説明

防護キャップ

【課題】滑走路等での地盤改良や地盤調査に必要な削孔部を保護し、滑走路等の機能を維持でき、蓋の締め忘れ等のヒューマンエラーを防止する防護キャップ。
【解決手段】防護キャップ2は、張り出し部26を内壁に備える本体20と、本体上部の開口を塞ぐ蓋体40と、蓋体を取り外し可能に本体20に対し固定する締結具61とを有する。締結具61は、蓋体の上面側に引っ掛かる頭部63を備えたボルト65と、ボルト軸部64と螺合し、ボルト頭部63との間で蓋体40および張り出し部26を締結するロックバー71とを具備する。本体20の内壁および蓋体40の外周には、両者を螺合させるためのネジが切られている。従って、防護キャップ全体としての強度が向上し、鉛直方向・水平方向などの複合的な荷重を受けても、蓋体が本体から外れることがない。又ねじ込みが不十分であれば蓋体が凸状に突き出るので、蓋体の締め忘れや緩みを外見確認できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑走路や誘導路における地盤改良または地盤調査を目的として地盤に設けられた削孔部を保護するための防護キャップに関する。
【背景技術】
【0002】
地震で道路や鉄道が寸断された場合、空路が救命活動や緊急物資輸送の手段として期待されているが、全国の主要空港の多くは大地震で滑走路や誘導路が液状化する恐れがあり、緊急な液状化対策が望まれている。そこで近年、全国の主要空港では、滑走路や誘導路の直下の地盤に対し、CPG工法(コンパクショングラウチング工法)などの地盤改良工法を利用した液状化対策を実施することが検討され始めている。
【0003】
図8に、CPG工法の施工態様の一例を示す。CPG工法では、ボーリングマシンを用いて、ロッド状の注入管81を複数本継ぎ足しながら所定深度まで削孔し、削孔部内に該注入管を臨ませる。所定深度まで削孔したら、貫入状態の注入管81に注入管リフト装置85をセットするとともに、該注入管を流量圧力監視装置87、圧送ホース88を介して特殊注入ポンプ89に接続する。特殊注入プラント91で生成された改良材(特殊骨材・固化材・水で構成される流動性の極めて低いモルタル状の地盤改良材)は、特殊注入ポンプ89で強制圧送され、圧送ホース88、流量圧力監視装置87、注入管81を介して地盤中に圧入される。地盤中に圧入された改良材は、その低い流動性のため土中で迷走することなく所定の位置で固結する。したがって、上述した特殊注入ポンプによる改良材の圧送と、注入管のステップアップとを繰り返すことにより、図示するような改良材から成る球根状の固結体93が連続的に造成される。そして、この固結体93の体積増加により周辺地盤を圧縮し、密度を増大させることで液状化地盤を非液状化地盤へと改良することができる。
【0004】
このような液状化対策工事の実施にあたって、空港において液状化対策工の施工や地盤調査が許される時間は、航空機の運航時間外の深夜の3時間程度であり、このような限られた拘束時間内で、滑走路や誘導路直下の地盤に対して液状化対策や地盤調査を実施するには、数年オーダーの工期を要する。そのため、供用中の滑走路や誘導路でCPG工法等を施工するにあたっては、施工が完了するまでの間、空港の運航時間帯では削孔部(注入孔)を一時的に塞ぎ、運航時間外の施工時間帯だけ削孔部を開放して施工する必要がある。そこで特許文献1では、滑走路に設けた削孔部を一時的に塞いでおくための防護キャップが提案されている。特許文献1に開示された防護キャップは、路面に埋設される略筒状の埋設金物と、該埋設金物の上端側開口部に被せられる蓋体とから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3709420号公報(段落0042、図11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された防護キャップは、筒状の埋設金物の上開口部に単に蓋を被せる程度の構造であるため、高度の安全性が要求される空港での使用に耐え得るものではなかった。すなわち、重さ100tを超えるジェット旅客機等が高速で着陸・滑走する路面上には、極めて大きな加重、衝撃等が作用するため、単に蓋を被せただけでは、着陸時・滑走時の衝撃等で蓋が吹き飛ばされ機体に衝突する危険性がある。
【0007】
そこで、特許文献1に開示された防護キャップについて、蓋の周縁部をネジ留めすることも検討された。
しかしながら滑走路では、単に航空機の荷重が蓋に加わるだけでなく、接地時に鉛直方向の衝撃が加わり、また、ブレーキング等によって蓋に対し水平方向(進行方向、横方向、回転方向)の加重が加わり、さらに、摩擦熱で粘着質になったタイヤ表面が蓋を巻き上げるといった複合的な作用が働く。また、航空機のタイヤが蓋に密着すると、タイヤと蓋との間は一瞬で真空状態になるため、通過するときにタイヤが蓋を巻き上げるといった負圧作用も働く。
そのため、着陸時・滑走時の衝撃や複合的作用でネジが破断して蓋やネジが吹き飛ぶ危険性もあるため、単に蓋の周縁部をネジ留めしただけでは事故防止対策として十分なものではない。また、蓋の周縁部を複数のネジで留めた場合において、この内1つが外れると、衝撃で蓋が傾いてしまう可能性がある。この場合、後続の航空機が通過する際にタイヤがパンクする危険性もある。
したがって、そのような周縁部ネジ留め式の防護キャップは、より高度の安全性が要求される滑走路や高速脱出誘導路では使用できるものではない。
【0008】
また、実際の作業現場では、所定ピッチで路面に埋設される大量の防護キャップについて、1つ残らず確実に蓋を固定する必要がある。ところが、蓋の周縁部をネジ留めする手段では、ネジの締め忘れや緩みを外観だけで判断するのは難しく、その上、路上での作業時間が限られているため、蓋が完全に固定されているかどうかについての確認が困難である。したがって、ネジの締め忘れなどのヒューマンエラーが生じた場合には大事故につながる虞があるため、滑走路や誘導路で使われる防護キャップの設計にあたっては、強度のみならずヒューマンエラー防止対策を考慮する必要がある。
【0009】
よって、緊急な液状化対策の実施という観点から、供用中の滑走路や誘導路について地盤改良や地盤調査の強い要望があるものの、実際に防護キャップを供用中の滑走路や誘導路で使用できるようにするためには、防護キャップの安全性を大幅に向上させなければならないという課題があった。
【0010】
上述した従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、航空機の離着陸・滑走に伴う衝撃等を受けても、蓋体が外れることなく滑走路や誘導路の機能を確実に維持でき、その間、削孔部を保護することができ、必要なときに速やかに蓋体を取り外すことができ、しかも、締め忘れなどのヒューマンエラーを防止できる防護キャップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した本発明の目的は、滑走路や誘導路における地盤改良または地盤調査を目的として地盤に設けられた削孔部(注入孔等)を保護する防護キャップであって、
開口部が滑走路又は誘導路の路面に露出するように舗装版に埋設され、埋設状態で前記削孔部に連通可能であり、内方へ突き出た張り出し部を内壁側に備える筒状の本体と、
本体に取り付けた状態で路面の一部を構成し、前記本体の上部にある開口部を塞ぐための開閉式の蓋体と、
前記蓋体を取り外し可能に前記本体に対し固定するための締結具と、
を有しており、
蓋体を固定する前記締結具が、
前記蓋体の上面側と係合するボルト頭部と、
前記ボルト頭部と一体に形成され、前記蓋体を貫通し、前記本体の内側で張り出し部を超えて延出するボルト軸部と、
前記ボルト軸部と螺合し、前記ボルト頭部との間で前記蓋体および前記本体の張り出し部を締結するロック部材と、
を備える防護キャップによって達成される。
【0012】
上記防護キャップにおいて、本体の張り出し部には、所定の向きにある前記ロック部材の抜き差しを可能にする切欠が形成されている。この切欠を介して、ロック部材を本体の張り出し部に対して抜き差しすることが可能である。
【0013】
前記本体は、締め付けるとき・緩めるときにロック部材がボルトと共回りするのを防止するための共回り防止部材を有している。
【0014】
好ましくは、前記本体の内壁および前記蓋体の外周には、それぞれ、本体および蓋体を螺合させるためのネジが切られ、蓋体は、本体の開口部にねじ込むことによって、該本体の開口部を塞ぐように構成される。この場合、前記蓋体の外周のネジは、断面が台形型になるように形成されていることが好ましい。また、前記本体と螺合する蓋体は、開閉時に工具(レンチ)を差し込んで蓋体を回転させるための差込孔を少なくとも一組有することが好ましい。
【0015】
また、前記蓋体の表面には粗面加工を施してもよく、また、前記本体の上部周縁には面取り加工を施してもよい。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の本発明によれば、締結具によって、蓋体が本体に対し強固に固定され、両者が固く一体化するようになっている。したがって、防護キャップ全体としての強度が向上し、鉛直方向、水平方向などの複合的な荷重や負圧を受けた場合であっても、蓋体が本体から外れることがない。
しかも本発明では、締結具の「ボルト頭部」が蓋体の上面側と係合するようになっており、「ボルト軸部」が蓋体を貫通し、本体の内側で張り出し部を超えて延出するようになっており、「ロック部材」がボルト軸部と螺合し、ボルト頭部との間で蓋体および本体の張り出し部を締結するようになっている。このような締結構造によれば、蓋体の周縁部だけをネジ留めする場合に比して、より大サイズで高強度のボルトを用いることができるため、より強固に蓋体と本体とを一体化させることができる。
したがって、本発明の防護キャップは、着陸時・滑走時における鉛直方向、水平方向などの衝撃にも十分に耐えることができるため、単なる誘導路での使用は勿論のこと、より高度の安全性が要求される滑走路や高速脱出誘導路においても問題なく使用することができる。よって、供用中の滑走路・誘導路に削孔部を設けても、空港の運航時間帯では蓋を閉めて削孔部を保護し、滑走路・誘導路自体の性能を確実に維持することができ、また、運航時間外の間は蓋を開けて必要な地盤改良または地盤調査を行うことができる。
【0017】
請求項2記載の本発明によれば、本体の張り出し部に形成した切欠は、ロック部材が所定の向きにあるときに限り、張り出し部に対する該ロック部材の抜き差しを可能にする。したがって、切欠とロック部材の位置が合わない限り、ロック部材が本体内の張り出し部に引っ掛かる。よって、万が一にボルトが緩んだ場合であっても、ロック部材が本体に引っ掛かるため、蓋体が本体から離脱する事態を確実に防止できる。
【0018】
請求項3記載の本発明によれば、本体に設けた共回り防止部材により、ボルトの締結時にロック部材が共回りするのを防止できる。その結果、蓋体を被せた状態でボルト頭部を回すだけで簡単に蓋体をロックし又は解除することができる。
【0019】
請求項4記載の本発明によれば、本体の内壁および前記蓋体の外周のそれぞれに、本体および蓋体を螺合させるためのネジが切られており、蓋体は、本体の上部開口部からねじ込まれるようになっている。このようなねじ込み構造により、蓋体が締め込まれていない場合又は締め付けが不十分な場合には、路面(本体の上部)から蓋体だけが凸状に突き出ることとなるので、蓋体の締め忘れや緩みを一見しただけで確認できる。したがって、蓋体の締め忘れなどのヒューマンエラーを確実に防止できる。また、蓋体のねじ込み構造と前述の締結具を併用することにより、蓋体の離脱や緩みに対する二重の防止対策を講ずることができる。
また、前述した従来の周縁部ネジ留め式の防護キャップでは、いずれかのネジが外れると衝撃等で蓋が傾く虞があったが、本発明の防護キャップでは、本体だけでなく蓋体の傾きも確実に防止できる。したがって、蓋体のねじ込み構造と締結具を併用することで、強度を確保できるのは勿論のこと、蓋体の傾斜によるタイヤのパンクを防止することができる。
【0020】
請求項5記載の本発明によれば、蓋体の外周のネジが、断面が台形型になるように形成されている。これによりネジ山部の耐久性の向上が図れ、また、蓋体の取り付け時、取り外し時、その他の作業時におけるネジ部の破損、変形の可能性を低減させることができる。その結果、本体と螺合する蓋体の取り付け・取り外しの作業を常に円滑に行うことができる。
【0021】
請求項6記載の本発明によれば、蓋体の開閉用の工具(レンチ)を差し込むための差込孔を有している。これにより、本体と螺合する蓋体を簡単かつ確実に開閉させることができる。また予備の差込孔を設けておくことにより、航空機のタイヤかす等により差込孔が塞がった場合でも、蓋体を速やかに開閉することができる。
【0022】
請求項7記載の本発明によれば、路面の一部を構成する蓋体の表面には、粗面加工が施されているので、タイヤと蓋体表面間の摩擦力を向上させることができる。したがって、蓋体を金属材料で形成し、路面上に多数の蓋体が露出することとなっても、航空機の制動を阻害することがなく、オーバーランなどの事故を防止できる。特に雨天の際には、金属製の蓋体は路面に比して滑りやすくなるため、蓋体への粗面加工は、雨天時におけるオーバーランを防止するのに有効である。また金属製の蓋体は光を反射し易いため、その表面に粗面加工を施すことで、濡れた蓋体による太陽光やライトの反射を防止し、標識や灯火を見落とすことなく確実に確認できるようになる。
【0023】
請求項8記載の本発明によれば、本体の上部周縁に面取り加工が施されている。これにより、万が一に防護キャップが埋設状態で傾斜した場合であっても、滑走路や誘導路の路面上に本体のエッジが突出することを防止できる。その結果、タイヤのパンクなどの事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る防護キャップを示す断面図であり、図1(A)は締結具によるロック前の状態を示しており、図1(B)はロックさせた状態を示している。
【図2】締結具によりロックさせた状態で底面側から観た防護キャップを示している。
【図3】本発明の第1実施形態に係る防護キャップを示す平面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る防護キャップを示す底面図である。
【図5】図1(A)のC−C線に沿った断面図である。
【図6】図1(A)のD−D線に沿った断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る防護キャップを示す断面図であり、図7(A)は締結具によるロック前の状態を示しており、図7(B)はロックさせた状態を示している。
【図8】コンパクショングラウチング工法(CPG工法)の施工態様の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の防護キャップは、滑走路や誘導路における地盤改良または地盤調査を目的として地盤に設けられた削孔部(例えば注入孔等)を保護するとともに、孔をあけたままで滑走路・誘導路自体の性能を維持するために用いられる。地盤改良の具体例としては、例えば、CPG工や注入工などが挙げられる。
【0026】
(防護キャップの構成)
はじめに、図1〜図6に基づいて、第1実施形態に係る防護キャップの構成について説明する。
【0027】
防護キャップ1は、滑走路や誘導路の舗装版に埋設される筒状の本体21と、該本体の上部にある開口部を塞ぐ円形の蓋体41と、この蓋体を取り外し可能に本体21に対し固定する締結具61とを有している。締結具61は、頭部63と軸部64からなるボルト65と、ボルト軸部64と螺合するロックバー71(ロック部材)と、ボルト軸部64の下端に溶接されロックバー71の脱落を防止する脱落防止部材66とを有している。
【0028】
本体21は筒状に形成され、舗装版に埋設された状態で削孔部(注入孔等)に連通するようになっている。本体21の上端側には蓋体41が被せられる開口部を有し、下端側には地盤側を臨む開口部を有している。本体21の内壁側には、内方へ突き出た張り出し部25が形成されている。張り出し部25は、底部が開口した略すり鉢形状を有している。張り出し部25の内壁のテーパ部には、図1に示すように蓋体41が載置される。張り出し部25の底面に対しては、図1(B)に示すように、所定位置に回転したロックバー71の両端が引っ掛かるようになっている。
【0029】
張り出し部25の底部側の中央領域は、図5に示すように略円形に開口しており、この開口部を介してボルト軸部64を自在に抜き差しすることができる。ただし、張り出し部25の開口径Dは、ロックバー71の全長より小さいため、通常は、ロックバー71による張り出し部25の通過は妨げられる。そこで、張り出し部25には、所定の向きにあるロックバー71の抜き差しを可能にする切欠27が形成されている。
【0030】
なお本発明において、張り出し部25の形態は図示するすり鉢形状に限定されるものではなく、蓋体41を支えることができ、注入管81や調査用サンプラー等の試験器具の直径よりも大きな開口径Dを有し、かつ、所定の向きにあるロックバー71を抜き差し可能な切欠を有するものである限り、いかなる形態も採用可能である。
【0031】
張り出し部25の底面側には、本体内壁から突き出た4枚の共回り防止板31(共回り防止部材)が固設されている。この共回り防止板31は、ボルト65を締め付ける際および緩める際にロックバー71が共回りするのを防止する役割を担っている。さらに、張り出し部25の底面側には、図2に示すように突出部33が固設されている。同図に示すように、締結具61で本体21と蓋体41を固定している状態では、ロックバー71の両端部分(係合部75)が、共回り防止板31の基部と突出部33の間の凹所に収まるようになっている。
【0032】
蓋体41は、本体21の上部にある開口部を開閉可能に塞ぐとともに、路面の一部として機能する役割を担っている。この蓋体41は、本体21の上部にある開口部から嵌入され、張り出し部25のテーパ部の上に載置される。図1(A)に示すように蓋体41を本体21に嵌合させた状態では、蓋体の上面側は本体の上端と同じ高さ位置にあり、蓋体41と本体21上端との間に段差は生じない。蓋体41の中央には、ボルト頭部63の全体が収まる大きさの凹部43が形成されている。さらにこの凹部43の中央には、ボルト軸部64を自在に挿通可能な挿通孔45が形成されている。この挿通孔45は、図1に示すようにボルト頭部63によって完全に塞がれるようになっている。
【0033】
ボルト65を蓋体41の挿通孔45に差し込むと、ボルト頭部63は、凹部43に収まった状態で該凹部の底に引っ掛かり、蓋体41と係合する。ボルト軸部64は、ボルト頭部63と一体に形成されており、その外周面にはロックバー71のナット部分73と螺合するネジが切られている。図1(B)に示すように締結具61で蓋体41と本体21を固定している状態では、ボルト頭部63は、蓋体41の上面側に引っ掛かるようにして係合している。また、ボルト軸部64は、挿通孔45を介して蓋体41を貫通し、さらに張り出し部25を超えて本体21の内側で延出している。
【0034】
ロックバー71は、ボルト軸部64と螺合するナット部分73と、該ナット部分を基点として離反する方向に張り出した2片の係合部75とを有している。本体21に蓋体41を取り付ける際には、ロックバー71は、図1(A)に示すようにボルト軸部64と螺合した状態で、本体内の張り出し部25の底面より下方に配置される。
【0035】
ロックバー71の全長は、張り出し部25の開口径D(図5参照)よりも大きく設計されている。したがって、通常の状態では、ロックバー71の両端の係合部75が張り出し部25の底面に引っ掛かるため、ロックバー71が張り出し部25を超えて抜け出ることはない。ただし、ボルト軸部64に螺合したロックバー71が所定の向きにあるときに限り、切欠27を介して該ロックバーを抜き差しすることが可能である。「所定の向き」とは、平面視でロックバー71の両端が切欠27の領域内に収まる向きである。
【0036】
現場で蓋体41を使用するにあたっては、予め、蓋体41の挿通孔45にボルト65を通し、蓋体41の裏面側から抜け出たボルト軸部64にロックバー71を螺合させ、さらにボルト軸部下端に脱落防止部材66を溶接したものが1セットで用いられる。
【0037】
(防護キャップの取付け手順)
はじめに、滑走路又は誘導路の舗装版を削孔し、次いで、路面に本体上部の開口部が露出する状態で本体21を埋設する。このとき、本体21と路面との間に段差が生じないように本体を設置する。また、航空機の離着陸時の衝撃や負圧等を受けても動かないように、本体21と削孔部側面との間の隙間に樹脂を充填し、舗装版に対し本体21を確りと固定する。続いて、蓋体41と締結具61を1セットに組み立てたものを用意する。
【0038】
締結具61を備えた蓋体41の取付け作業では、はじめに、ロックバー71をボルト軸部64の下端側に位置決めする。次いで、本体21の切欠27に対しロックバー71の位置・向きを合わせ、切欠27を介して該ロックバーを張り出し部25の奥へ差し込む。続いて、本体上部の開口部から蓋体41を嵌入し、該開口部を閉塞する。この状態を図1(A)に示す。
【0039】
続いて、蓋体41の凹部43にボルト頭部63が収まった状態で、該ボルト頭部を回しボルト65を締め付ける。このとき、張り出し部25の底面側にあるロックバー71は僅かに共回りするが、間もなく共回り防止板31にぶつかって回転が妨げられる。そして、ボルト65の締め付けに伴い、共回りを妨げられた状態でロックバー71がボルト軸部64に沿って上昇する。やがて、ロックバー71の両端の係合部75が、共回り防止板31と突出部33の間の凹所に収まり(図2参照)、本体の張り出し部25に底面側から当接する。最後にボルト65を確りと強く締め付けることで、ボルト頭部63とロックバー71との間で蓋体41および本体の張り出し部25が強固に締結され、蓋体41が本体21に対し離脱不可能にロックされる。この状態を図1(B)に示す。
【0040】
なお、ボルト65の締め付け開始時にロックバー71は僅かに共回りし、切欠27の通過コースから外れるので、ボルト65を締め付けてもロックバー71が張り出し部25から抜け出ることはない。また、ボルト65で締め付けた状態において、ロックバー71の両端の係合部75は、図2に示すように共回り防止板31と突出部33の間の凹所に収まっており、ロックバー71は突出部33によって回転が妨げられる。したがって、ボルト65が多少緩んだ場合であっても、ロックバー71が切欠27を介して抜け出ることはない。
【0041】
(蓋体の取り外し手順)
本体21から蓋体41を取り外す際には、はじめにボルト頭部63を回してボルト65を緩める。そして、ボルト65の回転に伴って、張り出し部25の底面からロックバー71が離れ、続いて、共回り防止板31により共回りを妨げられた状態で該ロックバー71がボルト軸部64に沿って下降する。続けてボルト65を緩めると、ロックバー71が下端の脱落防止部材66にぶつかり、ボルト65の回転が止まる。
【0042】
次いで、張り出し部25の切欠27にロックバー71の両端を合わせ、蓋体41をボルト65とともに持ち上げて、切欠27を介してロックバー71を抜き出す。これにより蓋体41と締結具61を本体21から取り外すことができる。以後は、埋設状態の本体21の内側を介して削孔し、或いは既設の削孔部に通ずる埋設状態の本体21を介して必要な地盤改良工事又は地盤調査の続きを実施する。そして、運行時間が近づいてきたら、再び前述と同様の手順で本体21の開口部に蓋体41を被せて締結具61でロックする。
【0043】
(防護キャップの効果)
上述した本発明の防護キャップによれば、締結具61によって、蓋体41が本体21に対し強固に固定され、両者が固く一体化するようになっている。したがって、防護キャップ全体としての強度が向上し、鉛直方向、水平方向などの複合的な荷重や負圧を受けた場合であっても、蓋体41が本体21から外れることがない。
しかも本発明のような締結構造によれば、蓋体の周縁部だけをネジ留めする場合に比して、より大サイズで高強度のボルトを用いることができるため、より強固に蓋体41と本体21とを一体化させることができる。なお、従来技術として前述した周縁部ネジ留め式の防護キャップにおいて、ネジの代わりに大サイズのボルトを用いた場合、ボルト軸部を太くした分だけ張り出し部を広くとる必要があり、その分、張り出し部の開口径Dが小さくなる。このように小さな開口径Dでは、地盤改良や地盤調査に必要な注入管81等を本体内に通すことができないため、目的の地盤改良や地盤調査を達成することができない。これに対し本発明によれば、ボルト軸部64を太くしても開口径Dが小さくなることはなく(むしろ大きくなる)、地盤改良や地盤調査の実施に必要な注入管81等の挿通を何ら妨げることはないので、所期の目的を確実に達成することができる。
したがって、本発明の防護キャップは、着陸時・滑走時における鉛直方向、水平方向などの衝撃にも十分に耐えることができるため、単なる誘導路での使用は勿論のこと、より高度の安全性が要求される滑走路や高速脱出誘導路においても問題なく使用することができる。よって、供用中の滑走路・誘導路に削孔部を設けても、空港の運航時間帯では蓋を閉めて削孔部を保護し、滑走路・誘導路自体の性能を確実に維持することができ、また、運航時間外の間は蓋を開けて必要な地盤改良または地盤調査を行うことができる。
【0044】
また本発明によれば、本体の張り出し部25に形成した切欠27は、ロックバー71が所定の向きにあるときに限り、張り出し部25に対する該ロックバーの抜き差しを可能にする。したがって、切欠27とロックバー71の位置が合わない限り、該ロックバーが本体内の張り出し部25に引っ掛かる。よって、万が一にボルト65が緩んだ場合であっても、ロックバー71が本体に引っ掛かるため、蓋体41が本体21から離脱する事態を確実に防止できる。
【0045】
また本発明によれば、本体21に設けた共回り防止板31により、ボルト65の回転時にロックバー71が共回りするのを防止できる。その結果、蓋体41を被せた状態でボルト頭部63を回すだけで簡単に本体21と蓋体41を締結することができる。
【0046】
また本発明の防護キャップは金属材料から形成され、全体として相応の重量があるため、航空機のタイヤ通過時に作用する負圧に対して抵抗となる。したがって、前述のとおり蓋体が外れることがないのは勿論のこと、負圧や衝撃等によって防護キャップ全体が抜け出ることがない。
【0047】
また本発明の防護キャップでは、挿通孔45を除いて蓋体41に通水部(貫通した穴)が形成されていない。また蓋体41を本体21に取り付けた状態で、挿通孔45は、ボルト頭部63によって完全に塞がれるようになっている。したがって、雨水が蓋体を通って流入することがなく、周囲の舗装体を傷めることがないといった効果が奏される。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、図7に基づいて本発明の第2実施形態について説明する。
なお、前述した第1実施形態に係る防護キャップと同様の構成については、その説明を省略し、添付図面において同じ符号を用いる。
【0049】
第2実施形態に係る防護キャップ2では、本体20の内壁上端側および蓋体40の外周のそれぞれに、本体20および蓋体40を螺合させるためのネジが切られている。張り出し部26は略リング状に形成され、ロックバー71を抜き差しするための切欠27を有している。蓋体40の上面側には、開閉時に工具を差し込んで蓋体を回転させるための差込孔51が2つ以上形成されている。蓋体40を本体20に取り付ける際には、第1実施形態と同様に蓋体40と締結具61を1セットに組み立てたものが用いられる。
【0050】
締結具61を備えた蓋体40の取付け作業では、はじめに、ロックバー71をボルト軸部64の下端側に位置決めする。次いで、本体20の切欠27に対してロックバー71の位置・向きを合わせ、切欠27を介して該ロックバーを張り出し部26の奥へ差し込む。次いで、本体20の開口部の真上に蓋体40を載せた状態で、蓋体の差込孔51に開閉工具(レンチ)を差し込む。続いて、開閉工具を上から押さえながら回転させて、ネジ山の破損に注意しながら蓋体40を本体20の開口部にねじ込む。ねじ込みに伴って蓋体40が徐々に沈みこみ、本体上端と蓋体上面とが同じ高さ位置になり両者の段差がなくなったら、蓋体40のねじ込み作業が完了する。この状態を図7(A)に示す。
【0051】
続いて、蓋体40の凹部43にボルト頭部63が収まった状態で、該ボルト頭部を回しボルト65を締め付ける。このとき、張り出し部26の底面側にあるロックバー71は僅かに共回りするが、間もなく共回り防止板31にぶつかって回転が妨げられる。そして、ボルト65の締め付けに伴い、回転を妨げられた状態でロックバー71がボルト軸部64に沿って上昇する。やがて、ロックバー71の両端の係合部75が、共回り防止板31と突出部33の間の凹所に収まり(図2参照)、本体の張り出し部26に底面側から当接する。最後にボルト65を確りと強く締め付けることで、ボルト頭部63とロックバー71との間で蓋体40および本体の張り出し部26が強固に締結され、蓋体40が本体20に対し離脱不可能にロックされる。この状態を図7(B)に示す。
【0052】
なお、図7に示す実施形態では、蓋体40には差込孔51が一組しか設けられていないが、ずらした位置に予備の差込孔を増設してもよい。これにより、航空機のタイヤかす等により一部の差込孔が塞がった場合でも、蓋体を速やかに開閉することができる。
【0053】
上述した第2実施形態に係る防護キャップによれば、本体20の内壁および蓋体40の外周に、本体および蓋体を螺合させるためのネジが切られており、蓋体40は、本体20の上部の開口部からねじ込まれるようになっている。このようなねじ込み式の構成により、蓋体40が締め込まれていない場合又は締め付けが不十分な場合には、路面(本体20の上部)から蓋体40だけが凸状に突き出ることとなるので、蓋体の締め忘れや緩みを一見しただけで確認できる。したがって、蓋体の締め忘れなどのヒューマンエラーを確実に防止できる。また、蓋体のねじ込み構造と締結具61を併用することにより、蓋体の離脱や緩みに対する二重の防止対策を講ずることができる。
【0054】
また、従来の周縁部ネジ留め式の防護キャップでは、いずれかのネジが外れると衝撃等で蓋が傾く虞があったが、本発明の防護キャップでは、本体だけでなく蓋体の傾きも確実に防止できる。したがって、蓋体のねじ込み構造と締結具を併用することで、強度を確保できるのは勿論のこと、蓋体の傾斜によるタイヤのパンクを防止することができる。
【0055】
(変形例)
本発明の防護キャップは上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の改変が可能であり、例えば、以下のような変形例を採用することも可能である。
【0056】
例えば、蓋体の表面に粗面加工を施し、蓋体に滑走路の路面のような外観・質感を持たせるようにしてもよい。これにより、タイヤと蓋体表面間の摩擦力を向上させることができる。したがって、蓋体を金属材料で形成し、路面上に多数の蓋体が露出することとなっても、航空機の制動を阻害することがなく、オーバーランなどの事故を防止できる。特に雨天の際には、金属製の蓋体は路面に比して滑りやすくなるため、蓋体への粗面加工は、雨天時におけるオーバーランを防止するのに有効である。また金属製の蓋体は光を反射し易いため、その表面に粗面加工を施すことで、濡れた蓋体による太陽光やライトの反射を防止し、標識や灯火を見落とすことなく確実に確認できるようになる。
【0057】
また、本体の上部周縁に面取り加工を施してもよい。これにより、万が一に防護キャップが埋設状態で傾斜した場合であっても、滑走路や誘導路の路面上に本体のエッジが突出することを防止できる。その結果、タイヤのパンクなどの事故を防止することができる。
【0058】
また、上述した実施形態では、本体に対し直接蓋体を取り付けていたが、本体と蓋体との間にゴムなどの緩衝材を挟み込むようにしてもよい。これにより、航空機の離着陸時の衝撃や振動が緩衝材によって吸収されるので、蓋体から本体へ伝わる衝撃が緩和され破損等を防止できる。
【0059】
また、第2実施形態のように蓋体の外周にネジを形成する場合には、そのネジ断面が台形型になるように形成してもよい。これによりネジ山部の耐久性の向上が図れ、また、蓋体の取り付け時、取り外し時、その他の作業時におけるネジ部の破損、変形の可能性を低減させることができる。その結果、本体と螺合する蓋体の取り付け・取り外しの作業を常に円滑に行うことができる。
【符号の説明】
【0060】
1 防護キャップ(第1実施形態)
2 防護キャップ(第2実施形態)
20 本体
21 本体
25 張り出し部
26 張り出し部
27 切欠
31 共回り防止板(共回り防止部材)
33 突出部
40 蓋体
41 蓋体
43 凹部
45 挿通孔
51 差込孔
61 締結具
63 ボルト頭部
64 ボルト軸部
65 ボルト
66 脱落防止部材
71 ロックバー(ロック部材)
73 ナット部分
75 係合部
81 注入管
85 注入管リフト装置
87 流量圧力監視装置
88 圧送ホース
89 特殊注入ポンプ
91 特殊注入プラント
D 張り出し部の開口径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑走路や誘導路に設けられた削孔部を保護する防護キャップであって、
内方へ突き出た張り出し部を内壁側に備える筒状の本体と、
前記本体の上部にある開口部を塞ぐための蓋体と、
前記蓋体を取り外し可能に前記本体に対し固定するための締結具と、
を有しており、
蓋体を固定する前記締結具が、
前記蓋体と係合する頭部を備えたボルトと、
前記ボルトと螺合し、前記ボルト頭部との間で前記蓋体および前記本体の張り出し部を締結するロック部材と、
を備えることを特徴とする防護キャップ。
【請求項2】
前記本体の張り出し部に、所定の向きにある前記ロック部材の抜き差しを可能にする切欠が形成されていることを特徴とする請求項1記載の防護キャップ。
【請求項3】
前記本体は、前記ロック部材が前記ボルトと共回りするのを防止するための共回り防止部材を有していることを特徴とする請求項1記載の防護キャップ。
【請求項4】
前記本体の内壁および前記蓋体の外周のそれぞれに、本体および蓋体を螺合させるためのネジが切られていることを特徴とする請求項1記載の防護キャップ。
【請求項5】
前記蓋体の外周のネジが、断面が台形型になるように形成されていることを特徴とする請求項4記載の防護キャップ。
【請求項6】
前記本体と螺合する蓋体は、開閉時に工具を差し込んで蓋体を回転させるための差込孔を少なくとも一組有することを特徴とする請求項4記載の防護キャップ。
【請求項7】
前記蓋体の表面に粗面加工が施されていることを特徴とする請求項1記載の防護キャップ。
【請求項8】
前記本体の上部周縁に面取り加工が施されていることを特徴とする請求項1記載の防護キャップ。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−226186(P2011−226186A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98328(P2010−98328)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【特許番号】特許第4662192号(P4662192)
【特許公報発行日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(501027500)国土交通省関東地方整備局長 (15)
【出願人】(595138052)財団法人沿岸技術研究センター (6)
【出願人】(390001993)みらい建設工業株式会社 (26)
【出願人】(393003505)復建調査設計株式会社 (13)
【出願人】(593180099)株式会社ヴェインシステムズ (1)
【出願人】(000208651)第一機材株式会社 (18)
【出願人】(391019740)三信建設工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】