説明

防爆容器用通気具及び防爆容器

【課題】耐圧防爆構造を維持しつつ、発泡金属及びフィルタを介して内部に侵入する外気を伝播した外部音響の集音に十分な通気性を防爆容器に与える。
【解決手段】この発明の通気具10は、軸方向における両端部が開放した筒状体のホルダ1内に発泡金属2及びフィルタ3を固定している。ホルダ1は防爆容器100の孔部104に軸方向に挿入され、孔部104の内周面に接合される。発泡金属2は、軸方向に貫通した多数の微小孔を備え、ホルダ1の内部における軸方向に直交する面内の全面に配置される。フィルタ3は、それぞれが軸方向に直交する面内で互いに一部が重複する異なる形状の開口部31A〜35Aを形成した複数の板材31〜35で構成され、ホルダ1の一端側からホルダ1の内部における発泡金属2の配置位置よりも一端側で、ホルダ1の内部における軸方向に直交する面内の全面に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可燃性ガス雰囲気の危険場所に配置される耐圧防爆装置に用いられる通気具及びこの通気具を備えた防爆容器に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学プラント等の可燃性ガス雰囲気の危険場所に設置された産業用機械は、マイクが集音した音響によって状態を監視される場合がある。このため、従来の防爆装置として、点火源とならない程度に電気エネルギを抑制した本質安全防爆構造のマイク装置を危険場所内に設置したものがあった。
【0003】
また、危険場所の環境状態を検出するガスセンサを収納した耐圧防爆構造の防爆容器の一部を焼結金属で構成し、焼結金属部分から内部に流入する外気の状態を測定するようにした防爆装置もある(例えば、特許文献1参照。)。耐圧防爆構造の防爆容器は、内部に侵入したガスが爆発しても外部のガスに波及しないように、十分な耐圧性と900℃程度の耐熱性とを備えるとともに、外部への火炎逸走を確実に防止できるものでなければならない。このため、微小孔を有する焼結金属部分から外気を防爆容器内に導入するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−074899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本質安全防爆構造のマイク装置を危険場所内に設置する場合は、非危険場所側から危険場所側へのエネルギの伝達を事故時にも安全な値に制限するための安全保持器を用いる必要があり、構成の簡略化及びコストの低廉化に不向きである。
【0006】
また、焼結金属は、微小孔を介して空気を流通させることはできるが、微小孔が小さ過ぎ、防爆容器の内部に収納したマイクで外部の音響を確実に集音できる程度の通気性を備えていない。このため、一部を焼結金属で構成した耐圧防爆構造の防爆容器は、マイクを収納する防爆容器として使用することができない。
【0007】
この発明の目的は、十分な通気性を備えた耐圧防爆構造の防爆容器を実現できる防爆容器用通気具、及びこの防爆容器用通気具を備えた耐圧防爆構造の防爆容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る防爆容器用通気具は、ホルダ、発泡金属、フィルタ、固定部材を備える。ホルダは、軸方向における両端部が開放した筒状体であり、防爆容器の壁面の孔部に一端側が防爆容器の内部側となるように軸方向に挿入され、孔部の内周面に接合される接合部を外周部における軸方向の一部に備えている。発泡金属は、軸方向に貫通した多数の微小孔を備え、ホルダ内部における発泡金属の配置位置より一端側で、ホルダの内部における軸方向に直交する面内の全面に配置される。フィルタは、それぞれが軸方向に直交する面内で互いに一部が重複する異なる形状の開口部を形成した板材で構成され、ホルダの内部における軸方向に直交する面内の全面に配置される。固定部材は、発泡金属及びフィルタをホルダの内部に固定する。
【0009】
この構成では、内部に発泡金属及びフィルタを固定部材によって固定したホルダが、防爆容器に形成された孔部に軸方向に挿入される。ホルダは、軸方向に直交する面内で互いに一部が重複する異なる形状の開口部が形成された板材からなるフィルタと軸方向に貫通した多数の微小孔を備えた発泡金属とを介して、一端側と他端側との間の通気性を備える。一端側が防爆容器の内部側となるようにホルダを孔部に挿入して接合すると、ホルダ内部でフィルタが発泡金属よりも防爆容器の内部側に位置する。外気は発泡金属及びフィルタを順に経由して防爆容器の内部に侵入する。防爆容器内に侵入したガスが爆発した場合、爆発ガスはフィルタ及び発泡金属で順に降温されて防爆容器の外部に露出し、防爆容器の外部のガスに影響を与えない。発泡金属は、爆発ガスに直接晒されることがなく、要求される耐熱温度は爆発ガスの温度よりも低温になる。
【0010】
この構成において、ホルダの内部に内周面から半径方向に沿って中心側に延出した突出部を形成し、発泡金属を突出部に当接させてホルダ内に配置することが好ましい。ホルダ内における発泡金属の初期位置を正確に規定することができる。
【0011】
固定部材は、真空溶接接合によって少なくとも発泡金属をホルダの内周面に固定するものであることが好ましい。ホルダの内部に発泡金属とともに固定部材を挿入し、真空溶接法によって固定部材を溶融させることで、熱損傷を与えることなく発泡金属をホルダ内部に固定できる。
【0012】
また、固定部材は、外径がホルダの内径に略等しい環状の板材で構成することが好ましい。固定部材が環状を呈することでホルダの内周面に発泡金属及びフィルタを隙間なく固定することができる。また、固定部材の外形をホルダの内径に略等しくすることで、固定部材によって発泡金属及びフィルタの通気孔が塞がれてしまうことを防止できる。
【0013】
この発明に係る防爆容器は、上述の防爆容器用通気具が挿入される孔部を備え、孔部に対向する位置にマイクを収納する。
【0014】
この構成により、防爆容器用通気具を構成するホルダの内部を発泡金属及びフィルタを介して防爆容器内に流入した空気を伝播する外部の音を、防爆容器に内蔵されたマイクで確実に集音できる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、発泡金属及びフィルタを介して防爆容器内に外気を侵入させることにより、十分な通気性を備えた耐圧防爆構造の防爆容器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)及び(B)は、この発明の実施形態に係る防爆容器用通気具を備えた防爆容器の正面半断面図及び側面部分断面図である。
【図2】(A)及び(B)は、同防爆容器用通気具の正面図及び側面半断面図である。
【図3】(A)及び(B)は、同防爆容器用通気具の発泡金属の正面図及び側面断面図である。
【図4】(A)〜(F)は、同防爆容器用通気具のフィルタを構成する各板材の正面図及びフィルタ全体の側面断面図である。
【図5】(A)及び(B)は、同防爆容器用通気具を構成する固定部材の正面図及び側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、この発明の実施形態に係る防爆容器用通気具及びこれを備えた防爆容器について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1に示すように、防爆容器100は、石油化学プラント等の危険場所内に設置される耐圧防爆構造であり、一例としてアルミ合金を素材とする本体101及び蓋体102からなる。本体101内には、一例としてネットワークカメラ111、マイク112の他、電源113、DC/DCコンバータ114、無線機115が収納されている。蓋体102には、アンテナ116が収納されている。防爆容器100内に収納されたこれらの機器は、危険場所内に設置された産業機器の画像データ及び音響データを、危険場所外に設置された図示しない制御装置に送信する管理用の装置を構成している。
【0019】
本体101の正面には、開口103及びネジ孔104が形成されている。開口103は、本体101の正面に装着された窓部材117によって被覆されている。窓部材117は、開口103の正面側に配置される透光性の耐圧ガラス117Aを備えている。ネットワークカメラ111は、本体101の内部において開口103に対向する位置に配置されており、開口103及び耐圧ガラス117Aを経由して防爆容器100の外部を撮像する。ネジ孔104は、この発明の孔部であり、この発明の実施形態に係る通気具10が螺合する。マイク112は、本体101の内部においてネジ孔104に対向する位置に配置されており、通気具10を通過した外気を伝播した音響を集音する。
【0020】
ネットワークカメラ111が撮像した画像データ及びマイク112が集音した音響データは、無線機115によってアンテナ116を介して送信される。なお、防爆容器100の外部の音響のみを管理対象とする場合には、開口103及び窓部材117とともにネットワークカメラ111を省略することもできる。
【0021】
図2に示すように、通気具10は、ホルダ1、発泡金属2、フィルタ3を備えている。ホルダ1は、一例としてステンレスを素材として、軸方向の両端が開放した略円筒形状に形成されている。ホルダ1の外周部には、フランジ部11,雄ねじ部12が形成されている。雄ねじ部12は、この発明の接合部であり、本体101の内側からネジ孔104の雌ねじに螺合することにより、フランジ部11が本体101の内側面に当接する状態で通気具10が本体101に接合される。雄ねじ部12の一部は、本体101の正面から外部に露出し、図1に示すようにロックネジ15が螺合する。
【0022】
ホルダ1の内部には、突出部16及び溝部17が形成されている。突出部16は、内周面から全周にわたって半径方向に延出している。突出部16は、内周面の一部から延出するものであってもよい。溝部17は、内周面の全周にわたって半径方向に形成されている。本体101のネジ孔104にホルダ1を螺合させた状態で、発泡金属2はフィルタ3よりも本体101の外側に位置し、発泡金属2とフィルタ3との間には溝部17による一例として1.5mm程度の間隙が形成される。
【0023】
なお、ホルダ1の内部における発泡金属2及びフィルタ3の位置を確実に規定できれば、突出部16を省略することもできる。ただし、突出部16を形成することで、防爆容器100内の爆発によって発泡金属2及びフィルタ3が外部に飛び出すことをより確実に防止することができる。
【0024】
図3に示すように、発泡金属2は、外径がホルダ1の内径に略等しい円柱状を呈し、軸方向の幅を一例として4mmにされている。発泡金属2は、樹脂発泡体(スポンジ等)と同様の3次元網目構造を持つ金属多孔体の一種であり、焼結金属と比べて大きな多孔率を持っている。発泡金属2は、多孔率が大きいために金属部分の厚みが薄く、酸化の影響を受け易いため、大気中での耐熱温度は700℃程度である。発泡金属2は、ホルダ1の一端側からホルダ1の内部における突出部16と溝部17との間に挿入される。
【0025】
図4に示すように、フィルタ3は、一例としてステンレスを素材とする例えば5枚の円盤状の板材31〜35を同軸上に順に重ねて構成されている。板材31〜35の外径は、ホルダ1の内径に略等しくされている。板材31の厚さは一例として2mm、板材32〜35の厚さは一例として0.5mmにされている。各板材31〜35には、それぞれ開口部31A〜35Aが形成されている。開口部31A〜35Aのそれぞれは、軸方向に直交する面内で互いに隣接するもの同士が異なる形状にされている。フィルタ3は、ホルダ1の一端側からホルダ1の内部における溝部17の一端側に挿入される。
【0026】
フィルタ3は、必ずしも複数枚の板材で構成する必要はなく、単一の部材で構成したものであってもよい。
【0027】
発泡金属2及びフィルタ3は、ホルダ1の内周面との間で固定部材を介して溶接することで、ホルダ1の内部に固定される。固定部材としては一例としてニッケルロウを用いることができる。
【0028】
図5に示すように、固定部材4は、ニッケルロウを素材として薄板状の環体形状を呈する。固定部材4の外径は、ホルダ1の内径に略等しくされている。固定部材4の内径は、一例として突出部16におけるホルダ1の内径に略等しされている。1つの通気具10に複数枚の固定部材4が用いられる。但し、固定部材4を単一の部材で構成してもよい。
【0029】
通気具10の製造時には、固定部材4をホルダ1内で突出部16と発泡金属2との間、及び各板材31〜35のそれぞれの間に配置した後、真空溶接を行う。固定部材4が一旦溶融した後に固化することにより、ホルダ1の内部に発泡金属2及び各板材31〜35が堅牢に固定される。なお、真空溶接は比較的短時間で完了するため、通気具10の温度が発泡金属2の耐熱温度を超えたとしても、発泡金属2に熱による性能劣化を生じることはない。
【0030】
フィルタ3は、ステンレス等の金属材料で構成することができるため、通常の溶接方法でホルダ1に固定しても問題を生じない。前述のように発泡金属2は、金属部分が薄いため、大気中で溶接すると酸化の影響を受け易い。したがって、真空溶接は発泡金属2の溶接に効果的である。
【0031】
なお、固定部材4は、薄板状の環体形状に限るものではない。例えば、ホルダ1の内周面と発泡金属2及びフィルタ3の外周面との間隙に挿入される単一又は複数の円筒形状とすることもできる。
【0032】
このように製造された通気具10を本体101のネジ孔104に螺合して接合させると、防爆容器100の外部の音響が、発泡金属2及びフィルタ3を順に通過した外気を介して防爆容器100の内部に伝播し、マイク112によって集音される。
【0033】
一方、防爆容器100内に侵入したガスが爆発を生じた場合、爆発ガスの温度は発泡金属2の耐熱温度よりも高温度に達する可能性がある。高温の爆発ガスは、フィルタ3を通過する間に各板材31〜35の開口部31A〜35Aを順に通過する間に各板材31〜35の軸方向に直交する面に順次接触し、降温される。爆発ガスの温度と発泡金属2の耐熱温度とを考慮して、フィルタ3を構成する板材の枚数や開口部の形状を調整することができる。爆発ガスの温度が900℃で発泡金属2の耐熱温度が700℃の場合には、図4に示した5枚の板材31〜35によって爆発ガスの温度を発泡金属2の耐熱温度以下に降温できる。爆発ガスは、発泡金属2を通過する間に、防爆容器100の外部のガスに引火しない程度まで降温される。このため、発泡金属2は、所定の厚さにされている。
【0034】
したがって、通気具10を用いることにより、防爆容器100の耐圧防爆構造を維持しつつ、防爆容器100の外部の音響を防爆容器100に収納したマイクによって確実に集音することができる。
【0035】
なお、通気具10は、危険場所のガスの状態を検出するガスセンサを収納した耐圧防爆構造の防爆容器にも適用できる。ガスセンサを収納した耐圧防爆構造の防爆容器用の通気具としては、発泡金属2に代えて焼結金属を用いることもできるが、多孔率が大きな発泡金属は、焼結金属よりも低い圧力損失で気体を通すことができる。また、焼結金属は、音響を伝播させることができる程度の通気性を備えていないため、マイクを収納した耐圧防爆構造の防爆容器用の通気具には適用できない。これに対して、発泡金属2を用いた本願発明の通気具10は、耐圧防爆構造を満足しつつ、十分な通気性を要求される機器に有効に適用することができる。
【0036】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0037】
1−ホルダ
2−発泡金属
3−フィルタ
4−固定部材
10−通気具
12−雄ねじ部(接合部)
16−突出部
31〜35−板材
31A〜35A−開口部
100−防爆容器
101−本体
102−蓋体
104−ネジ孔(孔部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向における両端部が開放した筒状体であり、防爆容器の壁面の孔部に一端側が防爆容器の内部側となるように前記軸方向に挿入され、前記孔部の内周面に接合される接合部を外周部における前記軸方向の一部に備えたホルダと、
軸方向に貫通した多数の微小孔を備え、前記ホルダの内部における軸方向に直交する面内の全面に配置される発泡金属と、
それぞれが軸方向に直交する面内で互いに一部が重複する異なる形状の開口部を形成した板材で構成され、前記ホルダ内部における前記発泡金属の配置位置より前記一端側で、前記ホルダの内部における軸方向に直交する面内の全面に配置されるフィルタと、
発泡金属及びフィルタをホルダの内部に固定する固定部材と、
を備えた防爆容器用通気具。
【請求項2】
前記ホルダは、内部に、前記内周面から半径方向に沿って中心側に延出した突出部が形成されており、
前記発泡金属は、前記ホルダの内部における前記突出部に当接する位置に配置される請求項1に記載の防爆容器用通気具。
【請求項3】
前記固定部材は、真空溶接接合によって少なくとも発泡金属をホルダの内周面に固定する請求項1又は2に記載の防爆容器用通気具。
【請求項4】
前記固定部材は、外径が前記ホルダの内径に略等しい環状の板材で構成される請求項3に記載の防爆容器用通気具。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の防爆容器用通気具の外周面が内周面に接合する孔部を備え、
前記孔部に対向する位置にマイクを収納した耐圧防爆構造の防爆容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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