説明

防眩性と耐食性に優れる亜鉛系めっき鋼板

【要 約】
【課 題】 床板、仮設壁材、固定壁材および裏打ち材などの建築パネル材用として好適な、防眩性と耐食性がともに優れた亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】 亜鉛系めっき皮膜の上層としてさらに、粒径が0.5〜1.2μmの無機質粒子を3〜20%、ポリウレタン系樹脂と酸価が10未満であるアクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂のうちから選ばれた1種または2種以上とからなる合成樹脂を20〜40%含む合成樹脂塗料を塗布して、防眩性塗膜を形成する。これにより、防眩性と耐食性がともに優れた亜鉛系めっき鋼板となる。無機質粒子としては、酸化物、窒化物、硼化物および珪化物のうちから選ばれた1種または2種以上とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛系めっき鋼板に係り、とくに工事現場等で使用される床板、仮設壁材や固定壁材および裏打ち材などの建築パネル材用として好適な亜鉛系めっき鋼板の防眩性および耐食性の向上に関する。なお、本発明でいう鋼板は、コイル状(鋼帯)、切り板シート状(鋼板)のいずれをも含むものとする。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は、溶融めっき方法、電気めっき方法等の手段を介して表面に、例えば、亜鉛、亜鉛−アルミニウム、亜鉛−ニッケル等の亜鉛基合金を被覆した鋼板である。亜鉛系めっき鋼板は、建材、土木用部材、家電製品、自動車足回り部品など、様々な分野で使用されている。例えば、溶融亜鉛系めっき鋼板は、高い防錆性および耐食性を有するために、工事現場等で使用される床板、仮設壁材や固定壁材および裏打ち材などの建築パネル材として多く用いられている。
【0003】
通常、亜鉛系めっき鋼板の外観は、ほぼ白色であり、とくに溶融めっき法で作製された亜鉛系めっき鋼板は、表面に施されためっきが高い金属光沢を有するため、工事現場等で使用される床板や壁材等に代表されるような、太陽光や電気光に晒される場所で使用する場合には、その表面に強い反射光が生じて、作業者や通行人を眩惑し、その作業性や安全性の低下を招くという問題が指摘されていた。
【0004】
このような事態を避けるために、例えば、特許文献1には、亜鉛系めっき材料の表面に、無機化学的着色法により黒色皮膜を形成する亜鉛系めっき材料の黒色化処理方法が提案されている。特許文献1に記載された技術によれば、亜鉛系めっき材料の防眩性が向上するとともに、意匠性も向上するとしている。
【0005】
また、特許文献2には、溶融亜鉛めっき後の溶融状態の溶融亜鉛めっき面に水滴を水量密度50cc/m以上で吹き付け、表面が粗面化された亜鉛めっき層を形成してなる溶融亜鉛めっき鋼板が提案されている。これにより、溶融亜鉛めっき鋼板の防眩性が向上するとしている。
【0006】
また、特許文献3には、亜鉛めっき鋼板を冷間成形加工して亜鉛めっき建材とするに際し、太陽光線が照射される側のめっき表面を、ショットブラスト処理等により乱反射面とした亜鉛めっき建材が提案されている。
【特許文献1】特開平7−62554号公報
【特許文献2】特開平9−78216号公報
【特許文献3】特開平9−209492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
建築パネル材である床板、仮設壁材、固定壁材および裏打ち材などには、上記したような防眩性に加えて、高い耐食性が要求される。例えば、床板や仮設壁材などは、通常、一定期間だけ特定の工事現場で使用された後、また別の場所で繰り返し使用されることがある。したがって、床板や仮設壁材は、防眩効果と同時に高い耐食性をも要求されるものである。また、固定壁材や裏打ち材においても、住宅部材として20年以上の長期にわたり使用されるため、耐食性が要求されている。
【0008】
特許文献1に記載された技術で利用する無機化学的着色法は、ニッケルイオンおよびコバルトイオンの1種または2種、アンモニウムイオンおよび1級アミノ基を2個有する鎖状化合物の中から選ばれる1種又は2種以上、および硝酸イオンを所定の範囲に含有し、さらにフッ化物を所定量含み、pH2.0〜4.5に調整した処理液に、亜鉛系めっき材料の表面を接触させる方法である。この方法によれば、粒状に析出するニッケルおよび/またはコバルト、および電気化学的に卑な金属(亜鉛)の溶出(エッチング)によって生じた素地の凹凸とにより、光の散乱効果が生じ、黒色外観を呈し、防眩性が向上する。しかし、めっき表面がポーラスとなり、耐食性が犠牲になるという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載された技術によれば、表面が粗面化され光の乱反射により防眩性は生じるものの、めっき皮膜の耐食性が不十分となるという課題があった。また、特許文献3に記載された技術によれば、太陽光線が照射される側のめっき表面が乱反射面となり、防眩性が向上する。特許文献3には、めっき表面を粗面化する方法として、溶融亜鉛めっき後の冷却速度を調整する方法や、粗面ロールによる粗面化、ショットブラストを行なう方法等が例示されている。
【0010】
しかし、溶融亜鉛めっき後の冷却速度を調整する方式では、溶融亜鉛の表面と内部の凝固温度差から、めっき層断面が不均一な成分分布になり、防錆性が低下するという問題がある。また、粗面ロールを使用する方法では、乱反射を誘起するような粗面とするために強圧下すると、めっき表面の酸化皮膜が損傷され防錆性が阻害されるという問題があった。また、ショットブラストによる方法も、乱反射をもたらすような程度に処理を施すと、めっき表面の酸化皮膜が破損して、防錆性が低下するという問題があった。
【0011】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、床板、仮設壁材、固定壁材および裏打ち材などの建築パネル材用として好適な、防眩性と耐食性がともに優れた亜鉛系めっき鋼板、およびそれを用いた建築パネル材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、防眩性と耐食性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。その結果、基板となる亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき皮膜の上層として、所定の大きさのセラミックなどの微粒子を均一に分散させた樹脂塗膜、すなわち防眩性塗膜を形成することにより、亜鉛系めっき鋼板の防眩性と耐食性とを同時に向上させることができることを見出した。
【0013】
本発明は、上述した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎの通りである。
(1)鋼板表面に亜鉛系めっき皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板であって、前記亜鉛系めっき皮膜の上層としてさらに、防眩性塗膜を形成してなることを特徴とする防眩性と耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
(2)(1)において、前記防眩性塗膜を、平均粒径:0.5〜1.2μmの無機質粒子5〜50質量%を分散させた合成樹脂塗膜とすることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
(3)(1)において、前記防眩性塗膜が、質量%で、平均粒径が0.5〜1.2μmの無機質粒子を3〜20%、合成樹脂を20〜40%含み、残部が主として溶媒からなる合成樹脂塗料を塗布して形成されたものであることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
(4)(3)において、前記合成樹脂が、固形分換算で50〜100質量%のポリウレタン系樹脂と、固形分換算で0〜50重量%の、酸価が10未満であるアクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂のうちから選ばれた1種または2種以上とからなることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
(5)(3)または(4)において、前記合成樹脂のガラス転移温度が30〜60℃であることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
(6)(2)ないし(5)のいずれかにおいて、前記無機質粒子が、酸化物、窒化物、硼化物および珪化物のうちから選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
(7)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記防眩性塗膜の厚さが、0.5〜6μmであることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
(8)(1)ないし(6)のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板を、成型してなる建築パネル材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鏡面光沢度(JIS Z7841 に規定される60°鏡面反射率)が30%以下という優れた防眩性(低光沢)と、優れた耐食性と、さらには優れた皮膜密着性を有する亜鉛系めっき鋼板を、安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明の亜鉛系めっき鋼板を床板、仮設壁材等の建築パネル材として用いることにより、工事中の作業者に対して十分な防眩性を与えることができ、より安全に作業することが可能となるという効果もある。また、建築パネル材以外の他の分野、例えば自動車や各種構造物に使用した場合にも、全く同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の亜鉛系めっき鋼板は、鋼板表面に亜鉛系めっき皮膜を有し、さらにその上層として防眩性塗膜を有する亜鉛系めっき鋼板である。
本発明で使用する鋼板は、組成等その種類をとくに限定する必要はなく、用途に応じ適宜決定された組成を有する、公知の冷延鋼板、熱延鋼板がいずれも好適に使用できる。本発明では、これら鋼板表面に亜鉛系めっき皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板を基板とする。
【0016】
本発明でいう、「亜鉛系めっき」は、亜鉛めっき以外に、亜鉛をベースとする、5%Al−Zn系や8%Al−Zn系、15%Al−Zn系などのAl−Zn系合金めっき、6%Al−3%Mg−Zn系や11%Al−3%Mg−Zn系などのAl−Mg−Zn系合金めっき、およびアルミニウムをベースとする55%Al−Zn系や75%Al−Zn系などのZn−Al系合金めっきがいずれも好適に使用できる。また、本発明では、亜鉛めっき、Al−Zn系合金めっき、Al−Mg−Zn系合金めっき、Zn−Al系合金めっき以外にも、Zn−Al合金中に、Mg、Mn、Si、Ti、Ni、Co、Mo、Pb、Sn、Cr、La、Ce、Y、Nbなどから選ばれた1種または2種以上の元素を含有した合金系めっきも亜鉛系めっき皮膜として同様に適用できる。
なお、本発明における亜鉛系めっき皮膜は、電気めっき法、溶融めっき法等その形成方法は、とくに限定する必要はなく、公知のめっき皮膜形成方法がいずれも好適に適用できる。また、本発明における上記した亜鉛系めっき皮膜の膜厚は、とくに限定する必要はなく、用途に応じ適宜決定することが好ましい。
【0017】
本発明の亜鉛系めっき鋼板で亜鉛系めっき皮膜の上層として形成される防眩性塗膜は、平均粒径:0.5〜1.2μmの無機質粒子を分散させた合成樹脂塗膜とする。
【0018】
この合成樹脂塗膜は、平均粒径が0.5〜1.2μmの無機質粒子と、合成樹脂とを含み、残部が主として溶媒からなる合成樹脂塗料を塗布して形成されたものとすることが好ましい。
【0019】
本発明では、塗膜に防眩性を付与するために、塗膜中に無機質粒子を均一、分散させる。塗膜中に均一、分散させる無機質粒子としては、例えば、酸化物、窒化物、硼化物および珪化物等のセラミック粒子とすることが好ましい。好ましいセラミック粒子としては、SiO2、Fe2O3、TiO2などの酸化物セラミック粒子、窒化バナジウムなどの窒化物セラミック粒子、硼化モリブデン、硼化マグネシウムなどの硼化物セラミック粒子、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウムなどの珪化物セラミック粒子が例示できる。
【0020】
これらの無機質粒子は、塗膜の厚さに応じて平均粒径が0.5〜1.2μmの大きさのものを用いる。この粒径範囲は、太陽光の放射分布が強い部分の波長領域にほぼ等しく、この範囲の粒径を有する粒子は、光を乱反射させるために有効に作用し、観る者に眩しさを感じさせないように作用する。無機質粒子の平均粒径が0.5μm未満では光が透過しやすく、また、1.2μm超えでは塗膜表面に粒子が突出する場合が多くなり、皮膜密着性が低下する。このため、塗膜中に均一分散させる無機質粒子の平均粒径を0.5〜1.2μmの範囲に限定した。なお、好ましくは0.5〜1.0μm、より好ましくは0.6〜0.8μmである。なお、無機質粒子の粒径は、光透過法で測定した値を用いるものとする。
【0021】
塗膜中の無機質粒子の含有量が5質量%未満では、塗膜の防眩性の向上が不充分であり、一方、50質量%を超える含有は、塗膜の密着性が低下する。このため、塗膜の無機質粒子の含有量は5〜50質量%に限定した。
【0022】
上記した粒径を有する無機質粒子を均一、分散させた合成樹脂塗膜は、上記した粒径を有する無機質粒子を3〜20質量%、合成樹脂を20〜40質量%含み、残部が溶媒からなる合成樹脂塗料を塗布して形成されたものとすることが好ましい。
【0023】
合成樹脂塗料中の無機質粒子の添加量が3質量%未満では、光を乱反射する程度が少なく、防眩性の向上が不充分となり、一方、20質量%を超えて添加されると、皮膜の密着性が低下する。このため、無機質粒子の添加量は3〜20質量%に限定することが好ましい。なお、防眩性をさらに向上させるために、必要に応じさらにカーボンブラック、シアニングリーン、シアニンブルーなどの着色顔料を、上記した無機質粒子の添加量と合計で3〜20質量%程度添加できる。
【0024】
また、合成樹脂塗料中の合成樹脂が20質量%未満では、塗膜と鋼板との密着性が低下する。一方、40重量%を超えると、エマルジョンが破壊されて塗料を塗布できなくなる。このため、合成樹脂の添加量を20〜40質量%に限定することが好ましい。
【0025】
防眩性塗膜の形成に使用する塗料中に配合する合成樹脂は、ポリウレタン樹脂を主成分とし、あるいはさらに酸価が10未満であるアクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂のうちから選ばれた1種または2種以上を混合したものとすることが好ましい。
【0026】
合成樹脂は、ポリウレタン樹脂単独とするか、あるいは固形分換算で、ポリウレタン樹脂を50質量%以上と、アクリル−スチレン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂のうちから選ばれた1種または2種以上を50質量%以下、配合したものとすることが好ましい。アクリル−スチレン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂の1種または2種以上の配合率が50質量%を超えると、充分な耐食性、密着性を有する塗膜が得られない。
【0027】
これらの樹脂は、水溶性のものを用いるか、あるいはエマルジョン化して、溶媒に添加して用いることが好ましい。なお本発明では溶媒として、水を用いることが好ましい。
【0028】
使用するポリウレタン樹脂としては、架橋構造体のウレタンエラストマーが好ましい。架橋構造体のウレタンエラストマーは、耐水性、耐加水分解性、耐溶剤性、耐候性に優れ、塗膜の長期安全性確保に大きく寄与する。
【0029】
ここでいう「架橋構造体のウレタンエラストマー」とは、高分子量のウレタン樹脂に親水基または親水性セグメントを付与した非反応型の架橋構造体のウレタンエラストマーを水中に分散させた水系ウレタン樹脂を意味する。具体的には、「架橋構造体のウレタンエラストマー」とは、多価イソシアネートと多価アルコール(以下、ポリオールという)とがウレタン結合を繰り返すことによって得られる高分子化合物を意味し、水中に分散させた自己乳化型のウレタンエマルジョンである。
【0030】
イソシアネートとしては、
p−フェニレンジイソシアネート、2,4−トルイレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリイソシアネート、キリレンジイソシアネート、ナフタリン1,5−ジイソシアネート、ポリメチレンフェニルイソシアネートなどの芳香族多イソシアネート;
ヘキサメチレンジイソシアネート、リジン・ジイソアネート、キリレンジイソシアネート、水素添加トルイレンジイソシアネート、水素添加メチレンジイソシアネート、ジンクロヘキシル・ジメチルメタンp,p’−ジイソシアネート、ジエチルフマレートジイソシアネートなどの非黄変性多イソシアネート;
などが例示される。なお、耐候性向上の観点から、イソシアネートとして非黄変性多イソシアネートを用いることが好ましい。
【0031】
ポリオールとしては、
エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどのジオール類;
グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオールなどの単一ポリオール型;
アジピン酸、セバチン酸、マレイン酸、ダイマー酸などのジカルボン酸にエチレングリコールやプロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールを結合し末端を水酸基としたもの;
重合ラクトングリコールエステル、ヒマシ油などのポリエステル型;
エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフランなどのアルキレンオキサイドを開環重合するか、またはグリセリンやトリメチロールプロパンなどの多価アルコールに付加したポリエーテル型;
上記のポリエステル型とポリエーテル型の複合型;
などが例示される。亜鉛系めっき鋼板との密着性を考慮すると、なかでも、ポリオールとしてポリエステル型を用いることが好ましい。
【0032】
なお、本発明で使用する架橋構造体のウレタンエラストマー(ポリウレタン樹脂)は、そのガラス転移点を30〜60℃の範囲内に設定することが望ましい。
【0033】
また、本発明では合成樹脂として、上記したポリウレタン樹脂に、アクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂のうちから選ばれた1種または2種以上を配合してもよい。アクリル−スチレン系樹脂は、耐候性、耐水性に優れ、またフェノール樹脂やエポキシ樹脂は、耐食性向上に寄与するため、これら樹脂の配合は、塗膜の長期安定性確保に有利となる。
【0034】
ここで、アクリル−スチレン系樹脂とは、アクリル系単量体とスチレン系単量体を分子中に含有する共重合体の樹脂を意味する。
【0035】
アクリル系単量体としては、
ブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、カルビトールアクリレートなどの1官能のアクリル単量体;
アクリル酸エステル、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ポリエリレングリコールジアクリレート、ペンタエルストールジアクリレートなどの2官能のアクリル酸エステル;
トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレートなどの3官能のアクリル酸エステル;
などが例示される。
【0036】
また、スチレン系単量体としては、
α−メチルスチレン、スチレン、p−メトキシスチレン、o−クロルスチレン、p−クロルスチレン
などが例示される。
なお、このようなアクリル−スチレン系樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。本発明においては、合成樹脂として配合するアクリル−スチレン系樹脂は、酸価が10未満、より好ましくは2以下の樹脂とする。アクリル−スチレン系樹脂の酸価が10以上となると、アクリル−スチレン系樹脂の長期安定性が低下するおそれがある。このため、配合するアクリル−スチレン系樹脂の酸価を10未満とした。また、本発明で使用するアクリル−スチレン系樹脂は、そのガラス転移点を30〜60℃の範囲内に設定することが好ましい。
【0037】
フェノール樹脂は、フェノール、クレゾール、キシレノール、p−アルキルフェノール、p−フェニルフェノール、クロルフェノール、ビスフェノールA、フェノールスルホン酸、レゾルシンなどのフェノール性水酸基を有するものに、ホルマリン、フルフラールなどのアルデヒド類を付加、縮合した高分子である。
【0038】
フェノール樹脂としては、
フェノール・ホルマリン樹脂;
クレゾール・ホルマリン樹脂;
変形フェノール樹脂;
フェノール・フルフラール樹脂;
レゾルシン樹脂;
などが例示される。
【0039】
エポキシ樹脂としては、
ビスフェノール系、ノボラック系、アルキルフェノール系、レゾルシン系、ポリグリコール系、エステル系、N−グリシジルアミン系などのグリシジル型;
環状脂肪族エポキシサイド、エポキシ化ブタジエン、エポキシ化グリセライド、反応性低粘土エポキシサイドなどの非グリシジル型;
などが例示される。
【0040】
また、本発明で合成樹脂として使用する、ポリウレタン樹脂と、アクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂、エポキシのうちから選ばれた1種または2種以上とを混合した樹脂のガラス転移点は、30〜60℃の範囲内に設定することが好ましい。樹脂のガラス転移点が30℃未満では、比較的良好な加工性を有するものの、成形加工時に樹脂層が押しつぶされ、塗膜面に傷が発生することがある。また、塗装鋼板同士を積層するとブロッキングが生じることがある。一方、樹脂のガラス転移点が60℃を超えると、塗装面の損傷は抑制されるものの、成形加工による鋼板の変形や伸びに樹脂層が追随できず、樹脂層に微細な割れや剥離などが生じることがある。いずれの場合においても、めっき面の露出や損傷によって、亜鉛系めっき鋼板の耐食性の低下をまねき、商品価値が低下する。
【0041】
防眩性塗膜形成に使用する合成樹脂塗料は、上記した成分以外の残部は、主として溶媒からなる。ここでいう「主として溶媒からなる」は、さらに分散剤を含有する場合をも含むものとする。溶媒としては、水を用いることが好ましい。また、分散剤としては、低分子量のポリアクリル酸アンモン、低分子量のスチレン−マレイン酸アンモン共重合体などが好適である。
【0042】
また、防眩性塗膜の形成用塗料には、従来、塗料用の添加剤として慣用されている添加成分、例えば、クロム酸、重クロム酸、クロム酸アンモニウム、ストロンチウムクロメート、リン酸クロメート、カルシウムクロメートなどのクロム系防錆剤、リン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウム、バナジン酸アンモニウムなどの非クロム系防錆剤、カーボンブラックなどの着色顔料、紫外線吸収剤、擦り傷防止剤、防カビ剤、抗菌剤、酸化防止剤、帯電防止剤などや、塗料への公知の添加剤である、レベリング剤や消泡剤、分散剤、はじき防止剤、色別れ防止剤、沈降防止剤、界面活性剤などを必要に応じて配合することもできる。
【0043】
つぎに、本発明の亜鉛系めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0044】
鋼板表面に亜鉛系めっき皮膜を有するめっき鋼板を基板として用意する。
基板に上記した合成樹脂樹脂塗料を塗布して、亜鉛系めっき皮膜の上層として、防眩性塗膜を形成する。合成樹脂樹脂塗料の塗布に際しては、浸漬、スプレー、ハケ塗、バーコーター、ロールコーター、フローコーター、エアーナイフ、静電塗布などの従来既知の方法がいずれも使用できる。この塗布はめっき鋼板の片面と両面のいずれに施してもよい。
【0045】
また、使用する合成樹脂樹脂塗料は、上記した配合の合成樹脂を溶媒、好ましくは水にエマルジョンした合成樹脂エマルジョン、あるいは上記した合成樹脂を水溶性合成樹脂として水に溶かした水溶液に、さらに、平均粒径:0.5〜1.2μmの無機質粒子を、あるいはさらに着色顔料を、合計で3〜15質量%と、好ましくは分散剤とともに添加して均一に分散させたものを用いることが好ましい。
【0046】
塗料の塗布量は、製品が使用される環境を考慮して決定することが好ましいが、通常の塗装鋼板に適用されている数十μmの厚さまでは必要ではなく、乾燥焼付後の膜厚で0.5〜6μmとすることが好ましい。より好ましくは1.0〜5.0μmである。膜厚が0.5μm未満では、防眩性の向上効果が少なく、一方、6μmを超えると、塗膜密着性が低下する。
【0047】
塗布した塗料の乾燥、焼付は、公知の熱風乾燥装置や遠赤外線加熱装置、誘導過熱装置などがいずれも適用でき、50〜220℃の範囲の温度で数秒〜数十秒間乾燥させることが好ましい。
【実施例】
【0048】
鋼板表面に、表1に示す種類の亜鉛系めっき皮膜を有するめっき鋼板を基板とし、基板表面に、表1に示す配合組成の合成樹脂塗料を、バーコーターで所定の乾燥膜厚になるように塗布し、最高到達板温:80℃、処理時間:10秒間の条件で乾燥、焼付けし、塗膜を形成して、亜鉛系めっき皮膜の上層に塗膜を有する亜鉛系めっき鋼板を得た。なお、配合した樹脂の種類と記号を、表2に示す。
得られた亜鉛系めっき鋼板について、密着性、光沢度、耐食性について評価した。試験方法はつぎのとおりである。
(1)密着性試験
各亜鉛系めっき鋼板から試験片を採取して、JIS G 3312の規定に準拠して曲げ試験を実施し、曲げ試験後、セロハンテープによる塗膜の剥離状態を調査した。剥離なしを○、少し剥離ありを△、全面剥離の場合を×とした。なお、曲げ試験に際しては、折り曲げ部に、同一試験片を2枚はさみ、万力で締め付けた。
(2)光沢度試験
各亜鉛系めっき鋼板から試験片を採取して、JIS Z 8741の規定に準拠して、光沢度(60度鏡面反射率:%)を求めた。光沢度(%)は、入射角を60度、受光角を60度として試験片(亜鉛系めっき鋼板)の正反射性を測定した。数値が小さいほど正反射性が低く、防眩性が高いことを示す。
(3)耐食性試験
各亜鉛系めっき鋼板から試験片を採取して、JIS Z 2371の規定に準拠して、塩水噴霧試験を実施した。噴霧液を5%食塩水(温度:35℃)とし、噴霧時間を120時間とした。試験後、試験片表面の白錆発生状態を調査し、耐食性を評価した。白錆発現面積が10%以下を○、白錆発現面積が11〜30%の場合を△、白錆発現面積が31%以上の場合を×とした。
【0049】
得られた結果を表3に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
本発明例はいずれも、光沢度が25%以下と低く、防眩性に優れるうえ、さらに密着性や耐食性にも優れた亜鉛系めっき鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、光沢度が29%以上と高く、防眩性に劣るか、密着性および耐食性のいずれかまたは両方ともが不充分となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面に亜鉛系めっき皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板であって、前記亜鉛系めっき皮膜の上層としてさらに、防眩性塗膜を形成してなることを特徴とする防眩性と耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
前記防眩性塗膜を、平均粒径:0.5〜1.2μmの無機質粒子を5〜50質量%分散させた合成樹脂塗膜とすることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
前記防眩性塗膜が、質量%で、平均粒径が0.5〜1.2μmの無機質粒子を3〜20%、合成樹脂を20〜40%含み、残部が主として溶媒からなる合成樹脂塗料を塗布して形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
前記合成樹脂が、固形分換算で50〜100質量%のポリウレタン系樹脂と、固形分換算で0〜50重量%の、酸価が10未満であるアクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂のうちから選ばれた1種または2種以上とからなることを特徴とする請求項3に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項5】
前記防眩性塗膜が、膜厚:0.5〜6μmであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項6】
前記無機質粒子が、酸化物、窒化物、硼化物および珪化物のうちから選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の亜鉛系めっき鋼板を、成型してなる建築パネル材。