説明

防護具

【課題】 鋭利な刃物、特に刈払機等の回転刃物が誤まって人の手足に当ったような場合、衝撃力や切傷力に耐えて人の手足を安全に護ることができる、足カバーや腕カバーなどの防護具を提供することにある。
【解決手段】 少なくとも引張強度15cN/dtex以上、引張弾性率400cN/dtex以上の高強力及び高引張弾性繊維からなる織編物複数枚を積層し総目付で600g/m2以上の耐切創層と、その内層面に配置された1乃至複数枚の織編物からなる厚さが4mm以上のクッション層とを有し、その全面又は少なくとも表面を衣服仕様の織編物で被覆し、且つ、少なくともその端面近傍を防護具形状に応じて縫製してなることを特徴とする防護具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐切創性に優れた防護具に関するもので、詳しくは、刈払機等の回転刃物が人体特に人の手足に誤まって当った場合でも、人の手足を刃物による傷害から護ることのできる、足カバーや腕カバーなどの防護具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農業や林業従事者のように、草刈り用の刈払機等の鋭利な回転刃物を使用する職業に従事する人は、その作業中に誤って人体を損傷することのないように、人体に直接、あるいは、作業衣の上に足カバーや腕カバーなどの防護具を身に付けて身体を保護することがおこなわれている。このような防護具の材料としては、従来よりナイロンやポリエステルの織編物を数十枚積層したり、これらの織編物にポリ塩化ビニル等の合成樹脂をコーティングしたもの、あるいは、前記織編物とスチ−ルとの積層体を使用していたが、これらの材料は、重くて邪魔になり、作業性を悪くしたり、軽いものは、耐切創性の点で不充分なものであった。
【0003】
刈払機の危険性について示すと、刈払機は後端に小型エンジンを取付けた1.5〜2.0m級の杆体を有し、その先端に直径20〜30cmの回転刃物を備えている。回転刃物は通常鋼鉄製の丸鋸状の物であるが、高強度のナイロン剛毛とされることもある。通常は、杆体の後方を利腕で持ち、もう一方の手で先端を下げた状態で斜め下方とした杆体を持って、斜め下方の回転刃物を地面に沿わせて左右に移動させながら、足元前方の草を刈払いつつ前進する。刈払い時の刃物の左右移動は作業状況により異なるが、一往復に対して2〜3秒程度である。
【0004】
作業者は、足元前方の草を刈払いつつ前進するが、草丈が長く見通しが悪い場合には、つまずくこともある。この時誤まって回転刃物を左足に当ててしまう恐れがある。また、急に蜂が出て左手で追い払うようなことをすると、誤操作をしてしまうことがある。更には急斜面で足を滑らし、エンジン全回転で、足をすくってしまう恐れもある。このように突然の事象に応じて予期せぬことが起こり得る。
【0005】
回転刃物は草が良く切れるよう、研ぎすまされているので切断力が強い。エンジンを全回転にし、移動速度を早くすれば、直径5cm級の生木或いは潅木がスパリと切れる程の威力であり、これでは足が切断されてしまう恐れがある。実際に刈払機による重大事故も多発しており、年間に約10件の死亡事故が起っている。このような威力のある刈払機から、人体を護る防護具の開発が要望されている。
【0006】
特開平6-126877号には、引張強度1.5Gpa以上、弾性率30Gpa以上の高強度・高弾性繊維からなる編織物を芯層とし、その内外面に不織布の層を構成してなるクッション性積層体を主体とし、その外面には、少なくとも表面を構成する層が複数の畝状に形成された複数の前記高強度・高弾性繊維からなる編織物の補強層を配置し、かつ、その全面を編織物で被覆した耐切創性 にすぐれた防護具が、また、特開平6-128421号には、引張強度1.5Gpa以上、弾性率30Gpa以上の高強度・高弾性繊維からなる編織物を芯層とし、その内外面に不織布の層を構成してなるクッション性積層体を主体とし、その外面には、少なくとも複数の前記高強度・高弾性繊維からなる編織物の補強層を配置し、かつ、その全面を編織物で被覆した耐切創性 にすぐれた防護具が、それぞれ開示されている。
【0007】
しかしながら、前記両公報共、「複数の高強度・高弾性繊維からなる編織物の補強層を配置し」としか記載されておらず、例えばチェーンソーには効果があっても、刈払機の刃物に対しては未知数である。また、クッション性積層体として普通強力繊維の不織布のみが用いられているので、刈払機の衝撃力に耐えられず、人体に衝撃傷が発生する恐れがある。更に実施例によると、防護具の大きさは20×20cmなので、足のすねの一部しか被覆することができず危険である。その上、結束具として細い紐で防護具を人の腕や足に結束しているので、刈払機等の高速回転刃物が防護具に当たると結束用紐が切断し、防護具が腕や足から外れて腕や足を切断する危険がある。
【特許文献1】特開平6-126877号公報、第1頁
【特許文献2】特開平6-128421号公報、第1頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとするの課題は、鋭利な刃物、特に刈払機の高速回転刃物が人の手足に誤まって当った場合でも、衝撃力や切傷力に耐えて人の手足を安全に護ることができる、足カバーや腕カバーなどの防護具を実用可能な形で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の防護具は、少なくとも引張強度15cN/dtex以上、引張弾性率400cN/dtex以上の高強力及び高引張弾性繊維からなる織編物複数枚からなる総目付が600g/m2以上の耐切創層と、その内層面に配置された1乃至複数枚の布帛からなる厚さが4mm以上のクッション層とを有し、その全面を前記耐切創層と同質の編織物で被覆し、且つ、その端面近傍を防具形状に応じて縫製してなることを特徴とする防護具である。
【0010】
前記の如く本発明の防護具は、耐切創層とクッション層を積層したものであり、耐切創層に用いる繊維としては、引張強度15cN/dtex以上、引張弾性率400cN/dtex以上の高強力及び高引張弾性繊維であるので、耐切創性が良好であれば、如何なる繊維であっても使用可能であるが、特に、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維等が耐切創性が良好なので、前記繊維のうち少なくとも1つが好ましく使用される。
【0011】
前記の耐切創層に用いる織編物の繊維のデニールや織密度は特に限定されるものではない。重要なのは総目付であり、600g/m2以上、好ましくは750g/m2、より好ましくは900g/m2以上となるように複数枚積層して耐切創層とするのが良い。総目付が600g/m2未満になると、刈払機の高速回転刃物が作業者の手又は足に当った場合、前記刃物は耐切創層を貫通して、作業者の手又は足を切傷させる。これは、実際現場を模擬しての実験結果から得られた結論である。総目付が1,500〜2,000g/m2以上になると嵩ばり、重くなるので作業性が悪くなる。
【0012】
前記耐切創層には、鉄又はステンレス製の金網を混在させることが好ましい。前記高強力及び高引張弾性繊維編織物のみの耐切創層だと、チップソー等の厚い刃物に対しては充分な耐切創性を有しているが、笹刃等の薄刃に対しては耐切創性の点で充分とは言えず、前記耐切創層の目付を900g/m以上にする必要がある。前記高強力及び高引張弾性繊維は高価であり、前記金網を混在させることにより、笹刃等の薄刃に対しても耐切創性を有し、コスト面でも有利となる。金網としては、直径0.1〜0.3mm程度の針金製で、12〜25メッシュ程度のものを1〜3枚用いるのが良い。前記範囲よりも、針金の直径が小さくて金網のメッシュが多くなると、切断される可能性が大きくなって危険であり、逆に針金の直径が大きくて金網のメッシュが少なくなると、刃物が金網に食い込んで打痕傷が発生する可能性が生じ、また重くて柔軟性がなくなり、取り扱い性や手足への装着感が悪くなるので好ましくない。耐切創層が前記金網のみで構成されると、チップソー等の厚い刃物に対する耐切創性が不十分となるので、前記高強力及び高引張弾性繊維と前記金網を混在させるのが好ましい。
【0013】
本発明は、前記耐切創層の内面側に、1乃至複数枚の布帛からなる厚さが4mm以上、好ましくは5mm以上のクッション層を積層する。ここでクッション層の厚みは、マイクロメータで軽く押さえて測定した値である。クッション層の厚みが4mm 未満となると、刈払機の刃物が作業者の手又は足に当った場合、刈払機の刃物が耐切創層で食い止められても、その衝撃力で作業者の手又は足に打撲傷が発生する。チェンソーの場合は、このクッション層は少なくて良いか不安であるが、本発明の防護具は、両者に安全に適合できることを目的にするので、クッション層も必要事項である。
【0014】
前記クッション層に用いる布帛としては、編物、織物及び不織布のうち少なくとも一種類が用いられる。クッション性からいうと不織布が最も優れており、次いで編物、織物の順である。不織布は引き裂き強力が小さく、刃物の衝撃によって切断される可能性があるので、高強力繊維、特に前記の高強力及び高弾性繊維製の不織布にするか、又は及び、編物若しくは織物と併用するのが好ましい。織編物としては、天然繊維、半合成繊維や合成繊維から成る普通強力織編物、好ましくはこれらの繊維のソフトな織編物、又は、パイル織編物が好適に使用される。前記の不織布やパイル織編物を用いる場合は、1枚で4mm以上の厚みがあれば単独使用が可能であるが、その他の場合は複数枚重ねて使用するとクッション性が増すので好ましいと言える。
【0015】
本発明の防護具は、上記の耐切創層とクッション層を積層し、防護具形状に応じてその表面又は全面を衣服仕立ての織編物で被覆し、且つ、その端面近傍を縫製した物である。被覆する織編物としては、特に限定されるものではなく、前記耐切創層と同質のものが最良であるが、比較的強度が高い天然繊維や合成繊維を用いることができ、前記の端面近傍とは、端面から約5〜15mm内側のことを言う。端面から5mm未満になると、刈払機等の刃物が当った際に、耐切創層の複数枚の織編物の端部が解れてめくれることがあるので好ましくない。
【0016】
本発明の足のすねカバー、又は腕カバーとしての防護具は、少なくとも足のすね又は腕の前腕部の全周を筒状に被覆可能な布帛展開材と為し、且つ、足のすね又は前腕に巻回した両端部の1部を重ね合わせ、且つ軽く引き寄せた状態で結束する結束具を有する防護具である。結束具としては、止金具、締付けベルトとバックル等種々の任意の結束具が使用可能である。面ファスナーも、他の結束具と組み合わせて使用することができる。締付けベルトの材質としては、上記の高強力及び高引張弾性繊維を、また、止金具やバックル等は金属製、好ましくは鋼鉄製のものが用いられる。それ故、刈払機等の高速回転刃物が締付けベルト、止金具、バックル等に当っても簡単に切断・破壊されて、防護具が腕や足から外れることがない。また、そのように構成されねばならない。
【0017】
また、本発明の防護具は、上記縫製された防護具の両端部を重ねて足又は腕に装着することにより、その重ね部分に回転刃物が当った場合に重ね部分がめくれないよう、一端面を、他端面に重ねて装着した防護具である。具体的には、上記縫製された防護具で足のすね全周を被覆し、その両端部を重ねて装着した場合を考えると、回転刃物が左回りであるとすると(通常左回りである)、足中心から重ね部分を見て左側を外側に配置する。このように配置することにより、回転刃物が前記重ね部分に当った場合に重ね部分がめくれることが無く、万一回転刃物が結束具を直撃して破損させた場合でも、重ね部分がめくれることが無く、人体が傷つけられるのを防止できる。
【0018】
以上の説明では、本発明の防護具を足又は腕に装着した例について述べたが、本発明の防護具はこれに限定されるもではなく、足又は腕以外の場所、即ち、頭から首周り、肩、胴周り、腰周りに、鎧兜状に作成して装着すると、作業者が草刈中に転倒し、回転中の刈払機が両手から離れた場合でも、身体全体を護ることができる。ここで、身体全体の防護具として、上着とズボンにした場合は、防護具が分厚いので作業性が悪くなって好ましくなく、出来るだけ細分化した方が良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明の防護具は、以上説明した通りの防護具なので、下記のような効果がある。
【0020】
引張強度15cN/dtex以上、引張弾性率400cN/dtex以上の高強力及び高引張弾性繊維、好ましくはポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維のうち少なくとも1つからなる織編物複数枚を積層し総目付で500g/m2以上の耐切創層としているので、刈払機やチェーンソー等の回転中の刃物が作業員の足又は腕に誤って当った場合でも、刈払機やチェーンソー等の刃物が本発明の防護具の耐切創層で食い止められて、作業員の足又は腕までは到達しないので、足又は腕を切傷することがない。
【0021】
また、前記耐切創層には、鉄又はステンレス製の金網が混在されているので、笹刃等の薄刃に対しても優れた耐切創性を発揮し、コスト安となる。
【0022】
更に、耐切創層の内面側に1乃至複数枚の布帛からなる厚さが4mm以上のクッション層を積層しているので、刈払機の回転中の刃物が作業員の足又は腕に誤って当った場合の衝撃力も、上記クッション層で緩和されて衝撃傷を受けることもないので、作業者の手足を刈払機やチェーンソー等の刃物から護ることができる。
【0023】
また、足カバーやすねカバーとしての防護具は、足のすね又は前腕の全周を被覆可能な形状であって、且つ、足又は腕に装着する結束具が前記高強力・高引張弾性繊維及び金属(好ましくは鋼鉄製)からなる防護具であるので、刈払機等の高速回転刃物が結束具に当っても簡単に切断・破壊されて、防護具が腕や足から外れることが無い。
【0024】
更に又、防護具の両端部を重ねて装着し、その重ね部分に回転刃物が当った場合に重ね部分がめくれることがないよう刃物の回転方向を確認して、一端面を、他端面に重ねて装着した防護具なので、重ね部分がめくれることが無く、身体が直接刃物に触れることが無いので、確実に身体を保護できる。
【0025】
更に又、本発明の防護具を鎧兜状に身体全体に装着すると、作業者が草刈中に転倒した場合でも、身体全体を護ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。
【0027】
図1は防護部位を足のすねであるとして本発明の防護具(足カバー)1Aの一実施形態を示す平面図であり、図2は図1のF2- F2矢視断面図である。図1の形状のものを布帛展開材とも称す。図2に示すように、高強力及び高引張弾性繊維からなる織編物2-1,2-2,2-3を積層して耐切創層とする。前記高強力及び高引張弾性繊維としては、引張強度15cN/dtex以上、引張弾性率400cN/dtex以上の性能を有する繊維であれば、耐切創性も良好なので、如何なる繊維であっても使用可能であるが、特に、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維のうち少なくとも1つを用いると、耐切創性が優れているので好ましいと言える。これらの繊維は1種類だけ用いてもよいが、複数種類の繊維を混編織したものでもよく、また、種類の異なる単独繊維織編物の積層物でもよい。
【0028】
この高強力及び高引張弾性繊維のデニールや織密度は、特に限定されるものではないが、耐切創層の機能の点から、200〜3,000デニールのマルチフィラメントを、織密度20〜80本/25.4mm程度とするのが好ましい。これらの繊維のデニールや織密度よりも、織編物の総目付の方が重要である。図2では耐切創層の織編物2-1,2-2,2-3の枚数を3枚にしているが、枚数に関係なく、総目付が600g/m2以上、好ましくは750g/m2以上、より好ましくは900g/m2程度となるように前記織編物2-1,2-2,2-3の枚数を決めて積層し耐切創層とするのが良い。ただし、余りに枚数大とすると、重く、厚くなるので、作業性を確保するため、総目付1,500〜2,000g/m2以下とするのが好ましい。本実施形態では、総目付1,900g/m2であるとする。この例で製品としての重量は450〜500gである。
【0029】
前記耐切創層の内面側に、1乃至複数枚の普通強力織編物3-1〜3-4からなる厚さが4mm以上のクッション層を積層する。クッション層も織編物の枚数に関係なく、厚さが4mm以上となるように普通強力織編物3-1〜3-4の枚数を決めて積層しクッション層とする。クッション層の厚みが4mm 未満となると、刈払機の刃物が人の手又は足に当った場合、刈払機の刃物が耐切創層で食い止められても、その衝撃力で人の手又は足に打撲傷が発生する。ただし、厚さはあまり厚くすると作業性が悪くなるので8〜10mm以下とするのが好ましい。切創層とクッション層との間に、織編物や細い金網等で作った補強層を介在させることもできる。
【0030】
クッション層の1乃至複数枚の普通強力織編物3-1〜3-4としては、天然繊維、半合成繊維や合成繊維から成る織編物、好ましくは木綿、羊毛、レーヨン、アセテート、ポリアミド、ポリエステル、アクリルニトリル、ポリオレフィン等からなる繊維のソフトな織編物、またこれらの繊維のパイル織編物又はこれ等の織編物に不織布を、好ましくは高強力不織布を混在させるとクッション性が増して好ましい。パイル織編物としては、ループパイルでも良いし、カットパイルでも良いが、パイル密度はクッション性が高くなるような密度を選ぶと良い。
【0031】
図3は、クッション層の織編物としてパイル織物4を用いた防護具1Bの一実施形態を示す。図2に対応する断面図である。パイルには所要の長さを持たせることができるので1枚のパイル織物4でも良好なクッション性を有するが、複数枚重ねるのも有効である。
【0032】
本発明の防護具は高強力及び高引張弾性繊維からなる織編物2-1,2-2,2-3を総目付が600g/m2となるように枚数を決めて耐切創層として積層し、その内面側に普通強力の織編物3-1〜3-4を厚さが4mm以上となるように織編物の枚数を決めてクッション層として積層し、その全面を被覆用の織編物5で被覆し、且つ、その端面近傍を縫糸6で縫製する。被覆用の織編物5としては、特に限定されるものではないが、比較的強度が高い天然繊維や合成繊維、好ましくはポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル等の合成繊維織物が使用される。前記の端面近傍とは、端面から約5〜15mm中心側であって、縫糸6で縫製する。端面から5mm未満になると、刈払機等の刃物が当った際に、耐切創層の複数枚の織編物端部が解れてめくれることがあるので好ましくない。縫糸6の繊維も特に限定されないが、被覆用の編織物5と同じか又は異なるポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル等の合成繊維の太番手縫糸を用いるのが好ましい。
【0033】
図4は、図1に示す防護具1Aを用いて、安全靴7の上部の一部と重なり合うよう足のすね全周を被覆し、結束具として締付けベルト8-1,8-2と金属製の結束リング9-1〜9-4を用いて結束固定するようにしたものである。金属製の結束リング9-1〜9-4としては、鋼鉄製の太目のリングを用いるのが良い。
【0034】
図4に示す結束具において、重ね下部材Dの表面に締付けベルト8-1、8-2を設け、重ね上部材の表面に結束リングを設けているが、これは逆にすることも可能である。重なり量は1〜3cm程度で十分である。重ね部の仕上げ方にもよるが、重ね量が5cmを超えると無駄となるので、必要最小量に止める。重ね方は、平面図でみて左回転の回転刃を想定し、左位置の方を上側として上部材Uとしている。これにより、回転刃が触れたとき、めくれが生ずることがなく身体を完全に護ることができる。
【0035】
足用の防護具としては、図5に示す如く、安全靴の上部から膝上10〜30cmの範囲の足全周を、被覆可能な形状と大きさの防護具1Cとするのが良い。但し、膝の関節の内側屈曲部10は、曲がり易くするために、防護具の厚みを薄くするか又はその一部を切り取っておくと良い。この様にしても、この隙間部分に回転刃物が当たることは考えられないので、安全上殆ど問題ないと言える。
【0036】
図5の事例では、結束具としては締付けベルト11-1,11-2,11-3と金属製のバックル12-1,12-2,12-3を用いている。このように防護具1Cが関節の上部まで延長した場合の結束具は、少なくとも3箇所必要となる。
【0037】
図4,図5の締付けベルト8-1,8-2, 11-1,11-2,11-3は、上記の高強力及び高引張弾性繊維を用いて、幅の有るものを使用するのが良い。このようにすることにより、刈払機等の高速回転刃物が締付けベルトに当たった場合でも締付けベルトの長さ方向に切れ目が入るだけで、殆どの場合切断しないので防護具が足から外れてずれ、その隙間に刃物が当たって足を切傷するような恐れが無い。また、金属製の結束リング9-1〜9-4や金属製のバックル12-1,12-2,12-3も太目の鋼鉄製にしておくのが良く、刈払機等の刃物が1回当っただけでは破損して外れることが無い。
【0038】
結束具は、上述のように、回転刃物によって容易に破損しないようにしているが、刃の当たり具合いによっては破損することも考えられる。従って、回転刃物による破損を考慮して、結束具の配置を、足裏面(後方)としたり、それより少し内側当たりとするのが良い。
【0039】
図4,図5の事例では何れも防護具を足に被覆した場合について説明したが、腕カバーとして腕に被覆した場合でも同様なので図示しないが、腕を被覆する場合で肘上まで延長する際は手首から肘上約10cm程度にするのが良い。刈払作業者では、腕の保護はあまり必要ではないと考えるかもしれないが、作業者が草刈中に転倒し、回転中の刈払機が両手から離れた場合は危険なので、道路草刈りの作業等、作業の内容によっては必要である。また、刈払作業者がチェーンソーの場合は、作業者が転倒しなくても常時必要となる。
【0040】
[実験例1]
引張強度24.7cN/dtex、引張弾性率520cN/dtexのポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維20番手の紡績糸を経68本/2.54cm、緯61本/2.54cm の織密度で製織した目付150g/m2の織物Tを耐切創層用として準備した。また、100dtexのナイロン6マルチフィラメントをトリコット編した厚み0.46mmの編物Cをクッション層として準備した。
【0041】
次に、織物T と編物C の積層枚数を表1に示す枚数積層し、図1の如き形状に裁断して、市販のポリエステル織物(目付245g/m2)で被覆し、5番手のポリエステル紡績糸で端面から10mmの位置を縫製し、幅18mmの締付けベルトと鋼鉄製の締付けリングを取り付けてテスト試料P1、P2、P3(P1は実施例、P2、P3は比較例)として下記の刈払試験機を用いてテストした。実際のテスト回数は、多数であるが、3例のみ示す。
【0042】
図6は本発明の防護具の耐切創性を調べるために製作した試験機の斜視図である。刈払機13はコマツゼノア製BC3510であり、チップソー14はSRS-5(40枚刃、直径 255mm、刃厚1.25mm )である。図6に示すように、基台BS上に外径60mmのステンレスパイプ15を垂直に固定し、その外周にガムテープを巻いて外径を75mmに調整して、内径75mm、肉厚7.5mmの紙管16を挿入し、その周囲にテスト試料17を巻き付けている。
【0043】
前記パイプ15を支持する基台BS上で、一定距離離れた位置に支持台BXを設け、この支持台BX上に刈払機13を斜めに支持して実際の刈払状態を模擬する駆動杆POLを設けている。駆動杆POLは、支持台BX上で回転可能であり、その上端で前記刈払機を斜め支持し、刃を水平に移動させる支持部TOPを有し、その下方で、前記支持台BXとの間で前記駆動杆POLを一定速度で打出すシリンダー18-1,18-2を設けている。
【0044】
一方、前記パイプ15の表面で、前記紙管16が受けた圧力を検出可能の圧力センサPSが設けられている。従って、本試験機は、実際の刈払状況を模擬し、チップソー14をテスト試料17に対して駆動可能である。駆動速度は、シリンダー18-1,18-2の打出し速度で決定できる。
【0045】
設定条件としてチップソー14の回転数を5000rpm、防護具試料に対する静荷重を1.2kg、動荷重を4.05kgになるようにエアーシリンダー18-1,18-2の圧力を調整して、刈払機13のチップソー14をエアーシリンダー18-1,18-2に圧力を掛けてテスト試料に当てて、テスト試料の切創状況と紙管の衝撃痕を調べた。その結果を表1に示す。
【表1】

表1の実験結果等から、織物Tは3枚以下は絶対不可で、目付600g/m2以上、好ましくは750g/m2以上必要である。また、これに加えて織物Tは6枚では不十分で4mm以上が必要である。本件防護具のような安全具は、実験に実験を重ね、実際に安全が確かめられたものについてのみ実用化されねばならぬこと当然である。
【0046】
上記の結果から明らかなように、刈払機の高速回転中の刃物が本発明の防護具に当った場合でも、本発明の防護具の耐切創層で食い止められるので、作業員の足又は腕までは到達することがなく、足又は腕を切傷することがない。また、その衝撃力も上記クッション層で緩和されて衝撃傷を受けることもない。したがって、作業者の手足を刈払機の高速回転中の刃物から護ることができる。
【0047】
図7は、耐切創層に金網1Mを混在させ、且つ、クッション層に不織布3Fを混在させた、本発明の防護具1Cの一実施形態を示す、図2に相当する断面図である。
【0048】
前記図2や図3に示す防護具1A,2Aは、チップソー等の厚い刃物に対しては充分な耐切創性を有しているが、笹刃等の薄刃に対しては耐切創性の点で充分とは言えずクッション層まで切断される可能性を有している。
【0049】
笹刃等の薄刃に対しては、図7に示すように、耐切創層に金網1Mを混在させるのが良い。金網の材質としては、軟鉄、鋼鉄又はステンレスが用いられるが、特にステンレスは防錆性があって粘り強く、切断し難いので好ましい。金網としては、直径0.1〜0.3mm程度の針金製で、目開きが12〜25メッシュ程度のものを1〜3枚用いるのが良い。図7の実施態様では、金網1Mを耐切創層の編織物2-1と2-2の間に用いているが、金網1M を最外層又は耐切創層の織編物2-1、2-2とクッション層3-1〜3-3の中間に用いてもよい。また、前記トリコット編物も、被覆用の編織物5と耐切創層の織編物2-1の間や、金網1Mと耐切創層の織編物との間に介在させるのもよい。
【0050】
図7の実施形態では、クッション層としてトリコット編物3-1〜3-3と、厚めの不織布3Fとを混在させている。不織布は織編物よりもクッション性が良好であるが、引き裂き強力が小さいので、刃物の衝撃によって切断される可能性があり、高強力繊維、特に前記の高強力及び高弾性繊維製の不織布を用いるのが良い。更に、クッション層の編織物と混在させることにより、刃物の衝撃による切断の可能性をより小さくしている。前記不織布として厚みが2〜4mm程度のものを1枚用い、前記トリコット編物数枚と混在させて合計厚み4mm以上、好ましくは5mm以上の厚みにするのがよい。
【0051】
[実験例2]
実験例1で準備した耐切創層用織物Tとクッション用のトリコット編物C以外に、直径0.2mmのステンレス製針金を用いた18メッシュの市販の金網Mとポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維製の目付400g/m、厚み3mmの不織布Fを準備した。
【0052】
次に、編物C、金網M、織物T、不織布Fを表2に示す枚数積層し、実験例1と同様に裁断し、市販のポリエステル織物で被覆し、幅18mmの締付けベルトと鋼鉄製の締付けリングを取り付けてテスト試料P4、P5、P6(P4、P5は実施例、P6は比較例)として準備し、実験例1の試験機にチップソーの代わりに笹刃(40枚刃、直径 255mm、厚さ1.6mm)を取り付けた以外は、実験例1と同一要領でテストした。その結果を表2に示す。
【表2】

【0053】
表2の実験結果から、笹刃に対しては織物T5枚でも不可であり、目付900 g/m2以上必要であることが判る。一方、金網2枚を混在させると織物Tは3枚(目付450g/m2)でも充分耐切創性があることが判る。
【0054】
以上説明では、刈払機について述べたが、本発明の防護具は刈払機以外に、その形態を変えれば、チェーンソーやその他の電動刃物に対しても有効であることは言うまでもない。本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、この他適宜設計的変更を加えることにより、各種態様で実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の防護具の一実施形態を示す布帛展開図とした平面図である。
【図2】図1のF2- F2矢視断面図である。
【図3】クッション層の織編物としてパイル織物を用いた一実施形態を示す、図2に相当する断面図である。
【図4】本発明の防護具を用いて足のすね全体を被覆固定した側面図である。
【図5】本発明の他の防護具を用いて安全靴の上部から膝上10〜30cmの範囲の足全周を被覆固定した側面図である。
【図6】本発明の防護具の耐切創性を調べるために製作した刈払試験機の斜視図である。
【図7】耐切創層に金網を混在させ、且つ、クッション層に不織布を混在させた本発明の防護具の一実施形態を示す図2に相当する断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1A,1B,1C 防護具
2-1,2-2,2-3 高強力・高引張弾性繊維からなる織編物
3-1〜3-4 織編物
4 パイル織物
5 被覆編織物
6 縫糸
7 安全靴
8-1,8-2 締付けベルト
9-1〜9-4 結束リング
10 内側屈曲部
11-1,11-2,11-3 締付けベルト
12-1,12-2,12-3 金属製のバックル
13 刈払機
14 チップソー
15 ステンパイプ
16 紙管
17 テスト試料
18-1,18-2 エアーシリンダー
1M 金網
3F 不織布
BS 基台
BX 支持台
POL 駆動杆
TOP 支持部
PS 圧力センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも引張強度15cN/dtex以上、引張弾性率400cN/dtex以上の高強力及び高引張弾性繊維からなる織編物複数枚からなる総目付で600g/m2以上の耐切創層と、その内層面に配置された1乃至複数枚の布帛からなる厚さが4mm以上のクッション層とを有し、その全面又は少なくとも表面を衣服仕様の織編物で被覆し、且つ、少なくともその端面近傍を防護具形状に応じて縫製してなることを特徴とする防護具。
【請求項2】
前記高強力及び高引張弾性繊維がポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維のうち少なくとも1つからなることを特徴とする請求項1に記載の防護具。
【請求項3】
前記耐切創層には、鉄又はステンレス製の金網を混在させることを特徴とする請求項1に記載の防護具。
【請求項4】
足のすね又は前腕の全周を筒状に被覆可能な布帛展開材と為し、足のすね又は前腕に巻回して、その両端部の1部を重ね合わせ、且つ引き寄せた状態で結束する結束具を有することを特徴とする請求項1に記載の防護具。
【請求項5】
前記結束具が前記高引張弾性繊維と金属の組み合せ部材で構成されることを特徴とする請求項4に記載の防護具。
【請求項6】
前記重ね合わせ部分に回転刃物が当った場合に重ね部分がめくれない重ね方としたことを特徴とする請求項4に記載の防護具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−63506(P2006−63506A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213227(P2005−213227)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(501442253)株式会社ト−ヨ (4)
【Fターム(参考)】