綿織布、綿不織布、綿わた、カポックわた、もみがらを用意した。各素材につき、処理溶液に十分含浸させたあと、24時間自然乾燥を行い、サンプルを作製した。各サンプルを窒素ガス雰囲気下、電気炉中で、250℃又は270℃における最適な加熱時間を探索した。その結果を表2に示す。なお、表1中、炭化状況の判定欄の◎は非常に良好、○は良好、△は不良を示す。表2から明らかなように、加熱温度250〜270℃の場合には、加熱時間を10〜20分に設定するのが好ましい。
【0018】
【表2】

【0019】
[試験例80〜89]
試験例80〜84では、綿織布、綿不織布、綿わた、カポックわた、もみがらを用意した。各素材につき、処理溶液に十分含浸させたあと、24時間自然乾燥を行い、サンプルを作製した。各サンプルを窒素ガス雰囲気下、電気炉中で270℃で10分という加熱条件で炭化させて防火耐火材料を得た。得られた防火耐火材料につき、防火加熱試験を行った。一方、試験例85〜89は、比較例であり、無機防火材料であるガラス発泡材、砂、ロックウール、ケイ酸カルシウム、アルミナファイバーにつき、防火加熱試験を行った。防火加熱試験は、サンプルをガスバーナーにより火炎を接触させ、外観を観察し、防火性能(着火までの時間、焼失までの時間)を測定した。なお、火炎接触時間は最長120秒とした。その結果を表3に示す。表3から明らかなように、試験例80〜84については、変形、減容あるいは灰化が観察されたものの、着火したり焼失したりすることはなかった。試験例85〜89についても、一部弾けたり溶融したりしたものの、着火したり焼失したりすることはなかった。このことから、試験例80〜84の防火耐火材料は、従来の無機耐火材と同等の防火性能を有することがわかった。なお、試験例1〜21のうち、綿、もみがら、稲わら、麻、パームヤシを素材とする炭化材料のうち炭化状況が良好だったものにつき同様の防火加熱試験を実施したところ、試験例80〜84と概ね同等の結果が得られた。
【0020】
【表3】

【0021】
[試験例90〜107]
試験例90〜107では、綿織布、綿不織布、綿わたを用意した。各素材につき、処理溶液に十分含浸させたあと、24時間自然乾燥を行い、サンプルを作製した。各サンプルを窒素ガス雰囲気下、電気炉中で270℃で10分という加熱条件で炭化させて防火耐火材料を得た。得られた防火耐火材料につき、難燃性試験を行った。難燃性試験は、JIS A1322:1966「建築用薄物材料の難燃性試験方法」に準拠して行い、残炎時間(適合基準は5秒以下)、残じん時間(適合基準は20秒以下)、炭化面積(適合基準は40cm2以下)を測定した。なお、各素材につき3つずつサンプルを用意して、この難燃性試験を実施した。その結果を表4に示す。表4から明らかなように、試験例90〜107のいずれも、難燃性試験の各測定項目の適合基準を満足していた。
【0022】
【表4】

【0023】
[試験例108]
試験例108では、綿織布を処理溶液に十分含浸させたあと、24時間自然乾燥を行い、サンプルを作製した。各サンプルを高圧蒸気炉中、蒸気温度を210℃として10分間パージしたところ、まんべんなく炭化が進み、防火耐火材料を得た。得られた防火耐火材料の性能は、電気炉中で270℃で10分という条件で炭化させたものと同等であった。なお、綿織布に処理溶液を含浸させずに高圧蒸気炉中、蒸気温度を210℃として30分間パージしたところ、表面の一部が炭化したにとどまった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、防火カーテンや溶接・溶断養生シート、防火服、防火材、フィルターなどに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物系天然素材にアンモニウム塩を含む処理溶液に含浸させ、還元雰囲気で200〜300℃で加熱して炭化するか蒸気雰囲気で200〜300℃で加熱して炭化することにより防火耐火材料を得る、
防火耐火材料の製法。
【請求項2】
前記処理溶液は、ポリリン酸アンモニウムと硫酸アンモニウムとを含む溶液である、
請求項1に記載の防火耐火材料の製法。
【請求項3】
前記処理溶液は、株式会社JERICOの防火薬剤ARTEX(アルテックス)MF又はその希釈液である、
請求項1に記載の防火耐火材料の製法。
【請求項4】
前記植物系天然素材は、綿製の織布又は不織布である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の防火耐火材料の製法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の防火耐火材料の製法により製造された防火耐火材料。

【公開番号】特開2011−6821(P2011−6821A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153442(P2009−153442)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(507106892)株式会社JERICO (3)
【Fターム(参考)】