説明

防錆用コート剤および積層金属材料

【課題】防錆性、金属材料との密着性、耐酸性、耐アルカリ性に優れる防錆用コート剤を提供する。
【解決手段】本発明の防錆用コート剤は、ポリオレフィン共重合体(A)、防錆剤(B)および水性媒体を含有し、ポリオレフィン共重合体(A)と防錆剤(B)との質量比が(A)/(B)=99.99/0.01〜50/50の範囲であり、ポリオレフィン共重合体(A)は、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が、下記式(I)で表される置換基と下記式(II)で表される置換基との少なくともいずれかであることを特徴とする。
−(CH)nNR (I)
(式中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、nは1〜5の整数を示す。)
−(CH)nN・X (II)
(式中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、Rは四級化反応により導入された四級化剤の残基、X−はアニオン性対イオン、nは1〜5の整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた防錆効果を有し、耐酸性、耐アルカリ性、および金属材料との密着性に優れる防錆用コート剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気亜鉛めっき鋼板や溶融亜鉛めっき鋼板などの金属めっき鋼板は、自動車分野、家電分野、建築分野などの構造物の分野などにおいて広く用いられている。このような状況のなかで、防錆性を向上させることを目的として、鋼板の表面を処理することが検討されている。例えば、亜鉛めっき鋼板の防錆性を向上させることを目的として、該亜鉛めっき鋼板の表面を、6価クロムを用いてクロメート処理することが知られている。このクロメート処理により該鋼板の防錆性は向上するが、6価クロムは有害であるため、作業環境や設置場所のクロム汚染の問題が指摘されている。従って、クロムを使用しない、いわゆるノンクロメート防錆処理剤の開発が急務となっている。
【0003】
ノンクロメート防錆処理剤として、様々な高分子化合物をベースとした処理剤が検討されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、オレフィン系の粉体樹脂を鋼板の表面に塗装する技術が記載されている。また、特許文献3には、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体樹脂粉末を、鋼板表面に粉体塗装することが開示されている。
【0004】
しかしながら、このような粉体樹脂を用いて塗装する場合には、20μm以下の厚さに塗装することは非常に困難であり、薄塗りの用途に使用することはできないという問題があった。加えて、粉体に起因する微小な凹凸により、平滑性や均一性の優れたコート層を得ることは困難であった。したがって、平滑性や均一性が改善されたコート層を形成しうる防錆処理剤が求められている。
【0005】
薄膜化が可能であり、かつ平滑性や均一性が改善されたコート層を形成する方法として、樹脂を有機溶剤あるいは水性媒体に溶解または分散させたコート剤を、鋼板などにコーティングする方法が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献4、5、6には、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体を防錆用コート剤とする方法が例示されている。しかしながら、この様な防錆用コート剤より得られる乾燥塗膜は、耐酸性、耐アルカリ性、金属材料との密着性について、さらなる改善の余地がある。
【0007】
一方で、樹脂を有機溶剤あるいは水性媒体に溶解または分散させたコート剤に、リン酸塩やモリブデン酸塩などの無機防錆剤を併用することで、防錆性効果がより向上することが知られている。本出願人も、ポリオレフィン樹脂の水性分散体をベースとし、無機防錆剤が含有された防錆用コート剤を提案している(例えば、特許文献7、8参照)。しかしながら、このようなポリオレフィン樹脂水性分散体に、リン酸塩やモリブデン酸塩などの無機防錆剤を添加した場合には、樹脂粒子同士の凝集が発生し、薄く均一なコート層を形成させることが困難となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−143952号号公報
【特許文献2】特開平7−207215号公報
【特許文献3】特開平11−131259号公報
【特許文献4】特公平5−54823号公報
【特許文献5】特開平6−246229号公報
【特許文献6】特開2000−198949号公報
【特許文献7】特開2002−348523号公報
【特許文献8】特開2006−37017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題に鑑み、環境に対する影響を低減しつつ、薄塗りが可能であり、低温で乾燥するだけで優れた防錆性を発揮し、且つ金属材料との密着性、耐酸性、耐アルカリ性に優れるコート層を形成できる防錆用コート剤を提供することを目的とする。
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有するポリオレフィン共重合体、防錆剤および水性媒体を含有したコート剤は、環境に対する影響を低減しつつ、薄塗りが可能であり、防錆性、金属材料との密着性、耐酸性、耐アルカリ性に優れることを見出し本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1) ポリオレフィン共重合体(A)、防錆剤(B)および水性媒体を含有し、
ポリオレフィン共重合体(A)と防錆剤(B)との質量比が(A)/(B)=99.99/0.01〜50/50の範囲であり、
ポリオレフィン共重合体(A)は、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が、下記式(I)で表される置換基と下記式(II)で表される置換基との少なくともいずれかであることを特徴とする防錆用コート剤。
−(CH)nNR (I)
(式中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、nは1〜5の整数を示す。)
−(CH)nN・X (II)
(式中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、Rは四級化反応により導入された四級化剤の残基、X−はアニオン性対イオン、nは1〜5の整数を示す。)
【0011】
(2)ポリオレフィン共重合体(A)が、防錆用コート剤中において数平均粒子径で1000nm以下に分散されていることを特徴とする(1)の防錆用コート剤。
(3)ポリオレフィン共重合体(A)が、不飽和カルボン酸単位を含有し、酸価が0.1〜50mgKOH/gであることを特徴とする(1)または(2)の防錆用コート剤。
(4)防錆剤(B)が、無機防錆剤であることを特徴とする(1)〜(3)いずれかの防錆用コート剤。
(5)無機防錆剤が、無機リン酸塩、亜リン酸塩、モリブデン酸塩、ケイ酸塩、亜硝酸塩から選ばれる1種以上であることを特徴とする(4)の防錆用コート剤。
(6)(1)〜(5)の防錆用コート剤から形成されたコート層を、金属材料の片面または両面に積層してなる積層体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防錆用コート剤は、防錆性、金属材料との密着性、耐酸性、耐アルカリ性に優れる。この防錆用コート剤は、薄塗りが可能であり、金属材料表面に塗工することで、該金属材料に高い防錆性を付与しうるものである。且つ、防錆用コート剤より得られるコート層は、耐酸性、耐アルカリ性に優れる効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の防錆用コート剤は、下記のポリオレフィン共重合体(A)、防錆剤(B)、水性媒体を含有するものである。
【0014】
<ポリオレフィン共重合体(A)>
本発明に用いられるポリオレフィン共重合体(A)は、防錆性の効果を高め、さらに無機防錆剤(B)との混合性を高める観点から、下記式(I)で表される置換基を有しているポリオレフィン共重合体(P)および/または、ポリオレフィン共重合体(P)中の下記式(I)で表される置換基が、四級化剤で四級化されたものである下記式(II)で表される置換基を有しているポリオレフィン共重合体(Q)であることが必要である。
【0015】
ポリオレフィン共重合体(P)は、オレフィン系炭化水素単位と、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有する。さらに、該不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が下記式(I)で表される置換基であるポリオレフィン共重合体である。
−(CH)nNR (I)
【0016】
上記式(I)中、R、Rは、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基であり、炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。また上記式(I)中、nは、1〜5の整数であって、2〜4の整数が好ましく、2〜3の整数がより好ましい。
【0017】
なお、ポリオレフィン共重合体(P)は、水性媒体を用いることにより、後述する水性分散体の形態で防錆用コート剤とすることが可能となる。水性分散体の形態では、防錆性向上効果、および水性分散化を容易にする観点から、含有する不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が下記式(I´)で表される置換基であることが好ましい。
−(CH)nN・X (I´)
【0018】
上記式(I´)中、R、R、nは、上記と同様のものを示す。Xはアニオン性対イオンを示す。アニオン性対イオンとは、N−置換基中のNと一組のイオン対を形成することが可能な組成物をいう。
【0019】
上記式(I)または(I´)中、R、Rの炭素数、及びnの整数が、前記の範囲を下回ると、爆発の危険性のある原料を使用する必要があったり、樹脂がゲル化したりするため、ポリオレフィン共重合体を得ることが難しくなる。一方、前記の範囲を上回ると、防錆性効果が低下する。
【0020】
ポリオレフィン共重合体(Q)は、ポリオレフィン共重合体(P)の含有する前記式(I)で表される置換基の一部または全てが、四級化されたものである。即ち、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が下記式(II)で表される置換基であるポリオレフィン共重合体である。
−(CH)nN・X (II)
【0021】
なお、ポリオレフィン共重合体(P)の含有する前記式(I)で表される置換基の一部を四級化して、ポリオレフィン共重合体(Q)とした場合は、式(I)で表される置換基と式(II)で表される置換基とを共に備えたものとなる。ただし、置換基(I)、(II)の合計は、0.1モル%以上10モル%未満とする必要がある。
【0022】
上記式(II)中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基であり、炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。Rは四級化反応により導入された四級化剤の残基であり、炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。また前記式(II)中、nは1〜5の整数であって、2〜4の整数が好ましく、2〜3の整数がより好ましい。そして、Xはアニオン性対イオンを示す。アニオン性対イオンとは、N−置換基中のNと一組のイオン対を形成することが可能な組成物をいう。
【0023】
四級化剤としては、前記式(I)で表される置換基を四級化して、前記式(II)で表される置換基とすることが可能なものであればよい。四級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸などのジアルキル硫酸類;メチルクロライド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、ベンジルブロマイド、メチルヨーダイド、エチルヨーダイド、ベンジルヨーダイドなどのハロゲン化アルキル類;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等のエポキシ類;メタンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸メチル等のアルキル又はアリールスルホン酸メチル類などが挙げられる。これらの中でも、ジアルキル硫酸類、ハロゲン化アルキル類が四級化の反応性に優れるため好ましく、ジアルキル硫酸類がより好ましい。これらは、単独で用いても2種類以上を併用しても構わない。
【0024】
上記式(II)中、R、R、Rの炭素数、及びnの整数が前記の範囲を下回ると、爆発の危険性のある原料を使用する必要があったり、樹脂がゲル化したりするため、ポリオレフィン共重合体を得るのが難しくなる。一方、前記の範囲を上回ると、防錆性効果が低下する。
【0025】
本発明に用いるポリオレフィン共重合体(A)は、防錆性効果をより高める観点、および水性分散化を容易にする観点から、上述のように、正(プラス)の電荷を帯びたカチオン性ポリオレフィン共重合体であることが好ましい。
【0026】
上述のように、ポリオレフィン共重合体(A)は、構成成分として、オレフィン系炭化水素単位と、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有するものである。
【0027】
ポリオレフィン共重合体(A)の構成成分として含有されているオレフィン系炭化水素単位としては、炭素数2〜6であるものが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−へキセンなどのアルケン類や、ブタジエン、イソプレンなどのジエン類が挙げられる。これらの単位を複数有するものであってもよい。なかでも、樹脂の製造が容易である点、防錆用コート剤としたときの金属材料に対する密着性などの点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンが好ましく、エチレン、プロピレンがより好ましく、プロピレンがさらに好ましい。
【0028】
ポリオレフィン共重合体(A)中の、オレフィン系炭化水素単位の含有量は、65〜99.9モル%であることが好ましく、70〜99.9モル%がより好ましく、80〜99.9モル%がさらに好ましく、85〜99.9モル%が特に好ましい。オレフィン系炭化水素単位の含有量が65モル%未満であると、防錆性効果が低下する場合がある。一方、99.9モル%を超えると、防錆用コート剤としたときの金属材料への密着性が悪化したり、ポリオレフィン共重合体(A)の水性分散化が困難となったりする場合がある。
【0029】
ポリオレフィン共重合体(A)の構成成分として含有されている不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位について、以下に説明する。
【0030】
上述のように、ポリオレフィン共重合体(P)中のN−置換イミド単位を構成するN−置換基は、前記式(I)で表されるものである。その具体例としては、N,N−ジメチルアミノエチル基、N,N−ジメチルアミノプロピル基、N,N−ジメチルアミノブチル基、N,N−ジエチルアミノエチル基、N,N−ジエチルアミノプロピル基、N,N−ジエチルアミノブチル基などが挙げられる。中でも、防錆性効果を良好とする観点から、N,N−ジメチルアミノプロピル基が好ましい。
【0031】
また、上述のように、ポリオレフィン共重合体(Q)のN−置換基は、前記式(II)で表されるものである。該置換基は、ポリオレフィン共重合体(P)で示した前記式(I)で表される置換基を四級化剤で四級化したものである。
【0032】
不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位を与える不飽和カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。なかでも、オレフィン系炭化水素単位と共重合しやすいことから、無水マレイン酸が好ましい。
【0033】
不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の具体例としては、ポリオレフィン共重合体(P)の場合は、N,N−ジメチルアミノエチルマレイミド、N,N−ジメチルアミノプロピルマレイミド、N,N−ジメチルアミノブチルマレイミド、N,N−ジエチルアミノエチルマレイミド、N,N−ジエチルアミノプロピルマレイミド、N,N−ジエチルアミノブチルマレイミドなどが挙げられる。これらの2種類以上が共重合されていてもよい。中でも、防錆性効果を良好とする観点から、N,N−ジメチルアミノプロピルマレイミドが好ましい。一方、ポリオレフィン共重合体(Q)の場合は、これらを四級化したものなどが挙げられる、これらN−置換イミド単位は2種類以上が共重合されていてもよい。
【0034】
ポリオレフィン共重合体(A)における不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量は、0.1モル%以上10モル%未満であることが必要であり、0.1%以上5モル%未満であることが好ましく、0.1以上4モル%未満であることがより好ましく、0.1以上3モル%未満であることがさらに好ましく、0.1以上2モル%未満であることが特に好ましく、0.1以上1モル%未満であることが最も好ましい。不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%未満であると、防錆性効果が不十分となる。さらにポリオレフィン共重合体(A)を水性分散化することが困難となる。10モル%以上であると、防錆性効果や、耐酸性、耐アルカリ性が不十分となる。
【0035】
ポリオレフィン共重合体(A)は、さらに構成成分として不飽和カルボン酸単位を含有していることが好ましい。不飽和カルボン酸単位を含有することで、金属材料への密着性や、防錆性効果がより優れるものとなる。不飽和カルボン酸単位としては、無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン樹脂に共重合しやすい無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸が好ましく、特に無水マレイン酸、マレイン酸が好ましい。
【0036】
ポリオレフィン共重合体(A)における不飽和カルボン酸単位の含有量は、酸価を測定することで求めることができる。本発明において、ポリオレフィン共重合体(A)の酸価(単位:mgKOH/g)は、以下のようにして求めることができる。すなわち、ポリオレフィン共重合体(A)を、テトラヒドロフラン/トルエン/水を、質量比で20/4.8/0.2のように混合した溶媒に溶解し、クレゾールレッドを指示薬としてKOHで滴定を行い、溶液の色調が紫色に変色し、且つその色調が20秒間変化しなくなった時点のKOH消費量(mL)から求めることができる。
【0037】
上述のようにして求められたポリオレフィン共重合体(A)の酸価は、0.1〜50mgKOH/gであることが好ましく、0.2〜40mgKOH/gがより好ましく、0.5〜30mgKOH/gがさらに好ましく、1.0〜20mgKOH/gが特に好ましい。ポリオレフィン共重合体(A)の酸価が50mgKOH/gを超えた場合は、水性分散化が困難となる場合がある。一方、ポリオレフィン共重合体(A)の酸価が0.1mgKOH/g未満の場合は、不飽和カルボン酸の含有量が少なすぎるため、金属材料への密着性や防錆性向上効果が低くなる場合がある。さらに、後述するように、防錆コート剤に架橋剤を添加した場合は、架橋構造の形成が困難になる場合がある。
【0038】
ポリオレフィン共重合体(A)は、金属材料との密着性を向上させることなどを目的として、上記オレフィン系炭化水素単位、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位や不飽和カルボン酸単位以外のモノマー単位(以下、「その他のモノマー単位」と称する場合がある)を有するものであってもよい。
【0039】
その他のモノマー単位としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステルならびにビニルエステルを塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコールなどのモノマー単位が挙げられる。
【0040】
ポリオレフィン共重合体(A)がその他のモノマー単位を含有する場合、その含有量は、25モル%以下であることが、耐酸性、耐アルカリ性を良好に保つ観点から好ましい。
【0041】
ポリオレフィン共重合体(A)の分子量としては、質量平均分子量で5000〜500000であることが好ましく、10000〜200000がより好ましく、15000〜100000がさらに好ましく、20000〜80000が特に好ましい。質量平均分子量が5000未満であると、防錆性向上効果が乏しくなる場合がある。また、質量平均分子量が500000を超える場合は、水性分散化が困難となる場合がある。なお、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求められた値である。
【0042】
但し、一般にポリオレフィン共重合体は、溶剤に対して難溶であるため、分子量測定が困難となる場合がある。その様な場合においては、質量平均分子量にかえて、溶融樹脂の流動性を示すメルトフローレート値が分子量の目安とされる。本発明において、メルトフローレート値は、JIS K7210:1999に従って測定されるものである。ポリオレフィン共重合体(A)のメルトフローレート値は、0.1〜2000g/10分であることが好ましく、0.5〜1000g/10分であることがより好ましく、1〜500g/10分であることがさらに好ましく、2〜200g/10分であることが特に好ましい。メルトフローレート値が、2000g/10分を超えると、防錆性向上効果が乏しくなる場合がある。また、メルトフローレート値が0.1g/10分未満の場合は水性分散化が困難となる場合がある。
【0043】
<ポリオレフィン共重合体(A)の製造方法>
ポリオレフィン共重合体(P)の製造方法について説明する。
ポリオレフィン共重合体(P)の製造方法は、例えば、(i)オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位とを構成成分とする共重合体と、前記式(I)で表される置換基を有する1級アミンとをイミド化反応させる方法、(ii)不飽和カルボン酸無水物、前記(I)で表される置換基を有する1級アミンをイミド化反応させてN−置換不飽和カルボン酸イミドを予め調製し、これと、オレフィン系炭化水素と、必要に応じて不飽和カルボン酸やその他のモノマーとを共重合する方法、(iii)予め調製したN−置換不飽和カルボン酸イミドを、ポリオレフィン樹脂やオレフィン共重合体にグラフトする方法などが挙げられる。なかでも、(i)の方法によれば、原料のオレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位とを構成成分として有する共重合体がオレフィン−カルボン酸無水物共重合体として市場から安価に入手し易く、特殊な装置を用いることなくイミド化反応することができ、容易にポリオレフィン共重合体(P)を得ることが可能であるため好ましい。
【0044】
以下、(i)の方法について詳しく説明する。
(i)の方法においては、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位とを構成成分として有する共重合体(以下、「無水物含有共重合体」と称する場合がある)を、原料樹脂として用いる。
【0045】
無水物含有共重合体について以下に説明する。無水物含有共重合体を構成するオレフィン系炭化水素単位や、不飽和カルボン酸無水物単位の種類や含有量、分子量などは、該無水物含有共重合体をイミド化反応に付して得られたポリオレフィン共重合体組成が、本発明に用いられるポリオレフィン共重合体(A)の構成を満足するものであれば特に制限されない。また、無水物含有共重合体は、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位以外のモノマー単位(その他のモノマー単位)を有するものであってもよい。
【0046】
無水物含有共重合体の具体例としては、エチレン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸グラフト共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸プロピル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸ブチル−無水マレイン酸三元共重合体などのエチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体、プロピレン−無水マレイン酸グラフト共重合体、プロピレン−ブテン−無水マレイン酸グラフト共重合体、プロピレン−ブテン−エチレン−無水マレイン酸グラフト共重合体などが挙げられる。
【0047】
これらの中でも、無水物含有共重合体をイミド化した後に得られるポリオレフィン共重合体を含有する防錆用コート剤における防錆性向上効果や、防錆剤(B)との混合安定性を向上させる観点から、プロピレン−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−無水マレイン酸グラフト共重合体が好ましい。
【0048】
無水物含有共重合体は、市販品も好適に使用することができる。例えば、アルケマ社製「ボンダイン」、「ロタダー」、「オレバック」、日本ポリエチレン社製「レクスパールET」、「アドテクス」、日油社製「モディパ」、三洋化成社製「ユーメックス」、三井化学社製「アドマー」、日本製紙ケミカル社製「アウローレン」などが挙げられる。
【0049】
上記無水物含有共重合体と、下記式(III)で表されるアミノ化合物(以下、「アミノ化合物」と称する場合がある)とを、イミド化反応させることによってポリオレフィン共重合体(P)が得られる。下記式(III)で表されるアミノ化合物は、前記式(I)で表される置換基を有する1級アミンである。
N−(CH)nNR (III)
【0050】
上記式(III)中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基であり、炭素数1〜2のアルキル基が好ましい。炭素数6以上の場合は、防錆性向上効果が低下する場合がある。またR、Rのどちらか一方または両方が水素であると、ポリオレフィン共重合体の製造が困難となる場合がある。
【0051】
また、上記式(III)中、nは1〜5の整数であって、2〜4の整数が好ましく、2〜3の整数がより好ましい。nの範囲が上記を下回ると、取り扱いの際に爆発の危険性がある場合がある。一方、nの範囲が上記を上回ると、防錆性向上効果が低下する場合がある。
【0052】
上述のような上記式(III)で表されるアミノ化合物は、分子内の1級アミンが無水物含有共重合体のカルボン酸無水物とイミド結合する。それにより、前記式(I)で表される置換基を有するN−置換不飽和カルボン酸イミドを生成することが可能となる。
【0053】
前記式(III)で表されるアミノ化合物としては、N,N−ジアルキルアミノアルキルアミンが挙げられる。中でも、防錆性の観点から、N,N−ジメチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジメチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、N,N−ジエチルアミノブチルアミンなどが好ましく、N,N−ジメチルアミノプロピルアミンがより好ましい。
【0054】
次にイミド化反応について説明する。
上述の無水物含有共重合体と、アミノ化合物とを混合し、加熱することによりイミド化反応させることができ、ポリオレフィン共重合体(P)を製造することができる。
【0055】
イミド化反応の際の反応温度は、50〜300℃が好ましく、70〜250℃がより好ましく、90〜200℃がさらに好ましく、100〜170℃が特に好ましい。反応温度が50℃未満の場合はイミド化反応速度が遅すぎる場合がある。一方、300℃を超える温度は、イミド化反応には必要とされず、また、着色を生じる場合がある。イミド化反応に要する時間は特に限定されず、例えば、30秒〜1時間が好ましく、1〜45分がより好ましい。なお、本発明におけるイミド化反応は反応性が高いため、反応を促進するための触媒の添加は通常必要としない。また、イミド化反応を速やかに進行させるために、イミド化反応の際は、無水物含有共重合体とアミノ化合物を撹拌などの方法で混ぜ合わせることが好ましい。
【0056】
また、無水物含有共重合体と、アミノ化合物とをイミド化反応させる場合において、無水物含有共重合体中に含有する不飽和カルボン酸無水物単位のすべてをイミド化せずに、その一部を不飽和カルボン酸単位として残すことが好ましい。不飽和カルボン酸無水物単位のすべてをイミド化しないことにより、不飽和カルボン酸単位を含有するポリオレフィン共重合体(A)を得ることができる。このようなポリオレフィン共重合体(A)を水性分散体とした場合は、金属材料への密着性や、防錆性効果がより優れるものとなる。ポリオレフィン共重合体(A)に含有される不飽和カルボン酸単位の含有量は、イミド化反応におけるアミノ化合物添加量などによって調整することが可能である。
【0057】
イミド化反応におけるアミノ化合物の添加量は、無水物含有共重合体中の不飽和カルボン酸無水物単位のモル数に対して、通常、0.2〜10倍当量モル程度の範囲であればよい。含有する不飽和カルボン酸無水物単位のすべてをイミド化せずに、その一部を不飽和カルボン酸無水物単位して残す観点から、0.3〜2倍当量モルが好ましく、0.4〜1.5倍当量モルがより好ましく、0.4〜1倍当量モルがさらに好ましく、0.4〜0.9倍当量が特に好ましく、0.4〜0.8倍当量が最も好ましい。
【0058】
次にイミド化反応の具体的な方法について説明する。ただしこれらの方法に限定されるものではない。
【0059】
イミド化反応は、公知の装置、方法で行うことができる。例えば、無水物含有共重合体とアミノ化合物とを、反応容器内で加熱、撹拌する方法や、押出し機で連続的に加熱、撹拌する方法などが挙げられる。
【0060】
無水物含有共重合体とアミノ化合物を反応容器内で加熱、撹拌する方法としては、撹拌翼と必要に応じて凝縮器を備えた反応容器を用いる方法が挙げられる。イミド化反応の際は反応容器が耐圧性であれば密閉してもよく、反応容器が耐圧性でなければ加熱によって発生した蒸気を、凝縮器を介して反応容器内に還流してもよい。原料である無水物含有共重合体とアミノ化合物は、反応前に一括して反応容器内に投入してもよいし、予め無水物含有共重合体だけを投入しておいて、加熱後、アミノ化合物を投入し、攪拌してもよい。
【0061】
撹拌翼の形状は限定されるものではない。また、撹拌速度も限定されるものではないが、通常200rpmを超えるような高速回転は必要としないため、200rpm以下が一般的である。また、攪拌は間欠であってもよい。また、ポリオレフィン共重合体の酸化を抑えるために、反応容器内のガスを窒素ガスに置換してもよい。
【0062】
さらに、イミド化反応においては、均一性向上の観点から、無水物含有共重合体とアミノ化合物とを50〜300℃に加熱し、無水物含有共重合体を溶融させることが好ましい。また、無水物含有共重合体の溶融粘度が高く撹拌機の負荷が大きい場合や、撹拌効率が悪い場合は、溶媒を加えてもよい。
【0063】
上記の溶媒としては、撹拌効率を上げる点で無水物含有共重合体を溶解するようなものが好ましいが、水のように無水物含有共重合体に対して溶解性がないものであってもよい。ただし、溶媒として、不揮発性であるもの、高沸点のもの、および原料の無水物含有共重合体やアミノ化合物と反応性のあるものは好ましくない。なお、溶媒の沸点は、後述の溶媒を除去する工程において、溶媒を除去しやすくするため、150℃以下が好ましい。
【0064】
上記の溶媒の好適な具体例としては、トルエンやキシレンなどが挙げられる。溶媒の投入量は状況によって適宜選択すればよいが、原料である樹脂の合計量100質量部に対して100質量部程度であれば攪拌効率を十分向上させることができる。
【0065】
このようにイミド化反応をした後は、反応容器内の未反応アミノ化合物や溶媒を除く工程を設けることが望ましい。未反応アミノ化合物や溶媒を除く方法としては、反応容器内を加熱撹拌し、必要に応じて減圧にして、発生した蒸気を、凝縮器を介して反応容器の外に留去する方法が好ましい。この際の反応容器内の温度は、アミノ化合物や溶媒の沸点より高めに設定することが好ましい。
【0066】
イミド化反応後、得られたポリオレフィン共重合体を反応容器より払いだす際は、取り扱いのし易い10mm以下のペレットとすることが好ましい。
【0067】
押出し機を用いてイミド化反応を行う場合は、無水物含有共重合体とアミノ化合物を押出し機で連続的に加熱、撹拌することが好ましい。このような押出し機としては、ホッパーと液注入装置を備えた押出し機を用いることが好ましい。また押出し機は、2軸押出し機であることが好ましい。
【0068】
押出し機を用いてイミド化反応を行う方法について下記に説明する。すなわち、樹脂の温度が50〜300℃になるように加熱された押出し機に、ホッパーより無水物含有共重合体を定量的に供給し、さらにバレル途中に設けられた液注ノズルからアミノ化合物を定量的に投入することでイミド化反応できる。スクリューの回転速度は限定されず、通常20〜200rpmの範囲であればよい。
【0069】
このように押出し機内でイミド化反応をした後は、上述の反応容器を用いてイミド化反応を行う場合と同様に、未反応アミノ化合物を除く工程を設けることが望ましい。未反応アミノ化合物を除く方法としては、押出し機のバレル後半に設けられたベントより押出し機内を減圧にして、発生した蒸気を、凝縮器を介して押出し機の外に留去する方法が好ましい。
【0070】
以上の様な方法で得られたポリオレフィン共重合体(P)は、必要に応じてさらに未反応アミノ化合物を除く工程を設けてもよい。未反応アミノ化合物を除く方法としては、得られたポリオレフィン共重合体を加熱乾燥する方法、得られたポリオレフィン共重合体(P)を加熱真空乾燥する方法、得られたポリオレフィン共重合体(P)を抽出する方法などが挙げられる。
【0071】
次に、ポリオレフィン共重合体(Q)の製造方法について説明する。ポリオレフィン共重合体(Q)は、上述のように、ポリオレフィン共重合体(P)の前記式(I)で表される置換基の一部または全てを前記した四級化剤で四級化したものである。
【0072】
四級化剤の添加量としては、ポリオレフィン共重合体(P)の含有する前記式(I)で表される置換基のモル数に対して、0.5〜5倍当量モルが好ましく、0.6〜2倍当量モルがより好ましく、0.8〜1.5倍当量モルがさらに好ましく、0.9〜1.0倍当量モルが特に好ましい。四級化剤の含有量が0.5倍当量モル未満の場合は得られたポリオレフィン共重合体(Q)の水性分散化が困難となる場合があり、5倍当量モルを超えた場合は添加の効果が飽和する場合がある。
【0073】
四級化剤を用いた四級化の方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ポリオレフィン共重合体(P)と四級化剤とを、反応容器内で加熱、撹拌する方法や、押出し機で連続的に加熱、撹拌する方法などが挙げられる。四級化に好ましい反応温度は通常30〜200℃の範囲であり、好ましい反応時間は通常1分以上である。このような反応条件の下で、ポリオレフィン共重合体(P)と、四級化剤とを混合することで、前記式(I)で表される置換基の一部または全てを四級化し、前記式(II)で表される置換基を有するポリオレフィン共重合体(Q)を得ることができる。
【0074】
本発明の防錆用コート剤とするには、ポリオレフィン共重合体(A)が水性媒体中に分散された水性分散体と防錆剤(B)とを混合して得ることが好ましい。次に、ポリオレフィン共重合体(A)の水性分散体について説明する。
【0075】
<水性分散体>
本発明に用いられる水性分散体は、ポリオレフィン共重合体(P)が水性媒体中に分散した水性分散体(M)と、ポリオレフィン共重合体(Q)が水性媒体中に分散した水性分散体(N)であり、水性分散体(M)と(N)は混合して用いてもかまわない。
【0076】
なお、本発明における水性媒体とは、水、又は水と有機溶媒との混合液をいう。本発明においては、水性媒体を用いて分散体を得ているため、環境への影響、作業者や作業環境への安全性を向上させることができる。
【0077】
まず、水性分散体(M)について説明する。
水性分散体(M)は、酸を含有することが好ましいものである。水性分散体(M)が含有するポリオレフィン共重合体(P)は、前記式(I)で表される置換基の一部または全てが、酸で中和されていることが好ましい。置換基が酸で中和されることによってポリオレフィン共重合体にアミノカチオンが生成し、アミノカチオン間の電気反発力によってポリオレフィン共重合体が微粒子化され、かつ微粒子間の凝集が解れる。その結果、水性分散体に安定性が付与され、酸性域で安定な水性分散体とすることができる。
【0078】
つまり、ポリオレフィン共重合体(P)中の不飽和カルボン酸無水物由来のN−置換イミド単位のN−置換基が、前記式(I´)で表される置換基となることで、ポリオレフィン共重合体(P)を、水性分散体(M)中に分散させることができる。
【0079】
前記式(I´)で表される置換基としては、N,N−ジメチルアミノエチル基、N,N−ジメチルアミノプロピル基、N,N−ジメチルアミノブチル基、N,N−ジエチルアミノエチル基、N,N−ジエチルアミノプロピル基、N,N−ジエチルアミノブチル基などが中和されたものが挙げられる。中でも、金属材料への密着性や、防錆性向上の観点から、N,N−ジメチルアミノプロピル基が中和されたものが好ましい。
【0080】
水性分散体(M)における酸の含有量は、ポリオレフィン共重合体(P)に含有される前記式(I´)で表される置換基のモル数に対して0.5〜5倍当量モルが好ましく、0.8〜3倍当量モルがより好ましく、1〜2.5倍当量モルがさらに好ましい。酸の含有量が0.5倍当量モル未満の場合は水性分散体の形態を安定して保てない場合がある。一方、5倍当量モルを超えると水性分散体が着色したり、得られる防錆用コート剤を金属材料にコートした後、乾燥させることによりコート層を形成した場合に、乾燥時間が長くなったりする場合がある。
【0081】
中和に用いる酸としては、前記式(I)で表される置換基を中和することが可能なものであって、酸解離定数(pKa)が−9〜8であるものが好ましく、pKaが−9〜7であるものがより好ましく、pKaが−5〜6であるものがさらに好ましく、pKaが0〜5であるものが特に好ましい。酸解離定数(pKa)が8を超えると、置換基が中和されにくくなり、水性分散化することが困難となる場合がある。酸解離定数が−9未満であると、水性分散体を得る際の作業性が困難となる場合がある。
【0082】
また、酸は揮発性であることが好ましい。具体的には、沸点が20〜250℃であることが好ましく、30〜200℃がより好ましく、50〜150℃がさらに好ましく、50〜120℃が特に好ましい。酸が不揮発性であると、得られる防錆用コート剤を金属材料にコートした後、乾燥させることによりコート層を形成した場合に、その表面に酸が残留し、防錆効果が低下する傾向にある。また、酸の沸点が低すぎると水性分散化の際に揮発する割合が多くなり中和の効率が高まらない場合がある。
【0083】
上記のような酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、乳酸、クエン酸などの有機酸;塩酸、硫酸、リン酸、硝酸などの無機酸が挙げられる。これらは単独で用いても2種類以上を併用しても構わない。中でも、置換基の中和に優れることから有機酸が好ましく、その中でもギ酸、酢酸がさらに好ましい。
【0084】
次に、水性分散体(N)について説明する。水性分散体(N)は、ポリオレフィン共重合体(Q)が水性媒体中に分散したものである。ポリオレフィン共重合体(Q)は、含有する前記式(II)で表される置換基が四級化されていることにより、既にアミノカチオンを有するため、酸を含有しなくても、酸性域で安定な分散体を得ることができる。
【0085】
水性分散体(M)と水性分散体(N)とを比べた場合、水性分散体(N)は含有するポリオレフィン共重合体(Q)が四級化された置換基を有するため、水性分散化が容易となり、製造し易い。しかしながら、水性分散体(N)は四級化された置換基を有するポリオレフィン共重合体(Q)が分散したものであるため、得られる防錆用コート剤の耐水性に劣る傾向がある。よって、防錆用コート剤とした場合の防錆性の観点からは、ポリオレフィン共重合体(P)が分散した水性分散体(M)のほうが好ましい。
【0086】
このような水性分散体(N)や水性分散体(M)は、酸性域で安定なものであるが、該水性分散体のpHは2〜6であることが好ましく、中でも2.5〜4.5であることが好ましい。ここで、本発明における水性分散体の安定性とは、分散樹脂粒子の凝集や沈殿が外観上認められず、均一に分散した状態を保つ(相分離のない)性質のことをいう。
【0087】
以下、「水性分散体」とは、「水性分散体(N)」、「水性分散体(M)」を総称するものである。
【0088】
本発明において、水性媒体中のポリオレフィン共重合体(A)の数平均粒子径は1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、90nm以下であることが特に好ましく、80nm以下であることが最も好ましい。数平均粒子径が1000nmを超えた場合は、保存安定性が低下したり、金属材料に均一にコートすることが困難になり防錆効果が劣ったりする場合がある。なお、数平均粒子径の測定方法は、実施例において詳述する。
【0089】
さらに、水性媒体中のポリオレフィン共重合体(A)の体積平均粒子径は、保存安定性や防錆性の観点から、1000nm以下であることが好ましく、中でも500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、90nm以下であることが特に好ましい。なお、体積平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。
【0090】
粒子径の分布度(体積平均粒子径/数平均粒子径)は、1〜3が好ましく、1〜2.5がより好ましく、1〜2がさらに好ましい。粒子径の分布度が3を超えると、水性分散体としたときの保存安定性が低下する場合がある。一方、粒子径の分布度が1未満であると、金属材料に均一にコートすることが困難になる場合がある。
【0091】
また、水性分散体は、不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有していないことが好ましい。不揮発性水性分散化助剤は、防錆用コート剤から形成されるコート層に残存し、該コート層を可塑化したり親水化したりする。そのため、防錆効果を悪化させる場合がある。本発明に用いるポリオレフィン共重合体(A)は水分散性に優れており、不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有せずとも水性分散化が可能であるため、不揮発性水性分散化助剤を含有しない防錆用コート剤とすることが可能となる。
【0092】
ここで「不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しない」とは、不揮発性水性分散化助剤を積極的には系に添加しないことにより、ポリオレフィン共重合体(A)成分100質量部に対して不揮発性水性分散化助剤の含有量が0.1質量部未満であることを言う。好ましくは、不揮発性水性分散化助剤の含有量が0質量部である。また、不揮発性とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で300℃以上の高沸点であることを指す。
【0093】
本発明において不揮発性水性分散化助剤とは、水性分散化において、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される不揮発性の薬剤や化合物を指す。具体的には、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高アミノ変性化合物、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
【0094】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、カチオン性乳化剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などの第四級アンモニウム塩類やアルキルアミン塩類などが挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0095】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高アミノ変性化合物、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、アミノ変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、アミノ基含有ポリエチレンワックス、アミノ基含有ポリプロピレンワックス、アミノ基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下のアミノ変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0096】
水性媒体は、上述のように、水、又は水と有機溶媒との混合液を示す。水性媒体としては、ポリオレフィン共重合体(A)を水性分散化させる際に、分散化を促進させる効果を有するため、水と有機溶媒の混合液を用いることが好ましい。
【0097】
有機溶媒としては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上であることが好ましく、100g/L以上であることがより好ましく、600g/L以上であることがさらに好ましい。このような有機溶媒を添加することで、不揮発性水性分散化助剤を実質的に添加しなくても、ポリオレフィン共重合体(A)の水性媒体への分散化を促進し、ポリオレフィン共重合体(A)の粒子径を小さくすることができる。
【0098】
有機溶媒の沸点は30〜250℃であることが好ましい。有機溶媒の沸点が30℃未満の場合は、水性分散化時に揮発する割合が多くなり、分散化の効率が十分に向上しない場合がある。沸点が250℃を超える場合は、金属材料の表面に防錆用コート剤から得られたコート層を形成した場合に、該金属材料の表面に有機溶媒が残留し、防錆効果が低下する傾向にある。
【0099】
20℃における水に対する溶解性が50g/L以上で、かつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体;さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられる。なお、これら有機溶媒は、単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0100】
上記の中でも、水性分散化の促進効果が高く、しかも後述する方法で水性媒体中から有機溶媒を除去し易いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0101】
水性媒体中における有機溶剤の含有量は、50質量%以下が好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。有機溶剤の含有量が50質量%を超える場合には、水性分散化の促進効果が変らないかもしくは低下する場合がある。
【0102】
水性分散化の際に添加された上記のような有機溶媒は、水性分散化された後に、水性分散体から除くことができる。例えば、ストリッピングと呼ばれる脱溶剤操作で、その一部を水性分散体から除くことができる。このようなストリッピングによって有機溶媒の含有量は必要に応じて0.1質量%以下まで低減することが可能である。有機溶媒の含有量が0.1質量%以下となっても、水性分散体の性能は影響を受けない。ストリッピングの方法としては、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶媒を留去する方法を挙げることができる。また、水性媒体が留去されることにより、水性分散体中の樹脂固形分濃度が高くなるため、樹脂固形分濃度を後述する好ましい範囲に調整することが可能である。
【0103】
水性分散体(M)に含まれるポリオレフィン共重合体(P)の固形分濃度もしくは、水性分散体(N)に含まれるポリオレフィン共重合体(Q)の固形分濃度は、特に限定されないが、金属材料にコートさせ易くする観点から、水性分散体の0.1〜60質量%の範囲で用いることができ、0.2〜20質量%であることが好ましい。
【0104】
本発明に用いられる水性分散体の粘度は、金属材料にコートさせ易くする観点から、B型粘度計で20℃条件下にて測定した場合には、通常100000mPa・S以下であることが好ましく、1000mPa・S以下であることがより好ましく、500mPa・S以下が最も好ましい。
【0105】
<水性分散体の製造方法>
次に、本発明に用いられる水性分散体の製造方法について説明する。
水性分散体(M)を得るための製造方法は、ポリオレフィン共重合体(P)と、水性媒体と、酸とを80〜250℃で攪拌するものである。より具体的には、水性分散体(M)を得る際には、密閉可能な容器中で、ポリオレフィン共重合体(P)と水性媒体と、酸とを、80〜250℃で攪拌することにより、前記式(I´)で表される置換基を有するポリオレフィン共重合体(P)を分散化させることができる。
【0106】
水性分散体(N)を得るための製造方法は、ポリオレフィン共重合体(Q)と、水性媒体とを80〜250℃で攪拌するものである。より具体的には、水性分散体(N)を得る際にも、密閉可能な容器中で、ポリオレフィン共重合体(Q)と、水性媒体とを80〜250℃で攪拌することにより、ポリオレフィン重合体(Q)を分散化することができる。
【0107】
このような密閉可能な容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入されたポリオレフィン共重合体(A)や水性媒体や酸を、適度に攪拌できるものであればよい。そのような装置としては、固/液攪拌装置や乳化機を使用することができ、耐圧性であることがさらに好ましい。
【0108】
これらの水性分散体の製造方法において、攪拌の方法、攪拌の回転速度は特に限定されない。本発明においては、ポリオレフィン共重合体(A)が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の攪拌でも、十分に水性化が達成されるため、高速攪拌(例えば、1000rpm以上の攪拌)は必須ではない。このため、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
【0109】
前記のような容器に、ポリオレフィン共重合体(P)と水性媒体と酸を、又はポリオレフィン共重合体(Q)と水性媒体とを投入し、次いで、槽内の温度を80〜250℃、好ましくは90〜200℃、さらに好ましくは100〜190℃の温度に保ちつつ、5〜180分間攪拌を続けることによりポリオレフィン共重合体(A)を十分に分散化させることができる。槽内の温度が80℃未満であると、ポリオレフィン共重合体(A)の分散効果が低く、250℃を超えても水性分散化の効果はそれ以上向上しない場合がある。その後、例えば、攪拌下で40℃以下に冷却することにより、水性分散体を得ることができる。
このような方法によれば、不揮発性水性化助剤を実質的に添加しなくとも、ポリオレフィン共重合体(A)を良好に水性分散体とすることができる。
【0110】
本発明に用いられるポリオレフィン共重合体は、水性分散化がきわめて良好であり、水性媒体中には未分散樹脂がほとんどまたは全く残存することがない。しかしながら、容器内の異物や少量の未分散樹脂を除くために、水性分散体を払い出す際は、濾過工程を設けてもよい。濾過方法は限定されないが、例えば、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(例えば、空気圧0.5MPa)する方法が挙げられる。このような濾過工程を設けることで、異物や未分散樹脂が存在した場合であっても除去することができ、水性分散体を以降の工程で、問題なく使用することができる。
【0111】
<防錆剤(B)>
本発明において用いられる防錆剤(B)としては、無機防錆剤と有機防錆剤が挙げられる。また、無機防錆剤と有機防錆剤は併用してもよい。
【0112】
無機防錆剤は、金属の腐食を軽減させる作用を有する無機の物質である。具体的には、リン酸塩、亜リン酸塩、モリブデン酸塩、ケイ酸塩、亜硝酸塩、ホウ酸塩、クロム酸塩などが上げられ、これらは2種類以上を併用してもかまわない。より具体的には、リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸亜鉛、ポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸アルミニウムなどが、亜リン酸塩としては、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アンモニウム、亜リン酸亜鉛などが、モリブデン酸塩としては、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸などが、ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、シリカなどが、亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、防錆性効果に優れる観点から、リン酸塩、亜リン酸塩、モリブデン酸塩、ケイ酸塩、亜硝酸塩が好ましく、リン酸塩がさらに好ましい。これらは1種単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0113】
有機防錆剤は、金属の腐食を軽減させる作用を有する有機の物質であり、公知のものを用いることが可能である。例えば、脂肪族または脂環族アミン類、アルカノールアミン類などのアミン類、1,2,3−ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾールなどのトリアゾール化合物、などが挙げられる。なかでも、防錆性に優れる観点から、アミン類が好ましい。これらは1種単独で、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0114】
なお、防錆剤(B)は、防錆効果をより良好とするために無機防錆剤を用いることが好ましい。
【0115】
本発明の防錆用コート剤に含有されるポリオレフィン共重合体(A)と防錆剤(B)との質量比は、(A)/(B)=99.99/0.01〜50/50の範囲である必要があり、99.9/0.1〜70/30の範囲が好ましく、99.8/0.2〜80/20の範囲がより好ましく、99.5/0.5〜90/10の範囲がさらに好ましく、99.5/0.5〜95/5の範囲が特に好ましい。防錆剤(B)の割合が、0.01質量%未満の場合は防錆効果が乏しくなる。一方、50質量%を超えた場合は、得られる防錆用コート剤と金属材料との密着性が低下し、防錆性、耐アルカリ性および耐酸性が悪化する傾向にある。
【0116】
本発明の防錆用コート剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン共重合体(A)と水性媒体とからなる水性分散体に、防錆剤(B)を混合することで得られる。また、防錆剤(B)は、ポリオレフィン共重合体(A)の水性分散体に用いられた水性媒体と同様の媒体に溶解または分散してから、ポリオレフィン共重合体(A)の水性分散体に混合してもかまわない。なお、本発明に用いられるポリオレフィン共重合体(A)の水性分散体は、防錆剤(B)と混合しても、樹脂粒子同士の凝集や分離が発生しにくいため、薄く均一なコート層を形成することができ、コート剤として好適に用いることが出来る。
【0117】
本発明において、防錆用コート剤中のポリオレフィン共重合体(A)の数平均粒子径は1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。数平均粒子径が1000nmを超えた場合は、保存安定性が低下したり、金属材料に均一にコートすることが困難になり防錆効果が劣ったりする場合がある。なお、防錆用コート剤中の数平均粒子径の測定方法は、実施例において詳述する。
【0118】
本発明の防錆用コート剤中の、ポリオレフィン共重合体(A)および、防錆剤(B)の含有量は、防錆用コート剤全体の0.5〜60質量%の範囲が好ましく、1〜50質量%の範囲がより好ましく、2〜40の範囲がさらに好ましい。0.5質量%未満の場合は、防錆に必要な厚みを有したコート層を形成することが困難となる場合があり、60質量%を超えた場合は、薄く均一なコート層を形成することが困難となる場合がある。
【0119】
本発明の防錆用コート剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の添加剤が添加されたものであってもかまわない。
<添加剤>
添加剤としては、例えば、ポリオレフィン共重合体(A)以外の他の樹脂、架橋剤、無機微粒子、またはその水性分散体や水溶液等を、添加、混合することができる。
【0120】
上述したポリオレフィン共重合体(A)以外の他の樹脂(以下、「他の樹脂」と称する場合がある)は、特に限定されない。例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、エチレン−アミノアクリルアミド共重合体、エチレン−アミノアクリレート共重合体、ポリ塩化ビリニデン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−アミノアルキルマレイミド共重合体、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン系エラストマー、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素含有樹脂、ポリエチレンイミン、UV硬化型樹脂等を挙げることができる。これらは、単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0121】
本発明の防錆用コート剤は、架橋剤を添加することで、より優れた防錆性を備えることが可能となる。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤;アミノ基、アクリル酸エステルやカルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤;多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができる。具体的には、ヒドラジド化合物、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤、有機過酸化物等が挙げられる。これらの架橋剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0122】
中でも、本発明に用いられるポリオレフィン共重合体(A)が構成成分として不飽和カルボン酸単位を含有している場合は、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤との反応性などに優れるため、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤がより好ましい。このような、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する架橋剤の好ましい具体例としては、ヒドラジド化合物やブロックイソシアネートが挙げられる。ヒドラジド化合物としては、アジピン酸ジヒドラジドが好ましく。ブロックイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のポリイソシアネートに活性水素を有するブロック剤を付加させることによって得ることができるものであって、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生するものが好ましく、それらは水性分散体または水溶液の形態のものが好ましい。
【0123】
架橋剤の添加量は、架橋構造を十分に形成させる観点から、ポリオレフィン共重合体(A)100質量部に対して架橋剤の固形分0.01〜300質量部の範囲が好ましく、0.1〜100質量部の範囲がより好ましく、0.2〜50質量部の範囲が特に好ましく、0.5〜30質量部の範囲がさらに好ましい。
【0124】
添加剤としての無機微粒子は、上述の防錆剤(B)以外の無機微粒子である。無機微粒子としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、などの金属微粒子や金属酸化物、炭酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、雲母、タルク、擬ベーマイト、アルミナ、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化イットリウムなどの無機粒子が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0125】
このような無機微粒子の平均粒子径は、分散安定性の面から0.0005〜100μmが好ましく、0.005〜10μmがより好ましい。
【0126】
さらに、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、触媒、光触媒、UV硬化剤、濡れ剤、浸透剤、撥水剤、帯電防止剤等の各種薬剤、顔料あるいは染料、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどを添加してもよい。また、必要であれば、発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の有機もしくは無機の化合物を防錆用コート剤に添加することも可能である。
【0127】
上記のような他の樹脂、無機粒子、架橋剤、各種薬剤、顔料あるいは染料などの添加剤は単独で用いてもよいし、あるいは2種類以上、組み合わせて用いてもよい。
【0128】
本発明の防錆用コート剤を、金属材料の表面にコートしコート層を形成させることによって積層体を得ることができる。得られる積層体は防錆性に優れるものである。本発明の防錆用コート剤に好適に用いられる金属材料としては、熱延鋼板、冷延鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、亜鉛合金メッキ鋼板、アルミメッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板、銅メッキ鋼板、亜鉛ニッケルメッキ鋼板、亜鉛アルミメッキ鋼板、亜鉛鉄メッキ鋼板、スズメッキ鋼板などのメッキ鋼板や、ステンレス鋼板、アルミ板、銅板、アルミ合金板等が挙げられる。
【0129】
本発明の防錆用コート剤を、金属材料表面にコートしコート層を形成させる方法としては、特に限定されず従来公知の方法や装置を用いることが出来る。例えば、浸漬コート、ブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、ロッドコート、ハイドロバーコート、トランスファロールコート、リバースコート、グラビアコート、ダイコート、カーテンコート、スプレコート、ロールコート、スクリーンコート、スピンコートなどが挙げられる。さらに、予め金属材料表面を酸やクロム処理などの表面処理した後に、コートさせてもかまわない。コートの後は乾燥または焼付けのための加熱処理することが好ましい。加熱温度しては、30〜250℃が好ましく、60〜230℃がより好ましく、80〜200℃がさらに好ましい。また加熱の時間は、1秒〜60分が好ましく、10秒〜20分がより好ましい。
【0130】
このようにして得られた、積層体におけるコート層の厚みは、0.05〜50μmが好ましく、0.1〜20μmがより好ましく、0.5〜10μmがさらに好ましい。厚みが0.05μm未満の場合は防錆効果に劣る場合があり、50μmを超えると防錆の効果が向上しない場合がある。
【実施例】
【0131】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0132】
各種の特性について、以下の方法で測定または評価した。
1.ポリオレフィン共重合体(A)の特性
(1)ポリオレフィン共重合体の構成
1H−NMR分析機(日本電子社製、「ECA500、500MHz」)を用いて求めた。テトラクロロエタン(d2)を溶媒とし、120℃で測定した。
【0133】
(2)ポリオレフィン共重合体(A)の酸価(不飽和カルボン酸の含有量)
溶媒としてアセトンを用いて、ポリオレフィン共重合体(A)をソックスレイ抽出した後、乾燥した。該ポリオレフィン共重合体0.25gを、30mlのテトラヒドロフラン/トルエン/水の混合溶剤(質量比で20/4.8/0.2)に投入し、完全に溶解するまでホットスターラーで、液温80℃で加熱撹拌した。加熱攪拌の際に発生した蒸気は、ジムロートを介して還流させた。溶解後、液温を60〜70℃まで冷まし、指示薬(KOHで中和したクレゾールレッド0.1質量%水溶液)を1〜2滴滴下した。次いで、液温を60〜70℃に保った状態で撹拌しつつ、0.1モル/LのKOHメタノール溶液を滴下し、ポリオレフィン共重合体(A)溶液の色調が紫色に変色し、且つその色調が20秒間変化しなくなった時点のKOHメタノール溶液の滴定量(mL)から、ポリオレフィン共重合体(A)の酸価(mgKOH/g)を求めた。なお、ポリオレフィン共重合体(A)を添加していない30mlのテトラヒドロフラン/トルエン/水の混合溶剤(質量比で20/4.8/0.2)を用いて、同様の操作をして得た値をブランクとした。測定はn=3で行い、測定値は3回の平均値とした。酸価は以下の式により求めた。
【0134】
酸価(mgKOH/g)={[滴定量(mL)]−[ブランク滴定量(mL)]}×56.1×0.1×(0.1モル/LのKOHメタノール溶液の補正値)÷[0.25(mg)]
【0135】
(3)質量平均分子量測定
GPC装置(東ソー社製、「型式HLC−8020GPC」、カラム:TSK−GEL)を用い、40℃で質量平均分子量を測定した。溶離液として、テトラヒドロフランを用いた。TSK標準ポリスチレン換算より求めた。なお、テトラヒドロフランに溶解せず、質量平均分子量を測定できない場合は、下記(4)のメルトフローレート値を分子量の指標とした。
【0136】
(4)ポリオレフィン共重合体(A)のメルトフローレート値(MFR)
JIS K7210:1999記載の方法(190℃、20.2N荷重)に従って測定した。
【0137】
2.水性分散体の特性
(1)水性分散体中のポリオレフィン共重合体(A)の数平均粒子径
ポリオレフィン共重合体(A)の水性分散体をマイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製、「UPA150、MODEL No.9340」)を用い、動的光散乱法により求めた。粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
【0138】
(2)ポリオレフィン共重合体(A)の水性分散体のpH
pHメーター(堀場製作所社製、「F−52」)を用い、温度20℃におけるpHを測定した。
【0139】
3.防錆用コート剤の特性
(1)防錆用コート剤中のポリオレフィン共重合体(A)の数平均粒子径
防錆用コート剤をマイクロトラック粒度分布計(日機装株式会社製、「UPA150、MODEL No.9340」)を用い、動的光散乱法により求めた。粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
(2)防錆性
防錆用コート剤がコートされた積層体を、35℃の5質量%塩化ナトリウム水溶液による塩水噴霧試験(JIS Z−2371)を100時間行い、試験後の積層体表面における発錆面積率を測定し、以下の基準で評価した。
◎:発錆面積率(%)が1%未満である。
○:発錆面積率(%)が1%以上5%未満である。
△:発錆面積率(%)が5%以上25%未満である。
×:発錆面積率(%)が25%以上である。
【0140】
(3)耐酸性
防錆用コート剤がコートされた積層体を、45℃の0.5質量%硫酸水溶液に1時間浸漬した。その後水洗いを行い、防錆用コート剤からなるコート層の状態を目視で評価した。以下の基準で評価した。
○:コート層の状態が変化していなかった。
△:コート層の少なくとも一部が白化していた。
×:コート層の少なくとも一部が溶解または剥離していた。
【0141】
(4)耐アルカリ性
防錆用コート剤がコートされた積層体を、45℃の0.5質量%水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬した。その後水洗いを行い、防錆用コート剤からなるコート層の状態を目視で評価した。以下の基準で評価した。
○:コート層の状態が変化していなかった。
△:コート層の少なくとも一部が白化していた。
×:コート層の少なくとも一部が溶解または剥離していた。
【0142】
(5)金属材料への密着性
防錆用コート剤がコートされた積層体に、JIS K 5400に記載されている碁盤目剥離試験の方法に準じ、碁盤目を付けセロハンテープ(ニチバン社製、「TF−12」)を碁盤目上に貼り付けた後、セロハンテープを90°方向に速やかに剥離させ、碁盤目100升中、コート層が剥離しなかった升数にて評価した。
【0143】
原料に用いた樹脂について、以下に示す。
・UM1001
三洋化成社製、「ユーメックス1001」
・HX8290
アルケマ社製、「ボンダインHX8290」
・E−A−A
高圧ラジカル重合法で得られたエチレン−アクリル酸エチル共重合体を、特開昭60−79008号公報に記載された方法に従って、加水分解処理および、熱減成処理して製造した。
【0144】
原料に用いた樹脂の特性を、表1にまとめて示す。
【0145】
【表1】

【0146】
なお、表1中の略語は、以下のものを示す。
MAH:無水マレイン酸
AA:アクリル酸
EA:エチルアクリレート
【0147】
実施例および比較例で用いた防錆剤(B)について、以下に示す。
・リン酸二水素カリウム(無機防錆剤)
・リン酸亜鉛(無機防錆剤)
・リン酸水素カルシウム(無機防錆剤)
・リン酸三ナトリウム(無機防錆剤)
・トリポリリン酸二水素アルミニウム(無機防錆剤)
・トリポリリン酸ナトリウム(無機防錆剤)
・亜リン酸水素二ナトリウム(無機防錆剤)
・モリブデン酸アンモニウム(無機防錆剤)
・亜硝酸ナトリウム(無機防錆剤)
・ケイ酸ナトリウム(無機防錆剤)
・モノイソプロピルアミン(有機防錆剤)
以上の防錆剤(B)は、全てナカライテクス社製である。
【0148】
<ポリオレフィン共重合体の製造>
製造例1
温度計、撹拌機、液注器、ジムロートを備えた1リットルのセパラブルフラスコに、無水物含有共重合体(原料樹脂)として「UM1001」を250g、トルエンを500g仕込み、撹拌機を100prmで回転させた状態で、フラスコを170℃のオイルバスに投入した。数分後トルエンの沸騰が確認されたが、発生した蒸気はジムロートを介してフラスコ内に還流させた。さらに数分後、「UM1001」が完全に溶解したのを確認した後、アミノ化合物としてN,N−ジメチルアミノプロピルアミン〔HN−(CH)3−N(CH〕(以下、DMAPAと称する場合がある)を、「UM1001」のカルボン酸無水物単位のモル数に対して1.3倍当量モル添加した。添加後のフラスコ内の温度は115℃であり、この状態を保持しイミド化反応を行った。30分後にジムロートの取り付け方向を換えて、さらに徐々に減圧し、フラスコ内のトルエンと未反応アミノ化合物を留去により除去した。フラスコ内からトルエンと未反応アミノ化合物の蒸気が発生しなくなるのを確認して、さらに10分間4kPa(abs)の減圧を保持したところで放圧し、撹拌機を止め、フラスコをオイルバスから取り出し、フラスコ内のポリオレフィン共重合体(P)を得た。ここまでの工程は、ポリオレフィン共重合体の製造である。
【0149】
以下の工程は、水性分散体の製造である。撹拌機及びヒーターを備えた密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、上記製造工程で得られたポリオレフィン共重合体(P)を140g(20質量%)、酸としてギ酸をポリオレフィン共重合体中の前記式(I)で表される置換基のモル数に対して2.0倍当量モル、水性媒体中の有機溶媒としてn−プロパノールを245g(35質量%)、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込んだ。次いで、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体を得た。尚、ろ過後フィルター上には未分散のポリオレフィン共重合体は確認されなかった。得られた水性分散体を、以下<E−1>と称す。
【0150】
製造例2、3
無水物含有共重合体(原料樹脂)の種類、アミノ化合物の添加量を、表2に示したように変更した以外は、製造例1のポリオレフィン共重合体の製造と同様の操作を行って、ポリオレフィン共重合体(P)を得た。
【0151】
次いで、使用するポリオレフィン共重合体を、製造例2、3で得られたポリオレフィン共重合体(P)にそれぞれ変更した以外は、製造例1の水性分散体の製造と同様の操作をおこなって、水性分散体<E−2>、<E−3>を得た。尚、ろ過後フィルター上には未分散のポリオレフィン共重合体は確認されなかった。
【0152】
製造例4
温度計、撹拌機、液注器、ジムロートを備えた0.5リットルのセパラブルフラスコに、製造例1のポリオレフィン共重合体の製造で得られた、ポリオレフィン共重合体(P)を150g、トルエンを100g仕込み、撹拌機を100prmで回転させた状態で、フラスコを150℃のオイルバスに投入した。数分後トルエンの沸騰が確認されたが、発生した蒸気はジムロートを介してフラスコ内に還流させた。さらに数分後、ポリオレフィン共重合体(P)が完全に溶解したのを確認した。次いで、四級化剤として硫酸ジエチル(以下、DESとする)をポリオレフィン共重合体(P)の含有する式(I)で表される置換基のモル数に対して1倍当量モル添加した。添加後のフラスコ内の温度は109℃であり、この状態を保持し四級化反応を行った。30分後にジムロートの取り付け方向を換えて、さらに徐々に減圧し、フラスコ内のトルエンと未反応DESを留去により除去した。フラスコ内から蒸気が発生しなくなるのを確認して、さらに10分間4kPa(abs)の減圧を保持したところで放圧し、撹拌機を止め、フラスコをオイルバスから取り出し、フラスコ内の四級化されたポリオレフィン共重合体(Q)を得た。ここまでの工程は、ポリオレフィン共重合体の製造である。
【0153】
以下の工程は、水性分散体の製造である。撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、上記ポリオレフィン共重合体の製造で得られたポリオレフィン共重合体(Q)を140g(20質量%)、水性媒体中の有機溶媒としてn−プロパノールを245g(35質量%)、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込み、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体<E−4>を得た。尚、ろ過後フィルター上には未分散のポリオレフィン共重合体は確認されなかった。
【0154】
製造例5
撹拌機及びヒーターを備えた密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、製造例2のポリオレフィン共重合体の製造工程で得られたポリオレフィン共重合体(P)を140g(20質量%)、酸としてギ酸をポリオレフィン共重合体中の前記式(I)で表される置換基のモル数に対して2.0倍当量モル、水性媒体中の有機溶媒としてn−プロパノールを105g(15質量%)、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込んだ。次いで、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体を得た。尚、ろ過後フィルター上には未分散のポリオレフィン共重合体が9g(乾燥質量)確認された。得られた水性分散体を、以下<E−5>と称す。
【0155】
製造例6
温度計、撹拌機、ジムロートを備えた1リットルのセパラブルフラスコに、原料樹脂の「E−A−A」を150g、触媒としてパラトルエンスルホン酸を1g、キシレンを400g、さらにアミノ化合物としてDMAPAを、原料樹脂「E−A−A」のアクリル酸のモル数に対して1.2倍当量モル仕込み、撹拌機を100prmで回転させた状態で、フラスコを170℃のオイルバスに投入した。10分後にはフラスコ内の「E−A−A」は完全に溶解しており、フラスコ内の温度は145℃であった。この状態を保持し、17時間後にジムロートの取り付け方向を換えて、さらに徐々に減圧し、フラスコ内のキシレンと未反応アミノ化合物を留去により除去した。フラスコ内からキシレンと未反応アミノ化合物の蒸気が発生しなくなるのを確認して、さらに10分間4kPa(abs)の減圧を保持したところで、放圧し撹拌機を止め、フラスコをオイルバスから取り出し、フラスコ内のポリオレフィン共重合体を得た。ここまでの工程は、ポリオレフィン共重合体の製造である。
【0156】
以下の工程は、水性分散体の製造である。撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、上記ポリオレフィン共重合体の製造で得られたポリオレフィン共重合体を140g(20質量%)、酸として塩酸をポリオレフィン共重合体のジメチルアミノプロピルアクリルアミド単位のモル数に対して1.0倍当量モル、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込み、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体<E−6>を得た。
【0157】
製造例7
特公昭53−6194号公報に記載された方法に従って高圧ラジカル重合してエチレン−ジエチルアミノエチルアクリレート共重合体(以下、E−Aと称す)を製造した。
【0158】
次に、撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、上記「E−A」を140g(20質量%)、酸として塩酸を得られた「E−A」のジエチルアミノエチルアクリレート単位のモル数に対して1.0倍当量モル、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込み、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体<E−7>を得た。
【0159】
製造例8
撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、樹脂として無水物含有共重合体「HX−8290」を140g(20質量%)、中和剤としてトリエチルアミンを、「HX−8290」の無水マレイン酸単位のモル数に対して2.0倍当量モル、水性媒体中の有機溶媒としてn−プロパノールを140g(20質量%)、さらに原料の総量が700gとなるように蒸留水を仕込み、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合した。撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を130℃にし、さらに120分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り攪拌したまま冷却した。内温が40℃以下になったところで攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を300メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体<E−8>を得た。
【0160】
製造例1〜5で得られたポリオレフィン共重合体(A)の水性分散体<E−1>〜<E−5>の特性を表2に、製造例6〜8で得られたポリオレフィン共重合体の水性分散体<E−6>〜<E−8>の特性を表3に示す。
【0161】
【表2】

【0162】
【表3】

【0163】
なお、表2、3中の略語は、以下のものを示す。
DMAPA:ジメチルアミノプロピルアミン
DMAPMI:ジメチルアミノプロピルマレイミド
DMAPAA:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
DMAEA:ジメチルアミノエチルアクリレート
EA:エチルアクリレート
MAH:無水マレイン酸
【0164】
実施例1
ポリオレフィン共重合体(A)の水性分散体として<E−1>を用い、防錆剤(B)としてリン酸二水素カリウムを用いた。<E−1>を攪拌した状態で、リン酸二水素カリウムを添加し、防錆用コート剤を得た。リン酸二水素カリウムの添加量は、<E−1>の含有するポリオレフィン共重合体(A)とリン酸二水素カリウムの質量比が、ポリオレフィン共重合体(A)/リン酸二水素カリウム=99/1となるようにした。防錆剤(B)を添加した後、水を添加して、防錆用コート剤中のポリオレフィン共重合体(A)および、防錆剤(B)の含有量が5質量%となるように調整した。このようにして得られた防錆用コート剤を、溶融亜鉛メッキ鋼板(日本テストパネル社製、サイズ70mm×150mm×0.8mm)の上に乾燥後のコート厚みが2μmになるようにメイヤーバーでコートし、140℃で90秒間乾燥熱処理し、積層体を得た。得られた防錆用コート剤と積層体を用いて、防錆用コート剤の特性を評価した。
【0165】
実施例2〜23
ポリオレフィン共重合体(A)の水性分散体の種類、防錆剤(B)の種類、ポリオレフィン共重合体(A)と防錆剤(B)の質量比、積層金属材料中のコート厚みを表4に示したように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、防錆用コート剤と積層体を得た。得られた防錆用コート剤と積層体を用いて、防錆用コート剤の特性を評価した。(実施例20の防錆用コート剤は、防錆用コート剤中のポリオレフィン共重合体(A)および、防錆剤(B)の含有量が20質量%となるように調整したものを用いた。)
【0166】
比較例1
ポリオレフィン共重合体(A)の水性分散体<E−1>を、溶融亜鉛メッキ鋼板(日本テストパネル社製、サイズ70mm×150mm×0.8mm)の上に乾燥後のコート厚みが2μmになるようにメイヤーバーでコートし、140℃で90秒間乾燥熱処理し、積層体を得た。得られた積層体を用いて、防錆用コート剤の特性を評価した。
【0167】
比較例2
ポリオレフィン共重合体(A)とリン酸二水素カリウムの質量比を、ポリオレフィン共重合体(A)/リン酸二水素カリウム=45/55に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、防錆用コート剤と積層体を得た。得られた防錆用コート剤と積層体を用いて、防錆用コート剤の特性を評価した。
【0168】
比較例3
ポリオレフィン共重合体の水性分散体として<E−5>を用い、防錆剤(B)としてリン酸二水素カリウムを用いた。<E−5>を攪拌した状態で、リン酸二水素カリウムを添加し、コート剤を得た。リン酸二水素カリウムの添加量は、<E−5>の含有するポリオレフィン共重合体とリン酸二水素カリウムの質量比が、ポリオレフィン共重合体/リン酸二水素カリウム=99/1となるようにした。防錆剤(B)を添加した後、水を添加して、コート剤中のポリオレフィン共重合体および、防錆剤(B)の含有量が5質量%となるように調整した。このようにして得られたコート剤を、溶融亜鉛メッキ鋼板(日本テストパネル社製、サイズ70mm×150mm×0.8mm)の上に乾燥後のコート厚みが2μmになるようにメイヤーバーでコートし、140℃で90秒間乾燥熱処理し、積層体を得た。得られた防錆用コート剤と積層体を用いて、防錆用コート剤の特性を評価した。
【0169】
比較例4
ポリオレフィン共重合体の水性分散体を<E−6>に変更した以外は、比較例3と同様の操作を行い、防錆用コート剤と積層体を得た。得られた防錆用コート剤と積層体を用いて、防錆用コート剤の特性を評価した。
【0170】
比較例5
ポリオレフィン共重合体の水性分散体として<E−7>を用い、防錆剤(B)としてリン酸二水素カリウムを用いた。<E−7>を攪拌した状態で、リン酸二水素カリウムを<E−5>の含有するポリオレフィン共重合体とリン酸二水素カリウムの質量比が、ポリオレフィン共重合体/リン酸二水素カリウム=99/1となるよう添加した。そのところ、水性分散体中のポリオレフィン共重合体粒子の凝集および分離が発生し、コート剤とすることが出来なかった。
【0171】
実施例1〜23の評価結果を表4に、比較例1〜5の評価結果を表5に示した。
【0172】
【表4】

【0173】
【表5】

【0174】
実施例1〜23の防錆用コート剤は、金属材料にコートすることで、金属材料との密着性、耐酸性、耐アルカリ性に優れ、且つ金属材料に優れた防錆性を付与させる効果が確認された。
【0175】
比較例1では防錆剤(B)を含有していないために、防錆性に劣る結果となった。
比較例2では防錆剤(B)の含有量が過多であったため、防錆性、耐酸性、耐アルカリ性、金属材料への密着性のいずれにおいても劣る結果となった。
【0176】
比較例3および4では、ポリオレフィン共重合体(A)の組成が本発明に規定するものと異なるものであったため、防錆性、金属材料への密着性に劣るものであった。
比較例5では、ポリオレフィン共重合体(A)の組成が本発明に規定するものと異なるものであったため、コート剤を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン共重合体(A)、防錆剤(B)および水性媒体を含有し、
ポリオレフィン共重合体(A)と防錆剤(B)との質量比が(A)/(B)=99.99/0.01〜50/50の範囲であり、
ポリオレフィン共重合体(A)は、オレフィン系炭化水素単位と不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位とを有し、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位の含有量が0.1モル%以上10モル%未満であり、不飽和カルボン酸無水物単位由来のN−置換イミド単位のN−置換基が、下記式(I)で表される置換基と下記式(II)で表される置換基との少なくともいずれかであることを特徴とする防錆用コート剤。
−(CH)nNR (I)
(式中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、nは1〜5の整数を示す。)
−(CH)nN・X (II)
(式中、R、Rは炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のヒドロキシアルキル基、Rは四級化反応により導入された四級化剤の残基、X−はアニオン性対イオン、nは1〜5の整数を示す。)
【請求項2】
ポリオレフィン共重合体(A)が、防錆用コート剤中において数平均粒子径で1000nm以下に分散されていることを特徴とする請求項1に記載の防錆用コート剤。
【請求項3】
ポリオレフィン共重合体(A)が、不飽和カルボン酸単位を含有し、酸価が0.1〜50mgKOH/gであることを特徴とする請求項1または2に記載の防錆用コート剤。
【請求項4】
防錆剤(B)が、無機防錆剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防錆用コート剤。
【請求項5】
無機防錆剤が、無機リン酸塩、亜リン酸塩、モリブデン酸塩、ケイ酸塩、亜硝酸塩から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項4に記載の防錆用コート剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の防錆用コート剤から形成されたコート層を、金属材料の片面または両面に積層してなる積層体。

【公開番号】特開2012−46646(P2012−46646A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190525(P2010−190525)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】