説明

防錆剤および表面処理金属材

【課題】金属表面との密着性に優れ、長期間にわたって安定して防錆効果を発揮することが可能な防錆剤を提供すること。
【解決手段】アミノカルボン酸やアセト酢酸(エステル)、ヒドロキシカルボン酸などのキレート基を有するキレート配位子と、長鎖(環状)アルキルカルボン酸や長鎖(環状)アルキルアルコールなどの長鎖アルキル基や環状アルキル基を有する化合物とを反応させることにより得られる、エステル結合等を介してキレート基と長鎖アルキル基または環状アルキル基とを併せ持つ化合物を有効成分として含有する金属表面に塗布可能な防錆剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆剤および表面処理金属材に関し、さらに詳しくは、錆の発生を防止するために各種金属材の金属表面に塗布するものとして好適な防錆剤と、これを用いた表面処理金属材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野において金属材料が用いられており、産業上、金属材料は重要な役割を担っている。しかしながら、金属材料は、錆びやすい性質を有しており、長期にわたって安定してその役割を果たすためには、防錆処理を施す必要がある。そのため、従来より、種々の金属材料に対して、その金属種に応じた種々の防錆方法が提案されている。
【0003】
金属材料の防錆方法としては、例えば、金属表面にめっきを施す方法や、金属表面を塗装する方法などが良く知られている。これらの方法は、金属表面に皮膜を形成し、金属表面を物理的に覆うことにより、水や酸素等といった錆びの原因となる因子の侵入を防ぎ、これにより防錆効果を発揮している。しかしながら、めっきや塗装は、大がかりな方法になりやすい。
【0004】
これに対し、比較的簡易な防錆方法としては、防錆剤を金属表面に塗布する方法が知られている。例えば、各種ワセリンやグリース等を金属表面に塗布する方法が知られている。また、特許文献1には、亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に防錆剤を塗布する方法であるが、特定のポリアミノ化合物を有機高分子樹脂マトリックスとした高分子キレート化剤による皮膜を金属表面に形成する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−166151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来知られる各種ワセリンやグリース等を金属表面に塗布する方法では、熱や溶剤により容易に揮発、溶出するおそれがある。これにより、防錆効果が大きく低下するおそれがある。
【0007】
また、各種ワセリンやグリース等を用いる方法、および、特許文献1に記載される高分子キレート化剤を用いる方法は、いずれも防錆剤を金属表面に塗布することにより金属表面に連続する皮膜を形成し、金属表面を物理的に覆うことにより、防錆効果を発揮する構成のものである。したがって、本願発明とは、構成および機能が大きく異なるものである。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、金属表面との密着性に優れ、長期間にわたって安定して防錆効果を発揮することが可能な防錆剤と、これを用いた表面処理金属材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、金属表面と結合する性質を有する部分と、金属表面に対して水や酸素等の侵入を防ぐ性質を有する部分とを併せ持つ化合物を有効成分として用いれば、金属表面との密着性に優れ、かつ、長期間にわたって安定して防錆効果を発揮することが可能であるとの知見を得た。
【0010】
すなわち、本発明に係る防錆剤は、分子構造中に疎水基とキレート基とを有する化合物を含有することを要旨とするものである。
【0011】
この場合、前記疎水基としては、長鎖アルキル基および環状アルキル基から選択された1種または2種以上の基を好適に示すことができる。
【0012】
また、前記キレート基としては、ポリリン酸塩、アミノカルボン酸、1,3−ジケトン、アセト酢酸(エステル)、ヒドロキシカルボン酸、ポリアミン、アミノアルコール、芳香族複素環式塩基類、フェノール類、オキシム類、シッフ塩基、テトラピロール類、イオウ化合物、合成大環状化合物、ホスホン酸、および、ヒドロキシエチリデンホスホン酸から選択された1種または2種以上のキレート配位子に由来するものを好適に示すことができる。
【0013】
この際、前記疎水基とキレート基とは、エステル結合、エーテル結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、および、アミド結合から選択された1種または2種以上の結合を介して結合されていると良い。
【0014】
ここで、前記化合物は中性化合物であることが望ましい。
【0015】
そして、上記防錆剤は、金属表面塗布用の防錆剤に好適である。
【0016】
一方、本発明に係る表面処理金属材は、上記防錆剤を金属材の表面に塗布してなることを要旨とするものである。
【0017】
この際、前記金属材としては、アルミニウム、鉄、銅、アルミニウム合金、鉄合金、および、銅合金から選択された1種または2種以上の金属よりなるものを好適に示すことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る防錆剤は、分子構造中に疎水基とキレート基とを有する化合物を含有する。そのため、キレート基が金属表面と結合し、金属表面との密着性を向上させる。また、このキレート基とつながっている疎水基は、金属表面の外側に向くため、金属表面に撥水性を付与することができる。これにより、水の侵入を防止する。したがって、金属表面との密着性に優れ、かつ、長期間にわたって安定して防錆効果を発揮することが可能となる。
【0019】
この際、前記疎水基が、上記各種の基よりなると、確実に金属表面に撥水性を付与することができる。また、前記キレート基が、上記各種の基よりなると、確実に金属表面と結合することができる。この際、前記疎水基とキレート基とが、上記各種の結合を介して結合されているものは、合成が容易であり、広く用いることができる。
【0020】
ここで、前記化合物が中性化合物であると、例えば防錆剤が目的の塗布面以外の部分に付着したとしても、腐食あるいは人体への影響を抑えることができるため、安全性に優れる。また、前記化合物が中性化合物であると、環境の影響を受けにくく、保存安定性にも優れる。
【0021】
一方、本発明に係る表面処理金属材によれば、上記防錆剤を金属材の表面に塗布するため、長期間にわたって安定して防錆効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明に係る防錆剤は、分子構造中に疎水基とキレート基とを有する化合物を有効成分として含有するものからなる。本発明に係る防錆剤は、例えば、金属材料の金属表面に塗布するものとして好適に用いることができる。金属材料としては、例えば、自動車等の車両における電線、ケーブル、コネクタ、ボディ等や、高圧電力ケーブル、電気・電子機器部品などを好適に示すことができる。また、金属種としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、アルミニウム合金、鉄合金、銅合金などを例示することができる。
【0023】
本発明に係る防錆剤において、キレート基は、防錆する金属表面と結合形成する部位である。キレート基が金属表面と結合することにより、防錆剤が熱や溶剤等により容易に揮発や溶出しないようになる。これにより、長期間にわたって安定して防錆効果を発揮することが可能である。キレート基が金属表面と結合形成してキレート結合に変化していることは、例えば多重全反射赤外吸収法(ATR−IR)や顕微IRなどで確認することができる。
【0024】
本発明に係る防錆剤において、疎水基は、金属表面と結合形成しているキレート基から外側に張り出すように配置される。疎水基は、金属表面への水の侵入を防ぐために、金属表面と結合形成しているキレート基の上に撥水性を持たせるものである。すなわち、単に金属表面を物理的に覆うことにより防錆効果を発揮するだけではなく、疎水基の撥水効果により金属表面への水の侵入を防ぐことによっても防錆効果を発揮する。
【0025】
上記疎水基とキレート基とは、エステル結合、エーテル結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、アミド結合などの結合を介して結合されていることが好ましい。これらの結合を介して疎水基とキレート基とが結合されている構造のものは、縮合反応等により容易に合成することができる。
【0026】
上記疎水基とキレート基とを有する化合物は、酸性、アルカリ性、中性のいずれであっても良い。好ましくは中性である。上記化合物が中性である場合には、例えば防錆剤が目的の塗布面以外の部分に付着したとしても、防錆剤による付着部分の腐食は発生しにくい。また、仮に防錆剤が人体の皮膚等に付着した場合にも、肌荒れ等の人体への影響も少ない。すなわち、安全性に優れる。また、上記化合物が中性である場合には、酸性化合物やアルカリ性化合物と比較しても環境の影響を受けにくい。そのため、保存安定性にも優れる。
【0027】
中性化合物としては、分子構造中に酸構造および塩基構造を有しない化合物(この場合には、キレート基中にも酸構造および塩基構造を有していない。)や、分子構造中に酸構造および塩基構造を有しているが、中性に保っている化合物などを挙げることができる。
【0028】
中性化合物とは、pHが6〜8程度の範囲内にあるものとすることができる。化合物のpHは、一般的なpH測定器を用いて測定したものであっても良いし、pH試験紙を用いて測定したものであっても良い。pH測定条件は、通常の測定条件に従うことができる。
【0029】
上記疎水基としては、例えば、長鎖アルキル基、環状アルキル基等を例示することができる。これらは、1種のみ有していても良いし、2種以上が組み合わされて有していても良い。この際、長鎖アルキル基や環状アルキル基にフッ素原子が導入されていれば、より撥水効果に優れる。
【0030】
長鎖アルキル基は、直鎖状でも良いし、分岐していても良い。長鎖アルキル基の炭素数は、特に限定されるものではないが、好ましくは、5〜100の範囲内、より好ましくは、8〜50の範囲内である。環状アルキル基は、単環から形成されていても良いし、複数の環から形成されていても良い。環状アルキル基の炭素数は、特に限定されるものではないが、好ましくは、5〜100の範囲内、より好ましくは、8〜50の範囲内である。長鎖アルキル基や環状アルキル基中には、炭素−炭素不飽和結合や、アミド結合、エーテル結合、エステル結合などを含んでいても良い。
【0031】
上記キレート基は、各種キレート配位子を用いて導入可能である。このようなキレート配位子としては、例えば、1,3−ジケトン(β−ジケトン)や3−ケトカルボン酸エステル(アセト酢酸エステル等)などのβ−ジカルボニル化合物、ポリリン酸塩、アミノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ポリアミン、アミノアルコール、芳香族複素環式塩基類、フェノール類、オキシム類、シッフ塩基、テトラピロール類、イオウ化合物、合成大環状化合物、ホスホン酸、ヒドロキシエチリデンホスホン酸などを例示することができる。これらの化合物は、配位結合可能な非共有電子対を複数有している。これらは、単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。このうち、1,3−ジケトンおよび3−ケトカルボン酸エステルは、分子構造中に酸構造および塩基構造を有しておらず、中性化合物であるため、安全性、保存安定性に優れるなどの観点から、より好ましい。
【0032】
各種キレート配位子としては、より具体的には、ポリリン酸塩としては、トリポリリン酸ナトリウムやヘキサメタリン酸などを例示することができる。アミノカルボン酸としては、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、エチレンジアミン四酢酸、N−ヒドロキシメチルエチレンジアミン三酢酸、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジアミノシクロヘキシル四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、N,N−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン二酢酸、ヘキサメチレンジアミンN,N,N,N−四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、イミノ二酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ポリ(p−ビニルベンジルイミノ二酢酸)などを例示することができる。
【0033】
1,3−ジケトンとしては、アセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、テノイルトリフルオロアセトンなどを例示することができる。また、アセト酢酸エステルとしては、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸tert−ブチル、アセト酢酸イソブチル、アセト酢酸ヒドロキシプロピルなどを例示することができる。ヒドロキシカルボン酸としては、N−ジヒドロキシエチルグリシン、エチレンビス(ヒドロキシフェニルグリシン)、ジアミノプロパノール四酢酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸などを例示することができる。ポリアミンとしては、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、トリアミノトリエチルアミン、ポリエチレンイミンなどを例示することができる。アミノアルコールとしては、トリエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ポリメタリロイルアセトンなどを例示することができる。
【0034】
芳香族複素環式塩基としては、ジピリジル、o−フェナントロリン、オキシン、8−ヒドロキシキノリンなどを例示することができる。フェノール類としては、5−スルホサリチル酸、サリチルアルデヒド、ジスルホピロカテコール、クロモトロプ酸、オキシンスルホン酸、ジサリチルアルデヒドなどを例示することができる。オキシム類としては、ジメチルグリオキシム、サリチルアドキシムなどを例示することができる。シッフ塩基としては、ジメチルグリオキシム、サリチルアドキシム、ジサリチルアルデヒド、1,2−プロピレンジミンなどを例示することができる。
【0035】
テトラピロール類としては、フタロシアニン、テトラフェニルポルフィリンなどを例示することができる。イオウ化合物としては、トルエンジチオール、ジメルカプトプロパノール、チオグリコール酸、エチルキサントゲン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジチゾン、ジエチルジチオリン酸などを例示することができる。合成大環状化合物としては、テトラフェニルポルフィリン、クラウンエーテル類などを例示することができる。ホスホン酸としては、エチレンジアミンN,N−ビスメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸などを例示することができる。
【0036】
上記キレート配位子には、適宜ヒドロキシル基やアミノ基などを導入することも可能である。上記キレート配位子は、塩として存在可能なものもある。この場合、塩の形態で用いても良い。また、上記キレート配位子またはその塩の水和物や溶媒和物を用いても良い。さらに、上記キレート配位子には、光学活性体のものも含まれているが、任意の立体異性体、立体異性体の混合物、ラセミ体などを用いても良い。
【0037】
上記長鎖アルキル基は、長鎖アルキル化合物を用いて導入可能である。長鎖アルキル化合物としては、特に限定されないが、例えば、長鎖アルキルカルボン酸や、長鎖アルキルカルボン酸エステル、長鎖アルキルカルボン酸アミドなどの長鎖アルキルカルボン酸誘導体、長鎖アルキルアルコール、長鎖アルキルチオール、長鎖アルキルアルデヒド、長鎖アルキルエーテル、長鎖アルキルアミン、長鎖アルキルアミン誘導体、長鎖アルキルハロゲンなどを例示することができる。これらのうち、キレート基を導入しやすい点などから、長鎖アルキルカルボン酸、長鎖アルキルカルボン酸誘導体、長鎖アルキルアルコール、長鎖アルキルアミンが好ましい。
【0038】
長鎖アルキル化合物としては、より具体的には、例えば、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、テトラドコサン酸、ヘキサドコサン酸、オクタドコサン酸、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、エイコサノール、ドコサノール、テトラドコサノール、ヘキサドコサノール、オクタドコサノール、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ドデシルカルボン酸クロリド、ヘキサデシルカルボン酸クロリド、オクタデシルカルボン酸クロリドなどを例示することができる。これらのうち、入手が容易である点などにおいては、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、オクタデカン酸、ドコサン酸、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、オクタデカノール、ドコサノール、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、ドデシルカルボン酸クロリド、オクタデシルカルボン酸クロリドが好適である。
【0039】
上記環状アルキル基は、環状アルキル化合物を用いて導入可能である。環状アルキル化合物としては、特に限定されないが、例えば、炭素数が3〜8のシクロアルキル化合物や、ステロイド骨格を有する化合物、アダマンタン骨格を有する化合物などを例示することができる。この際、これら各種化合物には、上記キレート配位子との結合形成が可能であるなどの観点から、カルボン酸基、水酸基、酸アミド基、アミノ基、チオール基などが導入されていることが好ましい。
【0040】
環状アルキル化合物としては、より具体的には、コール酸、デオキシコール酸、アダマンタンカルボン酸、アダマンタン酢酸、シクロヘキシルシクロヘキサノール、シクロペンタデカノール、イソボルネオール、アダマンタノール、メチルアダマンタノール、エチルアダマンタノール、コレステロール、コレスタノール、シクロオクチルアミン、シクロドデシルアミン、アダマンタンメチルアミン、アダマンタンエチルアミンなどを例示することができる。これらのうち、入手が容易である点などにおいては、アダマンタノール、コレステロールが好適である。
【0041】
本発明に係る防錆剤は、上記疎水基とキレート基とを有するものであるため、例えば、疎水基を有する化合物と、キレート基を有するキレート配位子とを接触させることにより得ることができる。より具体的には、疎水基を有する化合物と、キレート基を有するキレート配位子とを縮合反応させることにより得ることができる。このとき、溶媒を用いても良いし、撹拌させても良い。また、反応速度を上げるなどの目的で、加熱しても良いし、触媒を添加しても良い。さらに、副生物を除去するなどして、平衡反応を生成系に偏らせて、高収率で目的物が得られるようにしても良い。疎水基を有する化合物としては、上記する長鎖アルキル化合物、環状アルキル化合物などが挙げられる。
【0042】
例えば、上記疎水基を有する化合物がカルボキシル基またはヒドロキシル基を有し、上記キレート配位子がヒドロキシル基またはカルボキシル基を有している場合には、上記疎水基とキレート基とがエステル結合を介して結合されているものを得ることができる。また、例えば、上記疎水基を有する化合物がカルボキシル基またはアミノ基を有し、上記キレート配位子がアミノ基またはカルボキシル基を有している場合には、上記疎水基とキレート基とがアミド結合を介して結合されているものを得ることができる。
【0043】
本発明に係る防錆剤の有効成分となる上記化合物の分子量としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、100〜1500の範囲内であり、より好ましくは、200〜800の範囲内である。
【0044】
本発明に係る防錆剤の有効成分となる上記化合物の一例を構造式で表すと、例えば、以下のようになる。
【0045】
【化1】

【0046】
ただし、式(1)において、Rは、上記長鎖アルキル基または上記環状アルキル基を示し、Xは、エステル結合部位、エーテル結合部位、チオエステル結合部位、または、アミド結合部位を示し、Yは、上記キレート基を示している。すなわち、上記長鎖アルキル基または上記環状アルキル基と上記キレート基とが、エステル結合、エーテル結合、チオエステル結合、または、アミド結合を介して結合されている。
【0047】
本発明に係る防錆剤は、上記有効成分となる上記化合物以外の他の成分を含有していても良い。他の成分としては、例えば、有機溶剤や、ワックス、オイル等を挙げることができる。他の成分は、それ自体に防錆効果を有するものであっても良いし、防錆効果を有しないものであっても良い。他の成分は、希釈剤としての機能も有する。すなわち、本発明に係る防錆剤の有効成分である上記化合物の性状(液状である、固体である、粉末である等)に応じて、塗布等しやすくするために防錆剤の性状を調整する役割も担う。
【0048】
他の成分を含有する場合、防錆剤を構成する組成物中における上記有効成分の配合量は、0.01質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、0.05〜99.5質量%の範囲内である。上記有効成分の配合量が0.01質量%未満では、防錆効果が低くなりやすい。
【0049】
他の成分としての有機溶剤としては、例えば、炭素数が1〜8のアルコール類、テトラヒドロフラン、アセトン等の含酸素溶剤、炭素数が6〜18のアルカン類等を示すことができる。また、ワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、合成パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、塩素化炭化水素等を示すことができる。また、オイルとしては、例えば、潤滑油、作動油、熱媒オイル、シリコンオイルなどを示すことができる。
【0050】
本発明に係る防錆剤を、例えば金属表面に塗布して用いる場合には、上述する有効成分となる上記化合物そのもの、または、有効成分と他の成分との混合物を直接金属表面に塗布する。この際、塗布方法としては、塗布法、浸漬法、スプレー法等の任意の方法を採用できる。また、スクイズコーター等による塗布処理、浸漬処理またはスプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。塗布する場合、密着性、耐食性を向上させるため、必要に応じて加温または圧縮などの処理を施すことができる。
【0051】
次に、本発明に係る表面処理金属材について説明する。本発明に係る表面処理金属材は、上記本発明に係る防錆剤を金属材の表面に塗布したものからなる。金属材は、アルミニウム、鉄、銅、アルミニウム合金、鉄合金、銅合金などの金属よりなるものであることが好ましい。この際、金属材表面には、亜鉛やアルミニウム等の金属によりめっきが施されていても良い。防錆剤の塗布方法としては、上記する塗布方法であれば良い。
【0052】
本発明に係る表面処理金属材としては、例えば、自動車等の車両における電線、ケーブル、コネクタ、ボディ等の金属部分や、高圧電力ケーブル、電気・電子機器部品などの金属部分を好適に示すことができる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0054】
(供試材料および製造元など)
本実施例および比較例において使用した供試材料を製造元、商品名などとともに示す。また、一部のものについては、実験室にて合成したものを用いた。合成品については、以下に、その合成方法と、構造式、および、同定データを示す。また、製造元、商品名の記載がないものは、試薬を用いたものである。
【0055】
(A)防錆剤の有効成分となる化合物の合成
・化合物A(式(2)の化合物)の合成
エチレンジアミン四酢酸二無水物5g(19.5mmol)をトルエン50mLに溶解し、更にオクタデシルアルコール5.3g(19.6mmol)を溶解する。混合液を常温にて5時間攪拌後、温度を80℃に上げ、更に1時間攪拌する。反応終了後、反応液を氷浴にて冷却攪拌しながら、純水200mLを少しずつ加える。その後常温に戻し1時間攪拌後、トルエン相を分離し減圧濃縮する。濃縮物にメタノール、水を続けて加え析出物をろ取し淡黄色の粉末を得る。この粉末をメタノールにて再結晶し、再びろ取して淡黄色の目的物を得た(収率65%)。1H−NMR(DMSO)σppm(TMS):0.85(t,3H)、1.25(m,32H)、1.55(t,2H)、2.79(m,4H)、3.47(m、,11H)、4.03(t,2H)。IR(cm−1):2925(C−H伸縮)、1734(エステルのC=O伸縮)、1460(カルボン酸のC−O伸縮)、1225(エステルのC−O伸縮)、1060(C−N伸縮)。
【0056】
【化2】

但し、R2はオクタデシル基である。
【0057】
・化合物B(式(3)の化合物)の合成
ジエチレントリアミン五酢酸二無水物5g(14.0mmol)をトルエン50mLに溶解し、更にドコサノール4.6g(14.0mmol)を溶解する。混合液を常温にて5時間攪拌後、温度を80℃に上げ、更に1時間攪拌する。反応終了後、反応液を氷浴にて冷却攪拌しながら、純水200mLを少しずつ加える。その後常温に戻し1時間攪拌後、トルエン相を分離し減圧濃縮する。濃縮物にメタノール、水を続けて加え析出物をろ取し淡黄色の粉末を得る。この粉末をメタノールにて再結晶し、再びろ取して淡黄色の目的物を得た(収率56%)。1H−NMR(DMSO)σppm(TMS):0.86(t,3H)、1.25(m,40H)、1.57(t,2H)、2.79(m,8H)、3.37(s,2H)、3.41(m,6H)、3.49(s,2H)、4.04(t,2H)。IR(cm−1):2910(C−H伸縮)、1734(エステルのC=O伸縮)、1455(カルボン酸のC−O伸縮)、1225(エステルのC−O伸縮)、1070(C−N伸縮)。
【0058】
【化3】

但し、R3はドコシル基である。
【0059】
・化合物C(式(4)の化合物)の合成
tert−ブチルアセトアセテート5g(31.6mmol)とオクタデシルアルコール8.5g(31.4mmol)をトルエン50mLに溶解し、攪拌しながら110℃まで加温し、副生成物のtert−ブタノールをDean−Starkトラップにて除きながら2時間反応させる。反応終了後、減圧濃縮し、白色のワックス状組成物を得る。そこに冷水20mLを加え固化させ、ろ取し目的物を得た(収率75%)。1H−NMR(CDCl)σppm(TMS):0.89(t,3H)、1.26(m,32H)、1.64(m,2H)、2.27(s,3H)、3.44(s,2H)、4.13(t,2H)。IR(cm−1):2924(C−H伸縮)、1745、1720(βジケトン、エノール体)、1642(βジケトン、エノール体)、1420(カルボン酸のC−O伸縮)。
【0060】
【化4】

但し、R4はオクタデシル基である。
【0061】
・化合物D(式(5)の化合物)の合成
オクタデシルアルコールに代えて、ドコサノール10.3g(31.5mmol)を用いたこと以外、化合物Cと同様にして合成した(収率78%)。1H−NMR(CDCl)σppm(TMS):0.89(t,3H)、1.27(m,40H)、1.64(m,2H)、2.25(s,3H)、3.44(s,2H)、4.10(t,2H)。IR(cm−1):2922(C−H伸縮)、1745、1721(βジケトン、エノール体)、1650(βジケトン、エノール体)、1425(カルボン酸のC−O伸縮)。
【0062】
【化5】

但し、R5はドコシル基である。
【0063】
・化合物E(式(6)の化合物)の合成
ヒドロキシエチルイミノ二酢酸5g(28.2mmol)をDMF200mLに溶解し、水浴にて冷却攪拌しながら、ステアロイルクロライド8.6g(28.4mmol)を少しずつ加える。その後、常温にて12時間攪拌を続ける。反応終了後、反応液を氷浴にて冷却攪拌しながら、純水200mLを少しずつ加える。その後常温に戻し1時間攪拌後、1Nの水酸化ナトリウム溶液にてpHを2.0に調整し、それらの混合液を濃縮する。得られた褐色オイルに純水200mLを加え、デカンテーションにて2回洗浄する。洗浄物を熱メタノールに溶解し冷却して再結晶させ、ろ取して淡黄色の粉末を得る。前記メタノール再結晶をもう一回繰り返して淡黄色の目的物を得た(収率67%)。1H−NMR(DMSO)σppm(TMS):0.86(t,3H)、1.24(m,30H)、1.57(t,2H)、2.34(t,2H)、2.44(t,2H)、3.48(m,6H)、4.03(t,2H)。IR(cm−1):2923(C−H伸縮)、1730(エステルのC=O伸縮)、1455(カルボン酸のC−O伸縮)、1220(エステルのC−O伸縮)、1058(C−N伸縮)。
【0064】
【化6】

但し、R6はヘプタデシル基である。
【0065】
・化合物F(式(7)の化合物)の合成
ヒドロキシエチルイミノ二酢酸に代えて、N−(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸7.9g(28.4mmol)を用いたこと以外、化合物Eと同様にして合成した(収率51%)。1H−NMR(DMSO)σppm(TMS):0.87(t,3H)、1.24(m,30H)、1.57(t,2H)、2.37(t,2H)、2.48(t,2H)、3.45(m,9H)、4.02(t,2H)。IR(cm−1):2925(C−H伸縮)、1733(エステルのC=O伸縮)、1453(カルボン酸のC−O伸縮)、1220(エステルのC−O伸縮)、1060(C−N伸縮)。
【0066】
【化7】

但し、R7はヘプタデシル基である。
【0067】
・化合物G(式(8)の化合物)の合成
ヒドロキシエチルイミノ二酢酸に代えて、ジアミノプロパノール四酢酸9.2g(28.5mmol)を用いたこと以外、化合物Eと同様にして合成した。(収率47%)。1H−NMR(DMSO)σppm(TMS):0.85(t,3H)、1.24(m,30H)、1.56(t,2H)、2.56(m,2H)、2.75(m,2H)、3.45(m,8H)、3.87(m),1H)、4.02(t,2H)。IR(cm−1):2922(C−H伸縮)、1735(エステルのC=O伸縮)、1453(カルボン酸のC−O伸縮)、1220(エステルのC−O伸縮)、1060(C−N伸縮)。
【0068】
【化8】

但し、R8はヘプタデシル基である。
【0069】
・化合物H(式(9)の化合物)の合成
ヒドロキシエチルイミノ二酢酸に代えて、1−ヒドロキシエタン−1,1−ビスホスホン酸5.9g(28.6mmol)を用いたこと以外、化合物Eと同様にして合成した。(収率54%)。1H−NMR(DMSO)σppm(TMS):0.87(t,3H)、1.24(m,30H)、1.49(s,3H)、1.61(t,2H)、4.00(t,2H)。IR(cm−1):2925(C−H伸縮)、1730(エステルのC=O伸縮)、1450(C−O伸縮)、1151(P−O伸縮)、925(P−OH)。
【0070】
【化9】

但し、R9はヘプタデシル基である。
【0071】
・化合物I(式(10)の化合物)の合成
オクタデシルアルコールに代えて、下記式(14)に示す構造を有するコレステロール7.5g(19.4mmol)を用いたこと以外、化合物Aと同様にして合成した。(収率59%)。1H−NMR(DMSO)σppm(TMS):0.5〜2.0(m,41H)、2.28(m,2H)、3.47(m,11H)、3.52(m,12H)、5.35(m,1H)。IR(cm−1):2925(C−H伸縮)、1734(エステルのC=O伸縮)、1460(カルボン酸のC−O伸縮)、1225(エステルのC−O伸縮)、1060(C−N伸縮)。
【0072】
【化10】

但し、R10はコレステリル基である。
【0073】
・化合物J(式(11)の化合物)の合成
ドコサノールに代えて、下記式(15)に示す構造を有する1−アダマンタノール2.1g(13.8mmol)を用いたこと以外、化合物Bと同様にして合成した(収率48%)。1H−NMR(DMSO)σppm(TMS):1.71(m,12H)、2.14(m,3H)、2.79(m,8H)、3.36(s,2H)、3.50(m,6H)。IR(cm−1):2954、2922(C−H伸縮)、1735(エステルのC=O伸縮)、1455(カルボン酸のC−O伸縮)、1225(エステルのC−O伸縮)、1070(C−N伸縮)。
【0074】
【化11】

但し、R11はアダマンチル基である。
【0075】
・化合物K(式(12)の化合物)の合成
オクタデシルアルコールに代えて、下記式(14)に示す構造を有するコレステロール12.1g(31.3mmol)を用いたこと以外、化合物Cと同様にして合成した。(収率48%)。1H−NMR(CDCl)σppm(TMS):0.5〜2.0(m,41H)、2.28(m,2H)、2.26(s,3H)、3.41(s,2H)、3.52(m,1H)、5.35(m,1H)。IR(cm−1):2925(C−H伸縮)、1745、1720(βジケトン、エノール体)、1642(βジケトン、エノール体)、1440(カルボン酸のC−O伸縮)。
【0076】
【化12】

但し、R12はコレステリル基である。
【0077】
・化合物L(式(13)の化合物)の合成
オクタデシルアルコールに代えて、下記式(15)に示す構造を有する1−アダマンタノール4.8g(31.5mmol)を用いたこと以外、化合物Cと同様にして合成した(収率48%)。1H−NMR(CDCl)σppm(TMS):1.71(m,12H)、2.14(m,3H)、2.25(s,3H)、3.44(s,2H)。IR(cm−1):2930(C−H伸縮)、1745、1722(βジケトン、エノール体)、1645(βジケトン、エノール体)、1444(カルボン酸のC−O伸縮)
【0078】
【化13】

但し、R13はアダマンチル基である。
【0079】
【化14】

【0080】
【化15】

【0081】
(B)その他の成分(希釈剤)
・ワックス<1>[日本精蝋(株)製、商品名「LUVAX 1151」]
・ワックス<2>[ヘキスト社製、商品名「セリダスト 3620」]
・オイル[出光興産(株)製、商品名「ダフニーメカニックオイル10」]
・イソプロピルアルコール(IPA)(試薬)
【0082】
(金属表面への塗布方法)
上記方法により合成した各化合物A〜Lを、それぞれ、エタノール洗浄済みの各アルミニウム板(10×10×0.5mm)の上に1mgずつ乗せ、5分間100℃に加温し、融解させ流動性を高めることによって均一に塗布した。その後加温を解き、室温まで自然冷却して各サンプル片とした。
【0083】
(防錆試験方法)
上記各サンプル片の防錆剤塗布面に中性の5%食塩水を10uL滴下し、5%食塩水が表面にスポットされたものを80℃、95%RH、50時間〜200時間という条件で高温高湿試験を行い、一定時間試験後、純水にて表面を洗浄して、サンプル片の塩水スポット箇所の表面状態の観察を行ない、白錆発生の有無を調べた。この際、当該箇所表面の写真を撮り、防錆剤塗布面全体に対する白錆発生面積率を求めた。その結果、白錆の発生がなかったものを「◎」とし、白錆の発生があったものの、白錆発生面積率が5%未満である場合を「○+」、白錆発生面積率が5%以上10%未満である場合を「○」、白錆発生面積率が10%以上25%未満である場合を「○−」、白錆発生面積率が25%以上50%未満である場合を「△」、白錆発生面積率が50%以上である場合を「×」とした。防錆試験の結果は表1の通りである。
【0084】
【表1】

【0085】
表1によれば、市販のワックス塗布では、高温高湿条件下での長時間の塩水との接触により、防錆効果が低下し、錆が発生するが、本発明に係る防錆剤を使用した場合、キレート部位のアルミニウム表面との強固な結合により、長時間防錆効果を発揮し続けることが確認できた。
【0086】
次いで、表2に示す各希釈剤を用いて、上記各化合物A〜Lを含有する防錆剤組成物を調製し、これを用いて、防錆試験を行なった。試験方法は、上記(金属表面への塗布方法)および(防錆試験方法)と同様にして行なった。上記各化合物A〜Lの含有率は重量%で示している。なお、防錆剤組成物を塗布する際においては、溶液状のものは比重を考慮し、液状態で1mgとなるようにアルミニウム板上に乗せ、5分間、100℃で均一に塗布した。また希釈剤が揮発性溶剤のものについては、揮発する前に十分均一に広がったことを確認後、5分間、100℃の加温で希釈剤のみを蒸発させた面で防錆効果を評価した。結果は表2の通りである。
【0087】
【表2】

【0088】
表2によれば本発明に係る防錆剤は市販のワックスやオイルまたは有機溶剤で希釈した形態でも、長時間防錆効果を発揮し、その含有率が0.05%の低濃度においても防錆効果を維持できることが確認できた。
【0089】
次いで、表3に示す各防錆剤、各キレート剤について、pH測定を行なった。表3に示す化合物のうち、化合物C、D、K、L、G、Hは表1および表2に示す各化合物と同じ化合物であり、化合物M、Nは下記に示す方法により合成したものである。また、化合物O〜Rは市販の試薬である。化合物C、D、K、L、M、G、H、Nは疎水基とキレート基とを有する化合物である。化合物Oはポリアミン系のキレート剤、化合物Pはカルボン酸系のキレート剤、化合物Qはリン酸系のキレート剤、化合物Rはアミン系のキレート剤として代表的なものである。
【0090】
・化合物M(式(16)の化合物)の合成
ステアロイルクロライドに代えて、ノナデカン酸クロライド9.0g(28.4mmol)を用いたこと以外、化合物Eと同様にして合成した(収率70%)。1H−NMR(DMSO)σppm(TMS):0.86(t,3H)、1.25(m,32H)、1.58(t,2H)、2.34(t,2H)、2.44(t,2H)、3.48(m,6H)、4.03(t,2H)。IR(cm−1):2923(C−H伸縮)、1733(エステルのC=O伸縮)、1455(カルボン酸のC−O伸縮)、1220(エステルのC−O伸縮)、1056(C−N伸縮)。
【0091】
【化16】

但し、R16はオクタデシル基である。
【0092】
・化合物N(式(17)の化合物)の合成
トリエチレンテトラミン4.1g(28.0mmol)をDMF200mlに溶解し、水浴にて冷却攪拌しながら、ステアロイルクロライド8.6g(28.4mmol)を少しずつ加えた。その後、常温にて12時間攪拌を続けた。反応終了後、反応液を氷浴にて冷却攪拌しながら、純水500mlを少しずつ加えた。その後、常温に戻して1時間攪拌後、1Nの水酸化ナトリウム溶液を少しずつ加えていくと、pH11.0付近で褐色オイルが現れた。上澄みを除き、得られたオイルに純水を加え、デカンテーションにて2回洗浄した。洗浄物を熱メタノールに溶解し冷却して再結晶させ、ろ取して黄色の粉末を得た。メタノール再結晶をもう一回繰り返して淡黄色の目的物を得た(収率58%)。1H−NMR(DMSO)σppm(TMS):0.85(t,3H)、1.30(m,30H)、1.39(t,2H)、2.28〜2.81(m,12H)、3.60(m,5H)。IR(cm−1):3405(N−H伸縮)、2920(C−H伸縮)、1662(アミドのC=O伸縮)、1590(N−H変角)、1050(C−N伸縮)。
【0093】
【化17】

但し、R17はヘプタデシル基である。
【0094】
・化合物O:ポリエチレンイミン
・化合物P:エチレンジアミン四酢酸
・化合物Q:ポリリン酸
・化合物R:ジエチレントリアミン
【0095】
(pH測定方法)
防錆剤が目的の塗布面以外の部分に付着した場合において、腐食等の影響が考えられる場合としては、有機材料や皮膚に付着した場合を挙げることができる。これらの表面状態としては、脂溶性、水溶性の場合が考えられる。また、水や油状成分によって湿っている場合が考えられる。そこで、その両方の状態を兼ね備えた表面状態を想定し、イソプロピルアルコール:純水=1:1の混合液を浸したろ紙を作製して、その表面に、表3に記載の各化合物をそれぞれ0.5mgずつ乗せて、1分間常温で放置後、各化合物が接触しているろ紙の接触表面におけるpHをそれぞれ測定した。この際、上記ろ紙にはユニバーサルpH試験紙(長さ5cm、幅7mm、アドバンテック社製)を用い、接触表面における色の変化によってpH値を求めた。すなわち、標準色との比較によってpH値を求めた。その結果を表3に示す。
【0096】
【表3】

【0097】
表3によれば、化合物M、G、H、N、O〜Rは、分子構造中に酸構造あるいは塩基構造を有している。そのため、pH測定の結果、酸性あるいはアルカリ性を示した。これに対し、化合物C、D、K、Lは、分子構造中に酸構造および塩基構造を有していない中性化合物である。そのため、pHは中性を示した。したがって、これらの化合物を有効成分として含有する防錆剤を用いた場合には、目的の塗布面以外の部分に付着した場合において、腐食あるいは人体への影響が抑えられることが推察される。また、保存安定性にも優れることが推察される。
【0098】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造中に疎水基とキレート基とを有する化合物を含有することを特徴とする防錆剤。
【請求項2】
前記疎水基は、長鎖アルキル基および環状アルキル基から選択された1種または2種以上の基であることを特徴とする請求項1に記載の防錆剤。
【請求項3】
前記キレート基は、ポリリン酸塩、アミノカルボン酸、1,3−ジケトン、アセト酢酸(エステル)、ヒドロキシカルボン酸、ポリアミン、アミノアルコール、芳香族複素環式塩基類、フェノール類、オキシム類、シッフ塩基、テトラピロール類、イオウ化合物、合成大環状化合物、ホスホン酸、および、ヒドロキシエチリデンホスホン酸から選択された1種または2種以上のキレート配位子に由来するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の防錆剤。
【請求項4】
前記疎水基とキレート基とは、エステル結合、エーテル結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、および、アミド結合から選択された1種または2種以上の結合を介して結合されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の防錆剤。
【請求項5】
前記化合物は中性化合物であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の防錆剤。
【請求項6】
金属表面塗布用であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の防錆剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の防錆剤を金属材の表面に塗布してなることを特徴とする表面処理金属材。
【請求項8】
前記金属材は、アルミニウム、鉄、銅、アルミニウム合金、鉄合金、および、銅合金から選択された1種または2種以上の金属よりなることを特徴とする請求項7に記載の表面処理金属材。

【公開番号】特開2010−65315(P2010−65315A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303887(P2008−303887)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】