説明

防臭性清掃物品

【課題】清掃性及び糞尿臭の防臭性に優れた防臭性清掃物品を提供すること。
【解決手段】本発明の防臭性清掃物品は、セルロース系繊維を80重量%以上含む坪量20〜120g/m2の基材シートに、液体洗浄性組成物を含浸させてなる。前記液体洗浄性組成物が、β−グルクロニダーゼ活性を阻害する大環状ムスク化合物から選ばれる1種以上の化合物(a)を0.001〜1重量%、界面活性剤(b)を0.1〜1重量%、及び溶剤(c)を10〜50重量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレの清掃等、清掃性及び防臭性が求められる用途に好適な防臭性清掃物品に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレの清掃に好適な清掃物品として、特許文献1には水解性清掃物品が記載されている。また特許文献2には、水溶性溶剤、水不溶性油性物質、界面活性剤及び水からなる洗浄剤を水解紙に含浸させてなる水解性清掃物品が記載されており、該水不溶性油性物質として、香料として知られている植物精油やテルペン系炭化水素を用いることが記載されている。
【0003】
トイレの清掃には糞尿臭を伴う場合が多いため、トイレ用の清掃物品には、清掃効果(汚れの除去効果)に加えて、糞尿臭の防臭効果が求められている。特許文献1及び2に記載の清掃物品は、何れも水解性の向上を主たる技術課題としたもので、防臭効果について特に考慮されたものではない。
【0004】
糞尿臭等の悪臭の防臭方法としては、従来、悪臭を香料成分等の他の香りでマスキングする方法が知られている(例えば特許文献3〜8参照)。例えば特許文献5には、香料成分の一例として大環状ケトンに分類される化合物が挙げられている。このマスキングによる防臭方法においては、悪臭を瞬時にマスキングする必要があるため、香り立ちの高いトップノートやミドルノートの香料成分が多く使用されており、保留性が高く揮発性の低い香料成分の使用は一般的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−149237号公報
【特許文献2】特開平3−113099号公報
【特許文献3】特開平9−299464号公報
【特許文献4】特開2002−253652号公報
【特許文献5】特開2003−19190号公報
【特許文献6】特開2003−235949号公報
【特許文献7】特開2005−296169号公報
【特許文献8】特開2008−136841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3〜5に記載の防臭技術(香料によるマスキング法)は、糞尿臭に対する持続的な防臭効果に乏しく、また、糞尿臭を別の臭い成分で相殺する方法であって、糞尿臭の発生そのものを抑制することはできず、防臭効果の点で改良の余地があった。清掃性及び防臭性が高いレベルで両立した清掃物品は未だ提供されていない。
【0007】
従って、本発明の課題は、清掃性及び糞尿臭の防臭性に優れた防臭性清掃物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、尿より発生するフェノール系化合物及びインドール類が、尿臭への寄与の高い成分であること、及びこれらの成分は、菌体由来のβ−グルクロニダーゼが尿に作用することによって顕著に増加することを知見し、更に検討した結果、β−グルクロニダーゼ活性を阻害する大環状ムスク化合物と界面活性剤と溶剤とをそれぞれ特定量含む液体組成物が、汚れの除去効果及び糞尿臭の持続的な防臭効果の両方に有効であることを知見した。
【0009】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、セルロース系繊維を80重量%以上含む坪量20〜120g/m2の基材シートに、液体洗浄性組成物を含浸させた防臭性清掃物品であって、前記液体洗浄性組成物が、β−グルクロニダーゼ活性を阻害する大環状ムスク化合物から選ばれる1種以上の化合物(a)を0.001〜1重量%、界面活性剤(b)を0.1〜1重量%、及び溶剤(c)を10〜50重量%含有する防臭性清掃物品を提供することにより前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、清掃性及び糞尿臭の防臭性に優れた防臭性清掃物品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の防臭性清掃物品をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の防臭性清掃物品は、基材シートに液体洗浄性組成物を含浸させたものである。先ず、液体洗浄性組成物について説明する。本発明に係る液体洗浄性組成物は、必須成分として、β−グルクロニダーゼ活性を阻害する大環状ムスク化合物から選ばれる1種以上の化合物(a)、界面活性剤(b)、及び溶剤(c)を含有する。
【0012】
前記(a)成分(β−グルクロニダーゼ活性を阻害する大環状ムスク化合物)は、トイレ等における悪臭の主たる原因である糞尿臭の発生を持続的に抑制する役割を担うものである。糞尿臭、特に尿臭の主たる原因物質は、一般にアンモニアと考えられていたが、本発明者らの知見によれば、アンモニアよりも、フェノール系化合物やインドール類の方が尿臭への寄与が高く、またフェノール系化合物及びインドール類は、菌体由来のβ−グルクロニダーゼが尿に作用することで発生する。従って、β−グルクロニダーゼ阻害剤として前記(a)成分を含有する本発明の防臭性清掃物品でトイレの便器等の被清掃面を拭くと、該被清掃面におけるβ−グルクロニダーゼ活性が阻害され、これにより尿臭の原因物質であるフェノール系化合物及びインドール類の増加が抑制され、不快な尿臭の発生が持続的に抑制される。
【0013】
ここで、大環状ムスク化合物とは、ヘテロ原子が含まれていてもよい14〜18員環の大環状構造を有する化合物の総称であり、例えば「合成香料−化学と商品知識」(印藤元一著、化学工業日報社発行、2005年3月22日増補改定版)の391〜407頁に具体的に記載されている。
【0014】
β−グルクロニダーゼは、各種のアルコール類、フェノール類、アミン類等がグルクロン酸抱合された化合物(グルクロニド)を加水分解する酵素をいい、細菌、真菌、植物、動物など多くの生物に存在する。体外に排出された尿の分解には微生物の関与が大きいため、本発明においては、細菌及び真菌由来のβ−グルクロニダーゼが重要である。具体的には、Escherichia coli、Lactobacillus brevis、Propionibacterium acnes、Clostridium perfringens、Staphylococcus haemolyticus、Streptococcus agalactiae、Streptococcus pyogenes、Haemophilus somunus、Shigela sonnei、Aspergillus niger等由来のβ−グルクロニダーゼが挙げられる。これらの微生物由来のβ−グルクロニダーゼは共通のドメインを有する酵素群に分類される。更にはヒト血漿由来のβ−グルクロニダーゼも同様のタンパク質群に分類される。
【0015】
本明細書において、「β−グルクロニダーゼ活性を阻害する」とは、大環状ムスク化合物を反応液中0.1重量%添加することによって、1.6units/mlの大腸菌由来β−グルクロニダーゼType VII-Aの活性が60%以上抑制されるβ−グルクロニダーゼ阻害活性を示すものをいう。更に、反応液中0.01重量%添加することによって、前記活性を80%以上抑制するものであることが好ましい。
【0016】
前記(a)成分としては、例えば、3−メチルシクロペンタデカノン、3−メチル−4−シクロペンタデセン−1−オン、3−メチル−5−シクロペンタデセン−1−オン、9−シクロヘプタデセン−1−オン、シクロペンタデカノン、5−シクロヘキサデセン−1−オン、8−シクロヘキサデセン−1−オン、シクロペンタデカノリド、12−ケトシクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、7−シクロヘキサデセノライド、12−オキサ−16−ヘキサデカノリド、11−オキサ−16−ヘキサデカノリド、10−オキサ−16−ヘキサデカノライド、エチレンブラシレート,エチレンドデカンジオエートが挙げられる。これらは2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0017】
前記(a)成分として特に好ましいものは、3−メチル−4−シクロペンタデセン−1−オン、3−メチル−5−シクロペンタデセン−1−オン、5−シクロヘキサデセン−1−オン、8−シクロヘキサデセン−1−オン及び9−シクロヘプタデセン−1−オン(以上、ケトン類)、並びに7−シクロヘキサデセノライド及び10−オキサ―16−ヘキサデカノライド(以上、エステル類)である。
【0018】
前記成分(b)(界面活性剤)及び前記(c)成分(溶剤)は、何れも、油状物質である前記(a)成分の溶解助剤としての役割を担うと共に、本発明の防臭性清掃物品で被清掃面を拭いたときに、被清掃面に付着した菌や糞尿等の汚れの除去を促進し、あるいは浸透作用により前記(a)成分を菌や糞尿等の汚れに浸透させてβ−グルクロニダーゼ活性の阻害効果(防臭効果)を高める役割を担うものである。
【0019】
前記(b)成分としては、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤及び陰イオン性界面活性剤を用いることができる。
【0020】
前記(b)成分として使用可能な非イオン性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型非イオン性界面活性剤、下記一般式(2)で表されるアルキルグリコシド型非イオン性界面活性剤、下記一般式(3)で表されるアミンオキシド型非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0021】
【化1】

〔式(1)中、R4は炭素数8〜16の炭化水素基を示し、XはO、COO、CON又はNを示し、R5は炭素数2又は3のアルキレン基を示し、nは1〜100の数を示し、pは1(XがO若しくはCOOの場合)又は2(XがCON又はNの場合)を示す。〕
【0022】
前記一般式(1)において、R4としては、炭素数10〜14の炭化水素基、特に炭素数10〜14のアルキル基が好ましく、R5としては、炭素数2又は3のエチレン基が好ましい。
【0023】
【化2】

〔式(2)中、R6は炭素数8〜16の直鎖のアルキル基を示し、R7は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、Gは還元糖に由来する残基を示し、qは0〜6の数を示し、rはグルコースの平均縮合度であって1〜10の数を示す。〕
【0024】
前記一般式(2)において、R6としては、炭素数10〜16、特に炭素数10〜14のアルキル基が好ましく、R7としては、炭素数2〜4のエチレン基又はプロピレン基、特に炭素数2〜4のエチレン基が好ましい。またrは、好ましくは1〜5、更に好ましくは1〜2である。
【0025】
【化3】

〔式(3)中、R8は炭素数8〜16の直鎖のアルキル基を示し、R9は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、YはCOO又はCONHを示し、sは0又は1を示し、R10及びR11はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を示す。〕
【0026】
前記一般式(3)において、R8としては、炭素数10〜16、特に炭素数10〜14のアルキル基が好ましく、R9としては、炭素数2〜4のエチレン基又はプロピレン基が好ましく、R10、R11としては、炭素数1〜3のメチル基が好ましい。
【0027】
前記(b)成分として使用可能な両性界面活性剤としては、例えば、スルホベタイン型両性界面活性剤及びカルボベタイン型界面活性剤が挙げられ、具体的には下記一般式(4)で表される化合物が好ましい。
【0028】
【化4】

〔式(4)中、R12は炭素数8〜16の直鎖のアルキル基を示し、R13は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、Z1はCOO又はCONHを示し、tは0又は1を示し、R14及びR15はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を示し、R16はヒドロキシ基で置換されていても良い炭素数1〜3のアルキル基を示し、Z2はSO3-又はCOO-を示す。〕
【0029】
前記(b)成分として使用可能な陽イオン性界面活性剤としては、例えば、4級アンモニウム塩型界面活性剤であって、該4級アンモニウム塩型界面活性剤におけるNと結合する4つの置換基のうちの1個又は2個が、炭素数8〜12のアルキル基であり、残りの置換基が、炭素数1〜3のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基又はベンジル基であるものが挙げられる。
【0030】
前記(b)成分として使用可能な陰イオン性界面活性剤としては、例えば、炭素数10〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸低級アルキルエステル塩及び脂肪酸が挙げられる。
【0031】
前記(b)成分として特に好ましいものは、アルキルグリコシド型非イオン性界面活性剤、アミンオキシド型非イオン性界面活性剤、スルホベタイン型両性界面活性剤、カルボベタイン型界面活性剤及び4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤である。これらは2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0032】
前記(c)成分(溶剤)としては、下記(I)〜(III)から選ばれる化合物が好ましい。
・(I)炭素数1〜3の一級アルコール
・(II)下記一般式(5)で表される化合物
・(III)炭素数3〜10の1価アルコールにグリシドール及び/又はエピクロルヒドリンを平均1〜5モル付加させたアルキル(ポリ)グリセリルエーテル
【0033】
【化5】

〔式(5)中、R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜7の炭化水素基を示し、R2は炭素数2又は3のアルキレン基を示し、mは1〜3の数を示す。〕
【0034】
前記(I)の化合物としては、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノールが挙げられる。
【0035】
前記(II)の化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニルエーテル、フェニルカルビトール、フェニルセロソルブ、ベンジルカルビトールが挙げられる。
【0036】
前記(III)の化合物としては、例えば、炭素数4〜10のアルキルモノグリセリルエーテル、炭素数4〜10のアルキルジグリセリルエーテルが挙げられる。
【0037】
前記(c)成分として特に好ましいものは、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イシプレングリコール及びプロピレングリコールである。これらは2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0038】
本発明に係る液体洗浄性組成物は、防臭性、清掃性及び液体洗浄性組成物の配合性(前記(a)成分の溶解性)等の観点から、前記(a)成分を全組成中に0.001〜1重量%、好ましくは0.01〜1重量%、更に好ましくは0.1〜1重量%、前記(b)成分を全組成中に0.1〜1重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%、前記(c)成分を全組成中に10〜50重量%、好ましくは12〜30重量%、更に好ましくは15〜25重量%含有する。特に、前記(b)成分の含有量が0.1重量%未満あるいは前記(c)成分の含有量が10重量%未満であると、前記(a)成分の溶解が不十分となって液体洗浄性組成物の安定性が低下し、液体洗浄性組成物に濁りや沈殿が生じ、所望の洗浄効果や防臭効果が十分に奏されないおそれがある。また、前記(b)成分の含有量が1重量%を越えると、液体洗浄性組成物が泡立ち、防臭性清掃物品で被清掃面を拭いた後に該被清掃面に泡が残るおそれがある。また、前記(c)成分の含有量が50重量%を越えると、汚れに対する洗浄力が低下し、被清掃面の汚れが落ちにくくなるおそれがある。
【0039】
また、後述するように本発明に係る基材シートにカルボキシル基を有する水溶性バインダーを含ませる場合、本発明に係る液体洗浄性組成物に金属イオン(架橋剤)を含有させると、基材シートの湿潤強度の向上に効果がある。
【0040】
前記金属イオンとしては、多価金属イオンを用いることが好ましい。特にアルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選ばれる1種以上の金属イオン(2価の金属イオン)を用いることが、基材シートの構成繊維間が十分に結合されて清掃作業に耐え得る強度が発現する点、及び水解性が十分になる点から好ましい。これらの金属イオンのうち、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、コバルト、ニッケルのイオンを用いることが、一層高い湿潤強度が得られ、防臭性清掃物品による清掃作業を首尾良く行い得る点から特に好ましい。
【0041】
前記金属イオンは、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩等の水溶性金属塩の形で液体洗浄性組成物に添加して使用することができる。金属イオンは、本発明の防臭性清掃物品中に存する、カルボキシル基を有する水溶性バインダーにおけるカルボキシル基1モルに対して1/4モル以上、特に1/2モル以上の量となるように添加されることが、十分な架橋反応を起こさせる点から好ましい。
【0042】
また、本発明に係る液体洗浄性組成物には、汚れに対する清掃効果及び防臭効果を向上させる目的で、大環状ムスク化合物以外の水不溶性油性物質を含有させることができる。水不溶性油性物質としては、例えば、植物精油、モノテルペン又はセスキテルペン系炭化水素、パラフィン炭化水素及びトリグリセライドが挙げられる。これらの水不溶性油性物質は2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0043】
前記植物精油としては、例えば、オレンジ油、レモン油、シダ油、グローバー油、カナンガ油、テレピン油、パイン油が挙げられる。前記モノテルペン又はセスキテルペン系炭化水素としては、例えば、D−又はL−リモネン、α又はβ−ピネンが挙げられる。前記パラフィン炭化水素としては、炭素数8〜16のものが好ましい。前記トリグリセライドとしては、例えば、やし油、牛脂、菜種油、綿実油、ひまわり油等の動植物油が挙げられる。
【0044】
本発明に係る液体洗浄性組成物には、上述した各種成分以外に、この種の液体洗浄性組成物に使用される他の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有させることができる。
【0045】
本発明に係る液体洗浄性組成物は、上述した各種成分に加えて、バランス量の水を含有することが、洗浄性や経済性の点から好ましい。水の含有量は、洗浄性及び防臭性清掃物品の強度の観点から、液体洗浄性組成物の全重量に対して好ましくは50〜90重量%、更に好ましくは30〜85重量%である。
【0046】
次に、上述した液体洗浄性組成物が含浸される基材シートについて説明する。本発明に係る基材シートは、上述した液体洗浄性組成物を保持し得るものであり、例えば紙、不織布等を用いることができる。紙としては、例えば湿式抄紙した紙が挙げられる。不織布としては、例えばケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、エアレイド不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、ニードルパンチ不織布、ステッチボンド不織布等が挙げられる。これらの中でも、特に、エアレイド不織布が好適である。本発明に係る基材シートとして不織布を用いる場合、後述するように基材シートに水解性を付与する観点から、その構成繊維としては繊維長が短い繊維、特にセルロース繊維からなる木材パルプが好ましい。
【0047】
本発明に係る基材シートは、セルロース系繊維を80重量%以上、好ましくは90〜100重量%含んでいる。基材シートがセルロース系繊維を80重量%以上含んでいると、水解性や生分解性等の点で有利である。
【0048】
前記セルロース系繊維としては、例えば、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、針葉樹晒しサルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等の木材パルプ、コットン、麻等の天然セルロース系繊維;レーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセル、キュプラ、テンセル、アセテート等の再生セルロース系繊維等が挙げられる。これらは2種類以上組み合わせて用いても良い。これらのセルロース系繊維の中でも、特に木材パルプが好ましく、基材シートに含まれる全セルロース系繊維の50重量%以上が木材パルプであることが好ましい。
【0049】
本発明に係る基材シートの構成繊維としては、前記セルロース系繊維以外の繊維(以下、非セルロース系繊維ともいう)を用いることもでき、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフイン系繊維;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維;ナイロン等のポリアミド系繊維;ポリアクリロニトリル系繊維;ポリビニルアルコール系繊維等が挙げられる。これらは2種類以上組み合わせて用いても良い。これらの非セルロース系繊維の中でも、特にポリアミド系繊維及びポリビニルアルコール系繊維は、前記セルロース系繊維と略同等の生分解性を発現するため、本発明で好ましく用いられる。非セルロース系繊維の含有量は、基材シートの全構成繊維の20重量%以下、特に0〜10重量%が好ましい。
【0050】
本発明に係る基材シートの坪量は、シートの強度及び水解性の観点から、20〜120g/m2、特に50〜90g/m2であることが好ましい。尚、ここでいう坪量は、基材シートが2枚以上のシートが積層された多層構造である場合は、その多層構造全体の坪量を意味する。
【0051】
また、本発明に係る基材シートの密度(嵩密度)は、0.3Pa荷重下で、0.01〜1.0g/cm3、特に0.05〜0.5g/cm3、とりわけ0.1〜0.3g/cm3であることが好ましい。また、本発明に係る基材シートの厚み(0.3Pa荷重下における厚み)は、拭浄性のし易さ及びシートの強度の観点から、好ましくは0.1〜5mm、更に好ましくは1〜3mmである。
【0052】
本発明に係る基材シートは、水解性を有していることが好ましい。水解性を有している基材シートは、例えば水洗トイレに流すなど、大量の水中に廃棄すると速やかに繊維レベルでばらばらに崩壊し、水洗トイレを詰まらせることなく流すことができる。しかし、汚れを拭き取るときには、上述した液体洗浄性組成物が含浸された状態でその作業に耐え得る十分な湿潤強度が必要である。斯かる観点から、本発明に係る基材シートは、カルボキシル基を有する水溶性バインダーを含有していることが好ましい。カルボキシル基を有する水溶性バインダーを用いることで、水解性のコントロールが容易になり、少量の水では崩壊しないが、大量の水中に廃棄すると速やかに繊維レベルで崩壊する基材シートが得られる。
【0053】
前記カルボキシル基を有する水溶性バインダーは、水中で容易にカルボキシラートを生成するアニオン性の水溶性バインダーである。その例としては多糖誘導体、合成高分子、天然物が挙げられる。多糖誘導体としてはカルボキシメチルセルロース又はその塩、カルボキシエチルセルロース又はその塩、カルボキシメチル化デンプン又はその塩等が挙げられる。合成高分子としては、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩等が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸等が挙げられる。これらと共重合可能な単量体としては、これら不飽和カルボン酸のエステル、酢酸ビニル、エチレン、アクリルアミド、ビニルエーテル等が挙げられる。特に好ましい合成高分子は、不飽和カルボン酸としてアクリル酸やメタクリル酸を用いたものであり、具体的にはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸メタクリル酸共重合体の塩、アクリル酸又はメタクリル酸とアクリル酸アルキル又はメタクリル酸アルキルとの共重合体の塩が挙げられる。天然物としては、アルギン酸ナトリウム、ザンサンガム、ジェランガム、タラガントガム、ペクチン等が挙げられる。
【0054】
前記カルボキシル基を有する水溶性バインダーとして特に好ましいものは、シートの水解性及び強度の観点から、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はそのアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩)である。
【0055】
前記カルボキシル基を有する水溶性バインダーの含有量は、基材シートの全重量に対して、好ましくは0.1〜30重量%、更に好ましくは1〜15重量%である。
【0056】
前記カルボキシル基を有する水溶性バインダーを基材シートに含ませる方法に特に制限はなく、内添法でも良く、外添法でも良い。内添法としては、例えば、基材シートを湿式抄紙法で製造する場合において、その紙料(繊維分散液)中に水溶性バインダーを予め添加しておく方法が挙げられる。外添法としては、例えば、セルロース系繊維を含むウエブ(基材シート)を形成した後に、該ウエブにスプレー塗工等の添加手段によって水溶性バインダーを添加する方法が挙げられる。
【0057】
本発明に係る基材シートには、上述したセルロース系繊維等の繊維及びカルボキシル基を有する水溶性バインダー以外の成分として、例えば、湿潤紙力増強剤、剥離剤等を適宜含有させても良い。
【0058】
本発明に係る基材シートは、公知の湿式抄紙法や乾式の不織布製造法等によって製造することができる。基材シートの表面(清掃面)には、公知のエンボス加工やクレープ加工によって、凹凸構造やしわが形成されていても良い。また基材シートは、2枚以上のシートが積層された多層構造であっても良い。
【0059】
本発明の防臭性清掃物品は、上述した基材シートに液体洗浄性組成物を含浸させたものであり、液体洗浄性組成物の含浸量は、基材シートの重量(乾燥重量)に対して好ましくは100〜500重量%、更に好ましくは150〜300重量%である。含浸する方法としては、基材シートを液体洗浄性組成物に浸す方法、基材シートに液体洗浄性組成物をスプレーする方法等、通常の方法を採用することができ、特に生産性の点から基材シートに液体洗浄性組成物をスプレーする方法が好適である。
【0060】
本発明の防臭性清掃物品は、通常の清掃作業で破れないようにする観点から、湿潤時引張強度が100cN/25mm幅以上、特に150cN/25mm幅以上であることが好ましい。防臭性清掃物品の湿潤時引張強度は、カルボキシル基を有する水溶性バインダーの含有量を高めることによって向上することができる。
【0061】
本発明の防臭性清掃物品は、各種清掃用途に使用でき、該防臭性清掃物品で被清掃面を拭くことで、被清掃面に付着した汚れをきれいに落とすことができると共に、糞尿等の悪臭を持続的に防臭することができる。従って、本発明の防臭性清掃物品は、糞尿臭が特に問題となるトイレの清掃に好適である。
【0062】
本発明の防臭性清掃物品は、例えば保管及び使用に便利なように、適度の枚数が包装体内に密封される。包装体は、実質的に水蒸気不透過性のシート状の軟質包装材料を含んで構成され、該軟質包装材料が所定の部位においてヒートシール等の接合手段により接合されて密封構造を形成している。軟質包装材料としては、例えばセロハンとポリエチレン、2軸延伸ポリプロピレンとポリエチレンとの複合フィルム、ポリエステルとポリエチレンとの複合フィルム、ポリエステルと未延伸ポリプロピレンとの複合フィルム、2軸延伸ナイロンとポリエチレンとの複合フィルム、セロハンとポリエチレンとアルミニウム箔とポリエチレンとを順次積層させた複合フィルム、2軸延伸ポリプロピレンとポリエチレンとアルミニウム箔とエチレンとを順次積層させた複合フィルム、ポリエステルとエチレンとアルミニウム箔とエチレンとを順次積層させた複合フィルム、ポリエステルとアルミ真空蒸着とエチレンとの複合フィルム、2軸延伸ポリプロピレンとアルミ真空蒸着とエチレンとの複合フィルム、ポリエステルとアルミニウム箔と未延伸ポリプロピレンとの複合フィルム、2軸延伸ナイロンとアルミニウム箔と未延伸ポリプロピレンとの複合フィルム等が挙げられる。
【0063】
前記包装体は、内部に収容された防臭性清掃物品を取り出す取出口を備えていても良く、該取出口は、開封と密封とを繰り返し行えるものであれば、その構造、材質は問わず、例えば公知の塩化ビニル製等のフラップラベルや、プラスチック製の開閉蓋等が使用できる。尚、取出口としてフラップラベルを使用する場合、該フラップラベルは、開封と密封とが繰り返し行えるもののみならず、一回だけ剥がして開封させるものを使用することもできる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。以下の例中、特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0065】
〔実施例1〜10及び比較例1〜3〕
下記表1に示す組成の液体洗浄性組成物を調製し、下記の要領で別途製造した基材シートに、該液体洗浄性組成物を含浸させて防臭性清掃物品(清掃シート)を得、これらを実施例及び比較例の各サンプルとした。液体洗浄性組成物の含浸量は、基材シートの乾燥重量に対して200重量%とした。
【0066】
<基材シートの製造>
基材シートの構成繊維として、セルロース系繊維である針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)のみを用いた。NBKP100%の紙料を湿式抄紙して湿紙を得、該湿紙をスルーエアードライヤーで含水率が4%になるまで乾燥させて紙を得、該紙の一面に、カルボキシル基を有する水溶性バインダー溶液として、CMCのナトリウム塩(エーテル化度0.9、日本製紙製)の5%水溶液(液温60℃での粘度1000mP・s)をスプレーノズルにて噴霧した。該水溶液の噴霧量は、CMCのナトリウム塩の含有量が基材シートの乾燥重量に対して5%となるように調整した。こうしてCMCのナトリウム塩が添加された紙をヤンキードライヤーで乾燥させた後、該紙にドクターブレードによってクレープ加工を施し、坪量40g/m2の基材シートを得た。こうして製造された同寸法の2枚の基材シートを、前記水溶性バインダー溶液の噴霧面を内側にして重ね合わせ、その状態でエンボス加工を施して、目的とする2層構造の基材シートを得た。尚、エンボス加工では、周面に互いに噛み合う凹凸を有する一対のエンボスロールを用い、両ロールの凹凸の噛み合い深さは1mm程度であった。
【0067】
〔評価〕
実施例及び比較例の各サンプル(清掃シート)について、以下の方法により、シート強度、清掃性(汚れ落ち性)、防臭性をそれぞれ評価した。また、各サンプルの作製に用いた液体洗浄性組成物について、以下の方法により配合性を評価した。これらの結果を下記表1に示す。
【0068】
<シート強度の評価>
表面が平滑なタイル(25mm×25mm)を多数敷き詰めてなるタイル面(50cm×50cm)を、サンプル(清掃シート)で上下左右それぞれ50回清拭し、清拭後の該シートの状態を目視で観察し、破れ(裂け、穴あき)がない場合を○、若干破れが発生した場合を△、大きな破れ、裂けが生じた場合を×とした。
【0069】
<清掃性の評価>
サンプル(清掃シート)を用いて実際にトイレの便器清掃を行い、尿じみ及び便のこびりつきが簡単に落とせる場合を○、尿じみ及び便のこびりつきが若干落ちにくい場合を△、尿じみ及び便のこびりつきが落ちない場合を×とした。
【0070】
<防臭性の評価>
白色タイル(10cm×10cm)の表面をサンプル(清掃シート)で拭いた後、該表面を乾燥させる。別途、複数の人から採取した尿を混合した混合尿を用意し、該混合尿中にβ−グルクロニダーゼを濃度が20units/mlになるように添加・混合した後、直ちに該混合尿を、前記白色タイルにおけるサンプルで拭いた表面に滴下し、室温(約25℃)で3時間放置後、β−グルクロニダーゼ活性によって該表面に発生した臭いの強さを、下記6段階臭気強度表示法にて官能評価した。官能評価は3人で行い、3人の下記6段階臭気強度表示法による得点の平均点が3.0以下である場合を○(防臭効果あり)、3.0を越える場合を×(防臭効果なし)とした。
(6段階臭気強度表示法)
0:無臭
1:やっと感知できる臭い(検知閾値濃度)
2:何の臭いかわかる弱い臭い
3:容易に感知できる臭い
4:強い臭い
5:強烈な臭い
【0071】
<液体洗浄性組成物の配合性の評価>
調製直後の液体洗浄性組成物を室温(約25℃)で1日放置後、該液体洗浄性組成物を目視で観察し、にごり又は沈殿物が無い場合を○、若干にごりが見られる場合を△、にごり又は沈殿物が見られる場合を×とした。
【0072】
【表1】

【0073】
表1から明らかなように、β−グルクロニダーゼ活性を阻害する大環状ムスク化合物を0.001〜1重量%、界面活性剤を0.1〜1重量%及び溶剤10〜50重量%含有した液体洗浄性組成物を基材シートに含浸させた実施例の清掃シートは、シート強度、清掃性、防臭性、配合性の何れにおいても良好な結果が得られた。これに対し、比較例1の清掃シートは、主として大環状ムスク化合物の含有量が少ないため、β−グルクロニダーゼ活性を阻害する効果に乏しく、防臭性に劣る。比較例2の清掃シートは、主として界面活性剤の含有量が少ないため、液体洗浄性組成物において大環状ムスク化合物が溶解分散されず沈殿を生じた。比較例3の清掃シートは、主として界面活性剤の含有量が多すぎるため、便器清掃時に拭いた後泡立ってしまい、清掃の仕上がりが悪かった。比較例4の清掃シートは、主として溶剤の含有量が少ないため、基材シートに含まれている水溶性バインダーであるCMCが膨潤・溶解しやすくなり、これによりシート強度が低下した。比較例5の清掃シートは、主として溶剤の含有量が多すぎるため、便器に付着した尿じみ及び便のこびりつきを落としにくかった。比較例6の清掃シートは、主として大環状ムスク化合物の含有量が多すぎるため、液体洗浄性組成物においてこれを溶解分散させることができず沈殿を生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維を80重量%以上含む坪量20〜120g/m2の基材シートに、液体洗浄性組成物を含浸させた防臭性清掃物品であって、
前記液体洗浄性組成物が、β−グルクロニダーゼ活性を阻害する大環状ムスク化合物から選ばれる1種以上の化合物(a)を0.001〜1重量%、界面活性剤(b)を0.1〜1重量%、及び溶剤(c)を10〜50重量%含有する防臭性清掃物品。
【請求項2】
前記(a)成分が、3−メチル−4−シクロペンタデセン−1−オン、3−メチル−5−シクロペンタデセン−1−オン、5−シクロヘキサデセン−1−オン、8−シクロヘキサデセン−1−オン、9−シクロヘプタデセン−1−オン、7−シクロヘキサデセノライド及び10−オキサ―16−ヘキサデカノライドからなる群から選ばれる1種以上の化合物である請求項1記載の防臭性清掃物品。
【請求項3】
前記基材シートが、カルボキシル基を有する水溶性バインダーを含有する請求項1又は2記載の防臭性清掃物品。
【請求項4】
前記液体洗浄性組成物が、アルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選ばれる1種以上の金属イオンを含有する請求項3記載の防臭性清掃物品。
【請求項5】
前記液体洗浄性組成物の含浸量が、前記基材シートの重量に対して100〜500重量%である請求項1〜4記載の何れかに記載の防臭性清掃物品。

【公開番号】特開2010−187829(P2010−187829A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33832(P2009−33832)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】