説明

防錆シート

【課題】 銀、銅製品の腐食を防止するための包装材として、酸化亜鉛の硫化水素吸着能を十分に発揮させた防錆シートを提供する。
【解決手段】 レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が0.2μmを超え、1.0μm以下であり、且つ硫化水素吸着容量が0.01〜1.0mmol/gである酸化亜鉛、およびバインダーを混合してなる塗工液を、支持体の少なくとも片面に塗布又は含浸させてなる。前記塗工液における含有質量比率(酸化亜鉛/バインダー固形分)は、95/5〜70/30であることが好ましく、前記支持体単独の透気度に対する、前記防錆シートの透気度増加量が200秒以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接点や導線等の、銀製、銅製部材や部品を含む物品、硫化水素による腐食が問題となる物品を包装するための防錆シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
接点や導線等、銀や銅を主要材料とする部材や部品が、電気製品には多く用いられている。これらの部材は、比較的耐食性に優れているものの、硫化水素による腐食は免れがたい。特に、自動車の出入りが激しい倉庫などにこれらの製品が保管されている場合、自動車からの排気ガスに含まれる硫化水素が原因となって銀製や銅製部品、部材を激しく腐食し、製品の品質低下をもたらす。
【0003】
このため、硫化水素を吸着させる性能を持たせた包装材料で、これらの部品を包装して、保管することが提案されている。
例えば、特開昭63−99399号公報(特許文献1)には、活性炭微粉末;銅、亜鉛等の金属化合物;およびバインダーを含有する組成物を板紙に塗布又は含浸させてある防食用板紙が提案されている。
【0004】
特許文献1の防食用板紙は、活性炭及び金属化合物が相乗的に作用して、硫化水素やメルカプタンを吸着固定している。特許文献1で用いられている組成物は、金属化合物として硫酸銅、バインダーとしてSBRラテックスを使用し、分散性の向上のために界面活性剤を含有させた水性組成物である。
【0005】
また、特開2003−52800号公報(特許文献2)には、比表面積40〜100m/g、且つ硫化水素消臭容量が3mmol/g以上、走査型電子顕微鏡で測定される一次粒子径が0.2μm以下である微粒子酸化亜鉛からなる消臭剤が提案されており、当該消臭剤を紙の抄紙工程で導入したり、バインダーとともに分散させた液体を紙に塗布、浸漬することが提案されている。そして、実施例では、当該酸化亜鉛3質量部、アクリル系バインダー3質量部を添加した塗布用懸濁液(段落番号0051)、キシレン溶剤100質量部に対して、アクリル樹脂70質量部及び分散剤3質量部、酸化亜鉛200質量部含有した塗布用のペースト状組成物(段落番号0055)が開示されている。
【0006】
また、特開2006−124819号公報(特許文献3)には、銀製品の表面の変色抑制方法として、一次粒子径が0.1μm以下の酸化亜鉛、酸化チタン等の無機酸化物を混入してなるアクリル系樹脂塗料を、厚み0.2〜10μm塗布することが開示されている。銀の色調を損なわないために、透明性に優れたアクリル樹脂系塗料を用いているが、吸着剤である無機酸化物とアクリル樹脂塗料との含有割合などについての開示はない。
【特許文献1】特開昭63−99399号公報
【特許文献2】特開2003−52800号公報
【特許文献3】特開2006−124819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、包装材料に、酸化亜鉛及びバインダーを含有する組成物を塗布等することにより、腐食の原因となる硫化水素の吸着能を付与した包装材料が種々提案されているが、近年の製品の精密化、高性能化への高まりから、銀製、銅製部材や部品への耐腐食に対する要求は高く、未だ満足するものは得られていない。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、酸化亜鉛の硫化水素吸着能を十分に発揮させた包装材料としての防錆シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、バインダーの種類、酸化亜鉛とバインダーの含有比率、塗工量などを種々に検討した結果、本発明にいたった。
すなわち、本発明の防錆シートは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が0.2μmを超え、1.0μm以下であり、且つ硫化水素吸着容量が0.01〜1.0mmol/gである酸化亜鉛、およびバインダーを混合してなる塗工液を、支持体の少なくとも片面に塗布又は含浸させてなるものである。
【0010】
前記塗工液における前記バインダー固形分に対する前記酸化亜鉛の含有質量比(酸化亜鉛/バインダー固形分)は、95/5〜70/30であることが好ましい。また、前記支持体単独の透気度に対する、前記防錆シートの透気度増加量が200秒以下であることが好ましい。さらに、前記酸化亜鉛は、本発明の防錆シート中に3g/m以上含有されていることが好ましい。
【0011】
前記バインダーとして水性エマルジョンを用いていることが好ましく、前記塗工液は、水を分散媒として用いたものであることが好ましい。
【0012】
また、前記支持体の塩素イオン量が5〜200ppmであり、且つ硫酸イオン量が30〜150ppmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防錆シートは、特定の酸化亜鉛をバインダーで支持体に付着させたもので、酸化亜鉛とバインダーの含有比率を調整することで、酸化亜鉛による硫化水素の吸着が有効に発揮され、銀製、銅製部品を含む被包装物の腐食を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の防錆シートは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が0.2μmを超え、1.0μm以下であり、且つ硫化水素吸着容量が0.01〜1.0mmol/gである酸化亜鉛、およびバインダーを混合してなる塗工液を、支持体の少なくとも片面に塗布又は含浸させてなるものである。
【0015】
〔塗工用組成物〕
はじめに、本発明の防錆シート作成に用いられる塗工液(塗工用組成物)について説明する。
本発明で用いられる酸化亜鉛は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される平均粒子径が0.2μmを超え、1.0μm以下であり、好ましくは0.2μmを超え、0.8μm以下であり、より好ましくは0.7μm以下のものである。
ここで、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される平均粒子径とは、水系分散液の状態で測定される平均粒子径で、数平均粒子径に該当する。
【0016】
また、本発明で用いられる酸化亜鉛は、硫化水素吸着容量が0.01〜1.0mmol/gである。ここで、硫化水素吸着容量は以下の方法によって測定した値である。所定の大きさのろ紙などに酸化亜鉛を所定量担持し、乾燥した後、空気を通さないガスバッグ(商品名テドラーバッグなど)内に入れた後に密封し、硫化水素を注入する。注入時と一定時間後のガスバッグ内の濃度を何点か測定し、ガスバッグ内の残存濃度がほとんど下がらなくなった時点の濃度を記録する。この際の初期濃度と一定時間後の濃度差から酸化亜鉛が除去したガス量を計算し、この値をガスのモル濃度に変換する。このモル濃度を酸化亜鉛担持量で割ることにより、酸化亜鉛1gあたりの吸着容量を算出する。
【0017】
本発明で用いられるバインダーは、酸化亜鉛を支持体に固着させるための役割を有する。
バインダーとしては、水又は水系媒体を分散媒とするエマルジョンタイプのバインダーが好ましく用いられる。具体的には、アクリル樹脂エマルジョン、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)ラテックス、NR(ニトリルゴム)ラテックスなどが挙げられる。このようなエマルジョン型バインダーは、酸化亜鉛との含有比率を調整することで、ポーラスな塗膜を形成することができる。
【0018】
上記アクリル樹脂エマルジョンは、アクリル酸エステル若しくはメタクリル酸エステル(以下、両者を区別しないときは「(メタ)アクリル酸エステル」と総称する)のホモポリマー又はコポリマーあるいは(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な1種または2種以上のモノマーとの共重合体である。
【0019】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステルが用いられる。
【0020】
上記共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;スチレン、ビニルトルエン、ビニルピロリドン等の芳香族ビニル化合物や複素環式ビニル化合物;アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類、;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類などが挙げられる。
【0021】
以上のようなエマルジョンタイプのバインダーの固形分と酸化亜鉛とは、塗工用組成物において、バインダー固形分:酸化亜鉛(質量比)が、5:95〜30:70となる範囲で含有されることが好ましい。より好ましくは8:92〜20:80であり、さらに好ましくは9:91〜15:85である。
バインダー含有比率が多くなりすぎると、ガス透過性に優れポーラスな塗工層が得られにくくなり、捕捉すべき硫化水素を塗膜表面でしか得ることができなくなり、酸化亜鉛による硫化水素吸着効果が十分発揮できない傾向にある。
【0022】
塗工用組成物には、上記バインダー、酸化亜鉛のほか、必要に応じて、公知の添加剤、例えば、顔料、消泡剤、濡れ剤、防腐剤、分散剤、増粘剤、帯電防止剤等の各種助剤を適宜添加してもよい。
【0023】
本発明で用いられる塗工用組成物は、以上のような成分を、分散媒に分散させてなる分散液である。
分散媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールまたはこれらの混合物が用いられる。これらのうち、特に水が好ましく用いられる。酸化亜鉛の水分散液、エマルジョン型バインダーを混合することで、これらの成分の分散媒が組成物の分散媒となってもよいし、これらの成分を、分散媒に添加混合することにより、組成物(塗工液)を調製してもよい。
【0024】
〔支持体〕
本発明の防錆シートに用いられる支持体としては、紙、一般防錆紙、表面に顔料、ラテックス等を塗工したコーテッド紙、ポリオレフィン系樹脂の合成紙、プラスチックフィルム、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等を紙にラミネートしてなる積層体、或いはこれらの複合シート等から選ぶことができる。
ここで、一般防錆紙とは、紙に従来から用いられている揮発性の防錆剤を含浸させたもので、気化した防錆剤が被包装物表面に付着することにより、主として卑金属に対して防錆効果を発揮するものである。防錆剤としては、例えば、亜硝酸ジシクロヘキシルアンモニウム、カプリル酸ジシクロヘキシルアンモニウム、炭酸ジシクロヘキシルアンモニウム、亜硝酸ジイソプロピルアンモニウム、安息香酸モノエタノールアンモニウム、安息香酸ソーダ、安息香酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸イソプロピル、安息香酸ブチル、桂皮酸ブチル、カルバミン酸アンモニウム、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、メチルモルホリン、エチルモルホリン、ヘキサメチレンテトラミン、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、尿素、チオ尿素、亜硝酸ソーダ等を用いることができ、被包装物の種類に応じて適宜選択される。
【0025】
前記支持体の塩素イオン量は5〜200ppmであることが好ましく、より好ましくは5〜150ppmである。また、支持体の硫酸イオン量は30〜150ppmであることが好ましく、より好ましくは30〜100ppmである。塩素イオン、硫酸イオン自体が錆発生の原因となる場合があり、支持体におけるこれらの含有量を低く抑えることにより、防錆シートによる防錆効果を有効に発揮させることが可能となる。
【0026】
ここで、支持体の塩素イオン量、硫酸イオン量とは、JIS P8144「紙、板紙およびパルプ水溶性塩化物の分析方法」8及び9aに記載の前処理を行った後、イオンクロマト法(例えダイオネクス社製のICS−2000型使用)により測定される量で、支持体(質量)に対する濃度をいう。なお、上記前処理とは、三角フラスコに、約5mm×5mmに裁断した試料(絶乾相当量約12g)を精坪し、純水(約125ml)をいれ、還流冷却器つきウォーターバスで熱水抽出(1時間)、室温にもどした後、200mlメスフラスコでメスアップし、0.45μmクロマトディスクでろ過することにより行う。
【0027】
〔防錆シートの製造〕
上記支持体の少なくとも一面に、上記塗工用組成物(塗工液)を塗布又は含浸して、防錆シートを作成する。
塗工量は、塗工用組成物におけるバインダー及び酸化亜鉛の含有量にもよるが、支持体の透気度に対する、最終的に得られる防錆シートの透気度増加量が200秒以下となる量であることが好ましく、より好ましくは150秒以下、さらに好ましくは120秒以下である。
【0028】
透気度増加量が200秒を超えると、防錆シート中に酸化亜鉛が所定量含有されていても、期待する硫化水素吸着量が得られない傾向にあるからである。このことは、塗工用組成物の塗布又は含浸により形成された塗工層が緻密な塗膜となって、塗膜内部あるいは支持体内部に含浸された酸化亜鉛が硫化水素の吸着に寄与しないためではないかと考えられる。
【0029】
ここで、支持体単独及び防錆シートとしての透気度は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2:2000に準じて、王研式透気度計(旭精工社製デジタル型王研式透気度・平滑度試験機)を用いて測定される値である。
【0030】
塗工液の塗布量は、上記要件を満足できる量であればよく、塗工用組成物の組成にもよるが、通常、乾燥後塗布量で、3〜20g/m程度が好ましく、6〜18g/m程度がより好ましく、7〜15g/m程度がさらに好ましい。
【0031】
塗布または含浸方法としては、例えば、バーコーティング、エアナイフコーティング、ロールコーティング、バリバーブレードコーティング、ピュアブレードコーティング、グラビアコーティング、ロッドコーティング、ショートドウェルコーティング、カーテンコーティング、ダイコーティング等の従来公知の塗布または含浸方法がいずれも採用できる。
【0032】
なお、支持体として、紙、コーテッド紙等の両面から水性媒体を吸収できる支持体を用いた場合、塗工用組成物の塗工は片面または両面のいずれでもよい。作製された防錆シートは、酸化亜鉛塗工面が内側となるように、包装することが好ましい。これにより、外気に含まれる硫化水素が包装体内に進入することを防止し、被包装物を硫化水素から保護することができる。
【0033】
一般防錆紙を支持体として用いる場合、防錆剤が塗布された面と反対側の面に、塗工用組成物を塗布または含浸させる。作製された防錆シートは、酸化亜鉛塗工面が外表面側となるように、包装することが好ましい。これにより、外気に含まれる硫化水素が包装体内に進入することを防止し、被包装物を硫化水素から保護することができるとともに、包装体内部に、包装材料の内表面側に塗工された防錆剤が気化して、被包装物に含まれる亜鉛、ニッケル、鉄などの卑金属の腐食を防止することができる。
【0034】
さらに、支持体として、紙とオレフィン系樹脂フィルムとの積層体を用いた場合、紙面に塗工用組成物を塗布または含浸させた防錆シートを作製する。作成した防錆シートは、オレフィン系樹脂フィルムが外表面、酸化亜鉛塗工面が内側となるように、包装することが好ましい。これにより、オレフィン系樹脂フィルムが、包装体内への外気、湿分の浸透を防止するとともに、オレフィン系樹脂フィルムを通過した硫化水素、又は包装内にもとから存在していた硫化水素を酸化亜鉛が吸着することで、包装体内雰囲気まで浸透することを防止して、硫化水素から被包装物を保護することができる。
【0035】
本発明に係る塗工用組成物の塗布又は含浸により、酸化亜鉛が支持体表面に付着又は内部に含浸される。防錆シート中の酸化亜鉛の含有量は、3g/m以上が好ましく、より好ましくは6g/m以上であり、さらに好ましくは7g/m以上である。含有量の上限は特に規定しないが、13g/m程度で吸着効果は飽和するので、コスト面から13g/m程度以下とすることが好ましい。
【0036】
防錆シート中の酸化亜鉛量は、原則としては、塗工液組成と塗工量(固形分量)により求められる量である。具体的には、1/10米坪に裁断した支持体重量をB、塗工により作成した1/10米坪の防錆シートを105±5℃で20分間乾燥した後の重量をCとして、下記式により算出される塗工量Wから、組成物中の全固形分量に対する酸化亜鉛含有比率から求められる。
W=A(C−B)
式中、Aは米坪換算のための倍率である。
【0037】
塗工液組成が既知の場合、塗工液に含有される酸化亜鉛が防錆シート作製中に塗工層から脱落しない場合などは上記のようにして酸化亜鉛量を求めればよい。他の方法としては、X線回折から酸化亜鉛を同定し、さらに蛍光X線分析装置で、防錆シート中の酸化亜鉛量を直接測定することもできる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論これらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「部」は「質量部」を示す。
【0039】
〔測定評価方法〕
(1)酸化亜鉛の平均粒径
塗工液の調製に用いた酸化亜鉛分散液を、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社のSALD2000)で測定した。測定される平均粒径は、数平均粒径である。
【0040】
(2)硫化水素吸着率
3Lのテドラーバックに6.5cm角の本発明の防錆シートを入れ、さらに170ppmの硫化水素を1L入れ、3時間後の硫化水素濃度を測定する。残存する硫化水素濃度から硫化水素吸着率を算出した。硫化水素が検出できなかった場合、硫化水素吸着率を100%とした。
【0041】
(3)透気度及び透気度増加量
透気度は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2:2000に準じて、王研式透気度計(旭精工社製デジタル型王研式透気度・平滑度試験機)を用いて測定する。
透気度増加量は、防錆シートの透気度から、支持体の透気度を差し引いて算出した。
【0042】
(4)塩素イオン量及び硫酸イオン量
JIS P8144「紙、板紙およびパルプ水溶性塩化物の分析方法」8及び9aに記載の前処理を行った。すなわち、三角フラスコに、約5mm×5mmに裁断した試料(絶乾相当量約12g)うぃ精坪し、純水(約125ml)をいれ、還流冷却つきウォーターバスで熱水抽出(1時間)、室温にもどした後、200mlメスフラスコでメスアップし、0.45μmクロマトディスクでろ過した。処理後の試料について、イオンクロマト法(ダイオネクス社製のICS−2000型)を用いて、塩素イオン量及び硫酸イオン量を測定し、支持体(質量)に対する濃度を求めた。
【0043】
(5)酸化亜鉛の含有量
1/10米坪に裁断した支持体重量をB、塗工により作成した1/10米坪の防錆シートを105±5℃で20分間乾燥した後の重量をCとして、下記式により算出される塗工量Wから、組成物中の固形分量に対する酸化亜鉛含有比率から求めた。
W=A(C−B)
式中、Aは米坪換算のための倍率である。
【0044】
(6)防錆試験
ダイオード端子(支持体が銅製で表面が銀メッキ)を防錆紙(商品名:SS−1、王子製紙社製)で包装後、更に、作製した防錆シートを用いて包装した。得られた包装物を、フォークリフトの通行量の多い(排ガスが多い)倉庫内で、1週間保管した後、包装物を開封し、ダイオード端子の表面における変色、黒化(銀の錆)の有無を観察した。
【0045】
〔バインダーの種類と防錆シート透気度の関係〕
防錆シートNo.1〜3
酸化亜鉛の40%分散液(商品名;ZCL−9214、平均粒子径:0.40μm、硫化水素消臭容量:0.25mmol/g、ゼオン化成社製)を固形分換算で90質量%、バインダーを固形分換算で10質量%配合し、混合撹拌して固形分濃度30%の水性塗工液を調製した。バインダーとしては、アクリル樹脂エマルジョン(ニチゴー・モビニール社のモビニール8060(スチレン−アクリル酸エステル共重合体の水性エマルジョンの商品名))、スチレン/ブタジエンラテックス(旭化成社のL1571)、ポリビニルアルコール(商品名:PVA117、クラレ社製)水溶液を用いた。
支持体として、未晒し中性クラフト原紙(米坪:60g/m、透気度:28秒、塩素イオン量53ppm、硫酸イオン量80ppm)を使用し、この片面に、上記で調整した塗工液を、乾燥後の塗布量が10g/mになるように塗工し、防錆シートを作製した。
作製した防錆シートNo.1〜3の硫化水素吸着率及び透気度を測定するとともに、防錆試験を行った。結果を表1に示す。なお、塗工量及び塗工用組成物から算出される亜鉛含有量は、9g/mである。
【0046】
【表1】

【0047】
バインダーの種類によって、防錆シートの透気度増加量が異なることがわかる。そして、透気度増加量が大きいほど、硫化水素吸着率が低下し、透気度増加量が372秒で硫化水素吸着率が73%のNo.3では、一部、錆の発生が認められた。これらの結果は、バインダーとしてポリビニルアルコールを用いると、塗工液の優れた流延性に基づいて、支持体上に平滑性の高い塗膜が形成されて塗工層内部の酸化亜鉛の硫化水素吸着に対する寄与が低いためではないかと考えられる。一方、No.1、2では、透気度増加量が100秒以下で、硫化水素吸着率も高く、錆の発生は認められなかった。アクリル樹脂エマルジョンやSBRラテックスを用いた場合には、ポーラスな塗膜を形成することができ、これにより、塗工層内部に含まれる酸化亜鉛も表層の酸化亜鉛と同様に、硫化水素吸着に寄与できたためではないかと考えられる。
【0048】
〔バインダー固形分と酸化亜鉛の含有比率〕
防錆シートNo.4〜7
酸化亜鉛の40%分散液(商品名;ZCL−9214、平均粒子径:0.40μm、硫化水素消臭容量:0.25mmol/g、ゼオン化成社製)及び前記アクリル樹脂エマルジョンを配合してなる塗工液において、酸化亜鉛とバインダー固形分の含有比率を表2のように変えた塗工液No.4〜7を用いた以外は、防錆シートNo.1と同様にして防錆シートを作製した。作製した防錆シートの透気度、硫化水素吸着率を測定するとともに、防錆試験を行った。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
塗工用組成物中のバインダー含有比率が増大するにつれて、硫化水素吸着率が低下していくことがわかる。つまり、バインダー量が多くなるにしたがって、塗工層のポーラス度が低下するのではないかと考えられる。バインダー固形分:酸化亜鉛の含有比率が33:67では(No.4)、硫化水素吸着率が80%未満となり、一部、錆の発生が認められた。一方、バインダー固形分:酸化亜鉛の含有比率が10:90のときには、硫化水素吸着率が100%となり、これ以上のバインダー固形分含有率の低減は、硫化水素吸着率の向上には影響を及ぼさないと思われる。
【0051】
〔塗工量と防錆シートの透気度〕
防錆シートNo.8〜11
No.1で調製した塗工用組成物の塗工量を表3のように変えることによって酸化亜鉛含有量を変えた以外は、No.1と同様にして防錆シートNo8〜11を作製し、硫化水素吸着率、透気度を測定するとともに、防錆試験を行った。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
塗工量の減少にしたがって、透気度増加量も減少した。形成される塗工層のポーラス度が高くなるためと考えられる。しかしながら、透気度増加量が少ない場合でも、塗工量が少なくなるのに伴って、防錆シートに含まれる酸化亜鉛量も少なくなるため、硫化水素吸着率は低下した。但し、防錆シート中の酸化亜鉛の含有量が4.5g/m以上で、透気度増加量120秒以下であれば、高い硫化水素吸着率を確保することができ、防錆効果を発揮できることがわかる。
【0054】
〔支持体と防錆シートの透気度〕
防錆シートNo.12〜14
支持体として、坪量、透気度が異なる3種類のクラフト紙を使用し、No.1の塗工用組成物を用いて、No.1と同様にして、防錆シートを作製した。作製した防錆シートNo.12〜14の透気度及び硫化水素吸着率を測定するとともに、防錆試験を行った。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
支持体の透気度が異なっても、同じ塗工液を、同じ塗工量(酸化亜鉛含有量:9g/m)だけ塗工した場合、透気度増加量に若干の差異は認められたものの、いずれも透気度増加量を120秒以下とすることで、硫化水素吸着率を100%保持することができた。従って、硫化水素吸着に必要十分な量の酸化亜鉛を含有する塗工用組成物を、透気度増加量を所定値以下となるように塗工することで、所望のレベルの硫化水素吸着率、防錆効果を達成できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の防錆シートは、酸化亜鉛による硫化水素の吸着率を高めたもので、硫化水素による腐食が問題となる銀、銅製部品、さらにはこれらの部品をそなえた製品の包装材料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径が0.2μmを超え、1.0μm以下であり、且つ硫化水素吸着容量が0.01〜1.0mmol/gである酸化亜鉛、およびバインダーを混合してなる塗工液を、
支持体の少なくとも片面に塗布又は含浸させてなる防錆シート。
【請求項2】
前記塗工液における前記バインダー固形分に対する前記酸化亜鉛の含有質量比(酸化亜鉛/バインダー固形分)は、95/5〜70/30である請求項1に記載の防錆シート。
【請求項3】
前記支持体単独の透気度に対する、前記防錆シートの透気度増加量が、200秒以下である請求項1又は2に記載の防錆シート。
【請求項4】
前記酸化亜鉛は、前記防錆シート中に3g/m以上含有されている請求項1〜3のいずれかに記載の防錆シート。
【請求項5】
前記バインダーとして水性エマルジョンを用いている請求項1〜4のいずれかに記載の防錆シート。
【請求項6】
前記塗工液は、水を分散媒として用いたものである請求項5に記載の防錆シート。
【請求項7】
前記支持体の塩素イオン量が5〜200ppmであり、且つ硫酸イオン量が30〜150ppmである請求項1〜6のいずれかに記載の防錆シート。

【公開番号】特開2009−235494(P2009−235494A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83458(P2008−83458)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(508092989)神崎王子サービス株式会社 (1)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【Fターム(参考)】