説明

防錆処理方法及び防錆処理被覆体

【課題】 安価かつ確実に防錆処理対象である金属露出面を防錆処理できる防錆処理方法および当該方法によって金属露出面上に形成される防錆処理被覆体を提供する。
【解決手段】 本発明の防錆処理方法は、防錆処理対象である金属の露出面を洗浄し汚れを除去する前処理工程と、当該前処理面に防錆油を塗布する塗油工程と、当該防錆油膜面にシーリング材を塗付けて養生硬化させ防水性被覆層を形成する後工程とを含むことを特徴としている。当該防錆処理方法によって得られる防錆処理被覆体は、内部に空気を内包せず、外気とも遮断された状態で気密性を維持しつつ、防錆処理対象を被覆するものである。特に、機器類から外部に露出するボルト、ナットなどを防錆処理の対象とするのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばボルトやナットの露出部分など防錆処理対象の金属露出面について安価かつ確実に防錆処理できる防錆処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所などでは、調節弁などの機器類が屋外に設置され動作させているが、長期間運転しない場合も調節弁などの機器類は屋外に長期保管されることがある。後者の長期保管される機器類は運転の際の高温にさらされることもなく、長期間動作させない状態におかれるため、錆が発生し腐食が進行するため、これらを再使用しようとすると大掛りな補修を実施しなければならなくなるため、保管中に何らかの対策を講じる必要がある。
【0003】
調節弁の金属露出面に関しては、その対策として防錆塗料の全面塗装、調節弁全体の防水シートなどによる被覆、防錆油の全面塗布などが容易に挙げられる。しかし、全面塗装による場合、これにより調節弁の可動部を傷付けるだけでなく、再使用に際して塗装面を剥離する必要があることから、復旧作業に時間がかかるなどの問題がある。また、防水シートなどを用いて調節弁全体を被覆する場合には、風による防水シートの飛散だけでなく、経時によるシートの劣化破損、それに伴う破損部分の飛散といった問題がある。さらに、防錆油の全面塗布の場合には、降雨時に雨水と共に防錆油が流出し、環境の汚染につながる可能性が大きいといった問題がある。
【0004】
このような検討を踏まえ、屋外に長期保管された調節弁などを復旧するのに点検を繰り返してきたところ、調節弁については金属露出面全面の腐食の程度は小さく、ボルトやナットなどの露出面が著しく腐食しており、そのため再使用のための復旧ボルトおよびナットの交換が必要であることが明らかになってきた。ボルト、ナットに防錆油を塗布することにすれば,発錆・腐食はある程度抑えられるが、降雨時における防錆油の滴下の可能性があることから、その対策が必要となる。
【0005】
このボルトやナットの防錆に関しては、すでに幾つかの提案がなされている(例えば、特許文献1〜3参照)。これらの特許文献記載の提案はいずれもボルト、ナットに弾力性のある防錆キャップをかぶせ、ボルト、ナットと防錆キャップとの間の間隙に防錆グリースや防錆油を充填することを特徴としている。しかし、実際には、防錆キャップが弾力性を備えていても、キャップ内壁と金属面との間に間隙は生じるものであり、また当該間隙に防錆グリースなどを充填したとしても、完全な充填は困難であることから、部分的な発錆が認められることが多いという問題がある。また、防錆キャップを用いて防錆対応を実施するとしても、調節弁などの機器類にはすべて同じ規格サイズのボルトやナットが使用されているわけではないため、ボルトやナットのサイズごとにこのような防錆キャップを用意しなければならないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−227819号公報
【特許文献2】実開平6−28325号公報
【特許文献3】実用新案登録第3021104号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決すべくなされたものであり、安価かつ確実に防錆処理対象である金属露出面を防錆処理できる防錆処理方法および当該方法によって金属露出面上に形成される防錆処理被覆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的は、本発明の一局面によれば、防錆処理対象である金属の露出面を洗浄し汚れを除去する前処理工程と、当該前処理面に防錆油を塗布する塗油工程と、当該防錆油膜面にシーリング材を塗付けてその状態で硬化させ防水被覆層を形成する後工程とを含んでなることを特徴とする防錆処理方法によって達成できる。
【0009】
また、本発明の別の局面によれば、防錆処理対象である金属の露出面を覆う防錆油油膜と、当該油膜表面に塗り付けられたシーリング材の防水硬化層の少なくとも2層からなることを特徴とする防錆処理被覆体によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、防錆処理対象の金属面に防錆油を塗布後,当該塗油面にシーリング材を塗りつけ養生硬化させて防水被覆層を形成し、これによって防錆処理対象を完全に気密状態に密閉被覆できるので、高い防錆効果を得ることが可能となる。また、本発明の防錆処理後、長期保管する場合でも、防錆油の流出がなく環境への影響がなく、保管期間中の手入れが不要となる。また、防錆処理を施した金属面を有する機器類を再使用するに当たり、復旧のために防錆処理被覆体を除去するのは短時間の作業で容易に実施でき、そのための費用も従来に比べて安価である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の防錆処理方法は、機器類、特には発錆が著しい屋外保管の機器類における金属露出面に適用可能であり、当該金属面の形状については特に制限がない。特に、このような機器類におけるボルト、ナットなどの金属製締結具の露出部分への防錆処理には効果的である。
【0012】
本発明においては、予め防錆処理対象の金属露出面に対してその汚れを除去するなどの前処理を実施する。この前処理は、従来公知の方法によって実施できる。
【0013】
次に、前記前処理面の全面に対して防錆油の塗布を行う。この防錆油としては特に制限がなく、例えばJIS K2246に規定されているすべての種類・区分、具体的には指紋除去形、溶剤希釈形、ペトロラタム形、潤滑油形、気化性の各区分のほか、同規格の性能試験に合格する規格外区分に属するものが好適に使用できる。防錆油は、入手の容易性などを勘案して適宜選定すればよく、この観点からすれば、例えば浸透潤滑剤KURE 5−56(商品名、呉工業株式会社製)やGS No.670(商品名、株式会社三共コーポレーション製)などが挙げられる。
【0014】
防錆油の塗布方法については特に制限がなく、従来公知の方法を採用できる。例えば、防錆処理対象に対して刷毛で塗布する方法、噴霧する方法、流しかける方法などの中から適宜選択できる。流しかける方法を採用する場合には、防錆処理対象の下側に流れおちる防錆油を受ける容器を配置するようにする。また、防錆処理対象が、ボルト、ナットなどの場合、可能であれば、それらを取り外して防錆油中に浸漬するなどの方法を採用することもできる。
【0015】
そうして得られる防錆油塗布面に対して、シーリング材を塗りつける。使用可能なシーリング材としては特に制限がなく、従来公知の各種のシーリング材を使用できる。このシーリング材は、1成分系であると、2成分系であるとを問わない。ここで、1成分系としては、シリコーン系、変性シリコーン系、ポリサルファイド系、ポリウレタン系などの湿気硬化型;変性ポリサルファイドなどの酸素硬化型;アクリル系エマルションタイプ、SBR系エマルションタイプ、ブチルゴム系溶剤タイプなどの感想硬化型などが挙げられる。また、2成分系としては、シリコーン系、変性シリコーン系、ポリサルファイド系、ポリウレタン系、アクリルウレタン系などの反応硬化型などが挙げられる。これらのうち、使いやすさ、作業性の観点からは、1成分系、湿気硬化型のシーリング材を使用するのが好ましく、特にはシリコーン系のシーリング材を用いるのがより好ましい。このようなシリコーン系のシーリング材(シリコーンシーラント)としては、例えばハピオシールPRO2000GX(商品名、株式会社カンペハピオ製)や1212(商品名、株式会社スリーボンド製)などが挙げられる。
【0016】
シーリング材の防錆油塗布面に対する塗り付けは、従来公知の方法で行うことができる。1成分系の湿気硬化型シーリング材については通常、専用のガンに装着して用いることで防錆油塗布面に確実に塗り付けることができる。さらに必要に応じて塗りつけ後に、治具を用い当該塗り付け面を均し、適宜の器具などを用いて脱気を行うことで、金属露出面、シーリング材による被覆層間の密着性を向上させることができる。こうして高粘度のシーリング材を用いた被覆により防錆油油膜を保護することができ、さらにシーリング材硬化前に防水性被覆層内の脱気を行うことで、当該被覆層内に空気の残留をなくすことができる。必要があれば、硬化中の防水性被覆層の上にさらに同種または異種のシーリング材を塗りつけ養生硬化させて2層以上の被覆層を設けた防錆処理被覆体を形成することもできる。
【0017】
その後、塗り付けられたシーリング材を外気中で放置するなどして養生硬化させて防水性被覆層を形成し、これにより防錆油塗布面を外気と遮断された状態で気密性のある防錆処理被覆体が形成される。この養生硬化の方法は、用いるシーリング材の種類に応じて最適な方法を選択すればよい。このようにして得られる防錆処理被覆体は、防錆油油膜を介しての金属露出面への防水性被覆層の密着性、気密性が良好であり、風雨などの影響を受けず、劣化もしにくいものとなる。このようにして防錆処理され、長期保管された機器類を再使用する場合には、カッターなどの所定の工具を用いて防錆処理被覆体を切断除去すればよく、短時間で復旧作業を行うことができる。
【実施例】
【0018】
同じ型式のダイヤフラム式調節弁3台を用意し、それぞれの弁上部の駆動部のフランジを固定している複数組の鉄製のボルト、ナットを防錆処理対象として以下の評価試験を行った。試験に先立って、防錆処理対象としてのボルト、ナットを駆動部フランジから取り外し、発錆の有無を確認したが、いずれのボルト、ナットとも発錆は認められなかった。これらのボルト、ナットは、それぞれ元のフランジに戻してフランジを締め付け固定された状態とした。
【0019】
評価試験では、防錆油として、KURE 5−56(商品名、呉工業株式会社製、430mlスプレー缶)を用いた。また、シーリング材(シリコーンシーラント)として、ハピオシールPRO2000GX(商品名、株式会社カンペハピオ製、333ml容器)を専用のガンに装着して用いた。また、市販の防水シートを比較例に用いた。
【0020】
[実施例]
3台の調節弁のうちの1台の駆動部フランジに取り付けられ、上下面から突出しているすべてのボルト、ナットの露出面に防錆油をスプレー塗布した。塗布量は、ボルト、ナット1組に対して10mlとした。この塗布量は、事前に10mlスプレーする時間を計測しておき、その時間だけスプレーすることで得られるであろう見込み量である。防錆油スプレー缶内の残存量により噴出量が変化することを想定し、調節弁1台につきスプレー缶1本を用いることとした。さらに、防錆油油膜面にシリコーンシーラントをボルト、ナット1組につき5mlとなるようにガンで塗りつけ、ヘラで万遍なく均し広げ、防錆油油膜面がすべて覆い隠されるようにした。すべての防錆処理対象へのシーリング材塗布終了から10分経過後に前記防錆処理を施した調節弁を雨風に晒される屋外に放置した。この10分の経過時間は、シリコーンシーラント仕様書における硬化時間10分以下との記載に基づいて決定したものである。
【0021】
[比較例]
もう1台の調節弁の駆動部フランジに取り付けられ、上下面から突出しているすべてのボルト、ナットの露出面に防錆油を実施例とスプレー塗布した。塗布量は、実施例の場合と同様とした。その後、このフランジを含む駆動部を上から防水シートで覆い、駆動部直下にてこの防水シートの垂れ下がった部分をロープで縛った。
残りの1台の調節弁については、何ら防錆処理を実施しないこととした。
その後、これら2台の調節弁を前記実施例の調節弁とほぼ同じ場所に放置した。
【0022】
[評価方法]
放置開始から3カ月経過後に、防錆処理対象であるボルト、ナットを調節弁から取り外して、発錆の有無及びその程度を目視によって観察することで評価した。フランジからすべてのボルト、ナットを取り外すにあたり、実施例の調節弁ではシーリング材の硬化物を市販のカッターで除去し、また防水シートを被覆した調節弁についてはその防水シートを取り外した。なお、前記期間中、この防水シートは、風雨の影響により外れるといったことは生じなかった。
【0023】
[評価結果]
実施例の調節弁におけるすべてのボルト、ナットは、防錆油により表面が濡れた状態が依然維持されており、発錆は認められなかった。
それに対して、防水シートで被覆した比較例の調節弁では、各組ともボルト、ナットの表面が乾き気味であり、約4割の組に部分的に発錆が認められた。また、防錆処理を施さなかった調節弁については、すべてのボルト、ナットの組について著しい発錆が認められた。
以上の結果から、防錆油とシーリング材とを併用する本発明の防錆処理方法が、調節弁の処理対象であるボルト、ナットの防錆処理に非常に有効であることが明らかである。
【0024】
以上説明したように、本発明の防錆処理方法によれば、防錆処理対象の金属露出面に防錆油を塗布し、その塗布面にさらに外気と遮断した状態で少なくとも1層の防水性被覆層を形成して気密性を維持しながら前記防錆処理対象を密閉被覆できるので、高い防錆効果を得ることが可能となる。また、本発明の防錆処理後、長期保管する場合でも、防錆油の流出がなく環境への影響がなく、保管期間中の手入れが不要となる。また、防錆処理を施した金属面を有する機器類を再使用するに当たり、復旧のために防錆処理被覆体を除去するのは短時間の作業で容易に実施でき、そのための費用も従来に比べて安価である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防錆処理対象である金属の露出面を洗浄し汚れを除去する前処理工程と、当該前処理面に防錆油を塗布する塗油工程と、当該防錆油膜面にシーリング材を塗付けて養生硬化させ防水性被覆層を形成する後工程とを含んでなることを特徴とする防錆処理方法。
【請求項2】
前記防錆処理対象はボルト、ナットである請求項1に記載の防錆処理方法。
【請求項3】
防錆処理対象である金属の露出面を覆う防錆油油膜と、当該油膜表面に塗り付け養生硬化させたシーリング材の防水性被覆層の少なくとも2層からなることを特徴とする防錆処理被覆体。
【請求項4】
前記防錆処理対象はボルト、ナットである請求項3に記載の防錆処理被覆体。

【公開番号】特開2012−57196(P2012−57196A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199422(P2010−199422)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】