説明

防蟻工法、及びそれに用いる防蟻処理具

【課題】建築物の基礎断熱構造において、たとえ床下空間が狭い場所であっても防蟻剤で処理することが可能な防蟻工法、及びそれに用いる道具を提供することを目的とする。
【解決手段】布基礎13(立設部)の内側面13aと防湿コンクリート15(横設部)の上面15aとが接合する角部分(角11の部分)に沿って、断熱材14,16で囲まれたトンネル状の空間12を形成する。トンネル状空間12の側方の開口12aから長尺の防蟻処理具30を挿入し(矢印D)、トンネル状空間12の奥に差し入れ(矢印E,F,G)、液状の防蟻剤を空間12に散布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の床下部分にて断熱材を施した基礎断熱構造についての防蟻工法、並びにこの防蟻工法に用いる防蟻処理具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の床下施工として布基礎工法とベタ基礎工法が知られている。布基礎工法は、建築物の外周に沿って逆T字型の布基礎を形成し、この布基礎で囲まれた内側に防湿コンクリートを打設するものである。ベタ基礎工法は、布基礎と建築物下の地面に打設するコンクリートを一体の鉄筋コンクリート造りとして基礎を形成したものである。
【0003】
近年の高気密・高断熱建築物においては、床下構造を基礎断熱構造とすることが良く行われている。具体的には、布基礎工法の場合、建築物外周の布基礎と防湿コンクリートの接合箇所(打継ぎ部)付近における屋内側、またベタ基礎工法の場合、地面上のコンクリートベース盤と立ち上がり基礎の接合箇所(打継ぎ部)付近における屋内側に、断熱材を敷設する。なお以下、布基礎工法での「布基礎」及びベタ基礎工法での「立ち上がり基礎」を、「基礎コンクリート立設部」或いは単に「立設部」と総称し、布基礎工法での「防湿コンクリート」及びベタ基礎工法での「地面上のコンクリートベース盤」を、「基礎コンクリート横設部」或いは単に「横設部」と総称することがある。
【0004】
ところで、コンクリート製の床下構造であっても経年変化により立設部と横設部の打継ぎ部にクラックを生じることがあり、このクラックを伝って白蟻が屋内に侵入する虞がある。
【0005】
そこで防蟻対策として、基礎コンクリート立設部と基礎コンクリート横設部の接合箇所の屋内側隅部分に防蟻剤を充填することが提案されている(例えば特許文献1参照)。これによれば、上記隅部分の防蟻剤によって屋内への侵入を防ぐことができる。
【0006】
更に上記特許文献1の発明では、立設部内側面の断熱材を下端に間隙を設けて位置させ、この間隙に横設部上の断熱材を着脱自在に滑り込ませる構成とし、この横設部上の断熱材を取り外し、効力の低下した防蟻剤に新たな防蟻剤を追加処理して永続的な防蟻効果の維持を図っている。
【0007】
他の従来例としては、分割した断熱材を用い、立設部と横設部の接合箇所における屋内側隅部分の断熱材を着脱自在とし、これを適宜取り外して防蟻処理を行うことが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−213837号公報
【特許文献2】特開2005−163489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで上記従来の防蟻対策はいずれも、基礎コンクリート立設部と基礎コンクリート横設部の接合箇所の屋内側に作業者が対面するように位置して施工作業を行うものであり、この為に建築物の構造によっては作業し辛い場所がある。例えば浴室や玄関等では、床下空間、つまり床板と基礎コンクリート横設部の間の隙間が概して狭く、作業者が潜り込むことが困難である。この為に防蟻剤を配設することを断念せざるを得ないことがある。尤もこの様な場所であっても、建築工事中は作業空間が残っている段階で防蟻処理を行うことができる。しかし防蟻剤の効力が低下したときに、新しい防蟻剤を追加処理することがままならない。
【0010】
そこで本発明は上記事情に着目してなされたものであって、その目的は、たとえ床下空間が狭い場所であっても防蟻剤で処理することが可能な防蟻工法、及びそれに用いる防蟻処理具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明の理解を容易にする為、後述の図面で用いた符号を適宜付して説明するが、本発明は図示例に限定されるものではなく、符号により発明特定事項が限定されるものでもない。
【0012】
本発明に係る防蟻工法は(図1,2参照)、建築物の外周部分に沿って形成される基礎コンクリート立設部(例えば布基礎13)と、これに接続された基礎コンクリート横設部(例えば防湿コンクリート15)を備え、この横設部の上面15aにおける前記立設部付近と前記立設部の内側面13aとに断熱材16,14を配設する基礎断熱構造についての防蟻工法において、前記横設部の上面15aと前記立設部の内側面13aが接合する角部分(角11の部分)に沿って、前記断熱材16,14で囲まれたトンネル状の空間12を形成し、該トンネル状の空間12における側方の開口12aから、長尺の防蟻処理具30を挿入して該空間12を防蟻剤で処理することを特徴とする。
【0013】
或いは本発明に係る防蟻工法は(図8参照)、建築物の外周部分に沿って形成される基礎コンクリート立設部と、これに接続された基礎コンクリート横設部と、前記立設部で囲まれた建築物内側に該立設部に連接して立設された間仕切り部23とを備え、前記横設部の上面15aにおける前記立設部付近と、前記立設部の内側面13aと、前記間仕切り部23の側面23aにおける前記立設部付近とに、断熱材16,14,44を配設する基礎断熱構造についての防蟻工法において、前記横設部の上面と、前記立設部13の内側面13a及びこれに連続する前記間仕切り部23の側面23aとが接合する角部分(角11の部分)に沿って、前記断熱材16,14,44で囲まれたトンネル状の空間12を形成し、前記間仕切り部23における前記トンネル状の空間12の側方の開口12aから、長尺の防蟻処理具30を挿入して該空間12を防蟻剤で処理することを特徴とする。
【0014】
上記の様に本発明では、トンネル状空間12の側方開口12aから防蟻処理具30を挿入して防蟻剤を付与する構成であるので、基礎コンクリートの立設部と横設部の接合箇所屋内側に作業者が対面して位置せず、処理対象場所の横手から防蟻処理を行うこととなる。従って床下空間が狭い場所についても、当該場所の側方の比較的広いところに作業者が位置して防蟻作業を行うことができ、よって建築物のどの場所についても確実に防蟻処理することが可能となる。
【0015】
なお上記「間仕切り部」とは、建築物の外周部に形成された基礎コンクリート立設部に連接した間仕切り用の基礎部分であり、例えば一般に「間仕切り基礎」と称されるものを言う。
【0016】
更に本発明の防蟻工法においては(図1,7,8参照)、パイプ31と、このパイプ31内に挿通された可撓性ホース32とを備えた防蟻処理具30を用い、前記トンネル状空間12の側方の前記開口12aから前記パイプ31を挿入し、該トンネル状空間12の直線部分(入口直線空間12b)を進み入れ、続いて前記トンネル状空間12の曲部12cにおいて、該パイプ31の先端開口から前記可撓性ホース32を延出して前記曲部12cより奥(奥空間12d)に該可撓性ホース32を進み入れることが好ましい。
【0017】
この様にして曲がったトンネル状空間12に対しても防蟻処理具30を奥まで挿入することができ、防蟻処理具30の可撓性ホース32の先端から防蟻剤を出してトンネル状空間12内の防蟻処理をすることができる。
【0018】
本発明に係る防蟻処理具30としては(図5参照)、パイプ31と、このパイプ内に挿通され、該パイプ31の先端開口から延出/収納可能な可撓性ホース32と、この可撓性ホースに連通する防蟻剤圧出器とを備えたものが挙げられる。
【0019】
更に前記防蟻処理具30としては、回転輪35と吊り下げ部34の間をパイプ31先端よりも狭くした滑車33を、前記パイプ31の先端より先に設け、回転輪35と吊り下げ部34の間に前記可撓性ホース32を挿通し、吊り下げ部34にワイヤ36の一方端を接続し、このワイヤ36の他方端を前記パイプ31の後端方向に引きのばしてなり(図5の例では、可撓性ホース32を挿通するパイプ31と並走しているパイプ46にワイヤ36が挿通され、その後端開口からワイヤ36の他方端が延出されている)、該ワイヤ36を前記パイプ後端方向に引いたときに、吊り下げ部34の延出側に可撓性ホース32が曲がることが好ましい。
【0020】
つまりワイヤ36を引くことで、滑車33における回転輪35−吊り下げ部34間の可撓性ホース挿通軸方向が変わり(具体的には吊り下げ部34の側に曲がる)、これに従って可撓性ホース32の進行方向が曲がる。従ってたとえトンネル状空間12に曲がり角があっても、この曲がり角より奥に可撓性ホース32を進み入れることができる。しかも回転輪35が回転するので、可撓性ホース32を滑らかに進行或いは後退させることができる。なお上記の様に滑車33の回転輪35−吊り下げ部34間はパイプ31の先端よりも狭いので、滑車33はパイプ31を挿通させて後側に向かうことがない。
【0021】
更に上記防蟻処理具30としては、前記パイプ31は、その先端に弾性チューブ37を備えたものであることが好ましい。つまりパイプ31の先端が弾性チューブ37となっており、この弾性チューブ37より先端側に前記滑車33を位置させたものが好ましい。
【0022】
仮にパイプの先端が硬性のものであると、ワイヤ36を引いたときに、滑車33の吊り下げ部34を上手く引きつけることができず、回転輪35−吊り下げ部34間の可撓性ホース挿通軸方向を変え難い。しかしパイプ31の先端が弾性チューブ37であれば、ワイヤ36を引いたときに、滑らかに上記可撓性ホース挿通軸方向を変えることができる。
【0023】
また本発明の防蟻処理具においては、可撓性ホースの先端部におけるホースの曲がり方向にキャスター38が設けられたことが好ましい。換言すると、可撓性ホース32の先端部において、前記パイプ31の軸心に対し前記吊り下げ部34が位置している側と同じ側の側面にキャスター38が設けられたことが好ましい。
【0024】
上述の様にワイヤ36を引くことで滑車33の部分で可撓性ホース32の進行方向を曲げると共に、パイプ31の先端開口から可撓性ホース32を延出してトンネル状空間12の曲部12cより奥に進み入れることとなるが、この際、往々にして可撓性ホース32は曲げられたアールに沿って弧を描いて進む傾向にある。この為トンネル状空間12の側壁に可撓性ホース32の先端が当接し、これがストッパーとなって進み難くなる虞がある。
【0025】
この点について、上記の様にキャスター38が設けられたものであれば、先にキャスター38がトンネル状空間12の側壁に当接し、該キャスター38が回転することによりトンネル状空間12の奥に円滑に導くことができる。またトンネル状空間12内において可撓性ホース32の先端部の位置を安定化させることができる。
【0026】
なお上記「先端部」とは、可撓性ホース32の先端或いは先端近傍のことである。つまりキャスター38は必ずしも可撓性ホース32の先端の位置に設ける必要はなく、先端から少し下がった位置に設けても良い。可撓性ホース32が弧を描いても、キャスター38が先にトンネル状空間12の側壁に当接すれば足り、よってキャスター38の大きさ分を勘案した限度において、可撓性ホース32の先端より下がった位置に設けることが可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る防蟻工法によれば、床下空間が狭い場所についても防蟻剤で処理することができ、従って建築物のどの場所についても確実に防蟻処理することが可能となる。また本発明に係る防蟻処理具により上記防蟻工法を良好に行い得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】建築物の床下構造全体を表す概略上面図である。
【図2】布基礎と防湿コンクリートとの打継ぎ部付近を表す断面図で、図1に示すA−A線断面やB−B線断面を表す。
【図3】布基礎と防湿コンクリートの接合部付近を上面から透視した図であり、図1における左上の部分に対応する。
【図4】トンネル状空間における開口付近を表す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態1において用いる防蟻処理具の一例を示す図であり、(a),(b)は全体図(但し、防蟻剤圧出器を除く)、(c)は先端付近を表す図、(d)は手元側を表す図である。
【図6】本発明に係る防蟻処理具の一例についてその動作を説明するための図であり、防蟻処理具の先端付近を表しており、(a)は自然な状態で、(b),(c)は滑車のワイヤを引いた状態である。
【図7】直角に曲がった通路を防蟻処理具の可撓性ホースが進行する様子を表す図であり、(a)は可撓性ホースの先端が通路の曲部に至った様子、(b)は可撓性ホースの進行方向を曲げた様子、(c)は可撓性ホースを通路の曲部より先に進み入れた様子である。
【図8】本発明の実施形態2に係る防蟻工法を説明するための図であり、(a)は建築物の床下構造全体を表す概略上面図で、(b)は(a)における右下部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<実施形態1>
本発明の実施形態1に係る防蟻工法を説明するにあたり、以下に、1:建築物床下の基礎断熱構造、2:実施形態1の防蟻工法において用いる防蟻処理具の一例、3:防蟻方法について順次説明する。
【0030】
1.建築物床下の基礎断熱構造
図1は建築物の床下構造全体を表す概略平面図である。図2は布基礎13(基礎コンクリート立設部)と防湿コンクリート15(基礎コンクリート横設部)との打継ぎ部付近を表す断面図で、図1に示すA−A線断面やB−B線断面に相当する。
【0031】
実施形態1は布基礎工法による建築物についてのものであり、コンクリート製の布基礎13が建築物の外周部分に沿って形成され、この布基礎13で囲まれた内側に防湿コンクリート15が打設されている(図1,2)。なお布基礎13や防湿コンクリート15には適宜鉄筋が埋設されている。
【0032】
布基礎13の内側面13aと、防湿コンクリート15の上面15aにおける布基礎13付近とに、断熱材14,16が貼り付けられるが、このとき、図2に示すように、布基礎13の内側面13aと防湿コンクリート15の上面15aとが接合する角11の部分(換言すると、布基礎13の内側面13aにおける防湿コンクリート15の上面15aからの立ち上がり角11の部分)に、空間12を残すようにしつつ、この角11の部分を断熱材14,16で覆うようにする。これにより上記空間12が角11に沿ってトンネル状に形成される。なお本実施形態1における空間12の横幅Wは45mm、高さTは25mmである。空間12の大きさについてはこれに限るものではなく、断熱材の厚みが一般に10〜200mmであることから、使用する断熱材の厚みを考慮し、空間12が断熱材で囲まれるようにして大きさを設定すると良い。また図1に示すように、防湿コンクリート15の上面15aについては、布基礎13から内側に1m程までの範囲に断熱材16が貼り付けられ、中央部分には貼られていない。なお断熱材16の貼付範囲については、図示例に限らず、断熱効果と経済性を勘案して決定すると良い。
【0033】
断熱材としては、発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン等の発泡樹脂、グラスウール、厚手のフェルト、合成繊維製ワタ等の繊維製断熱材、多孔質材料、粒子断熱材を容器に充填したもの、或いはこれらの積層体等が用いられる。
【0034】
2.防蟻処理具
図5は本発明の実施形態1において用いる防蟻処理具30の一例を示す図であり、(a),(b)は全体図(但し、防蟻剤圧出器を除く)、(c)は先端付近を表す図、(d)は手元側を表す図である。
【0035】
防蟻処理具30は、内部に可撓性ホース32が挿通された直線状の第1パイプ31と、内部にワイヤ36が挿通された直線状の第2パイプ46とを並走して備えると共に、上記可撓性ホース32に連通する防蟻剤圧出器(図示せず)を備える(図5(a))。なおこれら第1,2パイプ31,46は接続されて離れないようになっている。
【0036】
可撓性ホース32は例えばポリエチレン系合成樹脂等からなり、可撓性を示す。
【0037】
第1パイプ31は、パイプ本体39の先端にゴム製弾性チューブ37が接続されたものである。パイプ本体39及び第2パイプ46はアルミニウムやステンレス鋼等の金属製であり、比較的硬性である。
【0038】
パイプ39,46はそれぞれ4つのパーツに分かれており、先側のパーツ39a,46aが次のパーツ39b,46b内に、そしてこれが次のパーツ39c,46c、更に次のパーツ39d,46dへと、次々と収納可能となっており、パイプ39,46の長さを伸縮できるようになっている(図5(a)が伸ばした状態(例えば長さ2000mmとなる)で、図5(b)が縮めた状態(例えば長さ800mmとなる)である)。尚これを施工場所に応じて適宜伸縮して使用する。
【0039】
図5(c)に示すように、第1パイプ31の先端側(詳しくは弾性チューブ37の先端側)には滑車33が位置し、この滑車33に可撓性ホース32が挿通されている。詳細には、回転輪35の回転軸35aが第1パイプ31の内空より外側に位置すると共に、この第1パイプ31の軸を中心に対向した位置に吊り下げ部34が位置し、これにより回転輪35と吊り下げ部34の間の空隙が第1パイプ31の内空に連なる。そして第1パイプ31内に挿通された可撓性ホース32が、続いて上記回転輪35−吊り下げ部34間の空隙に挿通される。また滑車33における回転輪35と吊り下げ部34の間隙は第1パイプ31の外周直径よりも小さく、これにより滑車33が第1パイプ31の後端側には向かわずに第1パイプ31の先端の位置に留まるようになっている。
【0040】
滑車33の吊り下げ部34には上記ワイヤ36の一方端が接続されている。なお滑車33は弾性チューブ37や可撓性ホース32等には固定されておらず、固定箇所としてはワイヤ36に接続されるのみである。
【0041】
可撓性ホース32の先端32aの近傍には、吊り下げ部34と同じ方の側面にキャスター38が取り付けられている。
【0042】
図5(d)に示すように、ワイヤ36の他方端は第2パイプ46の後端(手元側)に延設され、ハンドル41に接続されている。第1パイプ31の後端(手元側)からは可撓性ホース32が延出しており、防蟻剤圧出器(図示せず)に接続されている。
【0043】
次に防蟻処理具30の動作について説明する。
【0044】
図6は防蟻処理具30の動作を説明するための図であり、防蟻処理具30の先端付近を示している。
【0045】
可撓性ホース32は、手元側から第1パイプ31の内への繰り入れ操作により第1パイプ31の先端開口(詳しくは弾性チューブ37の先端開口)から延出され、また手元側から引き抜く操作により第1パイプ31内に収納できるようになっている(図5参照)。
【0046】
自然な状態で可撓性ホース32の繰り入れ操作を行った場合には、第1パイプ31内の挿通方向と回転輪35−吊り下げ部34間挿通方向がほぼ直線状となるので(θ=180°)、可撓性ホース32はほぼ真っ直ぐに延出されることになる(図6(a))。
【0047】
一方、ハンドル41(図5参照)によりワイヤ36を引くと(図6(b),(c)に示す矢印H)、滑車33の吊り下げ部34が引っ張られ(矢印I)、これに伴って弾性チューブ37が撓り、回転輪35−吊り下げ部34間の挿通軸方向が第1パイプ31内空の軸方向に対して曲がって位置するようになる(θ<180°)。こうして、可撓性ホース32の進行方向が曲げられる(矢印J)。なおワイヤ36の引き加減によって進行方向を曲げる程度を調整する。
【0048】
図7は、直角に曲がった通路を防蟻処理具30の可撓性ホース32が進行する様子を表す図である。
【0049】
通路の曲部において、上述の様にして可撓性ホース32の進行方向を曲げたとき(図7(a),(b))、その曲げ角度が通路と同じ直角でなくても、外側の壁面13bに対して沿うようにして可撓性ホース32の先端が斜めに当接し、可撓性ホース32を延出することで、通路に沿って可撓性ホース32が進むようになる。この際、滑車33の回転輪35が回転するので、可撓性ホース32が円滑に繰り出される。また、上記滑車33の箇所で進行方向を曲げられた可撓性ホース32は、そのまま円弧状に進もうとするが、図7(c)に示すようにキャスター38が内側の壁面16bに当接し、該キャスター38のロールが転がることで内側方向への力を逃がし、通路に沿った進行を導く。
【0050】
なお可撓性ホース32の先端開口32aからは、防蟻剤圧出器の圧力によって防蟻剤が噴出されるようになっている。
【0051】
3.防蟻方法
図1における左上の場所に防蟻処理を施す場合について述べる。なお図3は、布基礎13と防湿コンクリート15の接合部付近を上面から透視した図であって、図1における左上の部分に対応する箇所を拡大した透視図である。
【0052】
まず図1に示すように、上記防蟻処理場所の比較的近くであって作業者が作業可能な空間を確保できる箇所において、断熱材14a,16aを布基礎13や防湿コンクリート15表面から取り外す(矢印C)。これにより、トンネル状空間12における側方の開口12aが現れる。なお図4は、断熱材14a,16aを取り外した箇所の斜視図であり、トンネル状空間12における開口12a付近を表す。
【0053】
そして防蟻処理具30の第1,2パイプ31,46を上記開口12aからトンネル状空間12内に挿入し(図1,3,4に示す矢印D)、空間12の入口直線空間12bを進み入れる(図3に示す矢印E)。
【0054】
続いて空間12の曲部12cに至ると、防蟻処理具30のワイヤ36を引っ張り(図6に示す矢印H)、可撓性ホース32の進行方向を曲げる(図3の矢印F、図6(b),(c)、図7(a),(b))。そして第1パイプ31の先端開口(詳しくは弾性チューブ37の先端開口)から可撓性ホース32を延出し(図7(c))、曲部12cより奥(奥空間12d)に進み入れる(図3の矢印G)。このときキャスター38が、曲がり方向の壁(内側壁)である断熱材壁面16bに接触し、キャスター38のロールが転がって奥(矢印G方向)への進行を導く。
【0055】
こうして防蟻処理場所の端まで可撓性ホース32の先端32aを到達させ、次に可撓性ホース32の先端開口から防蟻剤を噴出しつつ、可撓性ホース32を徐々に手元側に引き抜く。トンネル状空間12の曲部12cに達したら、続いて同様に防蟻剤を噴出しつつ第1,2パイプ31,46と共に可撓性ホース32を徐々に手元側に引き抜く。この様にしてトンネル状空間12の奥空間12d、曲部12c及び入口直線空間12b全体を防蟻剤で処理する。
【0056】
その後、はじめに取り外した断熱材14a,14bを元の位置に戻し、防蟻処理作業が完了する。
【0057】
浴室や玄関等の様に床下と防湿コンクリート15の間が狭い場所にあっては作業者の手が届かないが、本実施形態1においては、作業者が防蟻処理箇所に対面して位置せずに、そこから外れた比較的広い場所から操作することができる。斯様に狭い床下空間の場所にも防蟻処理ができるので、建築物のどの場所も確実に防蟻処理することが可能である。
【0058】
またトンネル状空間12は、該空間12内に小型カメラを挿入し、白蟻の侵入状況を確認するといった点検にも利用できる。
【0059】
なお防蟻剤としては液状のものが好ましい。粉状物や粒状物の防蟻剤の場合は、防蟻効果がなくなった後も空間12内に粉体や粒体が残って、トンネル状空間12を塞ぐ場合がある。このため再度上述の様に防蟻処理具30を用いて防蟻処理を行おうとしても、パイプ31や可撓性ホース32を挿入できない懸念がある。この点に関し、液状の防蟻剤であればトンネル状空間12を塞ぐことがないから、何度も防蟻処理を行うことができる。トンネル状空間12への液状防蟻剤の付与方法としては、霧状や水滴状に噴射する他、泡状にして吹き付けても良い。
【0060】
<実施形態2>
本発明の実施形態2に係る防蟻工法を説明するにあたり、以下に、1:建築物床下の基礎断熱構造、及び2:防蟻方法について順次説明する。なお実施形態2で用いる防蟻処理具は、上記実施形態1と同様のものである。
【0061】
1.建築物床下の基礎断熱構造
図8は本発明の実施形態2に係る防蟻工法を説明するための図であり、(a)は建築物の床下構造全体を表す概略上面図で、(b)は(a)における右下部分の拡大図である。なお図1〜4と同一の符号を付した箇所は、図1〜4の例と同じ構成部分である。
【0062】
実施形態2も布基礎工法による建築物についてのものであり、布基礎13が建築物の外周部分に沿って形成されると共に、建築物屋内の壁が配置される部分に間仕切り部(間仕切り基礎)23が形成されている。なお間仕切り部23は外周の布基礎13に連接して立設している。そして外周の布基礎13で囲まれた内側一面に防湿コンクリート15が打設されている。
【0063】
外周の布基礎13の内側面13aには断熱材14が貼り付けられると共に、布基礎13から内側に1m程までの範囲において、防湿コンクリート15の上面15aに断熱材16が貼り付けられている。また間仕切り部23の側面23aに、布基礎13から内側に1m程までの範囲で、上記断熱材14と連接して断熱材44が貼り付けられている。但し、外周の布基礎13の内側面13aと防湿コンクリート15の上面15aとの接合角部分(角11の部分)、及び間仕切り部23の側面23aと防湿コンクリート15の上面15aとの接合角部分(角11の部分)には空間12が残してあり、この角11の部分を覆うようにして断熱材14,44,16が配設されている(図2参照)。これにより布基礎内側面13aと防湿コンクリート上面15aとの接合角部分、及びこれに連なる間仕切り部側面23aと防湿コンクリート上面15aとの接合角部分に沿って上記空間12がトンネル状に形成される(図8)。なお実施形態2における空間12は横幅Wが45mm、高さTが25mmである。
【0064】
間仕切り部側面23aに貼られた断熱材44の側方端の下方に開いたトンネル状空間12の開口12aには、断熱材製の蓋(図示せず)が取り付けられており、トンネル状空間12が封鎖されている。なお蓋をすることで断熱性及び防露性の向上が期待できる。
【0065】
2.防蟻方法
本実施形態2では、間仕切り部側面23a上の断熱材44における側方端下方の開口12aから操作することとする。
【0066】
まず当該開口12aに取り付けられた蓋を外す。なお蓋を外したときの断熱材44端付近の様子は、上記実施形態1の説明で用いた図4と同様である。
【0067】
そして実施形態1と同様に、トンネル状空間12の開口12aから防蟻処理具30の第1,2パイプ31,46を挿入し(図4,8に示す矢印D)、入口直線空間12bを進み入れる(図8(b))。続いて空間12の曲部12cに至ったら、防蟻処理具30のワイヤ36を引っ張って(図6の矢印H)、可撓性ホース32の進行方向を曲げ(図6(b),(c)、図7(a),(b))、次いで第1パイプ31の先端開口から可撓性ホース32を延出し(図7(c))、奥空間12dに進み入れ(図8(b))、防蟻処理場所の端12eまで可撓性ホース32の先端32aを到達させる。
【0068】
次に可撓性ホース32の先端開口から防蟻剤を噴出しつつ、可撓性ホース32を徐々に手元側に引き抜き、トンネル状空間12の曲部12cに達したら、続いて同様に防蟻剤を噴出しつつ第1,2パイプ31,46と共に可撓性ホース32を徐々に手元側に引き抜く。この様にしてトンネル状空間12の奥空間12d、曲部12c及び入口直線空間12b全体に防蟻剤を付与する。
【0069】
次いで開口12aに再び上記断熱材製の蓋を装着する。こうして防蟻処理作業が完了する。
【0070】
本実施形態2おいても、防蟻処理作業にあたって作業者は防蟻処理箇所に対面して位置する必要がないので、床下空間(床下と防湿コンクリート15の間)が狭い場所に対しても防蟻処理を行うことができる。
【0071】
<その他の実施形態>
上記実施形態1,2では布基礎工法の断熱床下構造の場合について示したが、ベタ基礎工法の断熱床下構造においても同様に行うことができる。
【0072】
また上記実施形態1,2では、本発明の防蟻工法を建築物全体に対して行った場合を示したが、建築物の一部、例えば浴室や玄関といった床下空間の狭い場所のみに、本発明の防蟻工法を採用するようにしてしても良い。
【0073】
上記例では、防蟻処理具として、パイプ31,46が伸縮可能な構成のものを示したが、伸縮しない構成のものであっても良い。なおパイプ31の長さとしては、処理場所に応じたものを用いる良い。またワイヤ36を第2パイプ46に挿通した構成のものを示したが、ワイヤ36が露出したものであっても良い。或いは可撓性ホース32を通した第1パイプ31にワイヤ36も挿通するようにしても良い。
【0074】
上記例での防蟻処理具30では、第1パイプ先端の弾性チューブ37としてゴム製のものを示したが、これに限らず、例えばコイルバネであっても良い。なおコイルバネの場合はその中心空間に可撓性ホース32を挿通すると良い。
【0075】
以上、例を挙げて本発明をより具体的に説明したが、本発明はもとより上記例によって制限を受けるものではなく、前記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0076】
11 角
12 空間
12a 開口
12b 入口直線空間
12c 曲部
12d 奥空間
13 布基礎(基礎コンクリート立設部)
13a 内側面
14,16,44 断熱材
15 防湿コンクリート(基礎コンクリート横設部)
15a 上面
23 間仕切り部
23a 側面
30 防蟻処理具
31 パイプ
32 可撓性ホース
33 滑車
34 吊り下げ部
35 回転輪
36 ワイヤ
37 弾性チューブ
38 キャスター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の外周部分に沿って形成される基礎コンクリート立設部と、これに接続された基礎コンクリート横設部を備え、この横設部の上面における前記立設部付近と前記立設部の内側面とに断熱材を配設する基礎断熱構造についての防蟻工法において、
前記横設部の上面と前記立設部の内側面が接合する角部分に沿って、前記断熱材で囲まれたトンネル状の空間を形成し、
該トンネル状の空間における側方の開口から、長尺の防蟻処理具を挿入して該空間を防蟻剤で処理することを特徴とする防蟻工法。
【請求項2】
建築物の外周部分に沿って形成される基礎コンクリート立設部と、これに接続された基礎コンクリート横設部と、前記立設部で囲まれた建築物内側に該立設部に連接して立設された間仕切り部とを備え、前記横設部の上面における前記立設部付近と、前記立設部の内側面と、前記間仕切り部の側面における前記立設部付近とに、断熱材を配設する基礎断熱構造についての防蟻工法において、
前記横設部の上面と、前記立設部の内側面及びこれに連続する前記間仕切り部の側面とが接合する角部分に沿って、前記断熱材で囲まれたトンネル状の空間を形成し、
前記間仕切り部における前記トンネル状の空間の側方の開口から、長尺の防蟻処理具を挿入して該空間を防蟻剤で処理することを特徴とする防蟻工法。
【請求項3】
前記防蟻処理具は、パイプと、このパイプ内に挿通された可撓性ホースとを備えてなり、
前記トンネル状空間の側方の前記開口から前記パイプを挿入し、該トンネル状空間の直線部分を進み入れ、
続いて前記トンネル状空間の曲部において、該パイプの先端開口から前記可撓性ホースを延出して前記曲部より奥に該可撓性ホースを進み入れる請求項1または2に記載の防蟻工法。
【請求項4】
パイプと、
このパイプ内に挿通され、該パイプの先端開口から延出/収納可能な可撓性ホースと、
この可撓性ホースに連通する防蟻剤圧出器と
を備えたものであることを特徴とする防蟻処理具。
【請求項5】
回転輪と吊り下げ部の間をパイプ先端よりも狭くした滑車を、前記パイプの先端より先に設け、回転輪と吊り下げ部の間に前記可撓性ホースを挿通し、
吊り下げ部にワイヤの一方端を接続し、このワイヤの他方端を前記パイプの後端方向に引きのばしてなり、
該ワイヤを前記パイプ後端方向に引いたときに、吊り下げ部の延出側に可撓性ホースが曲がる請求項4に記載の防蟻処理具。
【請求項6】
前記パイプは、その先端に弾性チューブを備えたものである請求項5に記載の防蟻処理具。
【請求項7】
可撓性ホースの先端部におけるホースの曲がり方向にキャスターが設けられた請求項4〜6のいずれか1項に記載の防蟻処理具。

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−174575(P2010−174575A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20923(P2009−20923)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(390039295)株式会社コシイプレザービング (16)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)
【Fターム(参考)】