説明

防犯端末、防犯機能付携帯端末、防犯端末の制御方法およびプログラム

【課題】 誘拐や連れ去りなどの不測の事態発生後、速やかな対策を講じることができるようにする防犯端末、防犯機能付携帯端末、防犯端末の制御方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】 個人携行の防犯端末(1)であって、前記端末の移動速度を測定する測定手段(2)と、前記移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化したか否かを判定する判定手段(3)と、前記判定手段(3)の判定結果が肯定の場合に警報動作を行う警報手段(4)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防犯端末、防犯機能付携帯端末、防犯端末の制御方法およびプログラムに関し、詳しくは、学童や児童等(以下、児童で代表)に対する誘拐や連れ去りなどの不測の事態発生を保護者などに通知することができる防犯端末、防犯機能付携帯端末、防犯端末の制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、下記の特許文献1には、「ランドセルの着脱状況を検出し、通信ネットワークへ向けて、着脱時刻と位置を送信する機能を有するランドセル」が記載されており、このランドセルは、特に、「ランドセルの位置情報に関し、予め設定された地域外から、または予め指定された場所以外からランドセルの着脱信号が送信された場合、もしくは予め設定された地域内で、かつ予め設定された時間を超えてランドセルの移動がない場合に、受信者に警報信号を送信すること」とされている。
【0003】
この特許文献1の技術は、「予め設定された地域外から、または予め指定された場所以外からランドセルの着脱信号が送信された場合、もしくは予め設定された地域内で、かつ予め設定された時間を超えてランドセルの移動がない場合」に、受信者に警報信号を送信する」ので、たとえば、児童の通学路や通学先を含む所定の地域を外れた場所からランドセルの着脱信号が送信された場合や、当該地域内であっても、所定の時間を超えてランドセルの着脱信号が送信された場合に、保護者等の受信者に対して警報信号を発することができ、所要の対策、たとえば、警察に連絡するなどを講じさせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−41064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、以下の欠点がある。
すなわち、警報信号の送信が、(A)予め設定された地域外に出たとき、または、(B)予め設定された地域内で、かつ予め設定された時間を超えたとき、に行われる仕組みになっているため、誘拐や連れ去りなどの不測の事態発生と警報信号の送信との間に、ある程度のタイムラグが生じてしまい、速やかな対策を講じることができないという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、誘拐や連れ去りなどの不測の事態発生後、速やかな対策を講じることができる防犯端末、防犯機能付携帯端末、防犯端末の制御方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、個人携行の防犯端末であって、前記端末の移動速度を測定する測定手段と、前記移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化したか否かを判定する判定手段と、前記判定手段の判定結果が肯定の場合に警報動作を行う警報手段とを備えたことを特徴とする防犯端末である。
請求項2記載の発明は、前記測定手段は、加速度センサの検出値から前記端末の移動速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の防犯端末である。
請求項3記載の発明は、前記測定手段は、加速度センサの加速度を積分することにより前記端末の移動速度を算出することを特徴とする請求項2に記載の防犯端末である。
請求項4記載の発明は、前記測定手段は、前記加速度センサにより、同じ方向で所定以上の加速度が所定時間以上連続して検出されたときの速度を乗り物移動基準速度として測定することを特徴とする請求項2に記載の防犯端末である。
請求項5記載の発明は、前記測定手段は、更に前記加速度センサにより、前記端末の振動の周期または振幅を測定し、前記判定手段は、前記移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化し、かつ、前記端末の振動の周期または振幅が、歩行時の振動の周期または振幅相当から乗り物の移動時の振動の周期または振幅相当に変化したか否かを判定することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の防犯端末である。
請求項6記載の発明は、前記測定手段は、防犯端末の本体に取り付けられた3軸の加速度センサであり、この3軸の加速度センサにより検出される加速度ベクトルを、重力方向を基準とした座標空間上の加速度ベクトルに変換し、この変換後の加速度ベクトルにより移動速度を測定することを特徴とする請求項5に記載の防犯端末である。
請求項7記載の発明は、前記判定手段は、前記移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化し、かつ、水平方向の加速度が大きく緩やかに変化し、かつ、垂直方向の加速度が所定以下で不規則に変化しているか否かを判定することを特徴とする請求項6に記載の防犯端末である。
請求項8記載の発明は、前記警報手段は、前記判定手段の判定結果が肯定の場合にあらかじめ登録されている受信者宛に警報を無線送信することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の防犯端末である。
請求項9記載の発明は、前記警報手段は、前記判定手段の判定結果が肯定に変化したタイミングで警報音を発生することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の防犯端末である。
請求項10記載の発明は、さらに、あらかじめ前記個人の行動ルートに関する情報を記憶する記憶手段と、前記判定手段の判定結果が肯定の場合に前記記憶手段に記憶されている記憶情報を参照して前記判定手段の判定結果の妥当性を検証する検証手段と、を備え、前記検証手段は、前記判定手段の判定対象となった乗り物に関する情報が前記記憶手段の記憶情報に含まれていないときに、前記判定手段の判定結果を有効にして前記警報手段の警報動作を許容する一方、当該情報が前記記憶手段の記憶情報に含まれているときに、前記判定手段の判定結果を無効にして前記警報手段の警報動作を禁止することを特徴とする請求項1に記載の防犯端末である。
請求項11記載の発明は、さらに、前記測定手段によって測定された移動速度に基づいて異常状態の可能性を複数段階で判定する第2判定手段を備え、前記警報手段は、該第2判定手段の複数段階の判定結果に応じた内容の警報動作を行うことを特徴とする請求項1に記載の防犯端末である。
請求項12記載の発明は、請求項1、請求項10または請求項11のいずれかに記載の防犯端末の機能を実装したことを特徴とする防犯機能付携帯端末である。
請求項13記載の発明は、個人携行の防犯端末の制御方法であって、前記端末の移動速度を測定する測定工程と、前記移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化したか否かを判定する判定工程と、前記判定工程の判定結果が肯定の場合に警報動作を行う警報工程とを含むことを特徴とする、防犯端末の制御方法である。
請求項14記載の発明は、個人携行の防犯端末のコンピュータに、前記端末の移動速度を測定する測定手段、前記移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化したか否かを判定する判定手段、前記判定手段の判定結果が肯定の場合に警報動作を行う警報手段としての機能を実現させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、誘拐や連れ去りなどの不測の事態発生後、速やかな対策を講じることができる防犯端末、防犯機能付携帯端末、防犯端末の制御方法およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態に係る防犯端末の概念構成図である。
【図2】第2実施形態に係る防犯端末の概念構成図である。
【図3】ルートおよび時間帯記憶部13に記憶されている情報の一例模式図である。
【図4】第2実施形態の動作フローを示す図である。
【図5】第3実施形態の要部動作フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る防犯端末の概念構成図である。この図において、防犯端末1は、加速度センサ2、乗り物移動判定部3、警報送信部4を含んで構成されている。
【0012】
加速度センサ2は、防犯端末1の揺れや移動(言い換えれば防犯端末1の携行者の上下左右に揺れる動きや前後に移動する動き)を検出するものであり、この加速度センサ2は、互いに直交する3軸の加速度センサで構成されている。個々の加速度センサは単位時間当たりの速度の変化率を計測するデバイスであり、3軸の加速度センサにより各軸方向の加速度を個別に計測することができる。負方向の加速度を減速度という。
3軸の加速度センサの各々は、防犯端末1に対する決められた方向に互いに直交させて取り付けられている。
また、加速度センサ2は、3軸の加速度センサより得られる各方向の加速度の値を、重力方向や携行者の向きに合わせて正規化したり、移動速度、移動距離、振動の周期、振動の振幅などの値に変換する。
つまり、携行者が防犯端末1を保持する向きは、常に一定とは限らないために重力方向や携行者の向きに合わせた正規化が必要であり、また、加速度の値そのものでは携行者の状態を判断する材料として使いづらいので、移動速度、移動距離、振動の周期、振動の振幅など、各種判断材料として使いやすい値への変換が必要なのである。
重力方向や携行者の向きに合わせた正規化は例えば以下のようにして行う。
まず、3軸の加速度センサより得られる加速度ベクトルを比較的長い時間スパン(例えば、歩行時の振動周期の2倍以上の時間)で平均化することで、一時的な振動による加速度成分を相殺し、常に作用している重力方向の加速度成分だけを抽出する。次に、この抽出された重力方向と直交する平面内の加速度ベクトルのうち、歩行時の身体の前後の動きに対応する振動パターンが発生している方向を携行者の向きとして特定する(予め複数の人の歩行時の振動パターンを測定および集計して記憶していた振動パターンデータとの比較により行う)。そして、3軸の加速度センサより得られる加速度ベクトルを、新たに特定された重力方向、携行者の向き、およびこれらと直交する他の方向からなる新たな座標空間上の加速度ベクトルに変換する。
この正規化のための処理を定期的に実行することで、防犯端末1の保持方向が変化する場合でも常に最新の座標空間に更新することができる。
また、振動の周期、振動の振幅への変換は、正規化された座標空間上の各方向に対して、加速度の変化が最大となる方向および変化周期を特定することで行われる。
また、移動速度への変換は、正規化された座標空間上において重力方向を除く他の方向の加速度を積分することにより求める。例えば、加速度が一定(等加速度直線運動)のときの速度Vは、初速度をV0とすると、「V=V0+at」で求めることができる。ただし、aは加速度、tは単位時間である。
また、移動距離への変換は、移動速度を更に積分することにより求める。
このように、3軸の加速度センサを用いることで、携行者の移動速度を検出できるだけでなく、携行者の歩行状態や、その他の状態を検出することが可能となる。
なお、移動距離や移動速度だけを検出する場合には、3軸の加速度センサの代わりに、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)衛星からの信号を利用することも可能である。
しかしながら、GPSを利用する場合は、加速度センサを利用する場合と比較して位置データの取得周期が長く、移動距離や移動速度を算出するのに時間を要する。また、電波状態が悪い場所では利用できないなどの問題もあるため、加速度センサを利用するのが望ましい。
【0013】
乗り物移動判定部3は、加速度センサ2の測定結果(防犯端末1の携行者の移動速度)に基づき、防犯端末1の移動速度が、歩行速度から乗り物の移動速度相当に変化したか否かを判定するものであり、この判定には、たとえば、歩行移動基準速度と乗り物移動基準速度の二つの基準速度と、加速度センサ2の測定結果とを比較することによって行うことができる。すなわち、一般的に歩行速度は、自動車等の乗り物の移動速度にくらべて遙かに遅いので、これら二つの基準速度(歩行移動基準速度と乗り物移動基準速度)に適切な値を設定しておくことにより、防犯端末1の移動速度(正確には防犯端末1を携行している児童の移動速度)が、歩行速度に相当しているのか、あるいは、自動車等の乗り物の移動速度に相当しているのかを区別して判定することができる。つまり、加速度センサ2の測定結が乗り物移動基準速度に達した場合または乗り物移動基準速度を超えた場合に「乗り物移動」と判定すればよい。
また、防犯端末1の移動速度が乗り物移動基準速度に達したか否かの判定は、具体的な移動速度を算出することなく、同じ方向で所定以上の加速度が所定時間以上連続して検出された場合に移動速度が乗り物移動基準速度に達したと判断するようにしてもよい。
【0014】
なお、歩行中であっても急に走り出したりすることがある。この場合、走る速さによっては乗り物の移動速度に相当してしまう恐れがあるが、この場合には更に加速度センサ2によって検出される振動によって乗り物に乗っているのか走っているのかを判定する。
この判定処理は、加速度センサ2によって検出された振動のうち、人が走っているときの振動周期(例えば、0.2秒から0.6秒)に対応する振動の振幅を求め、この振幅が、乗り物に乗っているときに検出される最大振幅(平均振幅)と比較して所定以上大きい場合には、乗り物移動基準速度を超えた場合であっても、人が走っていると判定する。
また、この判定処理を以下のように行ってもよい。
つまり、歩行中の「走り出し」は多くの場合、短時間であるので、上記の判定条件に「所定時間継続」という条件を加えればよい。すなわち、加速度センサ2の測定結が乗り物移動基準速度に達した場合または乗り物移動基準速度を超えた場合が“所定時間継続”したときに「乗り物移動」と判定すればよい。走り出しによる誤判定を回避できる。
また、防犯端末1の移動速度が乗り物移動基準速度を超えたという条件に加え、水平方向の加速度が大きく緩やかに変化しているという条件や、垂直方向の加速度が所定以下で不規則に変化しているという条件のいずれか、または両方を満たす場合に乗り物に乗ったと判断するようにしてもよい。
【0015】
警報送信部4は、乗り物移動判定部3で「乗り物移動」が判定されたときに、あらかじめ登録されている受信者(保護者等)宛に、所定の警報を無線で送信する。所定の警報は、たとえば、電子メールの形であってもよいし、または、合成音声による電話発信の形であってもよい。あるいは、簡易無線や業務無線などの無線通信を利用したアラーム送信の形であってもよい。要は、保護者等の受信者に対して、誘拐や連れ去りなどの不測の事態発生を通知(通報)できる形になっていればよい。
なお、警報送信部4とともに、警報音発生部4aを備えていてもよい。この警報音発生部4aは、乗り物移動判定部3で「乗り物移動」が判定されたとき、つまり、移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化したことを検出した瞬間に(変化の検出から所定時間以内に)、ブザー等による警報音を発生する。
【0016】
防犯端末1の主機能は、コンピュータによってソフトウェア的に実現することができる。これは、加速度センサ2や警報送信部4はコンピュータの三大要素のうちの入力部と出力部に相当し、乗り物移動判定部3は演算部に相当するからであり、且つ、演算部はまた、出力部(警報送信部4や警報音発生部4a)に対して所要の警報の無線送信や警報音発生を指示する機能を有するからである。
【0017】
第1実施形態によれば、このような構成にしたから、以下の効果を得ることができる。一般的に多くの児童は徒歩で通学しており、一方、誘拐や連れ去り等の犯罪は自動車等の乗り物を使用することが多く、しかも、急発進で逃げ去るケースがほとんどである。これは、速やかに現場を離れたいという犯罪心理からである。
【0018】
かかる犯罪に対応するためには、対象児童に、この実施形態の防犯装置1を持たせておけばよい。徒歩から乗り物移動に変化すると、直ちにあらかじめ登録されている受信者(保護者等)宛に所定の警報を無線で送信することができる。したがって、犯罪発生直後にタイムラグをまったく生じることなく、所要の対策(警察等への通報)を講じることができ、冒頭の従来技術(特許文献1)の問題点を解消することができる。
【0019】
<第2実施形態>
図2は、第2実施形態に係る防犯端末の概念構成図である。前記の第1実施形態は、対象児童の通学スタイルが「徒歩」である場合を想定したものであり、移動速度が徒歩から乗り物に変化したときに警報を送信するようにしたものであるが、対象児童の通学スタイルは「徒歩」だけでなく、バスや電車を利用することもある。したがって、前記の第1実施形態は、バスや電車などを利用する通学スタイルに適用できないという欠点がある。
【0020】
第2実施形態は、前記の第1実施形態を改良して、バスや電車などを利用する通学スタイルにも適用できるようにしたものである。
【0021】
第2実施形態の防犯端末10は、前記の第1実施形態と同様の加速度センサ2や乗り物移動判定部3および警報送信部4(必要であれば警報音発生部4a)を含むとともに、さらに、点線で囲まれた各部、つまり、GPS部11、ルートおよび時間帯判定部12、ルートおよび時間帯記憶部13、警報判定部14を含んで構成されている。
【0022】
GPS部11は、GPS衛星からの電波を受信して、防犯端末10の現在位置情報(緯度経度)と正確な時間情報とを時々刻々と更新しながら取得するものである。今日においてはきわめて小型軽量のユニット化されたGPS受信部が実用化されており、たとえば、携帯電話機などにも数多く用いられていることから、図示の防犯端末10のような携帯型端末に容易に組み込むことができる。
【0023】
ルートおよび時間帯記憶部13は、対象児童の通学ルートや時間帯といった情報を適宜に記憶する、たとえば、不揮発性半導体メモリ等の記憶デバイスであり、その記憶情報には、バスや電車による通学ルートと、それらの時間帯などの情報が含まれる。
【0024】
ルートおよび時間帯判定部12は、GPS部11からの情報と、ルートおよび時間帯記憶部13の記憶情報とを照合して、防犯端末10の移動ルートがあらかじめ登録されたルートに沿っているか否かを判定する。
【0025】
警報判定部14は、乗り物移動判定部3によって「乗り物移動」が判定されたときに、ルートおよび時間帯判定部12の判定結果を参照して、その乗り物の移動があらかじめ登録されている乗り物の移動であるか否かを判定し、その判定結果が、否定の場合、つまり、あらかじめ登録されている乗り物の移動でない場合に、警報送信部4に対して警報の送信を指示する。
【0026】
図3は、ルートおよび時間帯記憶部13に記憶されている情報の一例模式図である。この図において、記憶情報は、自宅20の位置情報と通学先の学校21の位置情報とを含むほか、さらに、自宅20と学校21の間のバス停22、23の位置情報と、それらバス停22、23の間を走行するバスの運行時間帯情報(往路と復路)とを含む。
【0027】
ここで、ルートおよび時間帯記憶部13に記憶されている情報は、対象児童の通学パターンの一例を示しており、具体的には、自宅20からバス停22まで歩き、バス停22発06:00のバスに乗って06:30にバス停23で降りて学校21まで歩くという登校パターンと、逆ルートでバス停23発16:00、バス停22着16:30のバスに乗るという下校パターンとをとる対象児童の例を示している。
【0028】
この例の場合、登下校時の時点(イ)〜(ロ)と時点(ハ)〜(ニ)は、いずれも徒歩であるから、乗り物移動判定部3は「乗り物移動」を判定せず、したがって、警報送信部4から警報は送信されない。
【0029】
一方、登下校時の時点(ロ)〜(ハ)、つまり、バスに乗った時は、防犯端末10の移動速度が歩行速度からバスの移動速度に変化するから、乗り物移動判定部3は「乗り物移動」を判定する。前記の第1従来技術では、この段階で警報送信部4から警報を送信していたが、いつもどおりの乗り物(バス)に乗っているので、この警報は誤報になる。そこで、この第2実施形態では、かかる誤報を回避するため、ルートおよび時間帯判定部12の判定結果を参照して、その乗り物の移動があらかじめ登録されている乗り物の移動であるか否かを判定し、その判定結果が、否定の場合、つまり、あらかじめ登録されている乗り物の移動でない場合に、警報送信部4に対して警報の送信を指示するように改良した。これにより、いつもどおりの乗り物(バス)に乗っている場合の誤報を回避できる。
【0030】
すなわち、登校時の時点(ロ)でいつもどおりのバスに乗った場合は、そのバス停22の位置情報と防犯端末10の位置情報とが一致し、さらに、登録済みの乗り物(ここではバス)の運行帯情報(06:00〜06:30)に現在時間が含まれているので、この場合の乗り物移動判定部3の判定結果(乗り物移動)は正しくない(いつもどおりの登校パターンに該当する)と判断し、警報送信部4から警報の送信を行わないようにすることができ、誤報を阻止できる。
【0031】
下校時も同様である。すなわち、下校時の時点(ハ)でいつもどおりのバスに乗った場合は、そのバス停23の位置情報と防犯端末10の位置情報とが一致し、さらに、登録済みの乗り物(ここではバス)の運行帯情報(16:00〜16:30)に現在時間が含まれているので、この場合の乗り物移動判定部3の判定結果(乗り物移動)は正しくない(いつもどおりの下校パターンに該当する)と判断し、警報送信部4から警報の送信を行わないようにすることができ、同様に誤報を阻止できる。
【0032】
一方、たとえば、登下校中の時点(ホ)で、乗り物移動判定部3の判定結果が「乗り物移動」になった場合を想定すると、この乗り物移動は、いつもどおりの乗り物移動ではなく、誘拐や連れ去りなどの可能性につながる突発的な乗り物移動である。そして、この場合の乗り物移動の発生時間(時点(ホ))や、その発生位置の情報は、ルートおよび時間帯記憶部13の記憶情報に含まれていないから、この場合、警報判定部14は、乗り物移動判定部3の判定結果(乗り物移動)を有効と判断し、警報送信部4に対して警報の送信を指示する。
【0033】
したがって、この第2実施形態によれば、通学ルートにバスや電車等の乗り物を含む場合であっても、それ以外の乗り物に突発的に乗せられた場合にのみ、保護者等に対して直ちに警報を発することができ、所要の対策を講じさせることができる。
【0034】
図4は、第2実施形態の動作フローを示す図である。このフローでは、まず、加速度センサ2で防犯端末10の移動速度を測定し(ステップS1)、次いで、その移動速度が所定の乗り物移動基準速度に達しまたは上回っているか否かを判定する(ステップS2)。
【0035】
そして、乗り物移動基準速度に達していなければ、歩行中であると判断して、再びステップS1に戻る一方、乗り物移動基準速度に達しまたは上回っている場合には「乗り物移動」を判定するとともに、次いで、その乗り物が登録済みであるか否かを判定する(ステップS3)。ここで、登録済みの乗り物であるか否かとは、ルートおよび時間帯記憶部13に記憶されている情報に含まれているか否かのことをいう。具体的な例では、図3に示すように、バス停22、23の間を時間帯06:00〜06:30と16:00〜16:30で走行する乗り物(ここではバス)であるか否かのことをいう。
【0036】
登録済みの乗り物である場合は、再びステップS1に戻るが、登録済みの乗り物でない場合、たとえば、図3の時点(ホ)で突発的に何らかの乗り物に乗せられたような場合は、保護者等に対して警報を送信(ステップS4)した後、フローを終了する。
【0037】
このように、通学ルートにバスや電車等の乗り物を含む場合であっても、それ以外の乗り物に突発的に乗せられた場合にのみ、保護者等に対して直ちに警報を発することができ、所要の対策を講じさせることができる。
【0038】
なお、図4は、前記の第1実施形態の動作フローも含んでいる。すなわち、図4からステップS3を省き、ステップS2のYES判定で直ちにステップS4を実行するようにすれば、前記の第1実施形態の動作フローになる。
【0039】
<第3実施形態>
以上の実施形態(第1、第2実施形態)では、異常発生時に「警報を送信し」、正常時に「警報を送信しない」という二値態様になっている。このような二値態様の場合、誤報を防ぐためには乗り物移動の判定基準を厳しくせざるを得ないものの、判定基準の厳密化は判定漏れを招き、誘拐や連れ去りの可能性がある事象を見逃してしまう恐れが出てくる。一方、これを避けるために、乗り物移動の判定基準を甘くすると、誤報が頻発して使い物にならなくなる。
【0040】
そこで、この第3実施形態では、第1、第2実施形態を改良して、二値以上の多値態様とすることにより、明確には異常とは認められないものの、誘拐や連れ去りの可能性またはその恐れがある場合にも所定の警報を送信できるようにしたものである。
【0041】
図5は、第3実施形態の要部動作フローを示す図である。このフローは、先の図4のステップS4の代わりに用いられるものである。すなわち、このフローでは、まず、乗り物移動判定部3で「乗り物移動」を判定したときに、その乗り物の移動速度を区分けする(ステップS5)。この区分けは、たとえば、「高速」と「低中速」の2段階にすることができる。ここで、「高速」は“急発進”に相当する速度域であり、「低中速」は急発進に該当しない通常の速度域(一般乗用車や公共交通機関などの緩やかな発進速度域)である。急発進の場合、誘拐や連れ去りの可能性が高い。犯罪者の心理上、できるだけ速やかに現場を離れたいと思うからである。これに対して、低中速の場合は、たとえば、知り合いの車に乗ったかもしれず、犯罪の可能性は低いものの、万が一のことを考えて警報の対象としたものである。
【0042】
ステップS5の区分け結果が「高速」の場合は「高信頼度」をセットし(ステップS7)、「低中速」の場合は「低信頼度」をセットする(ステップS6)。「高信頼度」や「低信頼度」は、犯罪の可能性の度合いを示す指標である。「高信頼度」は犯罪の可能性が高いことを示し、「低信頼度」は一概には犯罪発生とはいえないものの、万が一のことを考えて犯罪の恐れを仮判定することを示す。
【0043】
次いで、それらの信頼度に対応した内容の警報を送信する(ステップS8)。信頼度に対応した内容とは、誘拐や連れ去りの“可能性の度合い”を示す内容であって、たとえば、高信頼度であれば“誘拐や連れ去りの警告”、低信頼度であれば“誘拐や連れ去りの可能性示唆”などのことをいう。可能性の度合いを定量的に表現してもよく、たとえば、高信頼度→「警告レベル高」、低信頼度→「警告レベル低」などとする内容であってもよい。
【0044】
このようにすると、明確には異常と認められないものの誘拐や連れ去りの可能性があるまたはその恐れがある場合にも所定の警報を送信できるようになり、念のための対策を講じることができる。
【0045】
なお、この第3実施形態では、警報の種類を「低信頼度」と「高信頼度」の二つにし、正常時の「警報を送信しない」と合せて三値態様にしているが、これに限定されない。信頼度を三区分またはそれ以上にして四値態様やそれ以上の多値態様にしてもよい。
【0046】
また、以上の実施形態では、専用の防犯端末としているが、これに限定されない。図1の防犯端末1や図2の防犯端末10の機能を実装した、携帯電話機、携帯ゲーム機、デジタルカメラ、電子辞書等の他の携帯端末であってもよい。あるいは、冒頭で説明した従来技術(特許文献1参照)の「ランドセル」に組み込んでもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 防犯端末
2 加速度センサ(測定手段)
3 乗り物移動判定部(判定手段)
4 警報送信部(警報手段)
4a 警報音発生部(警報手段)
12 ルート及び時間帯判定部(検証手段)
13 ルート及び時間帯記憶部(記憶手段)
14 警報判定部(検証手段)
S5 ステップ(第2判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人携行の防犯端末であって、
前記端末の移動速度を測定する測定手段と、
前記移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化したか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果が肯定の場合に警報動作を行う警報手段と
を備えたことを特徴とする防犯端末。
【請求項2】
前記測定手段は、加速度センサの検出値から前記端末の移動速度を算出することを特徴とする請求項1に記載の防犯端末。
【請求項3】
前記測定手段は、加速度センサの加速度を積分することにより前記端末の移動速度を算出することを特徴とする請求項2に記載の防犯端末。
【請求項4】
前記測定手段は、前記加速度センサにより、同じ方向で所定以上の加速度が所定時間以上連続して検出されたときの速度を乗り物移動基準速度として測定することを特徴とする請求項2に記載の防犯端末。
【請求項5】
前記測定手段は、更に前記加速度センサにより、前記端末の振動の周期または振幅を測定し、
前記判定手段は、前記移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化し、かつ、前記端末の振動の周期または振幅が、歩行時の振動の周期または振幅相当から乗り物の移動時の振動の周期または振幅相当に変化したか否かを判定することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の防犯端末。
【請求項6】
前記測定手段は、防犯端末の本体に取り付けられた3軸の加速度センサであり、この3軸の加速度センサにより検出される加速度ベクトルを、重力方向を基準とした座標空間上の加速度ベクトルに変換し、この変換後の加速度ベクトルにより移動速度を測定することを特徴とする請求項5に記載の防犯端末。
【請求項7】
前記判定手段は、前記移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化し、かつ、水平方向の加速度が大きく緩やかに変化し、かつ、垂直方向の加速度が所定以下で不規則に変化しているか否かを判定することを特徴とする請求項6に記載の防犯端末。
【請求項8】
前記警報手段は、前記判定手段の判定結果が肯定の場合にあらかじめ登録されている受信者宛に警報を無線送信することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の防犯端末。
【請求項9】
前記警報手段は、前記判定手段の判定結果が肯定に変化したタイミングで警報音を発生することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の防犯端末。
【請求項10】
さらに、
あらかじめ前記個人の行動ルートに関する情報を記憶する記憶手段と、
前記判定手段の判定結果が肯定の場合に前記記憶手段に記憶されている記憶情報を参照して前記判定手段の判定結果の妥当性を検証する検証手段と、を備え、
前記検証手段は、前記判定手段の判定対象となった乗り物に関する情報が前記記憶手段の記憶情報に含まれていないときに、前記判定手段の判定結果を有効にして前記警報手段の警報動作を許容する一方、当該情報が前記記憶手段の記憶情報に含まれているときに、前記判定手段の判定結果を無効にして前記警報手段の警報動作を禁止することを特徴とする請求項1に記載の防犯端末。
【請求項11】
さらに、
前記測定手段によって測定された移動速度に基づいて異常状態の可能性を複数段階で判定する第2判定手段を備え、
前記警報手段は、該第2判定手段の複数段階の判定結果に応じた内容の警報動作を行うことを特徴とする請求項1に記載の防犯端末。
【請求項12】
請求項1、請求項10または請求項11のいずれかに記載の防犯端末の機能を実装したことを特徴とする防犯機能付携帯端末。
【請求項13】
個人携行の防犯端末の制御方法であって、
前記端末の移動速度を測定する測定工程と、
前記移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化したか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程の判定結果が肯定の場合に警報動作を行う警報工程と
を含むことを特徴とする、防犯端末の制御方法。
【請求項14】
個人携行の防犯端末のコンピュータに、
前記端末の移動速度を測定する測定手段、
前記移動速度が歩行移動速度相当から乗り物の移動速度相当に変化したか否かを判定する判定手段、
前記判定手段の判定結果が肯定の場合に警報動作を行う警報手段
としての機能を実現させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−59023(P2012−59023A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201762(P2010−201762)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】