説明

防虫鋼板、およびその製造方法

【課題】プレス成型時にプレス油等の潤滑剤を使用しなくても良好にプレス加工のできる潤滑性を有し、かつ、鋼板表面の溶接性も高い、ゴキブリ等の昆虫を寄せ付けない防虫鋼板の提供。
【解決手段】鋼板の表面に、潤滑剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる潤滑被膜層を、0.5〜4g/mで有する防虫鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴキブリ等の不快・衛生害虫忌避を目的とする、機器等に用いる防虫鋼板、および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器製品内で発生する熱などを目的に集まるゴキブリ等の昆虫が、プリント回路基板上で絶縁不調や導通不良を発生させる事があり、この防止方法の開発が望まれてきた。
【0003】
そして、この対策として、プリント基板に忌避剤を塗布等して昆虫の侵入の防止を図る方法が提案された。
【0004】
しかし、この方法では忌避剤を十分な量とすることができず、昆虫を忌避する効果が低かった。また、この方法では基板に昆虫が触れることがあるので、接触不良を回避することはできなかった。
【0005】
そこで、次に示す特許文献1に記載の方法が提案された。
この特許文献1では、害虫侵入防止対策としては、機器筐体への忌避効果付与が最適であると考え、近年多くの家電機器の底板をはじめとする筐体において、塗装鋼板が使用されているため、その鋼板内部を主体とする塗膜表面に害虫忌避効果を付与することを目的に、金属板の表面に害虫忌避成分もしくは害虫忌避成分を含む層を形成したことを特徴とする金属板が記載されている。
【0006】
このような金属板をシャシーに加工し、シャシー上にプリント回路基板を設置すれば、昆虫(害虫)が回路と接触することがないので、接触、導通不良が発生しない。
【特許文献1】特開平11−300884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では、金属板表面に大量の樹脂および忌避成分を含有する層を設けるために絶縁性が高く溶接が困難である。また、金属板の加工により樹脂が剥離する場合がある。さらに、プレス加工等で金属板の潤滑性が乏しく、充分にプレス加工ができない場合がある。
【0008】
従って、本発明は、プレス成型時にプレス油等の潤滑剤を使用しなくても良好にプレス加工のできる潤滑性を有し、加工により樹脂層が剥離することもなく(高密着性の樹脂層)、鋼板表面の溶接性も高く、さらに、ゴキブリ等の昆虫を寄せ付けない防虫鋼板、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、プレス加工を良好に行なう潤滑性、樹脂層の高密着性、および鋼板表面の溶接性が高い防虫鋼板が得られないという従来法の問題点を解決するための手段について検討した。
そして、鋼板の表面に、潤滑剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる潤滑被膜層を、特定量で有する防虫鋼板が、従来法における問題点を解決することを見出した。
【0010】
つまり、本発明は、下記(1)〜(5)である。
【0011】
(1)鋼板の表面に、潤滑剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる潤滑被膜層を、0.5〜4g/mで有する防虫鋼板。
【0012】
(2)前記潤滑被膜層に含有される前記忌避剤の質量が、0.01〜0.4g/mである上記(1)に記載の防虫鋼板。
【0013】
(3)前記忌避剤が、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルとの混合物である上記(1)または(2)に記載の防虫鋼板。
【0014】
(4)前記鋼板の表面に、前記樹脂組成物を塗布し、300℃以下の雰囲気温度で該樹脂組成物を該表面に焼き付け、前記潤滑被膜層を形成する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の防虫鋼板を製造する方法。
【0015】
(5)前記鋼板の表面に、前記樹脂組成物を塗布し、300℃以上の雰囲気温度で1〜5秒間、該樹脂組成物を該表面に焼き付け、前記潤滑被膜層を形成する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の防虫鋼板を製造する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プレス成型時にプレス油等の潤滑剤を使用しなくても良好にプレス加工のできる潤滑性を有し、樹脂層が剥離することもない。さらに、鋼板表面の溶接性も高く、ゴキブリ等の昆虫を寄せ付けない防虫鋼板を提供することができる。
そして、この防虫鋼板を電気機器のプリント基板、配線基板、内箱等に利用すれば、基板の接点等での絶縁不良の故障が低減でき、装置の故障も大幅に低減できる。
【0017】
また、本発明によれば、このような防虫鋼板の製造方法を提供することができる。
そして、このような製造方法によれば、この防虫鋼板を短時間で製造することができるので、低コストでの製造が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、鋼板の表面に、潤滑剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる潤滑被膜層を、該表面の単位面積当たりに付着している質量で、0.5〜4g/mで有する防虫鋼板である。
このような防虫鋼板を、以下では「本発明の防虫鋼板」ともいう。
【0019】
<鋼板>
本発明の防虫鋼板に使用できる鋼板は特に限定されず、鉄を主成分とする板であればよく、大きさ等も限定されない。また、表面にめっき処理、化成処理、PVD、CVD、表面熱処理、樹脂コーティング等が施された表面処理鋼板であってもよい。
【0020】
本発明の防虫鋼板に使用できる鋼板として具体的には、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板、5%Al−Zn溶融めっき鋼板、55%Al−Zn溶融めっき鋼板、Alめっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、ステンレス鋼板等を挙げることができる。
これらの製造方法も限定されず、従来法を適用できる。
【0021】
<樹脂組成物>
本発明の防虫鋼板に用いる樹脂組成物は、樹脂に潤滑剤と忌避剤とを含有する。
【0022】
<樹脂>
樹脂の種類は特に限定されず、潤滑剤と忌避剤とを、均一に分散または溶解させることができるものであればよい。
このような樹脂として、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂を挙げることができる。
【0023】
<潤滑剤>
潤滑剤の種類は特に限定されず、樹脂組成物に均一に分散し、さらに樹脂、忌避剤を劣化させないものであればよい。
このような潤滑剤としては、例えば、ポリエチレン系ワックス、フッ素系パウダー、アクリル系ビーズ、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤等を挙げることができる。
【0024】
このような潤滑剤の樹脂組成物中における含有比率は、前記樹脂の100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましい。この含有比率が低すぎれば充分な潤滑性が得られない。一方、高すぎれば潤滑被膜層の鋼板表面への密着性が低下する。
なお、ここでいう樹脂および潤滑剤の質量は、乾燥後の質量、つまり、潤滑被膜層になった後の質量を意味する。以下に示す忌避剤およびその他の成分の場合も同様である。
【0025】
<忌避剤>
本発明で用いる忌避剤は、後述する昆虫忌避成分の少なくとも1種類と、後述する多価アルコールの脂肪酸エステルの少なくとも1種類との混合物である。昆虫忌避成分単独では忌避効果が弱く、多価アルコールの脂肪酸エステルとの共存で忌避剤としての十分な効果を発揮することができる。
【0026】
具体的には、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分と、沸点250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルとを混合して共存させることで、潤滑被膜層の表面に忌避剤がブリードし易くなり、少量の昆虫忌避成分と、少量の潤滑被膜層で、良好な昆虫忌避効果が得られる。
【0027】
尚、ピレスロイド系化合物としては、例えば、α−シアノ−3−フェノキシベンジル(+)シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロンカルボキシラート、α−シアノ−3−フェノキシベンジル(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−(1,2,2,2−テトラブロモエチル)シクロプロパンカルボキシラート、(s)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−〔2−(2,2,2−トリフルオル−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル〕シクロプロパンカルボキシラート、(RS)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1RS,3RS)−3−(2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピニル)−2,2−ジメチルシキロプロパンカルボキシラートが挙げられる。
これらは、それぞれ単独でも、適宜組み合わせて使用してもよい。
【0028】
また、「沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステル」としては、トリグリセリド、多価アルコールの脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が好ましい。
これらは、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
これらの特に好ましい具体的として、トリグリセリドとしては、ヤシ油、ククイナツ油、サフラワー油、アカデミアナッツ油、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリド、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリド等が挙げられる。
【0030】
また、多価アルコールの脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、トリイソステアリン酸ジグリセリル、ジカプリン酸プロピレングリコール、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0031】
また、グリセリン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノワンデシレングリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル、ジオレイン酸グリセリル等が挙げられる。
【0032】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノオレイン酸ジグリセリル、モノイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、モノラウリン酸ヘキサグリセリル、モノミリスチン酸ヘキサグリセリル、ポリリシノレインヘキサグリセリル、モノイソステアリン酸デカグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリル、ポリリシノレイン酸デカグリセリル等が挙げられる。
【0033】
また、ソルビタン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノラウリリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0034】
また、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノステアリン酸POE(6)ソルビタン等が挙げられる。
【0035】
また、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、、モノラウリン酸POE(6)ソルビット、テトラオレイン酸POE(30)ソルビット等が挙げられる。
【0036】
また、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、モノラウリン酸ポリエチレングリコール(10EO)、ジイソステアリン酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0037】
さらに、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルの少なくとも1種類との混合比は、質量比で昆虫忌避成分:多価アルコールの脂肪酸エステル=10:1〜1:10とすることが好ましく、特に1:1〜1:5とすることが好ましい。
【0038】
このような忌避剤の樹脂組成物中における含有比率は、前記樹脂の100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。前記樹脂に対する忌避剤の質量比が高すぎると処理液の安定性が悪くなり、鋼板表面に均一な塗布が困難となる。
【0039】
また、この忌避剤は、本発明の防虫鋼板の表面に形成された場合に、該表面の単位面積当たりに付着している質量で、0.01〜0.4g/mであることが好ましく、0.2〜0.3g/mであることがさらに好ましい。
【0040】
0.01g/m未満であると、昆虫忌避効果が充分に得られない。逆に、0.4g/m超であると、昆虫忌避効果は有利であるが、潤滑被膜の潤滑性、密着性が低下するので好ましくない。
【0041】
<その他の成分>
本発明の防虫鋼板に用いる樹脂組成物は、前記潤滑剤と前記忌避剤とを含有するが、さらにその他の成分として、顔料、分散剤、レベリング剤、ワックス、骨材等を含有してもよい。
【0042】
このようなその他の成分の樹脂組成物中における含有比率は、本発明の効果を阻害しない範囲であればよいが、前記樹脂の100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下が最も好ましい。
【0043】
<本発明の防虫鋼板の製造方法>
次に、前記鋼板の表面に、前記樹脂組成物を塗布して潤滑被膜層を形成する方法を説明する。
【0044】
まず、上記のような鋼板を用意する。
【0045】
次に、前記樹脂、前記潤滑剤、前記忌避剤、および必要によりその他の成分を水や有機溶媒等に溶解または分散させエマルジョンとした溶液等を用意する。
【0046】
次に、この溶液を前記鋼板の表面に、従来の方法、例えば、スプレー、バーコーター、浸漬等の方法により塗布する。
【0047】
そして、これを高周波誘導炉、熱風炉等の加熱炉に挿入し、鋼板の表面に潤滑被膜層を形成する。
ここで、加熱炉等の雰囲気温度は300℃以下とすることが好ましい。理由は忌避剤をほぼ完全に被膜中に残存させるためである。より好ましくは250℃以下である。
なお、加熱条件は特に限定する必要はないが、例えば被膜層を形成する上では、鋼板の最高到達温度が概ね80℃以上となるようにすることが好ましい。
【0048】
一方、加熱炉等の雰囲気温度は300℃以上としてもよい。この場合は加熱炉等による加熱時間を短時間、具体的には1〜5秒程度とすることができる。このような短時間とすることができれば、製造効率を向上させることができるので、コストダウンを実現できるので好ましい。また、このような短時間であれば、鋼板の最高到達温度も80〜100℃程度であるので、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルはほぼ蒸散しない。
【0049】
このような製造方法において、潤滑被膜層を、前記鋼板の表面の単位面積当たりに付着している質量で、0.5〜4g/mとするには、例えばロールコーターやスプレーで付着量を調整して塗布すればよい。
【0050】
本発明の防虫鋼板は、この潤滑被膜層を、前記鋼板の表面の単位面積当たりの質量として、0.5〜4g/mで有するが、この質量が0.5g/m未満であると潤滑性、および昆虫の忌避効果が充分に得られない。逆に、4g/m超であると被膜の絶縁抵抗が高くなり、溶接性が悪化し、例えばスポット溶接ができなくなる。
【0051】
尚、この潤滑被膜層を形成する前の鋼板として、溶接性を害しない範囲で、樹脂コーティングした鋼板を用いてもよい。
【0052】
このような方法により、本発明の防虫鋼板を製造することができる。
【実施例】
【0053】
本発明を以下に示す実施例1〜10、および比較例1〜5により具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0054】
55%Al−Zn溶融めっき鋼板(厚さ:0.35mm、めっき層厚:10μm)を用意した。これを以下の実施例および比較例の説明において、単に「めっき鋼板」ともいう。
【0055】
以下の実施例1〜10、および比較例1〜5においては、200×300mm角の大きさに切り出しためっき鋼板の表面に、各々の処理を施した。これら各々の処理を施しためっき鋼板から必要な大きさに切り出したものを、各種試験に供する試験片とした。
【0056】
まず、実施例1〜3について説明する。
初めに、めっき鋼板の表面に塗布する樹脂組成物を含有する溶液(以下、実施例および比較例において「塗布用溶液」ともいう)を作成した。
【0057】
実施例1〜3においては、ウレタン系樹脂水系エマルジョン(商品名:スーパーフレックス110、第一工業製薬株式会社製、固形分濃度30質量%)に、潤滑剤としてポリエチレンワックス(商品名:ケミパールW−100、三井化学株式会社製、固形分濃度40質量%)、昆虫忌避成分としてα−シアノ−3−フェノキシベンジル(+)シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロンカルボキシラート、多価アルコールの脂肪酸エステルとしてトリ2−エチルヘキシサングリセリドを用いて、添加濃度を表1に示すものに変化させて塗布用溶液とし、試験した。
【0058】
ここで、塗布用溶液中の各々の添加量は、前記ウレタン系樹脂水系エマルジョンへの添加量を調整し、表1に示すように、潤滑剤濃度が1質量%、昆虫忌避成分濃度が0.5〜1質量%、多価アルコールの脂肪酸エステル濃度が2〜4質量%となるようにした。
【0059】
このような塗布用溶液をめっき鋼板の表面に、バーコーターを用いて塗布した。
そして、自動排出型熱風乾燥機(日本テストパネル工業株式会社製)を用いて240℃雰囲気で4秒間乾燥した。なお、鋼板の最高到達温度は、100℃であった。
【0060】
このような操作により作製した、表面に潤滑被膜層を有するめっき鋼板から、必要な大きさに切り出したものを、実施例1〜3に係る試験片とした。
【0061】
実施例4、5においては実施例1〜3の多価アルコールの脂肪酸エステルの種類をジオクタン酸ネオペンチルグリコ−ルに変更し、添加濃度を表1に示すものに変化させて試験した。
【0062】
実施例6においては実施例1〜3の多価アルコールの脂肪酸エステルの種類をジオクタン酸ネオペンチルグリコールに変更し、添加濃度を表1に示すものに変化させて試験した。
【0063】
実施例7においては実施例1〜3の多価アルコールの脂肪酸エステルの種類をトリ2−エチルヘキシサングリセリドとテトライソステアリン酸ペンタエリスリットとを質量比で1:1としたものに変更し、添加濃度を表1に示すものに変化させて試験した。
【0064】
実施例8は実施例7の昆虫忌避成分の種類を(s)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−〔2−(2,2,2−トリフルオル−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル〕シクロプロパンカルボキシラートに変更し、多価アルコールの脂肪酸エステルの種類をジオクタン酸ネオペンチルグリコールとテトライソステアリン酸ペンタエリスリットとを質量比で1:1としたものに変更し、添加濃度を表1に示すものに変化させて試験した。
【0065】
実施例9、10においてはアクリル系樹脂水系エマルジョン(商品名:ポリゾールAP−6720、昭和高分子株式会社製、固形分濃度44質量%)に、実施例1〜3と同じ潤滑剤および多価アルコールの脂肪酸エステルを用い、昆虫忌避成分として(s)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−〔2−(2,2,2−トリフルオル−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル〕シクロプロパンカルボキシラートを用いて、添加濃度を表1に示すものに変化させて試験した。
【0066】
比較例1においては、実施例1〜3と同じウレタン系樹脂水系エマルジョン、潤滑剤、および昆虫忌避成分のみを使用し、多価アルコールの脂肪酸エステルを使用しないで、添加濃度を表1に示すものとして試験した。
【0067】
比較例2においては、実施例1〜3と同じウレタン系樹脂水系エマルジョンおよび潤滑剤を使用し、昆虫忌避成分と、多価アルコールの脂肪酸エステルとを使用しないで、添加濃度を表1に示すものに変化させて試験した。
【0068】
比較例3においては、実施例9、10と同じアクリル系樹脂水系エマルジョンおよび潤滑剤を使用し、昆虫忌避成分と、多価アルコールの脂肪酸エステルとを使用せず、添加濃度を表1に示すものに変化させて試験した。
【0069】
比較例4においては、実施例1〜3と同じウレタン系樹脂水系エマルジョンおよび潤滑剤を使用し、実施例8と同じ昆虫忌避成分を使用し、多価アルコールの脂肪酸エステルを使用せず、添加濃度を表1に示すものに変化させて試験した。
【0070】
比較例5においては、実施例1〜3と同じウレタン系樹脂水系エマルジョンと実施例8と同じ昆虫忌避成分とを使用し、潤滑剤と多価アルコールの脂肪酸エステルとを使用せず、添加濃度を表1に示すものに変化させて試験した。
【0071】
なお、潤滑剤の濃度は実施例1〜10、および比較例1〜4において同じとした。また、比較例5では潤滑剤を使用しなかった。
【0072】
樹脂、忌避剤(昆虫忌避成分、多価アルコールの脂肪酸エステル)の詳細、および表1における省略記号は次の通りである。
【0073】
(省略記号、および樹脂の種類)
U:ウレタン系樹脂エマルジョン、商品名:スーパーフレックス110、第一工業製薬株式会社製、固形分濃度30質量%
Ac:アクリル系樹脂エマルジョン、商品名:ポリゾールAP−6720、昭和高分子株式会社製、固形分濃度44質量%
【0074】
(昆虫忌避成分の種類、および省略記号)
A:α−シアノ−3−フェノキシベンジル(+)シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロンカルボキシラート
B:(s)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−[2−(2,2,2−トリフルオル―1―トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル]シクロプロパンカルボキシラート
【0075】
(多価アルコールの脂肪酸エステルの種類、および省略記号)
E:トリ2−エチルヘキシサングリセリド
F:ジオクタン酸ネオペンチルグリコール
G:テトライソステアリン酸ペンタエリスリット
【0076】
【表1】

【0077】
このようにして得た実施例1〜10、および比較例1〜5の試験片の潤滑被膜層付着量および忌避剤付着量測定結果、ならびに、後述する摂食忌避試験(1、2)、溶接性試験、および加工性試験の結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
<潤滑被膜層付着量の測定>
潤滑被膜層形成後のめっき鋼板から、100×100mmの大きさに試験片を切り出した。そして、この試験片の質量を秤量した後、アセトンで潤滑被膜層を剥離除去し、再度試験片の質量を秤量した。そして潤滑被膜層剥離前後の質量差より付着量を算出した。
尚、潤滑被膜層付着量は、樹脂と潤滑剤と忌避剤(昆虫忌避成分+多価アルコールの脂肪酸エステル)との合計量となる。
【0080】
<忌避剤付着量の測定>
潤滑被膜層形成後のめっき鋼板から、100×100mmの大きさに試験片を切り出した。そして、この試験片をアセトンに浸漬して忌避剤成分、すなわち、昆虫忌避成分と多価アルコールの脂肪酸エステルとを抽出し、ガスクロマトグラフィーで定量を行ない、これらの合計である忌避剤としての付着量を求めた。
【0081】
<摂食忌避試験1>
潤滑被膜層形成後のめっき鋼板から、100×100mmの大きさに2枚の試験片を切り出した。そして、これを試験片1として下記の試験に供した。
【0082】
直径が600mmで円周上の壁の高さが100mmである円形のバット10を水平に設置し、この略中央にシェルター7と水9とを設置した。そして、図1に示すように、シェルター7の周りに、試験片1、および上記の処理を行う前のめっき鋼板2を、各々2枚ずつ、シェルター7を中心とした対角となるように置いた。さらに、この試験片1およびめっき鋼板2の上に、餌を5gを置いた。
【0083】
また、シェルター7は、100×100mm、高さ10mmで上面を覆った箱状(厚紙で作製)であり、図2に示すように4面に30×10mmの入口71を設けたものである。
【0084】
このようなバット10内に、チャバネゴキブリの雌と雄、各々50匹を放ち、室温で48時間放置した後に餌の重量を測定し、下式により摂食忌避率を求めた。
【0085】
摂食忌避率(%)=〔(めっき鋼板上の餌の減少量−試験片上の餌の減少量)/めっき鋼板上の餌の減少量〕×100
【0086】
<摂食忌避試験2>
上記の摂食忌避試験1において、試験片1とめっき鋼板2を、50℃、75%R.Hの恒温恒湿槽に4ヶ月放置した後に同じ試験を行った。
このような試験により好結果が得られた場合、一般的には、上記の摂食忌避試験1において、バット10内にゴキブリを放置する時間を、48時間ではなく、5年以上としても、同様に低い摂食忌避率となると考えられている。
【0087】
<溶接性試験>
潤滑被膜層形成後のめっき鋼板から、100×200mmの大きさに試験片を2枚切り出した。そして、この2枚の表面を合わせて、スポット溶接機で連続打点数を測定した。連続スポット溶接条件は下記の通りである。
スポット溶接機:商品名:ND−25−66、株式会社電元社製作所製
溶接電流 9500A
加圧力 250kg/cm
電極 Cr−Cu電極、CF型 6mmφ
溶接時間 8サイクル(50Hz)
連続打点数: 1対の電極で正常なナゲット(溶接ビード)形成ができなくなり、鋼板と電極とが溶着するまでの溶接回数
【0088】
<加工性試験>
潤滑被膜層形成後のめっき鋼板から、50×100mmの大きさに試験片を切り出した。そして、この試験片の表面にカッターナイフで1mm角の碁盤目を100個入れ、碁盤目部をエリクセン試験機で試験片を6mm押出し、押出し加工部にセロハンテープを貼りつけ引き離し、被膜が剥離するかを調べた。
【0089】
評価
◎ 被膜の剥離数が0個
○ 1〜5個の碁盤目被膜が剥離した
△ 6〜10個の碁盤目被膜が剥離した
× 11個以上の碁盤目被膜が剥離した
【0090】
表2より、表面に0.01〜0.4g/mの忌避剤を有する試験片の場合に、優れた摂食忌避効果が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、摂食忌避試験用器具の上からの概略図である。
【図2】図2は、摂食忌避試験用器具のシェルターの概略図である。
【符号の説明】
【0092】
1 試験片
2 めっき鋼板
5 餌
7 シェルター
71 入口
9 水
10 バット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の表面に、潤滑剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる潤滑被膜層を、0.5〜4g/mで有する防虫鋼板。
【請求項2】
前記潤滑被膜層に含有される前記忌避剤の質量が、0.01〜0.4g/mである請求項1に記載の防虫鋼板。
【請求項3】
前記忌避剤が、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルとの混合物である請求項1または請求項2に記載の防虫鋼板。
【請求項4】
前記鋼板の表面に、前記樹脂組成物を塗布し、300℃以下の雰囲気温度で該樹脂組成物を該表面に焼き付け、前記潤滑被膜層を形成する請求項1〜3のいずれかに記載の防虫鋼板を製造する方法。
【請求項5】
前記鋼板の表面に、前記樹脂組成物を塗布し、300℃以上の雰囲気温度で1〜5秒間、該樹脂組成物を該表面に焼き付け、前記潤滑被膜層を形成する請求項1〜3のいずれかに記載の防虫鋼板を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−231690(P2006−231690A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49262(P2005−49262)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【出願人】(000197975)石原薬品株式会社 (83)
【Fターム(参考)】