説明

防錆組成物

【課題】 車体の床裏、車体の足回り部品、車体の袋構造部、板合わせ部等に対する防錆要求品質や作業品質を満足する性能を備え、揮発する有機溶剤を20mass%以下にした環境にやさしい防錆組成物を提供する。
【解決手段】 105℃、3時間における不揮発分が80mass%以上の防錆油及び/又は防錆ワックスの組成物全体に対して、0.3〜10重量%の紫外線硬化樹脂と必要量の光重合開始剤とを溶解又は分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、特に自動車の車体床裏、車体部品、袋構造部等に塗布する防錆組成物に係り、金属素材一般の長期防錆に利用することができる防錆組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体の床裏、車体の足回り部品、車体の袋構造部、板合わせ部に対する防錆剤としては、ワックスと各種の添加剤を、ミネラルスピリット等の有機溶剤に溶解又は分散させた組成物、いわゆるワックスタイプの防錆剤が使用されている。これらの中でも、厚塗りが可能な組成物は、防錆性能が優れているので、屋内外での金属素材の長期防錆剤としても使用されている。一方、ワックス成分やペトロラタム成分を多く含有しない防錆油は、厚膜での塗布ができないため、長期の防錆用途としては不向きである。
【0003】
従来のワックスタイプ防錆剤としては、皮膜性能を向上させる組成物や、生産技術面を向上させる組成物が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。ところが、これらのワックスタイプ防錆剤を板合わせ部の防錆に使用し、狭い隙間へ充分な浸透性を確保するためには、低粘度に調整する必要があり、塗布後のタレ止めは溶剤がある程度揮発して粘度が上がるまで時間が必要であった。また、これらの組成物においては、浸透性やスプレー作業性を向上させるため、希釈及び分散溶媒としてミネラルスピリット等の有機溶剤を使用して粘度調整を行っており、多いものでは70重量%を超えて有機溶剤が含有されている。さらに、車体の床裏や足回り部品への使用に際し、厚膜で塗布した場合、乾燥に時間がかかり、いつまでもべた付きを有してしまうという問題がある。すなわち、これらの組成物は、いずれも塗布された後に有機溶剤を空気中に揮発して半硬膜のワックス皮膜を形成するものである。このような揮発した有機溶剤は、最近の地球温暖化の原因の一つとして問題となっているため、塗料等に使用する有機溶剤の量を低減させる検討もさかんに行われており、一部では法律により揮発有機溶剤量を規制する動きもある。これらの要求を満たすための防錆組成物がいくつか提案されている(例えば、特許文献4及び5参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−40159号公報
【特許文献2】特開平1−92267号公報
【特許文献3】特開昭61−55198号公報
【特許文献4】特開2003−268574号公報
【特許文献3】特願2004−192873号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ワックスタイプ防錆剤から揮発する有機溶剤を単純に減少させた場合、粘度が上がってしまい隙間への充分な浸透が得られないので、従来技術では浸透を確保するには不揮発分80mass%が限界であり、タレ止め性も悪い。また、ワックスタイプ防錆剤から揮発する有機溶剤を減少させる手法として、組成物に使用する有機溶剤を揮発性の少ない高粘度油に代替する手法も検討されたが、塗布後の皮膜がいつまでも不乾性のままで、タレがいつまでも続いたり、高温や振動により皮膜が流れ落ちてしまったり、水などの接触等による物理的力により容易に皮膜が除去されてしまい、充分な防錆性能が得らない問題点があった。
【0006】
また、有機溶剤を減少させる手法として水系の防錆組成物を使用する方法も提案されているが、水系組成物の場合、車体の袋構造部、板合わせ部に塗布した場合、浸透した組成物に含まれる水分がいつまでも蒸発せず、サビを発生させてしまう問題があった。さらに、有機溶剤を減少させる手法として常温で固形のワックス組成物を高温で加熱溶解させて浸漬塗布したり、加熱溶解させたワックスを流しかける防錆方法も一部で実用化されているが、大掛かりな設備が必要であり、また固形ワックスを溶解させるのに膨大な熱エネルギーが必要で経済的に問題があった。
【0007】
したがって、本発明は、車体の床裏、車体の足回り部品、車体の袋構造部、板合わせ部等に対する防錆要求品質や作業品質を満足する性能を備え、揮発する有機溶剤を20mass%以下にした環境にやさしい防錆組成物を提供することを目的としている。具体的には、防錆組成物を低粘度に調整した場合には、浸透性が良好となるが、塗布後短時間でタレ止めが可能であり、一方、高粘度に調整した場合には、防錆組成物を厚膜で塗布することが可能であり、しかも、短時間でべた付きのない乾燥軟質皮膜を形成し得る防錆組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、光重合開始剤を添加した紫外線硬化樹脂が紫外線照射により短時間で硬化することに着目し、防錆油や防錆ワックスに紫外線硬化樹脂と光重合開始剤を混合することによって、揮発する有機溶剤を減らし、紫外線照射により、短時間でタレのない乾燥皮膜を形成し得る防錆組成物の開発に成功した。
【0009】
よって、本発明の防錆組成物は、105℃、3時間における不揮発分が80mass%以上の防錆油及び/又は防錆ワックスの組成物全体に対して、0.3〜10重量%の紫外線硬化樹脂と必要量の光重合開始剤とを溶解又は分散させたことを特徴としている。
【0010】
また、本発明の防錆組成物においては、105℃、3時間における不揮発分が90mass%以上であることが好ましい形態であり、さらに揮発分として沸点200℃以下の溶剤の含有量が10mass%以下であることが好ましく、1mass%以下であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の有機溶剤を含有する防錆ワックスと同等に長期の防錆が可能であり、しかも、従来と同じ方法で使用ができることは勿論のこと、紫外線硬化反応を応用しているので、例えば、車体の床裏に塗布した場合、紫外線を照射することにより、短時間で乾燥被膜が得られるのでタレによる作業環境の改善となり、また、袋構造部等の板合わせ部位に塗布した場合、充分浸透した後の過剰分のタレ流れる組成物に紫外線を照射することにより、タレ落ちによる作業環境を改善すると同時に、内面では紫外線の照射が届かないため、いつまでも不乾燥の状態で残存することにより、走行中の車体の歪みに対する追随性に優れ、結果として長期の防錆効果が期待できる。
【0012】
また、本発明の防錆組成物は、揮発する有機溶剤分が少ないことから、溶剤規制などにより拡大使用できない従来の溶剤含有タイプの防錆ワックスに比べ、近年益々厳しくなっている自動車の防錆に対する要求に充分対応し得るものであるとともに、コスト的にも非常な有効な手段である。さらに、従来技術では厚塗りが不可態であったワックス成分やペトロラタム成分を多く含有しない防錆油を用いた場合にも、紫外線照射することにより、増粘して厚膜保持を可能としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の防錆組成物についてさらに詳細を説明する。
本発明における紫外線硬化樹脂としては、光重合性オリゴマーとして、ウレタンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系が、また、光重合モノマーとして、アクリル酸エステル系モノマー、ビニル系モノマー等が挙げられる。これらの中でも、組成物と相溶性の良い紫外線硬化樹脂を単体もしくは混合して使用することが好ましく、さらには、アクリル酸エステル系モノマーの配合量が多い方がより好ましい。また、アクリル系エステルモノマーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレートのエチレンオキサイド付加物がさらに好ましい。
【0014】
本発明においては、紫外線硬化樹脂の配合量は組成物全体に対して0.3〜10重量%の範囲であることが必須であるが、この範囲が1〜2重量%であることがより好ましい。配合量が0.3重量%未満では防錆組成物の皮膜に充分な硬化が得られず、好ましくない。一方、この配合量が10重量%を超えると紫外線照射後の防錆組成物の皮膜が硬過ぎて、優れた耐食性能が得られず、また、高価となってしまい経済的利用価値が減少してしまう。
【0015】
本発明における光重合開始剤としては、開列反応型開始剤、水素引き抜き型開始剤、その他従来公知の各種光重合開始剤の中で、組成物との相溶性が良好なものが挙げられる。具体的には、開列反応型の1−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オンが挙げられる。また、本発明においては、光重合開始剤の配合量は、充分な硬化反応が得られる量であり、紫外線硬化樹脂の種類と配合量により変化するが、充分な硬化反応が得られる最低量が好ましい。
【0016】
本発明における防錆油及び防錆ワックスは、105℃、3時間における不揮発分が80mass%以上であることが必須であり、105℃、3時間における不揮発分が90mass%以上であることが好ましい。また、揮発分として沸点200℃以下の溶剤の含有量は、10mass%以下であることが好ましく、1mass%以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明における防錆油としては、JIS K 2246で分類される潤滑油型さび止め油等が挙げられる。また、本発明における防錆ワックスは、ワックスと各種の添加剤を溶媒に溶解又は分散させた組成物であり、このワックスとしては、一般公知のワックスにおいて溶媒を揮発性の少ないものに変更したものを用いることができる。本発明においては、このような防錆ワックスの中でも、ヨウ素価130以上の油脂類を熱重合させた重合油類から選ばれた少なくとも1種の加熱重合乾性油を組成物全体に対して5〜60重量%と、天然ワックス類及び合成ワックス類から選ばれた少なくとも1種のワックス類、及び/又は、スルフォン酸塩類、カルボン酸塩類、脂肪酸エステル類、アミン塩類、酸化パラフィン塩類、酸化ワックス塩類の中から選ばれた少なくとも1種の防錆添加剤類を組成物全体に対して1〜50重量%とを、鉱物油系潤滑油基油類、合成潤滑油基材、液状飽和炭化水素混合物、植物油系半乾性油類及び植物油系不乾性油類から選ばれた少なくとも1種の溶媒により溶解又は分散させたものであることが好ましい。
【0018】
本発明における防錆ワックスにおいては、加熱重合乾性油の配合量は、組成物全体に対して5〜60重量%の範囲であり、好ましくは、10〜20重量%である。配合量が5%未満では防錆組成物の皮膜に充分な乾燥性が得られず、不乾性の皮膜となり好ましくない。一方、この配合量が60%を超えると防錆組成物の粘度が高くなり過ぎて作業性が悪く、均一塗布が困難である。
【0019】
上記のヨウ素価130以上の油脂類を熱により重合させた重合油としては、具体的には、アマニ油、エノ油、桐油、麻実油、サフラワー油、オイチシカ油、イワシ油、ニシン油、ひまし油を脱水反応で共役酸にした脱水ひまし油、合成乾性油等の加熱重合油が挙げられる。また、上記の天然ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油等の植物油系ワックスや、みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックスや、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物油系ワックスや、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油ワックスが挙げられる。さらに、上記の合成ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等の変性ワックス、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体等の水素化ワックス、12−ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸アミド等の酸アミド、無水フタル酸イミド等のエステル、また塩素化炭化水素、及びこれらを配合してなる配合ワックス、等が挙げられる。
【0020】
これらのワックス類は単体もしくは混合して配合することができるが、使用するワックスの融点は60℃以上130℃未満が好ましく、80〜100℃がより好ましい。この融点が60℃より低いと、車体内面に塗布した場合、乾燥前に夏期の高温にさらされると溶解してタレが発生してしまう。一方、この融点が130℃より高いと組成物の製造時に高温が必要となり実用性に劣る。具体的には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、ポリエチレンワックス、各種変性ワックスを単体もしくは混合して配合するのが好ましい。さらに好ましくは、マイクロクリスタリンワックスを単体もしくは混合して配合するのが好ましい。
【0021】
また、本発明における防錆ワックスにおいては、スルフォン酸塩類、カルボン酸塩類、脂肪酸エステル類、アミン塩類、酸化パラフィン塩類、酸化ワックス塩類から選ばれた防錆添加剤を上記ワックス類とともに使用してもよい。防錆添加剤の中には予め有機溶剤で希釈した添加剤もあるが、本発明に配合する防錆添加剤は揮発成分ができるだけ少ないものが好ましい。具体的には、オイルカットしたスルフォン酸塩、脂肪酸エステル類、酸化パラフィン塩類が好ましい。さらに好ましくは、オイルカットしたスルフォン酸Ca塩及び脂肪酸エステル類を単体もしくは混合して配合するのが好ましい。
【0022】
本発明における防錆ワックスにおいては、ワックス類や防錆添加剤を配合することにより皮膜に撥水性を与えると同時に緻密な連続皮膜を形成することにより優れた耐食性能を得ることができる。また、ワックスの結晶化作用を利用して粘度を調整することも可能になる。本発明における防錆ワックスへのワックス類及び防錆添加剤類の配合量は、組成物全体に対して1〜50重量%であり、好ましくは、10〜30重量%である。なお、結晶性の高い物を配合する場合には比較的少ない配合量が好ましく、逆に結晶性の低い物を配合する場合には多く配合することが好ましい。この配合量が1重量%未満では充分な耐食性能が得られない。一方、この配合量が50重量%を超えると、粘度が高くなり過ぎて作業性が悪く、均一塗布が困難である。
【0023】
本発明における防錆ワックスの溶媒は、各成分を溶解又は分散させて目的に合わせた粘度に調整するためのものであり、鉱物油系潤滑油基油類、合成潤滑油基材、液状飽和炭化水素混合物、植物油系半乾性油類及び植物油系不乾性油類から選択される。具体的には、鉱物油系潤滑油基油として、パラフィン系潤滑油基油、ナフテン系潤滑油基油等が、合成潤滑油基材として、エステル系、ポリアルファオレフィン系、ポリアルキレングリコール系、ポリブテン系、アルキルジフェニールエーテル系等が、液状飽和炭化水素混合物として、流動パラフィン等が、植物油系半乾性油として、大豆油、綿実油、ナタネ油、コメ油、ゴマ油、ヒマワリ油、トウモロコシ油等が、また植物油系不乾性油として、オリーブ油、落花生油、椿油等が挙げられ、単体もしくは混合して使用することができる。
【0024】
植物油系半乾性油類及び植物油系不乾性油類の溶媒は分子中に二重結合を多く含むことから、長期の安定性を考えた場合には、鉱物油系潤滑油基類、合成潤滑油基材又は液状飽和炭化水素混合物が好ましい。また、本発明においては揮発性の少ないものが好ましく、具体的には105℃、3時間における揮発量が5重量%以下のものが好ましく、さらに105℃、3時間における揮発量が1重量%以下のものがより好ましい。
【0025】
さらに、本発明における防錆ワックスには、要求品質を満足する範囲内で、皮膜硬さを調整したり、チキソトロピイー性を持たせてタレ性を改善する目的で、顔料やフィラー類を配合することもできる。配合する顔料としては、弁柄、亜鉛末、リン酸亜鉛等が挙げられるが、その他従来公知の各種顔料を使用することもできる。また、フィラーとしては、炭酸カルシウム類、カオリンクレー類、タルク類、マイカ類、ベントナイト類、その他従来公知の各種体質顔料が挙げられる。さらに、必要に応じて、カーボンブラック、酸化チタン等の着色顔料を適当量添加して任意の色に着色することが可能である。
【0026】
また、本発明における防錆ワックスには、乾燥速度を向上及び調整する目的で硬化促進剤や、表面硬化を防止する目的で皮張り防止剤を添加して使用することもできる。硬化促進剤としては、ナフテン酸コバルトやナフテン酸マンガン、その他従来公知の各種添加剤が挙げられる。また、皮張り防止剤としては、ブチル化ヒドロキシトルエン、その他従来公知の各種添加剤が挙げられる。また、本発明における防錆ワックスには、酸化重合による硬化反応時に発生する臭気を低減及び抑制する目的で脱臭剤や吸着剤を添加して使用することもできる。脱臭剤及び吸着剤としては、チモールや酵素化合物、その他従来公知の各種添加剤が挙げられる。
【0027】
本発明の防錆組成物は、エアレススプレー、エアースプレー、等の従来公知の塗装機によるスプレー塗布、シャワー状態での流し塗り、刷毛等により、車体の床裏、車体の足回り部品、袋構造部、板合わせ部等に塗布後、紫外線を照射することにより、優れた性能の防錆皮膜を得ることができる。本発明の防錆組成物に照射する紫外線としては、高圧水銀ランプによるものが挙げられる。具体的には、波長長さ254nm及び365nmの一般的な紫外線照射装置が挙げられる。照射出力、照射時間及び照射距離は用途に応じ選択し最も効率の良い方法を選択することが好ましい。その他公知の紫外線照射装置を使用することもできる。
【実施例】
【0028】
次に、具体的な実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
1.防錆組成物の調製
<実施例1>
表1に示す配合の原料を混合した後、加熱溶解した。次いで、これを攪拌機でよく攪拌した後、冷却し、本発明の実施例1の防錆組成物を調製した。なお、表1及び2において、紫外線硬化樹脂のモノマーは市販のトリメチロールプロパントリアクリレートのエチレンオキサイド付加物を、オリゴマーは市販ウレタンアクリレート樹脂を、防錆油1はパーカー興産(株)社製のNOX−RUST 550HN(商品名)を、防錆ワックス1はパーカー興産(株)社製のNOX−RUST HS−700(商品名)の溶剤を潤滑油に変更したものを、防錆ワックス2は重合脱水ひまし油10重量%、マイクロクリスタリンワックス10重量%、スルフォン酸カルシウム10重量%、流動パラフィン62.9重量%、炭酸カルシウム5重量%、ベントナイト1重量%、ナフテン酸コバルト0.1重量%及びチモール1重量%を混合したものを使用した。
【0029】
<実施例2〜14及び比較例1〜9>
原料の配合を表1及び2に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして、本発明の実施例2〜14の防錆組成物及び比較例1〜9の防錆組成物を調製した。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
<比較例10〜12>
従来の防錆ワックスであるパーカー興産(株)社製のNOX−RUST HS−700(商品名)を比較例10の防錆組成物として用いた。また、従来の高固形分防錆ワックスであるパーカー興産(株)社製のNOX−RUST 117(商品名)を比較例11の錆組成物として用いた。さらに、比較例10のNOX−RUST HS−700(商品名)の溶剤を潤滑油に変更したものを比較例12の防錆組成物として用いた。
【0033】
2.評価試験
上記のようにして調製した各実施例及び比較例の防錆組成物について以下に示す方法で試験を行い、性能を評価した。これらの評価結果は表3及び4に示した。
【0034】
(1)防錆性能(塩水噴霧試験)
溶剤で油分を除去し、乾燥させた70×150×0.8mmの冷延鋼板(JISG3141SPCC−SD)上に、バーコーターを用いて各実施例及び比較例の防錆組成物を30μmの膜厚に塗布し、直ちに出力80Wの高圧水銀ランプにより365nm波長の紫外線を380mj/cm照射した後、常温で1週間乾燥後、360時間の塩水噴霧試験を行った。この試験において、各鋼板の外観を観察してサビ発生までの時間を測定し、サビ発生時間が240時間以上のものを◎、120〜240時間のものを○、48〜119時間のものを△、48時間以下のものを×として防錆性能を評価した。
【0035】
(2)乾燥後の皮膜状態
溶剤で油分を除去し、乾燥させた70×150×0.8mmの冷延鋼板(JISG3141SPCC−SD)上に、バーコーターを用いて各実施例及び比較例の防錆組成物を30μmの膜厚に塗布し、直ちに出力80Wの高圧水銀ランプにより365nm波長の紫外線を380mj/cm照射した後、常温で1日乾燥後、指で皮膜を触れて皮膜のベタ付き及び皮膜硬さについて評価した。評価基準としては、ベタ付きについて、ベタ付きのないものを○、ややベタ付くものを△、ベタ付きが多く指に付着するものを×とし、また、硬さについて、皮膜が軟質膜で良好な柔軟性を有するものを○、皮膜が硬質膜で硬過ぎるもの又は軟質膜で軟らか過ぎるものを×とした。
【0036】
(3)流動性
溶剤で油分を除去し、乾燥させた70×150×0.8mmの冷延鋼板(JISG3141SPCC−SD)を水平にセットし、スポイドを用いて各実施例及び比較例の防錆組成物を0.2ml滴下後、直ちに出力80Wの高圧水銀ランプにより365nm波長の紫外線を380mj/cm照射した後、直ちに60度の角度に立てかけ流れ落ちるタレ長さを測定し、タレのないものを○、10mm以下のものを△、11mm以上のものを×として流動性を評価した。
【0037】
(4)膜厚保持性
溶剤で油分を除去し、乾燥させた70×150×0.8mmの冷延鋼板(JISG3141SPCC−SD)上に、バーコーターを用いて各実施例及び比較例の防錆組成物を200μmの膜厚に塗布し、直ちに出力80Wの高圧水銀ランプにより365nm波長の紫外線を380mj/cm照射した後、直ちに垂直状態で1時間放置後の膜厚を測定し、タレ落ちがなく180μm以上のものを○、タレ落ちがあり180μm未満のものを×として、膜厚保持性を評価した。
【0038】
(5)不揮発分
JIS K5407の4.塗料成分試験方法における加熱残分の試験方法に従って、各実施例及び比較例の防錆組成物の不揮発分を測定し、加熱残分が95%以上のものを○、80%以上のものを△、79%以下のものを×として、不揮発分を評価した。
【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
表3及び表4に示すように、本発明の実施例1〜14の防錆組成物については、全ての項目において実用上問題がなく優れた性能が示され、これらの中でも特に実施例7〜9の防錆組成物については、全ての項目において○以上の評価が得られ、環境対応型防錆ワックス組成物として、きわめて有効であることが示された。これに対し、紫外線硬化樹脂の配合量が少な過ぎる比較例1〜4及び紫外線硬化樹脂が無添加の比較例12では、乾操後の皮膜のべた付き、流動性、膜厚保持性が劣り、一方、多すぎる比較例5〜9は、防錆性能、乾操後の皮膜硬さに問題があった。
【0042】
さらに、本発明の防錆組成物は、従来の有機溶剤を含有する防錆ワックスである比較例10及び11と同様に長期の防錆が可能であり、しかも、従来と同じ方法で使用ができるにもかかわらず、揮発する有機溶剤分が少なく、地球温暖化対策に効果がある優れた環境対応型防錆組成物であることが示された。また、本発明においては、紫外線硬化樹脂の配合量を異ならせることにより特色のある防錆組成物を調合することが可能であることも示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
105℃、3時間における不揮発分が80mass%以上の防錆油及び/又は防錆ワックスの組成物全体に対して、0.3〜10重量%の紫外線硬化樹脂と必要量の光重合開始剤とを溶解又は分散させたことを特徴とする防錆組成物。
【請求項2】
前記105℃、3時間における不揮発分が90mass%以上であることを特徴とする請求項1に記載の防錆組成物。
【請求項3】
揮発分として沸点200℃以下の溶剤の含有量が10mass%以下であることを特徴とする請求項1に記載の防錆組成物。
【請求項4】
揮発分として沸点200℃以下の溶剤の含有量が1mass%以下であることを特徴とする請求項1に記載の防錆組成物。
【請求項5】
前記防錆ワックスが、
ヨウ素価130以上の油脂類を熱重合させた重合油類から選ばれた少なくとも1種の加熱重合乾性油を組成物全体に対して5〜60重量%と、
天然ワックス類及び合成ワックス類から選ばれた少なくとも1種のワックス類、及び/又は、スルフォン酸塩類、カルボン酸塩類、脂肪酸エステル類、アミン塩類、酸化パラフィン塩類、酸化ワックス塩類の中から選ばれた少なくとも1種の防錆添加剤類を組成物全体に対して1〜50重量%とを、
鉱物油系潤滑油基油類、合成潤滑油基材、液状飽和炭化水素混合物、植物油系半乾性油類及び植物油系不乾性油類から選ばれた少なくとも1種の溶媒により溶解又は分散させたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の防錆組成物。


【公開番号】特開2006−70295(P2006−70295A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252240(P2004−252240)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(592152679)パーカー興産株式会社 (5)
【Fターム(参考)】