説明

防風通聖散の苦味または臭みの低減方法

【課題】防風通聖散特有の苦味や漢方臭さといった独特な風味を低減して、服用感を改善する方法を提供する。
【解決手段】防風通聖散とカプサイシンまたはカプサイシン含有物とを併用するか、またはこれにさらに有機酸またはその塩を併用することによって実施することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防風通聖散の苦味または臭みを低減する方法に関する。より詳細には、本発明は、防風通聖散特有の苦味や漢方臭さをマスキングし、風味および服用感を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生薬配合製剤は、一般に、配合されている各生薬の独特な苦味や漢方臭さを有し、飲みにくい医薬品とされている。
【0003】
生薬配合製剤について苦味を低減し服用感を改善する方法としては、たとえば特許文献1および2に記載されているように、多くの場合、甘味剤の配合による苦味のマスキングにとどまっている。
【0004】
しかし、甘味剤の配合は、カロリーの増加を招くため、特に肥満症の予防および改善を目的に使用される防風通聖散に対しての使用は好ましいものではない。
【0005】
そこで、甘味剤の配合以外の方法で、防風通聖散の苦味や漢方臭さをマスキングし、風味および服用感を改善する方法が求められる。
【特許文献1】特許第2508555号公報
【特許文献2】特開平9−110708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、防風通聖散特有の苦味や漢方臭さをマスキングし、防風通聖散の風味および服用感を改善する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねていたところ、防風通聖散に辛味成分であるカプサイシン、または当該辛味成分であるカプサイシンを含有する例えばトウガラシを添加することで、防風通聖散特有の苦味や漢方臭さがマスキングされ、しかもこれらの辛味成分を添加することにより、防風通聖散に甘味が付与されて、風味および服用感が改善されることを見出した。さらに、本発明者らは、カプサイシンまたはトウガラシなどのカプサイシン含有物に加えて、防風通聖散にクエン酸などの有機酸またはその塩を配合することにより、上記効果、特に苦味や漢方臭さのマスキング効果が一層増大することを見出した。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を含むものである。
【0009】
(I)防風通聖散の苦味または臭みの低減方法
(I−1)防風通聖散とカプサイシンまたはカプサイシン含有物とを併用することを特徴とする防風通聖散の苦味または臭みの低減方法。
(I−2)カプサイシン含有物がトウガラシである、(I−1)に記載する防風通聖散の苦味または臭みの低減方法。
(I−3)さらに有機酸またはその塩を併用することを特徴とする、(I−1)または(I−2)に記載する防風通聖散の苦味または臭みの低減方法。
(I−4)上記有機酸がクエン酸である、(I−3)に記載する防風通聖散の苦味または臭みの低減方法。
(I−5)防風通聖散の苦味または臭みを低減して、防風通聖散の風味および服用感を改善する方法である、(I−1)乃至(I−4)のいずれかに記載する方法。
【0010】
なお、本発明において「臭み」とは、防風通聖散特有の漢方臭さを意味する。
【0011】
(II)防風通聖散の甘味増強方法
(II−1)防風通聖散とカプサイシンまたはカプサイシン含有物とを併用することを特徴とする防風通聖散の甘味増強方法。
(II−2)カプサイシン含有物がトウガラシである、(II−1)に記載する防風通聖散の甘味増強方法。
(II−3)さらに有機酸またはその塩を併用することを特徴とする、(II−1)または(II−2)に記載する防風通聖散の甘味増強方法。
(II−4)上記有機酸がクエン酸である、(II−3)に記載する防風通聖散の甘味増強方法。
(II−5)防風通聖散の甘味を増強して、防風通聖散の風味および服用感を改善する方法である、(II−1)乃至(II−4)のいずれかに記載する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防風通聖散に辛味成分であるカプサイシンやこれを含むトウガラシなどのカプサイシン含有物を配合することで、防風通聖散特有の苦味や漢方臭さがマスキングされ、その結果、防風通聖散の風味や服用感を改善することができる。かかるマスキング効果は、カプサイシンやこれを含むトウガラシなどのカプサイン含有物に加えて、有機酸、特にクエン酸またはその塩を、防風通聖散と併用することでより一層増強することができる。
【0013】
また本発明によれば、防風通聖散に辛味成分であるカプサイシンやこれを含むトウガラシなどのカプサイシン含有物を配合することで、防風通聖散に甘味が付与され、また増強することができ、上記の苦味および漢方臭さの低減と相俟って、防風通聖散の風味や服用感を一層改善することができる。
【0014】
一般に、生薬は長期間継続して服用することが要求される一方で、苦くて飲みにくいため服薬コンプライアンスが遵守されにくい医薬品である。本発明の方法によれば、防風通聖散の苦味や漢方臭さを改善して、風味よく飲みやすくすることができるため、継続的服用を無理なく実施することができ、服薬コンプライアンスを高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の防風通聖散の苦味または臭みの低減方法は、防風通聖散にカプサイシンまたはカプサイシン含有物を併用することによって実施することができる。
【0016】
防風通聖散は、たとえば「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)によれば、その成分及び分量は、トウキ1.2(重量部、以下同じ)、シャクヤク1.2、センキュウ1.2、サンシシ1.2、レンギョウ1.2、ハッカ1.2、ショウキョウ1.2、ケイガイ1.2、ボウフウ1.2、マオウ1.2、ダイオウ1.5、ボウショウ1.5、ビャクジュツ2.0、キキョウ2.0、オウゴン2.0、カンゾウ2.0、セッコウ2〜3、カッセキ3〜5とされており、原則として、これを、その20倍重量(従って560〜620重量部)の湯で抽出した後、1/2容量になるまで濃縮し、固形分を除いたもの(抽出液)が用いられる。
【0017】
なお、書簡によっては、上記成分中、ビャクジュツを含まないもの(例えば「経験漢方処方分量集」、大塚敬節・矢数道明監集、医道の日本社発行)や、オウゴンを含まないもの(例えば「続漢方あれこれ」大阪読売新聞社編、浪速社発行)や、上記分量中、1.2をすべて1.5としているもの(例えば「明解漢方処方」、西岡一夫、高橋真太郎共著、浪速社発行)など、成分や成分比が多少異なるものもある。また、エキスの作り方として、ボウショウ以外の上記各成分に水400重量部を加え、200重量部まで煎じて、かすを除き、次いでボウショウを加えるとしているもの(例えば「和漢薬ハンドブック」、久保道徳、森山健三共著、保育社発行)のように、作り方が上記と多少異なるものもある。本発明においては、これらの差異は特に制限されず、いずれも防風通聖散として包含される。
【0018】
本発明でいう防風通聖散には、漢方生薬調査会により定められた「漢方製剤の基本的取扱い方針」に規定されるように、前述する現在繁用されている漢方関係の書簡に記載されている漢方処方(生薬配合物)やこれらの漢方処方から得られるエキスが包含される。通常、エキスを常法により製剤化した、いわゆるエキス製剤としての防風通聖散がむしろ便宜に使用される。かかるエキス製剤の製法としては、例えば、上記各成分の混合物に対し、約10〜20倍量の水を加え、80〜100℃程度で1〜3時間程度撹拌抽出し、温時遠心分離もしくは、ろ過して抽出液を得、これを減圧下に濃縮し、スプレードライ法により乾燥エキスとするか、或いはエキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法が挙げられる。
【0019】
上記防風通聖散と併用されるカプサイシンには、カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシン、およびホモジヒドロカプサイシンが含まれる。これらは単独で用いられてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。かかるカプサイシンは、制限されないが、防風通聖散の乾燥エキスの量に換算して(以下同じ)、防風通聖散1000重量部に対して、少なくとも通常0.0004重量部の割合で用いられる。後述する試験例に示すように、防風通聖散の苦みや漢方臭さは併用するカプサイシンの量に依存して低減されるため、カプサイシンの配合量の上限は特に制限されない。敢えて規定するとすれば、防風通聖散1000重量部に対するカプサイシンの配合量として、好ましくは0.0004〜0.01重量部、より好ましくは0.0004〜0.006重量部、さらに好ましくは0.0004〜0.004重量部、特に好ましくは0.0004〜0.002重量部である。
【0020】
また、上記防風通聖散には、上記カプサイシンに代えて、カプサイシン含有物を併用することができる。カプサイシン含有物としては、具体的にはカプサイシンを含有するピーマン、パプリカ、シシトウガラシ、およびトウガラシを挙げることができるが、好ましくはトウガラシである。
【0021】
なお、トウガラシなどのカプサイシン含有物は粉砕または粉末化したものをそのまま用いてもよいが、カプサイシン濃度の高いものを用いるために、工業的に製造されたトウガラシなどの抽出物を用いることも可能である。例えばトウガラシをエタノールで抽出したトウガラシチンキ、ヘキサンやエーテル等の主として非極性から中間極性有機溶剤で抽出したトウガラシオレオレジン、さらにトウガラシオレオレジンをエタノールで再抽出し、不溶物をろ別したトウガラシアブソリュート等をその特性に応じて用いることも可能である。好ましくは、粉末状のトウガラシ(トウガラシ末)、およびトウガラシチンキである。
【0022】
カプサイシンに代えて、カプサイシン含有物を用いる場合、その配合量は、当該カプサイシン含有物に含まれるカプサイシンの量を考慮して適宜設定することができる。例えばカプサイシン含有物としてトウガラシを用いる場合、制限はされないが、防風通聖散1000重量部に対して、防風通聖散の乾燥エキスおよびトウガラシ末の量に換算して(以下、同じ)、少なくとも通常0.002重量部の割合で用いられる。後述する試験例に示すように、防風通聖散の苦みや漢方臭さは併用するトウガラシの量に依存して低減されるため、トウガラシの配合量の上限は特に制限されない。敢えて規定するとすれば、防風通聖散1000重量部に対するトウガラシの配合量として、好ましくは0.002〜10重量部、より好ましくは0.004〜10重量部、さらに好ましくは0.12〜10重量部、特に好ましくは0.2〜10重量部である。さらに甘味、飲みやすさにおいて好適な配合比は、制限されないが、防風通聖散1000重量部に対するトウガラシの上限として、好ましくは10重量部、より好ましくは6重量部、さらに好ましくは4重量部、特に好ましくは2重量部を挙げることができる。
【0023】
また、製剤中の防風通聖散の配合割合は、とくに限定されないが、5〜95重量%、より好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは30〜80重量%である。製剤中のカプサイシンおよびカプサイシン含有物の配合割合についても特に限定されず、防風通聖散に対して前記比率で配合すればよいが、例えば、カプサイシン含有物としてトウガラシ末を用いる場合、好ましくは2×10−5〜0.95重量%である。この範囲内において、防風通聖散の苦味や漢方臭さをマスキングする効果を特に顕著に得ることができる。
【0024】
さらに本発明の方法は、上記カプサイシンまたはカプサイシン含有物に加えて、防風通聖散に有機酸またはその塩を併用してもよく、かかる有機酸またはその塩の併用により、防風通聖散の苦味および漢方臭さがより一層低減され、風味および服用感をより改善することができる。
【0025】
ここで有機酸としては、制限されないが、クエン酸、コハク酸、アジピン酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、およびハイビスカス酸を挙げることができる。またこれらの有機酸を含む果汁を使用することもできる。好ましくはクエン酸またはクエン酸を含む果汁である。また、有機酸の塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に制限されず、たとえば、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩(具体的には、例えばクエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、アジピン酸、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、フマル酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムなど)、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属塩(具体的には、クエン酸カルシウムなど)を挙げることができる。好ましくはクエン酸ナトリウムおよびクエン酸カルシウムなどのクエン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩である。
【0026】
有機酸またはその塩は、制限されないが、防風通聖散の乾燥エキスおよび有機酸の量に換算して、防風通聖散1000重量部に対して、少なくとも通常0.4重量部の割合で用いられる。後述する試験例に示すように、防風通聖散の苦みや漢方臭さは併用する有機酸(クエン酸)の量に依存して低減されるため、有機酸の配合量の上限は特に制限されない。敢えて規定するとすれば、防風通聖散1000重量部に対する有機酸の配合量として、好ましくは0.4〜800重量部、より好ましくは0.4〜600重量部、さらに好ましくは0.4〜400重量部である。防風通聖散1000重量部に対する有機酸の配合量の好適な下限としては、制限されないが、好ましくは0.4重量部、より好ましくは2重量部、さらに好ましくは4重量部である。
【0027】
また、製剤中の有機酸またはその塩の配合割合については、特に限定されず、防風通聖散に対して前記比率で配合すればよいが、例えば、有機酸の量に換算して、好ましくは0.002〜44重量%である。この範囲内であると、防風通聖散の苦味や漢方臭さをマスキングする効果が顕著に奏される。
【0028】
本発明において、防風通聖散配合製剤の1日当たりの投与量は、防風通聖散の乾燥エキスの量に換算すると、通常1〜10g、好ましくは1.5〜8gである。本発明の製剤は、通常一日1回もしくは2〜3回に分けて経口投与の形態で用いられる。服用時刻は、特に限定されないが、食前または食間好が好ましい。
【0029】
製剤の形態としては、経口投与形態であれば粉末、顆粒、錠剤、カプセル等いずれでもよく、また、製剤化に際しては、常法により、適宜、賦形剤、展着剤、または滑沢剤などの添加剤をおのおの任意に使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明およびその効果を、試験例および実施例を用いてより明確に説明する。ただし、本発明はかかる試験例および実施例になんら制限されるものではない。なお、下記の実施例において特に言及しない場合は、「部」は重量部を、「%」は重量%を意味する。
【0031】
なお、下記の試験例および実施例で用いた「防風通聖散」は、漢方薬「防風通聖散」の1例として、防風通聖散料乾燥エキス(当帰1.2部、芍薬1.2部、センキュウ1.2部、山梔子1.2部、連翹1.2部、薄荷葉1.2部、生姜0.3部、荊芥1.2部、防風1.2部、麻黄1.2部、大黄1.5部、芒硝(硫酸ナトリウム十水塩)1.5部、白朮2.0部、桔梗2.0部、オウゴン2.0部、甘草2.0部、石膏2.0部、滑石3.0部より、水20部を用いて約100℃、1時間で抽出し、遠心分離して抽出液を得、減圧下濃縮してスプレードライを用いて乾燥したエキス)である。スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給して行った。
【0032】
また、カプサイシンとして、カプサイシン(アダプトゲン製薬株式会社製)、トウガラシとして、日局トウガラシ(株式会社栃本天海堂製)を粉末にしたもの を用いた。
【0033】
試験例1
防風通聖散の味に対するカプサイシンまたはトウガラシの影響について評価を行った。なお、味の評価は、味モニター者(味に敏感なパネラー)20名に、下記試験製剤(散剤)(比較例1、実施例1〜12)を水で服用してもらい、図1に示すアンケート用紙を用いて、味に関する6項目(苦味、甘味、辛味、風味、漢方臭さ、飲みやすさ)についてアンケートを行った結果に基づいて行った。なお、アンケート用紙(図1)中、「サンプルP」は、カプサイシンおよびトウガラシのいずれも含まない防風通聖散製剤(比較例1)を意味する。
【0034】
<試験製剤> 表1参照
比較例1:防風通聖散2.5g
実施例1:防風通聖散2.5g+カプサイシン0.001mg
実施例2:防風通聖散2.5g+カプサイシン0.005mg
実施例3:防風通聖散2.5g+カプサイシン0.01mg
実施例4:防風通聖散2.5g+カプサイシン0.015mg
実施例5:防風通聖散2.5g+トウガラシ0.01mg
実施例6:防風通聖散2.5g+トウガラシ0.25mg
実施例7:防風通聖散2.5g+トウガラシ0.3mg
実施例8:防風通聖散2.5g+トウガラシ0.45mg
実施例9:防風通聖散2.5g+トウガラシ1mg
実施例10:防風通聖散2.5g+トウガラシ5mg
実施例11:防風通聖散2.5g+トウガラシ10mg
実施例12:防風通聖散2.5g+トウガラシ15mg。
【0035】
【表1】

【0036】
なお表中、「CMC-Ca」はカルボキシメチルセルロースのカルシウム塩を意味する(以下の表において同じ)。
【0037】
防風通聖散にカプサイシンを併用した場合の効果を表2<1>に、防風通聖散にトウガラシを併用した場合の効果を表2<2>に、それぞれ示す。結果は、計20名のパネラーの評価の平均値を示す。
【0038】
【表2】

【0039】
結果からわかるように、防風通聖散にカプサイシンを併用した場合、カプサイシンの配合量に依存して、防風通聖散特有の苦味および漢方臭さが抑制された。また、防風通聖散1000重量部に対して0.0004〜0.006重量部、好ましくは0.0004〜0.004重量部、より好ましくは0.0004〜0.002重量部の割合でカプサイシンを配合することにより、甘味が増強するとともに、風味が良くなり、これに伴って飲みやすくなった。
【0040】
さらに、防風通聖散にカプサイシンを含有するトウガラシを併用した場合、上記と同様にトウガラシの配合量に依存して、防風通聖散特有の苦味および漢方臭さが抑制された。特に、防風通聖散1000重量部に対して0.004〜6重量部、好ましくは0.12〜6重量部、より好ましくは0.4〜6重量部の割合でトウガラシを配合することにより、苦味および漢方臭さが抑制された。さらに、飲みやすさや風味、甘味に関しては、防風通聖散1000重量部に対して6重量部以下、好ましくは4重量部以下(0.004〜4重量部)、より好ましくは2重量部以下(0.004〜2重量部)の割合でトウガラシを配合することにより、高い効果を得た。
【0041】
当該トウガラシにはカプサイシンが0.1重量%以上の割合で含まれていることから、防風通聖散に対する苦味マスキング効果、ならびに甘味、風味および服用感の増強は、トウガラシに含まれるカプサイシンに起因するところが大きいことがわかる。しかし、甘味、風味および服用感の増強の程度は、カプサイシンよりもトウガラシを使用したほうが大きかった。
【0042】
試験例2
防風通聖散にトウガラシおよびクエン酸を配合し、防風通聖散の味に対するトウガラシおよびクエン酸の影響について評価を行った。なお、味の評価は、試験例1と同様に、味モニター者(味に敏感なパネラー)20名に、下記試験製剤(散剤)(比較例1〜5、実施例13〜44)を水で服用してもらい、図1に示すアンケート用紙を用いて、味に関する6項目(苦味、甘味、辛味、風味、漢方臭さ、飲みやすさ)についてアンケートを行った結果に基づいて行った。なお、アンケート用紙(図1)中、「サンプルP」は、トウガラシおよびクエン酸のいずれも含まない防風通聖散製剤(比較例1)を意味する。
【0043】
<試験製剤> 表3<1>〜<4>参照
比較例1:防風通聖散2.5g
比較例2:防風通聖散2.5g+クエン酸1mg
実施例13:防風通聖散2.5g+クエン酸1mg+トウガラシ0.01mg
実施例14:防風通聖散2.5g+クエン酸1mg+トウガラシ0.25mg
実施例15:防風通聖散2.5g+クエン酸1mg+トウガラシ0.3mg
実施例16:防風通聖散2.5g+クエン酸1mg+トウガラシ0.45mg
実施例17:防風通聖散2.5g+クエン酸1mg+トウガラシ1mg
実施例18:防風通聖散2.5g+クエン酸1mg+トウガラシ5mg
実施例19:防風通聖散2.5g+クエン酸1mg+トウガラシ10mg
実施例20:防風通聖散2.5g+クエン酸1mg+トウガラシ15mg
比較例3:防風通聖散2.5g+クエン酸10mg
実施例21:防風通聖散2.5g+クエン酸10mg+トウガラシ0.01mg
実施例22:防風通聖散2.5g+クエン酸10mg+トウガラシ0.25mg
実施例23:防風通聖散2.5g+クエン酸10mg+トウガラシ0.3mg
実施例24:防風通聖散2.5g+クエン酸10mg+トウガラシ0.45mg
実施例25:防風通聖散2.5g+クエン酸10mg+トウガラシ1mg
実施例26:防風通聖散2.5g+クエン酸10mg+トウガラシ5mg
実施例27:防風通聖散2.5g+クエン酸10mg+トウガラシ10mg
実施例28:防風通聖散2.5g+クエン酸10mg+トウガラシ15mg
比較例4:防風通聖散2.5g+クエン酸1000mg
実施例29:防風通聖散2.5g+クエン酸1000mg+トウガラシ0.01mg
実施例30:防風通聖散2.5g+クエン酸1000mg+トウガラシ0.25mg
実施例31:防風通聖散2.5g+クエン酸1000mg+トウガラシ0.3mg
実施例32:防風通聖散2.5g+クエン酸1000mg+トウガラシ0.45mg
実施例33:防風通聖散2.5g+クエン酸1000mg+トウガラシ1mg
実施例34:防風通聖散2.5g+クエン酸1000mg+トウガラシ5mg
実施例35:防風通聖散2.5g+クエン酸1000mg+トウガラシ10mg
実施例36:防風通聖散2.5g+クエン酸1000mg+トウガラシ15mg
比較例5:防風通聖散2.5g+クエン酸2000mg
実施例37:防風通聖散2.5g+クエン酸2000mg+トウガラシ0.01mg
実施例38:防風通聖散2.5g+クエン酸2000mg+トウガラシ0.25mg
実施例39:防風通聖散2.5g+クエン酸2000mg+トウガラシ0.3mg
実施例40:防風通聖散2.5g+クエン酸2000mg+トウガラシ0.45mg
実施例41:防風通聖散2.5g+クエン酸2000mg+トウガラシ1mg
実施例42:防風通聖散2.5g+クエン酸2000mg+トウガラシ5mg
実施例43:防風通聖散2.5g+クエン酸2000mg+トウガラシ10mg
実施例44:防風通聖散2.5g+クエン酸2000mg+トウガラシ15mg。
【0044】
【表3】

【0045】
防風通聖散にトウガラシおよびクエン酸を併用した場合の効果を表4<1>〜<5>に示す。結果は、計20名のパネラーの評価の平均値を示す。
【0046】
【表4】

【0047】
結果からわかるように、防風通聖散にトウガラシに加えてクエン酸を併用することによって、クエン酸の配合量に依存して防風通聖散特有の苦味と漢方臭さが低減して、風味および服用感が一層改善された。
【0048】
さらに、実施例33のクエン酸に代えて、コハク酸、アジピン酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸およびハイビスカス酸を用いて同様に試験したところ、クエン酸を使用した場合と同様に、防風通聖散特有の苦味と漢方臭さが低減し、風味および服用感が一層改善された。
【0049】
これらの結果から、防風通聖散にカプサイシンやそれを含むトウガラシなどのカプサイシン含有物を配合することによって、またこれにさらに有機酸またはその塩を配合することによって、防風通聖散特有の苦味と漢方臭さが低減して、風味および服用感が改善されることが判明した。
【0050】
処方例1〜126
表5〜8に記載する処方(処方例1〜126)からなる散剤および錠剤を、常法に従って調製した。これらの製剤のうち、処方例4、5、11、16、29、35、40、53、89、95、100、115、117および122に従って調製した各散剤について、試験例1と同様に味(苦味、甘味、辛味、風味、漢方臭さ、飲みやすさ)に関する評価試験を行ったところ、苦味および漢方臭さのマスキング効果、ならびに甘味、風味、および飲みやすさの全てにおいて優れていた。
【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】試験例1と2で使用したアンケートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防風通聖散とカプサイシンまたはカプサイシン含有物とを併用することを特徴とする防風通聖散の苦味または臭みの低減方法。
【請求項2】
上記カプサイシン含有物がトウガラシである請求項1記載の防風通聖散の苦味または臭みの低減方法。
【請求項3】
さらに有機酸またはその塩を併用することを特徴とする、請求項1または2に記載する防風通聖散の苦味または臭みの低減方法。
【請求項4】
上記有機酸がクエン酸である、請求項3に記載する防風通聖散の苦味または臭みの低減方法。
【請求項5】
防風通聖散の苦味または臭みを低減して、防風通聖散の風味および服用感を改善する方法である、請求項1乃至4のいずれかに記載する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−84213(P2009−84213A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256138(P2007−256138)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】