説明

防錆用コート剤および積層金属材料

【課題】 金属表面へのコート剤として使用した場合に、優れた防錆性、耐アルカリ性、耐水性、耐アルコール性、特に高荷重下での耐アルコール性、加工性、良好な密着性等を有する被膜を形成可能な防錆用コート剤およびこれをコートした積層金属材料を提供する。
【解決手段】 ポリオレフィン樹脂(A)、ポリオレフィン樹脂(B)、ワックス(C)、および水性媒体を含有する水性コート剤であって、(A)/(B)=100/0〜0/100(質量比)、(C)/{(A)+(B)}=10/100〜80/100(質量比)の割合で含有する防錆用コート剤およびこれを塗布した積層金属材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆用コート剤およびこれを塗布して得られる被膜を設けた積層金属材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気亜鉛めっき鋼板や溶融亜鉛めっき鋼板などの金属めっき鋼板は自動車、家電、構造物などに広く用いられており、近年、優れた防錆性を有する表面処理鋼板への要求が高まっている。このような状況下において、亜鉛めっき鋼板の防錆性を一層高めるために、6価クロムを用いたクロメート処理が採用されてきている。クロメート処理により亜鉛メッキ材料の防錆性は向上するが、6価クロムによる作業環境や設置場所のクロム汚染の問題が指摘されており、クロムを使用しない、いわゆるノンクロメート防錆処理剤の開発が急務となっている。
【0003】
新たなノンクロメート防錆処理剤の1つとして、様々な高分子化合物をベースとした処理剤が検討されている。例えば、オレフィン系の粉体樹脂を鋼板の表面に塗装する試みが特許文献1および特許文献2に開示され、また、特許文献3には、エチレン−不飽和カルボン酸との共重合体樹脂粉末を粉体塗装することが開示されている。
【0004】
しかしながら、このような粉体樹脂を用いて塗装する場合には、20μm以下の厚さに塗装するのは非常に困難であり、薄塗りを必要とする用途に使用することはできない。しかも、平滑性や均一性の優れた被膜を得るのは困難であり、被膜の平滑性や均一性を改善するためには粉体樹脂の流動性や平均粒子径に制限を受ける場合も多い。
【0005】
塗装を薄くかつ均一にするために、樹脂を有機溶剤あるいは水性媒体に溶解または分散させたコート剤を用いて、鋼板などに塗布する方法がとられている。コート剤の媒体は、環境保護、省資源、消防法等による危険物規制、職場環境改善の立場からは、有機溶剤を使用するよりも、水性媒体を使用する方が好ましいため、不飽和カルボン酸含有量の高いエチレン−不飽和カルボン酸共重合体を用いて、樹脂中のカルボキシル基を塩基性化合物で中和することで水性媒体中に分散した水性防錆用コート剤が使用されている。例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6等には、不飽和カルボン酸含有量が20質量%程度のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体を主成分とした水性の防錆用コート剤が例示されている。
【0006】
しかしながら、不飽和カルボン酸含有量の高い樹脂を塗装した場合、被膜の耐アルカリ性は著しく低下してしまい、耐アルカリ性を必要とする用途には使用できない。また、このような樹脂はメタノールやエタノールなどに対する耐アルコール性、特に高荷重下での耐アルコール性が十分ではなかった。耐アルカリ性を改良するための手段として特許文献7や、本出願人による特許文献8、9には不飽和カルボン酸含有量の低いエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体を用いた防錆用コート剤が提案されている。この樹脂を用いることで耐アルカリ性は著しく向上するが、耐アルコール性、特に高荷重下での耐アルコール性は十分とはいえなかった。耐アルコール性を向上させるために架橋剤を添加することも開示されているが、架橋反応を進行させて被膜の耐アルコール性を発現させるためには高温で長時間の乾燥処理が必要であり、生産性、経済性などを考慮した場合は好ましい方法とはいえなかった。
【0007】
【特許文献1】特開昭60−143952号公報
【特許文献2】特開平7−207215号公報
【特許文献3】特開平11−131259号公報
【特許文献4】特公平5−54823号公報
【特許文献5】特開平6−246229号公報
【特許文献6】特開2000−198949号公報
【特許文献7】特開2002−348523号公報
【特許文献8】特開2002−348523号公報
【特許文献9】特開2003−171513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上記のような課題に対して、薄塗りが可能であり、低温で乾燥するだけで優れた防錆性、耐アルカリ性、耐水性、耐アルコール性(特に高荷重下での耐アルコール性)、加工性および金属材料への密着性を有する被膜を形成できる水性のコート剤およびこれをコートした積層金属材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定組成の2種のポリオレフィン樹脂とワックスとを特定の割合で含有し、好ましく防錆性向上剤を含有する水性のコート剤を金属材料の表面に塗布し、該樹脂組成物からなる層を形成させることにより、高荷重下での耐アルコール性が著しく向上するだけでなく、防錆性も向上することを見出し、さらに耐アルカリ性を含む上記の優れた性能をも発現することを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)下記ポリオレフィン樹脂(A)、下記ポリオレフィン樹脂(B)、ワックス(C)、および水性媒体を含有し、(A)〜(C)成分の質量比が、(A)/(B)=100/0〜0/100、(C)/{(A)+(B)}=10/100〜80/100のを満たすことを特徴とする防錆用コート剤。
【0011】
ポリオレフィン樹脂(A):不飽和カルボン酸またはその無水物(A1)、エチレン系炭化水素(A2)、およびアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル(A3)とから構成される共重合体であって、(A1)〜(A3)成分の質量比が(A1)/{(A1)+(A2)+(A3)}=0.01/100〜5/100、(A2)/(A3)=55/45〜99/1をみたすポリオレフィン樹脂。
【0012】
ポリオレフィン樹脂(B):不飽和カルボン酸またはその無水物(B1)とエチレン系炭化水素(B2)とから構成される共重合体であって、(B1)〜(B2)成分の質量比が(B1)/(B2)=12/88〜30/70をみたすポリオレフィン樹脂。
(2)ポリオレフィン樹脂(A)および(B)の質量比が、(A)/(B)=98/2〜50/50であることを特徴とする(1)記載の防錆用コート剤。
(3)さらに防錆性向上剤(D)を含有し、その量が(A)〜(C)の固形分の合計質量100質量部に対して1〜100質量部であることを特徴とする(1)または(2)に記載の防錆用コート剤。
(4)金属材料に(1)〜(3)のいずれかに記載の防錆用コート剤を塗布し、乾燥して得られる被膜を設けてなる積層金属材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い防錆性と同時に、耐水性、耐アルコール性、特に高荷重下での耐アルコール性、加工性および金属への良好な密着性を有する被膜が得られる。また、必要に応じて耐アルカリ性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いるポリオレフィン樹脂(A)は、(A1)不飽和カルボン酸またはその無水物、(A2)エチレン系炭化水素、および(A3)アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの3種類の成分からなる共重合体である。
【0016】
不飽和カルボン酸またはその無水物(A1)成分は、質量比で(A1)/{(A1)+(A2)+(A3)}=0.01/100〜5/100とする必要があり、この比は0.1/100〜5/100とすることが好ましく、0.5/100〜5/100とすることがさらに好ましく、1/100〜4/100とすることが最も好ましい。(A1)成分の含有量が0.01質量%未満の場合は、ポリオレフィン樹脂(A)を水性化(液状化)することが困難になり、良好な水性分散体を得ることが難しい。一方、(A1)成分の含有量が5質量%を超える場合には、水性化は容易になるが、カルボキシル基量が増すために、これがアルカリ化合物と反応して被膜の耐アルカリ性が低下しやすい。
【0017】
(A1)成分として用いることのできる不飽和カルボン酸またはその無水物は、分子内(モノマー単位内)に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また不飽和カルボン酸は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されるものではなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0018】
エチレン系炭化水素(A2)とアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル(A3)成分は、成分(A2)と(A3)成分との質量比(A2)/(A3)は、55/45〜99/1であることが必要であり、防錆性の点から70/30〜98/2であることが好ましく、80/20〜97/3であることがより好ましく、85/15〜97/3であることがさらに好ましく、88/12〜97/3であることが特に好ましい。{(A2)+(A3)}に対する(A3)成分の比率が1質量%未満では、ポリオレフィン樹脂の水性化は困難になり、良好な水性分散体を得ることが難しなったり、被膜の加工性や密着性が低下したりする。一方、化合物(A3)の含有量が45質量%を超えると(A2)成分によるポリオレフィン樹脂としての性質が失われ、防錆性、耐アルコール性等の性能が低下する。
【0019】
エチレン系炭化水素(A2)成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いてもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0020】
また、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル(A3)成分としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ステアリル等が挙げられ、この中でも樹脂を重合し易いという点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルが好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが特に好ましい。
【0021】
ポリオレフィン樹脂(A)の具体例としては、エチレン−アクリル酸メチル−無水マレイン酸共重合体、またはエチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体が最も好ましい。ここで、アクリル酸エステル単位は、後述する樹脂の水性化の際に、エステル結合のごく一部が加水分解してアクリル酸単位に変化することがあるが、その様な場合には、それらの変化を加味した各構成成分の比率が規定の範囲にあればよい。
【0022】
なお、無水マレイン酸単位等の不飽和カルボン酸無水物単位は、樹脂の乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造を形成しているが、特に塩基性化合物を含有する水性媒体中では、その一部または全部が開環してカルボン酸あるいはその塩の構造を取りやすくなる。
【0023】
また、本発明に用いられるポリオレフィン樹脂(A)には、その他のモノマーが、この樹脂全体の20質量%以下で共重合されていてもよい。例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどの炭素数3〜30のアルキルビニルエーテル類、ジエン類、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0024】
ポリオレフィン樹脂(A)は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.01〜500g/10分のものが好ましく、0.1〜400g/10分がより好ましく、1〜300g/10分がさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、樹脂の水性化は困難になり、良好な樹脂水性分散体を得ることが難しい。一方、ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが500g/10分を超えると、ポリオレフィン樹脂(B)と合わせて樹脂水性分散体としたとき、得られる被膜は硬くてもろくなる傾向にあり、機械的強度や加工性が低下しやすい。
【0025】
ポリオレフィン樹脂(B)は、不飽和カルボン酸またはその無水物(B1)とエチレン系炭化水素(B2)成分とからなり、(B1)/(B2)の質量比は、12/88〜30/70とする必要があり、15/85〜25/75が好ましく、18/82〜23/77がさらに好ましい。(B1)成分が12質量%未満の場合には、水性化が困難になる傾向がある。一方、(B1)成分が30質量%を超える場合には、得られる被膜の耐水性が著しく低下して十分な防錆性が得られなくなったり、被膜の耐アルカリ性が悪化してしまう。
【0026】
不飽和カルボン酸またはその無水物(B1)成分は、分子内(モノマー単位内)に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸が好ましく、特に(メタ)アクリル酸が好ましい。また不飽和カルボン酸は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていれば良く、その形態は限定されるものではなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0027】
エチレン系炭化水素(B2)成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0028】
ポリオレフィン樹脂(B)としては、エチレン−アクリル酸共重合体またはエチレン−メタクリル酸共重合体が最も好ましい。なお、アクリル酸またはメタクリル酸単位中のカルボキシル基は、後述する塩基性化合物を含有する水性媒体中では、塩の構造を取りやすくなる。
【0029】
また、ポリオレフィン樹脂(B)には、その他のモノマーが、この樹脂全体の20質量%以下で共重合されていてもよい。例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどの炭素数3〜30のアルキルビニルエーテル類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸のエステル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル等のビニルエステル類、ジエン類、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0030】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂(B)は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが20〜5000g/10分のものが好ましく、30〜1000g/10分がより好ましく、30〜500g/10分がさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂(B)のメルトフローレートが20g/10分未満では、樹脂の水性化は困難になり、良好な樹脂水性分散体を得ることが難しい。一方、ポリオレフィン樹脂(B)のメルトフローレートが5000g/10分を超えると、ポリオレフィン樹脂(A)と合わせて樹脂水性分散体としたとき、得られる被膜は、硬くてもろくなる傾向にあり、機械的強度や加工性が低下しやすい。
【0031】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂(A)、(B)の合成法は特に限定されないが、一般的には、ポリオレフィン樹脂を構成するモノマーをラジカル発生剤の存在下、高圧ラジカル共重合して得られる。また、不飽和カルボン酸、あるいはその無水物はグラフト共重合(グラフト変性)されていてもよい。
【0032】
本発明のコート剤は、ワックス(C)を含有する。ワックスの種類としては、大別して天然ワックスと合成ワックスが挙げられる。天然ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ろうなどの植物ワックス、セラックワックス、ラノリンワックスなどの動物ワックス、モンタンワックス、オゾケライトなどの鉱物ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス等を例示することができる。合成ワックスとしては、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、およびこれらの誘導体(酸変性等の変性物)、カスターワックス、オパールワックス、アーマーワックス、グリセリルステレアレート、セチルアルコール類、ステアリン酸類等を例示することができる。中でも、キャンデリラワックス、カルナバワックス、パラフィンワックスが優れた防錆性、耐アルコール性を発現することから好ましく、特に、キャンデリラワックス、パラフィンワックスが好ましい。
【0033】
本発明の防錆用コート剤は、被膜の耐アルコール性、耐アルカリ性、防錆性、加工性などの性能を全て満足させるために、前述した(A)〜(C)の量を所定の割合で含有する必要がある。
【0034】
被膜の耐アルコール性、特に高荷重下での耐アルコール性を向上させるために、ポリオレフィン樹脂(A)と(B)の総量に対する(C)の割合(C)/{(A)+(B)}を10/100〜80/100(質量比)とする必要があり、耐アルコール性と防錆性との点から、10/100〜70/100が好ましく、15/100〜70/100がより好ましく、20/100〜60/100がさらに好ましく、25/100〜60/100が特に好ましい。(C)/{(A)+(B)}の値が10/100より小さい場合は、耐アルコール性の向上の効果が小さく、80/100を超える場合には、加工性が低下する傾向がある。
【0035】
本発明において、ポリオレフィン樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)との質量比(A)/(B)は、耐アルカリ性を必要としない用途に対しては100/0〜0/100の任意の値とすることができる。この範囲であれば、優れた防錆性を有する被膜を得ることができる。耐アルカリ性を必要とする場合には、(A)/(B)(質量比)は100/0〜50/50であることが好ましく、さらに防錆性を向上させる点から、98/2〜50/50がより好ましく、97/3〜60/40がさらに好ましく、95/5〜70/30が最も好ましい。ポリオレフィン樹脂(B)の割合が50質量%を超えると被膜の耐アルカリ性が低下する傾向がある。
【0036】
本発明のコート剤は、水性媒体を含有する。水性媒体とは、水を主成分とする液体からなる媒体であり、水溶性の有機溶剤や後述する塩基性化合物を含有していてもよい。
【0037】
本発明において、防錆性を一層向上させるために、さらに防錆性向上剤(D)を含有することが好ましく、その割合が(A)〜(C)の固形分の合計質量100質量部に対して1〜100質量部であることが好ましく、3〜60質量部がより好ましく、5〜50質量部がさらに好ましく、5〜40質量部が特に好ましい。(D)の量が1質量部より少ない場合は、防錆性の向上効果が小さく、100質量部より多い場合は、金属材料との密着性が低下したり、加工性が低下したりする。
【0038】
防錆性向上剤(D)としては、シリカなどのケイ素化合物や、多価金属のイオン、酸化物またはリン酸塩等、従来から知られた化合物が挙げられ、この中でも、ケイ素化合物、多価金属酸化物、多価金属リン酸塩が防錆性の向上の点から好ましい。多価金属とは、2価以上の金属を指し、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、鉄、ニッケル、銅、アルミニウム等が挙げられる。防錆性向上剤(D)は、コート液の安定性の点からこれらのゾルを用いることがより好ましい。また、シリカとしては、コロイダルシリカが好ましい。防錆性向上剤(D)は2種以上を混合して使用してもよい。多価金属イオンの場合の添加量は、ポリオレフィン樹脂(A)、(B)の全カルボキシル基量に対して10〜90モル%が好ましく、20〜80モル%がより好ましい。多価金属イオンの添加量が10モル%未満の場合は、防錆性の向上効果の程度が小さく、添加量が90モル%を超えると液安定性が悪化する場合がある。多価金属リン酸塩としては、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウムが好ましい。なお、ここでいうリン酸塩とは、オルトリン酸塩、ポリリン酸塩、メタリン酸塩等を含んだ広義のリン酸塩を意味し、これらのいずれのリン酸塩構造をとっていてもよい。
【0039】
本発明の防錆用コート剤には、防錆性や耐溶剤性の性能をさらに向上させるために架橋剤成分を添加することもできる。架橋剤成分を添加する場合、その量は、コート剤中の(A)〜(C)成分固形分の合計100質量部に対して0.1〜50質量部とすることが好ましく、0.5〜40質量部がより好ましく、0.5〜30質量部が特に好ましい。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤や、カルボキシル基や水酸基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、カルボキシル基またはカルボキシレートアニオンが複数配位して錯体を形成し得る金属等を用いることができ、例えば、イソシアネート化合物、メラミン化合物、ベンゾグアナミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。中でもメラミン化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤が、塗装金属材料の防錆性や耐溶剤性を高める上で特に好ましい。これらの架橋剤は併用することもできる。
【0040】
さらに、本発明の防錆用コート剤には、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料を添加してもよい。
【0041】
コート剤における樹脂含有率は、成膜条件、目的とする樹脂被膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されないが、粘性を適度に保ち、かつ良好な被膜形成能を発現させる上で、1〜60質量%が好ましく、3〜50質量%がより好ましく、5〜40質量%がさらに好ましく、10〜35質量%が特に好ましい。
【0042】
次に、本発明の防錆用コート剤の製造方法について説明する。
【0043】
本発明の防錆用コート剤を得るための方法は特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂(A)、(B)、ワックス(C)をそれぞれ水性化して水性分散体を調製しておき、次いでこれらを所定の割合で混合する方法(1)や、ポリオレフィン樹脂(A)、(B)、ワックス(C)を所定の割合で練り込んでおき、これを水性化する方法(2)等が挙げられる。防錆向上剤(D)を添加する場合には、例えばそのゾル等を用意しておき、いずれかの分散体に混合することもできる。(1)の方法が簡便な点、コート剤の保存安定性の点等から好ましい。
【0044】
ポリオレフィン樹脂の水性分散体を調製する場合、その水性分散体中のポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径は、水性分散体の安定性や塗布した際の表面平滑性の点から、0.5μm以下であることが好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましく、0.15μm以下が特に好ましい。重量平均粒子径についても0.5μm以下であることが好ましい。後述する調製方法を採ることで、上記のような粒子径とすることができる。
【0045】
また、ポリオレフィン樹脂の水性分散体は、防錆性、耐アルカリ性、耐水性の点から乳化剤等を含有しないことが好ましく、特に、樹脂(A)、(B)いずれの水性分散体にも乳化剤等が含有しないことが好ましい。本発明でいう乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。また、ワックス(C)の水性分散体も、防錆性、耐アルカリ性、耐水性の点から乳化剤等を含有しないことが好ましいが、カルボキシル基の含有量が少ないまたは含有しないワックスについては、乳化剤を添加せずに水性分散体を得ることは非常に困難であるため、このような場合には、高級カルボン酸の揮発性塩基化合物塩を乳化剤として用いることが特に好ましい。揮発性塩基化合物は、水性化時において、カルボキシル基と塩構造をとっているため乳化剤として働くが、被膜形成時において、揮発してしまうため残存物による防錆性、耐アルカリ性、耐水性への影響は小さい。高級カルボン酸としては、ラウリル酸、ステアリン酸などが挙げられ、揮発性塩基化合物としてはアンモニアや後述する3級の有機アミン化合物が好ましい。
【0046】
ポリオレフィン樹脂の水性分散体には、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量程度の塩基性化合物を含有していることが好ましい。塩基性化合物によって、ポリオレフィン樹脂のカルボキシル基が中和され、中和によって生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。塩基性化合物はカルボキシル基を中和できるものであればよいが、防錆性、耐アルカリ性、耐水性などの性能の点から、揮発性の塩基性化合物が好ましい。このような塩基性化合物として、アンモニアまたは有機アミン化合物が好ましく、中でも沸点が30〜250℃、さらには50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂被膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、防錆性や被膜の耐水性が悪化する場合がある。有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。
【0047】
ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体を調製する際には、その水性化を促進し、分散粒子径を小さくするために、有機溶剤を添加することが好ましい(なお、ポリオレフィン樹脂(B)は、有機溶剤なしでも水性化が容易であるため、特に有機溶剤を用いる必要はない)。ここで使用する有機溶剤量は、樹脂水性分散体の40質量%以下が好ましく、1〜40質量%がより好ましく、2〜30質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。この有機溶剤は、水性分散体の調製後、目的に応じて一部をストリッピングと呼ばれる操作で系外へ留去させて減量してもよい。このような操作によって、有機溶剤量は10質量%以下とすることができ、3質量%以下であれば、環境上好ましい。ストリッピングによって有機溶剤を留去するには、装置の減圧度を高めたり、操業時間を長くするなどの生産プロセスにおける処置が必要となるため、こうした生産性を考慮した有機溶剤量の下限は0.01質量%程度である。しかし、0.01質量%未満であっても水性分散体としての性能には特に問題は生じない。有機溶剤の除去は、常圧または減圧下で樹脂水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶剤を留去することでおこなうことができる。なお、有機溶剤の含有率はガスクロマトグラフィーで定量することができる。また、水性媒体が留去されると、粘度上昇などにより作業性が悪化する場合があるので、予め水性分散体に水を添加しておいてもよい。
【0048】
上記の有機溶剤としては、水溶性の有機溶剤を用いることが好ましく、例えば、20℃における水に対する溶解性が30g/L以上のものが好ましく用いられ、さらに好ましくは50g/L以上である。こうした有機溶剤の具体例としては、樹脂の水性化がし易く、しかも水性媒体中から有機溶剤を除去し易いという点から、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、低温乾燥性の点からエタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。
【0049】
ポリオレフィン樹脂(A)、ポリオレフィン樹脂(B)、または(A)、(B)2種の樹脂混合物の水性分散体は、既述の各成分を、容器中で加熱、攪拌することにより調製することができる。このとき、特に乳化剤を使用する必要はない。好ましい容器としては、密閉可能で、液体を投入する槽を備え、投入された水性媒体と樹脂その他の原料を適度に撹拌できるものが挙げられ、0.1MPa以上の加圧ができるとよい。撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されない。このような装置は、固/液撹拌装置や乳化機として広く当業者に知られている。
【0050】
こうした装置内に原料を投入し、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を60〜200℃、好ましくは80〜200℃、さらに好ましくは90〜200℃の温度に保ちつつ、好ましくは5〜120分間攪拌を続けることによりポリオレフィン樹脂を十分に水性化させ、その後、好ましくは攪拌下で40℃以下に冷却することにより、樹脂水性分散体が得られる。槽内の温度が60℃未満の場合は、ポリオレフィン樹脂の水性化が不十分になる。槽内の温度が200℃を超える場合は、ポリオレフィン樹脂の分子量が低下する恐れがある。
【0051】
本発明において、防錆用コート剤を塗装する金属材料は、特に限定されないが、亜鉛めっき鋼に用いると、防錆効果が高いため好ましい。亜鉛めっき鋼のめっき方法としては、電気めっき法や溶融めっき法などが挙げられるが、いずれの方法を用いたものでもよい。また、亜鉛めっき鋼の表面は、クロメート処理などの化成処理がなされていてもよい。亜鉛めっき鋼は、板状で使用される形態が代表的である。
【0052】
本発明の防錆用コート剤は、被膜形成能に優れており、公知の方法により容易に製膜することができる。例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥または乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な被膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である基材の特性や後述する硬化剤の種類、配合量等により適宜選択されるものであるが、性能面や経済性を考慮した場合、加熱温度としては、30〜250℃が好ましく、60〜230℃がより好ましく、80〜210℃が特に好ましく、加熱時間としては、1秒〜20分が好ましく、5秒〜15分がより好ましく、10秒〜10分が特に好ましい。なお、架橋剤を添加した場合は、ポリオレフィン中のカルボキシル基と架橋剤との反応を十分進行させるために、加熱温度および時間は架橋剤の種類によって適宜選定することが望ましい。
【0053】
また、本発明の防錆用コート剤は、上記した製法によれば、樹脂粒子の数平均粒子径を小さすることができるため、基材表面に薄く塗ることが可能であり、例えば樹脂被膜として0.1〜10μmとすることができる。防錆性、加工性等を考慮すると、0.2〜8μmが好ましく、0.3〜5μmが特に好ましい。被膜の厚さが0.1μm未満では防錆性の効果が小さくなる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0055】
なお、各種の特性については以下の方法によって測定または評価した。
(1)ポリオレフィン樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d)中、120℃にてH−NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い求めた。また、詳しい不飽和カルボン酸またはその無水物の量については、赤外吸収スペクトル分析(Perkin Elmer System−2000 フーリエ変換赤外分光光度計、分解能4cm−1)も併用して求めた。
(2)ポリオレフィン樹脂(A)の水性化後のエステル基残存率
ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体を150℃で乾燥させた後、オルトジクロロベンゼン(d)中、120℃にて1H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い、水性化前のアクリル酸エステルのエステル基量を100%としてエステル基の残存率(%)を求めた。
(3)ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート
JIS 6730記載の方法(190℃、2160g荷重)で測定した値である。
(4)ポリオレフィン樹脂の融点
DSC(Perkin Elmer社製DSC−7)を用いて昇温速度10℃/分で測定した値である。
(5)ポリオレフィン樹脂水性分散体の固形分濃度
ポリオレフィン樹脂水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
(6)ポリオレフィン樹脂粒子の平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、数平均粒子径、重量平均粒子径を求めた。
【0056】
なお、以下の(7)〜(13)の評価は、塗装した金属板を室温で1日放置した後、各種評価試験に供した。
(7)耐水性評価
被膜を水で濡らした布で10回擦り、被膜の状態を目視で評価した。
○:変化なし、△:被膜がくもる、×:被膜が完全に溶解
(8)耐アルカリ性評価
20℃においてpH12.0に調整したNaOH水溶液を35℃に加温して攪拌しておき、この水溶液に塗装した金属板を3分間浸漬した。その後、水洗いし、被膜の状態を目視で評価した。
○:変化なし、△:被膜がくもる、×:被膜が溶解、または剥離
(9)荷重下での耐アルコール性評価
被膜をメタノール、エタノールで濡らした布で0.5kg/cmの荷重をかけて10回擦り、被膜の状態を目視で評価した。
○:変化なし、△:被膜がくもる、×:被膜が完全に溶解
(10)防錆性評価
JIS Z−2371規格の塩水噴霧試験機を用いて、35℃で5質量%NaCl水溶液の噴霧を行い、72時間後の発錆面積率(%)で被膜状態を評価した。
(11)加工性評価
塗装されていない面が接するように金属板を折り曲げ、折り曲げ部分のクラックの有無を調べた。
○:クラックなし、×:クラックあり
(12)密着性評価(I):クロスカット・テープ剥離
JIS K5400 8.5.2に準じて評価した。粘着テープにより1mm×1mm×100個の碁盤目部分をひき剥がし、剥離せずに残っている数で評価した。「n/100」は、試験後に100個の碁盤目中のn個が剥離せず残っていることを示す。
(13)密着性評価(II):エリクセン加工
8mmのエリクセン加工を施し、加工部に粘着テープを接着後、勢いよくテープを剥離し、被膜の状態を目視で評価した。
○:剥がれなし、×:剥がれあり
以下の例において使用したポリオレフィン樹脂の組成を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1の製造)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1Lガラス容器を備えた撹拌機を用いて、125.0gのポリオレフィン樹脂〔ボンダインHX−8210(ア)、アトフィナ社製〕、75.0gのイソプロパノール(以下、IPA)、7.7g(樹脂中の無水マレイン酸のカルボキシル基に対して1.0倍当量)のトリエチルアミン(以下、TEA)および292.3gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を130℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体E−1を得た。
【0059】
この水性分散体の各種特性を表2に示した。数平均粒子径、重量平均粒子径はそれぞれ0.090μm、0.125μmであり、その分布は1山であり、ポリオレフィン樹脂が水性媒体中に良好な状態で分散していた。さらに、この水性分散体は90日放置後も外観に変化が見られなかった。なお、水性化後の樹脂組成を分析したところ、アクリル酸エチル単位の1%が加水分解されてアクリル酸に変化していた。すなわちエステル基残存率は99%であった。このエステル基残存率は室温で90日放置後でも変化せず99%であった。
【0060】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体E−2の製造)
ポリオレフィン樹脂としてボンダインHX−8290(イ)(アトフィナ社製)を用い、樹脂中のカルボキシル基に対するアミンの量および有機溶剤の種類、量を表2のように変更した以外はポリオレフィン樹脂水性分散体E−1の製造と同様の操作でポリオレフィン樹脂水性分散体E−2を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0061】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体E−3の製造)
ポリオレフィン樹脂としてボンダインLX−4110(ウ)(アトフィナ社製)、アミンとしてN,N−ジメチルエタノールアミン(以下、DMEA)、有機溶剤としてn−プロパノール(以下、NPA)を用い、樹脂固形分、および有機溶剤の量を表2のように変更した以外はポリオレフィン樹脂水性分散体E−1の製造と同様の操作でポリオレフィン樹脂水性分散体E−3を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0062】
(ポリオレフィン樹脂水性分散体E−4の製造)
ポリオレフィン樹脂としてプリマコール5980I(エ)(ダウ・ケミカル社製)を用いた。ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのプリマコール5980I、16.8g(樹脂中のアクリル酸のカルボキシル基に対して1.0倍当量)のTEA、および223.2gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白色の水性分散体E−4を得た。この際、フィルター上に樹脂は殆ど残っていなかった。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0063】
【表2】

【0064】
(キャンデリラワックス分散体W−1の調製)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、40.0gのキャンデリラワックス(東亜化成株式会社製、酸価:15.8、ケン化価:55.4)、8.8g(ワックスの完全中和および完全ケン化に必要な量の2.0倍当量)のモルホリン(ナカライテスク株式会社製)及び151.2gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を100℃に保ってさらに10分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度600rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、淡黄色の均一なワックス水性分散体W−1を得た。固形分濃度は20.0質量%、数平均粒子径は0.27μmであった。
【0065】
実施例1
水性分散体E−1と水性分散体E−4とを、固形分質量比が90/10となるように混合した。
そこへ、攪拌下、パラフィンワックス水性分散体(日本精蝋社製、EMUSTAR-0135)(以下、0135)をワックス(C)とポリオレフィン樹脂(A)、(B)の合計量との固形分質量比を40/100となるように添加した。さらにこの混合液に防錆性向上剤(D)としてコロイダルシリカ(スノーテックスO、日産化学社製)(以下、ST−O)を固形分全量100質量部に対して20質量部になるように添加して水性防錆用コート剤を調製した。
【0066】
得られた水性防錆用コート剤を脱脂した溶融亜鉛めっき鋼板(日本テストパネル大阪社製、サイズ70mm×150mm×0.8mmt)上に乾燥後の被膜厚みが2μmになるようにメイヤーバーで塗装し、100℃で2分間乾燥熱処理し、塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表3に示す。
【0067】
実施例2、3
表3に示すように0135の添加量を15質量部(実施例2)および70質量部(実施例3)とした以外は実施例1と同様の操作で水性防錆用コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表3に示す。
【0068】
実施例4
乾燥後の被膜厚みを1μmとした以外は実施例1と同様の操作を行った。得られた被膜の性能評価結果を表3に示す。
【0069】
実施例5、6
水性分散体E−1とE−4を、固形分質量比が70/30(実施例5)および55/45(実施例6)となるようにし、さらに(D)としてコロイダルシリカ(スノーテックスS、日産化学社製)(以下、ST−S)を用い、その添加量を樹脂固形分100質量部に対して40質量部とした以外は実施例1と同様の操作で水性防錆用コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表3に示す。
【0070】
実施例7、8
ワックスとしてポリエチレンワックス水性分散体(日本精蝋社製、EMUSTAR-0443)(以下、0443)(実施例7)およびキャンデリラワックス水性分散体 W−1(実施例8)とした以外は実施例1と同様の操作で水性防錆用コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表3に示す。
【0071】
実施例9
防錆性向上剤(D)を添加しなかった以外は実施例1と同様の操作で水性防錆用コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表3に示す。
【0072】
実施例10
水性分散体としてE−1のみを用い、(C)として0135をポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して40質量部、ST−Oの添加量を20質量部とした以外は、実施例1と同様の操作で水性防錆用コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表3に示す。
【0073】
実施例11
水性分散体としてE−4のみを用い、(C)として0135をポリオレフィン樹脂(B)100質量部に対して40質量部、ST−Oの添加量を20質量部とした以外は、実施例1と同様の操作で水性防錆用コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
実施例12
水性分散体E−1とE−4とを、固形分質量比が80/20となるように用い、防錆性向上剤(D)としてリン酸アルミニウム(石津製薬社製)(以下、リン酸Al)を樹脂100質量部に対して20質量部用いた以外は実施例1と同様の操作で水性防錆用コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表4に示す。
【0076】
実施例13
水性分散体E−1とE−4とを、固形分質量比が80/20となるように用い、防錆性向上剤(D)として酸化マグネシウム(和光純薬社製、0.01μm)(以下、酸化Mg)を用いた以外は実施例1と同様の操作で水性防錆用コート剤を調製した。この際、増粘したので水で希釈してコート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表4に示す。
【0077】
実施例14
水性分散体E−1に変えてE−2を用いた以外は実施例1と同様の操作で水性防錆用コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表4に示す。
【0078】
実施例15
水性分散体E−1に変えてE−3を用いた以外は実施例1と同様の操作で水性防錆用コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表4に示す。
【0079】
実施例16
水性分散体E−1とE−4とを固形分質量比が90/10となるように混合した。これと0135とを、(C)/{(A)+(B)}=20/100(質量比)となるように混合した。この混合液にさらにST−Oと、架橋剤としてシランカップリング剤(日本ユニカー社製、A-1100)(以下、A-1100)とを、樹脂の合計100質量部に対して、それぞれ20質量部、1質量部になるように添加して水性防錆用コート剤を調製した。このコート剤を用いて乾燥後の被膜厚みを1μmとし、120℃で5分間、熱処理を行った以外は実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表4に示す。
【0080】
比較例1
ワックス(C)を添加しなかった以外は実施例1と同様の操作で水性コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表4に示す。
【0081】
比較例2
(C)/{(A)+(B)}=100/100(質量比)とした以外は実施例1と同様の操作で水性コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表4に示す。
【0082】
比較例3
ポリオレフィン樹脂(B)に代えて、不飽和カルボン酸含有量の多いエチレン−マレイン酸交互共重合体(ALDRICH社製、重量均分子量100,000〜500,000、マレイン酸含有量50質量%)を用いた。エチレン−マレイン酸交互共重合体中のカルボキシル基に対して1.0倍当量のTEAを添加して10質量%の水溶液を調製し、この水溶液をS−1とした。S−1を用い、E−1とS−1との固形分質量比を80/20とした以外は実施例1と同様の操作で水性コート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様の操作で塗装鋼板を得た。得られた被膜の性能評価結果を表4に示す。
【0083】
【表4】

【0084】
実施例1〜16の水性防錆用コート剤を金属板に塗布することによる、防錆性、耐水性、高荷重下での耐アルコール性、加工性、鋼鈑との密着性は良好であった。また、不飽和カルボン酸含有量の高いポリオレフィン樹脂(B)を多く含有する例(実施例6、11)を除いては耐アルカリ性にも優れていた。また、防錆向上剤の添加による防錆効果向上が認められた(実施例1、9)。薄塗りにすれば防錆性は低下したが(実施例4)、架橋剤を添加することで防錆性の向上が認められた(実施例16)。
【0085】
ワックスを添加しなかった場合、高荷重下での耐アルコール性は全く無かった(比較例1)。ワックスの添加量が本発明の範囲より多い場合、加工性は著しく低下した(比較例2)。また、ポリオレフィン樹脂(B)に代えて不飽和カルボン酸含有量が多い樹脂を用いても防錆性や耐アルカリ性などの性能が悪かった(比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ポリオレフィン樹脂(A)、下記ポリオレフィン樹脂(B)、ワックス(C)、および水性媒体を含有し、(A)〜(C)成分の質量比が、(A)/(B)=100/0〜0/100、(C)/{(A)+(B)}=10/100〜80/100を満たすことを特徴とする防錆用コート剤。
ポリオレフィン樹脂(A):不飽和カルボン酸またはその無水物(A1)、エチレン系炭化水素(A2)、およびアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル(A3)とから構成される共重合体であって、(A1)〜(A3)成分の質量比が(A1)/{(A1)+(A2)+(A3)}=0.01/100〜5/100、(A2)/(A3)=55/45〜99/1をみたすポリオレフィン樹脂。
ポリオレフィン樹脂(B):不飽和カルボン酸またはその無水物(B1)とエチレン系炭化水素(B2)とから構成される共重合体であって、(B1)〜(B2)成分の質量比が(B1)/(B2)=12/88〜30/70をみたすポリオレフィン樹脂。
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂(A)および(B)の質量比が、(A)/(B)=98/2〜50/50であることを特徴とする請求項1記載の防錆用コート剤。
【請求項3】
さらに防錆性向上剤(D)を含有し、その量が(A)〜(C)の固形分の合計質量100質量部に対して1〜100質量部であることを特徴とする請求項1または2に記載の防錆用コート剤。
【請求項4】
金属材料に請求項1〜3のいずれかに記載の防錆用コート剤を塗布し、乾燥して得られる被膜を設けてなる積層金属材料。

【公開番号】特開2006−37017(P2006−37017A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222008(P2004−222008)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】