説明

防護柵用支柱

【課題】補強板がなくとも補強板を接合した場合と同等又はそれ以上の最大耐荷重を支柱変位量が小さい変形初期段階で得ることができるとともに、変形終期段階における耐荷重について更なる向上を図ることができ、更には使用部材数を抑えることを可能とする防護柵用支柱を提供すること。
【解決手段】基礎に固定されるベースプレート11と、前記ベースプレート11から立設された管体21とを備え、前記管体21に負荷される衝撃荷重を当該管体21の塑性変形により吸収可能な防護柵用支柱1であって、前記管体21の前記衝撃荷重を受ける側に対して反対側の下端部21aに、その管軸方向に間隔を空けて形成された一組の切欠孔31を更に備える。前記一組の切欠孔31は、前記管体21の管周方向に間隔を空けて二組形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路用、橋梁用等の防護柵に用いられる防護柵用支柱に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、道路用、橋梁用等の防護柵に関しては、車両等の衝突時における衝撃荷重を吸収して事故の被害を可能な限り小さく抑えつつ、乗員等の安全性を確保できるような構造とすることが要求されており、防護柵に用いられる防護柵用支柱に関しても、そのような要求に適うような構造とすることが求められている。
【0003】
例えば、近年の防護柵用の角形支柱に求められる性能としては、後述のような荷重負荷試験を行なった場合に、その最大耐荷重が55kN〜60kNであることと、その変位量が300mmとなるまで破断せずに衝撃荷重を吸収できることとが要求されている。
【0004】
このような要求性能を満足するうえで、単に防護柵用支柱の肉厚、材料等を調整して剛性を高めるのみでは、防護柵用支柱を構成するベースプレートと管体との溶接接合部の早期の破断を招いてしまい、要求性能を満足することが困難なものとなっている。このため、要求性能を満足できるよう、防護柵用支柱の構造について種々に工夫したものが提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0005】
特許文献1には、図16に示すように、ベースプレート111の上面にビーム、パイプ、ワイヤーケーブル等の横架材と平行な板状のセンタースチフナー171が溶接により接合され、管体121の下端部121aに形成された切欠にそのセンタースチフナー171が嵌め込まれ、管体121の切欠とセンタースチフナー171が溶接により接合された防護柵用支柱101が記載されている。この防護柵用支柱101では、センタースチフナー171の板厚、高さ等の寸法や、センタースチフナー171と管体121の下端121dとの隙間を調整することにより、上述のような要求性能が得られる構造とされている。
【0006】
特許文献2には、図17に示すように、管体121の下端部121aに、管周方向に間隔を空けて管軸方向に長い一組の縦スリット173が形成された防護柵用支柱102が記載されている。この防護柵用支柱102では、変形初期段階から変形終期段階にかけて、一組の縦スリット173によって挟まれた管体121の背面121fが、管体121の内部に侵入するように管軸方向に圧縮されながら曲げられて塑性変形し、管体121の側面121cが、管体121の外部に突出するように管軸方向に圧縮されながら曲げられて塑性変形するように構成されている。これにより、この防護柵用支柱102では、溶接接合部122の破断を防止しつつ、衝撃荷重吸収性能を発揮することが可能となっており、一組の縦スリット173のスリット幅やスリット高さ等の寸法を調整することにより、上述のような要求性能が得られる構造とされている。
【0007】
また、特許文献2には、図18に示すように、管体121の下端部121aの内面で、縦スリット173に対向する位置に補強板175を接合する構造が記載されている。これにより、変形時における最大耐荷重を向上させつつ、破断の生じやすい溶接接合部122での破断を防止する効果を更に向上させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−117245号公報(請求項1等参照。)
【特許文献2】特開2008−202393号公報(請求項1、12等参照。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、図10には、特許文献1、2に記載の防護柵用支柱101、102に対して以下のような荷重負荷試験を行なった際の荷重−変位曲線が示されている。
【0010】
この荷重負荷試験では、管体121として、材質がSTK400であり、断面寸法が125mm×125mm×6mmであり、高さが840mmである角形断面の鋼管を用い、ベースプレート111として、材質がSS400であり、寸法が300mm×300mm×28mmの鋼板を用いた。比較例1は、特許文献1に記載の図16に示すような構造の防護柵用支柱101であり、センタースチフナー171として、材質がSS400であり、板厚×高さが22mm×150mmであり、管体121の下端121dとの隙間が5mmであるものを用いた。比較例2は、特許文献2に記載の図17、図18に示すような構造の防護柵用支柱102であり、縦スリット173のスリット幅×スリット高さが5mm×60mmであり、補強板175の幅×高さ×厚さが90mm×50mm×9mmであるものを用いた。
【0011】
この荷重負荷試験では、ベースプレート111の下面から760mm上側に位置する管体121の前面に変位計を設置して、管体121の下面から760mm上側の位置に対して静荷重を負荷し、その際の荷重(kN)に対する変位量(mm)を計測することにより、荷重−変位曲線を得ることとした。
【0012】
比較例1では最大耐荷重が59.78kNであり、比較例2では最大耐荷重が58.2kNの荷重−変位曲線が得られた。
【0013】
この図10のように、特許文献1に記載の防護柵用支柱101は、スチフナープレート171が降伏して変形した後、管体121の下端121dがベースプレート111と接触してから管体121が降伏した時点ではじめて最大耐荷重が得られる構造となっている。しかしながら、防護柵用支柱としては、防護柵に衝突する車両を防護柵に沿った安全な方向に早期に誘導できるような構造とすることが好ましく、そのために、支柱変位量が更に小さい変形初期段階で最大耐荷重を得られる構造とすることが望まれていた。
【0014】
また、特許文献1に記載の防護柵用支柱101は、管体121の他にセンタースチフナー171が別途必要となり、その分、製作のための溶接作業時間の増大、溶接による製作コストの増大、重量増大による施工性の悪化、材料コストが嵩む等の問題が生じていた。
【0015】
また、特許文献2に記載の防護柵用支柱102では、最大耐荷重の向上や溶接接合部122の破断の防止を図るうえで、補強板175を接合する構造とすることが可能であるが、補強板175を接合してしまうと、その分、重量増大による施工性の悪化や、材料コストが嵩む等の問題が生じていた。また、補強板175を管体121の内面に接合するうえでは、閉鎖断面での溶接作業が必要となり、通常の溶接と比較して作業が困難であるうえ、製作のための作業時間の増大や、溶接による製作コストの増大を招いてしまう。また、補強板175を溶接するうえで、補強板175の上部を溶接することは特に困難であり、補強板175の上部の溶接は省略せざるを得ないものと考えられる。この場合、防護柵用支柱102に亜鉛めっき処理を行なう場合にその前処理として行う酸洗処理で、補強板175と管体121との間に酸洗液が侵入してしまい腐食の原因となってしまう。これらの点から、補強板175を接合することなく、補強板175を接合した場合と同等又はそれ以上の変形特性が得られるような構造の防護柵用支柱の提案が望まれていた。
【0016】
また、特許文献2に記載の防護柵用支柱102では、図17(b)に示すように、管体121の背面121fや側面121cが管軸方向に圧縮されながら曲げられて塑性変形する際に、管体121の背面121fと側面121cとがそれぞれ独立して変形してしまう結果、変形終期段階における耐荷重が比較的低くなってしまっていた。防護柵用支柱としては、上述のような各要求性能を満足しつつ、変形終期段階における耐荷重について図10に示す方向Wに更に向上させることが好ましく、そのような防護柵用支柱の提案が望まれていた。
【0017】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、補強板がなくとも補強板を接合した場合と同等又はそれ以上の最大耐荷重を支柱変位量が小さい変形初期段階で得ることができるとともに、変形終期段階における耐荷重について更なる向上を図ることができ、更には使用部材数を抑えることを可能とする防護柵用支柱を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記の防護柵用支柱を発明した。
【0019】
第1発明に係る防護柵用支柱は、基礎に固定されるベースプレートと、前記ベースプレートから立設された管体とを備え、前記管体に負荷される衝撃荷重を当該管体の塑性変形により吸収可能な防護柵用支柱であって、前記管体の前記衝撃荷重を受ける側に対して反対側の下端部に、その管軸方向に間隔を空けて形成された一組の切欠孔を備え、前記一組の切欠孔は、前記管体の管周方向に間隔を空けて二組形成されていることを特徴とする。
【0020】
第2発明に係る防護柵用支柱は、第1発明において、前記一組の切欠孔は、前記管体の最下端側に位置するものが前記ベースプレートに対して上側に間隔を空けて形成されていることを特徴とする。
【0021】
第3発明に係る防護柵用支柱は、第1発明又は第2発明において、前記管体は、角形断面に形成され、前記一組の切欠孔は、前記管体の隅角部に形成されていることを特徴とする。
【0022】
第4発明に係る防護柵用支柱は、第1発明〜第3発明の何れか一つの発明において、前記一組の切欠孔は、前記管体を貫通する貫通孔であることを特徴とする。
【0023】
第5発明に係る防護柵用支柱は、第1発明〜第3発明の何れか一つの発明において、前記一組の切欠孔は、前記管体の外面と内面とのうち何れか一方又は両方に形成された底面を有する窪みであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
第1発明〜第5発明によれば、支柱変位量が比較的小さい変形初期段階においても所定の最大耐荷重を容易に得ることが可能となる。また、二組の切欠孔が設けられているので、変形初期段階における最大耐荷重を調節することが可能となり、補強板がない場合でも、補強板を接合した場合と同等又はそれ以上の最大耐荷重を得ることが可能となる。また、一組の切欠孔間に残存部が設けられているので、変形終期段階における耐荷重について従来の防護柵用支柱102よりも更なる向上を図ることが可能となる。また、これらの効果を特別な部材を使用することなく発揮することが可能となっており、使用部材数を抑えることができ、その結果、重量軽減による施工性の向上や、材料コストの低減とともに、従来のような補強板を接合した場合に発生する特有の問題の解消を図ることが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は第1実施形態に係る防護柵用支柱が用いられる防護柵の一例を示す平面図であり、(b)はその正面図である。
【図2】第1実施形態に係る防護柵用支柱が用いられる防護柵の一例を示す側面断面図である。
【図3】第1実施形態に係る防護柵用支柱の構成を示す斜視図である。
【図4】(a)は第1実施形態に係る防護柵用支柱をその前面側からみた正面図であり、(b)はその平面図であり、(c)はその側面図であり、(d)はその背面図であり、(e)は(b)のA矢視図である。
【図5】(a)は第1実施形態に係る防護柵用支柱の平面断面図であり、(b)は図4(d)の部分切欠拡大図である。
【図6】変形初期段階において管体の下端部に負荷される応力分布を模式的に示した図である。
【図7】変形初期段階以降において管体の下端部の変形状態をその応力分布とともに模式的に示した図である。
【図8】図7よりも更に変形が進んだ変形終期段階での変形状態をその応力分布とともに模式的に示した図である。
【図9】変形途中での管体の下端部の変形状態を異なる角度からみた図である。
【図10】発明例、比較例1、比較例2の構造の防護柵用支柱に対して荷重負荷試験を行なった際の荷重−変位曲線を示す図である。
【図11】(a)は第2実施形態に係る防護柵用支柱の構造を図3(b)のA矢視と同じ方向から見た図であり、(b)は第3実施形態に係る防護柵用支柱の構造を図3(b)のA矢視と同じ方向から見た図である。
【図12】(a)は第4実施形態に係る防護柵用支柱の構造を示す拡大斜視図であり、(b)は第5実施形態に係る防護柵用支柱の構造を示す拡大斜視図である。
【図13】(a)は第6実施形態に係る防護柵用支柱の構造を図3(b)のA矢視と同じ方向から見た図であり、(b)は(a)のB−B線断面図であり、(c)は第7実施形態に係る防護柵用支柱1の構造を図3(b)のA矢視と同じ方向から見た図であり、(d)は(c)のC−C線断面図である。
【図14】第8実施形態に係る防護柵用支柱の構造を示す斜視図である。
【図15】(a)は第8実施形態に係る防護柵用支柱をその前面側からみた正面図であり、(b)はその平面図であり、(c)はその側面図であり、(d)はその背面図である。
【図16】特許文献1に記載の防護柵用支柱の構造を示す斜視図である。
【図17】(a)は特許文献2に記載の防護柵用支柱の構造を示す斜視図であり、(b)はその変形状態を示す斜視図である。
【図18】(a)は特許文献2に記載の防護柵用支柱に対して補強板を接合した状態を示す側面断面図であり、(b)はその平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を適用した防護柵用支柱を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
まず、第1実施形態に係る防護柵用支柱1の構造について説明する。
【0028】
図1(a)は、第1実施形態に係る防護柵用支柱1が用いられる防護柵3の一例を示す平面図であり、図1(b)はその正面図であり、図2はその側面断面図である。
【0029】
防護柵3は、コンクリート等からなる基礎7に対して間隔を空けて立設された複数の防護柵用支柱1と、複数の防護柵用支柱1に対して架設された横架材5とを備えている。防護柵3は、例えば、道路、橋梁等に対して設置されるものである。防護柵3は、道路に対して設置される場合には、路側や中央分離帯等に沿って設置され、橋梁に対して設置される場合には、主桁の橋軸直交方向の側端部に沿って設置される。以下においては、防護柵3が路側に沿って設置される場合を例に説明するものとし、防護柵用支柱1の車道側が前面側、車道とは反対側が背面側であるものとして説明する。
【0030】
横架材5は、第1実施形態において、ガードレールのビームから構成されるものを例としているが、この他に、ガードパイプのパイプ、ガードケーブルのワイヤーロープ等から構成される。横架材5は、車両等との衝突による衝突荷重を防護柵用支柱1まで伝達するため、管体21の前面側に取り付けられる。
【0031】
図3は、第1実施形態に係る防護柵用支柱1の構成を示す斜視図である。また、図4(a)は第1実施形態に係る防護柵用支柱1をその前面側からみた正面図であり、図4(b)はその平面図であり、図4(c)はその側面図であり、図4(d)はその背面図であり、図4(e)は図4(b)のA矢視図である。また、図5(a)は第1実施形態に係る防護柵用支柱1の平面断面図であり、図5(b)は図4(d)の部分切欠拡大図である。
【0032】
防護柵用支柱1は、基礎7に固定されるベースプレート11と、ベースプレート11から立設された管体21とを備えている。この防護柵用支柱1は、車両等と横架材5や管体21との衝突によりその管体21に負荷される衝撃荷重を、その管体21の塑性変形により吸収可能なものとして機能するものである。防護柵用支柱1のベースプレート11や管体21は、例えば、鋼のような鉄系金属、アルミ等の非鉄系金属から構成される。
【0033】
ベースプレート11は、その中央部に形成された管体21が挿入される支柱用孔13と、その四隅角部に形成され、このベースプレート11を基礎7に固定するためのアンカーボルト61等が挿入される固定用ボルト孔17とを有している。
【0034】
ベースプレート11は、第1実施形態において平面視で矩形状を呈するように形成されているが、その形状はこれに限定されるものではなく、平面視で円形状、多角形状等を呈するように形成されていてもよい。
【0035】
管体21は、第1実施形態において角形断面に形成されている。管体21は、その下端部21aがベースプレート11の支柱用孔13内に挿入されたうえで、その側面21cとベースプレート11の上面11aとを溶接し、更にその下端21dとベースプレート11の支柱用孔13とを溶接することによって、ベースプレート11に対して固定されている。
【0036】
管体21は、その上端部21bにおいてブラケット用ボルト孔23が形成されている。管体21の上端部21bに対しては、ブラケット用ボルト孔23に挿通されるボルト63によりブラケット65が取り付けられ、このブラケット65を介して横架材5がボルト63等により取り付けられる。なお、横架材5を管体21に対して取り付けるための構造は、公知の構造であれば特に限定するものではない。
【0037】
ここで、本発明に係る防護柵用支柱1の管体21は、その背面側の下端部21aにおいて、その管軸方向に間隔を空けて二つ形成された一組の切欠孔31を更に備えている。この一組の切欠孔31は、管体21の管周方向に間隔を空けて二組形成されている。第1実施形態においては、一つの管体21につき合計四個の切欠孔31が形成されていることになる。一組の切欠孔31を構成する各切欠孔31間には、管体21が残存した残存部33が設けられることになる。なお、一組の切欠孔31は、管体21の管軸方向に間隔を空けて三つ以上形成されていてもよい。
【0038】
二組の切欠孔31は、その形成される位置が、車両等と横架材5や管体21との衝突によりその管体21に負荷される衝撃荷重を受ける側と反対側の位置となるように形成されている。第1実施形態においては、衝撃荷重を受ける側が管体21の前面側となっているので、二組の切欠孔31は、その管体21の前面側と反対側の背面側に形成されている。更に詳細には、第1実施形態において、二組の切欠孔31は、角形断面に形成された管体21の隅角部21eに形成されている。
【0039】
二組の切欠孔31は、各組を構成する切欠孔31のうち管周方向に隣り合うもの同士がベースプレート11に対して略同一高さに位置するよう形成されている。また、二組の切欠孔31は、第1実施形態において、管体21の最下端側に位置するものがベースプレート11の上面11aに対して上側に若干の間隔を空けて形成されている。これにより、管体21とベースプレート11との溶接接合部22で管体21にその管周方向に断面欠損がなくなることになる。なお、二組の切欠孔31は、管体21の最下端側に位置するものが、ベースプレート11の上面11aと同一平面上に位置するように形成されていてもよい。
【0040】
二組の切欠孔31は、第1実施形態において、円形状に形成されている。二組の切欠孔31は、本発明の目的とする効果の得られる範囲であればその形状について特に限定するものではなく、後述の実施形態のように、矩形状、多角形状の他、楕円状、不定形状等に形成されていてもよい。また、二組の切欠孔31は、第1実施形態において、管体21を貫通する貫通孔として構成されているが、後述の実施形態のように、管体21の外面と内面とのうち何れか一方又は両方に形成された底面を有する溝として構成されていてもよい。
【0041】
なお、第1実施形態に係る防護柵用支柱1においては、管体21の下端部21aの内面に補強板が接合されていない。
【0042】
次に、本発明に係る防護柵用支柱1の作用効果について説明する。
【0043】
防護柵3の横架材5や防護柵用支柱1に対して車両等が衝突して、防護柵用支柱1の管体21に対して、図4(b)に示すような、管体21の前面側から背面側に向かう方向P1に衝突荷重が負荷された場合について考える。
【0044】
図6は、変形初期段階において管体21の下端部21aに負荷される応力分布を模式的に示した図である。
【0045】
この場合、管体21の下端部21aで塑性変形が始まるまでの変形初期段階においては、管体21の下端部21aの背面側では管軸方向の圧縮応力P1が負荷され、その前面側においては管軸方向の引張応力が負荷される。このとき、管体21の切欠孔31は、図6に示すように、これに負荷される管軸方向の圧縮応力により、その管周方向両側の側縁31aが互いに離れて広がるように変形しようとして、その切欠孔31の管周方向の両側に管周方向の引張応力P2が負荷されることになる。
【0046】
ここで、図6に示すような管体21の二組の切欠孔31により囲まれた部位S1に対して負荷される応力について考える。この部位S1に対しては、まず、上述のような管周方向の引張応力P2が負荷される。また、この部位S1に対しては、管周方向に亘ってほぼ均一な管軸方向の圧縮応力P1が負荷されることになる。また、この部位S1に対しては、管体21の内側に凹むように変形させる曲げ応力が負荷されることになる。これら管軸方向の圧縮応力P1、管周方向の引張応力P2、曲げ応力がある程度超えた時点で、この部位S1が内側に凹むように座屈する塑性変形が始まることになる。
【0047】
因みに、図6に示すような管体21の二組の切欠孔31により囲まれた部位S1に対して管周方向の両側に位置する部位S2に対しても、切欠孔31により管周方向の引張応力P2が負荷されることになる。また、この部位S2に対しては、部位S1から管周方向に遠くなるにつれて小さくなるような管軸方向の圧縮応力P1が負荷されることになる。
【0048】
ここで、本発明においては、一組の切欠孔31を構成する各切欠孔31間に残存部33が設けられている。このため、上述のような管体21の二組の切欠孔31により囲まれた部位S1や部位S2に対して負荷される管周方向の引張応力P2に対して、この残存部33により抵抗することが可能となる。これにより、一組の切欠孔31の管軸方向の合計長さと同じ程度のスリット高さの図17に示すような縦スリット173を設けた場合と比較して、管周方向の引張応力P2に対する座屈強度の向上が図られて、変形初期段階における最大耐荷重を向上させることが可能となる。
【0049】
図7は、変形初期段階以降において管体21の下端部21aの変形状態をその応力分布とともに模式的に示した図であり、図8は図7よりも更に変形が進んだ変形終期段階での変形状態をその応力分布とともに模式的に示した図である。
【0050】
変形初期段階以降においては、図7に示すように、管体21の各部位S1、S2に対して引き続き管軸方向の圧縮応力P1、管周方向の引張応力P2、曲げ応力が負荷される。この結果、図7、図8に示すように、二組の切欠孔31により囲まれた部位S1は内側に凹むように、この部位S1に対して管周方向の両側に位置する部位S2は外側に凸となるような塑性変形が進行することになる。
【0051】
ここで、本発明においては、一組の切欠孔31を構成する各切欠孔31間に残存部33が設けられている。この残存部33は、管体21の内側に凹むように変形する部位S1と、管体21の外側に凸となるように変形する部位S2とをつなげるように設けられている。このため、この残存部33に対しては、管体21の内側に凹むように変形させる方向の荷重と、管体21の外側に凸となるように変形させる方向の荷重とが負荷され、その結果、部位S1や部位S2の変形量に対して残存部33の変形量が小さくなることになる。これは、二組の切欠孔31により囲まれた部位S1の内側に凹むような変形と、その部位S1に対して管周方向両側に位置する部位S2の外側に凸となるような変形とに対して、残存部33が抵抗することを意味しており、その結果、塑性変形が始まった以降の変形終期段階での耐荷重が向上することになる。
【0052】
因みに、第1実施形態においては、図9に示すように、二組の切欠孔31により囲まれた部位S1に対して管軸方向の両側に位置する部位S3、S4が、管周方向に断面欠損がないものとされていたりベースプレート11に対して溶接により拘束されている。このため、部位S1より変形量が小さくなる結果、二組の切欠孔31により囲まれた部位S1は、他の部位S3、S4より大きく内側に凹むように塑性変形することになる。これは、管体21に対して衝撃荷重が負荷された場合に、二組の切欠孔31により囲まれた部位S1に対して最も大きく圧縮応力が負荷されて、その部位S1を起点として曲げ変形が発生することを意味している。このとき、管体21の前面側に負荷される管軸方向の引張応力は、この二組の切欠孔31により囲まれた部位S1に対して最も近接した部位S5で最も大きく負荷されることになる。この結果、管体21とベースプレート11との溶接接合部22より上側で塑性変形し、溶接接合部22より上側で応力を吸収させることが可能となり、溶接接合部22での破断を防止することが可能となる。
【0053】
図10には、図3に示すような構造の防護柵用支柱1に対して上述したような荷重負荷試験を行なった際の荷重−変位曲線が示されている。管体21としては、上述したような比較例1、2と同じ条件のものを用いた。管体21に対しては、図3に示すように、直径30mmの二組の円形状の貫通孔としての切欠孔31が形成されており、下側の切欠孔31は、その中心位置がベースプレート11の上面11aから25mm間隔が空けられており、上側の切欠孔31は、その中心位置が下側の切欠孔31の中心位置から40mm間隔が空けられている。管体21の下端部21aの内面に対しては、補強板175が接合されていない。この荷重負荷試験での試験条件は、上述の通りである。
【0054】
この結果、発明例では図示のような最大耐荷重が58.51kNの荷重−変位曲線が得られた。比較例2では上述のように最大耐荷重が58.2kNである。このように、発明例では、比較例2のように補強板175を用いずに、かつ、一組の切欠孔31の管軸方向の合計長さが比較例2のスリット高さと同程度のものを用いているにも拘わらず、比較例2と同等程度の最大耐荷重を得られている。
【0055】
また、発明例では、比較例2のように補強板175を用いずに、かつ、一組の切欠孔31の管軸方向の合計長さが比較例2のスリット高さと同程度のものを用いているにも拘わらず、比較例2より優れた変形終期段階における耐荷重が得られている。
【0056】
このように、本発明によれば、支柱変位量が比較的小さい変形初期段階においても所定の最大耐荷重を容易に得ることが可能となる。また、本発明によれば、二組の切欠孔31が設けられているので、後述のようにして変形初期段階における最大耐荷重を調節することが可能となり、補強板175がない場合でも、補強板175を接合した場合と同等又はそれ以上の最大耐荷重を得ることが可能となる。また、本発明によれば、一組の切欠孔31間に残存部33が設けられているので、変形終期段階における耐荷重について従来の防護柵用支柱102よりも更なる向上を図ることが可能となる。また、本発明によれば、これらの効果を特別な部材を使用することなく発揮することが可能となっており、使用部材数を抑えることができ、その結果、重量軽減による施工性の向上や、材料コストの低減とともに、従来のような補強板175を接合した場合に発生する特有の問題の解消を図ることが可能となっている。
【0057】
ここで、上述したように、防護柵用支柱1としては、上述のような荷重負荷試験を行なった場合に、その最大耐荷重が55kN〜60kNと所定の最大耐荷重とできることや、300mmの変位量のように所定の変位量となるまで破断しないこととが求められている。このような要求性能を満足するうえでは、例えば、下記のような切欠孔31の寸法、位置に対する特性を考慮のうえ、切欠孔31についての寸法、位置の調整を行なうようにすればよい。
【0058】
例えば、図5に示すような、一組の切欠孔31の管軸方向間隔L1が小さすぎる場合、一組の切欠孔31間の残存部33の断面積が小さくなり、残存部33に負荷される応力により残存部33の破断を招き、その結果、変形終期段階にかけての耐荷重が低減してしまう恐れがある。また、この管軸方向間隔L1が大きすぎる場合は、管体21の曲げによる鉛直面に対する傾斜角度が大きくなりすぎ、管体21の大変形時に防護柵3の柵高さの低下を招き、その結果、大型車等の乗り上げや車両の突破等の防護柵性能の低下を招く恐れがある。
【0059】
また、ベースプレート11の上面11aから下側の切欠孔31までの管軸方向間隔L2が大きすぎる場合も、管体21の曲げによる鉛直面に対する傾斜角度が大きくなりすぎ、大型車等の乗り上げや車両の突破等の防護柵性能の低下を招く恐れがある。また、管体21に負荷される衝撃荷重に対しては、二組の切欠孔31によって囲まれた部位S1が変形しながら抵抗することになるが、その部位S1の変形時の曲げモーメントについて考えると、その抵抗の程度は、その部位S1のベースプレート11からの距離、即ち、管軸方向間隔L2の増加により増大し、管軸方向間隔L2の減少により低減することになる。このため、この管軸方向間隔L2を調整することにより、衝撃荷重が管体21に対して負荷された場合の最大耐荷重を調整することが可能となる。
【0060】
また、切欠孔31が大きすぎる場合、管体21の断面欠損が大きくなり、最大耐荷重の低減を招いてしまう。また、切欠孔31が小さすぎる場合、最大耐荷重の増大を図れるが、所定の変位量まで変位する前に切欠孔31の上縁31bと下縁31cとが接触して、切欠孔31による変形がそれ以上促進されなくなってしまい、管体21の下端部21aの前面側とベースプレート11との間の溶接接合部22に引張応力が集中してしまう結果、溶接接合部22の破断を招く恐れがある。
【0061】
これらの前提を考慮のうえ、切欠孔31についてその大きさや位置等の寸法調整を行なうことにより、所定の最大耐荷重としたり、所定の変位量となるまで破断しないような性能の防護柵用支柱1を得ることが可能となる。
【0062】
次に、第2実施形態、第3実施形態に係る防護柵用支柱1の構造について説明する。なお、上述した構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0063】
図11(a)は第2実施形態に係る防護柵用支柱1の構造を図3(b)のA矢視と同じ方向から見た図であり、図11(b)は第3実施形態に係る防護柵用支柱1の構造を図3(b)のA矢視と同じ方向から見た図である。
【0064】
第2実施形態に係る防護柵用支柱1は、二組の切欠孔31が矩形状に形成されており、第3実施形態に係る防護柵用支柱1は、二組の切欠孔31が六角形状に形成されている。このように、二組の切欠孔31は、本発明の目的とする効果の得られる範囲で、その形状について特に限定するものではないが、第1実施形態のように円形状に形成されている方が、容易に製作できることと、管体21に対して衝撃荷重が負荷された場合の変形挙動が安定することとから好ましい。
【0065】
次に、第4実施形態、第5実施形態に係る防護柵用支柱1の構造について説明する。
【0066】
図12(a)は第4実施形態に係る防護柵用支柱1の構造を示す部分拡大斜視図であり、(b)は第5実施形態に係る防護柵用支柱1の構造を示す部分拡大斜視図である。
【0067】
第4実施形態に係る防護柵用支柱1は、二組の切欠孔31が、角形断面に形成された管体21の側面21cで、かつ、背面21f寄りの部位に形成されており、第5実施形態に係る防護柵用支柱1は、二組の切欠孔31が、角形断面に形成された管体21の背面21fで、かつ、側面21c寄りの部位に形成されている。このように、二組の切欠孔31は、管体21に負荷される衝撃荷重を受ける側に対して反対側の位置であれば、その形成される位置について特に限定するものではない。しかし、二組の切欠孔31は、第1実施形態のように、角形断面に形成された管体21の隅角部21eに形成されている方が、管体21に対して衝撃荷重が負荷された場合の変形挙動が安定することから好ましい。
【0068】
次に、第6実施形態、第7実施形態に係る防護柵用支柱1の構造について説明する。
【0069】
図13(a)は第6実施形態に係る防護柵用支柱1の構造を図3(b)のA矢視と同じ方向から見た図であり、図13(b)は図13(a)のB−B線断面図であり、図13(c)は第7実施形態に係る防護柵用支柱1の構造を図3(b)のA矢視と同じ方向から見た図であり、図13(d)は図13(c)のC−C線断面図である。
【0070】
第6実施形態に係る防護柵用支柱1は、二組の切欠孔31が、管体21の外面に形成された底面31dを有する窪みとして構成されている。第7実施形態に係る防護柵用支柱1は、二組の切欠孔31が、管体21の内面に形成された底面31dを有する窪みとして構成されている。この窪みの設けられた部位の板厚は、管体21の変形時において容易に破断する程度の板厚となるよう調整されている。
【0071】
第6、第7実施形態の場合においても、上述したような変形挙動を得ることができ、本発明の目的とする効果を得ることが可能となる。また、第6、第7実施形態の場合、雨水等の管体21内への浸入を抑えることができ、その分、腐食の発生を抑制することが可能となる。また、切欠孔31を底面31dを有する窪みとして構成する場合、管体21の外面及び内面の両方にその窪みが形成されていてもよい。
【0072】
次に、第8実施形態に係る防護柵用支柱1の構造について説明する。
【0073】
図14は、第8実施形態に係る防護柵用支柱1の構成を示す斜視図である。また、図15(a)は第8実施形態に係る防護柵用支柱をその前面側からみた正面図であり、(b)はその平面図であり、(c)はその側面図であり、(d)はその背面図である。
【0074】
第8実施形態に係る防護柵用支柱1は、管体21が円形断面に形成されている。このように、管体21は、その断面形状について特に限定するものではないが、第1実施形態のように角形断面に形成されている方が、管体21に対して衝撃荷重が負荷された場合の変形挙動が安定することから好ましい。
【0075】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0076】
1 :防護柵用支柱
3 :防護柵
5 :横架材
7 :基礎
11 :ベースプレート
11a :上面
13 :支柱用孔
17 :固定用ボルト孔
21 :管体
21a :下端部
21b :上端部
21c :側面
21d :下端
21e :隅角部
21f :背面
22 :溶接接合部
23 :ブラケット用ボルト孔
31 :切欠孔
31a :側縁
31b :上縁
31c :下縁
31d :底面
33 :残存部
61 :アンカーボルト
63 :ボルト
65 :ブラケット
171 :センタースチフナー
173 :縦スリット
175 :補強板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎に固定されるベースプレートと、前記ベースプレートから立設された管体とを備え、前記管体に負荷される衝撃荷重を当該管体の塑性変形により吸収可能な防護柵用支柱であって、
前記管体の前記衝撃荷重を受ける側に対して反対側の下端部に、その管軸方向に間隔を空けて形成された一組の切欠孔を備え、
前記一組の切欠孔は、前記管体の管周方向に間隔を空けて二組形成されていること
を特徴とする防護柵用支柱。
【請求項2】
前記一組の切欠孔は、前記管体の最下端側に位置するものが前記ベースプレートに対して上側に間隔を空けて形成されていること
を特徴とする請求項1記載の防護柵用支柱。
【請求項3】
前記管体は、角形断面に形成され、
前記一組の切欠孔は、前記管体の隅角部に形成されていること
を特徴とする請求項1又は2記載の防護柵用支柱。
【請求項4】
前記一組の切欠孔は、前記管体を貫通する貫通孔であること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の防護柵用支柱。
【請求項5】
前記一組の切欠孔は、前記管体の外面と内面とのうち何れか一方又は両方に形成された底面を有する窪みであること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の防護柵用支柱。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−127408(P2011−127408A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289869(P2009−289869)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【Fターム(参考)】