説明

防音パネル内での多孔質不織スクリムの使用

建築用防音パネルとその製造方法が開示されている。パネルの実施形態には、多孔質不織スクリムと、スクリム上に被着されたコーティングと、ベースマットと、ベースマットまたはスクリムのいずれかの上に液滴状などの離散的形態で被着された接着剤とが含まれる。製造方法の実施形態には、ベースマットに穿孔するステップと、離散的形態でベースマットに対し接着剤を塗布するステップと、ベースマット上にスクリムを積層するステップと、コーティングをスクリム表面に塗布するステップとが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年12月22日出願の米国仮特許出願第61/289,140号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、建築業界において使用される防音パネルに関する。
【背景技術】
【0003】
防音パネル、タイルまたは壁は、建築用製品のカテゴリに入り、建築的価値、音響吸収度および減衰および/または実用的機能を建物の内部に付与する。一般に防音パネルは、事務所ビル、デパート、病院、ホテル、ホール、空港、レストラン、図書館、教室、劇場、映画館および一部の住居ビルなどの騒音制御を必要とする公共区域内で使用される。
【0004】
防音パネルは、建物内の騒音を制御する上で効果的であるように一定レベルの吸音力を示さなくてはならない。吸音力は典型的に騒音減少率(NRC)によって測定される。NRCを測定する詳細な方法は、ASTMC423で概略的に示されている。NRCは、防音パネルが吸収する音の百分率を表わす0〜1.00の間の数によって表わされる。例えば、0.60のNRC値を有する防音パネルは、音の60%を吸収し40%を偏向させる。吸音特性を試験するための別の方法は、推定NRC(eNRC)であり、これは、ASTMC384の中で詳述されている通り、インピーダンス管を介し、より小さい試料サイズを用いて測定される。推定NRCは、250、500、1000および1600Hzの周波数で得られる平均垂直入射吸音率を獲得しそれに1.6を乗じることによって計算される。
【0005】
建築業界において、騒音を制御する上で非常に効果の高いパネル製品は高いNRCを有すると言われている。高NRCパネルは、オープンスペースの内部で十分な量の残響をうまく低減する。したがって、大きな部屋または他のオープンスペースを有するように設計されている建物内では、高NRCパネルを使用することが望ましい。
【0006】
防音パネルおよび関連する試験方法のいくつかの特徴には、工業規格および建築基準法が適用される。防音パネルの1つの重要な要件は、湿気のある環境内で実質的に剛性であるかまたは、たわみの無い状態にとどまる能力にある。さまざまな湿気曝露条件下でのパネル製品のたわみを決定するための標準的試験が、ASTMC367中に記載されている。簡単に言うと、2ft×4ftのサイズを有する天井パネルが、当該技術分野において公知の通りのテストフレーム内に取付けられる。次にこれを104°Fおよび相対湿度95%の気候に12時間、その後続いて70°Fおよび相対湿度50%の気候にさらに12時間曝露させる。このようなサイクルを3回反復する。3回目のサイクルの終了時に、水分により誘発された全たわみが、テストフレームにより静止状態に保持されている縁部と比べてパネルの中心が下向きにたわむインチ単位の距離として記録される。記録された距離は、防音パネルのたわみ性能を表わす。
【0007】
現在、大部分の防音パネルまたはタイルが、繊維、充填剤および結合剤を含む水性スラリーから作られている。これらのパネルの製造は主として、水−フェルト化プロセスに基づくものである。水−フェルト化プロセスにおいて、ベースマットは、製紙に類似した方法で形成される。このプロセスについては、例えば米国特許第5,911,818号明細書中に記載されている。簡単に言うと、長網抄紙機タイプのマット形成機の小孔のある移動ワイヤーの上に、ミネラルウールおよび軽量凝集物の希薄水性分散を含むスラリーが送出される。スラリーから重力によって水がドレンされ、その後任意に真空吸引およびプレス加工を用いて脱水される。このような脱水済み湿潤ベースマットは、加熱した対流オーブンまたはキルン内で乾燥されて、残留水分が除去される。乾燥したベースマットはさらに仕上げ作業に付され、エンドユーザーにとって許容可能なサイズ、外観および音響特性を有するパネルを形成する。これらの仕上げ作業には典型的に、表面研削、切断、穿孔/溝付け、ロールがけ/スプレーコーティングおよび端部切断が含まれる。その速度および効率に起因して、水−フェルト化方法は、現在一般に好まれている製造方法である。
【0008】
防音パネルの典型的ベースマットは、無機繊維、セルロース繊維、充填剤および結合剤を含む。業界で周知の通り、無機繊維は、ミネラルウール(スラグウール、ロックウール、ストーンウールと互換性あり)またはグラスファイバーのいずれかである。これらの無機繊維は堅く、ベースマットに嵩および多孔性を提供するために使用される。一方、紙繊維などのセルロース繊維は、構造要素として使用され、ベースマットに湿潤強度と乾燥強度の両方を提供するのを助ける。強度は、親水性セルロース繊維とベースマット内のさまざまな成分間での無数の水素結合の形成に起因するものと考えられている。
【0009】
使用される典型的なベースマット結合剤はデンプンである。通常、ベースマット内で使用されるデンプンは、水中で均一に分散してスラリーを形成する未変性、未糊化のデンプン顆粒である。ひとたび加熱されると、デンプン顆粒は、「糊化」して、他のベースマット成分を結合させる。デンプンは、典型的に、破壊係数(MOR)として測定される曲げ強度のために必要とされる。デンプンは同様に、典型的にパネルに硬度と剛性を付与するためにも必要である。
【0010】
一部のパネル配合においては、高濃度の無機繊維が所望される。このような配合においては、主要な結合用作用物質としてラテックス結合剤が使用される。無機ベースマット充填剤は、軽量および重量無機材料の両方を含むことができる。重量充填剤の一部の例としては炭酸カルシウム、粘土および石膏がある。軽量充填剤の例としては膨張パーライトがある。充填剤の主要な機能は、曲げ強度および硬度を提供することにあるが、選択された充填剤材料に応じて、他の機能も可能である。本開示で使用される通り、充填剤は、製品に対し質量、強度、硬度または嵩を単に提供する以上の特性を付与するものと理解される。
【0011】
典型的な防音パネルベースマットにおいて使用される親水性材料(例えばセルロース繊維またはデンプンなど)の量が多いことから、仕上ったパネルは環境内の湿度変化の影響を受けやすい。環境内の湿度レベルが上昇すると、パネル内の親水性構成要素は、周囲の空気から水分を吸収する。吸収された水分子は、マット内のセルロース繊維、デンプン、ミネラルウール、充填剤および他の材料の間に存在する水素結合を解放し破壊する。結果として得られる水素結合の数の減少は、内部強度を低減する結果となる。そのため、パネルは自重下でたわみ始める。パネルは、その使用寿命中に高湿度と低湿度のサイクルを多数経験し、各サイクルは追加のたわみを発生させる。温度上昇は、たわみプロセスを加速させる。
【0012】
たわみが蓄積すると最終的に、視覚的外観は好ましくないものとなり、それが部屋の美的魅力を低下させる。その結果、消費者は定期的に、たるんだパネルを交換しなければならない。したがって、環境内の湿度変化に耐えることができかつ極めて湿度の高い環境でさえ目に見えるたわみを示さない防音パネルが所望されると考えられる。
【0013】
現在、建築用製品の市場において、(当該技術分野において、なかでもフェーシング、フェーサー、ベールおよびティッシューといった用語でも公知である)積層不織スクリムを有する防音パネルは、通常、グラスファイバーまたはミネラルウールで作られたベースマットを含んでいる。積層グラスファイバーパネルの一例としては、USG Interiors,Inc.of Chicago,Illinois,United States of America(USG)製のHalcyon(商標)ブランドのパネルがある。積層ミネラルウールパネルの一例としては、同じくUSG製のMars(商標)ブランドのパネルがある。これらの両方のタイプの防音パネルのベースマットは、場合によって、熱硬化性結合剤またはラテックスでグラスファイバーまたはミネラルウールを結合させることによって形成される。
【0014】
これらのベースマットの80重量%超がグラスファイバーかミネラルウールのいずれかであり、これらの無機繊維は比較的湿度の影響を受けにくい。すなわち、このような繊維は、親水性ではなく、したがって空気からさほどの量の水または水分を吸収しない。さらに、これらのベースマット内では構成要素として尿素−ホルムアルデヒドまたはフェノール−ホルムアルデヒドなどの熱硬化性結合剤およびアクリルスチレンなどのラテックス結合剤が典型的に使用され、このような構成要素は耐湿性である。上述の繊維および結合剤は、ベースマット内で合わせて使用される場合、たわみ抵抗の観点からみて優れた性能特性を付与する。
【0015】
グラスファイバーまたはミネラルウールパネルを製造する場合、通常スクリムがパネルに貼付されて、顧客に対するその美的魅力を増強させる。多くの所望の防音パネルが高い光反射率値(LRV)を伴う平滑な表面を有する。無機顔料において公知の通り、光反射率値は単純に、試験対象表面が反射す光の百分率である。例えば、上に輝く光の85%を反射する防音パネルは、85というLRVを有する。典型的に、所望の防音パネルは、約85以上のLRVを有する。
【0016】
スクリムをパネル上に積層した後、スクリムは典型的に、上に噴霧された装飾的コーティングを有し、輝度または全体的光反射率を増大させている。コーティングは水性であっても非水性であってもよい。特定のLRVに達するのに必要とされるコーティングの量を低減するため、防音パネルを生産する上で使用されるスクリムは、比較的高い比通気抵抗を有し、実質的量の顔料を含んでいる。コーティングを使用することで、光反射率および美的魅力は増大するが、積層パネルによる音響吸収の有意な損失が結果としてもたらされることがある。これは、なかでも、コーティングがパネル内の細孔を遮断し、音を分散させ得るパネル内に音が進入できるようにするよりもむしろ音を反射するように作用する可能性があるという理由によるものである。音響吸収の損失の程度を低減できることが望ましいと考えられる。
【0017】
スクリムを伴う防音パネルの別の所望される特性は、スクリムが剥落しないかあるいはパネルのベースマットから剥離した状態にならないということにある。スクリムが基板に付着している程度を測定するために、ASTMD903に準じて剥離強度が決定される。本開示において、剥離強度は修正されたASTMD903手順を用いて試験される。主要な修正点は、スクリムが180°の角度ではなく45°の角度で基板から分離され、試料サイズが1インチ×12インチではなく4インチ×6インチであるということにある。修正版の試料は、6インチの方向で剥離される。
【0018】
所望のスクリムが有すべき別の重要な特性は、十分な引張り強度である。不織スクリムの引張り強度は、試験対象のスクリムの2インチの条片を含む試料について、ASTMD828に準じて測定される。しかしながらスクリムの最も重要な属性は、その通気抵抗である。通気抵抗は、多孔性の一尺度である。スクリムの多孔性は、ベースマットが吸音を行うために絶対不可欠である。これは、多孔質スクリムが、スクリムを伴う天井パネルの設置されている部屋の中に音を反射させる代わりに、このスクリム内を音が通過できるようにするからである。
【0019】
本開示において、さまざまなスクリムの比通気抵抗は、ASTMC522「音響材料の通気抵抗の標準試験方法(Standard Test Method for Airflow Resistance of Acoustical Materials)」のバリエーションを用いて決定された。図1に示されているように、スクリムを保持するための試験装置に対しわずかな修正が加えられた。
【0020】
図1に示されているように、試験対象のスクリムは、試験装置内の2つの独立気泡フォームまたは固形ゴムガスケットの間に挟持されている。ガスケットは、スクリムを挟持し拘束するための機構を提供すると同時に、スクリムの周囲および試験装置内部の空気漏洩を防止する。ひとたびスクリムがガスケット間の所定の位置に挟持されたならば、公知の流速でスクリム内に空気が通され、この流速は標準エアフローメータを用いて決定される。ASTMC522中に規定されている通り乱気流を回避するように50mm/秒を下回る空気流速が用いられる。スクリムの背後の空気(すなわち背圧)と大気の差圧が次に、所与の流速で記録される。差圧(P)、空気流速(U)および空気流に曝露されるスクリムの断面積(S)は、ASTMC522に概略的に記されている等式、すなわちr=SP/Uによりスクラムの比通気抵抗(r)を計算するために使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
セルロース繊維およびデンプンなどの親水性構成要素の存在に起因して、多くの防音パネルが、湿潤環境内で低いたわみ抵抗を示す。本発明の実施形態においては、積層防音パネルを作るために通気抵抗が低く多孔性の高いスクリムを使用して、パネルの湿度たわみ性能を改善し、接着剤およびコーティングされたスクリムによってひき起こされる吸音損失を低減させる。
【0022】
本発明の実施形態の基本的前提は、縁部で格子に懸吊された場合にパネルの下部表面が張力を受けるということである。下部表面に剛性スクリムまたはベールまたはフェーシングを貼付することにより、パネルは張力に耐え、下向きのたわみに抵抗することができると考えられる。しかしながら、スクリムがたわみ性能を補助できるか否かの決定的要因は、スクリムとベースマットの間のボンディングにある。ボンディングが弱いスクリムは、スクリムとそれが貼付されているベースマットの間の相対的運動を制限することができない。水平方向でのわずかな相対的運動でさえも、パネルが垂直方向に有意な運動すなわちたわみを起こすことができるようにし得ると考えられる。したがって、問題の鍵は、ベースマットにスクリムをしっかりとボンドし、スクリムとベースマットの間の相対的運動を制限し、スクリムと積層パネルを一体化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の実施形態によると、スクリムは第一に接着剤の離散層を通してベースマットに付着される。接着剤は、離散的形態をとっていなくてはならないが、これは、連続膜ではベースマット内の穿孔がふさがれて、吸音を可能にする空気の通過を封止すると考えられるからである。しかしながら接着剤の離散層は、水平方向でのスクリムとベースマットの間の相対的運動を完全に制限するのに十分ではない。さらに、多くの糊および接着剤が粘弾性を有し、ボンドを伸縮自在にする。これらの理由から、糊および接着剤の選択は重要な考慮事項である。スクリムが貼付された後、次にパネルはその表面に噴霧されるコーティングまたは塗料で仕上げされる。
【0024】
スクリムの多孔性は、スクリムをベースマットにボンドするための重要な役割を果たす。多孔質スクリムは、低い比通気抵抗を有し、このためコーティングをスクリムを通してベースマット上に浸透させるか管作用により運ぶことができる。ひとたび乾燥されると、これらのコーティングは、ベースマットとスクリムの間にさらなるボンディングを提供する。コーティングは無機顔料を大量に含むことから、コーティングにより提供されるボンディングは比較的剛性が高いものである。こうして、ボンディングは、スクリムとベースマットの間の相対的運動を制限し、スクリムを積層された天井パネルと完全に一体化することができる。一方で、高密度スクリムは、大部分のコーティングまたは塗料をその表面上に保持する。表面上のコーティングはベースマットとスクリムの間のボンディングに寄与できない。高密度スクリムを伴う積層パネルは、ボンディングを提供するために唯一接着剤のみに依存している。このようなパネルは、スクリム無しのベースマットと類似のたわみ性能を有する。
【0025】
本発明の実施形態によると、多孔質グラスファイバースクリムは、積層およびコーティング後にスクリム剥離強度の40〜400%の増加を提供する。結果として得られる積層防音パネルは、湿度チャンバ内において75°F/相対湿度(RH)50%〜104°F/95%RHの間で交番するサイクルを3回行った後、(幅2ft、長さ4ftのパネルについて)0.3インチ未満の合計水分誘発型たわみを有すると考えられる。
【0026】
本発明の実施形態によると、低い比通気抵抗と高い多孔性を有するスクリムの使用によって、糊/接着剤およびコーティング/塗料によりひき起こされる音響吸収度の損失を低減させる。積層防音パネルは少なくとも0.45のeNRCと少なくとも0.5のNRCを有する。
【0027】
本発明の実施形態の特徴および利点は、本発明の詳細な説明と併せて添付図面を参照することにより明らかになる。図面中の寸法は、例示を目的としたものであり、実施形態の物理的寸法を限定するものとして解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本明細書中で記述されているスクリム比通気抵抗試験のセットアップの概略図である。
【図2】ベースマットまたは基板100、接着剤の離散層110、多孔質スクリムまたはベールまたはフェーシングまたはフェーサー120、ならびに表面コーティングまたは塗料130を含む、積層防音パネルのアセンブリを表わす。
【図3】ベースマット内の穿孔140が示されている、仕上げされた防音天井タイル片の断面図を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書中で記述されている方法および製品は、建築材料として使用される防音パネルに適用するように意図されている。より具体的には、パネルは、防音天井または壁のパネルまたはタイルとして使用可能である。本発明の詳細な説明は、本発明の一実施形態であり、いかなる形であれ本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。
【0030】
本発明の実施形態によると、ベースマットまたは基板は、当該技術分野において公知の方法を用いて繊維、充填剤および結合剤の混合物を含む液体スラリーから作られる。繊維はミネラルウールとセルロース繊維を含み;充填剤は膨張パーライト、炭酸カルシウムまたは粘土を含み;結合剤はデンプン顆粒を含む。
【0031】
当該技術分野において公知の通り、上述の成分を含む均質スラリーは油圧ポンプを用いてバットからヘッドボックスまで輸送され、このヘッドボックスは、安定した一定のスラリー流がマット形成機に供給されるように高い位置に設置されている。スラリーは次に移動する小孔付きワイヤー上に被着されて湿潤なベースマットを形成する。水はワイヤーから重力によりドレンされる。次に、湿潤ベースマットを担持するワイヤーの下に低い真空圧を加える(約1〜約5インチHgの割合で真空化する)ことによって、追加の水が除去される。ベースマットは、2本のロールの間でマットをプレスすることによりさらに脱水してもよい。任意には、マットを担持するワイヤーの下に比較的高い真空を加える(約8〜約20インチHgの割合で真空化する)ことによって、さらに多くの水を除去することができる。湿潤ベースマット内の残留水分は、オーブンまたはキルン内で蒸発させられる。
【0032】
その後、形成されたベースマットはさまざまなサイズに細断される。ベースマットの表面は、比較的平滑に研削され、その後任意に表面に下塗りが施される。下塗りの目的は、糊がより容易に接着できる優れたベースを提供することそしてマットの光反射率を増大させることにある。
【0033】
その後、ベースマットにパンチングと溝付けを行い所望の音響吸収率を達成する。パンチング作業は、制御された深さ、サイズおよび密度(単位面積あたりの穿孔数)でマットの表面上に多数の穿孔を提供する。当該技術分野において公知の通り、パンチング作業は、ベースマット上に既定の数の針を備えたプレートをプレスすることによって実施される。溝を付けることで、ベースマットの表面上に独特の形状の欠刻が付与される。溝付け作業は、上に相補的な特徴またはパターンが置かれる周囲を有するロール装置を用いて実施される。パンチングおよび溝付けの両方共、ベースマットの平坦な表面および内部構造に開口を作り、こうして空気波および音波がベースマット構造の内外に移動できるようにする。
【0034】
プロセス中の次のステップは、ベースマット上に接着剤を被着させることである。接着剤は、ベースマット上に噴霧するかまたはグラビアロールでコーティングすることができる。ベースマット上の接着剤は、例えば液滴の形などの離散的形態または穿孔形態にして、接着剤膜の連続的で穿孔の無いシートがマット上に形成されないようにしなければならない。ベースマット上の接着剤の連続膜は、上述の通り、所望されない。接着剤の量は、ベースマットに対する十分なボンディングを提供する一方で、音響吸収度に対するその影響を低減させるように最適化されなければならない。たとえ最適な量の接着剤が離散的に被着された場合でも、eNRCまたはNRCの0.02〜0.07の損失が予想される。本発明の実施形態によると、ベースマットに塗布される接着剤の(水または溶剤を含む)総量は、約0.5〜約8グラム/ftの範囲内、好ましくは約1〜約4グラム/ftの範囲内である。
【0035】
あるいは、積層の前にベースマット上にではなく、グラスファイバースクリムなどの不織スクラムに対して接着剤を塗布することもできる。使用される接着剤の量およびそれをスクリム上に被着させる方法は、ベースマットについて記述された方法と類似している。接着剤の塗布後、ベースマット上に不織多孔質グラスファイバースクリムを積層させる。
【0036】
積層の目的は、湿潤環境内でのたわみ性能を改善し、高密度スクリムによってひき起こされるNRCおよびeNRCの損失を低減することにある。先に言及した通りスクリムの比通気抵抗は、積層防音パネルの特性に有意な影響を及ぼす。一般に、通気抵抗は、坪量、繊維粗度およびスクリム内に適用される結合剤および充填剤の量によって左右される。スクリムは、細かいガラス繊維で構成されかつ比較的大量の結合剤を含む場合、高密度となり高い比通気抵抗を有し;粗ガラス繊維で構成されかつ比較的少量の結合剤を含む場合には、スクリムは多孔質となり低い比通気抵抗を有する。
【0037】
本発明の実施形態によると、高い剥離強度、高いたわみ強度および低い音響吸収度損失を有する積層防音パネルを提供するために、多孔性の高いスクリムが必要とされる。経験に反するように思われるものの、スクリム自体、単独では、音響吸収に有意な影響を及ぼさない。実際、任意の無塗布スクリムをベースマットに貼付すると、eNRCはわずかに増加すると考えられる。ただし、糊およびコーティングの塗布は、音響吸収を著しく低減させると思われるが、低減の程度は、異なるスクリムによって変動する。比較的多孔質のスクリム(約10〜約25レイリー[Pa・s/m]の比通気抵抗)の場合、糊およびコーティングに起因するeNRCまたはNRCの平均損失は約0.03〜0.06である。一方、比較的高密度のスクリム(約25〜約100レイリーの比通気抵抗)の場合、糊およびコーティングに起因するeNRCまたはNRCの平均損失は約0.05〜0.10である。音響吸収度の損失を最小限におさえるためには、比通気抵抗が約25レイリー未満であるスクリムが所望される。
【0038】
多孔質スクリム上へのコーティングまたは塗料の塗布によりスクリム剥離強度を著しく改善することができる。剥離強度の増加は、約40〜約400%の範囲である。しかしながら、この増加は、スクリムの多孔性により左右される。スクリムの比通気抵抗が35レイリーより高い場合、剥離強度の改善はほとんどまたは全く存在しない。透過光線を通した剥離スクリムの写真を検討することにより、高密度スクリムではその表面上に大量のコーティングが保持されていることが明らかになる。一方、粗繊維で作られた多孔質スクリムがその表面上に保持するコーティングの量ははるかに少ない。大量のコーティングがベースマット上に被着するかまたはベースマット内に毛管作用により運ばれる。ひとたびベースマット内に送られると、コーティングは、ベースマットにスクリムをボンドしてスクリム剥離強度を改善するための封止剤として作用する。細かい繊維で作られた高密度スクリムの場合、コーティングは、さほど大きくスクリム表面に浸透せず、したがって剥離強度の改善には寄与できない。本発明の実施形態によると、コーティングによる剥離強度の有意な改善を発生させるために、30レイリー未満の比通気抵抗を有するスクリムがベースマット上に積層される。
【0039】
ベースマット上にグラスファイバーなどの材料で作られた剛性スクリムを積層することによりたわみ抵抗を改善するための基本的な原理は、たるんでいる間パネルの面が張力を受けていること、そして剛性スクリムがこの張力に耐えてたわみを制限できると考えられること、である。しかしながら、本発明の一部の実施形態における実験を通して予想外に明らかにされたように、スクリムがベースマットに対して実際にボンドされている程度は、積層防音パネルの湿度たわみ性能に対し直接影響を及ぼす。意外にも、実際に、スクリムの不透過性の結果としてコーティングが剥離強度にもはや寄与しなくなるまで、積層パネルの剥離強度と湿度たわみの間には逆線形関係が存在する。
【0040】
コーティングが全く存在しないかまたは多孔性が低いためにコーティングの大部分がスクリムの表面上にある場合、スクリムとベースマットの間のボンディングは唯一接着剤のみに依存せざるを得ない。ただし、塗布可能な接着剤の量は、ベースマット内の穿孔の詰まりを防止するために制限される。さらに、大部分の接着剤は粘弾性を有し、ボンディングを伸縮自在にしている。したがって、糊単独では、たわみを起こす間のスクリムとベースマット間の相対的運動を制限することができない。スクリムとベースマットの間のわずかな相対的運動でさえ、パネルの平面からの有意な垂直運動、すなわちたわみを結果としてもたらすと考えられる。
【0041】
コーティングが多孔質スクリム内に浸透すると、スクリムとベースマットの間に追加のボンディングが形成される。コーティングまたは塗料は、糊に比べて多い量の顔料を含む。コーティング/塗料が提供するボンディングは剛性である。したがってボンディングは、スクリムとベースマットの間の相対的運動を制限し、スクリムと積層天井パネルを一体化することができる。堅固にボンドされたスクリムは、積層パネルの湿度たわみ性能を改善できる。湿度たわみの量が少ないことが強く所望されることから、多孔質スクリムの使用により、積層防音パネルに有意な利点が加わると考えられる。
【0042】
75°F/50%RHと104°/95%RHの間で交番する湿度チャンバ内での3回のサイクルの後(幅2ft×長さ4ftのパネルについて)合計たわみ運動を0.3インチ未満とするためには、スクリムは、いずれの方向にであれ30レイリー未満の比通気抵抗そして幅2インチあたり少なくとも10lbfの引張り強度を有していなくてはならない。
【0043】
本明細書中で請求されている低い比通気抵抗と高い多孔性を有するスクリムの新規使用は、接着剤およびコーティングによってひき起こされる音響吸収度損失を低減させると考えられる。積層防音パネルは、少なくとも約0.45のeNRCおよび少なくとも約0.5のNRCを有するものと考えられる。
【実施例】
【0044】
実施例1
ミネラルウール、新聞印刷用紙繊維、膨張パーライト、デンプンおよび粘土を含むベースマットを研削して、比較的平滑な表面を有するようにし、下塗りした。次に上述の通りにベースマットに穿孔し、穿孔は約0.4インチの深さを有していた。穿孔されたベースマットは0.58のeNRCを有していた。St.Paul,MNのHB Fuller製の市販の糊XR−3025を前記ベースマット上に4.5グラム/ftで噴霧した。
【0045】
グラスファイバースクリムを次に、ベースマット上に積層した。スクリムは、Owens Corning,Toledo,OHから購入した。スクリムは、41.4レイリーの比通気抵抗、127.7g/mの坪量、0.020インチ(0.5mm)の厚み、縦方向に45.7lbf/2−インチ(200N/50−mm)の引張り強度そして、幅方向に42.1lbf/2−インチ(184N/50−mm)の引張り強度を有していた。
【0046】
積層の後、表面にコーティングを噴霧した。コーティングは、総固形分含有量に基づいて、約80%の顔料と20%のラテックスを含んでいた。コーティングは、約50%の固形分含有量を有していた。コーティングを約24グラム/ftで塗布した。コーティングを塗布した後、剥離強度を、幅4インチあたり325グラムと測定した。結果として得られた積層パネルは、0.49のeNRCと0.729インチの湿度たわみを有していた。スクリム無しのパネルは、0.719インチの湿度たわみを有していた。eNRC損失は約0.09であった。
【0047】
この実施例は、比較的高密度のスクリムの場合、湿度たわみの改善が全く存在しないことそしてスクリム剥離強度が低いことを示している。eNRCは著しく減少した。
【0048】
実施例2
ミネラルウール、新聞印刷用紙繊維、膨張パーライト、デンプンおよび粘土を含むベースマットを研削して、比較的平滑な表面を有するようにし、下塗りした。次に上述の通りにベースマットに穿孔し、穿孔は約0.4インチの深さを有していた。穿孔されたベースマットは0.46のeNRCを有していた。前記ベースマット上に4.8グラム/ftで、上述の市販の糊XR−3025を噴霧した。
【0049】
次に、グラスファイバースクリムをベースマット上に積層した。スクリム(UltraMat(登録商標)の製品名で販売)は、Ennis,TXのGAF-Elk Corp.から入手した。スクリムは、15.3レイリーの比通気抵抗、76.7g/mの坪量、0.023インチ(0.58mm)の厚み、縦方向に29.8lbf/2−インチ(130N/50−mm)の引張り強度そして、幅方向に26.7lbf/2−インチ(117N/50−mm)の引張り強度を有していた。
【0050】
積層の後、表面にコーティングを噴霧した。コーティングは、総固形分含有量に基づいて、約80%の顔料と20%のラテックスを含んでいた。コーティングは、約50%の固形分含有量を有していた。コーティングを約24グラム/ftで塗布した。コーティングの前に、剥離強度を、幅4インチあたり444グラムと測定した。コーティングの後、剥離強度は、幅4インチあたり1598グラムであった。結果として得られた積層パネルは、0.076インチの湿度たわみ、0.40のeNRCおよび0.48のNRCを有していた。スクリム無しのパネルは、0.372インチの湿度たわみを有していた。
【0051】
この実施例は、比較的多孔性のスクリムの場合、コーティングが塗布された後、剥離強度が3.6倍増大し、湿度たわみが大幅に減少し、eNRCの損失が0.06まで低減したことを示している。
【0052】
実施例3
ミネラルウール、新聞印刷用紙繊維、膨張パーライト、デンプンおよび粘土を含むベースマットを研削して、比較的平滑な表面を有するようにし、下塗りした。次に上述の通りにベースマットに穿孔し、穿孔は約0.4インチの深さを有していた。穿孔されたベースマットは0.46のeNRCを有していた。
【0053】
前記ベースマット上に4.8グラム/ftで、糊XR−3025を噴霧した。次に、グラスファイバースクリムをベースマット上に積層した。スクリム(Dura−Glass(登録商標)7615の製品名で販売)は、Johns Manville Corp.,Denver,Co.から入手した。スクリムは、12.2レイリーの比通気抵抗、60.9g/mの坪量、0.018インチ(0.46mm)の厚み、縦方向に41.4lbf/2−インチ(181N/50−mm)の引張り強度そして、幅方向に35.2lbf/2−インチ(154N/50−mm)の引張り強度を有していた。
【0054】
積層の後、総固形分含有量に基づいて、約80%の顔料と20%のラテックスを含むコーティングを表面に噴霧した。コーティングは、約50%の固形分含有量を有していた。コーティングを約24グラム/ftで塗布した。
【0055】
コーティング前の剥離強度は、幅4インチあたり412グラムであった。コーティングの後、剥離強度は、幅4インチあたり1597グラムであった。結果として得られた積層パネルは、0.053インチの湿度たわみ、0.39のeNRCおよび0.47のNRCを有していた。スクリム無しのパネルは、0.372インチの湿度たわみを有していた。
【0056】
この実施例は、比較的多孔性のスクリムの場合、コーティングが塗布された後、剥離強度が3.9倍増大し、湿度たわみが大幅に減少し、eNRCの損失が0.07まで低減したことを示している。
【0057】
実施例4
ミネラルウール、新聞印刷用紙繊維、膨張パーライト、デンプンおよび粘土を含むベースマットを研削して、比較的平滑な表面を有するようにし、下塗りした。次に上述の通りにベースマットに穿孔し、穿孔は約0.4インチの深さを有していた。穿孔されたベースマットは0.46のeNRCを有していた。
【0058】
前記ベースマット上に4.8グラム/ftで、市販の糊XR−3025を噴霧した。次に、グラスファイバースクリムをベースマット上に積層した。スクリム(GFT−25の製品名で販売)は、Kotka,FinandのAhlstom Corp.から入手した。スクリムは、23.0レイリーの比通気抵抗、50.8g/mの坪量、0.013インチ(0.33mm)の厚み、縦方向に22.6lbf/2−インチ(99N/50−mm)の引張り強度そして、幅方向に15.3lbf/2−インチ(67N/50−mm)の引張り強度を有していた。積層の後、総固形分含有量に基づいて、約80%の顔料と20%のラテックスを含むコーティングを表面に噴霧した。コーティングは、約50%の固形分含有量を有していた。コーティングを約24グラム/ftで塗布した。
【0059】
コーティング前の剥離強度は、幅4インチあたり329グラムであった。コーティングの後、剥離強度は、幅4インチあたり1596グラムであった。結果として得られた積層パネルは、0.102インチの湿度たわみ、0.37のeNRCおよび0.43のNRCを有していた。スクリム無しのパネルは、0.372インチの湿度たわみを有していた。
【0060】
この実施例は、中度の多孔性スクリムの場合、コーティングが塗布された後、剥離強度が4.9倍増大し、湿度たわみが大幅に減少し、eNRCの損失が高密度スクリムからの結果と類似する0.09であったことを示している。
【0061】
下表1は、上述の実施例についての、剥離強度、比通気抵抗および湿度たわみの関係を示す比較のための試験結果を表わしている。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースマットと;
多孔質不織スクリムと;
前記スクリムの表面に塗布されるコーティングと;
前記スクリムと前記ベースマットの間に離散的形態または穿孔形態で被着された接着剤と、
を含む建築用防音パネル。
【請求項2】
前記スクリムが約100レイリー未満の比通気抵抗を有する、請求項1に記載のパネル。
【請求項3】
前記スクリム表面コーティングが、総固形分含有量に基づいて約50パーセント〜約90パーセントの無機顔料を含む、請求項1に記載のパネル。
【請求項4】
前記スクリム表面コーティングが水性であり、1平方フィートあたり約10〜約50グラムの割合で塗布される、請求項1に記載のパネル。
【請求項5】
幅4インチあたり少なくとも約400グラムのスクリム剥離強度を有する、請求項1に記載のパネル。
【請求項6】
前記ベースマットが穿孔を含み;
前記スクリムが約100レイリー未満の比通気抵抗を有し;
前記スクリムが幅2インチあたり少なくとも約10lbfの引張り強度を有し;
前記スクリム表面コーティングが、総固形分含有量に基づいて約50パーセント〜約90パーセントの無機顔料を含む、
請求項1に記載のパネル。
【請求項7】
前記ベースマットが穿孔を含み;
前記スクリムが約100レイリー未満の比通気抵抗を有する、
請求項1に記載のパネル。
【請求項8】
ベースマットと;
多孔質不織スクリムと;
前記スクリムの表面に塗布されたコーティングと;
を含む建築用防音パネルにおいて、前記スクリムが、約100レイリー未満の比通気抵抗を有し、前記スクリム表面コーティングが、総固形分含有量に基づいて約50パーセント〜約90パーセントの無機顔料を含む、建築用防音パネル。
【請求項9】
請求項1に記載の前記パネルの製造方法において、
前記ベースマットに穿孔するステップと;
前記離散的形態で前記ベースマットに対し前記接着剤を塗布するステップと;
前記ベースマット上に前記スクリムを積層するステップと;
前記コーティングを前記スクリム表面に塗布するステップと、
を含む方法。
【請求項10】
前記スクリムは、前記コーティングが前記スクリムに前記スクラムの外部表面から浸透して前記ベースマットにボンディングできるようにするために十分な多孔性を有し、前記コーティングは、前記接着剤により生成される剥離強度に比べて少なくとも40%だけ、前記ベースマットに対する前記スクラムの剥離強度を増大させる、請求項1に記載のパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−515183(P2013−515183A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546032(P2012−546032)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/060378
【国際公開番号】WO2011/087670
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(512127109)ユーエスジー・インテリアズ・エルエルシー (6)
【Fターム(参考)】