説明

防虫剤用低吸着包材

【課題】常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シートを包装した場合でも、包材に有効成分が吸着され難く、防虫効果の低下を招かない防虫剤用低吸着包材を提供する。
【解決手段】常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シートを包装する、少なくとも、バリアフィルム層1とシーラント層4とを積層してなる防虫剤用低吸着包材Aにおいて、シーラント層4が密度0.926以上のポリオレフィンを含む単層フィルムからなる防虫剤用低吸着包材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シートを包装する防虫剤用低吸着包材に関するものであり、さらに詳しくは、包装袋の中に防虫剤シートを収納した防虫剤包装体において、防虫剤の有効成分である常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤が長期保存、流通、使用時であっても該包装袋に吸着されずに防虫効果の低下を招かない防虫剤用低吸着包材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シートを包装する包装材料(包材)としては、一般的にバリアフィルムとシーラントフィルムとを積層した積層フィルムが使用され、そのシーラントには、包装機械適性などを考慮してポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが用いられている。ところが前記防虫剤シート中の有効成分である常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤は、ポリオレフィンに吸着されることが知られている。そのため、その使用有効期限を長くするためには、予め吸着される量を見越して、防虫剤を多めにシートに含浸させる方法が取られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、防虫剤シート中の有効成分である常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を吸着しにくいシーラントとして、非晶質ポリエステル樹脂系シーラント(PET系シーラント)、ポリアクリロニトリル樹脂系シーラント(PAN系シーラント)などがあるが、高速充填適性に劣り、通常はピロー包装ができない。また、通常のポリオレフィン系シーラントに比べて価格も3〜4倍程度高くなるという欠点がある。
【0004】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シートを包装した場合でも、包材に有効成分が吸着され難く、防虫効果の低下を招かない防虫剤用低吸着包材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、本発明の請求項1に係る発明は、常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シート(B)を包装する、少なくとも、バリアフィルム層(1)とシーラント層(4)とを積層してなる防虫剤用低吸着包材(A)において、前記シーラント層(4)が密度0.926以上のポリオレフィンを含む単層フィルムからなることを特徴とする防虫剤用低吸着包材である。
【0006】
本発明の請求項2に係る発明は、常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シート(B)を包装する、少なくとも、バリアフィルム層(1)とシーラント層(4)とを積層してなる防虫剤用低吸着包材(A)において、前記シーラント層(4)が、少なくとも、ラミネート面層(5)と、中間層(6)と、シール面層(7)とを順次積層した共押し出し多層フィルムからなることを特徴とする防虫剤用低吸着包材である。
【0007】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項2記載の防虫剤用低吸着包材において、前記中間層(6)が密度0.926以上のポリオレフィンで形成され、且つシール面層(7)が、密度0.915以下のポリオレフィンで形成されていることを特徴とする防虫剤用低吸
着包材である。
【0008】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の防虫剤用低吸着包材において、前記バリアフィルム層(1)が、少なくとも、フィルム基材層(2)と、無機酸化物からなる蒸着層(3)とを積層してなることを特徴とする防虫剤用低吸着包材である。
【0009】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の防虫剤用低吸着包材において、前記常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤がエムペントリンであることを特徴とする防虫剤用低吸着包材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る防虫剤用低吸着包材は、常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シートを包装する、少なくとも、バリアフィルム層とシーラント層とを積層してなる防虫剤用低吸着包材において、前記シーラント層が密度0.926以上のポリオレフィンを含む単層フィルム、または、少なくとも、ラミネート面層と、中間層と、シール面層とを順次積層した共押し出し多層フィルムからなり、前記中間層が密度0.926以上のポリオレフィンで形成され、且つシール面層が、密度0.915以下のポリオレフィンで形成されていることにより、常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シートを包装した場合でも、包材に有効成分が吸着され難く、防虫効果の低下を招くことがない、さらに前記バリアフィルム層が、少なくとも、フィルム基材層と、無機酸化物からなる蒸着層とを積層してなることにより、防虫剤の有効成分である常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤が外部に揮散することがない防虫剤用低吸着包材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態を図1〜図3に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明に係る防虫剤用低吸着包材(A)の層構成の1実施例を示す平面図であり、図2は本発明に係る防虫剤用低吸着包材(A)の層構成のその他の実施例を示す平面図であり、図3は本発明に係る防虫剤用低吸着包材(A)で防虫剤シートを包装した1実施例を示す平面図である。
【0013】
本発明に係る1実施例の防虫剤用低吸着包材(A)の層構成は、図1に示すように、常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シート(B)を包装する、少なくとも、バリアフィルム層(1)とシーラント層(4)とを積層してなる防虫剤用低吸着包材(A)において、前記シーラント層(4)が密度0.926以上のポリオレフィンを含む単層フィルムから形成されている。
【0014】
このようにシーラント層(4)に比較的、密度が大きなポリオレフィンを使用することにより、包装材料に常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤の有効成分が吸着され難く、防虫効果の低下を招くことがなくなるが、包装材料を構成する上での重要なポイントであるヒートシール性を考慮する必要があり、通常は、高速充填適性、低温シール性を阻害されないようにするために、防虫剤用低吸着包材(A)の層構成は、図2に示すように、該シーラント層(4)が、少なくとも、ラミネート面層(5)と、中間層(6)と、シール面層(7)とからなる共押し出し多層フィルムで形成されていることが好ましい。
【0015】
さらに、該シーラント層(4)の中間層(6)が密度0.926以上のポリオレフィンで形成され、且つシール面層(7)が、密度0.915以下のポリオレフィンで形成され
ていることが好ましく、特に中間層(6)が密度0.941以上のポリオレフィンで形成されていることがより好ましい。
【0016】
前記単層フィルムや共押し出し多層フィルムを製造する方法としては、フラットダイ法(Tダイ法)やインフレーション法がある。特に、共押し出し多層フィルムを製造する場合は、複数の押出機を用い、異樹脂または同樹脂異配分の樹脂をそれぞれ異なる押出機で溶融混練後、アダプターまたは多層ダイで積層して、あたかも一層のような状態で押出成形するが、積層させる部位により、フィードブロック法(ブラックボックス法)、マルチマニホールド法(ダイ内接着方式)、アルコア法(ダイ外接着方式)などを適宜選択して使用している。
【0017】
包装材料を構成する上での重要なポイントの一つは、シーラント層(4)のヒートシール性である。ヒートシールの方法は、いわゆる加熱されたバー、ロール、リング形状などの特定の形をしたものなどで所定の熱を与え、ヒートシールされている。そのほかにインパルスシール、高周波シール、超音波シール、溶断シールなどの方法があるが、いずれも熱を利用してシーラント層(4)のシール層面を溶融して接着する方法である。
【0018】
前記シーラント層(4)を形成するヒートシール材としては、ポリオレフィンが一般的であるが、主にポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)を使用することが多い。中でも、高速充填適性、低温シール性、コスト面などを考慮するとポリエチレン(PE)が好ましい。
【0019】
前記ポリエチレン(PE)は、石油を蒸留して得たエチレンガスを重合して製造されるが、この重合法により、性状の異なるポリエチレン(PE)が得られる。高圧法(1000〜3500気圧)では、低密度から中密度のポリエチレンが得られるのに対して、低圧法および中圧法(30〜100気圧)では高密度のポリエチレンが得られる。
【0020】
一般的に、ポリエチレン(PE)の密度は、低密度ポリエチレン(LDPE)が、0.910〜0.925、中密度ポリエチレン(MDPE)が、0.926〜0.940、高密度ポリエチレン(HDPE)が、0.941〜0.965である。
【0021】
前記高圧法で製造された低密度ポリエチレン(LDPE)は、主鎖のところどころに分岐ができ、そのために分子の規則的な配列が妨げられて、結晶化度(ポリエチレンは通常結晶性の部分と非結晶性の部分とからできており、結晶性の部分の占める度合い)が小さく(60%程度)なるので、柔軟性があり、ヒートシール適性は良いが、防虫剤などの内容物成分の吸着度合が大きい。該高圧法による重合条件を変えることによって分岐の数の少ない結晶化度が高い中密度ポリエチレン(MDPE)を製造することができる。一般に結晶化度の大きいポリエチレンほど密度が大で、これに応じて硬さや引張り強度などが大きくなるが、シーラント層(4)に必要なヒートシール適性が悪くなってくる一方、防虫剤などの内容物成分の吸着度合は小さくなってくる。
【0022】
次に、前記低圧法および中圧法で製造された高密度ポリエチレン(HDPE)は、結晶化度が大きく(90%程度)なるので、機械的強度が大きくなり、ヒートシール適性は悪くなるが、防虫剤などの内容物成分の吸着度合は非常に小さくなる。
【0023】
以上のことから、前述したように本発明に係る防虫剤用低吸着包材(A)の層構成は、該シーラント層(4)が、少なくとも、中間層(6)と、シール面層(7)とからなる共押し出し多層フィルムで形成されていることが好ましく、さらに中間層(6)が密度0.926以上のポリオレフィンで形成され、且つシール面層(7)が、密度0.915以下のポリオレフィンで形成されていることが好ましい。特に、中間層(6)が密度0.94
1以上のポリオレフィンで形成されていることがより好ましい。
【0024】
次に、前述したポリエチレン(PE)フィルムは、酸素、炭酸ガスなどの気体を透過し易いので、常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シート(B)を包装する場合、有効成分が外部に揮散することがないようにバリアフィルム層(1)が積層される。
【0025】
前記バリアフィルム層(1)としては、セロハンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ナイロンフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、アルミニウム箔積層フィルム、アルミ蒸着フィルムなどがあるが、セロハン、ポリビニルアルコール、ナイロンは、乾燥状態においてはガス透過性が小さいが吸湿するにしたがい透過性が増大するので適当ではない。また、ポリ塩化ビニリデンフィルムは、焼却時に有害なダイオキシンを発生することから環境問題の一つとして取り上げられ、代替することが望まれている。
【0026】
また、前記アルミニウム箔積層フィルムやアルミ蒸着フィルムの場合は、防湿性、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性、保香性、遮光性などに優れているものの、近年、使用後の廃棄処分において焼却処理を行うと、そのアルミニウムが残査として残ってしまう問題や、焼却炉を傷めてしまう恐れがある問題など、いわゆる廃棄処分にともなう問題があるので、フィルム基材層(2)に無機酸化物からなる蒸着層(3)を積層したバリアフィルム層(1)が好ましい。
【0027】
前記フィルム基材層(2)に使用する材料は、特に制約はされないが、加工適性などを考慮して、単体フィルム及び各種の積層フィルムを使用することができる。
【0028】
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレ−ト(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)などのポリオレフィン、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などやこれらの共重合体の無延伸あるいは延伸フィルムである。
【0029】
通常、これらのものを、フィルム状に加工して使用し、特に、強度、コストなどの面から、二軸方向に任意に延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、ポリプロピレンフィルム(OPP)を使用することが好ましい。
【0030】
該基材層(1)の厚さは、加工性を考慮すると、3〜200μmの範囲であることが好ましく、6〜30μmがより好ましい。
【0031】
次に、該無機酸化物の蒸着層(3)としては、基本的には金属の酸化物を使用することが可能であり、例えばアルミニウム、珪素、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、ホウ素、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウムなどの酸化物またはそれらの混合物が挙げられる。
【0032】
一般的には、透明性、物性面、生産性などから、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウムを使用することが好ましい。
【0033】
このような該無機酸化物の蒸着層(3)を形成する方法は、真空蒸着法、スパッタリング法などを使用することができるが、生産性、生産コスト面などを考慮すると、真空蒸着
法が好ましい。
【0034】
前記真空蒸着法は、被蒸着体の形態から、3つの方式があり、1)バッチ方式:成形品の蒸着方式、2)巻き取り式半連続方式:ロール状のフィルム(ウェブ)が対象で真空系の中で巻き出し・蒸着・巻き取り後、大気系に再度戻し、蒸着製品を取り出す方式、3)巻き取り式完全連続方式:ロール状のフィルム(ウェブ)が対象でアンワインダー(巻き出し装置)とリワインダー(巻き取り装置)を大気系に配置し、蒸着ドラムや蒸発源を真空系に配置してロール状のフィルム(ウェブ)に蒸発物質を蒸着する方式であって、一般的にair−to−air方式と呼ばれる完全連続方式で生産性が高い特徴がある方式である。
【0035】
ロール状のフィルム(ウェブ)に蒸発物質を蒸着する場合は、特に巻き取り式半連続方式が普及しており、その巻き取り式真空蒸着装置の構成要素と作業工程の概略、更に真空蒸着装置の内部構造について記述する。
【0036】
先ず、構成要素は、ロール状フィルム(ウェブ)、蒸発源、蒸発物質、蒸着ドラム、真空系統、アンワインダー(巻き出し装置)、リワインダー(巻き取り装置)、ガイドロール等である。
【0037】
次に作業工程の概略について記述すると、先ず前準備として真空蒸着装置の扉を開け、ロール状のフィルム(ウェブ)をアンワインダー(巻き出し装置)にセットし、アンワインダーと蒸着ドラム間に配置されているガイドロールを介して、前記ウェブを蒸着ドラムまで走行させ、更にリワインダー(巻き取り装置)との間に配置されているガイドロールを介して、リワインダー(巻き取り装置)に巻き取り、前記ウェブへの蒸発物質の蒸着準備が終了する。
【0038】
次に、真空蒸着装置の扉を閉じて、真空ポンプにより、真空蒸着装置内の真空吸引定圧室と隔壁により分割された真空蒸着室を所定の真空環境にして、アンワインダー(巻き出し装置)から前記ウェブを繰り出し、ガイドロールを介して走行させた前記ウェブに、蒸着ドラムの下部に配置されている蒸発源から蒸発物質を加熱蒸発させて前記ウェブに蒸着させる。
【0039】
前記蒸着ドラムは冷却されているので前記ウェブに蒸発物質を再結晶化させて固着させ、更にリワインダー側のガイドロールを介して蒸着された前記ウェブはリワインダーに巻き取られる。
【0040】
真空蒸着装置の内部構造は、真空吸引定圧室と真空蒸着室に隔壁で分割されており、真空吸引定圧室はアンワインダー、ガイドロール、張力制御装置、速度制御装置、位置制御装置、蒸着ドラムの一部、リワインダー等が配置されている。
【0041】
真空蒸着室は蒸着ドラムの一部と蒸発源とその加熱装置等が配置されており、真空蒸着装置本体の周辺に付属して配置されている真空ポンプにより、真空吸引定圧室は真空度が1×100MPa程度、隔壁を介して設けた真空蒸着室は1×10-2MPa(SI単位)程度にセットされる。
【0042】
2つに室が隔壁で分割されているので、真空吸引定圧室で前記ウェブから発生したガスなどの不純物(ダスト)は、真空蒸着室での蒸着時に悪い影響を与えることは少ない。
【0043】
また、逆に真空蒸着室に配置されている蒸発源からの放射熱は、真空吸引定圧室への影響は少ないので前記ウェブへの熱の影響は少ない。
【0044】
真空蒸着法も、加熱方法により、1)間接抵抗法、2)直接抵抗加熱法(ワイヤフィード法)、3)高周波誘導加熱法、4)電子ビーム法(Electoron Beam、略してEB法)の4つの方法があるが、蒸発物質が酸化珪素や酸化アルミニウム等の絶縁性金属酸化物を使用する場合は、エネルギー変換効率の良い電子ビーム法が最適である。
【0045】
巻き取り式電子ビーム真空蒸着法は、酸化珪素や酸化アルミニウム等の蒸発物質に直接、電子ビームを照射し、該蒸発物質表面上をスキャンすることで、該蒸発物質表面を加熱する方法で、電子ビームがあたった部分でエネルギーを変換し、該蒸発物質を蒸発させる方法である。
【0046】
該蒸着層(3)の厚みは、蒸着フィルムの最終用途によって、適宜選択されるが、5〜400nmの範囲内であることが好ましい。
【0047】
該蒸着層(3)の膜厚が5nm未満では均一な膜が設けられないので、十分な酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性、保香性などが得られず、膜厚が400nmを越えると、柔軟性がなくなり、折り曲げ、引張りなどの外的要因により、蒸着膜に亀裂や剥離が発生しやすくなるので好ましくない。
【0048】
次に、本発明の防虫剤用低吸着包材(A)は、バリアフィルム層(1)を構成する蒸着層(3)上に印刷インキ層(8)、アンカーコーティング層(図示せず)を設けた層構成にしても良い。
【0049】
該バリアフィルム層(1)への印刷インキ層(8)を設ける場合は、該バリアフィルム層(1)の表面であるフィルム基材層(2)上か、或いは裏面である蒸着層(3)上のどちらの面でも印刷可能であるが、一般的には、インキの耐摩擦性、耐候性などを考慮して裏面である蒸着層(3)上に印刷インキ層(8)を設けることが好ましい。
【0050】
該印刷インキ層(8)を形成する印刷インキとしては、インキに色彩を与える顔料や染料などからなる色材と該色材を微細な粒子に分散・保持しつつ、被印刷体に固着させる樹脂と該樹脂を安定して溶解し、該顔料や染料などの分散性、インキの流動性を保持し、かつ印刷の版からインキの適正量を転移できる溶剤とから構成されるビヒクル、更に色材の分散性、発色性向上や沈殿防止、流動性の改良を目的に界面活性剤などからなる助剤から形成されているが、特に色材は、耐候性の良い顔料が好ましい。
【0051】
該印刷インキ層(8)を設ける印刷方式は、例えば、グラビア印刷方式、シルクスクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式など公知の印刷方式を使用できるが、鉄製の円筒(シリンダー)表面上に銅メッキを施して下地を形成し、該銅メッキ面上に剥離層を設け、更に銅メッキをして、その表面を鏡面状に研磨した銅面に彫刻方式や腐食方式により、凹部(セル)を作成し、該セル内の印刷インキを該蒸着層(3)上に転移させ、調子物でもカラフルに印刷ができ、且つ訴求効果も高いグラビア印刷方式が好ましい。
【0052】
尚、前記蒸着層(3)上に印刷インキ層(8)を設ける際、該蒸着層(3)と該印刷インキ層(8)との密着性を向上させるため必要ならば、該蒸着層(3)上にプライマー層(図示せず)を形成しても良い。
【0053】
前記プライマー層を形成するプライマーとして使用されるポリエステル樹脂は、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、メチルフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸およびこれらの反応性誘導体などの酸
原料と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、イソペンチルグリコール、ビスヒドロキシエチルテレフタレート、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAAのアルキレンオキサイド付加物、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオールなどのアルコール原料から公知の方法で製造したものであり、特に限定されるものではない。
【0054】
また、プライマーに添加されるイソシアネート系(ウレタン系)樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、酸無水物系樹脂は、おもに硬化剤として作用する。該プライマーをコーティングする方法は、公知のグラビアロールコーティング方式、リバースロールコーティング方式などを使用することができるが、印刷インキ層(8)を設けるグラビア印刷機上の1色目としてインラインでコーティングができるグラビアロールコーティング方式を用いることが好ましい。
【0055】
次に、バリアフィルム層(1)とシーラント層(4)とをラミネーションする方法と接着剤層(9)を形成する接着剤、特にドライラミネーション用接着剤について以下に詳細に説明する。
【0056】
先ず、ラミネーションの方法は、例えばドライラミネーション方法、ノンソルベントドライラミネーション方法、ホットメルトラミネーション方法、エクストルージョンラミネーション方法などの公知の方法を使用することができる。
【0057】
前記ドライラミネーション方法は、フィルム上に接着剤を塗布するコーティング部、乾燥装置、ニップローラー部の3つのセクションと、巻き出し、巻き取り、及びテンションコントロールシステムから構成されている。
【0058】
該コーティング部は、一般的にグラビアロールコーティング方式、又はリバースロールコーティング方式を採用している。
【0059】
前記ドライラミネーション用接着剤は、溶剤型接着剤、或いは無溶剤型接着剤が使用されるが、無溶剤型接着剤を使用する場合は、乾燥装置は不要であり、ノンソルベントドライラミネーション方法と呼んでいる。
【0060】
前記ホットメルトラミネーション方法は、加熱溶融したエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などのホットメルト接着剤をフィルム上に塗工し、直ちに、他のフィルムをラミネートする方法である。
【0061】
前記エクストルージョンラミネーション方法は、ポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を加熱し、シリンダーと呼ばれる筒の中で溶解し、スクリューで圧力をかけて押し出し、該シリンダーの先端部にあるTダイスと呼ばれる細いスリットからカーテン状に溶解した該熱可塑性樹脂が押し出されフィルム状となってラミネーションされる方法である。
【0062】
以上のように、バリアフィルム層(1)とシーラント層(4)とをラミネーションする方法は、ドライラミネーション方法、ノンソルベントドライラミネーション方法、ホットメルトラミネーション方法、エクストルージョンラミネーション方法を利用したサンドイッチラミネーション方法などが使用できるが、接着性、生産性、コスト面などを考慮するとドライラミネーション方法が好ましい。
【0063】
次に、ドライラミネーション方法に使用する接着剤としては、ポリウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリアクリル系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系、その他などのラミネーション用接着剤を使用することができる。
【0064】
次に、本発明で使用される常温揮散性ピレスロイド殺虫剤としては、4−メチル−4−ヘプテン−1−イン−3−イル d−シス,トランス−クリサンテマート(以下エムペントリン)、d1−3−アリル−2−メチル−4−オキソ−2−シクロペンテニル d1−シス,トランス−クリサンテマート(以下アレスリン)、(5−ベンジル−3−フリル)メチル d−シス,トランス−クリサンテマート(以下レスメトリン)、2−メチル−4−オキソ−3−(2−プロペニル)−2−シクロペンテン−1−イル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシラート(以下テラレトリン)などが挙げられるが、中でも高い防虫効果、低毒性を具備している、エムペントリンが好ましい。
【0065】
以上のように、本発明に係る防虫剤用低吸着包材(A)は、常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シート(B)を包装する、少なくとも、バリアフィルム層(1)とシーラント層(4)とを積層してなる防虫剤用低吸着包材(A)において、前記シーラント層(4)が密度0.926以上のポリオレフィンを含む単層フィルム、または、少なくとも、ラミネート面層(5)と、中間層(6)と、シール面層(7)とを順次積層した共押し出し多層フィルムからなり、前記中間層(6)が密度0.926以上のポリオレフィンで形成され、且つシール面層(7)が、密度0.915以下のポリオレフィンで形成されていること、さらに前記バリアフィルム層(1)が、少なくとも、フィルム基材層(2)と、無機酸化物からなる蒸着層(3)とを積層してなることにより、常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シートを包装した場合でも、包材に有効成分が吸着され難く、防虫効果の低下を招くことがないとともに有効成分が外部に揮散することがない防虫剤用低吸着包材(A)とすることができる。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明の防虫剤用低吸着包材(A)について、具体的にいくつかの実施例を挙げて、さらに詳しく説明するが、これらに限定されるものではなくもっと広範囲に適用されるものである。
【0067】
<実施例1>
本発明の防虫剤用低吸着包材(A)に使用する積層体は、図1に示すように、最外層の基材フィルム層(2)には、厚み20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)を使用し、該基材フィルム層(2)上に酸化珪素を真空蒸着法により、膜厚20nmの蒸着層(3)を設けてなるバリアフィルム層(1)を得た。
【0068】
次に、該バリアフィルム層(1)を構成する蒸着層(3)上にポリウレタン系2液反応型インキを使用してグラビア印刷方式により、印刷インキ層(8)を形成した。次に、該印刷インキ層(8)上にドライラミネーション用接着剤を3.0g/m2(dry)程度塗布し、接着剤層(9)を形成し、該接着剤層(9)上に、シーラント層(4)として、別に準備したラミネート面層(5)が密度0.926のポリエチレンで形成され、中間層(6)が密度0.941のポリエチレンで形成され、シール面層(7)が密度0.915のポリエチレンで形成されてなる、厚さ40μmのポリエチレン多層フィルム(タマポリ株式会社製:商品名MZ420)をドライラミネーション方法により積層して、バリアフィルム層(1)/印刷インキ層(8)/接着剤層(9)/シーラント層(4)からなる層構成の積層体を得た。
【0069】
次に、前記巻取状の積層体を100mm×100mmの4方シール方式型の包装袋に製
袋し、該包装袋内に市販の防虫剤シート(B)(大日本除虫菊株式会社製:商品名ゴン)を1個入れ、完全密封して40℃で1ヶ月間保存した後、該袋に吸着されたエムペントリンの量をガスクロマトグラフィーにて測定した。測定結果は表1に示す通りである。尚、装置は、水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフ(FID−DC)、島津製作所製GC−15A・PF型を使用。FID−DCの測定条件は、カラム:DB−17(0.53mmi.d×15m)J&W社製、注入口温度:300℃、カラム温度:120〜250℃(昇温速度5℃/min)、キャリアガス:ヘリウム20ml/min、水素30ml/min、空気700ml/minとした。
【0070】
以下に、本発明の比較例について説明する。
【0071】
<実施例2>
実施例1において、シーラント層(4)として、密度0.915のポリエチレンの単層フィルム(厚さ40μm)を使用した以外は、同様にして積層体を作製し、測定した。測定結果は表1に示す通りである。
【0072】
<実施例3>
実施例1において、シーラント層(4)として、密度0.920のポリエチレンの単層フィルム(厚さ40μm)を使用した以外は、同様にして積層体を作製し、測定した。測定結果は表1に示す通りである。
【0073】
<実施例4>
実施例1において、シーラント層(4)として、密度0.925のポリエチレンの単層フィルム(厚さ40μm)を使用した以外は、同様にして積層体を作製し、測定した。測定結果は表1に示す通りである。
【0074】
【表1】

表1は、本発明品(実施例1)と比較品(実施例2、実施例3、実施例4)の上記の測定により得られたエムペントリンのピーク吸着量を実施例2(現行品)の値を100として相対値で表したもので、%で表現した。
【0075】
<比較結果>
表1に示すように、本発明品(実施例1)は、比較品(実施例2、実施例3、実施例4)と対比して明らかにエムペントリンの吸着を抑制することができた。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係る防虫剤用低吸着包材の層構成の1実施例を示す平面図である。
【図2】本発明に係る防虫剤用低吸着包材の層構成のその他の実施例を示す平面図である。
【図3】本発明に係る防虫剤用低吸着包材で防虫剤シートを包装した1実施例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0077】
A・・・防虫剤用低吸着包材
B・・・防虫剤シート
1・・・バリアフィルム層
2・・・基材フィルム層
3・・・蒸着層
4・・・シーラント層
5・・・ラミネート面層
6・・・中間層
7・・・シール面層
8・・・印刷インキ層
9・・・接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シートを包装する、少なくとも、バリアフィルム層とシーラント層とを積層してなる防虫剤用低吸着包材において、前記シーラント層が密度0.926以上のポリオレフィンを含む単層フィルムからなることを特徴とする防虫剤用低吸着包材。
【請求項2】
常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を含有する防虫剤を含浸させた防虫剤シートを包装する、少なくとも、バリアフィルム層とシーラント層とを積層してなる防虫剤用低吸着包材において、前記シーラント層が、少なくとも、ラミネート面層と、中間層と、シール面層とを順次積層した共押し出し多層フィルムからなることを特徴とする防虫剤用低吸着包材。
【請求項3】
前記中間層が密度0.926以上のポリオレフィンで形成され、且つシール面層が、密度0.915以下のポリオレフィンで形成されていることを特徴とする請求項2記載の防虫剤用低吸着包材。
【請求項4】
前記バリアフィルム層が、少なくとも、フィルム基材層と、無機酸化物からなる蒸着層とを積層してなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の防虫剤用低吸着包材。
【請求項5】
前記常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤がエムペントリンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の防虫剤用低吸着包材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−111284(P2006−111284A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298487(P2004−298487)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】