説明

防護用のシート材料

【課題】簡易な方法によって廃棄処分することができ、廃棄処分にかかるコストの低減を図ることができる防護用のシート材料を提供する。
【解決手段】水で溶融可能で且つ遮断性を有するフィルム層2と、フィルム層2の両面に配された水で溶融可能な不織布層3、4とによって3層に積層されたシート材料から形成されている防護服1。例えばアスベスト除去作業等で使用した防護服を廃棄処分する際は、従来のように埋設処分するのではなく、所定温度に設定された水を溜めた溶融槽を作業現場に設置して、その溶融槽に防護服を投入して溶かして排水することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建築物におけるアスベスト除去作業や解体作業、有害物質の除去作業等に使用される防護用のシート材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅などの天井や壁の建築資材には、保温性、耐火性の効果が高いといった理由からアスベスト(石綿)が多く使用されていた。ところが、周知のとおりアスベストは非常に微細な繊維形状をなしており、とくにアスベストが室内空間に露出している部分が剥がれ落ちると空気中にアスベストが飛散し、それを人が吸引したときに人体に与える影響が大きく社会的問題となっている。このような背景から、近年では、アスベストが使用されている建築物のアスベスト除去工事が行われている。
【0003】
このようなアスベスト除去作業や建築物の解体作業が行われる現場では、作業員はフィルター(マスク)、手袋、防護服等の保護具を着用し、また作業エリアの外にアスベストが飛散しないように作業エリアを周囲から隔離するための隔離シート(養生シート)を設けるといった対応がなされている。そして、これらの作業現場から発生したアスベストを含む廃棄物(以下、アスベスト廃棄物とする)は、特別管理産業廃棄物として取り扱われ、アスベスト専用廃棄物処理袋などに収容して所定の処分場所において廃棄処分されている。
その他の有害な化学物質に汚染された物を取り扱う作業の際にも同様の手順が実施されている。以下は、アスベストを例に示す。
【0004】
上述したアスベストから防護する保護具として、汚染物質や有害物質から身体を保護する防護服が、例えば特許文献1に開示されている。
特許文献1は、一般的に使用されるフード付きの化学防護服を着用し、その防護服の上から透過可能な軟質シートからなるカバーを被ることで作業員の身体を保護するようにしたものである。
【特許文献1】特開平11−153191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の防護服や隔離シート等における廃棄処分に関して以下のような問題があった。
すなわち、作業エリア内でアスベスト除去作業を行なう作業員は、食事や休憩の度に作業エリアの外に出ることになり、その度に新しい保護具に交換している。そのため、現場で作業する人数が増えると、使用済みで廃棄する防護服等の保護具の数量、容量(体積)も増大する。例えば1日に10人の作業員がそれぞれ作業エリアに4回の出入りをすると40着もの廃棄処分される防護服が発生することになる。また、隔離シートも壁や床に配されることから嵩(体積)が増し、しかも作業エリア毎に新しいものに交換されている。つまり、作業現場からは、廃棄処分される多数の防護服や嵩の大きな隔離シートが発生し、これらを廃棄処分場に運搬して所定の場所に埋設する必要があり、運搬費と廃棄物の体積に応じた処理費がかかるうえ、それらを埋設処分するための処分場所を確保する必要があるという問題があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、簡易な方法によって廃棄処分することができ、廃棄処分にかかるコストの低減を図ることができる防護用のシート材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る防護用のシート材料では、水で溶融可能で且つ遮断性を有するフィルム層と、フィルム層の両面に配された水で溶融可能な不織布層とによって3層に積層されていることを特徴としている。
本発明では、例えばアスベスト等の有害物質を取り扱う作業現場で使用される防護服や隔離シート等を水に溶融可能なシート材料から形成することで、その防護服等を廃棄処分する際に、従来のように埋設処分するのではなく、例えばシート材料の溶融可能な温度に設定された水を溜めた溶融槽を作業現場に設置し、その溶融槽に防護服等を投入して溶かして排水させることで廃棄処分することができる。そして、防護服等として使用されたシート材料に付着しているアスベスト等は、処理液中に分散され、且つ湿潤化されることから飛散しない状態で処理されることになる。また、フィルム層の両面に不織布層が設けられているので、遮断性を有するフィルム層を接触等から保護することができるうえ、防護服等にシート材料を使用する場合に、着用する作業員が直接フィルム層に接することなく柔らかい材質の不織布層に接することになり、使い心地を高めることができる。
【0008】
また、本発明に係る防護用のシート材料は、特定化学物質等の有害物質を取り扱う作業に使用されることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る防護用のシート材料は、人体の保護を目的とするカバーオール型つなぎ服であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防護用のシート材料によれば、水に溶融可能な材料であり、例えばアスベスト等の有害物質を取り扱う作業に使用される防護服等の素材として使用し、その防護服等を廃棄処分する場合に、その防護服等を例えば作業現場等において溶融槽を用いて溶かし、その処理液を排水するといった簡易な方法によって廃棄処分することができる。そのため、アスベスト等を含む廃棄物を廃棄物処分場へ運搬して埋設処分するといった従来の作業工程をなくすことができ、運搬費や埋設にかかる廃棄処分費が不要となってコストの低減を図ることができる。さらに、廃棄処分場所の確保が不要になるといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態による防護用のシート材料について、図1及び図2に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態によるシート材料から形成される防護服の部分断面図、図2は防護服の溶融方法の一例を示す説明図である。
【0012】
図1に示すように、本実施の形態による防護服1は、水で溶融可能なシート材料から形成され、アスベストを取り扱う作業、つまり建築物のアスベスト除去作業やアスベストが使用されている建築物の解体作業などにおいて、アスベスト防護用として作業員が着用するものであって、人体の保護を目的としたカバーオール型つなぎ服とされる。
【0013】
図1に示す防護服1は、水によって溶ける溶融性を有するとともに遮断性を有するフィルム層2と、フィルム層2の両面に配された水によって溶ける溶融性を有する不織布層3、4とによって3層に積層されたシート状の構造をなしている。ここでいう遮断性とは、微細な繊維形状をなすアスベスト繊維を遮断可能なものとする。なお、本実施の形態による水は、常温水、温水、熱水を含むものとするが、後述する図2の説明では温水として説明する。
【0014】
この防護服1をなすシート材料は、フィルム層2の両面に不織布層3、4が設けられているので、遮断性を有するフィルム層2を接触等から保護することができるうえ、着用する作業員が直接フィルム層2に接することなく柔らかい材質の不織布層3、4に接することになり、使い心地を高められた構成になっている。不織布とフィルムは、高周波加熱溶着する。防護服の縫製には、不織布やフィルム同等の溶ける糸を使用する。
なお、防護服1は、とくに図示はしないが一般的に着用する際に必要とされるファスナーや釦等を任意に設けて、作業員が着脱しやすいように形成されている。
【0015】
フィルム層3の材料としては、例えば80℃以上の温水で溶解するタイプ、70℃以上の温水で溶解するタイプ、40℃以上の水温で溶解するタイプや40℃以下の水温で溶解するタイプのポリビニールアルコール(PVA)等が挙げられる。
【0016】
また、不織布層3、4の材料としては、例えば溶融温度が20℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、95℃以上のポリビニールアルコール(PVA)等が挙げられ、スパンレース、スパンボンド、サーマルボンド、ケミカルボンド、メルトブローン、ニードルパンチ等の製法により形成されたものを使用することができる。
【0017】
次に、このような構成からなる防護服1の作用と廃棄処分方法について図面に基づいて説明する。
図1に示す防護服1は、ファスナーや釦等の一部の部品を除いた大部分が水に溶融可能なシート材料から形成されているので、アスベスト除去作業等で使用した防護服1を廃棄処分する際に、従来のように埋設処分するのではなく、溶融させることで廃棄処分させることができる。
【0018】
すなわち、図2に示すように、防護服1を着用した作業員が作業する現場Rに、防護服1の溶融温度に予め設定された温水11を溜めた溶融槽10を設置しておく。そして、この溶融槽10に使用済みで廃棄する防護服1を投入することで、防護服1は温水11に反応して溶ける。そして、防護服1が温水11に溶融した処理液を開閉弁13を備えた排水配管12から排水して処理することができる。
【0019】
そして、防護服1として使用されたシート材料に付着しているアスベストは、処理液中に分散され、且つ湿潤化されることから飛散しない状態で処理されることになる。
なお、防護服1に取り付けられているファスナーや釦など溶融されないものは、溶融されずに残るが、その数量、容量は限られているので、前記排水配管12の途中で回収する等して適宜に廃棄処分すればよい。
【0020】
上述のように本実施の形態による防護用のシート材料では、水に溶融可能な材料であり、アスベストを取り扱う作業に使用される防護服1の素材として使用し、その防護服1を廃棄処分する場合に、その防護服1を例えば作業現場Rにおいて溶融槽10を用いて溶かし、その処理液を排水するといった簡易な方法によって廃棄処分することができる。
そのため、アスベストを含む廃棄物を廃棄物処分場へ運搬して埋設処分するといった従来の作業工程をなくすことができ、運搬費や埋設にかかる廃棄処分費が不要となってコストの低減を図ることができる。さらに、廃棄処分場所の確保が不要になるといった効果を奏する。
【0021】
以上、本発明による防護用のシート材料の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態ではシート材料の対象として防護服1としているが、これに限定されることはなく、例えばアスベスト除去を行う作業エリアを周囲から隔離するための隔離シート(養生シート)や、帽子、マスク、手袋などでシート状の材料により形成されるものが適用対象とされる。
また、本実施の形態ではアスベストを取り扱う作業に使用される防護服1としているが、アスベストであることに制限されず、この他に特定化学物質等の有害物質などを適用対象とすることができる。
【0022】
また、本実施の形態では防護服1の溶融手段として溶融槽10を用いているが、この溶融手段は一例であってこれに限定されることはない。要は水で溶融可能なシート材料により形成された防護服などを水(温水)に浸けることによって溶かし、その処理水を適宜な手段で排水できるような手段であればよいのである。アスベストを取り扱う作業現場Rに設置しているが、溶解専用の作業場に置かれていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態によるシート材料から形成される防護服の部分断面図である。
【図2】防護服の溶融方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 防護服(シート材料)
2 フィルム層
3、4 不織布層
10 溶融槽
11 温水
12 排水配管
R 作業現場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水で溶融可能で且つ遮断性を有するフィルム層と、前記フィルム層の両面に配された水で溶融可能な不織布層とによって3層に積層されていることを特徴とする防護用のシート材料。
【請求項2】
特定化学物質等の有害物質を取り扱う作業に使用されることを特徴とする請求項1に記載の防護用のシート材料。
【請求項3】
人体の保護を目的とするカバーオール型つなぎ服であることを特徴とする請求項1又は2に記載の防護用のシート材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−56727(P2009−56727A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226651(P2007−226651)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(595031775)シンワ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】