防透け性と吸水性を有するポリエステル混繊糸および布帛
【課題】 ドライな風合いを得ることができると共に、優れたドレープ性、ふくらみ感を有し、従来にない優れた防透け性とUVカット効果を同時に満足することができる織編物などを提供できるポリエステル混繊糸およびその織編物などの布帛を提供する。
【解決手段】 芯部に酸化チタン微粒子を含有したポリエステル系芯鞘複合繊維からなる2種類以上の異なる断面形状のポリエステルマルチフィラメント糸からなり、一方が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸であり、他方が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であって、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊していることを特徴とするポリエステル混繊糸。
【解決手段】 芯部に酸化チタン微粒子を含有したポリエステル系芯鞘複合繊維からなる2種類以上の異なる断面形状のポリエステルマルチフィラメント糸からなり、一方が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸であり、他方が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であって、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊していることを特徴とするポリエステル混繊糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライタッチと優れた吸水・汗処理性、ドライ感を有するポリエステル混繊糸およびその織物、編物(以下、織物、編物を総称して織編物ということがある)などの布帛に関するものである。さらに詳しくは吸水・汗処理性、ドライ感に加えて、従来にない高い防透け性およびUVカット効果を兼ね備えた混繊糸およびその織編物などの布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは寸法安定性や耐薬品性などの耐久性に優れ、その機能性の有用さから多目的に用いられており、例えば衣料用、産業用、資材用、医療用などに好適に用いられている。
【0003】
一方、市場では合成繊維の特品化の要望が年々高まっており、中でも水着、インナー用途においては防透け性繊維の要望が強く、合成繊維各社を中心に種々の検討がなされている。一般的にセラミックス、中でも酸化チタンを多量に添加することにより高い防透け性が得られることが知られているが、多量に含有した酸化チタンが糸表面に露出されていると、仮撚工程、撚糸工程、製織および製編工程などのガイド、ローラー、筬および編み針などの摩耗を促進し、頻繁に部品を交換する必要があり、交換費用および機械損失によるコストアップは避けられない。
【0004】
かかる問題を解決するために、芯鞘複合糸で芯成分に酸化チタンを多く含有させ、鞘成分に酸化チタンを少なく含有させる技術が提案されている(特許文献1,2,3参照)。確かに、この方法によって従来の繊維の欠点を解消し、ある程度の防透け性が保持しながら、製糸時の巻取りロールや糸道ガイドの摩耗および仮撚工程、撚糸工程、製織および製編工程における繊維と摺動部分での摩耗を低減させることが可能となった。しかしながら、近年の水着、インナー用途の防透け性要求レベルは年々高くなっており、従来の防透けレベルでは満足のいかないレベルとなっている。
【0005】
また、さらなる防透け性の向上として芯鞘複合糸の芯部に炭化珪素を含有させる技術が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、炭化珪素を含有させることにより防透け性は向上するが酸化チタンよりもコストが高く、ランニングコストがかかる。また、白色ではないため淡色への展開が難しい。
【0006】
また、水着、インナー用途においては優れた防透け性に加え、優れた吸水・汗処理性やストレッチ特性が要求される。織編物に吸水・汗処理性を付与する方法としては、2種類以上の異なる断面形状のフィラメント糸から構成されるポリエステルマルチフィラメント糸の少なくとも1種類のフィラメント糸が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸で、それ以外のフィラメント糸が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸から構成され、それぞれの断面形状のフィラメント糸が外層内層にランダムな状態で分散し、混繊されている混繊複合糸からなる織編物(特許文献5参照)などが提案されている。しかしながら、これらのポリエステル繊維は、ソフトな風合いや吸水性およびドライ感を目的とするために、不透明性を発揮する無機微粒子はほとんど含有されておらず、透けを防止する不透明感については全く考慮されていない。
【特許文献1】特開昭55−158331号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2003−227040号公報(第2頁)
【特許文献3】特開平11−269721号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2002−61032号公報(第2頁)
【特許文献5】特開2001−271251号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、ドライな風合いを得ることができると共に、優れたドレープ性、ふくらみ感を有し、従来にない優れた防透け性とUVカット効果を同時に満足することができる織編物などを提供できるポリエステル混繊糸およびその織編物などの布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は下記の構成を採用するものである。すなわち、
(1)芯部に酸化チタン微粒子が芯成分に対して2.0〜10.0重量%含有したポリエステル系芯鞘複合繊維からなる2種類以上の異なる断面形状のポリエステルマルチフィラメント糸からなり、一方が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸であり、他方が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であって、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊していることを特徴とするポリエステル混繊糸。
【0009】
(2)芯部の断面形状が鞘部と同一断面形状であることを特徴とする前記(1)記載のポリエステル混繊糸。
【0010】
(3)芯部と鞘部の断面積複合比率が90:10〜50:50であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のポリエステル混繊糸。
【0011】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリエステル混繊糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする布帛。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生糸使用でもドレープ性とドライ感を有し、さらに良好な吸水性と防透け性、UVカット性が得られるポリエステル混繊糸およびその織編物などの布帛を提供できる。特に、水着やインナー用途に展開すると、原糸の断面形状の吸水効果により、汗によるべたつき感から解放される。また、これらの用途では重要なセールスポイントである防透け性およびUVカット効果も同時に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
最初に本発明を構成する芯鞘複合繊維について説明する。本発明のポリエステル系芯鞘複合繊維の芯部はセラミックス、中でも酸化チタンを含有しているものである。該酸化チタンの含有率は、充分な防透け性を得るためには芯成分に対し2.0〜10.0重量%含有していることが好ましい。2.0重量%以上である程度の防透け性能が発現し、また、酸化チタン含有量が10.0重量%以下では酸化チタンの分散性が向上し紡糸時の濾過材の目詰まりが抑制されるため、長時間安定して紡糸することができる。
【0015】
また、芯部と鞘部の断面積複合比率は90:10〜50:50であることが好ましい。芯部断面積比率が50%以上であると高遮蔽性効果が充分発揮されるため、防透け性が得られる。また、芯部断面積比率が90%以下であると繊維の摺動部のガイドの摩耗など製糸性および高次通過性が良好となる。したがって、防透け性と製糸性および高次通過性を満足させることにより、さらに好ましい芯部と鞘部の断面積複合比率は80:20〜60:40である。
【0016】
複合形態は芯部と鞘部を実質的に同心状に配置させることが好ましい。ここでいう実質的に同心状とは芯部と鞘部が偏心していないことをいう。極端に偏ったり、芯部が表面に露出するようなことがあると本発明の目的とする効果が損なわれる。また芯部の最も薄い部分の厚みの下限は、製糸時および製織、製編時の摩擦によって生じる鞘部の摩擦による芯部の露出を制御するため0.2μm以上が好ましく、一方、鞘部の最も薄い部分の厚みの上限は防透け性効果の面から1.0μm以下とするのが好ましい。
【0017】
芯部断面形状は丸断面でも問題ないが、防透け性向上による芯部の断面積比率を上げるおよび光の分散効果をあげるためには鞘部形状と同形状とすることが好ましい。
【0018】
本発明の効果を発現するポリエステル系芯鞘複合繊維を紡糸する方法としては、公知の複合紡糸技術を採用することができ、特に限定するものではない。
【0019】
次に、本発明の混繊糸について説明する。本発明の混繊糸は、断面形状を異にするフィラメント糸が複合されてなるマルチフィラメント糸である。断面形状の種類は2種類以上であり、そのうち少なくとも1種類のフィラメント糸が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸からなり、それ以外のフィラメント糸は3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸から構成されていることが重要である。凹部を有することにより、入射光の分散効果が促進され、より防透け性能が向上する。
【0020】
図1〜図10は、繊維断面形状を説明する説明図である。図面を参照しながらさらに詳細に説明すると、本発明でいう凹部を有してない断面形状とは、同一断面において断面輪郭に接する接線を引いた時に、複数の接点を有しない断面形状を原則としていう。上記の凹部を有しない断面形状の具体例を挙げると、円形(図1)、楕円形(図2)、おにぎり型円形(図3)や3角形以上の多角形であって比較的角に丸みを持ったもの(図4)が挙げられる。これらには、図1に示すように、接線(L1)を引いた時に複数の接点は存在せず、1つの接点(S1)のみ存在する。
【0021】
一方、凹部を有する断面形状とは、同一断面において断面輪郭に接する接線(L2)を引いた時に、複数の接点(S2、S3)を有し、その接点間に凹部(U)を形成しており、その凹部と凹部の間に凸部が形成されている断面形状をいう。本発明においては、3〜8個の凹部を有する断面形状であることが重要であり、対称型あるいは非対称型のいずれでもよく、凹部の大きさに特に制限されるものではない。そのような断面形状としては、例えば、Y型(図5)、4葉型(図6)、6葉型(図7)、8葉型(図8)、櫛形(図9)などが挙げられる。これらには、図5に示すように、接線を引いた時に複数の接点を有する接線が存在する。凹部を有する断面形状において、織編物の風合いとして優れたドライ感を得るためには凹部が3〜6個が好ましい。凹部が3個未満あるいは8個を越える場合には、織編物の風合いとして上記のドライ感が得られないので好ましくない。
【0022】
本発明においては、凹部を有するフィラメント糸の異形度を10以上250以下とすることが好ましい。異形度を10以上とすることにより、繊維間空隙が確保され、毛細管効果による吸水性、汗処理性が向上し、さらに張りコシ感、ドレープ性も付与される。また、この高異形断面によりポリエステル特有のヌメリ感がなくなり、さらさらとしたドライタッチも得られるのである。250以下として擦過による断面形状の削れ、強いては毛羽を防止し、工程通過性を良好にさせる。
【0023】
ここでいう異形度とは、図5における凹部の最も凹んだ点(U)から接線S2−S3までの距離(H)と接点S2、S3間の距離(D)から下記式により算出される値である。
【0024】
異形度=(H/D)×100
図10に本発明の混繊糸の一例を示す断面概略図を示した。この図に示すように、円形(丸)断面と6葉型断面のフィラメント糸からなる複合繊維は、凹部を有する断面形状が形成する凸部(凹部と凹部の間に形成される突起状部分の)の存在と凹凸を有しない断面とがランダムに分散しているため、異形断面同士のかみ合いを防ぐことができ、ドライな風合いと、単糸間空隙による吸水、拡散性を可能とすることができる。
【0025】
本発明において、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸の混合比率(重量比)は20:80〜80:20であることが好ましい。40:60〜60:40であることがさらに好ましい。凹部を有する断面形状のフィラメント糸比率を80%以下とすることによって、断面形状の凹凸の効果による、撚数が増加した場合のザラツキ感を防ぐことが可能であり、反対に20%以上とすることにより凹部を有しない断面形状に独特のヌメリ感を防ぎ、サラッとしたドライな風合いが得られる。
【0026】
次に、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸との複合状態は、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムに混繊されていることが重要である。図11は本発明の混繊複合繊維の一例を示す側面概略図である。また、図11はインターレースノズルによる交絡が付与されたものを示している。一方、図12は従来の交互撚芯鞘2層構造糸を示す側面概略図、図13は従来の芯鞘多層構造糸を示す側面概略図である。図12および図13は太線で表された芯糸と細線で表された鞘糸とにより2層構造形態となっている。
【0027】
本発明の混繊糸は、図10あるいは図11に示すようにそれぞれの断面形状の糸が外層・内層にランダムな状態で分散していることで、追撚を施した時に、糸の表面においてそれぞれの断面形状が分散配置するので、凹部を有する断面と凹部を有しない断面との調和した複合効果によるサラッとしたドライ感が得られる。また、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で分散していることによって、追撚数を増加したとき凹部と凹部のかみ合いが起こりにくいことから嵩高性の減少を防ぎ、ふくらみ感を保持できるからである。
【0028】
一方、それぞれの断面形状のフィラメント糸が集合して構成される芯鞘2層構造形態を有する複合繊維の場合には、調和した複合効果によるサラッとしたドライ感が得られず好ましくない。
【0029】
本発明の芯成分、鞘成分それぞれのポリエステルとしては、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンフタレートなどが挙げられるが、中でも前者のテレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜6のアルキレングリコール成分、すなわちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコールおよびヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも一種のグリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルを対象とする。
【0030】
なお、このポリエステルはそのテレフタル酸成分を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えても良い。かかるカルボン酸としては、たとえばイソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンカルボン酸、β−オキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族カルボン酸などを挙げることができる。
【0031】
また、上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分で置き換えてもよく、かかるグリコール成分としては例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、2,2−ビス〔3,5−ジブロモ−4−(2−ハイドロキシエトキシ)フェニル〕プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。
【0032】
さらに、上述のポリエステルに必要に応じて他のポリマを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸などの鎖分岐剤を少割合使用したものであっても良い。
【0033】
本発明のポリエステルマルチフィラメント糸に用いる油剤は脂肪酸エステルやポリエーテル系油剤が好ましい。また、必要に応じて脂肪酸エステルとポリエーテル系油剤を併用しても良い。
【0034】
本発明の混繊複合繊維は凹部を有しない糸と凹部を3〜8個有する断面糸との組み合わせによる形状の効果により吸水性が優れている。また、アルカリ減量処理を実施すると繊維表面の凹凸効果によりさらに吸水性が向上する。バイレック法による吸水性が30mm以上、滴下法による拡散速度が15秒以下となることで吸水性・汗処理性が良好となり、衣服としたときの着用快適性が良好となるため好ましい。
【0035】
なお、バイレック法による吸水性の測定は、JIS L 1097:2004「繊維製品の吸水性試験方法」に規定されているバイレック法を準用し、次の方法で行った。まず、サンプルとして200mm×25mmの試験片をたて、よこ方向にそれぞれ5枚採取する。次に水(JIS K 0050に規定するもので、その温度は20℃±2℃とする)を入れた水槽の水面上に支えた水平棒上に試験片をピンなどで固定した後、水平棒を降下させて、試験片の下端が水に浸せきするように調整し、そのまま10分間放置する。放置後、毛細管現象によって水が上昇した高さをスケールで1mmまで測定し、たて、よこそれぞれの5回の平均値で表す(整数位まで)。また、水の上昇した高さが読みとりにくい場合は、水の代わりに水溶性染料を薄く水に溶かした水溶液を用いてもよい。
【0036】
また、滴下法による吸水性の測定は、JIS L 1097:2004「繊維製品の吸水性試験方法」における滴下法を準用し、次の方法で行った。まず、サンプルとして約200mm×約200mmの試験片を5枚採取する。次に試験片を試験片保持枠に取り付け、試験片の表面からビュレットの先端までが10mmの高さになるように調整し、ビュレットから水(JIS K 0050に規定するもので、その温度は20℃±2℃とする)を1滴滴下させ、水滴が試験片の表面に達したときからその水滴が特別な反射をしなくなるまでの時間をストップウォッチで0.5秒まで測定し、5回の平均値で表す(整数位まで)。
【0037】
また、それぞれの断面形状のフィラメント糸を構成するものとしては、別々の断面形状のフィラメント糸を構成するものであるが、目的を満足する範囲内で別々のポリマー種であっても良い。
【0038】
凹部を有しない断面形状のフィラメント糸の単糸繊度D1と凹部を有する断面形状フィラメント糸の単糸繊度D2の関係は0.5≦D2/D1≦2.0が好ましく、D1、D2はいずれも1.11dtex以上11.11dtex以下であることが良い。D2/D1が0.5以上であることによって、凹部を有する断面形状のフィラメント糸の効果によりヌメリ感を防ぐことができ、D2/D1が2.0以下とすることにより、凹部を有する断面形状フィラメント糸のザラザラ感を強調しすぎることなくサラッとした風合いを得られる。
【0039】
本発明の混繊糸を用いて得られる織編物は、従来の芯鞘2層構造を有する複合構造仮撚加工糸を用いて得られる織編物とは異なる、優れたドレープ性を有し、ドライな風合い効果の織編物を得ることができる。
【0040】
次に、本発明の混繊糸を製造する方法について説明する。本発明の混繊糸は、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸が混繊されたポリエステル未延伸糸または半延伸糸を得、次いで延伸あるいは延伸仮撚加工を施すことにより得ることが出来るが、重要なことは、紡糸工程の引き取りローラーに引き取られる前に混繊集束し、異なる断面形状のフィラメント糸が混繊されたポリエステル未延伸糸または半延伸糸とすることである。具体的にはたとえば、図14〜図16に示す工程により得ることができる。
【0041】
図14〜図16は、それぞれ本発明の混繊複合繊維を得る方法の例を示す工程概略図である。図14は、少なくとも1種類が凹部を有しない形状で、それ以外の形状が3〜8個の凹部を有する形状であって、2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される1枚の口金1(A)から紡出された糸条を給油ガイド3により収束・給油し、その後インターレースノズル4により混繊収束し、引き取りローラー5に引き取り、パッケージ6に巻き取る方法を示す。
【0042】
図15には凹部を有しない形状の紡糸孔で構成される1枚の口金1(B)、一方は3〜8個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金1(C)からそれぞれ紡出された糸条を給油ガイド3により集束・給油し、その後インターレースノズル4によって混繊集束し、引き取りローラー5に引き取り、パッケージ6に巻き取る方法を示す。
【0043】
図16には凹部を有しない形状の紡糸孔で構成される1枚の口金1(B)、一方は3〜8個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金1(C)からそれぞれ紡出された糸条をそれぞれ給油ガイド3により集束・給油し、その後インターレースノズル4によって混繊集束し、引き取りローラー5に引き取り、パッケージ6に巻き取る方法を示す。
【0044】
なかでも、各構成フィラメント糸の混繊状態および生産性の観点より、少なくとも1種類が凹部を有しない形状で、それ以外の形状が3〜8個の凹部を有する形状であって、2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される一枚の紡糸口金から、溶融したポリエステル重合体を紡出する方法が好ましく、図14で生産することが好ましい。
【0045】
本発明で用いられる2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される一枚の紡糸口金とは、たとえば図17〜図20に示すように、同心円状に窄孔されたもの(図17)、群配列されたもの(図18)、格子状に窄孔されたもの(図19、図20)などが挙げられる。なお、図中の○は凹部を有しない形状の紡糸孔、×は凹部を有する形状の紡糸孔を示す。
【0046】
一方、凹部を有するフィラメント糸を紡糸して一旦巻き取り、それとは別に凹部を有しないフィラメント糸を紡糸して一旦巻き取った糸をその後引き揃えて混繊加工し得られたポリエステル未延伸糸または半延伸糸を延伸する方法では、混繊状態が外層・内層にランダムとならないので好ましくない。
【0047】
また、生産性向上の観点から、一枚の口金から複数の糸条を巻き取る方法も好ましく採用できる。
【0048】
上記の方法により得られたポリエステル未延伸糸または半延伸糸を延伸することによって、各断面形状のフィラメント糸が実質的に芯鞘2層構造を形成することなく、各単糸がランダムな状態で外層から内層まで分散している混繊複合繊維とすることができる。
【0049】
本発明の製造方法において各断面形状のフィラメント糸が実質的に芯鞘2層構造を形成することなく、各単糸が比較的ランダムな状態で外層から内層まで分散している混繊複合繊維とすることができるのは、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸の形状の相違から、紡糸工程における冷却速度や紡糸張力の差などにより、断面形状の異なるフィラメント間において配向度差を有する糸が得られ、それを延伸すると、断面形状の異なるフィラメント間に延伸張力差が生じ、外層・内層にランダムな状態で分散し、混繊された延伸糸が得られると考えられる。また、得られた延伸糸は熱水処理時に断面形状の異なるフィラメント間において異なった収縮挙動を示すことからふくらみを生むものと考えられる。
【0050】
また、本発明の混繊複合繊維の製造工程において、延伸を行った後、巻き取る前にインターレースノズルにより単糸間に交絡を付与することはさらに効果的である。混繊複合繊維が芯・鞘2層構造でないため、凹部を有する断面形状のマルチフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のマルチフィラメント糸の混繊効果を高め、マイグレーションさせることによって本発明の効果を大きくすることができるので好ましい。また、それはいわゆる混繊複合繊維の後工程での通過性を高めるという効果も奏する。後工程通過性が悪いと、織編物としたときに布の表面形態の品質低下を招きやすくなる。交絡数は10以上100未満であること好ましい。10以上で混繊効果が発現し、ドライ感を奏し、また、工程通過性も改善する。100未満ではマイグレーションノズルとの擦過が小さくなり、毛羽を紡糸し工程通過性が改善する。
【0051】
ここでいう交絡度とは、エンタングルメントテスターR2060を用い、糸速5m/min、トリップレベル15cNでの触針トリップ回数30回に達する長さを測定し、下記式より算出した。
交絡度=(30×1000)/[30回トリップするまでの開繊長合計]
本発明のポリエステル混繊糸を少なくとも用いて、織物、編物などの布帛とすることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述するが、これら実施例のみに本発明の範囲が限定されるものではない。なお、実施例中の原糸、織編物の特性値は、「発明を実施するための最良の形態」中に記載の方法により評価した。
(1)製糸性
168時間(7日間)連続紡糸を行い、製糸性を次の判定方法に従った。
【0053】
◎:糸切れ率が3.0%未満
○:糸切れ率が3.0%以上5.0%未満
△:糸切れ率が5.0%以上7.0%未満
×:糸切れ率が7.0%以上
−:評価不可
(2)防透け性
5cm×5cmの編物サンプル5枚をSMカラーコンピュータ型式SM−3(スガ試験機(株)製)を用いて透過率を測定し、平均値で評価した(n=5)。
【0054】
◎:透過率 4%未満
○:透過率 4%以上7%未満
△:透過率 7%以上10%未満
×:透過率 10%以上
(3)吸水・汗処理性
編物サンプルにおけるバイレック法による吸水高さと滴下法による拡散速度より、下記の通り3段階で評価した。◎、○が本発明の目標レベルである。
【0055】
◎:吸水高さが50mm以上かつ拡散速度が10秒以下
○:吸水高さが30mm以上かつ50mm未満かつ拡散速度が15秒以下、或いは吸水高さが30mm以上かつ拡散速度が10秒超過15秒以下
×:吸水高さが30mm未満または拡散速度が15秒超過
実施例1
芯部に酸化チタン(チタン工業製 KA−30改)を5.7重量%含有したポリエステルを用い、丸孔24穴、六葉型(ヘキサローバル型)孔24孔を図17に示すように配した口金を用い、図14のような工程により3000m/分の速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。得られた混繊複合繊維の糸断面を包埋法による光学顕微鏡観察をした結果、図10に示すように、丸断面形状とヘキサローバル断面が内層・外層にランダムに分散した状態の構造からなるマルチフィラメント糸であった。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0056】
実施例2
実施例1と同一組成のポリエステルを丸孔24穴、四葉型孔24穴を図17に示すように配した口金を用い、図14に示すような行程により3000m/分の速度で紡糸し、148デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に結果を示す。
【0057】
実施例3
芯部に酸化チタン(チタン工業製 KA−30改)を4.0重量%含有したポリエステルを用い、丸孔24穴、六葉型(ヘキサローバル型)孔24孔を図17に示すように配した口金を用い、図14のような工程により3000m/分の速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0058】
実施例4
芯部に酸化チタン(チタン工業製 KA−30改)を6.0重量%含有したポリエステルを用い、丸孔24穴、六葉型(ヘキサローバル型)孔24孔を図17に示すように配した口金を用い、図14のような工程により3000m/分の速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0059】
実施例5
芯部に酸化チタン(チタン工業製 KA−30改)を6.2重量%含有したポリエステルを用い、丸孔24穴、六葉型(ヘキサローバル型)孔24孔を図17に示すように配した口金を用い、図14のような工程により3000m/分の速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0060】
比較例1
芯部に酸化チタン(チタン工業製 KA−30改)を1.0重量%含有したポリエステルを用い、丸孔24穴、六葉型(ヘキサローバル型)孔24孔を図17に示すように配した口金を用い、図14のような工程により3000m/分の速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0061】
比較例2
実施例1と同一組成のポリエステルを丸孔48穴を配した口金を用い、図14に示すような行程により3000m/分の速度で紡糸し、148デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0062】
比較例3
実施例1と同一組成のポリエステルを丸孔48穴を配した口金を用い、図14に示すような行程により3000m/分の速度で紡糸し、148デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0063】
比較例4
実施例1と同一組成のポリエステルを六葉型(ヘキサローバル型)孔48穴を配した口金を用い、図14に示すような行程により3000m/分の速度で紡糸し、148デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0064】
比較例5
実施例1と同一組成のポリエステルを紡糸、延伸して得たポリエステルフィラメントで8個の凹部を有するオクタローバル糸(84デシテックス36フィラメント)と、それとは別に同様のチップを紡糸、延伸して得たポリエステルフィラメントで凹部を有しない丸断面糸(84デシテックス36フィラメント)とを引き揃え、混繊交絡処理を施して1本の混繊複合繊維を得た。得られた混繊複合繊維の糸断面を包埋法による光学顕微鏡観察をした結果、丸断面形状とオクタローバルが2層に分かれた状態の構造からなるマルチフィラメント糸であった。この混繊複合繊維を丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1〜5は吸水性、汗処理性ともに優れ、ドライな風合いを有したものとなった。また、防透け効果も良好なものとなった。
これに対し、比較例1では酸化チタンの含有量が少ないために、防透け性が悪く不充分であった。比較例2は酸化チタン含有量が多く、表面に露出されているため、製糸性が悪化した。比較例3は凹部を有しない断面のみよりなるフィラメントで構成されており、吸水性、汗処理性、ドライ感が悪く、防透け性も不充分であった。比較例4は凹部を有する断面のみよりなるフィラメントで構成されており、吸水性、汗処理性、ドライ感が悪かった。比較例5は凹部を有する断面糸と凹部を有しない断面糸をそれぞれ別々に紡糸、延伸し、後混繊により混繊複合繊維を得ており、凹部を有する断面と凹部を有しない断面が2層に分かれており、凹部を有する断面がかみ合うことにより単糸間の空隙が十分にとれないため、バイレック法による吸水高さが低い上に滴下法による吸水拡散速度も低いものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】繊維断面形状の説明図である。
【図2】凹部を有しないフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図3】凹部を有しないフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図4】凹部を有しないフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図5】繊維断面形状の説明図である。
【図6】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図7】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図8】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図9】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図10】本発明の混繊複合繊維の一例を示す断面概略図である。
【図11】本発明の混繊複合繊維の一例を示す側面概略図である。
【図12】従来の交互撚芯鞘2層構造糸を示す側面概略図である。
【図13】従来の芯鞘多層構造糸を示す側面概略図である。
【図14】本発明の混繊複合繊維を得る方法の一例を示す工程概略図である。
【図15】本発明の混繊複合繊維を得る方法の他の一例を示す工程概略図である。
【図16】本発明の混繊複合繊維を得る方法のさらに他の一例を示す工程概略図である。
【図17】本発明で用いられる口金の一例を示す平面概略図である。
【図18】本発明で用いられる口金の他の一例を示す平面概略図である。
【図19】本発明で用いられる口金のさらに他の一例を示す平面概略図である。
【図20】本発明で用いられる口金のさらに他の一例を示す平面概略図である。
【符号の説明】
【0068】
1:口金
2:チムニー
3:給油ガイド
4:インターレースノズル
5:引き取りローラー
6:パッケージ
A:2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される1枚の口金
B:凹部を有しない形状の紡糸孔で構成される1枚の口金
C:3〜8個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライタッチと優れた吸水・汗処理性、ドライ感を有するポリエステル混繊糸およびその織物、編物(以下、織物、編物を総称して織編物ということがある)などの布帛に関するものである。さらに詳しくは吸水・汗処理性、ドライ感に加えて、従来にない高い防透け性およびUVカット効果を兼ね備えた混繊糸およびその織編物などの布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは寸法安定性や耐薬品性などの耐久性に優れ、その機能性の有用さから多目的に用いられており、例えば衣料用、産業用、資材用、医療用などに好適に用いられている。
【0003】
一方、市場では合成繊維の特品化の要望が年々高まっており、中でも水着、インナー用途においては防透け性繊維の要望が強く、合成繊維各社を中心に種々の検討がなされている。一般的にセラミックス、中でも酸化チタンを多量に添加することにより高い防透け性が得られることが知られているが、多量に含有した酸化チタンが糸表面に露出されていると、仮撚工程、撚糸工程、製織および製編工程などのガイド、ローラー、筬および編み針などの摩耗を促進し、頻繁に部品を交換する必要があり、交換費用および機械損失によるコストアップは避けられない。
【0004】
かかる問題を解決するために、芯鞘複合糸で芯成分に酸化チタンを多く含有させ、鞘成分に酸化チタンを少なく含有させる技術が提案されている(特許文献1,2,3参照)。確かに、この方法によって従来の繊維の欠点を解消し、ある程度の防透け性が保持しながら、製糸時の巻取りロールや糸道ガイドの摩耗および仮撚工程、撚糸工程、製織および製編工程における繊維と摺動部分での摩耗を低減させることが可能となった。しかしながら、近年の水着、インナー用途の防透け性要求レベルは年々高くなっており、従来の防透けレベルでは満足のいかないレベルとなっている。
【0005】
また、さらなる防透け性の向上として芯鞘複合糸の芯部に炭化珪素を含有させる技術が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、炭化珪素を含有させることにより防透け性は向上するが酸化チタンよりもコストが高く、ランニングコストがかかる。また、白色ではないため淡色への展開が難しい。
【0006】
また、水着、インナー用途においては優れた防透け性に加え、優れた吸水・汗処理性やストレッチ特性が要求される。織編物に吸水・汗処理性を付与する方法としては、2種類以上の異なる断面形状のフィラメント糸から構成されるポリエステルマルチフィラメント糸の少なくとも1種類のフィラメント糸が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸で、それ以外のフィラメント糸が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸から構成され、それぞれの断面形状のフィラメント糸が外層内層にランダムな状態で分散し、混繊されている混繊複合糸からなる織編物(特許文献5参照)などが提案されている。しかしながら、これらのポリエステル繊維は、ソフトな風合いや吸水性およびドライ感を目的とするために、不透明性を発揮する無機微粒子はほとんど含有されておらず、透けを防止する不透明感については全く考慮されていない。
【特許文献1】特開昭55−158331号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2003−227040号公報(第2頁)
【特許文献3】特開平11−269721号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2002−61032号公報(第2頁)
【特許文献5】特開2001−271251号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、ドライな風合いを得ることができると共に、優れたドレープ性、ふくらみ感を有し、従来にない優れた防透け性とUVカット効果を同時に満足することができる織編物などを提供できるポリエステル混繊糸およびその織編物などの布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は下記の構成を採用するものである。すなわち、
(1)芯部に酸化チタン微粒子が芯成分に対して2.0〜10.0重量%含有したポリエステル系芯鞘複合繊維からなる2種類以上の異なる断面形状のポリエステルマルチフィラメント糸からなり、一方が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸であり、他方が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であって、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊していることを特徴とするポリエステル混繊糸。
【0009】
(2)芯部の断面形状が鞘部と同一断面形状であることを特徴とする前記(1)記載のポリエステル混繊糸。
【0010】
(3)芯部と鞘部の断面積複合比率が90:10〜50:50であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のポリエステル混繊糸。
【0011】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリエステル混繊糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする布帛。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生糸使用でもドレープ性とドライ感を有し、さらに良好な吸水性と防透け性、UVカット性が得られるポリエステル混繊糸およびその織編物などの布帛を提供できる。特に、水着やインナー用途に展開すると、原糸の断面形状の吸水効果により、汗によるべたつき感から解放される。また、これらの用途では重要なセールスポイントである防透け性およびUVカット効果も同時に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
最初に本発明を構成する芯鞘複合繊維について説明する。本発明のポリエステル系芯鞘複合繊維の芯部はセラミックス、中でも酸化チタンを含有しているものである。該酸化チタンの含有率は、充分な防透け性を得るためには芯成分に対し2.0〜10.0重量%含有していることが好ましい。2.0重量%以上である程度の防透け性能が発現し、また、酸化チタン含有量が10.0重量%以下では酸化チタンの分散性が向上し紡糸時の濾過材の目詰まりが抑制されるため、長時間安定して紡糸することができる。
【0015】
また、芯部と鞘部の断面積複合比率は90:10〜50:50であることが好ましい。芯部断面積比率が50%以上であると高遮蔽性効果が充分発揮されるため、防透け性が得られる。また、芯部断面積比率が90%以下であると繊維の摺動部のガイドの摩耗など製糸性および高次通過性が良好となる。したがって、防透け性と製糸性および高次通過性を満足させることにより、さらに好ましい芯部と鞘部の断面積複合比率は80:20〜60:40である。
【0016】
複合形態は芯部と鞘部を実質的に同心状に配置させることが好ましい。ここでいう実質的に同心状とは芯部と鞘部が偏心していないことをいう。極端に偏ったり、芯部が表面に露出するようなことがあると本発明の目的とする効果が損なわれる。また芯部の最も薄い部分の厚みの下限は、製糸時および製織、製編時の摩擦によって生じる鞘部の摩擦による芯部の露出を制御するため0.2μm以上が好ましく、一方、鞘部の最も薄い部分の厚みの上限は防透け性効果の面から1.0μm以下とするのが好ましい。
【0017】
芯部断面形状は丸断面でも問題ないが、防透け性向上による芯部の断面積比率を上げるおよび光の分散効果をあげるためには鞘部形状と同形状とすることが好ましい。
【0018】
本発明の効果を発現するポリエステル系芯鞘複合繊維を紡糸する方法としては、公知の複合紡糸技術を採用することができ、特に限定するものではない。
【0019】
次に、本発明の混繊糸について説明する。本発明の混繊糸は、断面形状を異にするフィラメント糸が複合されてなるマルチフィラメント糸である。断面形状の種類は2種類以上であり、そのうち少なくとも1種類のフィラメント糸が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸からなり、それ以外のフィラメント糸は3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸から構成されていることが重要である。凹部を有することにより、入射光の分散効果が促進され、より防透け性能が向上する。
【0020】
図1〜図10は、繊維断面形状を説明する説明図である。図面を参照しながらさらに詳細に説明すると、本発明でいう凹部を有してない断面形状とは、同一断面において断面輪郭に接する接線を引いた時に、複数の接点を有しない断面形状を原則としていう。上記の凹部を有しない断面形状の具体例を挙げると、円形(図1)、楕円形(図2)、おにぎり型円形(図3)や3角形以上の多角形であって比較的角に丸みを持ったもの(図4)が挙げられる。これらには、図1に示すように、接線(L1)を引いた時に複数の接点は存在せず、1つの接点(S1)のみ存在する。
【0021】
一方、凹部を有する断面形状とは、同一断面において断面輪郭に接する接線(L2)を引いた時に、複数の接点(S2、S3)を有し、その接点間に凹部(U)を形成しており、その凹部と凹部の間に凸部が形成されている断面形状をいう。本発明においては、3〜8個の凹部を有する断面形状であることが重要であり、対称型あるいは非対称型のいずれでもよく、凹部の大きさに特に制限されるものではない。そのような断面形状としては、例えば、Y型(図5)、4葉型(図6)、6葉型(図7)、8葉型(図8)、櫛形(図9)などが挙げられる。これらには、図5に示すように、接線を引いた時に複数の接点を有する接線が存在する。凹部を有する断面形状において、織編物の風合いとして優れたドライ感を得るためには凹部が3〜6個が好ましい。凹部が3個未満あるいは8個を越える場合には、織編物の風合いとして上記のドライ感が得られないので好ましくない。
【0022】
本発明においては、凹部を有するフィラメント糸の異形度を10以上250以下とすることが好ましい。異形度を10以上とすることにより、繊維間空隙が確保され、毛細管効果による吸水性、汗処理性が向上し、さらに張りコシ感、ドレープ性も付与される。また、この高異形断面によりポリエステル特有のヌメリ感がなくなり、さらさらとしたドライタッチも得られるのである。250以下として擦過による断面形状の削れ、強いては毛羽を防止し、工程通過性を良好にさせる。
【0023】
ここでいう異形度とは、図5における凹部の最も凹んだ点(U)から接線S2−S3までの距離(H)と接点S2、S3間の距離(D)から下記式により算出される値である。
【0024】
異形度=(H/D)×100
図10に本発明の混繊糸の一例を示す断面概略図を示した。この図に示すように、円形(丸)断面と6葉型断面のフィラメント糸からなる複合繊維は、凹部を有する断面形状が形成する凸部(凹部と凹部の間に形成される突起状部分の)の存在と凹凸を有しない断面とがランダムに分散しているため、異形断面同士のかみ合いを防ぐことができ、ドライな風合いと、単糸間空隙による吸水、拡散性を可能とすることができる。
【0025】
本発明において、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸の混合比率(重量比)は20:80〜80:20であることが好ましい。40:60〜60:40であることがさらに好ましい。凹部を有する断面形状のフィラメント糸比率を80%以下とすることによって、断面形状の凹凸の効果による、撚数が増加した場合のザラツキ感を防ぐことが可能であり、反対に20%以上とすることにより凹部を有しない断面形状に独特のヌメリ感を防ぎ、サラッとしたドライな風合いが得られる。
【0026】
次に、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸との複合状態は、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムに混繊されていることが重要である。図11は本発明の混繊複合繊維の一例を示す側面概略図である。また、図11はインターレースノズルによる交絡が付与されたものを示している。一方、図12は従来の交互撚芯鞘2層構造糸を示す側面概略図、図13は従来の芯鞘多層構造糸を示す側面概略図である。図12および図13は太線で表された芯糸と細線で表された鞘糸とにより2層構造形態となっている。
【0027】
本発明の混繊糸は、図10あるいは図11に示すようにそれぞれの断面形状の糸が外層・内層にランダムな状態で分散していることで、追撚を施した時に、糸の表面においてそれぞれの断面形状が分散配置するので、凹部を有する断面と凹部を有しない断面との調和した複合効果によるサラッとしたドライ感が得られる。また、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で分散していることによって、追撚数を増加したとき凹部と凹部のかみ合いが起こりにくいことから嵩高性の減少を防ぎ、ふくらみ感を保持できるからである。
【0028】
一方、それぞれの断面形状のフィラメント糸が集合して構成される芯鞘2層構造形態を有する複合繊維の場合には、調和した複合効果によるサラッとしたドライ感が得られず好ましくない。
【0029】
本発明の芯成分、鞘成分それぞれのポリエステルとしては、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンフタレートなどが挙げられるが、中でも前者のテレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜6のアルキレングリコール成分、すなわちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコールおよびヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも一種のグリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルを対象とする。
【0030】
なお、このポリエステルはそのテレフタル酸成分を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えても良い。かかるカルボン酸としては、たとえばイソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンカルボン酸、β−オキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族カルボン酸などを挙げることができる。
【0031】
また、上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分で置き換えてもよく、かかるグリコール成分としては例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、2,2−ビス〔3,5−ジブロモ−4−(2−ハイドロキシエトキシ)フェニル〕プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。
【0032】
さらに、上述のポリエステルに必要に応じて他のポリマを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸などの鎖分岐剤を少割合使用したものであっても良い。
【0033】
本発明のポリエステルマルチフィラメント糸に用いる油剤は脂肪酸エステルやポリエーテル系油剤が好ましい。また、必要に応じて脂肪酸エステルとポリエーテル系油剤を併用しても良い。
【0034】
本発明の混繊複合繊維は凹部を有しない糸と凹部を3〜8個有する断面糸との組み合わせによる形状の効果により吸水性が優れている。また、アルカリ減量処理を実施すると繊維表面の凹凸効果によりさらに吸水性が向上する。バイレック法による吸水性が30mm以上、滴下法による拡散速度が15秒以下となることで吸水性・汗処理性が良好となり、衣服としたときの着用快適性が良好となるため好ましい。
【0035】
なお、バイレック法による吸水性の測定は、JIS L 1097:2004「繊維製品の吸水性試験方法」に規定されているバイレック法を準用し、次の方法で行った。まず、サンプルとして200mm×25mmの試験片をたて、よこ方向にそれぞれ5枚採取する。次に水(JIS K 0050に規定するもので、その温度は20℃±2℃とする)を入れた水槽の水面上に支えた水平棒上に試験片をピンなどで固定した後、水平棒を降下させて、試験片の下端が水に浸せきするように調整し、そのまま10分間放置する。放置後、毛細管現象によって水が上昇した高さをスケールで1mmまで測定し、たて、よこそれぞれの5回の平均値で表す(整数位まで)。また、水の上昇した高さが読みとりにくい場合は、水の代わりに水溶性染料を薄く水に溶かした水溶液を用いてもよい。
【0036】
また、滴下法による吸水性の測定は、JIS L 1097:2004「繊維製品の吸水性試験方法」における滴下法を準用し、次の方法で行った。まず、サンプルとして約200mm×約200mmの試験片を5枚採取する。次に試験片を試験片保持枠に取り付け、試験片の表面からビュレットの先端までが10mmの高さになるように調整し、ビュレットから水(JIS K 0050に規定するもので、その温度は20℃±2℃とする)を1滴滴下させ、水滴が試験片の表面に達したときからその水滴が特別な反射をしなくなるまでの時間をストップウォッチで0.5秒まで測定し、5回の平均値で表す(整数位まで)。
【0037】
また、それぞれの断面形状のフィラメント糸を構成するものとしては、別々の断面形状のフィラメント糸を構成するものであるが、目的を満足する範囲内で別々のポリマー種であっても良い。
【0038】
凹部を有しない断面形状のフィラメント糸の単糸繊度D1と凹部を有する断面形状フィラメント糸の単糸繊度D2の関係は0.5≦D2/D1≦2.0が好ましく、D1、D2はいずれも1.11dtex以上11.11dtex以下であることが良い。D2/D1が0.5以上であることによって、凹部を有する断面形状のフィラメント糸の効果によりヌメリ感を防ぐことができ、D2/D1が2.0以下とすることにより、凹部を有する断面形状フィラメント糸のザラザラ感を強調しすぎることなくサラッとした風合いを得られる。
【0039】
本発明の混繊糸を用いて得られる織編物は、従来の芯鞘2層構造を有する複合構造仮撚加工糸を用いて得られる織編物とは異なる、優れたドレープ性を有し、ドライな風合い効果の織編物を得ることができる。
【0040】
次に、本発明の混繊糸を製造する方法について説明する。本発明の混繊糸は、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸が混繊されたポリエステル未延伸糸または半延伸糸を得、次いで延伸あるいは延伸仮撚加工を施すことにより得ることが出来るが、重要なことは、紡糸工程の引き取りローラーに引き取られる前に混繊集束し、異なる断面形状のフィラメント糸が混繊されたポリエステル未延伸糸または半延伸糸とすることである。具体的にはたとえば、図14〜図16に示す工程により得ることができる。
【0041】
図14〜図16は、それぞれ本発明の混繊複合繊維を得る方法の例を示す工程概略図である。図14は、少なくとも1種類が凹部を有しない形状で、それ以外の形状が3〜8個の凹部を有する形状であって、2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される1枚の口金1(A)から紡出された糸条を給油ガイド3により収束・給油し、その後インターレースノズル4により混繊収束し、引き取りローラー5に引き取り、パッケージ6に巻き取る方法を示す。
【0042】
図15には凹部を有しない形状の紡糸孔で構成される1枚の口金1(B)、一方は3〜8個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金1(C)からそれぞれ紡出された糸条を給油ガイド3により集束・給油し、その後インターレースノズル4によって混繊集束し、引き取りローラー5に引き取り、パッケージ6に巻き取る方法を示す。
【0043】
図16には凹部を有しない形状の紡糸孔で構成される1枚の口金1(B)、一方は3〜8個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金1(C)からそれぞれ紡出された糸条をそれぞれ給油ガイド3により集束・給油し、その後インターレースノズル4によって混繊集束し、引き取りローラー5に引き取り、パッケージ6に巻き取る方法を示す。
【0044】
なかでも、各構成フィラメント糸の混繊状態および生産性の観点より、少なくとも1種類が凹部を有しない形状で、それ以外の形状が3〜8個の凹部を有する形状であって、2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される一枚の紡糸口金から、溶融したポリエステル重合体を紡出する方法が好ましく、図14で生産することが好ましい。
【0045】
本発明で用いられる2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される一枚の紡糸口金とは、たとえば図17〜図20に示すように、同心円状に窄孔されたもの(図17)、群配列されたもの(図18)、格子状に窄孔されたもの(図19、図20)などが挙げられる。なお、図中の○は凹部を有しない形状の紡糸孔、×は凹部を有する形状の紡糸孔を示す。
【0046】
一方、凹部を有するフィラメント糸を紡糸して一旦巻き取り、それとは別に凹部を有しないフィラメント糸を紡糸して一旦巻き取った糸をその後引き揃えて混繊加工し得られたポリエステル未延伸糸または半延伸糸を延伸する方法では、混繊状態が外層・内層にランダムとならないので好ましくない。
【0047】
また、生産性向上の観点から、一枚の口金から複数の糸条を巻き取る方法も好ましく採用できる。
【0048】
上記の方法により得られたポリエステル未延伸糸または半延伸糸を延伸することによって、各断面形状のフィラメント糸が実質的に芯鞘2層構造を形成することなく、各単糸がランダムな状態で外層から内層まで分散している混繊複合繊維とすることができる。
【0049】
本発明の製造方法において各断面形状のフィラメント糸が実質的に芯鞘2層構造を形成することなく、各単糸が比較的ランダムな状態で外層から内層まで分散している混繊複合繊維とすることができるのは、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸の形状の相違から、紡糸工程における冷却速度や紡糸張力の差などにより、断面形状の異なるフィラメント間において配向度差を有する糸が得られ、それを延伸すると、断面形状の異なるフィラメント間に延伸張力差が生じ、外層・内層にランダムな状態で分散し、混繊された延伸糸が得られると考えられる。また、得られた延伸糸は熱水処理時に断面形状の異なるフィラメント間において異なった収縮挙動を示すことからふくらみを生むものと考えられる。
【0050】
また、本発明の混繊複合繊維の製造工程において、延伸を行った後、巻き取る前にインターレースノズルにより単糸間に交絡を付与することはさらに効果的である。混繊複合繊維が芯・鞘2層構造でないため、凹部を有する断面形状のマルチフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のマルチフィラメント糸の混繊効果を高め、マイグレーションさせることによって本発明の効果を大きくすることができるので好ましい。また、それはいわゆる混繊複合繊維の後工程での通過性を高めるという効果も奏する。後工程通過性が悪いと、織編物としたときに布の表面形態の品質低下を招きやすくなる。交絡数は10以上100未満であること好ましい。10以上で混繊効果が発現し、ドライ感を奏し、また、工程通過性も改善する。100未満ではマイグレーションノズルとの擦過が小さくなり、毛羽を紡糸し工程通過性が改善する。
【0051】
ここでいう交絡度とは、エンタングルメントテスターR2060を用い、糸速5m/min、トリップレベル15cNでの触針トリップ回数30回に達する長さを測定し、下記式より算出した。
交絡度=(30×1000)/[30回トリップするまでの開繊長合計]
本発明のポリエステル混繊糸を少なくとも用いて、織物、編物などの布帛とすることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述するが、これら実施例のみに本発明の範囲が限定されるものではない。なお、実施例中の原糸、織編物の特性値は、「発明を実施するための最良の形態」中に記載の方法により評価した。
(1)製糸性
168時間(7日間)連続紡糸を行い、製糸性を次の判定方法に従った。
【0053】
◎:糸切れ率が3.0%未満
○:糸切れ率が3.0%以上5.0%未満
△:糸切れ率が5.0%以上7.0%未満
×:糸切れ率が7.0%以上
−:評価不可
(2)防透け性
5cm×5cmの編物サンプル5枚をSMカラーコンピュータ型式SM−3(スガ試験機(株)製)を用いて透過率を測定し、平均値で評価した(n=5)。
【0054】
◎:透過率 4%未満
○:透過率 4%以上7%未満
△:透過率 7%以上10%未満
×:透過率 10%以上
(3)吸水・汗処理性
編物サンプルにおけるバイレック法による吸水高さと滴下法による拡散速度より、下記の通り3段階で評価した。◎、○が本発明の目標レベルである。
【0055】
◎:吸水高さが50mm以上かつ拡散速度が10秒以下
○:吸水高さが30mm以上かつ50mm未満かつ拡散速度が15秒以下、或いは吸水高さが30mm以上かつ拡散速度が10秒超過15秒以下
×:吸水高さが30mm未満または拡散速度が15秒超過
実施例1
芯部に酸化チタン(チタン工業製 KA−30改)を5.7重量%含有したポリエステルを用い、丸孔24穴、六葉型(ヘキサローバル型)孔24孔を図17に示すように配した口金を用い、図14のような工程により3000m/分の速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。得られた混繊複合繊維の糸断面を包埋法による光学顕微鏡観察をした結果、図10に示すように、丸断面形状とヘキサローバル断面が内層・外層にランダムに分散した状態の構造からなるマルチフィラメント糸であった。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0056】
実施例2
実施例1と同一組成のポリエステルを丸孔24穴、四葉型孔24穴を図17に示すように配した口金を用い、図14に示すような行程により3000m/分の速度で紡糸し、148デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に結果を示す。
【0057】
実施例3
芯部に酸化チタン(チタン工業製 KA−30改)を4.0重量%含有したポリエステルを用い、丸孔24穴、六葉型(ヘキサローバル型)孔24孔を図17に示すように配した口金を用い、図14のような工程により3000m/分の速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0058】
実施例4
芯部に酸化チタン(チタン工業製 KA−30改)を6.0重量%含有したポリエステルを用い、丸孔24穴、六葉型(ヘキサローバル型)孔24孔を図17に示すように配した口金を用い、図14のような工程により3000m/分の速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0059】
実施例5
芯部に酸化チタン(チタン工業製 KA−30改)を6.2重量%含有したポリエステルを用い、丸孔24穴、六葉型(ヘキサローバル型)孔24孔を図17に示すように配した口金を用い、図14のような工程により3000m/分の速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0060】
比較例1
芯部に酸化チタン(チタン工業製 KA−30改)を1.0重量%含有したポリエステルを用い、丸孔24穴、六葉型(ヘキサローバル型)孔24孔を図17に示すように配した口金を用い、図14のような工程により3000m/分の速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0061】
比較例2
実施例1と同一組成のポリエステルを丸孔48穴を配した口金を用い、図14に示すような行程により3000m/分の速度で紡糸し、148デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0062】
比較例3
実施例1と同一組成のポリエステルを丸孔48穴を配した口金を用い、図14に示すような行程により3000m/分の速度で紡糸し、148デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0063】
比較例4
実施例1と同一組成のポリエステルを六葉型(ヘキサローバル型)孔48穴を配した口金を用い、図14に示すような行程により3000m/分の速度で紡糸し、148デシテックス48フィラメント、交絡数20の半延伸糸を得た。この半延伸糸を常法に従って延伸倍率1.74、HR温度130℃、延伸速度450m/分で延伸し、繊度85デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0064】
比較例5
実施例1と同一組成のポリエステルを紡糸、延伸して得たポリエステルフィラメントで8個の凹部を有するオクタローバル糸(84デシテックス36フィラメント)と、それとは別に同様のチップを紡糸、延伸して得たポリエステルフィラメントで凹部を有しない丸断面糸(84デシテックス36フィラメント)とを引き揃え、混繊交絡処理を施して1本の混繊複合繊維を得た。得られた混繊複合繊維の糸断面を包埋法による光学顕微鏡観察をした結果、丸断面形状とオクタローバルが2層に分かれた状態の構造からなるマルチフィラメント糸であった。この混繊複合繊維を丸編物を作成した。表1に評価結果を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1〜5は吸水性、汗処理性ともに優れ、ドライな風合いを有したものとなった。また、防透け効果も良好なものとなった。
これに対し、比較例1では酸化チタンの含有量が少ないために、防透け性が悪く不充分であった。比較例2は酸化チタン含有量が多く、表面に露出されているため、製糸性が悪化した。比較例3は凹部を有しない断面のみよりなるフィラメントで構成されており、吸水性、汗処理性、ドライ感が悪く、防透け性も不充分であった。比較例4は凹部を有する断面のみよりなるフィラメントで構成されており、吸水性、汗処理性、ドライ感が悪かった。比較例5は凹部を有する断面糸と凹部を有しない断面糸をそれぞれ別々に紡糸、延伸し、後混繊により混繊複合繊維を得ており、凹部を有する断面と凹部を有しない断面が2層に分かれており、凹部を有する断面がかみ合うことにより単糸間の空隙が十分にとれないため、バイレック法による吸水高さが低い上に滴下法による吸水拡散速度も低いものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】繊維断面形状の説明図である。
【図2】凹部を有しないフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図3】凹部を有しないフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図4】凹部を有しないフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図5】繊維断面形状の説明図である。
【図6】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図7】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図8】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図9】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図である。
【図10】本発明の混繊複合繊維の一例を示す断面概略図である。
【図11】本発明の混繊複合繊維の一例を示す側面概略図である。
【図12】従来の交互撚芯鞘2層構造糸を示す側面概略図である。
【図13】従来の芯鞘多層構造糸を示す側面概略図である。
【図14】本発明の混繊複合繊維を得る方法の一例を示す工程概略図である。
【図15】本発明の混繊複合繊維を得る方法の他の一例を示す工程概略図である。
【図16】本発明の混繊複合繊維を得る方法のさらに他の一例を示す工程概略図である。
【図17】本発明で用いられる口金の一例を示す平面概略図である。
【図18】本発明で用いられる口金の他の一例を示す平面概略図である。
【図19】本発明で用いられる口金のさらに他の一例を示す平面概略図である。
【図20】本発明で用いられる口金のさらに他の一例を示す平面概略図である。
【符号の説明】
【0068】
1:口金
2:チムニー
3:給油ガイド
4:インターレースノズル
5:引き取りローラー
6:パッケージ
A:2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される1枚の口金
B:凹部を有しない形状の紡糸孔で構成される1枚の口金
C:3〜8個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部に酸化チタン微粒子が芯成分に対して2.0〜10.0重量%含有したポリエステル系芯鞘複合繊維からなる2種類以上の異なる断面形状のポリエステルマルチフィラメント糸からなり、一方が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸であり、他方が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であって、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊していることを特徴とするポリエステル混繊糸。
【請求項2】
芯部の断面形状が鞘部と同一断面形状であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル混繊糸。
【請求項3】
芯部と鞘部の断面積複合比率が90:10〜50:50であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル混繊糸。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル混繊糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする布帛。
【請求項1】
芯部に酸化チタン微粒子が芯成分に対して2.0〜10.0重量%含有したポリエステル系芯鞘複合繊維からなる2種類以上の異なる断面形状のポリエステルマルチフィラメント糸からなり、一方が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸であり、他方が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であって、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊していることを特徴とするポリエステル混繊糸。
【請求項2】
芯部の断面形状が鞘部と同一断面形状であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル混繊糸。
【請求項3】
芯部と鞘部の断面積複合比率が90:10〜50:50であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル混繊糸。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル混繊糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする布帛。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−81862(P2008−81862A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260957(P2006−260957)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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