説明

防炎性を有するガスホルダー用膜材

【課題】繊維基布の持つ強度に加え、ガスホルダーとして使用可能な耐摩擦性や耐屈曲性を有し、かつガスバリアー性や防炎性にも優れた防炎性を有するガスホルダー用膜材を提供する。
【解決手段】ガスを貯蔵または回収するガスホルダーに用いる膜材において、該膜材が、保護層、基布層、ガスバリアー層、保護層の少なくとも4層がこの順で積層され、かつ、該保護層に難燃剤が保護層の総重量に対して5〜35重量%%含まれていることを特徴とする防炎性を有するガスホルダー用膜材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に大型ガスホルダー用膜材に関するもので、都市ガスや特殊気体などを貯蔵するガスタンクおよび畜産・水産施設からの廃棄物、生ゴミなどの有機性廃棄物からメタンガスや、熱分解ガスなどを発生させるバイオガス処理施設を構築するのに適した膜材に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所などの廃ガスや低圧の燃料ガスなどの貯蔵設備などでは、強化プラスチックや金属からなるガスタンクが用いられている。また、現在では、一般下水処理施設および畜産系し尿処理施設や、生ごみ・焼酎糟・醤油糟などの処理施設などから発生するメタンガスなどを回収し、エネルギーとして利用するバイオガス処理施設や、有機性廃棄物を熱分解して発生するガスを有効利用する施設が注目されている。特に近年、時代のニーズにより、これらの施設の新設が増加していると同時に、各施設の大型化が進んでいる。これらの分野において、ガスを貯蔵および回収する設備を高強度でかつ軽量な膜材でより経済的に構築することが期待されている。例えば、膜式ガスホルダーに関する特許文献1がある。この文献には、強化プラスチック材、金属材などからなる剛構造のボックスの中に、気密性および液密性を有する可撓性膜材からなる袋体で形成されたガスの出し入れ可能なガス貯蔵バックを収納する構造のボックス収納型膜式ガスホルダーについて記載されている。
この文献には、特にガスホルダー用膜材に使用される材料については言及されておらず、膜式ガスホルダーのシステムに関してのみ記述されている。
【0003】
一方、従来のガスバリアー性膜材として、特許文献2には、高分子フィルム基材の少なくとも片面に必要に応じてアンカーコート層を設けて金属または金属化合物薄膜層、必要に応じて保護層を順次形成した透明性を有する被覆フィルムとヒートシール性樹脂を無機の超微粒子を含有するガスバリアー性接着剤を介して接着させたガスバリアー性膜材について記載されている。
ここには、薄膜層にある微小のピンホール部をバリアー性接着剤に含有する超微分散した無機材料が穴埋めすることによる高度なガスバリアー性膜材および他の基材とのラミネーション時などに生じるフィルムの伸び縮みやヒートショックによる熱応力に対して発生した薄膜層のクラックや割れ部からの大量のガス透過を接着剤層で抑制できる積層体として優れたガスバリアー性を有した膜材についての記載はある。しかしながら、この発明は、包装材料を用途とするものであり、この膜材単独でガスバリアー性は確保できるが、本発明が用途とするガスホルダー用膜材の実用に耐えるだけの強度を得ることが困難であった。
【0004】
また、特許文献3には、基布およびガスバリアー層の2層を有する超軽量膜材および樹脂層、繊維基布層、ガスバリアー層からなる超軽量膜材が記載されている。
この発明は、飛行船内部に使用されるバロネットやダイヤフラム(隔膜)を用途としたものであり、ガスホルダー用膜材として実用に耐えられる耐摩擦性や耐屈曲性は確保できていない。加えて、この発明には、ガスバリアー性や防炎性といった膜材性能についても明記されていない。このように、これまではガスホルダー膜材として実用に耐えられる膜物性を確保しつつ、十分なガスバリアー性や防炎性を付与することは困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−048930号公報
【特許文献2】特開2000−006304号公報
【特許文献3】特開2005−119232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、繊維基布の持つ強度に加え、ガスホルダーとして使用可能な耐摩擦性や耐屈曲性を有し、かつガスバリアー性や防炎性にも優れた防炎性を有するガスホルダー用膜材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明らが検討した結果、上記目的は、ガスを貯蔵または回収するガスホルダーに用いる膜材であって、該膜材が、保護層、基布層、ガスバリアー層、保護層の少なくとも4層がこの順で積層され、かつ、該保護層に難燃剤が該保護層の重量に対して5〜35重量%含まれていることを特徴とする防炎性を有するガスホルダー用膜材によって達成できることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、繊維基布の持つ強度に加え、ガスホルダーとして使用可能な耐摩擦性や耐屈曲性を有し、かつガスバリアー性や防炎性の高い膜材を提供することができ、これを用いることで、ガスを貯蔵および回収する設備を高強度でかつ軽量な膜材でより経済的に構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の防炎性を有するガスホルダー用膜材は、ガスを貯蔵または回収するガスホルダーに用いる膜材である。本発明においては、上記膜材が、保護層、基布層、ガスバリアー層、保護層の少なくとも4層がこの順で積層されてなる膜材であり、かつ、該保護層に難燃剤が供述する量含有されていることが肝要である。 本発明において、膜材を構成する基布層は膜材の強度を発現させるための層であり、該基布層としては、繊維からなる基布を使用することが必要である。すなわち、繊維からなる基布を用いることにより、高強度の膜材を得ることができる。
【0010】
基布の形態については、織物、編物、不織布、UDシートなど、特に限定はされないが、基布を構成する繊維の強度を最も発現しやすい織物やUDシートとすることが好ましい。織物の場合、その形態は強度を発現しやすい平織物が好ましく、強度のみならず、引裂強度を向上させる目的でリップ構造を入れることも可能である。
【0011】
基布に使用する繊維素材についても、天然繊維、合成繊維のいずれでも使用可能であるが、これもより高強度の膜材を得るためには、合成繊維を用いることが好ましい。具体的には、ポリエステル、ナイロン、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などを使用することができる。強度の点ではアラミド繊維を代表とする、いわゆるスーパー繊維を使用することが好ましいが、コストパフォーマンスの点でポリエステルやナイロンが好ましい。
【0012】
上記基布を構成する繊維の繊度は30〜1500dtexであることが好ましく、40〜1000dtexであることがより好ましい。繊度が30dtexを下回ると膜材の引裂強度が低くなり、強度の発現率も低下する傾向にある。また、繊度が1500dtexを上回ると、基布の重量が大きくなり、ガスホルダー用膜材に使用するには、重量が大きくなり好ましくない。
【0013】
上記基布層は両側には、フィルム状の塩化ビニル樹脂を載置することができる。これにより表面の平滑性が改善され、ガスバリアー層および保護層である熱可塑性樹脂層との一体化により強固になるとともに膜材の耐屈曲性がより向上し、好ましい。
【0014】
次に、本発明において、膜材にはガスバリアー層を設けることが必要である。これまでも述べてきているように、ガスホルダーは廃棄物から発生したメタンガスや熱分解ガスなどの回収や都市ガスや特殊ガスを貯蔵するための部材であり、高いガスバリアー性が求められる。ガスバリアー層としては、ポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビリニデンフィルム、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムなどを使用することができるが、中でもエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムはガスバリアー性に優れており好ましい。また、熱分解ガス中には、膜を透過し易い多量の水素が含まれており、該水素の漏洩を防ぐ上でも、ガスバリアー層に、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムを使用することが特に有効である。また、上記の各フィルムに金属または金属酸化物などを蒸着加工したものも有効である。
【0015】
一方、膜材をより実用レベルにするために、基布層およびガスバリアー層を保護層により保護する必要がある。本発明の膜材は、ガスホルダー用膜材として使用されるため、ガスバリアー性を維持するために、使用中に傷ついたり破損したりしてはならない。また、ガスホルダーの形状に対応するために、耐屈曲性が必要である。よって、強度を維持する基布層とガスバリアー層を、樹脂コーティングやフィルムラミネートといった保護層により保護することは、膜材の機能を維持し、ガスホルダーの構築を容易にする上で極めて有用である。さらに、ガスホルダーを構築する際、膜材同士を接合するためにもこのような層が設けられることが望ましい。
【0016】
保護層に使用される熱可塑性樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、ポリエステル樹脂、酢酸ビニル樹脂などが単独または共重合体として使用される。上述したように、耐屈曲性があり、かつ防炎性を有する膜材を得るためには、耐屈曲性や耐摩擦性が高く、防炎性の比較的得やすい塩化ビニル樹脂を使用することが適している。また、廃棄物から発生するガスには、硫化水素その他の雑多な混合物が含まれており、膜材の劣化を防ぐためにも、化学的に安定した塩化ビニル樹脂を保護膜に使用するのが望ましい。
【0017】
しかし、これらの熱可塑性樹脂を使用した保護層を設けた場合でも、ガスホルダーとして用いるのに十分な防炎性は得られにくい。そこで、保護層には、難燃剤が該保護層の重量に対して5〜35重量%含まれている必要がある。上記難燃材の含有量は好ましくは10〜30重量%であり、より好ましくは15〜25重量%である。難燃剤の含有量が保護層の重量に対して5重量%を下回ると、膜材に十分な防炎性を付与できない可能性がある。逆に、難燃剤の含有量が保護層の重量に対して35重量%を上回ると、防炎性は十分得られるものの、樹脂が脆化し、耐屈曲性が失われてしまい、本発明の目的を達成し得ない恐れがある。
【0018】
さらに、より高い防炎性をガスホルダーの付与するため、基布層とガスバリアー層の間に同様の難燃剤を含有する樹脂、特に塩化ビニル樹脂からなる中間層を設けることは、有用な手段である。また、基布層に中間層を設けることで基布表面の平滑性が改善され、ガスバリアー層との接着がより強固になるとともに膜材の耐屈曲性がより向上し好ましい。
【0019】
本発明で用いる難燃剤としては、芳香族リン酸エステルや芳香族縮合リン酸エステルなどのようなリン系難燃剤、またはテトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモシクロドデカンなどのようなハロゲン系難燃剤のような有機難燃剤であっても、三酸化アンチモンや赤リンなどのような無機難燃剤であってもよい。なかでも毒性の低いリン系難燃剤を用いることが好ましい。
【0020】
基布層の目付けは、好ましくは20〜300g/m、より好ましくは30〜250g/mである。また、ガスバリアー層の厚さは、好ましくは3〜40μm、より好ましくは5〜30μmである。さらに、基布層側およびガスバリアー層側の保護層の厚さは、いずれも、好ましくは50〜360μm、より好ましくは60〜200μmである。以上の構成として、本発明のガスホルダー用膜材の総厚は、150〜1200μmとすることが好ましく、200〜1000μmとすることがより好ましい。
【0021】
本発明のガスホルダー用膜材は、保護層/基布層/ガスバリアー層/保護層の各層の間は、ウレタン系接着剤などの接着剤によって公知のドライラミネート法、押出コート・ラミネート法、ウエットラミネート法などの接着手段を用いて接着することができる。また、前述したように、保護層/基布層/中間層/ガスバリアー層/保護層のようにさらに多層から構成される場合にも、同様の接着手段が採用される。ここで、各層間における、接着剤の塗布量は、乾燥重量で、好ましくは0.01〜10g/m、より好ましくは1〜5g/mである。
【0022】
ガスホルダー用膜材の性質として、前述した防炎性も重要な性質であるが、ガスバリアー性も重要な性質の一つである。このガスバリアー性を評価する数値として、ガス透過率を測定することは有用である。また、ガスホルダー用膜材は、その使用される用途からメタンガスのガス透過率を測定することが多い。よって、高いガスバリアー性を発揮するガスホルダーの評価基準として、メタンガスのガス透過率が0〜100cc/m・24hrs・atm、好ましくは0〜50cc/m・24hrs・atm、より好ましくは0〜10cc/m・24hrs・atmであることが望ましいが、以上に説明した本発明のガスホルダー用膜材によれば、かかるガス透過率を容易に達成することが可能となる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性は下記の方法により測定した。
(1)ガス透過度
気体透過度試験(JIS K7126A法)により評価した。測定気体にはメタンを用いた。
(2)耐摩擦性および耐屈曲性
繰返もみ試験(JIS K6406)を行った後、表面観察を行った。繰返もみ回数は5,000回とした。
(3)防炎性
ドイツの防炎規格(DIN 4102法)により評価した。
【0024】
[実施例1]
280dtex/48フィラメントのポリエステルマルチフィラメント(帝人ファイバー製、P603Y)を用い、織密度が経34本/インチ、緯35本/インチの平織物(目付け160g/m)の基布である織物を作製した。この基布の両面に厚さ100μmのポリ塩化ビニル樹脂フィルム(PVC)をラミネートし、一方は基布層側の保護層として、他方は基布とガスバリアー層の中間層としてそれぞれ積層した。また、中間層側に15μm厚のエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム(クラレ製、エバールフィルム EF−XL)をラミネートしてガスバリアー層を成形した。さらに、ガスバリアー層面に厚さ100μmのポリ塩化ビニルフィルム(PVC)をラミネートし、保護層/基布層/中間層/ガスバリアー層/保護層の5層からなるガスホルダー用膜材を得た。
【0025】
上記の基布層側の保護層、中間層、及びガスバリアー層側の保護層として用いたポリ塩化ビニル樹脂からなるフィルムには、いずれも、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)(日信化学製、ビニブラン)に、該樹脂重量に対して15重量%の縮合リン酸エステル系難燃剤(大八化学工業製、PX−200)を添加して作製したフィルムを用いた。なお、各層間はウレタン系接着剤(武田薬品工業製、タケラック)にて接着した。該接着剤の付着量は、いずれも5g/mとした。結果を表1に示す。
【0026】
[実施例2〜4、比較例1〜4]
基布層の保護層、ガスバリアー層側の保護層、基布層とガスバリアー層の間の中間層に用いる樹脂、及び、樹脂中の該樹脂重量に対する難燃剤の含有量を表1および表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして、保護層/基布層/中間層/ガスバリアー層/保護層の5層からなるガスホルダー用膜材を得た。なお、実施例3、4、比較例3、4では、ポリ塩化ビニル樹脂(PVA)フィルムに変えて、アクリルシリコン樹脂(AS)(共栄社化学製、ライトエポックS−60NFE)に、該樹脂重量に対して表1および表2に示す含有量で難燃剤を添加し作成したフィルムを用いた。また、比較例1および3においては、難燃剤を樹脂に含有しなかった。結果を表1および表2に示す。
【0027】
[実施例5]
基布層とガスバリアー層の間の中間層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、保護層/基布層/ガスバリアー層/保護層の4層からなるガスホルダー用膜材を得た。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、繊維基布の持つ強度に加え、ガスホルダーとして使用可能な耐摩擦性や耐屈曲性を有し、かつガスバリアー性や防炎性に優れた膜材を提供することができる。また、ガスを貯蔵および回収する設備を高強度かつ軽量な本発明の膜材により経済的に構築することができ、産業的利用価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを貯蔵または回収するガスホルダーに用いる膜材であって、該膜材が、保護層、基布層、ガスバリアー層、保護層の少なくとも4層がこの順で積層され、かつ、該保護層に難燃剤が該保護層の重量に対して5〜35重量%含まれていることを特徴とする防炎性を有するガスホルダー用膜材。
【請求項2】
膜材を構成する少なくとも一方の保護層が熱可塑性樹脂からなる請求項1記載の防炎性を有するガスホルダー用膜材。
【請求項3】
基布層とガスバリアー層の間に中間層を有し、該中間層に難燃剤が該中間層の重量に対して5〜35重量%含まれている請求項1または2記載の防炎性を有するガスホルダー用膜材。
【請求項4】
メタンガスにおけるガス透過率が0〜100cc/m・24hrs・atmである請求項1〜3記載の防炎性を有するガスホルダー膜材。

【公開番号】特開2009−144776(P2009−144776A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320921(P2007−320921)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】