説明

防音装置

【課題】トンネル微気圧波の低減効果を損なわず固定構造物の開口部から外部に放射する可聴域の騒音を低減することができる防音装置を提供する。
【解決手段】トンネル3内及びトンネル緩衝工4内を列車1が通過すると、列車1の車輪とレールとの間から発生する転動騒音がトンネル3内及びトンネル緩衝工4内で多重反射する。このため、この多重反射による可聴域の騒音がトンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射する。トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間には間隔Δが形成されている。その結果、トンネル3の坑口3aから列車1が突入したときにトンネル3内に発生する圧縮波W1の圧力勾配の緩和機能が防音体6によって損なわれることがなく、トンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射する多重反射による可聴域の騒音を防音体6が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体の移動方向に沿って開口部を有する固定構造物内をこの移動体が移動するときに、この開口部から外部に放射する騒音を低減する防音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図12に示すように、列車101がトンネル103の坑口103aに突入すると、列車101の前方のトンネル103内に圧縮波W1 が発生し、この圧縮波W1 がトンネル103内を伝播する。その結果、圧縮波W1の圧力勾配に略比例したパルス状の圧力波(以下、トンネル微気圧波という)W2 が突入側の坑口103aとは反対側の坑口103bから外部に放射する。また、図13に示すように、列車101がトンネル103の坑口103bから退出すると、列車101の後方のトンネル103内に圧縮波W3 が発生し、この圧縮波W3 がトンネル103内を伝播する。その結果、トンネル微気圧波W4 が退出側の坑口103bとは反対側の坑口103aから外部に放射する。同様に、図12及び図13に示す列車101とは反対側の線路をこの列車101とは反対方向に走行する列車がトンネル103の坑口103bから突入し、このトンネル103の反対側の坑口103aからこの列車が退出するときにも、圧縮波及びトンネル微気圧波が発生する。図12及び図13に示すトンネル微気圧波W2 ,W4 は、坑口103a,103b付近で衝撃音を発生させたり、坑口103a,103b付近の家屋の建具などを揺らしたりして、環境問題を引き起こす場合がある。このため、このようなトンネル微気圧波W2 ,W4 を低減するトンネル緩衝工104を坑口103aに設置して、列車先頭部が坑口103aに突入したときに発生する圧縮波W1 の圧力勾配を緩和させたり、このトンネル緩衝工104を反対側の坑口103bに設置して、列車先頭部が坑口103bに突入したときに発生する圧縮波の圧力勾配を緩和させたり、列車101の列車先頭部の形状を先鋭化したりするなどの対策がなされている。一方、列車101の高速化とともに新たな問題が発生している。
【0003】
図12に示すように、列車101がトンネル103の坑口103aに突入すると反対側の坑口103bから放射されるトンネル微気圧波W2 だけではなく、突入側の坑口103aから圧力波(以下、突入波という)W5 が外部に放射される。また、図13に示すように、列車101がトンネル103の坑口103bから退出すると反対側の坑口103aから放射されるトンネル微気圧波W4 だけではなく、退出側の坑口103bから圧力波W6 (以下、退出波という)が外部に放射される。同様に、図12及び図13に示す列車101とは反対側の線路をこの列車101とは反対方向に走行する列車がトンネル103の坑口103bから突入し、このトンネル103の反対側の坑口103aからこの列車が退出するときにも、突入波及び退出波が発生する。この突入波W5 及び退出波W6 は、可聴域よりも低い周波数帯域である20Hz以下を主成分とする低周波音であり、トンネル微気圧波W2 ,W4 と同様に坑口103a,103b付近の家屋の建具などを揺らす場合がある。
【0004】
また、この突入波W5 及び退出波W6 は、列車101の移動方向に対して前後方向で強さが異なり(指向性があり)、坑口103a,103bの明り側よりもトンネル103側に強く放射される。例えば、列車先頭部が坑口103aに突入すると、先頭車両の運転席から見て前側(トンネル103の奥側)のほうが後側(トンネル103の手前側)よりも突入波W5 が強く放射される。さらに、複線トンネルの場合には、列車101を中心としてトンネル103が左右対称ではない。このため、この突入波W5 及び退出波W6 は、列車101の移動方向に対して直交する左右方向で強さが異なり(指向性があり)、トンネル103の中心軸線に対して列車101の中心軸線が偏っている側(トンネル103に対して列車101が偏っている側)に強く放射される。例えば、日本の鉄道のように列車101が左側通行である場合には、列車先頭部が坑口103aに突入すると、列車101の先頭車両の運転席から見て左側のほうが右側よりも突入波W5 が強く放射される。
【0005】
従来のトンネル緩衝工は、トンネルの坑口に設置されるフード部の側壁に開閉度を調整可能なスリット状の開口部を備えている(例えば、特許文献1参照)。このような従来のトンネル緩衝工では、開口部の開閉度を調整することによってこの開口部の開口面積を変化させて、列車先頭部がトンネルの坑口に突入したときにこのトンネル内に発生する圧縮波の圧力勾配を開口部によって小さく抑え、トンネル微気圧波を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-019668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高速で走行する新幹線列車などがトンネル内を通過すると、トンネル長が短い場合を除き、この新幹線列車の車輪とレールとの間で発生する転動騒音などがこのトンネル内で多重反射して、トンネルの坑口における新幹線列車の沿線騒音が通常区間よりも大きくなる。従来、トンネルの坑口付近のみ防音壁をかさ上げして騒音を低減したり、トンネルの坑口付近に吸音材を敷設したりして騒音の低減対策を図っていた。しかし、従来のトンネル緩衝工では、側壁に開口部が存在するためこのトンネル緩衝工内で多重反射して開口部から外部に可聴域の騒音が放射する問題点がある。特に、従来のトンネル緩衝工では、開口部の開閉度を調整する作業が実施しやすいように、側壁の比較的低い部分に開口部が設けられていることが多い。このため、従来のトンネル緩衝工では、通常の高架区間では防音壁によって遮蔽されるような新幹線列車の転動騒音などの下部音が開口部からそのまま放射されてしまう問題点がある。一方、従来のトンネル緩衝工では、列車通過時に発生する多重反射による可聴域の騒音が開口部から外部に放射するのを防ぐためにこの開口部を塞ぐと、トンネル微気圧波W2が増大してしまう問題点がある。
【0008】
この発明の課題は、トンネル微気圧波の低減効果を損なわず固定構造物の開口部から外部に放射する可聴域の騒音を低減することができる防音装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図1〜図3及び図7に示すように、移動体(1)の移動方向(A,B)に沿って開口部(4e)を有する固定構造物(3,4)内をこの移動体が移動するときに、この開口部から外部に放射する騒音を低減する防音装置であって、前記固定構造物内を前記移動体が移動するときに、前記開口部から外部に放射する可聴域の騒音(S)を低減する防音体(6)を備えることを特徴とする防音装置(5)である。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の防音装置において、前記防音体は、前記固定構造物の入口(4a)に前記移動体が突入したときに発生する圧縮波(W1)の圧力勾配の緩和機能を維持しつつ、前記開口部から外部に放射される可聴域の騒音を低減するように、この開口部から所定の間隔(Δ)をあけて配置されていることを特徴とする防音装置である。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の防音装置において、前記防音体は、前記開口部の開口面積が5m2以上15m2以下であるときに、この開口部から0.3m以上3.0m以下の間隔をあけて配置されていることを特徴とする防音装置である。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の防音装置において図5、図6、図9及び図10に示すように、前記防音体と前記開口部との間の間隔を調整する間隔調整部(7)を備えることを特徴とする防音装置である。
【0013】
請求項5の発明は、請求項4に記載の防音装置において、図5及び図6に示すように、前記間隔調整部は、前記防音体を任意の位置に着脱自在に固定する固定部(7c)を備えることを特徴とする防音装置である。
【0014】
請求項6の発明は、請求項4に記載の防音装置において、図10に示すように、前記間隔調整部は、前記移動体の形式毎に前記防音体を所定の移動位置に駆動する駆動部(7j)を備えることを特徴とする防音装置である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によると、トンネル微気圧波の低減効果を損なわず固定構造物の開口部から外部に放射する可聴域の騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の第1実施形態に係る防音装置の斜視図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係る防音装置の正面図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係る防音装置の側面図である。
【図4】この発明の第1実施形態に係る防音装置の平面図である。
【図5】この発明の第1実施形態に係る防音装置の間隔調整部の一部を破断して示す正面図である。
【図6】この発明の第1実施形態に係る防音装置の間隔調整部の一部を破断して示す平面図である。
【図7】この発明の第2実施形態に係る防音装置の斜視図である。
【図8】この発明の第2実施形態に係る防音装置の平面図である。
【図9】この発明の第2実施形態に係る防音装置の間隔調整部の一部を破断して示す正面図である。
【図10】この発明の第2実施形態に係る防音装置の間隔調整部の一部を破断して示す平面図である。
【図11】この発明の第2実施形態に係る防音装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図12】トンネルに列車が突入するときに坑口から外部に放射する圧力波の概念図である。
【図13】トンネルから列車が退出するときに坑口から外部に放射する圧力波の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1〜図4に示す列車1は、軌道2に沿って移動する移動体である。列車1は、例えば、300km/h以上の高速で走行する新幹線車両である。軌道2は、列車1が走行する通路(移動経路)である。軌道2は、二本の本線で構成された複線であり、上り本線となる線路2aと、下り本線となる線路2bとを備えている。図1及び図2に示すトンネル3は、山腹などの地中を貫通して列車1を通過させるための固定構造物(土木構造物)である。図1及び図2に示すトンネル3は、線路2a,2bを一つの固定構造物内に収容する複線用の鉄道トンネル(複線トンネル)である。トンネル3は、図1及び図2に示すように、列車1が突入及び退出する出入口となる坑口3aと、トンネル3の上半分を形成する半円状のアーチ部3bと、トンネル3の下半分の両側部分を形成する側壁3c,3dなどを備えている。
【0018】
図1〜図4に示すトンネル緩衝工4は、図12及び図13に示すトンネル微気圧波W2 ,W4 を低減するためにトンネル3の坑口3aを覆う固定構造物(土木構造物)である。図1〜図4に示すトンネル緩衝工4は、線路2a,2bを一つのトンネル覆工内に収容する複線用の入口緩衝工(複線トンネル緩衝工)である。トンネル緩衝工4は、列車1の先頭部がトンネル3の入口側の坑口3aに突入したときに発生する図12及び図13に示すような圧縮波W1,W3の圧力勾配(波面の勾配)を緩やかにすることによって、トンネル3の出口側の坑口3aから外部に放射するトンネル微気圧波W2を低減する。トンネル緩衝工4は、例えば、トンネル断面積の1.4〜1.5倍程度のコンクリート製、鉄筋コンクリート製又は鋼板製のフード状(覆い状)の構造物であり、坑口3aの外部に軌道2に沿ってトンネル3を延長するように構築されている。トンネル緩衝工4は、図1〜図4に示すように、列車1が突入及び退出する出入口4aと、トンネル緩衝工4の上側部分を構成する天部4bと、図1、図2及び図4に示すようにトンネル緩衝工4の側面部分を構成する側壁4c,4dと、図1〜図3に示すように列車1の移動方向(A,B方向)に沿って開口部4eなどを備えている。トンネル緩衝工4は、列車1の速度に応じた長さに構築されており、近年の列車1の高速化に伴って延伸化している。
【0019】
図1〜図3に示す開口部4eは、トンネル微気圧波W2 ,W4 の圧力勾配を緩和する部分である。開口部4eは、図1及び図3に示すように、列車1の移動方向に所定の間隔をあけて、図1及び図2に示すようにトンネル緩衝工4の側壁4c,4dを貫通して形成されている。開口部4eは、開口面積が大きくなりすぎるとトンネル微気圧波W2 ,W4 が大きくなる。開口部4eは、トンネル3の坑口3aに列車1が突入するときに発生する圧縮波W1の勾配が可能な限り小さくなるような形状に調整され、列車1の先頭部形状によって決定されており、突入波W5及び退出波W6の影響も考慮したうえで、最適な個数(例えば1〜4個程度)が形成されている。開口部4eは、図2に示すように、トンネル緩衝工4に突入する列車1が通過する線路2a側に近い側壁4cと、このトンネル緩衝工4から退出する列車1が通過する線路2b側に近い側壁4dとにそれぞれ形成されている。開口部4eは、図1及び図3に示すように、外観が略四角形状である。開口部4eは、一箇所あたりの開口面積が5m2を下回るとトンネル微気圧波W2の低減効果が損なわれ、一箇所あたりの開口面積が15m2を超えると列車突入時に急激に圧力が変化して圧縮波W1の勾配が大きくなりトンネル微気圧波W2 ,W4 の低減に差し障るため、一箇所あたりの開口面積が5m2以上15m2以下に調整されている。開口部4eは、列車1の先頭部形状に応じて開口面積を現場で調整可能なスライド式、巻取式又は開閉式のシャッタを備えており、列車1の先頭部形状に応じて圧縮波W1の圧力勾配が緩和するように、このシャッタの開閉度を調整して開口面積を変化させる。開口部4eは、開口面積を作業者が容易に調整可能なように地上から1.0〜1.5m程度の範囲内に配置されている。
【0020】
図1〜図4に示す防音装置5は、トンネル3及びトンネル緩衝工4内を列車1が移動するときに、このトンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射する騒音Sを低減する装置である。防音装置5は、例えば、図2に示すように、列車走行時に車輪とレールとが振動することによって発生する転動騒音などが騒音源となって、トンネル3内及びトンネル緩衝工4内で反射を繰り返したときに、このトンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射される多重反射による可聴域の騒音Sを低減する。防音装置5は、図1〜図6に示す防音体6と間隔調整部7などを備えている。
【0021】
図1〜図6に示す防音体6は、トンネル3内及びトンネル緩衝工4内を列車1が移動するときに、このトンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射する可聴域の騒音Sを低減する部分である。防音体6は、トンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射する多重反射に起因する可聴域の騒音Sが沿線に伝搬するのを防ぐ入口緩衝工の開口部用防音壁として機能する。防音体6は、トンネル3の坑口3aに列車1が突入したときに発生する圧縮波W1の圧力勾配の緩和機能を維持しつつ、このトンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射される可聴域の騒音Sを低減するように、この開口部4eから所定の間隔Δをあけて配置されている。防音体6は、トンネル緩衝工4の開口部4eからの間隔Δが0.3mを下回るとトンネル微気圧波W4の低減機能が損なわれ、この間隔Δが3mを上回ると多重反射による可聴域の騒音Sの低減機能が損なわれるため、この開口部4eの開口面積が5〜15m2であるときに、この開口部4eから0.3m以上3.0m以下の間隔Δをあけて配置することが好ましい。防音体6は、図1及び図3に示すように、外観が四角形状の防音壁(遮音壁)であり、図3に示すようにトンネル緩衝工4の側壁4c,4dに対して垂直方向から見たときに、このトンネル緩衝工4の開口部4eを覆うように配置されている。防音体6の幅は、開口部4eの幅よりも広く、防音体6の高さは開口部4eの高さよりも高く形成されている。防音体6は、図1、図4及び図6に示すように、トンネル緩衝工4の側壁4dおよび開口部4eと対向する側の表面がこれらの側壁4d及び開口部4eと略平行に配置されている。防音体6は、図2に示すように、開口部中心(音源)P1と受音点(観測点)P2との間に設置されており、回折効果によって騒音Sを減衰させるとともに、開口部中心P1から伝搬する音の強さを減衰させる防音機能と、開口部中心P1からの騒音Sを吸収する吸音機能と、開口部中心P1からの騒音Sが外部に放射するのを抑える遮音機能とを有する。防音体6は、図5及び図6に示すように、防音材6aと保護部材6bなどを備えている。
【0022】
図5及び図6に示す防音材6aは、騒音源からの音を減衰させる部材である。防音材6aは、例えば、グラスファイバ又はロックウールなどの高性能吸音材、セラミックスなどの多孔質吸音材などである。保護部材6bは、防音材6aを保護する部材であり、この防音材6aの一部が露出するようにこの防音材6aの表面を保護する。保護部材6bは、例えば、トンネル緩衝工4の開口部4eと対向する側の表面に多数の貫通孔を有するパンチングメタルのような金属板である。
【0023】
図1〜図6に示す間隔調整部7は、トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間の間隔Δを調整する部分である。間隔調整部7は、例えば、防音体6を設置する現場の状況に応じてこの防音体6の位置を変更する必要があるときに、トンネル緩衝工4の開口部4eから防音体6まで距離が最適になるようにこの防音体6の位置を手動で調整する。間隔調整部7は、図5及び図6に示すように、支持部7aと、接合部7bと、固定部7cなどを備えている。支持部7aは、防音体6を支持する部分である。支持部7aは、図5に示すように、断面が略U字状の溝形鋼などであり、図4に示すようにトンネル緩衝工4の側壁4c,4dに対して略直交する方向に伸びており、図1、図3及び図5に示すようにU字状の開口部を外側に向けて配置されている。支持部7aは、互いに平行な左右一対のガイド部として機能し、図示しない固定部材によって路盤上に着脱自在に固定されている。支持部7aは、図5に示すようにこの支持部7aを貫通して、図6に示すようにこの支持部7aの長さ方向に伸びる長孔状の貫通孔7dを備えている。図5及び図6に示す接合部7bは、支持部7aと接合する部分である。接合部7bは、図5に示すように、断面が略L字状の山形鋼などであり、保護部材6bの両側の下側角部に固定されている。接合部7bは、この接合部7bを貫通する貫通孔7eを備えている。図5及び図6に示す固定部7cは、防音体6を任意の位置に着脱自在に固定する部分である。固定部7cは、図5に示すように、支持部7a上に接合部7bを接合させた状態でこの支持部7aとこの接合部7bとを着脱自在に固定する。固定部7cは、支持部7aの貫通孔7dと接合部7bの貫通孔7eとに挿入される締結ボルト7fと、この締結ボルト7fに装着される締結ナット7gなどを備えている。
【0024】
次に、この発明の第1実施形態に係る防音装置の作用を説明する。
図1〜図4に示すように、線路2a上を走行する列車1がトンネル緩衝工4の出入口4aから突入すると、トンネル緩衝工4内からトンネル3内に向かって列車1が通過する。また、線路2b上を走行する列車1がトンネル3の坑口3aから退出すると、トンネル3内からトンネル緩衝工4内に向かって列車1が通過する。このとき、図1及び図2に示すトンネル3内のアーチ部3b、側壁3c,3d及び軌道2によって囲まれる空間内と、トンネル緩衝工4内の天部4b、側壁4c,4d及び軌道2によって囲まれた空間内で、列車1の車輪とレールとの間から発生する転動騒音などが多重反射して、図2に示すようにこの多重反射による騒音Sがトンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射する。
【0025】
図1、図2、図4及び図6に示すように、トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間には間隔Δが形成されている。このため、トンネル3の坑口3aから列車1が突入したときにトンネル3内に発生する圧縮波W1の圧力勾配の緩和機能が防音体6によって損なわれることがなく、トンネル微気圧波W2の低減効果も防音体6によって損なわれることもない。トンネル緩衝工4の開口部4eから騒音Sが外部に放射すると、この騒音Sを防音体6の防音材6aが一部吸収して減衰させる。また、図2に示すように、騒音Sの音源となるトンネル緩衝工4の開口部中心P1と沿線の受音点P2との間に防音体6が位置するため、開口部中心P1から防音体6の頂点P3で回折して受音点P2に騒音Sが伝わる。このため、図2に示す開口部中心P1から受音点P2までを結ぶ音波の行路L1に比べて、中心点P0から頂点P3を通過して受音点P2までを結ぶ音波の行路L2のほうが長くなる。その結果、中心点P1から頂点P3で回折して受音点P2まで伝播する間に騒音Sが減衰し、受音点P2で観測される騒音Sが低減される。
【0026】
図1〜図4に示すように、トンネル3の坑口3aに列車1が突入すると、図12に示すような突入波W5がトンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射されるとともに、トンネル3の坑口3aから列車1が退出すると、図13に示すような退出波W6がこの開口部4eから外部に放射される。ここで、突入波W5及び退出波W6は、トンネル微気圧波W2,W4と同様に可聴域よりも低い20Hz以下の周波数帯域の低周波音であり、家屋や建具のがたつきの原因となる5〜15Hzの低周波音の波長は比較的長い22.7〜68.0m程度であるため、1m程度の防音壁では回析効果が殆ど期待できない。このため、突入波W5及び退出波W6について回折効果を期待するためには、防音壁を高くする必要があり施工費用が高くなってしまう。一方、図2に示すようなトンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射される可聴域の騒音Sは、突入波W5及び退出波W6とは異なり500〜2kHz程度の周波数帯域の高い可聴音であり、波長は比較的短い0.17〜0.68m程度であるため、1m程度の防音壁でも十分に回析効果が期待できる。
【0027】
例えば、列車先頭部の形状が異なる新型車両が導入されたときには、図12に示すような圧縮波W1の圧力勾配の波形が変化するため、トンネル微気圧波W2が低減するように、図1〜図3及び図6に示すトンネル緩衝工4の開口部4eの開口面積を可変して、この開口面積を最適な広さに調整する必要がある。その結果、トンネル緩衝工4の開口部4eから放射する騒音Sの大きさも変化するため、図1、図2、図4及び図6に示す開口部4eと防音体6との間の間隔Δを調整する必要がある。例えば、トンネル微気圧波W2を抑制するためにトンネル緩衝工4の開口部4eの開口面積を拡大したときには、トンネル微気圧波W2は抑制されるがこの開口部4eから放射する騒音Sが大きくなるため、この開口部4eと防音体6との間の間隔Δを狭くする必要がある。また、列車1が高速化して開口部4eから放射される騒音Sが大きくなったときにも、開口部4eと防音体6との間の間隔Δを調整する必要がある。また、トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間の間隔Δが狭すぎてトンネル微気圧波W2の抑制効果が低下するような場合には、このトンネル微気圧波W2が大きくならないように、この間隔Δを調整する必要がある。さらに、防音体6を現場に設置した後に開口部4eと防音体6との間の間隔Δを調整する必要もある。このような場合には、図5に示すように、トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間の間隔Δが最適になるような位置に、この防音体6を支持部7a上に位置決めする。次に、支持部7a上に接合部7bを接合させた状態で、支持部7aの貫通孔7dと接合部7bの貫通孔7eとに締結ボルト7fを挿入し、この締結ボルト7fに締結ナット7gを締め付けると、支持部7a上の任意の位置に防音体6が固定される。
【0028】
この発明の第1実施形態に係る防音装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、トンネル緩衝工4内を列車1が移動するときに、このトンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射する可聴域の騒音Sを防音体6が低減する。このため、トンネル緩衝工4の開口部4eから沿線に放射される多重反射による騒音Sによって、沿線の環境が低下するのを防ぐことができる。
【0029】
(2) この第1実施形態では、トンネル緩衝工4の出入口4aに列車1が突入したときに発生する圧縮波W1の圧力勾配の緩和機能を維持しつつ、このトンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射される可聴域の騒音Sを低減するように、この開口部4eから所定の間隔Δをあけて防音体6が配置されている。このため、防音体6の回折効果によって騒音Sを減衰させて、トンネル3の坑口3a付近の騒音Sを低減することができる。また、トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間に間隙部が形成されるため、この防音体6がこの開口部4eを塞ぐことがない。このため、トンネル緩衝工4の開口部4eの開口面積が変化せず、トンネル緩衝工4の機能が低下するのを防ぐことができ、このトンネル緩衝工4によるトンネル微気圧波W2の低減効果を維持することができる。また、防音体6の高さを調整することによって、トンネル緩衝工4の開口部4eから放射してこの防音体6で回折する騒音Sの方向を変化させ、騒音Sの伝播する区域を沿線の住民の居住区域から遠ざけることができる。また、列車1の走行に伴って発生する列車風によって防音壁に作用する列車風荷重に比べて、トンネル緩衝工4の開口部4eから排出される列車風によって防音体6に作用する列車風荷重のほうが小さいため、通常の防音壁に比べて防音体6を簡単な構造で安価に構築することができる。また、トンネル3の坑口3a付近は通常平地であるため、高架橋の上にかさ上げして防音壁を設置するような場合に比べて、簡単な基礎を施工するだけで防音体6を容易に設置することができる。さらに、防音体6の設置個所が開口部4e付近のみに制限されるため、追加施工するだけで騒音低減効果を安価で図ることができる。
【0030】
(3) この第1実施形態では、トンネル緩衝工4の開口部4eの開口面積が5m2以上15m2以下であるときに、この開口部4eから0.3m以上3.0m以下の間隔Δをあけて防音体6が配置されている。このため、トンネル3内に列車1が突入したときに発生する圧縮波W1の圧力勾配を緩和する効果が維持されて、トンネル微気圧波W2を低減する効果を維持することができる。また、トンネル緩衝工4及びトンネル3内を列車1が通過するときに発生する騒音Sがこのトンネル緩衝工4の開口部4eから沿線に放射して、沿線の環境が悪化するのを防ぐことができる。
【0031】
(4) この第1実施形態では、トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間の間隔Δを間隔調整部7が調整する。このため、現場の状況に応じて防音体6の位置を微調整して、防音体6を最適な位置に配置することができる。例えば、列車1の先頭部形状が異なる新型車両が導入されてトンネル緩衝工4の開口部4eの開口面積を変更した場合や、列車1の走行速度が向上して騒音Sが大きくなった場合などに、開口部4eと防音体6との間の間隔Δを調整して、沿線に伝搬する騒音Sを低減することができる。
【0032】
(5) この第1実施形態では、防音体6を任意の位置に着脱自在に固定する固定部7cを間隔調整部7が備えている。このため、防音体6の位置を最適な位置に調整した後に、この最適な位置にこの防音体6を固定することができるとともに、現場の状況によって防音体6の位置を再調整したときに、再調整後の位置にこの防音体6を固定することができる。
【0033】
(第2実施形態)
以下では、図1〜図6に示す部分と同一の部分については、同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図7〜図10に示す防音装置5は、防音体6と、間隔調整部7と、防音体位置設定部8と、防音体位置情報記憶部9と、制御部10などを備えている。間隔調整部7は、例えば、列車1の形式に応じて防音体6の位置を変更する必要があるときに、トンネル緩衝工4の開口部4eからこの防音体6まで距離が最適になるようにこの防音体6の位置を自動で調整する。間隔調整部7は、図8及び図9に示す回転体7hと、ガイド部7iと、図7及び図9に示す駆動部7jなどを備えている。
【0034】
図9及び図10に示す回転体7hは、防音体6を支持する部分であり、ガイド部7iに沿って回転する車輪などである。回転体7hは、図9に示すように、保護部材6bの両側の下側角部に回転自在に装着されている。図9及び図10に示すガイド部7iは、防音体6を移動自在にガイドする部分であり、この防音体6が前後方向に移動可能なように回転体7hを回転自在に支持する。ガイド部7iは、トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間の間隔Δを調整可能なように、この防音体6を移動自在にガイドする。ガイド部7iは、図9に示すように、断面が略U字状の溝形鋼などであり、図7及び図8に示すようにトンネル緩衝工4の側壁4c,4dに対して略直交する方向に伸びており、図9に示すように略U字状の開口部を内側に向けて配置されている。ガイド部7iは、互いに平行な左右一対の誘導路として機能し、図示しない固定部材によって路盤上に着脱自在に固定されている。
【0035】
図7、図8及び図10に示す駆動部7jは、列車1の形式毎に防音体6を所定の移動位置に駆動する部分である。駆動部7jは、トンネル緩衝工4の開口部4eに対して防音体6が接近及び離間するように、この防音体6を任意の位置に駆動する。駆動部7jは、トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間の間隔Δが列車1の形式に応じて変化するように、ガイド部7iに沿って防音体6を駆動する。駆動部7jは、例えば、トンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射される騒音Sが大きくなるときには、この開口部4eと防音体6との間の間隔Δが狭くなるような所定の移動位置にこの防音体6を駆動する。一方、駆動部7jは、例えば、トンネル緩衝工4の開口部4eから外部に放射される騒音Sが小さくなるときには、この開口部4eと防音体6との間の間隔Δが広がるような所定の移動位置にこの防音体6駆動する。駆動部7jは、例えば、油圧又は空気圧などの作動流体の流体圧によって駆動力を発生する油圧シリンダ又は空気圧シリンダなどのアクチュエータである。駆動部7jは、図7、図8及び図10に示すシリンダ部7kと、ピストンロッド部7mと、図7及び図10に示す連結部7nと、図7、図8及び図10に示す流体圧回路7pなどを備えている。
【0036】
図7、図8及び図10に示すシリンダ部7kは、防音体6を駆動するための駆動力を発生する部分であり、作動流体が流入及び流出することによって内部の流体圧が変化する。ピストンロッド部7mは、シリンダ部7k内の流体圧の変化に応じて進退動作する部分である。図7及び図10に示す連結部7nは、ピストンロッド部7mの先端部を防音体6に回転自在に連結する部分である。図7、図8及び図10に示す流体圧回路7pは、ピストンロッド部7mを作動流体の流体圧によって駆動させるための回路である。流体圧回路7pは、図10に示すように、ポンプ7qと、タンク7rと、方向切替弁7sなどを備えている。ポンプ7qは、シリンダ部7kに作動流体を供給する装置であり、タンク7rはこのシリンダ部7kから排出される作動流体を回収する装置である。方向切替弁7sは、ピストンロッド部7mの前進、後退及び停止を切り替える装置である。方向切替弁7sは、ソレノイドSOL-Aが通電状態であるときには、シリンダ部7kのヘッド側室S1に作動流体を供給させるとともに、ロッド側室S2から作動流体を排出させて、ピストンロッド部7mを前進させる。一方、方向切替弁7sは、ソレノイドSOL-Bが通電状態であるときには、シリンダ部7kのヘッド側室S1から作動流体を排出させるとともに、ロッド側室S2に作動流体を供給させて、ピストンロッド部7mを後退させる。方向切替弁7sは、ソレノイドSOL-A,SOL-Bが非通電状態であるときには、シリンダ部7kのヘッド側室S1及びロッド側室S2への作動流体の供給及び排出を停止させて、ピストンロッド部7mを停止させる。
【0037】
図7及び図8に示す防音体位置設定部8は、各列車1に対応する防音体6の移動位置を設定する手段である。防音体位置設定部8は、トンネル緩衝工4の開口部4eから放射される騒音Sを低減可能なように、この開口部4eと防音体6との間の間隔Δが最適値になるような防音体6の移動位置を予め設定する。防音体位置設定部8は、実際に最高速度で各形式の列車1が通過するときに発生する騒音Sを予め現場で測定して、列車1の形式毎の防音体6の最適な移動位置を設定する。また、防音体位置設定部8は、実際のトンネル3及びトンネル緩衝工4を模擬した模型構造物内に、実際の列車1を模擬した模型列車を通過させる列車/トンネル模型試験装置によって発生する騒音Sを測定して、列車1の形式毎の防音体6の最適な移動位置を設定する。防音体位置設定部8は、例えば、トンネル緩衝工4の開口部4eから放射される騒音Sが大きくなるときには、トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間の間隔Δが比較的狭くなるような所定の移動位置を設定する。一方、防音体位置設定部8は、例えば、トンネル緩衝工4の開口部4eから放射される騒音Sが小さくなるときには、トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間の間隔Δが比較的広くなるような所定の移動位置を設定する。防音体位置設定部8は、例えば、防音体6の移動位置を設定者などが設定するときに数値を入力する入力装置などである。防音体位置設定部8は、設定された各列車1の形式に対応する防音体6の移動位置を防音体位置情報として制御部10に出力する。
【0038】
防音体位置情報記憶部9は、各列車1の形式に対応する防音体6の移動位置を記憶する部分である。防音体位置情報記憶部9は、例えば、線路2a,2b上を各列車1が通過する通過時刻順に、各列車1に対応する防音体6の移動位置(移動量)を防音体位置情報(防音体移動量情報)として記憶するメモリなどである。防音体位置情報記憶部9は、トンネル3及びトンネル緩衝工4を通過する各列車1の形式に応じて騒音Sの大きさが異なるときに、列車1の形式毎に防音体6の移動位置を記憶する。防音体位置情報記憶部9は、例えば、軌道2上を通過する列車1の運行を集中して管理する列車運行管理装置などから電気通信回線などを通じて、各列車1の形式及び各列車1の通過時刻などを読み込み、防音体位置設定部8によって列車1の形式別に予め設定された防音体6の移動位置を各列車1に対応させて記憶する。
【0039】
制御部10は、駆動部7jを駆動制御する部分である。制御部10は、防音体位置設定部8が出力する防音体位置情報の記憶を防音体位置情報記憶部9に指令したり、防音体位置情報記憶部9が記憶する防音体位置情報に基づいて防音体6を所定の移動位置に駆動するように駆動部7jに指令したりする。制御部10は、防音体位置情報記憶部9から防音体位置情報を読み出し、防音体6が所定の位置まで進退するように駆動部7jの流体圧回路7pを動作制御する。制御部10は、防音体6を所定位置まで前進させるときには、シリンダ部7kのヘッド側室S1にポンプ7qから作動流体が供給されてロッド側室S2からタンク7rに作動流体が排出されるように、ポンプ7qに作動流体の供給動作を指令するとともに方向切替弁7sのソレノイドSOL-Aを通電状態にする。一方、制御部10は、防音体6を所定位置まで後退させるときには、シリンダ部7kのロッド側室S2にポンプ7qから作動流体が供給されてヘッド側室S1からタンク7rに作動流体が排出されるように、ポンプ7qに作動流体の供給動作を指令するとともに方向切替弁7sのソレノイドSOL-Bを通電状態にする。制御部10は、防音体6を所定位置で停止させるときには、シリンダ部7kのヘッド側室S1及びロッド側室S2への作動流体の供給及び排出が停止されるように、ポンプ7qに作動流体の停止動作を指令するとともに方向切替弁7sのソレノイドSOL-A,SOL-Bを非通電状態にする。
【0040】
次に、この発明の第2実施形態に係る防音装置の動作を説明する。
以下では、制御部10の動作を中心として説明する。
図11に示すステップ(以下、Sという)S100において、防音体位置情報を防音体位置情報記憶部9から制御部10が読み込む。図7及び図8に示す防音体位置設定部8によって防音体位置情報が設定されると、この防音体位置情報が防音体位置情報記憶部9に記憶されるため、この防音体位置情報記憶部9から防音体位置情報を制御部10が読み出す。
【0041】
S110において、軌道2上を列車1が通過するか否かを制御部10が判断する。軌道2上を通過する各列車1の通過時刻を防音体位置情報から参照し、各列車1の通過時刻よりも所定時間前に現在時刻が達したか否かを、制御部10が有する時計機能によって制御部10が判断する。各列車1の通過時刻よりも所定時間前に現在時刻が達したときには、この所定時間経過後にトンネル3及びトンネル緩衝工4を列車1が通過すると制御部10が判断してS120に進む。一方、各列車1の通過時刻よりも所定時間前に現在時刻が達していないときには、トンネル3及びトンネル緩衝工4を列車1が通過しないため、軌道2上を列車1が通過するまで制御部10がS110の判断を繰り返す。
【0042】
S120において、防音体6の移動開始を駆動部7jに制御部10が指令する。列車1の通過時刻よりも所定時間前に現在時刻が達したときには、この列車1がトンネル3及びトンネル緩衝工4を通過する前に防音体6を最適な位置に移動させる必要がある。防音体位置情報記憶部9から制御部10が読み出した防音体位置情報に基づいて、駆動部7jの流体圧回路7pを制御部10が動作制御する。例えば、直前に通過した列車1による騒音Sが比較的小さく、今回通過予定の列車1による騒音Sが比較的大きくなる場合には、防音体6の位置をトンネル緩衝工4の開口部4eに近い位置に調整する必要がある。このため、ピストンロッド部7mが伸長して防音体6が前進するように、ポンプ7q及び方向切替弁7sを制御部10が動作制御する。一方、例えば、直前に通過した列車1による騒音Sが比較的大きく、今回通過予定の列車1による騒音Sが比較的小さくなる場合には、防音体6の位置をトンネル緩衝工4の開口部4eから離れた位置に調整する必要がある。このため、ピストンロッド部7mが縮小して防音体6が構体するように、ポンプ7q及び方向切替弁7sを制御部10が動作制御する。
【0043】
S130において、軌道2上を次の列車1が通過するか否かを制御部10が判断する。軌道2上を通過する各列車1の通過時刻を防音体位置情報から参照し、軌道2上を通過する次の列車1が存在するか否かを制御部10が判断する。軌道2上を通過する次の列車1が存在すると制御部10が判断したときには、S110に戻りS110以降の処理が継続される。一方、軌道2上を通過する次の列車1が存在しないと制御部10が判断したときには、一連の処理を制御部10が終了する。
【0044】
この発明の第2実施形態に係る防音装置には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第2実施形態では、列車1の形式毎に防音体6を所定の移動位置に駆動する駆動部7jを間隔調整部7が備えている。このため、トンネル緩衝工4の開口部4eと防音体6との間の隙間Δを最適な位置に、列車1の形式に応じて自動的に調整することができる。例えば、新形式と旧型式のような形式の異なる複数種類の列車1が軌道2上を走行するときには、各列車1の形式に合わせて防音体6を最適な位置に調整することができる。その結果、トンネル微気圧波W2の低減効果を損なうことなく、トンネル緩衝工4の開口部4eから放射する騒音Sを低減することができる。
【0045】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、移動体が列車1である場合を例に挙げて説明したが、磁気浮上式鉄道又は自動車などの他の移動体についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、固定構造物がトンネル3及びトンネル緩衝工4である場合を例に挙げて説明したが、固定構造物をこれらに限定するものではない。例えば、雪崩を通過させるために山腹斜面から線路上を覆う庇状のスノーシェッド(雪崩防護工)、吹雪、地吹雪による線路上の吹き溜まりの発生を防止するために線路上を覆うスノーシェルタ、斜面から転落又は落下してくる落石を通過させるために線路上を覆う落石覆い(落石防護工)、線路上を立体的に交差する橋梁又は高架橋などの立体交差、線路上部に駅本屋が存在する橋上駅(橋上建物)、線路を超えるために線路上に架け渡された跨線橋などの固定構造物についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、トンネル緩衝工4の側壁4c,4dに四角形状の開口部4eを等間隔に3個形成した場合を例に挙げて説明したが、開口部4eの設置個所、設置間隔、形状又は個数をこれらに限定するものではない。例えば、トンネル緩衝工4の天部4bに開口部4eを形成したり、トンネル緩衝工4の線路2b側に近い側壁4dのみに開口部4eを形成したり、開口部4eの形状を列車1の移動方向に向かって徐々に狭くなるような切欠に形成したり、開口部4eの間隔をランダムにしたり、開口部4eを1個、2個又は4個以上形成したりすることもできる。
【0046】
(2) この実施形態では、軌道2が複線である場合を例に挙げて説明したが、軌道2が複々線である場合についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、トンネル緩衝工4の開口部4eから放射する多重反射による騒音Sが転動騒音である場合を例に挙げて説明したが、転動騒音に限定するものではない。例えば、列車1の周囲の流れによって発生する渦と車両表面との相互作用によって生ずる空力騒音、架線とパンタグラフとの間で発生する集電系騒音などが多重反射する場合についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、トンネル緩衝工4の開口部4eから放射する多重反射による騒音Sを低減する場合を例に挙げて説明したが、このような騒音に限定するものではない。例えば、転動騒音、空力騒音、集電系騒音などのような可聴域の騒音がトンネル3及びトンネル緩衝工4内で反射せずに騒音源から開口部4eに直接伝播してこの開口部4eから放射する場合についてもこの発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 列車(移動体)
2 軌道
2a,2b 線路
3 トンネル(固定構造物)
3a 坑口
4 トンネル緩衝工(固定構造物)
4a 出入口
4c,4d 側壁
4e 開口部
5 防音装置
6 防音体
6a 防音材
6b 保護部材
7 間隔調整部
7a 支持部
7b 接合部
7c 固定部
7h 回転体
7i ガイド部
7j 駆動部
7k シリンダ部
7m ピストンロッド部
7n 連結部
7p 流体圧回路
8 防音体位置設定部
9 防音体位置情報記憶部
10 制御部
1,W3 圧縮波
2,W4 トンネル微気圧波
5 突入波
6 退出波
Δ 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の移動方向に沿って開口部を有する固定構造物内をこの移動体が移動するときに、この開口部から外部に放射する騒音を低減する防音装置であって、
前記固定構造物内を前記移動体が移動するときに、前記開口部から外部に放射する可聴域の騒音を低減する防音体を備えること、
を特徴とする防音装置。
【請求項2】
請求項1に記載の防音装置において、
前記防音体は、前記固定構造物の入口に前記移動体が突入したときに発生する圧縮波の圧力勾配の緩和機能を維持しつつ、前記開口部から外部に放射される可聴域の騒音を低減するように、この開口部から所定の間隔をあけて配置されていること、
を特徴とする防音装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の防音装置において、
前記防音体は、前記開口部の開口面積が5m2以上15m2以下であるときに、この開口部から0.3m以上3.0m以下の間隔をあけて配置されていること、
を特徴とする防音装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の防音装置において、
前記防音体と前記開口部との間の間隔を調整する間隔調整部を備えること、
を特徴とする防音装置。
【請求項5】
請求項4に記載の防音装置において、
前記間隔調整部は、前記防音体を任意の位置に着脱自在に固定する固定部を備えること、
を特徴とする防音装置。
【請求項6】
請求項4に記載の防音装置において、
前記間隔調整部は、前記移動体の形式毎に前記防音体を所定の移動位置に駆動する駆動部を備えること、
を特徴とする防音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−225010(P2012−225010A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91761(P2011−91761)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)