説明

防音床材

【課題】本発明では、防音性能だけでなく歩行感、耐荷重性及び耐へたり性にも優れた防音床材を、より簡便な方法により提供する。
【解決手段】防音床材の沈込み防止のために、繊度が250〜1700デシテックスの熱可塑性樹脂を原料とする繊維から形成される極太長繊維不織布を用いることにより、防音性能及び歩行感に優れ、かつこの防音床材は極めて簡便な方法により製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音性能だけでなく歩行感にも優れた防音床材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マンション等の集合住宅においては、階上から階下への騒音を防止するため、居住空間の床材として、畳、クッションドフロア、発泡樹脂タイル、カーペット、木質系フロア材等が使用されてきた。人々の生活スタイルは様々であるため、近年、床材には更なる防音性能の向上が求められている。また、自然と調和した健康的な生活を望む人々が増えており、特に木質系フロア材に対する需要が高まっている。
【0003】
生活騒音は、重衝撃音と軽衝撃音の2種類に分類される。重衝撃音の低減には、主として建築構造体の剛性や、構造体の密度を変更することが効果的であり、例えば床スラブを厚くすること等が挙げられる。一方、軽衝撃音の低減には、床表面の仕上げ状態を改善することや、衝撃音伝達を抑制できる防音床材を適宜選定することが効果的である。しかし、防音床材は、不織布や発泡ウレタン等の軟らかな素材で形成された層(防音層)を有しており、人が歩行すると、乗り物酔いのような吐き気を催したり、床の上にピアノや本棚等の重量物を長期間設置すると、床が部分的に傾いたり、防音層の沈込みが問題となっていた。
【0004】
そこで近年では、騒音伝播防止性能に優れ、且つ歩行性も良い床材が種々検討されている。例えば、合成樹脂製の不織布または発泡軟質ウレタンからなるソフト層と、上下の網状繊維編成部が多数の支持糸によって相互に連結された三次元網目構造体からなるハード層を有する防音床材や(特許文献1)、防音性能を有する不織布と、上下面間に亘って貫通する貫通孔が形成された発泡シートが積層された床構造等がある(特許文献2)。また、歩行性を向上させるために、ドット粒またはラインが積層体内(硬化層、緩衝層)、遮水層のいずれか1層に設けられている床吸音材がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−111817号公報
【特許文献2】特開2010−053559号公報
【特許文献3】特開2010−174438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、三次元網目構造体からなるハード層は非常に高価であるため経済的でない。また、貫通孔が形成された発泡シートを用いても、重みにより不織布は下に押しつぶされるため、床の沈込みを低減することはできない。さらに、ドット粒またはラインを設けるには、まず原料となる樹脂組成物をあらかじめ所望の発泡倍率、粘度が得られるまでオークミキサーで攪拌しておかねばならず、さらに発泡後の組成物を、ドクターコーター等を用いて厚さ・幅方向に均一に塗布するため製造工程が煩雑である。
【0007】
加えて、三次元網目構造体からなるハード層は、厚さ方向に耐荷重性が低いことが指摘されており(特許文献1の段落0019)、また貫通孔が形成された発泡シートを用いる場合や、ドット粒やラインを設けた場合には、これらと接触しない防音層がこれらの中に入り込みやすく、長期間の使用により防音層がへたることが懸念される。
【0008】
このような状況の下、本発明では、防音性能だけでなく歩行感にも優れた防音床材を、より簡便な方法により提供することを課題に掲げる。
本発明の別の課題は、耐荷重性及び耐へたり性に優れた防音床材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、防音床材の沈込み防止のために、繊度が250〜1700デシテックスの熱可塑性樹脂からなる繊維から形成される極太長繊維不織布を用いると、防音性能及び歩行感に優れ、且つこの防音床材は極めて簡便な方法により製造できることを見出し、本発明を完成した。また、この様な防音床材は、耐荷重性及び耐へたり性にも優れる。
【0010】
すなわち、本発明に係る防音床材は、床用表材(A)と、複数の層から形成され且つ前記表材(A)を裏面で支える防音床本体(E)とから構成される防音床材であって、この複数の層には防音層を有する防音部(B)と、沈込み防止部(C)とが含まれ、前記沈込み防止部(C)が、繊度が250〜1700デシテックスの熱可塑性樹脂からなる繊維から形成される極太長繊維不織布である点に特徴を有する。本発明の防音床材は、極太長繊維不織布の厚さは1.0〜5.0mm、目付は50〜500g/m2であり、荷重10kg/100cm2で24時間加圧した後の圧縮弾性回復率が97〜100%であることが好ましく、前記極太長繊維不織布を形成する熱可塑性樹脂からなる繊維がポリオレフィン系繊維であることが好ましい。さらに、防音部(B)の裏側に沈込み防止部(C)が形成されていることが好ましい。防音部(B)は、スパンボンド不織布から形成される平滑層と、防音層の積層体であり、前記防音層は、ケミカルボンド不織布またはサーマルボンド不織布であり、厚さが2.0〜6.5mm、目付が80〜500g/m2、及び空隙率が93〜99%であることが好ましい。防音床本体(E)は、水の通過を防止するための遮水部(D)を最裏面に有していることが好ましく、前記床用表材(A)は、雁行するスリットが入った木質系フロア材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繊度が250〜1700デシテックスの熱可塑性樹脂からなる繊維から形成される極太長繊維不織布を用いることにより、防音性能だけでなく歩行感にも優れた防音床材を、簡便な方法により提供することが可能となる。また本発明の防音床材は耐荷重性が良く、且つ長期間使用しても防音層の変形を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明の防音床材の一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は本発明の沈込み防止部(C)の一例の写真である。
【図3】図3は本発明の沈込み防止部(C)の断面図の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る防音床材に関して、実施例を示す図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明はもとより図示例に限定される訳ではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0014】
<<図示例>>
図1は、本発明の防音床材15の一例を示す概略断面図である。図1に示す様に、本発明の防音床材15は、公知の床材からなる床用表材(A)1と、この表材(A)1を裏面で支える防音床本体(E)16とから構成されており、前記本体(E)16は、防音性能を有する防音部(B)12、歩行感を改善する沈込み防止部(C)13、及び階下からの湿分及び水分の室内への侵入を防止する遮水部(D)14が、この順で積層された多層構造である。防音床材15は、防音部(B)12と沈込み防止部(C)13とを有しているため、優れた防音性能と歩行感を両立できる。
【0015】
そして図示例の防音床材15では、前記沈込み防止部(C)13が、極太長繊維から形成される不織布(極太長繊維不織布6)で構成されており、具体的には図2の写真に示すような構造を有している。このような沈込み防止部(C)13を採用すると、簡便に沈込み防止部(C)13を形成できるだけでなく、沈込み防止部(C)13の厚さ方向の荷重を、繊維の径方向の応力によって支えることができるため、耐荷重性を著しく高めることができる。また不織布であるため、目がある程度詰まっており、軟質な防音部(B)12が沈込み防止部(C)13に入り込むことが少なく、耐へたり性も高めることができる。
【0016】
なお図示例の防音床材15では、防音部(B)12は、細径短繊維不織布から構成され、且つ防音性能を有する防音層4と、この防音層4の基材となる平滑不織布(平滑層)3とから構成されており、これら防音層4と平滑層3とは、ニードルパンチによって結合されている。遮水部(D)14は、遮水性能を有するフィルム層8と、このフィルム層8の基材となる平滑不織布(平滑層)9とから構成されており、平滑層9の上にフィルム層8を押出成形することによってこれらは結合されている。また床用表材(A)1と防音部(B)12との間;防音部(B)12と沈込み防止部(C)13との間;沈込み防止部(C)13と遮水部(D)14の間;及び遮水部(D)14と床スラブ11との間は、それぞれ接着層2、5、7及び10を介して結合されている。
【0017】
<<変更例>>
<沈込み防止部(C)13>
沈込み防止部(C)13は、図1、2の例に限定されず、所定の沈込み防止特性を示す範囲で適宜変更できる。例えば、熱可塑性樹脂から形成される長繊維であり、且つ繊度が250〜1700デシテックスの極太繊維からなる不織布(極太長繊維不織布6)は、本発明の沈込み防止部(C)13として使用できる。極太繊維からなる不織布を用いることにより、不織布全体の変形が抑制され、沈込み防止性能が向上する。また、沈込み防止部(C)13に極太繊維を使用することにより、繊維間の空隙を確保することが可能となり、さらに厚さ方向の圧力を均等に分散できるため、防音層の変形を抑制することができる。
【0018】
沈込み防止部(C)13に使用される繊維の繊度は、250〜1700デシテックスであり、より好ましくは300〜1000デシテックス、さらに好ましくは400〜700デシテックスである。繊度が250デシテックス以上であれば、重量物等が床上に設置された場合でも、床の沈込みが少なく好ましい。また、繊度が1700デシテックス以下であれば、繊維間に存在する空隙の量が適度であるため、沈込み防止部(C)13も防音性能を発揮することができる。
【0019】
繊維としては、熱可塑性樹脂を原料とする繊維を使用する。熱可塑性樹脂からなる繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維等を使用するとよく、圧縮弾性回復力の高い繊維、例えばポリオレフィン系繊維、弾性ポリエステル繊維、弾性ポリウレタン繊維等がより好適に使用できる。中でも、ポリオレフィン系繊維のうち、低密度ポリエチレン樹脂からなる繊維は、厚さ方向の耐荷重性に優れるだけでなく、他の樹脂を原料とする繊維に比べ、空隙率の少ない不織布を形成しやすく、得られる不織布の音波遮蔽効率が高まるため好ましい。
【0020】
熱可塑性樹脂の190℃でのメルトフローレート(MFR)は、20g/10分〜150g/10分であり、より好ましくは50g/10分〜100g/10分であり、さらに好ましくは60g/10分〜80g/10分である。メルトフローレートが20g/10分未満になると、流動性が乏しく、また曳糸性が悪く繊維となり難いために好ましくなく、150g/10分を超えると、流動性が大きく糸切れしやすいために好ましくない。
【0021】
極太長繊維不織布6は、繊維間空隙を確保するため長繊維(非切断繊維)不織布であることが好ましく、特にスパンボンド不織布であることが好ましい。
【0022】
極太長繊維不織布6の目付は、50〜500g/m2が好ましく、より好ましくは50〜350g/m2、最も好ましくは100〜200g/m2である。目付が50g/m2未満になると、極太長繊維不織布6の防音性能が発揮され難くなる。また経年での床の沈込み及びへたり防止のため、極太繊維不織布6の減厚率は、0〜25%が好ましく、より好適には3〜20%であり、さらに望ましくは5〜15%である。同様の理由から、極太繊維不織布6の圧縮弾性回復率は、好ましくは97〜100%であり、98〜100%がより好適であり、更に好ましくは100%である。なお減厚率及び圧縮弾性回復率については、実施例の欄に詳述する。
【0023】
沈込み防止部(C)13の厚さは、厚さ方向の耐荷重性を高めるため、好ましくは1.0〜5.0mmであり、より好ましくは1.2〜4.0mmである。沈込み防止部(C)13の厚さが5.0mmを超えると、厚さ方向の押圧により沈込み防止部(C)13が撓む虞があり好ましくない。
【0024】
<防音部(B)12>
防音部(B)12は、上記図示例のように、通常、防音層4と、防音層4の基材となる平滑層3を有する。防音層4は、防音性能を有する層であり、図示例の細径短繊維不織布に限定されず、繊維間の空隙率の高い不織布であれば他の不織布も使用でき、さらには構造体内部に独立する気泡を多数有する発泡樹脂層であってもよい。防音層4が発泡樹脂層により形成される場合、原料としては、ポリスチレン、ポリウレタン等の樹脂を使用するとよい。
【0025】
防音層4に不織布が使用される場合、防音層用不織布を構成する繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、オレフィン系繊維等の合成繊維;レーヨン繊維、アセテート繊維等の再生繊維;綿、麻、羊毛等の天然繊維等を使用するとよい。繊維が劣化し難く、また入手が容易であることから、繊維としては合成繊維、中でもポリエステル繊維を使用することが好ましい。
【0026】
繊維は1種で使用してもよく、また複数種を混綿して使用してもよい。特に、防音床材15を鋸や回転刃によって裁断したり、スリットを入れたりする際に、予め防音層4の繊維同士が固着されていると、作業を円滑に進めることができる。そのため、防音層4を構成する繊維としてポリエステル繊維を使用する場合は、融点が150〜260℃程度であるレギュラータイプの繊維と、融点が100〜200℃程度の所謂変成ポリエステル繊維(低融点繊維、熱融着性繊維)を混綿して使用し、得られた不織布を加熱することにより、繊維を熱接着するとよい。
【0027】
防音層用不織布を構成する繊維の繊度は、例えば1〜30デシテックスであり、より好ましくは2〜25デシテックス、さらに好ましくは2.2〜22デシテックスである。繊度が1デシテックス未満になると、不織布の組織が過密になり、防音層4を介して伝播し、防音性能を発揮しないため好ましくない。一方繊度が30デシテックスを超えると、不織布の組織が粗くなり、発生した音の振動エネルギーが、防音層4で充分に吸収・拡散されないため好ましくない。
【0028】
なお最も好ましい防音層用不織布では、前記1〜30デシテックスの繊維から、繊度が異なる複数の繊維を組み合わせて使用する。例えば繊度15デシテックス未満の繊維の1種又は2種以上と、繊度15デシテックス以上の繊維の1種又は2種以上と組み合わせる。繊度15デシテックス未満の繊維と、繊度15デシテックス以上の繊維の質量比(前者/後者)は、例えば30/70〜70/30、好ましくは40/60〜60/40、更に好ましくは45/55〜55/45である。
【0029】
防音層用不織布を構成する繊維の繊維長は20〜100mmであることが好ましく、より好ましくは32〜76mmである。また繊維は、中実タイプの繊維も、中空タイプの繊維も共に好ましく使用することが可能である。防音層4の目付は、80〜500g/m2が好ましく、より好適には90〜400g/m2であり、最も好適には100〜300g/m2である。
【0030】
防音層4の厚さは2.0〜6.5mmであることが好ましく、より好ましくは2.3〜6.0mm、さらに好ましくは3.5〜5.5mmである。防音層4の厚さが前記範囲内であれば、防音床材15が防音性能を充分に発揮でき、且つ防音層4が厚すぎず、沈込み量が低減できるため好ましい。
【0031】
防音層用不織布は、公知の方法を採用することで、適宜製造可能である。例えば、繊維を混綿し、カード機等で形成された中間ウェブを、クロスラッパー等を用いてラッピングし、このウェブをニードルパンチ法や、水流交絡法等により機械的に繊維を交絡させる方法;低融点繊維を混綿した不織布を、熱風乾燥機や熱ロール等を用いて熱接着させる方法(サーマルボンド法);繊維が機械的に交絡された不織布に、各種樹脂(バインダー)を散布又は塗布して繊維を固着させるケミカルボンド法等の各種方法の使用ができる。発生した音波は、繊維に衝突し、繊維間空隙での共振や、繊維との摩擦により振動エネルギーが減衰するため、繊維間空隙の存在比率の高い、繊維を機械的に絡合させる方法(ニードルパンチ法、水流交絡法等)により製造された不織布を用いると、吸音性に優れるためよい。しかし、機械的に絡合された不織布は、厚さ方向の押圧に対する抵抗力が乏しく、床材が沈み易い。そのため本発明では、床材の長年の使用により、防音層4の形状が崩れることや床の沈込みを防止するため、不織布はケミカルボンド法によって製造されることが好ましい。防音層4の空隙率は好ましくは93〜99%であり、より好ましくは94〜98%である。空隙率が前記範囲内であれば、振動エネルギーの吸収効率が良く、また音が階下へ伝播しないため好ましい。
【0032】
ケミカルボンド法に使用するバインダーは、不織布の製造に用いられるものであれば特に限定されず、例えばポリアクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂等のエマルション系バインダー;スチレン−ブタジエンラテックス、ネオプレン−ブタジエンラテックス等のラテックス系バインダー等が好ましく用いられる。沈込みを防止するには、防音層用不織布が適度に硬化されていることが好ましいものの、不織布が硬化しすぎると、発生した騒音が不織布を伝播し階下に通じてしまう。そのため、バインダーのガラス転移温度(Tg)は、−30〜0℃であることが好ましい。ガラス転移温度が0℃を超えると、不織布が硬化し、騒音を伝播するため好ましくなく、一方ガラス転移温度が−30℃未満では、不織布の硬化が不十分であり、さらに乾燥後の不織布がバインダーによりべたつく、不織布生産時に各種装置(例えば、ロール等)がバインダーで汚れる、製品をロールに巻き上げると、不織布が密着し、ロールから巻き戻すことが困難になる等の問題が生じ易くなる。
【0033】
平滑層3は必須ではないが、防音層4の基材として平滑層3を使用することが望ましい。この平滑層3の素材は、基材として使用出来る限り特に限定されず、例えば、不織布、織物、編み物等の布帛;その他通気性を有する素材等が好ましく使用できる。布帛の場合、繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、オレフィン系繊維等の合成繊維;レーヨン繊維、アセテート繊維等の再生繊維;綿、麻、羊毛等の天然繊維を使用するとよい。特に不織布の場合、毛羽立ちを抑え作業性を高めるために長繊維の不織布を使用するとよく、例えばスパンボンド不織布が好適である。平滑層3と防音層4の積層体は、機械的に交絡させる方法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法等により固定されていることが好ましい。平滑層3の目付は、10〜100g/m2が好ましく、より好適には15〜50g/m2である。また、平滑層3の厚さは0.1〜0.5mmであることが好ましい。
【0034】
平滑層3及び防音層4が共に不織布の場合、不織布を構成する繊維の量とケミカルボンドに用いるバインダーの使用量(乾燥重量)は、繊維/バインダーの比率が95/5〜65/35であることが好ましく、より好ましくは90/10〜70/30であり、さらに好ましくは85/15〜75/25である。バインダー比率が35重量%を超えると、繊維が固着され、音が階下へ伝播され易くなる。また、バインダー比率が5重量%未満になると、鋸や回転刃で切断し難くなるため好ましくない。
【0035】
防音部(B)12の目付は、100〜600g/m2が好ましく、より好適には120〜400g/m2である。また防音部(B)12の厚さは、好ましくは2.0〜7.0mm、より好ましくは2.5〜6.5mmである。防音部の厚さが前記範囲内であれば、防音性能と沈込み量の低減を両立させることが可能となる。
【0036】
本発明においては、防音部(B)12の厚さに対し、沈込み防止部(C)13の厚さを適切な範囲に形成することが重要である。すなわち、防音部(B)12は、厚くなると吸音性能は向上するものの、防音層4が軟らかな素材から形成されているため、防音部(B)12が厚くなると、防音層4は外力により沈む込みやすくなる。同様に、沈込み防止部(C)13が厚くなると、沈込み防止部(C)13は撓みやすくなる。そのため、本発明では沈込み防止部(C)13の厚さは、防音部(B)12の厚さ(1とする)に対し、好ましくは0.2〜2.5であり、より好ましくは0.3〜1.0である。
【0037】
防音層用不織布に抗菌性、帯電防止性、難燃性等の機能が要求される場合には、これらの機能を有する成分をバインダー中に添加、または不織布製造前後に散布又は塗布するとよい。
【0038】
<遮水部(D)14>
本発明の防音床材15では、遮水部(D)14は必須ではないが、階下からの湿分及び水分が室内に侵入することを防ぐために遮水部(D)14を設けることが望ましい。遮水部(D)14は、少なくともフィルム層8を有していればよいが、通常フィルム層8の基材となる平滑層9と積層されている。平滑層9としては、平滑層3の欄で詳述した素材を使用することができる。なお平滑層9と平滑層3は、同一でも異なっていてもよい。平滑層9は、撥水性を高めるため、エンボス加工等により繊維間が圧密されていることが特に好ましい。
【0039】
フィルム層8は、平滑層9に積層されていることが好ましく、積層方法としては、フィルム層8と平滑層9を、接着剤等を介して固定する方法(ドライラミネーション法等);フィルム層8の原料樹脂を溶融し、平滑層9上に押出積層する方法(押出ラミネーション法等)等が好適である。
【0040】
フィルム層8には、熱可塑性樹脂から形成されるフィルムが好適に用いられ、熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂等が例示できる。これらの樹脂は混合して使用してもよい。通常、マンション等の床スラブ11はコンクリートであるため、フィルム層8には、耐アルカリ性に優れるフィルムが好適であり、ポリオレフィン樹脂等からなるフィルムが好ましく、特に低密度タイプのポリオレフィン樹脂からなるフィルムが好ましい。
【0041】
遮水部(D)14の目付は、30〜55g/m2が好ましく、より好適には40〜50g/m2である。また遮水部(D)14の厚さは、好ましくは0.1〜0.6mmであり、より好ましくは0.2〜0.5mmである。
【0042】
<床用表材(A)1>
防音床材15に用いる床用表材(A)1としては、公知の床材を適宜採用することが可能であり、各種木質系フロア材、クッションドフロア、発泡樹脂タイル、カーペット等を使用することができる。木質系フロア材は硬く、他の床材に比べ、床の沈込み量を低減できるため好ましい。木質系フロア材は、単層フローリング(無垢)材又は複合フローリング材を使用することができ、フロア材の形状としては、四角形型、雁行型共に好ましい形態である。風合いが良く、また調湿効果にも優れる単層フローリング(無垢)材は床材として好ましい。
【0043】
なお防音床材15の各層は、適当な手段で結合(接着、固定)できる。該結合手段としては、熱可塑性樹脂層(フィルム、不織布等)を用いた熱接着、公知の接着剤(例えば、酢酸ビニル系接着剤、ポリエチレン−酢酸ビニル(EVA)系接着剤、アクリル系接着剤等)による化学的接着、繊維の交絡等を利用した機械的絡合などのいずれもが採用できる。
【0044】
防音部(B)12、沈込み防止部(C)13、及び好ましい態様において使用される遮水部(D)14の積層順は特に限定されないが、通常、遮水部(D)14はこれら三者のうち最も裏側(底側)に形成される。防音部(B)12と沈込み防止部(C)13とは、どちらが裏側(底側)に形成されてもよいが、沈込み防止部(C)13が防音部(B)12よりも裏側(底側)に形成されるのが望ましい。
【0045】
<<防音床材の製造方法>>
本発明の防音床材は、防音部(B)12、沈込み防止部(C)13、及び必要に応じて遮水部(D)14をそれぞれ積層して接着層(接着層5及び7)を介して貼り合わせるとよい。各部をこの順で表側から積層する場合であっても、その積層順は特に限定されるものではなく、床用表材(A)1から順に、防音部(B)12−沈込み防止部(C)13−遮水部(D)14、防音部(B)12−遮水部(D)14−沈込み防止部(C)13、沈込み防止部(C)13−防音部(B)12−遮水部(D)14、沈込み防止部(C)13−遮水部(D)14−防音部(B)12等の順で積層するとよく、各部の機能が効果的に発揮されることから、防音部(B)12−沈込み防止部(C)13−遮水部(D)14の順で積層することが好ましい。
【0046】
各部を貼り合わせる接着層(接着層5及び7)としては、例えば、接着剤層、熱融着性不織布層等が挙げられる。接着剤を用いる場合は、ドライラミネート法やウェットラミネート法等により、接着剤を各部間に塗布して防音床材15を固定するとよい。また熱融着性不織布を用いる場合は、各部間に熱融着性不織布を挟み、熱風循環式加熱機(乾燥機)、あるいは熱ロールや熱板間を通過させる等により防音床材15を固定するとよい。加熱温度は、熱融着性不織布の融点を考慮して設定するとよい。各部の貼り合せ方法としては、各部位毎に分けて積層すると、ズレ等が生じない。例えば、防音部(B)12−沈込み防止部(C)13−遮水部(D)14の順で積層する場合は、まず、沈込み防止部(C)13と遮水部(D)14のフィルム側の間に接着層を介し両者を貼り合せ、次いで該積層体の沈込み防止部(C)13側と、防音部(B)12の防音層4側との間に接着層を介して部位(B)12〜(D)14を一体化するとよい。
【0047】
前記床用表材(A)1は、接着層2を介して部位(B)12〜(D)14と一体化されることが好ましい。接着層2は、前記接着層5及び7と同様である。
【0048】
<<防音床材の使用方法>>
本発明の防音床材15は、床スラブ11上に接着層10を介して貼り合わせるとよい。本発明の防音床材によれば、LL−45相当の防音性能が得られ、マンション等の集合住宅の床材として用いるには最適である。また床材の沈込み量を4.9mm未満、さらには3.9mm未満に低減できるため、床材の沈込みに起因する各種の問題を解消することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0050】
防音床材15(各層・各部)の特性測定及び性能評価方法は、以下の通りである。
(1)厚さ;JIS L1913の6.1A法に準ず
(2)目付;JIS L1913の6.2法に準ず
(3)防音性能;JIS A1440−1法に準じ、実施例で得られた防音床材15を敷いたコンクリートの上に、500gの鉄球を高さ4cmの位置から落下させ、衝撃音をコンクリートに埋め込んだマイクロホンで受音した。この衝撃音を周波数解析し、周波数125Hzにおける音の強さ(dB)を防音性能の評価に用いた。
○:−23dB以下の衝撃音、×:−23dBを超える衝撃音
(4)歩行感;日本防音床材工業会の防音床材物性試験規格の短期局部集中荷重試験に準じた。具体的には、実施例で得られた防音床材15を、300mm×340mmに裁断して試験片を作製し、この試験片を試験機(オリエンテック社製「テンシロンUCT−1T」)上に置いた。80kgf/φ50mmで試験片を加圧したときの、加圧後の試験片の厚さを測定し、加圧前の試験片の厚さから、加圧後の厚さを減じたものを、防音床材15の沈込み量(mm)とした。
◎:沈込み量が3.9mm未満
○:沈込み量が3.9mm以上4.9mm未満
×:沈込み量が4.9mm以上
(5)減厚率及び圧縮弾性回復率;
実施例で得られた沈込み防止部(C)13(極太長繊維不織布6)を、100mm×100mmに裁断して試験片を作製し、この試験片を100gfで加圧し、加圧20秒後の試験片の厚さ(h0)を測定する。この試験片をさらに10kgfで24時間加圧する。24時間経過後の試験片の厚さ(h1)を測定する。その後5分間無荷重で放置し、放置後試験片を100gfで加圧し、加圧30秒後の試験片の厚さ(h2)を測定する。減厚率及び圧縮弾性回復率は、下記式(i)及び(ii)に基づき算出される。
減厚率(%)=(h0−h1)/h0×100 …(i)
圧縮弾性回復率(%)=(h2/h0)×100 …(ii)
【0051】
実施例1
1.防音部(B)12の形成
繊度22デシテックス、繊維長64mmのレギュラーポリエステル繊維50%と、繊度6.6デシテックス、繊維長64mmのレギュラーポリエステル繊維30%と、繊度2.2デシテックス、繊維長51mmのレギュラーポリエステル繊維20%をそれぞれ計量、混綿し、カード機で中間ウェブを形成し、この中間ウェブをクロスラッパーにてラッピングした。
得られたウェブを、ポリエステル(PET)スパンボンド層(平滑層3)の上に連続的に積層しながら、針番手40番(オルガン針社製「FPD1−40」)のニードルにて、針深さ8mm、打ち込み本数20n/cm2でニードルパンチ加工を行い、平滑層3と防音層4の積層不織布を得た。
次いで該積層不織布を、ガラス転移温度−25℃のポリアクリル酸エステルエマルジョンの希釈液に含浸させ、乾燥させることにより、ケミカルボンドタイプの防音部(B)12を得た。
【0052】
2.沈込み防止部(C)13の形成
低密度ポリエチレン(PE)樹脂(190℃でのMFR:75g/10分)を、口径0.3mmのノズルから溶融紡糸し、水温20℃の水槽中に設置された連続式コンベア上に落下させ、繊維を脱水することにより、極太長繊維(繊度600デシテックス)からなる所定目付及び所定厚さのスパンボンド不織布6を形成し、これを沈込み防止部(C)13とした。
【0053】
3.遮水部(D)14の形成
エンボス加工されたポリエステル(PET)スパンボンド(平滑層9)上に、溶融した低密度ポリエチレン樹脂を押出し、冷却ロール間に該積層体を通過させることにより(押出ラミネート)、フィルム積層体である遮水部(D)14を得た。
【0054】
4.防音床本体(E)16の形成
得られた沈込み防止部(C)13と遮水部(D)14を30cm×50cmに裁断し、沈込み防止部(C)13と遮水部(D)14のフィルム層8側の間に熱融着性不織布7(呉羽テック社製「ダイナック(登録商標)G7015、目付15g/m2」)を挟み込み、該積層体を150℃に加熱した熱風循環式乾燥機を通過させ、熱融着させた。
次いで、該積層体の沈込み防止部(C)13側に、熱融着性不織布5(呉羽テック社製「ダイナック(登録商標)G7015」)を積層し、次いでこの熱融着性不織布5に防音層4が対面するように防音部(B)12を積層した後、該積層体を150℃に加熱した熱風循環式乾燥機を通過させ、熱融着させた。得られた防音床本体(E)16は、総目付が350g/m2であった。
【0055】
5.防音床材15の形成
得られた防音床本体(E)16の平滑層3側に接着剤(酢酸ビニル系接着剤)を塗布し、床用表材(A)(木質系フロア材)を積層し、加圧することにより防音床材15を得た。
【0056】
実施例2〜3
沈込み防止部(C)13の目付を表1に記載する量に変更する以外は、実施例1と同様の方法により防音床材15を得た。
【0057】
実施例4
防音部(B)12において、ポリエステル(PET)スパンボンド(平滑層3)に積層するウェブの量を変更し、さらにバインダー(ポリアクリル酸エステル)の付着量を、乾燥重量で20g/m2にする以外は、実施例2と同様の方法により防音床材15を得た。
【0058】
比較例1
実施例1で得られた防音部(B)12及び遮水部(D)14を30cm×50cmに裁断し、遮水部(D)14のフィルム層8側と防音部(B)12の防音層4側の間に熱融着性不織布(呉羽テック社製「ダイナック(登録商標)G7015」)を挟み込み、該積層体を150℃に加熱した熱風循環式乾燥機を通過させ、熱融着させることにより防音床本体(E)16を得た。得られた防音床本体(E)16の平滑層3側に接着剤(酢酸ビニル系接着剤)を塗布し、床用表材(A)(木質系フロア材)を積層し、加圧することにより防音床材15を得た。
【0059】
比較例2
実施例2で得られた沈込み防止部(C)13及び遮水部(D)14を30cm×50cmに裁断し、沈込み防止部(C)13と遮水部(D)14のフィルム層8側の間に熱融着性不織布7(呉羽テック社製「ダイナック(登録商標)G7015」)を挟み込み、該積層体を150℃に加熱した熱風循環式乾燥機を通過させ、熱融着させた。
次いで、該積層体の沈込み防止部(C)13側に、順に熱融着性不織布5(呉羽テック社製「ダイナック(登録商標)G7015」)、目付30g/m2のポリエステルスパンボンド(平滑層3)を積層し、該積層体を150℃に加熱した熱風循環式乾燥機を通過させ、熱融着させることにより防音床本体(E)16を得た。得られた防音床本体(E)16の平滑層3側に接着剤(酢酸ビニル系接着剤)を塗布し、床用表材(A)(木質系フロア材)を積層し、加圧することにより防音床材15を得た。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示されるように、沈込み防止部(C)13を欠く比較例1や、防音部(B)12を欠く比較例2では、それぞれ、沈込み防止性能又は防音性能が劣る。本発明の防音床材15は、これら沈込み防止部(C)13や防音部(B)12を有するため、防音性能と沈込み防止性能とを両立できる。特に、沈込み防止部(C)13に使用する極太長繊維の目付量をコントロールすると、防音性能には一切影響を与えることなく、沈込み防止特性を改善することができる(実施例1、2)。
【符号の説明】
【0062】
1 床用表材(A)
2、5、7、10 接着層
3、9 平滑層
4 防音層
6 極太長繊維不織布
8 フィルム層
11 床スラブ
12 防音部(B)
13 沈込み防止部(C)
14 遮水部(D)
15 防音床材
16 防音床本体(E)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床用表材(A)と、複数の層から形成されかつ前記表材(A)を裏面で支える防音床本体(E)とから構成される防音床材であって、この複数の層には防音層を有する防音部(B)と、沈込み防止部(C)とが含まれ、
前記沈込み防止部(C)が、繊度が250〜1700デシテックスの熱可塑性樹脂からなる繊維から形成される極太長繊維不織布であることを特徴とする防音床材。
【請求項2】
極太長繊維不織布の厚さは1.0〜5.0mm、目付は50〜500g/m2であり、
荷重10kg/100cm2で24時間加圧した後の圧縮弾性回復率が97〜100%である請求項1に記載の防音床材。
【請求項3】
前記極太長繊維不織布を形成する熱可塑性樹脂からなる繊維がポリオレフィン系繊維である請求項1または2に記載の防音床材。
【請求項4】
防音部(B)の裏側に沈込み防止部(C)が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の防音床材。
【請求項5】
防音部(B)は、スパンボンド不織布から形成される平滑層と、防音層の積層体であり、前記防音層は、ケミカルボンド不織布またはサーマルボンド不織布であり、厚さが2.0〜6.5mm、目付が80〜500g/m2、及び空隙率が93〜99%である請求項1〜4のいずれかに記載の防音床材。
【請求項6】
前記防音床本体(E)は、水の通過を防止するための遮水部(D)を最裏面に有している請求項1〜5のいずれかに記載の防音床材。
【請求項7】
前記床用表材(A)が、雁行するスリットが入った木質系フロア材である請求項1〜6のいずれかに記載の防音床材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−113067(P2013−113067A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262991(P2011−262991)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(391021570)呉羽テック株式会社 (57)
【Fターム(参考)】