説明

防錆剤組成物、防錆用樹脂組成物、および防錆用フィルム

【課題】鉄系金属に対して防錆効果を発揮して、銅等の非鉄系金属の気化性防錆効果に対し悪影響を及ぼさないとともに、熱可塑性樹脂と配合して樹脂成形品を製造するのに適した防錆剤組成物を提供する。
【解決手段】成分Aとして、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸と炭素数6〜14のアルキルアミンとの塩、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸と炭素数6〜14のシクロアルキルアミンとの塩、および炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸と炭素数6〜14のアルキルアミンとの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する防錆剤組成物。防錆剤組成物はさらに、成分Bとして、炭素数10〜14の脂肪族ジカルボン酸とアルカリ金属との塩を含有してもよく、成分Cとして、トリアゾール化合物、ピラゾロン化合物、およびイミダゾール化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属に対する防錆効果を有する防錆剤組成物、防錆用樹脂組成物、および防錆用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製品の防錆手段として、防錆油の塗布や気化性防錆紙による梱包が行われている。また、防錆油を塗布した、あるいは気化性防錆紙で梱包した金属製品の上からフィルムで覆って外気から遮蔽したり、金属製品を内包したフィルム内に気化性防錆剤を同封もしくは噴霧する方法等も行われている。近年では、防錆効果を有する薬剤を熱可塑性樹脂に練り込んだり、塗布または印刷した防錆用フィルムが開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、気化性防錆剤としてアルキルジカルボン酸アンモニウムと、防錆助剤として脂肪族モノカルボン酸塩と芳香族カルボン酸塩と炭酸塩とからなる群から選ばれる少なくとも1種を混合した防錆剤組成物や、当該防錆剤組成物と熱可塑性樹脂とを溶融および混練して得られる防錆フィルムが開示されている。しかし、特許文献1に開示される防錆剤組成物は、鋳鉄や鉄鋼等の鉄系金属に対しては気化性防錆効果を有するが、銅に対しては腐食を促進させたり変色させるおそれがあり、適用範囲が限られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−308726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、鉄系金属に対して防錆効果を発揮して、銅等の非鉄系金属の気化性防錆効果に対し悪影響を及ぼさないとともに、熱可塑性樹脂と配合して樹脂成形品を製造するのに適した防錆剤組成物を提供することにある。また、前記防錆剤組成物を含有する防錆用樹脂組成物および防錆用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決することができた本発明の防錆剤組成物とは、下記成分Aを含有するところに特徴を有する。
成分A:炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸と炭素数6〜14のアルキルアミンとの塩、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸と炭素数6〜14のシクロアルキルアミンとの塩、および炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸と炭素数6〜14のアルキルアミンとの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種。
【0007】
本発明の防錆剤組成物は、成分Aを含有することにより、アルキルアミンやシクロアルキルアミンに由来するガスが発生し、このガスが金属に対する防錆効果を発揮する。本発明の防錆剤組成物は、鋳鉄や鉄鋼等の鉄系金属に対しては接触性および非接触性(気化性)の防錆効果を発揮するとともに、銅やアルミニウム等の非鉄系金属に対しては腐食を促進させる等の悪影響を及ぼさない。また、本発明の防錆剤組成物は熱可塑性樹脂と配合して樹脂成形品を製造する際、樹脂成形品のブリード現象が起こりにくく、例えば防錆用フィルム等を好適に作製できる。
【0008】
本発明の防錆剤組成物はさらに、成分Bとして、炭素数10〜14の脂肪族ジカルボン酸とアルカリ金属との塩を含有してもよい。防錆剤組成物が成分Bを含有していれば、成分Bに含まれるアルカリ金属の作用により、成分Aに由来してアルキルアミンやシクロアルキルアミンが気化しやすくなり、鉄系金属に対する防錆効果を高める。また、炭素数10〜14の脂肪族ジカルボン酸アルカリ金属塩も、鉄系金属に対する接触性の防錆効果を高める。
【0009】
本発明の防錆剤組成物はさらに、成分Cとして、トリアゾール化合物、ピラゾロン化合物、およびイミダゾール化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。防錆剤組成物は、成分Cを含有することにより、銅、亜鉛、アルミニウム等の非鉄系金属に対する接触性および非接触性(気化性)の防錆効果が高められる。
【0010】
本発明の防錆剤組成物はさらに、成分Dとして、無機アルカリ金属塩、多塩基有機酸アルカリ金属塩(ただし、前記成分Bの塩は除く)、アルカリ土類金属の酸化物、およびアルカリ土類金属の水酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。防錆剤組成物が成分Dを含有していれば、成分Dがアルカリとして作用して、成分Aに由来してアルキルアミンやシクロアルキルアミンが気化しやすくなり、防錆剤組成物の防錆効果を高める。
【0011】
前記成分Aの炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸は、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、およびアジピン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記成分Aの炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸は、安息香酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、サリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、トルイル酸、p−t−ブチル安息香酸、およびβ−オキシナフトエ酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記成分Aの炭素数6〜14のアルキルアミンは、モノヘキシルアミン、モノオクチルアミン、モノデカノイックアミン、モノドデカノイックアミン、およびモノ−2−エチルヘキシルアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記成分Aの炭素数6〜14のシクロアルキルアミンは、ジシクロヘキシルアミンであることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、本発明の防錆剤組成物と熱可塑性樹脂とを含有する防錆用樹脂組成物と、当該防錆用樹脂組成物から得られる防錆用フィルムも提供する。また、本発明の防錆剤組成物、防錆用樹脂組成物、または防錆用フィルムを用いて、鉄系金属および/または非鉄系金属を防錆する防錆方法も提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防錆剤組成物、防錆用樹脂組成物、および防錆用フィルムは、鉄系金属に対して防錆効果を発揮するとともに、銅等の非鉄系金属の気化性防錆効果に対し悪影響を及ぼさない。また、本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と配合して防錆用フィルム等の樹脂成形品を製造するのに適している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の防錆剤組成物は、下記成分Aを含有する。
成分A:炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸と炭素数6〜14のアルキルアミンとの塩、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸と炭素数6〜14のシクロアルキルアミンとの塩、および炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸と炭素数6〜14のアルキルアミンとの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種。
【0015】
本発明の防錆剤組成物は、金属の腐食環境下に置かれると、成分Aが分解反応を起こしてアルキルアミンやシクロアルキルアミンに由来するガスが発生し、このガスが金属に対する防錆効果を発揮する。すなわち、成分Aからアルキルアミンやシクロアルキルアミンに由来するガスが発生すると、高温高湿の腐食環境下において金属表面に結露が生じた場合でも、金属表面に吸着したアルキルアミンやシクロヘキシルアミンにより金属表面が撥水性となり、防錆効果が発現する。本発明の防錆剤組成物は、鋳鉄、鉄鋼等の鉄系金属や、銅、アルミニウム等の非鉄系金属に対して、接触性および/または非接触性(気化性)の防錆効果を発揮する。特に、鋳鉄、鉄鋼等の鉄系金属の非接触性(気化性)および接触性の防錆効果に優れる。
【0016】
本発明の防錆剤組成物はまた、熱可塑性樹脂と配合して樹脂成形品を製造する際、樹脂成形品のブリード現象が起こりにくく、例えば防錆用フィルム等を好適に作製できる。これは、成分Aの塩と熱可塑性樹脂との相溶性が優れているためと考えられる。これに対し、例えば、炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸と炭素数6〜14のシクロアルキルアミンとの塩を用いた場合は、樹脂成形品の表面に粉が吹いたようになり、いわゆるブリード現象が起こりやすくなる。従って、炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸と炭素数6〜14のシクロアルキルアミンとの塩を用いた場合は、防錆用フィルム等の防錆用樹脂成形品を製造することが難しい。
【0017】
成分Aの塩を構成するアルキルアミンまたはシクロアルキルアミンはいずれも炭素数が6〜14である。このようなアミンが成分Aに含まれることにより、防錆剤組成物が、特に鋳鉄や鉄鋼等の鉄系金属に対する防錆効果を発揮しやすくなる。
【0018】
アルキルアミンおよびシクロアルキルアミンは、1級または2級アミンであることが好ましい。アルキルアミンおよびシクロアルキルアミンが1級または2級アミンであれば、カルボン酸との塩形成が容易になるとともに、アルキルアミンやシクロアルキルアミンに由来して発生したガスが、防錆効果を発揮しやすくなる。防錆効果の点からは、アルキルアミンは1級、つまりモノアルキルアミンであり、シクロアルキルアミンは2級、つまりジシクロアルキルアミンであることが好ましい。
【0019】
炭素数6〜14のアルキルアミンとしては、モノヘキシルアミン、モノオクチルアミン、モノデカノイックアミン、モノドデカノイックアミン、およびモノ−2−エチルヘキシルアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、モノオクチルアミン、モノデカノイックアミン、およびモノドデカノイックアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。炭素数6〜14のシクロアルキルアミンとしては、ジシクロヘキシルアミンが好ましい。アルキルアミンまたはシクロヘキシルアミンとして、このようなアミンを用いることにより、防錆効果の高い防錆剤組成物が得やすくなる。
【0020】
成分Aを構成する炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸または炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸は、アルキルアミンやシクロアルキルアミンの気化性や、塩の形成容易性に影響を及ぼす。アルキルアミンやシクロアルキルアミンの対イオンであるカルボン酸として、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸または炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸を用いれば、カルボン酸とアミンとの塩形成が容易になるとともに、アミンの気化性が向上する。
【0021】
脂肪族カルボン酸としては、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸を用いる。この場合、成分Aの塩としては、脂肪族ジカルボン酸1モルとアミン2モルとから得られるジアミン塩、または脂肪族ジカルボン酸1モルとアミン1モルとから得られるモノアミン塩となる。このとき、脂肪族ジカルボン酸の炭素数が2〜8であれば、酸強度が強くなりアミン塩の形成が容易になるとともに、防錆剤組成物を使用する際にアミンが遊離しやすくなり、アミンの気化性が向上する。一方、脂肪族ジカルボン酸の炭素数が9以上であれば、アミン塩(特にジアミン塩)を形成しにくくなり、成分Aの塩のpHが低下しやすくなる。その結果、防錆剤組成物が金属材料と接触した場合、金属材料を腐食させるおそれがある。炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸とアミンとの塩としては、接触性および非接触性(気化性)の防錆効果の点から、ジアミン塩を用いることが好ましい。
【0022】
脂肪族ジカルボン酸の炭素数2〜8とは、脂肪族を構成する炭素数とカルボン酸を構成する炭素数とを含む。従って、ジカルボン酸を除く炭素数は0〜6となる。脂肪族ジカルボン酸の炭素数は、好ましくは2〜6である。脂肪族ジカルボン酸を構成する脂肪族としては、炭素数1〜6(好ましくは、炭素数1〜4)のアルキレン基、炭素数2〜6(好ましくは、炭素数2〜4)のアルケニル基が好ましい。また、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸としては、カルボキシル基の炭素が単結合で繋がったシュウ酸であってもよい。炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、およびアジピン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの中でも、入手容易性や防錆剤としての機能の点から、フマル酸およびアジピン酸が好ましく、フマル酸がより好ましい。
【0023】
芳香族カルボン酸としては、炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸を用いる。炭素数7〜12の芳香族カルボン酸とアミンとの塩であれば、アミン塩の形成が容易になるとともに、防錆剤組成物を使用する際にアミンが遊離しやすくなり、アミンの気化性が向上する。
【0024】
芳香族モノカルボン酸の炭素数7〜12とは、芳香族を構成する炭素数とカルボン酸を構成する炭素数とを含む。従って、モノカルボン酸を除く炭素数は6〜11となる。芳香族モノカルボン酸に含まれる芳香環としては、製造容易性からベンゼン環またはナフタレン環が好ましく、芳香環にはメチル基、水酸基、アミノ基、ニトロ基等の置換基が結合していてもよい。炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸としては、安息香酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、サリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−トルイル酸、p−t−ブチル安息香酸、およびβ−オキシナフトエ酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの中でも、入手容易性や防錆剤としての機能の点から、安息香酸およびp−ヒドロキシ安息香酸がより好ましい。
【0025】
成分Aとしては、フマル酸、およびアジピン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、モノオクチルアミン、モノデカノイックアミン、モノドデカノイックアミン、およびジシクロヘキシルアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種との塩、もしくは、安息香酸、およびp−ヒドロキシ安息香酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種と、モノオクチルアミン、モノデカノイックアミン、およびモノドデカノイックアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種との塩が好ましい。より好ましくは、フマル酸とモノオクチルアミンとの塩、アジピン酸とモノオクチルアミンとの塩、フマル酸とジシクロヘキシルアミンとの塩、アジピン酸とジシクロヘキシルアミンとの塩、およびp−ヒドロキシ安息香酸とモノオクチルアミンとの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。特に好ましいのは、フマル酸とモノオクチルアミンとのジアミン塩である。
【0026】
成分Aは、例えば、脂肪族ジカルボン酸または芳香族モノカルボン酸と、アルキルアミンまたはシクロアルキルアミンとを、酸塩基反応させることにより得られる。反応原料となるカルボン酸やアミンが液体である場合は、溶媒で希釈することなくそのままカルボン酸とアミンとを反応させて、アミン塩を生成してもよい。また、水溶液中でカルボン酸とアミンとを反応させて、アミン塩を生成してもよい。さらにまた、脂肪族ジカルボン酸のアルカリ金属塩または芳香族モノカルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液と、アルキルアミンまたはシクロアルキルアミンの硫酸塩、リン酸塩、有機酸塩(ギ酸塩、酢酸塩等)等の水溶液とを混合し、複分解反応によってアミン塩を生成してもよい。酸塩基反応により析出したアミン塩は、ろ過等の公知の固液分離手段により分離してもよく、加熱乾燥や真空乾燥等によりアミン塩を固体として回収してもよい。
【0027】
本発明の防錆剤組成物は、下記成分Bをさらに含有してもよい。
成分B:炭素数10〜14の脂肪族ジカルボン酸とアルカリ金属との塩。
【0028】
防錆剤組成物が成分Bを含有していれば、成分Bの脂肪族ジカルボン酸とアルカリ金属との塩からアルカリ金属が遊離して、成分Bがアルカリとして作用するようになる。その結果、成分Aの分解反応が促進され、アルキルアミンやシクロアルキルアミンが気化しやすくなり、鋳鉄や鉄鋼等の鉄系金属に対する防錆効果を高める。また、炭素数10〜14の脂肪族ジカルボン酸のアルカリ金属塩が、鋳鉄や鉄鋼等の鉄系金属に対する接触性の防錆効果を高める。
【0029】
成分Bを構成する脂肪族ジカルボン酸としては、セバシン酸(HOOC(CH28COOH)、ウンデカン2酸(HOOC(CH29COOH)、ドデカン2酸(HOOC(CH210COOH)、ブラシル酸(HOOC(CH211COOH)、テトラデカン2酸(HOOC(CH212COOH)等の飽和脂肪族ジカルボン酸;2−オクテン2酸(HOOCCH=CH(CH26COOH)、4−ノネン2酸(HOOC(CH22CH=CH(CH23COOH)等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;4,4'−ジシクロヘキシルジカルボン等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。これらの脂肪族ジカルボン酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、セバシン酸、ウンデカン2酸、ドデカン2酸、ブラシル酸、テトラデカン2酸等の炭素数10〜14の飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0030】
成分Bを構成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、およびカリウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ナトリウムおよびカリウムが好ましい。
【0031】
成分Bの脂肪族ジカルボン酸とアルカリ金属との塩は、脂肪族ジカルボン酸1モルに対しアルカリ金属が2モル結合したジアルカリ金属塩であってもよく、アルカリ金属が1モル結合したモノアルカリ金属塩であってもよい。しかし、アルカリ金属が多く含まれる塩の方が成分Aの分解反応がより促進されることから、成分Bはジアルカリ金属塩を含むことが好ましい。
【0032】
成分Bの脂肪族ジカルボン酸とアルカリ金属との塩としては、セバシン酸、ウンデカン2酸、ドデカン2酸、ブラシル酸、およびテトラデカン2酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種のナトリウム塩またはカリウム塩が好ましい。これらの中でも、セバシン酸(2)ナトリウム、セバシン酸(2)カリウム、ドデカン2酸(2)ナトリウムがより好ましい。
【0033】
成分Bは、例えば、脂肪族ジカルボン酸またはその塩とアルカリ金属化合物とを、酸塩基反応させることにより得られる。アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の酸化物、水酸化物、または塩を用いればよい。成分Bの塩は、市販品を用いてもよい。
【0034】
脂肪族ジカルボン酸またはその塩とアルカリ金属化合物とを反応させて成分Bの塩を製造する場合、脂肪族ジカルボン酸またはその塩とアルカリ金属化合物の仕込み比は、脂肪族ジカルボン酸およびその塩に対するアルカリ金属のモル比(アルカリ金属/脂肪族ジカルボン酸)として1.4以上2.0以下とすることが好ましい。前記モル比が1.4以上であれば、成分Bに含まれるジアルカリ金属塩の割合が高くなり、防錆剤組成物の防錆効果が向上する。前記モル比が2.0を超えると、未反応のアルカリ金属化合物が残留して、得られる防錆剤組成物が液状やペースト状になり、取り扱い性が悪くなるおそれがある。
【0035】
防錆剤組成物が成分Bを含有する場合、成分Bの含有率は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。成分Bの含有率が20質量%以上であれば、鋳鉄、鉄鋼等の鉄系金属に対する接触性の防錆効果が十分高められやすくなる。成分Bの含有率が85質量%以下であれば、鋳鉄、鉄鋼等の鉄系金属に対する非接触性(気化性)の防錆効果が高められやすくなり、銅、亜鉛、アルミニウム等の非鉄系金属に対する悪影響を及ぼしにくくなる。なお、成分Bの含有率とは、成分Aと成分Bと後記する成分Cと成分Dの和に対する成分Bの質量比率(B/(A+B+C+D))を意味する。前記質量比率(B/(A+B+C+D))において、成分Cと成分Dは任意成分であるため、CとDは0であってもよい。
【0036】
防錆剤組成物に含まれる成分Aと成分Bの割合は、成分Aに対する成分Bの質量比(B/A)として0/100以上が好ましく、10/90以上がより好ましく、90/10以下が好ましく、80/20以下がより好ましい。前記質量比(B/A)が0/100〜80/20の範囲であれば、鋳鉄、鉄鋼等の鉄系金属に対する非接触性(気化性)の防錆効果が確保されやすくなる。
【0037】
本発明の防錆剤組成物は、下記成分Cをさらに含有してもよい。防錆剤組成物は、成分Cを含有することにより、銅、亜鉛、アルミニウム等の非鉄系金属に対する接触性および非接触性(気化性)の防錆効果が高められる。
成分C:トリアゾール化合物、ピラゾロン化合物、およびイミダゾール化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種。
【0038】
前記トリアゾール化合物は、分子中にトリアゾール骨格を有する化合物であれば特に限定されない。トリアゾール化合物としては、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、1,2,3−ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ニトロベンゾトリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、およびこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。これらのトリアゾール化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ベンゾトリアゾール、およびトリルトリアゾールよりなる群から選ばれる少なくとも1種、またはそのナトリウム塩が好適である。
【0039】
前記ピラゾロン化合物は、分子中にピラゾロン骨格を有する化合物であれば特に制限されない。ピラゾロン化合物としては、3−メチル−5−ピラゾロン、1,3−ジメチル−5−ピラゾロン、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン等が挙げられる。これらのピラゾロン化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
前記イミダゾール化合物は、分子中にイミダゾール骨格を有する化合物であれば特に限定されない。イミダゾール化合物としては、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ホルミルイミダゾール、4−ホルミルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、2−メルカプトベンゾイミダゾール等が挙げられる。これらのイミダゾール化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、および2−メルカプトベンゾイミダゾールよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0041】
防錆剤組成物が成分Cを含有する場合、成分Cの含有率は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。成分Cの含有率が5質量%以上であれば、銅、亜鉛、アルミニウム等の非鉄系金属に対する接触性および非接触性(気化性)の防錆効果が十分高められやすくなる。成分Cの含有率が60質量%以下であれば、鋳鉄、鉄鋼等の鉄系金属に対する防錆効果が高められる。なお、成分Cの含有率とは、成分Aと成分Bと成分Cと後記する成分Dの和に対する成分Cの質量比率(C/(A+B+C+D))を意味する。前記質量比率(C/(A+B+C+D))において、成分Bと成分Dは任意成分であるため、BとDは0であってもよい。
【0042】
防錆剤組成物が成分Cを含有する場合、成分A、成分Bおよび成分Cの含有割合は、成分Aと成分Bとの和に対する成分Cの質量比(C/A+B)として、5/95以上が好ましく、10/90以上がより好ましく、70/30以下が好ましく、60/40以下がより好ましい。なお、前記質量比(C/A+B)において、Bは0であってもよい。前記質量比(C/A+B)が5/95以上であれば、銅、亜鉛、アルミニウム等の非鉄系金属に対する防錆効果が確保されやすくなる。前記質量比(C/A+B)が70/30以下であれば、鋳鉄、鉄鋼等の鉄系金属に対する防錆効果が確保されやすくなる。
【0043】
本発明の防錆剤組成物は、下記成分Dをさらに含有してもよい。防錆剤組成物が成分Dを含有していれば、成分Dがアルカリとして作用して成分Aの分解反応を促進し、成分Aを構成するアルキルアミンやシクロアルキルアミンが気化しやすくなる。
成分D:無機アルカリ金属塩、多塩基有機酸アルカリ金属塩(ただし、成分Bの塩は除く)、アルカリ土類金属の酸化物、およびアルカリ土類金属の水酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種。
【0044】
成分Dとしては、水に溶かした場合にアルカリ性(pH>7.0)を呈する化合物が好ましい。そのような化合物であれば、成分Aの分解反応が促進されやすくなる。
【0045】
前記無機アルカリ金属塩としては、金属に対する接触腐食を低減する点から、リン酸アルカリ金属塩、ケイ酸アルカリ金属塩、またはアルミン酸アルカリ金属塩を用いることが好ましい。リン酸アルカリ金属塩としては、リン酸1水素2リチウム、リン酸1水素2ナトリウム、リン酸1水素2カリウム等の第2リン酸塩;リン酸3リチウム、リン酸3ナトリウム、リン酸3カリウム等の第3リン酸塩;無水ピロリン酸4ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ペンタポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等の重合リン酸塩等が挙げられる。ケイ酸アルカリ金属塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム等が挙げられる。アルミン酸アルカリ金属塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等が挙げられる。
【0046】
アルカリ金属塩としては、有機酸塩を用いることもできる。ただし、成分Dは固体である方が防錆剤組成物の取り扱い性が向上することから、入手容易な固体の有機酸塩として、多塩基有機酸塩を用いることが好ましい。また、多塩基有機酸塩を用いれば、成分Dがアルカリとして効率よく作用することも期待できる。なお、成分Dは成分Bと異なり、多塩基有機酸塩による防錆効果を有さなくてもよい点から、多塩基有機酸塩には炭素数10〜14の脂肪族ジカルボン酸塩(成分B)は含まれない。
【0047】
前記多塩基有機酸アルカリ金属塩としては、リンゴ酸2ナトリウム、酒石酸2ナトリウム、コハク酸2ナトリウム、フマル酸2ナトリウム、フタル酸2ナトリウム、フタル酸2カリウム等の炭素数9以下の2塩基有機酸塩;クエン酸3ナトリウム、クエン酸3カリウム、トリメリット酸3ナトリウム、トリメリット酸3カリウム、ピロメリット酸3ナトリウム、ピロメリット酸3カリウム、ニトリロ3酢酸3ナトリウム、ニトリロ3酢酸3カリウム等の3塩基有機酸塩;ピロメリット酸4ナトリウム、ピロメリット酸4カリウム、エチレンジアミン4酢酸3ナトリウム、エチレンジアミン4酢酸3カリウム、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム、エチレンジアミン4酢酸4カリウム等の4塩基有機酸塩等が挙げられる。
【0048】
前記アルカリ土類金属の酸化物または水酸化物としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、および水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0049】
成分Dとして前記例示した化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、成分Dとして前記例示した化合物は、無水化合物であっても、含水化合物であってもよい。なお、防錆剤組成物を熱可塑性樹脂と配合して樹脂成形品を製造する場合は、樹脂成形品の製造容易性の点から、成分Dの化合物は無水化合物であることが好ましい。成分Dとしては、リン酸1水素2リチウム、リン酸1水素2ナトリウム、リン酸1水素2カリウム、無水ピロリン酸4ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ペンタポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、クエン酸3ナトリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、および水酸化マグネシウムが好ましい。より好ましくは、成分Dとしては、メタケイ酸ナトリウム、リン酸1水素2ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、クエン酸3ナトリウム、水酸化カルシウム、および水酸化マグネシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0050】
防錆剤組成物が成分Dを含有する場合、成分Dの含有率は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。成分Dの含有率が40質量%以下であれば、防錆剤組成物中の他の成分、すなわち成分Aと必要に応じて含まれる成分Bと成分Cの含有率が確保され、鋳鉄、鉄鋼等の鉄系金属や非鉄系金属に対する防錆効果が高められる。成分Dの含有率の下限は特に限定されないが、成分Dの含有率は、例えば0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましい。なお、成分Dの含有率とは、成分Aと成分Bと成分Cと成分Dの和に対する成分Dの質量比率(D/(A+B+C+D))を意味する。前記質量比率(D/(A+B+C+D))において、成分Bと成分Cは任意成分であるため、BとCは0であってもよい。
【0051】
防錆剤組成物は、必要に応じて、ポリアクリル酸ナトリウム等の吸湿性ポリマー等を含有していてもよい。また、バインダー、増量剤、顔料、色素等を含有してもよい。
【0052】
以上のように、本発明の防錆剤組成物は成分Aを必須的に含有し、必要に応じて成分B、成分C、および成分Dよりなる群から少なくとも1種を含有する。本発明の防錆剤組成物は、成分Aをそのまま防錆剤として用いてもよく、成分Aと任意成分である成分B、成分C、および/または成分Dとを配合して得られるものを防錆剤として用いてもよい。
【0053】
防錆剤組成物が複数の成分を含有する場合、固体(好ましくは粉体)の各成分を混合することにより、防錆剤組成物を製造することが好ましい。つまり、前記説明した各成分は、いずれも常温常圧(25℃、1気圧)で固体であることが好ましく、粉体であることがより好ましい。各成分の混合方法は、公知の方法を用いればよい。
【0054】
防錆剤組成物は、常温常圧(25℃、1気圧)で固体であることが好ましい。また、防錆剤組成物が複数の成分を含有する場合は、複数の成分を均一な混合状態で含有することが好ましい。防錆剤組成物は、粉体状であってもよく、任意の形状の塊状であってもよく、任意の方法で造粒した粒状、あるいは任意の方法で成形したペレット状等であってもよい。
【0055】
次に、本発明の防錆用樹脂組成物について説明する。本発明の防錆用樹脂組成物は、本発明の防錆剤組成物と熱可塑性樹脂とを含有する。
【0056】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン樹脂;アクリロニトリル樹脂;ブタジエン・スチレン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン12、非晶質ナイロン等のポリアミド系樹脂;エチレン−酢酸ビニルやアクリル酸エステル等の共重合体樹脂;アイオノマー樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエチレンがより好ましい。
【0057】
本発明の防錆用樹脂組成物は、例えば、前記防錆剤組成物と熱可塑性樹脂とを配合して、混合することにより得られる。防錆剤組成物と熱可塑性樹脂とを混合する方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。例えば、粉末状の防錆剤組成物を熱可塑性樹脂のペレットまたは粉末に添加し、バンバリーミキサー、ミキシングロールニーダー、二軸混練押出機等の混合装置を用いて混合すればよい。この際、防錆用樹脂組成物は粉砕機等で粉砕し、任意の粒度に調整してもよい。防錆剤組成物と熱可塑性樹脂との混合物を、加熱して任意の形状に成形して、成形品を得てもよい。
【0058】
防錆用樹脂組成物中の防錆剤組成物の含有率は、防錆剤組成物と熱可塑性樹脂との合計100質量%中、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。前記防錆剤組成物の含有率が0.1質量%以上であれば、金属に対する防錆効果が発揮されやすくなる。前記防錆剤組成物の含有率が10質量%以下であれば、防錆用樹脂組成物から得られる成形品の強度が確保されやすくなる。また、成形品(特にフィルム状の成形品)の水蒸気透過性およびガス透過性が大きくなりすぎず、防錆効果が発揮されやすくなる。
【0059】
防錆用樹脂組成物は、防錆剤組成物と熱可塑性樹脂とに加え、必要に応じて、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、補強剤等を含有してもよい。防錆用樹脂組成物は、溶融して成形することにより、防錆効果を有する任意の樹脂成形品を得ることができる。
【0060】
本発明の防錆用フィルムについて説明する。本発明の防錆用フィルムは、本発明の防錆用樹脂組成物から得られるものである。
【0061】
防錆用樹脂組成物から防錆用フィルムを作製する方法としては、公知のフィルム作製方法を採用することができ、例えば、インフレーション法、T−ダイキャスト法等を挙げることができる。防錆用フィルムを成形する際の温度は、防錆剤組成物に含まれる成分の蒸発や昇華を極力抑えるために、防錆剤組成物に含まれる成分の分解温度以下の温度とすることが好ましい。そのため、フィルム成形温度は180℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましく、140℃以下がさらに好ましい。
【0062】
本発明の防錆用フィルムは、本発明の防錆剤組成物を含有するため、フィルムに成形してもブリード現象が起こりにくい。従って、例えば、防錆用フィルムで金属材料を包んで、金属材料の発錆を好適に抑制することができる。
【0063】
防錆用フィルムの厚みは、30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。防錆用フィルムの厚みが30μm〜500μmの範囲にあれば、フィルムの強度と防錆効果とが確保されやすくなる。
【0064】
次に、本発明の防錆方法について説明する。本発明の防錆剤組成物、防錆用樹脂組成物、および防錆用フィルムはいずれも、鉄系金属および/または非鉄系金属の防錆のために、使用することができる。すなわち、本発明の防錆方法は、前記防錆剤組成物、前記防錆用樹脂組成物、または前記防錆用フィルムを用いて、鉄系金属および/または非鉄系金属を防錆するところに特徴を有する。
【0065】
防錆の対象となる金属としては、鋳鉄、鉄鋼等の鉄系金属、および/または、銅、亜鉛、アルミニウム等の非鉄系金属である。本発明の防錆方法は、前記示した少なくとも1種の金属の防錆に効果を発揮すればよい。
【0066】
防錆剤組成物を用いて金属を防錆する方法としては、防錆剤組成物を粉末状にして金属製品と同封する方法;防錆剤組成物を紙に塗布し、防錆紙として金属製品を包装する方法等が挙げられる。防錆剤組成物を粉末状にして金属製品と同封する場合は、取り扱い性を高めるため、通気性の不織布、あるいは孔開きフィルムや連続気泡タイプの発泡フィルムのような通気性フィルムからなる袋などに適量包装して用いることが好ましい。ここで使用される不織布や通気性フィルムの種類は特に制限されない。防錆剤組成物の漏出を防止しつつ、防錆効果を有するガスの通過を許すものであれば、通常の植物性繊維、動物性繊維、再生繊維、合成繊維等の不織布、あるいは各種樹脂の連続発泡シート、孔開きフィルム等が使用可能である。
【0067】
防錆用樹脂組成物を用いて金属を防錆する方法としては、防錆用樹脂組成物を溶剤等で希釈または溶解して、塗工、スプレー、浸漬等の手段によって、防錆用樹脂組成物を金属製品に塗布する方法等が挙げられる。防錆用フィルムを用いて金属を防錆する方法としては、防錆用フィルムにより金属製品を被覆または包装する方法等が挙げられる。これらの中でも、より省力化を図れることから、防錆用フィルムにより金属製品を被覆または包装する方法が好ましい。
【0068】
本発明の防錆剤組成物を用いた防錆方法は、特に鋳鉄や鉄鋼等の鉄系金属の防錆に対し有効である。また、銅、亜鉛、アルミニウム等の非鉄系金属の非接触性(気化性)防錆効果に対して悪影響を及ぼさず、防錆剤組成物の組成によっては、非鉄系金属に対する防錆効果も発揮する。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0070】
(1)成分Aの塩の合成
(1−1)フマル酸とオクチルアミンとのジアミン塩(化合物A−1)の合成
フマル酸(関東化学株式会社製、試薬)116g(1モル)とオクチルアミン(花王株式会社製、製品名「ファーミン(登録商標)08D」)260g(2モル)とを脱イオン水800gに加え、80℃に加温して溶解後、20℃まで冷却して結晶を析出させた。得られた結晶を、ろ別後、乾燥させて、化合物A−1を得た。化合物A−1の1質量%濃度のpHは、6.2であった。
【0071】
(1−2)アジピン酸とジシクロヘキシルアミンとのジアミン塩(化合物A−2)の合成
アジピン酸(関東化学株式会社製、試薬)73g(0.5モル)とジシクロヘキシルアミン(関東電化工業株式会社製、D−CHA−T)181g(1モル)とを脱イオン水700gに加え、80℃に加温して溶解後、20℃まで冷却して結晶を析出させた。得られた結晶を、ろ別後、乾燥させて、化合物A−2を得た。化合物A−2の1質量%濃度のpHは、7.0であった。
【0072】
(1−3)p−ヒドロキシ安息香酸とオクチルアミンとのモノアミン塩(化合物A−3)の合成
p−ヒドロキシ安息香酸(関東化学株式会社製、試薬)138g(1モル)とオクチルアミン(花王株式会社製、製品名「ファーミン08D」)130g(1モル)とを脱イオン水800gに加え、80℃に加温して溶解後、20℃まで冷却して結晶を析出させた。得られた結晶を、ろ別後、乾燥させて、化合物A−3を得た。化合物A−3の1質量%濃度のpHは、7.2であった。
【0073】
(2)防錆用フィルムの作製
(2−1)フィルム1の作製
化合物A−1(防錆剤組成物)を、粉砕機で100μm以下に粉砕した後、濃度1.0質量%となるように低密度ポリエチレン(東ソー株式会社製、製品名「ペトロセン(登録商標)180」、密度0.922g/cm3、メルトフローレート2.0g/10min)と混合し、防錆用樹脂組成物を得た。得られた防錆用樹脂組成物から、インフレーション法(成形温度160℃)により、厚さ100μmのフィルム1を得た。得られたフィルム1には、ブリード現象は見られなかった。
【0074】
(2−2)フィルム2〜17の作製
表1に示す配合割合に従い各化合物を配合し混合することにより調製した防錆剤組成物を、粉砕機で100μm以下に粉砕した後、濃度1.0質量%となるように低密度ポリエチレン(東ソー株式会社製、製品名「ペトロセン180」、密度0.922g/cm3、メルトフローレート2.0g/10min)と混合し、防錆用樹脂組成物を得た。得られた防錆用樹脂組成物から、インフレーション法(成形温度160℃)により、厚さ100μmのフィルム2〜17を得た。得られたフィルム12〜17には、ブリード現象は見られなかった。
【0075】
表1に示す各化合物について、セバシン酸2ナトリウムは豊国製油株式会社製の製品名「SA−NA」を用い、2−メルカプトベンゾイミダゾールは精工化学株式会社製の製品名「ノンフレックス(登録商標)MB」を用い、ベンゾトリアゾールはキレスト株式会社製の製品名「C.V.I.」を用い、リン酸1水素2ナトリウム(無水)とメタケイ酸ナトリウム(無水)と酸化マグネシウムとアルミン酸ナトリウムとクエン酸3ナトリウムは関東化学株式会社製の試薬を用いた。
【0076】
ドデカン2酸ナトリウムは、ドデカン2酸(デュポン株式会社製、製品名「コーフリーM−2」)1モルに対して2モルのNaOHを水存在下で混合して反応させた後、スプレードライにより水分を蒸発させて得られた結晶を用いた。なお、ドデカン2酸ナトリウムの結晶の含水率は0.5質量%以下であった。
【0077】
(2−3)フィルム18の作製
低密度ポリエチレン(東ソー株式会社製、製品名「ペトロセン180」、密度0.922g/cm3、メルトフローレート2.0g/10min)から、インフレーション法(成形温度160℃)により、厚さ100μmのフィルム18を得た。
【0078】
(3)試験方法
(3−1)試験に用いた試験片
防錆試験(接触防錆試験、気化性防錆試験)には、下記の試験片を用いた。
鋳鉄板:JIS G 5501(1995)に規定されるFC−200を用いた。大きさは、接触防錆試験用が50mm×50mm×2.0mmであり、気化性防錆試験用が50mm×50mm×5.0mmであった。
鉄鋼板:JIS G 3141(2005)に規定されるSPCC−SBを用いた。大きさは、接触防錆試験用が60mm×80mm×1.2mmであり、気化性防錆試験用が40mm×60mm×3.0mmであった。
銅板:JIS H 3100(2006)に規定されるC1100を用いた。大きさは、接触防錆試験用が40mm×60mm×1.5mmであり、気化性防錆試験用が40mm×60mm×3.2mmであった。
亜鉛板:JIS H 4321(1953)に規定される第2種を用いた。大きさは、40mm×60mm×1.5mmであった。
アルミニウム板:JIS H 4000(2006)に規定されるA1050Pを用いた。大きさは、40mm×60mm×1.5mmであった。
【0079】
鋳鉄板および鉄鋼板は、#240の研磨布で乾式研磨後、メタノールおよびアセトンで脱脂および洗浄した後、乾燥したものを用いた。亜鉛板、銅板およびアルミニウム板は、#320の耐水研磨紙を用いて脱イオン水中で研磨した後、メタノールおよびアセトンで脱脂および洗浄した後、乾燥したものを用いた。
【0080】
(3−2)接触防錆試験
フィルム1〜18について、それぞれ、2種類の大きさ(100mm×150mm、60mm×110mm)の防錆用フィルム袋を作製した。鉄鋼板試験片は100mm×150mmの防錆用フィルム袋に、鋳鉄板、銅板、亜鉛板、およびアルミニウム板試験片は60mm×110mmの防錆用フィルム袋に入れ、防錆用フィルム袋内の空気を抜気した後、ヒートシールで密封包装した。防錆用フィルム袋で密封包装した試験片を25℃で16時間保持した後、環境試験機(KATO社製、型式「シルバリーエンペラー」)を用いて、接触防錆試験を行った。防錆試験における環境試験機の温湿度条件は、(1)5℃,RH95%で2時間、(2)50℃,RH95%で2時間、(3)5℃,RH95%で2時間、(4)50℃,RH95%で12時間、の順番で設定し、5℃から50℃の昇温は30分かけて行い、50℃から5℃の降温は2時間30分かけて行い、(1)から(4)までを1サイクルとして24時間かけて行った。これを30サイクル繰り返した後の試験片表面の錆、腐食、および変色状態を評価した。
【0081】
(3−3)気化性防錆試験
ポリプロピレン製試験管バスケット(株式会社サンプラテック社、コードNo.9049,呼称S、外寸法127mm×102mm×102mm)を枠組に使用して、枠組の内部に高さ40mm、厚み2mmのポリプロピレン製間仕切りボードで井桁を組んで、そこに各試験片を固定した。試験片を固定した試験管バスケットを、フィルム1〜18のいずれかにより包んで密封し(ガゼットシール)、25℃で16時間保持した後、環境試験機(KATO社製、型式「シルバリーエンペラー」)を用いて、気化性防錆試験を行った。気化性防錆試験における環境試験機の温湿度条件は、接触防錆試験と同じ条件で24時間で1サイクル行った。気化性防錆試験では、これを5サイクル繰り返した後の試験片表面の錆、腐食、および変色状態を評価した。
【0082】
(3−4)評価基準
接触防錆試験と気化性防錆試験の評価は、下記基準に基づいて行った。
◎:腐食、変色なし。
○:極僅かな腐食(点さび1〜3個または変色面積10%未満)。
△:軽度の腐食(点さび4〜9個または変色面積10〜30%未満)。
×:明確な腐食(点さび10個以上または変色面積30〜50%未満)。
××:激しい腐食(腐食、変色面積50%以上)。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
(4)試験結果
試験結果を表2に示す。熱可塑性樹脂のみから作製されたフィルム18では、銅とアルミニウムが「○」または「△」との評価であったのに対し、鋳鉄、鉄鋼、亜鉛では激しい腐食が起こった。成分Aを含有するフィルム1では、フィルム18と比較して、接触防錆試験と気化性防錆試験で鋳鉄と鉄鋼の腐食が抑えられ、銅とアルミニウムについては悪影響が見られなかった。
【0086】
成分Aに加え成分Bを含有するフィルム2では、鋳鉄と鉄鋼の鉄系金属に対する接触性と非接触性(気化性)の防錆効果がさらに改善した。なお、成分Aを含有せず成分Bのみを含有するフィルム15では、鋳鉄と鉄鋼の鉄系金属に対する非接触性(気化性)の防錆効果が見られなかった。
【0087】
成分Aに加え成分Cを含有するフィルム3では、銅、亜鉛、アルミニウムの非鉄系金属に対する接触性と非接触性(気化性)の防錆効果がさらに改善した。なお、成分Aを含有せず成分Cのみを含有するフィルム16では、鋳鉄と鉄鋼の鉄系金属に対する接触性と非接触性(気化性)の防錆効果がほとんど見られなかった。
【0088】
成分Aに加え、成分Bと成分Cとを含有するフィルム4〜8では、いずれの金属に対しても、接触性と非接触性(気化性)の防錆効果が改善した。なお、成分Aを含有せず成分Bと成分Cのみを含有するフィルム17では、鋳鉄と鉄鋼の鉄系金属に対する非接触性(気化性)の防錆効果がほとんど見られなかった。
【0089】
成分Aに加え、成分Bと成分Cと成分Dとを含有するフィルム9〜14では、いずれの金属試験に対しても、接触性と非接触性(気化性)の両方において優れた防錆効果が見られた。フィルム9〜14では、成分Aの含有率が低くなっても、優れた防錆効果が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の防錆剤組成物、防錆用樹脂組成物、および防錆用フィルムは、鉄系金属や非鉄系金属の防錆用途へ適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分Aを含有することを特徴とする防錆剤組成物。
成分A:炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸と炭素数6〜14のアルキルアミンとの塩、炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸と炭素数6〜14のシクロアルキルアミンとの塩、および炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸と炭素数6〜14のアルキルアミンとの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種。
【請求項2】
さらに、下記成分Bを含有する請求項1に記載の防錆剤組成物。
成分B:炭素数10〜14の脂肪族ジカルボン酸とアルカリ金属との塩。
【請求項3】
さらに、下記成分Cを含有する請求項1または2に記載の防錆剤組成物。
成分C:トリアゾール化合物、ピラゾロン化合物、およびイミダゾール化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種。
【請求項4】
前記成分Aの炭素数2〜8の脂肪族ジカルボン酸が、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、およびアジピン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記成分Aの炭素数7〜12の芳香族モノカルボン酸が、安息香酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、サリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、トルイル酸、p−t−ブチル安息香酸、およびβ−オキシナフトエ酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記成分Aの炭素数6〜14のアルキルアミンが、モノヘキシルアミン、モノオクチルアミン、モノデカノイックアミン、モノドデカノイックアミン、およびモノ−2−エチルヘキシルアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記成分Aの炭素数6〜14のシクロアルキルアミンが、ジシクロヘキシルアミンである請求項1〜3のいずれか一項に記載の防錆剤組成物。
【請求項5】
さらに、下記成分Dを含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の防錆剤組成物。
成分D:無機アルカリ金属塩、多塩基有機酸アルカリ金属塩(ただし、成分Bの塩は除く)、アルカリ土類金属の酸化物、およびアルカリ土類金属の水酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の防錆剤組成物と熱可塑性樹脂とを含有することを特徴とする防錆用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の防錆用樹脂組成物から得られることを特徴とする防錆用フィルム。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の防錆剤組成物、請求項6に記載の防錆用樹脂組成物、または請求項7に記載の防錆用フィルムを用いて、鉄系金属および/または非鉄系金属を防錆することを特徴とする防錆方法。

【公開番号】特開2011−127202(P2011−127202A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288434(P2009−288434)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(596148629)中部キレスト株式会社 (31)
【出願人】(592211194)キレスト株式会社 (30)
【Fターム(参考)】