説明

防音用グリース組成物

【課題】ディスクブレーキに用いたときにブレーキ鳴きの発生を抑制することのできる防音用グリース組成物を得る。
【解決手段】基油と増ちょう剤とを含有する防音用グリース組成物において、円錐・板レオメーター中で、測定温度25℃、制限周波数10Hzにて測定し、歪率100%において、貯蔵弾性率が500〜100000Paとなるように、基油および増ちょう材の種類と混合割合を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音用グリース組成物に関し、限定されないが、自動車等のディスクブレーキ作動時に発生するブレーキ鳴きを防止するのに好適に用いられる防音用グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等において広く使用されているディスクブレーキは、一般に、車輪と一体に回転するディスクローターを、ピストン(押圧部材)の作動で移動するブレーキパッドにより両側から押圧する構造となっている。ディスクブレーキにおいて、制動時、すなわちブレーキパッドがディスクローターに押圧されたとき、一般に「鳴き」と称せられている異音が発生することがある。鳴きが発生しても制動性能に影響はないが、ドライバーや同乗者にとっては不快な音として聞こえることから、解決策が模索されている。
【0003】
ブレーキの鳴きは、ディスクローターとブレーキパッド間の摩擦振動が起振源となり、その振動がブレーキの構成部材や車体と共振して発生するものと考えられており、ブレーキシステムの設計によりある程度は改善される。しかし、起振源であるディスクローターとブレーキパッドの摩擦状態は経時で変化しており、さらに、構造的な振動も組み合わさって、複雑な現象となっていることから、決定的な対策方法は見つかっていない。
【0004】
ブレーキシステムの構造や制動特性にあまり影響を与えないで、鳴きを防止することのできる1つの有効な対策として、ブレーキパッドとピストン(押圧部材)の間に、振動減衰性能の高いシムを装着することが行われており、また、そのシムとブレーキパッドとの間にグリースを介在させることで、振動をさらに減衰させることも行われている。
【0005】
ブレーキシステムの鳴き防止用である防音用グリースの一例として、特許文献1には、シリコーン粘着グリース100重量部とボロンナイトライド粉末0.1〜10重量部からなる自動車のディスクブレーキ鳴き音防止用グリースが記載されており、このグリースを、ディスクブレーキの、ディスクパッドとパッドサポートプレートとの接触部、パッドサポートプレートとマウンティングとの接触部、ディスクパッドのプレートとシムの間、シムとキャリパー又はピストンの当たり面などに使用することで、ディスクブレーキ鳴き音を防止できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−226687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、ディスクブレーキの鳴き防止対策およびそこで用いられるグリースの有効性について、継続して実験と研究を行ってきているが、例えば特許文献1に記載されるような従来用いられているブレーキ鳴き防止用グリースは、鳴きの抑制に一定の効果は上げてはいるものの、十分な効果を上げているとはいえない。
【0008】
本発明は、ブレーキ鳴き防止用として用いたときに、より高い鳴き抑制効果を奏することのできる防音用グリース組成物を開示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく、ブレーキ鳴きの発生を効果的に抑制することのできるグリース組成物の組成について、さらに実験と研究を行うことにより、ブレーキ鳴きの原因である振動を抑制するには、グリースに振動に対する減衰性能を持たせることが有効であることを知見した。そして、減衰性能を向上させるために鋭意各種検討を行った結果、基油と増ちょう剤とを含むグリース組成物において、レオメーターにて特定の条件で測定した貯蔵弾性率が、ある一定以上の値を有する場合、基油の動粘度に依存することなく、高い減衰性能を有することを知った。本発明は上記の知見に基づいている。
【0010】
すなわち、本発明による防音用グリース組成物は、基本的に、基油と増ちょう剤とを含み、円錐・板レオメーター中で、測定温度25℃、制限周波数10Hzにて測定し、歪率100%において、貯蔵弾性率が500〜100000Paであることを特徴とする。
【0011】
後の実施例に示すように、本発明による防音用グリース組成物は振動に対する高い減衰率を示し、防音用グリース組成物として極めて有効なものとなる。前記貯蔵弾性率の値が500Pa未満のものは、ブレーキ鳴きに対して十分な抑制効果が得られなかった。また、前記貯蔵弾性率の値が100000Paを超えるものはグリースとしての流動性が低下してハンドリングが困難となるので好ましくなかった。
【0012】
本発明において、貯蔵弾性率を前記特定の値とすることで、振動に対して極めて高い減衰性を示す防音用グリース組成物が得られるのは、次の理由であると考えられる。
【0013】
すなわち、振動吸収の指標としては、損失係数(tanδ)があり、それは、損失弾性率(エネルギーの散逸)と貯蔵弾性率(エネルギーの蓄積)の比で表される(式1)。損失係数を大きくするためには、基油の粘度を挙げて損失弾性率を大きくすることが知られている。
【0014】
(式1)損失係数:tanδ=G’’/G’
G’’:損失弾性率、G’:貯蔵弾性率
【0015】
しかしながら、周知の通り、tanδは、材料の微小の刺激に対応する応答遅れとして測定される値であり、自動車の制動時に発生する過大な力に対して用いる特性としては十分でない場合がある。このような過大な力で発生する振動の免震には、上記のように粘度を上昇させるだけでなく、樹脂状物質や固定物質による摩擦減衰が重要となる。
【0016】
グリースに添加される樹脂状物質や固定物質は、外部から振動の力を与えたときに、弾性エネルギーがグリース内に蓄えられる。その後、粒子間同士、および、粒子とブレーキシムやブレーキパッドの間に滑りが発生するために、一度蓄えられた弾性エネルギーはこれらの滑りの際の摩擦エネルギーにより消費され、熱エネルギーに変換される(エネルギーの散逸)。すなわち、グリース組成物が備える貯蔵弾性率に注目し、それを所定値以上とすることで、エネルギーの散逸量を大きくすることができ、振動減衰率が高くなり、基油の動粘度に依存することなく、ブレーキの鳴きの抑制効果が大きくなると考えられる。
【0017】
なお、本発明による防音用グリース組成物において、前記基油は、限定されないが、炭化水素合成油、ポリメタクリレート、シリコーン油のうち少なくとも1種を含有することが好ましい。この理由は、貯蔵弾性率を上昇させる化学的構造としては、基油分子鎖中に、ヘテロ原子や2重結合を有し、水素結合等で分子鎖が結合しやすい構造のものが好ましいが、炭化水素合成油、ポリメタクリレート、シリコーン油はこれらの条件を満足しているからである。
【0018】
また、本発明による防音用グリース組成物において、前記増ちょう剤は、限定されないが、平均粒子径が20μm〜500μmであることが好ましい。
【0019】
また、本発明による防音用グリース組成物は任意の用途に用いうるが、用途が、ディスクブレーキ鳴き防止用であることは特に好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、限定されないが特にディスクブレーキと共に用いたときに、ブレーキの鳴き発生を大きく抑制することのできるグリース組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】防音用グリース組成物の貯蔵弾性率を測定するための円錐・板レオメーターを示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の防音用グリース組成物をより詳細に説明する。
最初に、防音用グリース組成物を構成する成分について説明する。本発明の防音用グリース組成物で使用する基油は、特に制限されない。基本的に、鉱油をはじめとするすべての基油を使用できる。鉱油の他、エステル系合成油、炭化水素合成油、エーテル系合成油、シリコーン油、フッ素化油などの各種合成油も使用できる。ディスクブレーキの鳴き防止用として本発明の防音用グリース組成物を用いる場合には、ディスクブレーキの特性上、基油としては、高温耐性に優れたシリコーン油、または、オレフィンコポリマー等の炭化水素合成油、ポリメタアクリレートとを用いることが望ましい。また、それらの材料は、前記したように、基油分子鎖中にヘテロ原子や2重結合を有し、水素結合等で分子鎖が結合しやすい構造を備えていて、それが、貯蔵弾性率を上昇させる化学的構造として機能するからである。
【0023】
基油の動粘度は、100℃での動粘度が100〜1000000mm/sが好ましく、より好ましくは1000〜900000mm/sである。本発明者らか行った実験では、基油の粘度が100℃で1000mm/s未満であると高い減衰効果が得られず、また、1000000mm/sを超えると、グリースを充填あるいは塗布する際のハンドリングが困難となった。
【0024】
増ちょう剤は、防音用グリース組成物に所望のちょう度を与えるものであり、無機充填材、金属の微粉末、有機材の微粉末を適宜用いることができる。
【0025】
無機充填材の具体例としては、金属炭酸塩、金属水酸化物や金属酸化物、金属窒化物、窒化化合物、黒鉛、珪素化合物等が挙げられ、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、アルミナ、マグルシア、酸化亜鉛、酸化カルシウム、三酸化モリブデン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、燐状黒鉛、土状黒鉛、燐片状黒鉛、階乗黒鉛、膨張黒鉛等、シリカ等の粉末が挙げられる。
【0026】
金属粉としては、金、銀、銅、アルミ、ニッケル、真鍮、亜鉛、錫等が挙げられる。
有機物の微粉末としては、金属セッケン、ウレア化合物、樹脂、ゴム等が挙げられる。具体的には、リチウムステアレート、12ヒドロキシリチウムステアレート、カルシウムステアレート、アルミニウムステアレート、ジウレア化合物、ポリウレア化合物、ウレタンウレア化合物、メラミン、ベンゾグアミナン、メアミンシアネレート、超高分子ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、メチルメタアクリル樹脂、アクリル−スチレン共重合体、ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート、フッ化樹脂、アセテートセルロース、セルロイド等の粉末が挙げられる。
【0027】
添加する増ちょう剤の平均粒径は特に限定はないが、20μm〜500μmであることが望ましい。20μm未満では粉砕にかかる費用が高騰しコスト的に不利であり、500μmを超えると、グリース中に均一に分散することが困難となり、所定の効果が得られない場合がある。なお、ここで平均粒径とは、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置等の粒度分布測定装置を用い、水またはアルコール分散状態で測定された樹脂粉末の大きさの装置上のメジアン径(累積分布で50%の粒径値)をいう。
【0028】
増ちょう剤の添加量は10重量%〜70重量%であることが好ましい。増ちょう剤の添加量が10重量%未満であると、少なすぎるため所定の効果が得られない場合がある。また、70重量%を超えて添加してもそれ以上の効果は期待できず、コストの面で不利になる。
【0029】
本発明による防音用グリース組成物において、グリースの不飽和ちょう度(試料をできるだけ混ぜないようにして混和器に移し測定した値)は200〜400であることが好ましい。不飽和ちょう度が200未満であると、硬いために部品等に塗布する際に塗りムラができやすくなり、当初の効果が得られ難くなる。不飽和ちょう度が400を超えると、ブレーキ作動時の発熱により離油を発生し、周辺部を汚損する可能性がある。
【0030】
本発明による防音用グリース組成物において、グリースの硬さを維持するために、必要な場合には、金属セッケン、ウレア化合物等の増ちょう剤や一般に知られている無機充填材を使用することもでき、併用することもできる。さらに、必要に応じて、種々の添加剤を添加することもできる。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、錆止め剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤、固体潤滑剤等が挙げられる。また、それら通常の添加剤以外に、合成、再生、天然の各種繊維物や、ゴムダスト、カシューダスト等の粘着物質を加えることもできる。
【0031】
上記した基油および増ちょう材、および必要に応じて選択される適宜の添加剤等を、適宜の割合で混合し、ロールミル等の適宜の機器によって混練することにより、グリース組成物が得られる。その際に、選択される基油および増ちょう材の種類と混合割合を調整することで、本発明による防音用グリース組成物、すなわち、円錐・板レオメーター中で、測定温度25℃、制限周波数10Hzにて測定し、歪率100%において、貯蔵弾性率が500〜100000Paである防音用グリース組成物が得られる。混練により製造された防音用グリース組成物が本発明による前記貯蔵弾性率の条件を満たしているかどうかは、混練した後に、逐一、円錐・板レオメーターを用いて貯蔵弾性率を測定することとなるが、一旦本発明による条件を満たした混練物が得られれば、そのとき選択した基油および増ちょう材の種類と混合割合を記録として残しておくことで、再度同じ条件を満たした混練物(本発明による防音用グリース組成物)を調整することができる。
【0032】
グリース組成物の貯蔵弾性率を測定するのに用いる円錐・板レオメーターは従来知られたものであり、その測定方法も従来知られた方法を適宜採用することができる。円錐・板レオメーターを用いて本発明者らが貯蔵弾性率を測定したときの例を以下に説明する。
【0033】
図1は、用いた円錐・板レオメーターAの概要図であり、回転駆動軸1の下端に設けられた円錐面付き円板2と、この円錐面付き円板2の下に同心で配置された平面の円板3とから構成される。平面の円板3には、回転駆動軸1と同心に従動軸5が配置されており、従動軸5にはトルクを検出するトルクセンサー4が内蔵されている。円錐面付き円板2は、平面の円板3の中心に、その頂点の部分が平面の円板3に接しないようにギャップを持って配置され、かつ円錐面付き円板2の円錐面は平面の円板3に対して角度αを形成している。なお、今回は2degの角度αを有する円錐面付き円板2を使用した。
【0034】
測定に際し、貯蔵弾性率が測定されるグリース(試料)を平板付き円板3と円錐面付き円板2の間のテーパー状の隙間に充填する。円錐面付き円板2を振動させ、グリースに周期的な振動変形を与え、試料から応答する力をトルクセンサー4で計測し、振幅比と位相差を解析する手法(ひずみ制御方式)を使用した。
【0035】
貯蔵弾性率は下記式2より求めることができる。
【0036】
(式2) G’ =G* cos δ τ=G* ×γ
[ここで、G’貯蔵弾性率(=弾性成分)、G*複素弾性率、δ位相角(サンプルにひずみを与えたときの応答時間のずれ)、τせん断応力、γせん断速度]
【0037】
上記のようにすることで、試料(基油および増ちょう材からなるグリース組成物)における、測定温度25℃、制限周波数10Hz、歪率100%での、当該混練物の貯蔵弾性率を測定することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例と比較例により説明する。
[実施例1]
(A)防音用グリース組成物
基油と増ちょう剤とを表1に示すように選択して実施例1〜6の防音用グリース組成物を調整した。各調整後の組成物を撹拌・混練することなく混和器に移して、未混和ちょう度をJISK2220に準拠して測定した。さらに、各調整後の組成物について、円錐・板レオメーターとして、プレート径25mm、角度2°、ギャップ0.05mmであり、歪み率は0.01〜470%まで測定可能である、Anton paar社、PhysicalMCR301を使用して、測定温度25℃、制限周波数10Hzにおける歪率100%での貯蔵弾性率を測定した。その値も表1に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
[比較例]
基油と増ちょう剤とを表2に示すように選択して比較例1〜3の防音用グリース組成物を調整した。各調整後のグリース組成物を撹拌・混練することなく混和器に移して、未混和ちょう度をJISK2220に準拠して測定した。また、実施例と同様に、円錐・板レオメーターを用い、測定温度25℃、制限周波数10Hzにおける歪率100%での貯蔵弾性率を測定した。その値も表2に示した。
【0041】
【表2】

なお、表1および表2において、*1〜*12は以下の通りである。
*1 ジメチルシリコーン油:100℃の動粘度:12500mm/s
*2 ジメチルシリコーン油:100℃の動粘度:1250mm/s
*3 オレフィンコポリマー:100℃の動粘度:5000mm/s
*4 オレフィンコポリマー:150℃の動粘度:30000mm/s
*5 ポリメタクリレート:100℃の動粘度:1000mm/s
*6 銅粉:粒径 40μm
*7 炭酸カルシウム:粒径 65μm
*8 シリカ粉末:粒径 40μm
*9 シリカ粉末:粒径 12μm
*10 メラミンシアヌレート粉末:粒径 20μm
*11 DMF中で、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(1モル)とオクチルアミン(2モル)を反応させ、得られたジウレア系化合物の粉末:粒径 90μm
*12 12ヒドロキシリチウムステアレート:粒径 60μm
【0042】
上記において、材料の粒径は、レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置を使用して得た平均粒径(メジアン径)である。
【0043】
(B)試験方法
上記した実施例1〜6、比較例1〜3のグリース組成物を鋼板に塗布して、ボール落下法によりその振動減衰率を測定した。具体的には、鋼板(100×100×1mm)を2枚用意し、1枚にグリースを塗布(100×50×0.5mm)し、もう1枚を気泡が混入しないように注意しながら、塗布したグリースの上に被せた。下の鉄板の4隅をワイヤーにビスで固定し、70mmの高さから鋼球(直径10mm)を落下させ、各鋼板の振動をピックアップセンサーで測定した。そして、減衰率を下記の式3により求めた。
【0044】
(式3)減衰率(%)=100(A−B)/B
A=グリース塗布時の音圧レベル
B=鋼板のみの音圧レベル
【0045】
[評価基準]
減衰率の評価基準を下記のように設定して、減衰率60%以上を合格とした。その結果を表3に◎、○として示した。また、減衰率60%未満のものを不合格とし、表3に△として示した。
【0046】
◎(合格):減衰率80%以上、
○(合格):減衰率60以上〜80%未満、
△(不合格):減衰率60%未満、
【0047】
【表3】

【0048】
[評価]
上記実施例および比較例での減衰率の試験方法において、使用した「鋼板100×100×1mm」は、従来の単に鋼板からなるディスクブレーキ用シムに相当するものとみなすことができる。したがって、該鋼板と比較して音圧レベルが高くなっている試験体、すなわちグリースを塗布することで前記減衰率が大きくなっている試験体は、それをディスクブレーキ用シムとして用いた場合に、当該グリースを塗布しない鋼板単体の場合と比較して、ブレーキ鳴きを抑制できるものと類推することができる。
【0049】
その観点から、実施例1〜6のもの(円錐・板レオメーター中で、測定温度25℃、制限周波数10Hzにて測定し、歪率100%において、貯蔵弾性率が500以上のもの)は、減衰率が60%以上と高い値であり、本発明による防音用グリース組成物がブレーキ鳴きの抑制に有効であることが示される。それに比較して、比較例1〜3のもの(円錐・板レオメーター中で、測定温度25℃、制限周波数10Hzにて測定し、歪率100%において、貯蔵弾性率が500未満のもの)は、減衰率が60%未満であり、減衰率が低いことからブレーキ鳴きの抑制に有効とはいえないことがわかる。
【0050】
また、実施例1〜6において、用いた基油の動粘度は、1000mm/s(実施例5,6)〜30000mm/s(実施例4)の範囲であり、比較例1〜3では、1250mm/s(比較例1,3)〜12500mm/s(比較例2)の範囲である。実施例と比較例の双方において、基油の動粘度の幅が大きいにもかかわらず、上記した貯蔵弾性率の値によって、減衰率の差が現れている。このことから、本発明によれば、貯蔵弾性率の値を本発明による範囲内のものとすれば、基油の動粘度に依存することなく、高い減衰性能を有する防音用グリース組成物が得られることがわかる。
【0051】
さらに、実施例1と比較例2では、基油は同じシリコーン油Aを用いているが、実施例1では増ちょう剤(銅)の粒径が40μmであり、比較例2では増ちょう剤(シリカ)の粒径が12nmである。また、実施例1〜6で用いた増ちょう剤(銅)の粒径は20μm〜90μmの範囲である。このことから、本発明による防音用グリース組成物で用いる増ちょう剤の粒径は種類を問わず、20μm〜500μm、より好ましくは20μm〜90μmの範囲であることが好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0052】
A…円錐・板レオメーター、
1…回転駆動軸、
2…円錐面付き円板、
3…平面の円板、
4…トルクセンサー、
5…従動軸、
α…円錐面付き円板と平面の円板のなす角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と増ちょう剤とを含み、円錐・板レオメーター中で、測定温度25℃、制限周波数10Hzにて測定し、歪率100%において、貯蔵弾性率が500〜100000Paである、防音用グリース組成物。
【請求項2】
前記基油は、炭化水素合成油、ポリメタクリレート、シリコーン油のうち少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の防音用グリース組成物。
【請求項3】
前記増ちょう剤は、平均粒子径が20μm〜500μmである、請求項1または2に記載の防音用グリース組成物。
【請求項4】
用途が、ディスクブレーキ鳴き防止用である、請求項1から3のいずれか一項に記載の防音用グリース組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−241167(P2012−241167A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115156(P2011−115156)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】