説明

防腐・防黴剤

【課題】乳化系の化粧料や皮膚外用剤であっても、1,2−アルカンジオールによる防黴効果を高めることができる防腐・防黴剤、並びに該防腐・防黴剤を含有した化粧料及び皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】(A)炭素数6〜12の1,2−アルカンジオールと、(B)炭素数6〜22の炭化水素鎖を有する二価カルボン酸の1種又は2種と、平均重合度が2〜15のポリグリセリンとが縮合されたオリゴマーエステルとを含有してなる防腐・防黴剤、並びに該防腐・防黴剤を含有した化粧料又は皮膚外用剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防腐・防黴剤並びに該防腐・防黴剤を含有した化粧料及び皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料や皮膚外用剤は、製品の防腐性を担保するために防腐剤が配合される。このような防腐剤として、防腐効果に優れていることから、パラベン、安息香酸類、サリチル酸類等が多用されている。しかし、これら防腐剤に対して皮膚刺激を感じる人も多いことから、近年では、これら従来の防腐剤を用いずに、防腐性を担保する技術が種々検討されている。
【0003】
このような従来の防腐剤を用いない技術として、近年、1,2−アルカンジオールを用いる技術が注目されている(例えば、特許文献1〜5を参照)。しかしながら、1,2−アルカンジオールは、大腸菌などの一般細菌に対しては優れた抗菌効果を示すものの、カビ類に対しては劣る傾向があり、特に乳化系の化粧料や皮膚外用剤では、防黴効果が低下する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−322591号公報
【特許文献2】国際公開第04/028519号パンフレット
【特許文献3】国際公開第04/028520号パンフレット
【特許文献4】特表2008−517037号公報
【特許文献5】特開2008−007414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであって、乳化系の化粧料や皮膚外用剤であっても、1,2−アルカンジオールによる防黴効果を高めることができる防腐・防黴剤、並びに該防腐・防黴剤を含有した化粧料及び皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、
〔1〕(A)炭素数6〜12の1,2−アルカンジオールと、(B)炭素数6〜22の炭化水素鎖を有する二価カルボン酸の1種又は2種と、平均重合度が2〜15のポリグリセリンとが縮合されたオリゴマーエステルとを含有してなる防腐・防黴剤、
〔2〕前記〔1〕の防腐・防黴剤を含有したことを特徴とする化粧料、並びに
〔3〕前記〔1〕の防腐・防黴剤を含有したことを特徴とする皮膚外用剤
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の防腐・防黴剤は、相乗的に抗菌活性を高めることにより、乳化系の製品であっても、1,2−アルカンジオールのカビに対する抗菌力を増強させ、優れた防腐・防黴効果を奏する。また、本発明に係る防腐・防黴剤を配合した化粧料又は皮膚外用剤は、パラベンなどの従来の防腐剤を含有する必要を無くすことができ、しかも優れた抗菌活性を有しているので、防腐・防黴剤自体を低配合とすることもできるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の防腐・防黴剤は、(A)1,2−アルカンジオールと、(B)二価カルボン酸の1種又は2種と、ポリグリセリンとが縮合されたオリゴマーエステルとを含有する。
【0009】
(A)成分の1,2−アルカンジオールは、炭素数6〜12の1,2−アルカンジオールが用いられる。具体的には、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,2−デカンジオール、1,2−ウンデカンジオール、1,2−ドデカンジオールが挙げられる。これらのうち、入手の容易性及び防黴効果の観点から、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−デカンジオールを用いるのが好ましく、1,2−オクタンジオール、1,2−デカンジオールを用いるのがより好ましく、1,2−デカンジオールを用いるのが特に好ましい。尚、本発明においては、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0010】
(B)成分のオリゴマーエステルは、炭化水素鎖を有する二価のカルボン酸とポリグリセリンとのエステルであり、下記一般式(1)で表される。
【化1】

(式中、mは4〜20の整数を、nは2〜15の整数を、pは2〜20の整数を表す。)
【0011】
すなわち、オリゴマーエステルの製造に用いる二価のカルボン酸は、炭素数6〜22の炭化水素鎖を有する二価カルボン酸が用いられる。具体的には、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸等を例示することができる。これら二価カルボン酸のうち、1種を単独で、又は2種を混合して用いる。
【0012】
これら二価のカルボン酸のうち、(A)成分の防黴効果の増強効果に優れることから、炭素数14〜20の二価カルボン酸を用いるのが好ましく、テトラデカン二酸とエイコサン二酸を混合して用いるのがより好ましい。
【0013】
オリゴマーエステルの製造に用いるポリグリセリンとしては、平均重合度が2〜15のポリグリセリンが用いられ、(A)成分の防黴効果の増強効果に優れることから、平均重合度が8〜12のポリグリセリンを用いるのが好ましい。尚、ポリグリセリンの平均重合度は、水酸基価から算出することができる。
【0014】
これらのことから、最も好ましいオリゴマーエステルは、テトラデカン二酸及びエイコサン二酸と平均重合10のポリグリセリンとが縮合されたオリゴマーエステルである。このようなオリゴマーエステルは、化粧品原料表示名称:(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリン−10と称され、INCI名称:POLYGLYCERYL−10 EICOSANEDIOATE/TETRADECANEDIOATE(International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook 第20版)と称される。
【0015】
オリゴマーエステルの製造は、一般的なエステルの合成方法により得ることが出来る。例えば、二価カルボン酸の1種を単独で或いは2種を混合し、硫酸、塩酸などの触媒の存在下でポリグリセリンとエステル化反応させることにより得ることができる。尚、オリゴマーエステルは、上記の如く、二価のカルボン酸とポリグリセリンとから製造しても良いが、市販品をそのまま用いることもできる。用い得る市販品としては、商品名 Neosolue−Aqua、Neosolue−AquaS(いずれも日本精化株式会社製)等を例示することができる。
【0016】
本発明に係る防腐・防黴剤においては、上記した(A)成分と(B)成分の含有量は特に限定されないが、重量比で(A):(B)が、5:1〜1:100となるように配合するのが好ましく、より好ましくは3:1〜1:40であり、更に好ましくは1:1〜1:10であり、1:1〜1:5が特に好ましい。(A)成分の1,2−アルカンジオールを(B)成分の含有量の100重量倍を超えて配合すると、また0.2重量倍未満の場合、防黴活性の増強効果が期待できないために好ましくない。
【0017】
本発明に係る防腐・防黴剤は、(A)成分の1,2−アルカンジオールと、(B)成分のオリゴマーエステルとを含有することから、後述する実施例に示されるように、(A)成分と(B)成分との相乗効果によって、防黴効果の増強作用が発揮される。したがって、従来、1,2−アルカンジオールによる防腐効果、特に防黴効果に優れていない乳化系の化粧料や皮膚外用剤であっても、一般細菌のほか、カビに対しても優れた防黴効果が発揮される。
【0018】
本発明の防腐・防黴剤は、皮膚外用剤や化粧料などに配合して使用することができる。具体的には、にきび治療薬、スキンクリーム、化粧水、乳液、ローション、ファンデーション、マスカラ、ネールエナメル、口紅、洗顔料、育毛・養毛剤等の皮膚外用剤や化粧料に用いることができる他、シャンプー、ヘアトリートメント、ヘアクリーム、ヘアフォーム、パーマネントウェーブ剤、染毛剤、毛髪脱色剤等の化粧料にも用いることができ、特に、乳化系のこれら皮膚外用剤や化粧料に用いるのが好ましい。
【0019】
本発明の防腐・防黴剤を用いて皮膚外用剤や化粧料を調製する場合、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上記した成分の他、皮膚外用剤や化粧料に通常用いられる成分を適宜任意に配合することができる。例えば、油脂、ロウ類、高級脂肪酸、低級アルコール、高級アルコール、ステロール類、脂肪酸エステル、保湿剤、界面活性剤、高分子化合物、無機顔料、色素、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ビタミン類、収斂剤、美白剤、動植物抽出物、金属イオン封鎖剤、精製水等を例示することができる。
【0020】
皮膚外用剤や化粧料に本発明の防腐・防黴剤を配合する場合、配合量は特に限定されないが、組成物中0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜6重量%である。配合量が0.1重量%未満の場合、防黴効果に劣るために、また、10重量%を超えて配合したとしてもそれ以上の効果が望めないからである。
【実施例】
【0021】
(試料の調製1)
表1に示す処方に従い、本発明に係る防腐・防黴剤を配合したクリーム(実施例1〜2)、及び比較例1〜3のクリームを定法により調製し、チャレンジテストにより防黴効果を評価した。尚、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル−10は、エイコサン二酸及びテトラデカン二酸と平均重合度10のポリグリセリンのオリゴマーエステルであり、商品名 Neosolue−Aqua(日本精化株式会社製)を用いた。また、配合量は、「質量%」を表す。
【0022】
【表1】

【0023】
(防黴試験)
供試菌には、カビとしてAspergillus niger NBRC9455(クロカビ)を用いた。この菌を予め前培養した培養液を、約10cells/mLに希釈したものを菌懸濁液とした。尚、菌数はコロニーカウント法により確認した。
【0024】
乾熱滅菌済みのガラス容器に、実施例或いは比較例の各試料を20g入れ、上記菌懸濁液を0.2mL接種して、25℃で培養行い、7,14,21日後に、各試料を1gずつ抜き取り、生理食塩水で希釈したものを寒天培地に混釈して72時間培養し、試料中の残存菌数を算出した。結果を表2に示す。尚、完全に死滅したことを確認した以後の測定は省略した。また、表2中の単位は、「cells/mL」である。
【0025】
【表2】

【0026】
表2の結果から、1,2−アルカンジオール単独(比較例2)及びオリゴマーエステル単独(比較例3)のみでは、防黴効果を示さない。これに対して、両者を併用した実施例1〜2では、防黴効果が発揮されることが分かる。
【0027】
(試料の調製2)
表3に示す処方に従い、本発明に係る防腐・防黴剤を配合したローション(実施例3)、及び比較例4のローションを定法により調製し、チャレンジテストにより防腐・防黴効果を評価した。尚、(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル−10は、商品名 Neosolue−Aqua(日本精化株式会社製)を用いた。また、配合量は、「質量%」を表す。
【0028】
【表3】

【0029】
(防腐・防黴試験)
供試菌には、Staphylococcus aureus NBRC13276(黄色ブドウ状球菌)を用いた。また、酵母としてCandida albicans NBRC1594(口腔カンジダ症菌)を、カビとしてAspergillus niger NBRC9455(クロカビ)を用いた。これらの菌を予め前培養した培養液を、一般細菌の混合菌は約10cells/mLに、酵母は約10cells/mLに、カビは約10cells/mLに希釈したものを菌懸濁液とした。尚、菌数はコロニーカウント法により確認した。
【0030】
乾熱滅菌済みのガラス容器に、実施例3或いは比較例4の各試料を20g入れ、上記菌懸濁液を0.2mL接種して、一般細菌は35℃で、酵母及びカビは25℃で培養を行った。一般細菌及び酵母については接種後1,7日後に、カビについては7,14,21日後に、各試料を1gずつ抜き取り、生理食塩水で希釈したものを寒天培地に混釈して72時間培養し、試料中の残存菌数を算出した。結果を表4に示す。また、表4中の単位は、「cells/mL」である。
【0031】
【表4】

【0032】
表4の結果から、1,2−アルカンジオール単独(比較例4)では、一般細菌並びに酵母に対して抗菌活性を示すものの、カビに対しては防黴作用を示さない系であることが分かる。これに対して、本発明の防腐・防黴剤を配合した実施例3では、一般細菌及び酵母に対する抗菌活性に加え、カビに対しても防黴効果を示すことが分かる。
【0033】
以下、本発明の防腐・防黴剤を配合した皮膚外用剤或いは化粧料の処方例を示す。尚、配合量は、「質量%」である。
【0034】
(処方例1:化粧水)
トリメチルグリシン 1.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
加水分解コラーゲン 0.5
水酸化レシチン 0.3
ポリエチレングリコール1500 1.0
グリセリン 5.0
プロピレングリコール 3.0
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 0.05
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.1
ヒドロキシエタンジホスホン酸液(60%) 0.05
水酸化カリウム 0.05
オクトキシグリセリン 0.2
1,2−ヘキサンジオール 0.2
(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル−10 1.2
精製水 残 分
合 計 100.0
【0035】
(処方例2:乳液)
デカメチルシクロペンタシロキサン 8.0
メチルポリシロキサン 0.5
メチルフェニルポリシロキサン 0.5
2−エチルヘキサン酸セチル 1.0
流動パラフィン 1.0
マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル 0.5
スクワラン 0.2
モノミリスチン酸デカグリセリル 1.5
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.5
ポリオキシエチレンメチルグルコシド(20E.O.) 2.0
グリセリン 5.0
プロピレングリコール 3.0
1,3−ブチレングリコール 3.0
ジグリセリン 1.0
加水分解ヒアルロン酸 0.1
キサンタンガム 0.01
カルボキシビニルポリマー 0.1
水酸化ナトリウム 0.05
1,2−デカンジオール 0.1
(エイコサン二酸/テトラデカン二酸)ポリグリセリル−10 0.6
精製水 残 分
合 計 100.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)成分と(B)成分とを含有してなる防腐・防黴剤。
(A)炭素数6〜12の1,2−アルカンジオール
(B)炭素数6〜22の炭化水素鎖を有する二価カルボン酸の1種又は2種と、平均
重合度が2〜15のポリグリセリンとが縮合されたオリゴマーエステル
【請求項2】
前記(A)成分が、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール及び1,2−デカンジオールからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の防腐・防黴剤。
【請求項3】
前記(B)成分が、下記式(1)で表されるオリゴマーエステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の防腐・防黴剤。
【化1】

(式中、mは4〜20の整数を、nは2〜15の整数を、pは2〜20の整数を表す。)
【請求項4】
前記(B)成分が、エイコサン二酸及びテトラデカン二酸と、平均重合度10のポリグリセリンとが縮合されたオリゴマーエステルであることを特徴とする請求項3に記載の防腐・防黴剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の防腐・防黴剤を含有したことを特徴とする化粧料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の防腐・防黴剤を含有したことを特徴とする皮膚外用剤。

【公開番号】特開2010−180150(P2010−180150A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24205(P2009−24205)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】