説明

防食データ解析システム

【課題】 埋設パイプラインでは、カソード防食設備の健全性に対する異常を抽出する必要があるが、実際のカソード防食設備やパイプラインの異常をその都度、埋設パイプラインの掘り返しにより現地確認する必要があり、非効率的でコストを要した。
【解決手段】 カソード電位、アノード電流、電源電流のリアルタイム計測を実施し、変化の速度および加速度を求める。そして、過去の異常発生の事例との照合により、類似度の閾値判定を行い、異常発生を特定する確率を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、区間ごとに設置された陰極保護(以下、カソード防食と記載する)関連データの取得と時系列データ解析システムに係わり、埋設パイプラインに設置したカソード防食計測ステーションからカソード電位、アノード電流、電源電流データをリアルタイムで取得して、計算機装置でデータの変化や異常を解析することによりカソード防食設備、パイプライン、絶縁材の異常発生確率を算出するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
長距離パイプライン、とくに埋設されているパイプラインにおいては、腐食進行を防ぐため、カソード防食方式により腐食の進行を押さえることが行われる。カソード防食では、パイプラインにおけるカソード電位を取得する。このためパイプラインに沿ってカソード電位を計測するためのステーション(計測ステーション)を設置し、測定機器をステーションに接続することによって計測がなされる。計測ステーションは、パイプラインの区間ごとに設置される。そして後処理として計測値の異常を解析することによってパイプラインにおける防食設備、パイプライン、絶縁材の健全性を判定する。
【0003】
計測を自動化するためにネットワークを用いて計測する方法が示されている。特開2007−71712号公報では、計測自体をネットワーク化してカソード防食設備の稼動状況の変化から、パイプラインの健全性をはかるために、カソード防食設備の更新時期を予測する方式について示している。とくに変化する土壌の状態は予測することは困難であることからカソード電圧の変動の情報を用いて、カソード電圧値とアノード電流値を計測することによって土壌の抵抗値を求め、その抵抗値の変動を元にカソード防食施設の劣化を予測し防食設備の稼動不良を検知する。
【0004】
特開2007−191733号公報においては、一定サンプリング時間に従ってカソード電位の最大値を照合することにより迷走電流の兆候を計測する手法が示されている。
【0005】
特開2008−96398号公報においては、塗覆模擬プローブをパイプラインに接続し、プローブ間の電位を計測することによって塗覆の異常を検知する方式について示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−71712号公報
【特許文献2】特開2007−191733号公報
【特許文献3】特開2008−96398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通信ネットワークを用いて計測が自動化されない場合、計測のための人員を逐次派遣する必要がある。長大なパイプラインの場合、計測に関わるコストが大きくなる。また、計測者の移動には時間がかかるため頻繁に計測することはできないため、電気防食によるのパイプライン保護状態に異常があっても見過ごすこともありえる。
【0008】
また、上記の公知例においては、カソード防食設備の健全性に対する異常を抽出することになるが、実際のカソード防食設備やパイプラインの異常をその都度、現地確認する必要がある。とくに、カソ−ド電位やアノード電流を計測しても、その場所が実際に異常かどうかは埋設パイプラインの掘り返しにより確認を行うことになる。このため、異常発生確率を高める必要がある。そして、パイプの掘り返しにはコストを要するため、カソ−ド電位の異常で、掘り返しを行うかどうかの判断を行うためには、過去の事例などが参照できることが望ましい。また、地域によっては、降雨などの気象状況によっても異常の発生頻度や異常の発生の仕方が異なる。そのため、防食設備やパイプライン、絶縁材で発生する異常の発生確率を高めることが必須となる。本発明では、カソード電位、アノード電流、電源電流のデータ計測を自動化し、さらに、異常発生の確率を高めることを解決する課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、カソード電位、アノード電流、電源電流の少なくともいずれかのリアルタイム計測を実施し、さらに過去の事例との照合により異常発生を特定する確率を高める。計測を自動化するため、計測ステーションに自動計測器を接続し、ネットワークによってデータの収集を行う。ネットワークによって取得される電位データは、データ解析装置において、変化の速度および加速度のパラメータを求める。こうして得られた速度および加速度のパラメータは、過去の異常発生と結び付けられた事例データに記載された電位・電流の速度、加速度のパラメータと比較することによってその類似度を計算し、類似性の閾値判定により、異常の確率を算出する。さらに、必要な場合には、異常発生時期や降水量との関連性を計算し、異常発生頻度に基づいて異常発生確率を算出する。また、腐食データとの照合によって、異常の確率が高い場合、パイプラインの欠陥位置とも照合し、危険腐食欠陥が存在する場合には、修理の優先度を上げることを提示する。
【発明の効果】
【0010】
従来は手動で行っていた計測をリアルタイム化・自動化することによって計測にかかるコストの低減をはかることができる。また、従来のカソード防食方式では、カソード電位、アノード電流の変化のみからカソード防食設備、パイプライン異常の判定や絶縁材料の健全性を判定していたが、本願では、電位や電流の変化から得られる変化速度、加速度のパラメータを、過去の異常事例データと比較することによって、異常検知の確度を高めることができる。さらに腐食などのパイプ異常とのデータと照合することにより、修理の優先度を決定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施は、石油・天然ガスなどの流体を輸送する埋設パイプラインに設置されたカソード防食設備においてカソード電位、アノード電流、電源電流を計測して得られるセンサデータをデータ解析装置に送り、搭載されたソフトウエア機能により解析することによって行われる。
【実施例】
【0012】
カソード防食方式については、強制電流(Impressed Current)方式、犠牲アノード電極(Sacrificed Anode)方式がある。強制電流方式は、パイプラインの種類によって電流値を変更できることから長距離パイプラインにおいて広く使用される。このようなパイプラインには、一定間隔において計測ステーションが設置され、ここでは、カソード電位およびアノード電流が計測される。ここで、カソード電位は、保護対象となるパイプラインの電位、アノード電流は、アノード陽極からパイプライン方向に流出する防食電流を意味する。
【0013】
カソード防食の原理は以下の通りである。
アノード側(別途設置された陽極)の反応は、
X->X+ + e+
例えば、鉄イオンの場合には、
Fe -> Fe++ + 2e+
カソード側(パイプライン側)の反応は、
O2 + 2H2O + 4e- -> 4OH-
となる。腐食現象は、パイプラインと地面環境との間に電位差が生じ、鉄がイオン化して溶け出す現象であるため、逆電位をかけてイオン化を防ぐ方式を電気防食と呼ぶ。したがってパイプラインからの鉄イオンFe++の溶け出しを防ぐために、逆電位をかけることにより電気防食を行うことになる。強制電流方式は、外部電源を用いる方法であり、パイプに流す電流量の調整が可能なため、より有効な保護を行うことができる。
【0014】
以下の実施例では強制電流方式の場合について示す。センサ計測設備は、電流をアノード陽極に流すための電源、電位および電流をセンサ計測する計測ステーションから構成される。パイプラインとアノード陽極の間は電源/変圧器を介して接続し、アノード陽極とパイプ鋼材の間に電流が流れるようにする。電源/変圧器から印加される電流を電源電流と呼ぶ。パイプ鋼材のカソード電位とパイプラインに流れ込むアノード電流は計測ステーションで計測する。センサ計測データ解析設備は、ネットワークに接続された計算機群によって構成し、センサ計測データをリアルタイムで収集し解析する。
【0015】
埋設パイプラインは、土壌が腐食性を有する(電解質の性質を有する)場合、パイプ鋼材と地面との直接の接触を防ぎパイプから流出する鉄イオンの溶け出しを防ぐため、さらにコールタールやエポキシなどの絶縁材を塗布する。アノード電流をI、カソード電位をVとすると、以下のようなモデルが成立する。
【0016】
【数1】

【0017】
ここで、R1:地面への接地抵抗、R2:隙間抵抗、R3:絶縁材(または塗布材)の抵抗である。これらの抵抗値R1,R2,R3は変化する。接地抵抗は土壌の降雨などの天候条件に伴って変化する。隙間抵抗は、絶縁材とパイプに隙間が発生すると抵抗値が大きくなる。また、降雨などがあると、絶縁材とパイプとの隙間に水分が浸透し抵抗値は変化する。絶縁材の抵抗は、絶縁材が破損し、傷を持つことにより抵抗値がその場所において変化する。これによってカソード電圧値が変化する。
【0018】
カソード防食システムにより得られるカソード電位(陰極電位)およびアノード電流(陽極電流)のデータの分析によって、カソード防食設備、パイプライン、絶縁材で発生する異常発生の可能性について検知することができる。しかし、このような一時的なセンサ計測データの挙動のみの解析では十分ではない。このような問題を解決し、異常発生検知の確度を高めるために過去に発生した異常と確認実績を格納した事例データベースに格納された履歴データと照合し、異常発生確率を算出する。過去に発生した異常について、電位値や電流値およびその変化値との関連性や実際にどのような異常が発生していたか、どのように修理などの対処を行ったかについての事例と照合することによって、異常発生確率を求め、修理の方法についての確認を行うことができる。具体的には、カソード電位とアノード電流、電源電流の値とその時間的な変化率を計算し、これを過去の事例に格納された、値や時間変化に基づいて比較照合することにより、実際の異常発生確率を求める。なお、カソード電位、アノード電流、電源電流の少なくともいずれかの計測を実施すればよく、この場合は、計測されたデータの解析に関するアルゴリズムのみが動くことになる。勿論、これらカソード電位、アノード電流、電源電流の値が全部取得できれば、アルゴリズムをすべて実行することが可能となる。
【0019】
また、修理の緊急性が必要な場合がある。カソード電位の異常がパイプライン自体の異常の可能性を示し、さらに危険腐食がその場所に存在する場合には、緊急の修理が必要となる。このため、腐食データと、カソード電位の位置関係を参照し、パイプラインの破断などが疑われる場合は、修理の優先順位を高めることになる。
【0020】
図2に、強制電流方式の場合のカソード防食システム構成を示す。このシステムは、リアルタイム計測部201とデータ解析部214により構成される。
【0021】
リアルタイム計測部は、以下の被保護対象、計測器から構成される。
パイプライン202:カソード防食の対象
計測ステーション203:カソード電位とアノード電流、電源電流を計測する。
電圧計測器204:カソード電位を計測する。
電流計測器205:アノード電流を計測する。
通信ネットワーク206:計測データおよびデータ取得コマンドをデータ収集システム216と自動計測装置207の間で送受信する。
自動計測装置207:カソード電位、アノード電流、電源電流を計測するインタフェースである。
参照用電極208:基準電位値を示す電極であり、銅−硫酸銅参照電位で計測される。
電源/変圧器209:電流をアノード陽極210に向けて強制的に流すための電源である。
アノード陽極210:パイプライン鋼材よりも卑なる電位を有する金属から構成される陽極である。
電流プローブ211:アノード電流を検知するプローブである。
絶縁材212:パイプラインの保護材である。エポキシ系樹脂やコールタールなどが使用される。
電力線213:電源/変圧器に電力を供給する電力線である。
【0022】
パイプライン202は、天然ガスや石油を輸送する。埋設パイプラインの場合、パイプラインと土壌との直接接触を防ぐためエポキシ系樹脂やコールタールなどの絶縁材212が塗布される。パイプラインの近傍に計測ステーション203が設置される。計測ステーション203は、カソード電位の計測器204およびアノード電流の計測器205の計測値を出力する端子を有している。ここに、自動計測装置207を設置して、カソード電位、アノード電流、電源電流の各値を自動計測する。自動計測装置207は、通信ケーブル206にて送られてくる計測指定コマンドデータ301を受信したときに、カソード電位、アノード電流、電源電流の各値を計測する。カソード電位は参照用電極208の電位値を基準とする。電流は電源/変圧器209から付加され、アノード陽極210に電流が流される。強制電流方式の場合、アノード電極210は、高シリコン鋳鉄、グラファイトなどが用いられる。電位計測器204は、パイプライン202のカソード電位を計測する。アノード陽極からパイプライン陰極に流れるアノード電流は電流プローブ211で取得され電流計測器205を通して取得される。計測の結果、取得されるデータは通信ネットワーク206を通してデータ収集装置216に送られる。
【0023】
データ解析部214は計算機システムから構成される。
ゲートウエイ装置215:計測データを取得するためのインタフェース計算機である。
データ収集装置216:計測データを収集し、かつデータ収集のための計測指定コマンドデータ301を発行する計算機である。
データ解析装置217:計測データを解析し、計測した電位、電流値の変動を取得するとともに、過去の事例データを参照してカソード防食、パイプライン、絶縁材の異常確率を算出する計算機である。
履歴データ格納装置218:取得した計測データやデータ解析装置で求めた解析結果を蓄積するデータベース計算機である。
気象データ検索装置219:気象情報(降水量など)に関するデータを収集し蓄積する計算機である。
事例データ検索/格納装置220:異常の実態と異常発見時点での、電位、電流値の状況を対応付け、過去の異常調査結果と修理箇所および修理方法に関する事例データを検索するとともに、新しい事例データを格納する計算機である。
パイプ欠陥データ検索装置221:腐食データを検索する計算機である。
【0024】
データ解析部214の機能ブロック図を図1に示す。ここで、データ収集部101は216、パイプ欠陥データ検索部103は221、気象データ検索部104は219、事例データ検索/格納部105は220、履歴データ格納部102は218と同一である。
データ収集部101:通信ネットワーク206によって送られる計測結果データ305を収集する。
履歴データ格納部102:収集したカソード電位、アノード電流、電源電流データを時系列計測データベース119に格納する。
パイプ欠陥データ検索部103:腐食データベース122から、腐食データを検索する。
気象データ検索部104:過去の降雨量や温度などのデータを外部のデータベースから検索する。
事例データ検索/格納部105:過去のカソード防食設備、パイプライン、絶縁材の異常内容と電位・電流の変化パラメータを対応付けた事例データを格納した過去異常履歴データベース120、異常に対する対処方法(修理方法)を格納した過去対処データベース121から、それぞれ異常事例データ、対処方法(修理)データを検索するとともに、新しい事例データや対処方法データを格納する。
タイマ106:計測ステーション203に計測指定コマンドデータ301を発行して計測を行わせるための時間タイミングを生成する。
データ収集命令発信部107:計測ステーション203に計測を指示するための計測指定コマンドデータ301を発行する。
変化解析部108:最新の電位・電流データの閾値判定を行う。
データ検索部109:時系列計測データベース119から、過去に取得したカソード電位、アノード電流、電源電流データを検索する。
トレンド解析部110:最新の電位・電流データと、過去に取得した電位・電流の履歴データを参照して、電位・電流の変化速度および変化加速度を計算する。
類似データ照合部111:最新の電位・電流値および、トレンド解析部110により計算した変化速度、変化加速度と類似している事例データを検索するとともに、事例を気象条件や、時期に関して集計してえられる電位・電流値および変化速度および変化加速度と照合する。
異常抽出部112:あらかじめ決められた閾値を越えたカソード電位、アノード電流、電源電流、または電位、電流の変化速度や変化加速度に関連し、類似データ照合部111において事例データと照合する結果を受けて、異常候補を抽出する。
修理案生成部113:カソード電位、アノード電流、電源電流が異常とみなされる場合、過去の対処方法データベース121を検索して、類似の対処方法(修理方法)を検索する。
解析結果判定部114:異常抽出部112において抽出したカソード電位、アノード電流、電源電流の異常候補について異常発生確率を算出する。
トレンド表示データ作成部115:カソード電位、アノード電流、電源電流についての変化の傾向を解析した結果をグラフィックに表示するためのデータを作成する。
警告表示部116:カソード防食設備、パイプライン、絶縁材料に異常が発生している確率が高い場合は、警告データを生成する。
ネットワークデータ出力部117:解析結果判定部114においてパイプライン自体に異常が発生している確率が高いと判明した時点で、代替パイプ(ルーピングラインなど)の選択を行うためにバルブ開閉のための操作信号を生成する。
表示装置118:計算機の表示画面であり、カソード電位、アノード電流、電源電流の時間変化や異常に関連するデータを表示する。
時系列計測データベース119:カソード電位、アノード電流、電源電流の履歴データを格納したデータベース。
過去異常履歴データベース120:過去に発生したパイプライン、絶縁材料、カソード防食設備の異常をカソード電位、アノード電流、電源電流の各値の変化速度、変化加速度に対応させて格納したデータベース。
過去対処データベース121:カソード電位、アノード電流、電源電流の異常に関連付けて、実際に現地調査を行い設備修理などの対処方法について記載したデータを格納したデータベース。
腐食データベース122:パイプラインの腐食データを格納したデータベース。
【0025】
図1、および図2に示す装置および機能を用いてカソード防食設備、パイプライン、絶縁材の異常発生確率を計算するアルゴリズムフローを図4−図9に示す。アルゴリズムの流れは、時系列センサ計測データの取得、データの解析、過去発生した異常との類似検索と異常確率の算出、修理案の提示の順序となる。
【0026】
カソード防食電位、アノード電流、電源電流の異常抽出を行うため以下の内容を解析する。
(1)カソード防食電位
[1] 閾値解析
カソード電位があらかじめ決められた閾値を越える現象を監視する
[2] 変化解析
カソード防食電位が一定時間内に卑または貴となる現象を監視する。
(2) アノード電流
[1]閾値処理
アノード電流があらかじめ決められた閾値を越える現象を監視する。
[2]変化解析
アノード電流が一定時間内に増加・減少する現象を監視する。また、時間経過にともない、増加・減少した後で回復する場合を監視する。
(3)電源電流
[1] 閾値処理
電源電流があらかじめ決められた閾値を越える場合を監視する。
[2] 変化解析
電源電流があらかじめ決められた時間内に減少する場合を監視する。
【0027】
以下に、異常解析のアルゴリズムフローを示す。
【0028】
ステップ1(401):カソ−ド防食関連データの取得命令発行
データ収集命令発行部107は、タイマ106から送られるタイミング信号に基づいて、計測指定コマンドデータ301を計測ステーション203に対して発行する。図3に、自動計測データの構成を示す。図3に示すように、計測指定コマンドデータ301は、送り先となる計測ステーションのID(計測ステーションID:ネットワークアドレスのような識別コード)302、返信先となるデータ収集部101のID(返信先ID)303、計測させるデータ種類を格納した領域304、から構成される。計測指定コマンドデータ301は通信ネットワーク206に対して送られ、ID番号302に対応する計測ステーション203が受け取る。
【0029】
ステップ2(402):カソード防食関連データの計測
計測ステーション203では、カソード電位、アノード電流、電源電流の各データをあらかじめ決められた時間間隔で、かつ、あらかじめ指定されている時間範囲で繰り返し取得する。
【0030】
ステップ3(403):平均値と標準偏差の取得
計測ステーション203では、ステップ2(402)にて取得した,カソード電位(Vi:i=1,2・・・k、k:計測ステーションの数)、アノード電流(Ai:i=1,2・・・k)、電源電流(Ci::i=1,2・・・k)の平均値(MV、MA、MC)とその標準偏差(Vσ、Aσ、Cσ)を計算する。ここで、平均値(M)および標準偏差(σ)は、以下の式によって求める。
【0031】
【数2】

【0032】
【数3】

【0033】
添え字jは計測ステーションjでの計測データを示す。
【0034】
ステップ4(404):計測データの返信
計測ステーション203では、カソード電位、アノード電流、電源電流を計測後、自動計測装置207は計測結果データ305を生成し、通信ネットワーク206に送り出すことによってデータ収集装置216(101に相当する)に返信する。計測結果データ305は、返信先となるデータ収集装置216のID番号306、計測ステーション203のID番号307、データ種類308、計測値/標準偏差309より構成される。計測値は平均値である。
【0035】
ステップ5(405):データの集約判定
データ収集機能101にて計測結果データ305を集約し、すべての計測ステーション203からデータが集まったかどうかを確認する。履歴データ格納部102は、収集した電位・電流データを時系列データベース119に格納する。なお、一定時間待機してすべての計測ステーションからデータが集まらない場合には、ステップ6(406)を行い、集まった場合にはステップ7(407)を行う。
【0036】
ステップ6(406):機能していない計測ステーションの表示
データ収集部101は、警告生成部116に対し、計測ステーション203または自動計測装置207が機能していないことを通知する。警告生成部116は機能していない計測ステーションを表示装置118に表示する。
【0037】
ステップ7(407):カソード電位の閾値解析
変化解析部108では、最新の計測結果データを参照し、カソード防食、アノード電流、電源電流のそれぞれについてあらかじめ決められた閾値を越えているかどうかを判定する。
カソード防食電位MVについて、貴、卑の電位の閾値をVth upper、Vth lowerとすると、
【0038】
【数4】

【0039】
【数5】

【0040】
の場合を異常発生の候補とする。なお、取得した標準偏差Mσがあらかじめ決められた範囲になければ環境雑音の影響があるとして異常判定を保留する。〔数4〕はパイプの水素割れの危険が疑われ、〔数5〕は、絶縁材の劣化・破断の可能性などが疑われる。なお、一時的な異常か、または恒久的な異常かが判定される。これは一定時間待機して閾値を越えている状態かどうかにより判定する。図10に、閾値(卑方向)を越えたカソード電位の閾値判定解析の状況を示す。501はカソード電位であり、502はカソード電位の有効範囲を示す。503はカソード電位が閾値504を越えたことを示し、異常発生の候補となる。計測ステーション203はパイプライン基点からの距離により管理されるため、カソード電位異常の発生位置(距離)505は計測ステーション203の距離として取得する。
【0041】
ステップ8(408):カソード電位異常に関する事例データ検索
事例データ検索/格納部105は、過去のカソ−ド電位が閾値を越えている場合に対し、カソード電位異常と、カソード防食設備、パイプライン、絶縁材の調査結果を対応付けた過去の事例データを過去異常履歴データベース120より検索する。事例データの基本構成を図11に示す。事例データ601は以下の項目より構成する。
・Name:パイプライン名称 602
・Date:異常発生日 603
・Station:異常発生ステーションのID 604
・Data:異常発生データ 605
・Threshold:閾値判定の結果 606(閾値を越えている場合はOver)
・Velocity:電位または電流の変化速度 607
・Acceleration:電位または電流の変化加速度 608
・Event:異常の内容 609
・Recovered:回復の有無 610
・Remarks:関連特記事項 611
より構成される。なお、これらのデータの中から各異常事象に応じて必要な項目が記載され、事例データとして登録される。また、テキスト形式で記載することにより、項目の記載順序は問わない。事例データは、異常発生データ(Data)605、閾値判定(Threshold)606をキーとして検索する。含む水量など土壌の性質など地域に特徴がある場合は異常発生ステーションのID(604)を、その前後の計測ステーションのIDもあわせて検索キーすることにしてもよい。
【0042】
ステップ9(409):カソード電位異常の事例データとの照合
トレンド解析部112では、ステップ8(408)にて検索したカソード電位異常の事例データに対して、閾値を越えている場合に関する事例(Threshold=over)関し、その頻度F(事例データの数)を集計する。異常抽出部112は、あらかじめ決められた頻度に関する閾値に対して異常を抽出し、解析結果判定部114は異常発生確率を決定する。
この場合、時間の経過に対して自然回復した場合は除外する。
【0043】
異常確率は、頻度に応じて決定する。例えば、
F<δ1 異常発生確率P=0.1
δ1<F<δ2 異常発生確率P=0.2
・・・・
δ9<F<δ10 異常発生確率P=0.9
δ10<F 異常発生確率P=1.0
のように決めておく。ここで、δ1〜δ10はあらかじめ決められた閾値である。図10は閾値判定の流れを示す。503において、カソード電位501が閾値504を越えた場合、事例データ506が検索され、ここから、異常の内容(Event)512ごとに事例データの数が集計される。事例データは、パイプライン名称(Name)507、異常発生ステーションのID(Station)508、閾値判定(Threshold)509、異常発生日(Date)509、異常発生データ(Data)510、異常発生日(Date)511、異常の内容(Event)512が記載されている。そして、異常内容に基づく集計の結果(513)、絶縁材の破断と劣化の可能性があり、それぞれ異常発生確率514が計算された。
【0044】
ステップ10(410):アノード電流の閾値解析
変化解析部108では、アノード電流の閾値判定解析を行う。アノード電流MAは、閾値をAth upperとすると、
【0045】
【数6】

【0046】
【数7】

【0047】
の場合は、アノード電流がパイプとは異なる方向に流れたか、または、鉄道などからの電流の流れ込みが発生したことが疑われるため、異常判定候補とする。なお、標準偏差Aσがあらかじめ決められた範囲になければ環境雑音の影響があるとして異常判定を保留する。電流の迷走、または流れ込みの要因がなくなればアノード電流は回復することもあるため、一時的な異常か、または恒久的な異常かが判定される。これは一定時間待機して閾値を越えている状態かどうかにより判定する。
【0048】
ステップ11(411):アノード電流異常に関する事例データ検索
アノード電流が異常となりそのまま一定時間の後でも回復しない場合、アノード陽極劣化などアノード電流異常に関する過去の事例データを事例データ検索/格納部105は過去異常履歴データベース120より検索する。これは異常発生データ(Data)605、閾値判定(Threshold)606をキーとして検索する。含水量など土壌の性質に地域の特徴がある場合は異常発生ステーションのIDを検索キーとしても良い。
【0049】
ステップ12(412):アノード電流異常の事例データとの照合
ステップ11(411)にて検索した事例データに対して、トレンド解析部110は過去のアノード電流が閾値を越えている場合に関する事例(Threshold=over)に関し、その頻度Fを集計する。そして異常抽出部112は、あらかじめ決められた閾値に対して異常を抽出し、解析結果判定部114は異常発生確率を決定する。
【0050】
例えば、異常事例の内容に応じて頻度を参照し
F<ε1 異常発生確率P=0.1
ε1<F<ε2 異常発生確率P=0.2
・・・・
ε9<F<ε10 異常発生確率P=確率0.9
ε10<F 異常発生確率P=1.0
とする。ε1〜ε10は閾値を示す
図12はアノード電流の閾値判定解析の流れ示す。702において、アノード電流701が閾値703を越えた場合、事例データ705が検索される。事例データ705には、パイプライン名称(Name)706、異常発生ステーションのID(Station)707、閾値判定(Threshold)708、データ種類(Data)709、異常発生日(Date)710、異常の内容(Event)711、回復(Recovery)712が記載されている。ここでは、Recover=No(712)のため回復はなかったことを示す。そして、異常内容に基づく集計の結果(713)、陽極劣化と恒常的な電流迷走の可能性があり、それぞれ異常発生確率714が計算された。
【0051】
ステップ13(413):電源電流の閾値解析
変化解析部108では、電源電流について閾値判定を行う。電源電流MCの場合は、閾値をCth lowerとすると、
【0052】
【数8】

【0053】
の場合は、電源の故障があるため電源/変圧器209の異常とする。なお、標準偏差Cσがあらかじめ決められた範囲になければ環境雑音の影響があるとして異常判定を保留する。また、回復の可能性もあるため、あらかじめ決められた時間データを収集する。回復した場合は異常なしとする。
【0054】
ステップ14(414):過去の電位・電流データの検索
データ検索部109は過去の、カソード電位、アノード電流、電源電流を検索し、トレンド解析部110では、カソード電位、アノード電流、電源電流の変化パラメータを計算する。
【0055】
ステップ15(415):カソード電位の短期変化パラメータ取得
カソード電位変化の解析は、短期解析と、長期解析の両方を行う。トレンド解析部110では過去の電位値と最新の電位値を用いて、変化パラメータである変化速度、変化加速度を計算する。短期解析では、あらかじめ決められた短時間内の変化を解析する。与えられた時間範囲内の電位値の変動を
MV[t]、MV[t-T]、MV[t-2T]、・・・・MV[t-kT]
とする。Tは計測時間間隔を表し、t-Tは一回前の計測時間を示す。このとき、MV値が一様に減少または増加していることが認められれば、異常の候補となる。変化速度(H)および加速度(α)は以下のように計算する。変化のスピードをMVH、加速度をMVαとすると、
【0056】
【数9】

【0057】
【数10】

【0058】
により求める。
MVH[t]、MVH[t-T]、MVH[t-2T]、・・・・
が一定であれば一定の変化の傾向を有するとみなす。MVH[t]の最大値および最小値をMVHmax、MVHminとすると、それぞれ正値または、負値であり、−δ11以下または、+δ11以上の範囲にあり
【0059】
【数11】

【0060】
の場合には、一定の変化とみなす。なお、MVHは環境雑音の影響もある。突発的な異常値を排除するため、いったん複数の中から最大値MVHmax、MVHminを間引き、残りのデータからMVHmax、MVHminを求めてもよい。
速度MVHが増加している場合には、加速度を求める。
MVα[t]、MVα[t-T]、MVα[t-2T]、・・・・
として、その最大値、最小値をMVαmax、MVαminとすると、それぞれ正値または、負値であり、−δ13以下または、+δ13以上の範囲にあり
【0061】
【数12】

【0062】
の場合には、加速変化とみなす。なお、速度や加速度がそれぞれ−δ12から+δ12、および−δ13から+δ13の範囲の値をとる場合には、異常なしとみなす。図13は、カソード電位が卑方向に時間変化している状況を示す。ここでは、カソード電位は801、802、803、804の順番に移動している。805は許容変動範囲であり、カソード電位は806の範囲において、継続的に減少することを示す。
【0063】
ステップ16(416):カソード電位の長期変化パラメータ取得
ステップ15(415)よりも長い時間範囲で、かつ、あらかじめ決められた時間間隔によりカソード電位値を取得する。例えば、短期解析における過去のデータ検索の時間間隔をTとすると、長期解析では、T’(T’>T)となる。また、解析対象となる時系列電位データの取得時間範囲は、短期解析の場合よりも長くなる。このため、過去のデータは短期解析の場合よりもさらに過去にさかのぼってカソード電位データを利用し、変化速度と加速度を計算する。
【0064】
ステップ17(417):アノード電流の短期解析の短期変化パラメータ取得
アノード電流変化の解析についても、カソード電位の場合と同様に短期解析と、長期解析を行う。過去のアノード電流値と最新のアノード電流値を比較して変化を解析する。アノード電流が増加、減少する場合には、アノード陽極の劣化、外部からの電流入力、外部への電流拡散の要因となる。電流の入出力の原因として、地面に電気を放出する鉄道などがある場合、または、伝導性の設備や車両があることが考えられる。
【0065】
短期解析では、あらかじめ決められた短時間内の変動を解析する。与えられた時間範囲内の電流値の変動を
MA[t]、MA[t-T]、MA[t-2T]、・・・・MA[t-kT]
とする。Tは計測時間間隔を表し、t-Tは一回前の計測時間を示す。このとき、MA値が、減少または増加していることが認められれば異常の候補とみなす。トレンド解析部110では、変化速度と加速度を
【0066】
【数13】

【0067】
【数14】

【0068】
より求める。変化の速度MAHは、
MAH[t]、MAH[t-T]、AH[t-2T]、・・・・
が一定であれば一定のトレンドを有するとみなす。なお、MAHは環境雑音の影響もありえるため、MAH[t]の最大値および最小値をMAHmax、MAHminとすると、それぞれ正値または負値であり、さらに、−ε11以下または、+ε11以上の範囲にあり
【0069】
【数15】

【0070】
の場合には、一定の変動とみなす。なお、MAHは環境雑音の影響もありえるため、複数の中から突発的な異常値を排除するため、いったん最大値MAHmax、MAHminを間引いてその中から、新たにMAHmax、MAHminを求めてもよい。
変化の加速度MAαについても
MAα[t]、MAα[t-T]、MAα[t-2T]、・・・・
として、その最大値、最小値をMAαmax、MAαminとすると、それぞれ正値または負値であり、さらに、−ε13以下または、+ε13以上の範囲にあり
【0071】
【数16】

【0072】
の場合には、加速度変化とみなす。なお、なお、速度や加速度がそれぞれ−ε11から+ε11、および−ε13から+ε13の範囲にある場合には、異常なしとみなす。
【0073】
ステップ18(418):アノード電流の長期変化パラメータ取得
ステップ17(417)でのアノード電流の取得時間よりも長い時間の間で、あらかじめ決められた時間間隔によりアノード電流値を取得する。例えば、短期解析における過去のデータ検索の時間間隔をTとすると、長期解析では、T’(T’<T)となる。また、解析対象となる時系列電位データの取得時間範囲は、短期解析の場合よりも長くする。また、このため、過去のデータは短期解析の場合よりもさらに過去にさかのぼって電流データを利用し、速度と加速度を計算する。
【0074】
電流変化速度と加速度は、ステップ17(417)短期解析の場合と計算方法は同じである。
【0075】
ステップ19(419):カソード電位の異常有無の判定
ステップ15(415)およびステップ16(416)において、短期解析データ、長期解析データであるカソード電位の変化速度や加速度が正値、または、負値の値で変化している場合は、異常発生の可能性があるとして、ステップ20(420)を行う。異常変動がない場合は、アノード電流異常との相関を計算するためステップ23(423)を行う。
【0076】
ステップ20(420):カソード電位の閾値までの時間計測
ステップ15(415)、ステップ16(416)により速度および加速度が求まると、カソード電位値が閾値を越えるまでの時間を計測する。これは、カソード電位変化速度Hと加速度αとカソード電位MVを用いて、
【0077】
【数17】

【0078】
【数18】

【0079】
により、将来のカソード電位値Vを求める。ここで、Tintは時間経過を示す。加速度が一定の変動幅以内で0値とみなされる場合は、最新の速度値MVH[t]をHとして用いる。そして、
【0080】
【数4】

【0081】
【数5】

【0082】
の閾値判定を満足する時間Tintを求める。この時間は実際の異常発生までの時間を示す。
【0083】
ステップ21(421):異常進行事例の検索とパラメータ平均値の計算
事例データ検索/格納部105では、カソード電位変化の速度、加速度と異常進行の事例を対応付けた事例データを過去異常履歴データベース120から検索する。検索キーは、変化速度と、変化加速度である。カソード電位変化の速度値および加速度値を集計することにより、速度の平均値Hrefおよび加速度の平均値αrefを求める。そして、それぞれ、事例データに記載された変化速度と加速度の差が、あらかじめ決められた閾値δ15およびδ16以内にある場合は一致したとみなす。
【0084】
ステップ22(422):異常進行確率の計算
異常抽出部112では、ステップ21(421)で求めた平均値を用いて異常異常進行の確率を求める。異常は速度と加速度に応じて異常確率を計算する。例えば、異常確率はガウス分布に従うと考えることにより、
【0085】
【数19】

【0086】
【数20】

【0087】
により求める。σHはHrefの標準偏差、σαはαrefの標準偏差を示す。また、P(Ki)は異常の内容iに対する頻度Kiから、
【0088】
【数21】

【0089】
より計算される。MVHおよびMVαはステップ15(415)、ステップ16(416)で求めた速度値と加速度値である。
この確率Pは、異常発生内容ごとに速度MVHおよび加速度MVαについて求め、短期解析および長期解析から求められる中から大きいほうの値を異常発生確率として選択する。
【0090】
図13に事例データとの照合を行う方法を示す。カソード電位の範囲806での変化は、時間の経過に伴って閾値を越えることが予想される。変化速度809を検索キーとして関連する事例データ807が検索され、発生頻度を集計すると、絶縁材の劣化および破れの順番で異常の可能性があり(811)、それぞれ、異常発生確率を〔数19〕、〔数20〕によって確率値を求めた結果が812である。含水量など土壌特徴に地域の特徴がある場合は、異常発生ステーションのIDを検索キーに含めても良い。
【0091】
ステップ23(423):アノード電流との関連事例データの検索
カソード電位が卑方向に変化する要因として、絶縁材と、パイプの間に隙間が発生し、その中に空気が入ることなどが考えられる。このような場合、カソード電位には変化はないがアノード電流に異常があるため隙間が発生しても問題がないように見える。このため、カソード電位の判定に、アノード電流との関連性を計算する。
【0092】
事例データ検索部/格納部105より、アノード電流データ異常に関する事例データを過去異常履歴データベース120よりアノード電流の変化速度と加速度が近い値を有するだけでなく、特記事項(Remarks)が、カソード電位は異常なし(C-Voltage Normal)と記載されているデータを検索する。
アノード電流の変化速度、加速度のパラメータが記載されている事例データを検索し、アノード電流の速度パラメータと加速度パラメータから、それぞれ平均値を求める。そして、異常発生確率は、ガウス分布に従うものとして、
【0093】
【数22】

【0094】
【数23】

【0095】
により異常発生確率を計算する。ここで、Href、αrefはそれぞれアノード電流の変化速度および加速度の平均値である。また、P(Ki)は異常の内容iに対する頻度Kiから、
【0096】
【数21】

【0097】
より計算される。σHおよびσαは速度および加速度の標準偏差である。
【0098】
図14はカソード電位とアノード電流の相関を解析する方法を示す。カソード電位は、901、902、903の順番で変化し、閾値904を越えることはないが、アノード電流が905、906、907の順番で変化し異常の候補となる。ここで、アノード電流に対する事例データ908が検索され、異常内容(Event)ごとに集計(912)される。この結果に対してアノード電流の変化速度910を用いて確率が計算され、異常発生確率913が求められた。
【0099】
ステップ24(424):時期的変化、降雨量利用の判定
ステップ22(422)において計算する異常発生確率は、過去履歴異常データにおいて、カソード電位変化速度、加速度のパラメータを考慮する。さらに、これらのパラメータに加え時期的変化、降雨量のような気象条件の違いを考慮することによって時期や気象条件も考慮した異常発生確率を求める。
【0100】
時期的変化、降雨量を考慮しない場合は、ステップ28(428)を行う。考慮した場合には、ステップ28(428)を行う。
【0101】
ステップ25(425):時期的変化を考慮した異常発生確率の計算
ステップ21(421)にて検索し、ステップ22(422)にて集計した事例データを用いて、時期に従った集計を行う。例えば、季節単位での集計を行う。春:3月−5月、夏:6月−8月、秋:9月−11月、冬:12月−2月のような分類を行い、各時期に発生したカソード電位の異常データの集計を行う。ただし、変化速度、変化加速度は長期変化として複数の時期をまたがることがあるため、この場合は、各時期の異常発生とみなす。異常の確率は頻度に応じて決定する。事故が発生した月の頻度をFkとすると、時期に対する確率P(k)は
【0102】
【数24】

【0103】
より求める。そして、
【0104】
【数25】

【0105】
【数26】

【0106】
を、異常発生確率とする。ここで、Pは
【0107】
【数19】

【0108】
【数20】

【0109】
のうち最大値を示す。また、C1およびC2は重み係数であり、
【0110】
【数32】

【0111】
の制約がある。パイプラインの環境に応じて定義する。この中から最大の確率値を異常発生確率値として選択する。複数の時期にまたがる場合は、異常発生確率の大きな方を選択する。
【0112】
図15は時期的変化を考慮した異常解析の方法を示す。1001から1004に示すカソード電位の範囲1005での変化に対して、事例データが検索され、異常発生時期(Date)1008、1010に従って6−8月(1006)と12−2月(1008)に分類された。事例データの変化速度1009,1011はカソード電位の変化速度に近い値をとるため、その結果、各時期での頻度が計算され(1012)、時期考慮無しと考慮がある場合の異常発生確率1013が求められた。
【0113】
ステップ26(426):過去の降雨量データの取得と集計
例えば1ヶ月のようにあらかじめ決められた期間内の降雨量を気象データ検索部104は検索する。さらに事例データに記載された異常発生日(Date)603から同じ期間さかのぼって、その時期の降雨量との比較を行う。降雨量データはネットワークから外部にある気象データベースなどにアクセスすることにより取得する。または、気象情報のデータベースを保有していてもよい。こうして、現在のカソード電位計測時間からさかのぼった期間での降水量合計値Rと複数の事例データに記載された異常発生日からさかのぼった期間での降水量合計値の平均値Rrefを計算する。Rrefは、
【0114】
【数27】

【0115】
により、計算する。ここで、Riは事例データiの日にち(Date)から一定期間さかのぼって取得した降水量の合計である。Nは事例データの数を示す。
【0116】
降水量データが利用できない場合には、本ステップ26(426)およびステップ27(427)は省略する。
【0117】
ステップ27(427):降雨量を考慮した異常発生確率の計算
ステップ26(426)で得られた降雨量Rに関し、降水量による異常発生確率を
【0118】
【数28】

【0119】
により計算し異常発生確率とする。ここで、σRはRrefに対する降水量の標準偏差である。こうして降水量を考慮した場合の異常発生確率は、
【0120】
【数29】

【0121】
【数30】

【0122】
により求める。Ciは重み付け係数であり、
【0123】
【数32】

【0124】
の制約がある。C1とC2はパイプラインの置かれた状況に応じて決定する。
降雨量のほかにも、地表面の温度が低下する場合にも適用は可能である。浅く埋設された埋設パイプラインにおいては、地表面の温度は重要なファクターとなる。複数の要因を顧慮する場合、重み付けCjを使い、複数の確率ファクターをP1、P2・・・Pkとすると、
【0125】
【数31】

【0126】
により、異常発生確率を求める。Ciは重み付けファクタであり、
【0127】
【数32】

【0128】
となる。このCiはパイプラインの状態に応じて決定する。
【0129】
図16は降水量を考慮した異常解析の方法を示す。1101から1104のカソード電位の範囲1105での変動に対して、変化速度または変化加速度を検索キーとして事例データが検索され、降水量RとRrefが計算された(1107)。その結果、降水量を考慮した場合と、考慮しない場合の異常発生確率1108が求められた。
【0130】
ステップ28(428):修理方法の検索
異常と判定された場合には、修理案生成部113より事例データ検索/格納部105を通して過去対処データベース121より、過去に行った対処方法を検索する。
【0131】
修理方法は、異常発生確率値にしたがって異なる。例えば、絶縁材の異常による異常とみなされた場合には、以下のような修理方法を提示する。
異常発生確率値:0〜0.5:修理の必要なし
異常発生確率値:0.5〜0.8:絶縁材の部分的な塗膜補強を行う。
異常発生確率値:0.8〜1.0:絶縁材の全交換を行う。
【0132】
ステップ29(429):トレンドグラフの生成
トレンド表示データ生成部115は、図17に示すようなカソード電圧の時間変化グラフデータを生成する。図17では、カソード電位の時間変化1201、1202、1203が時間変化の順に表示される。異常発生が疑われる範囲1204が表示され選択すると、異常発生の確率が0.67(67%)であり、絶縁材の破断の可能性(Event)を示し、さらに絶縁材の交換は3年後(RLT:Remaining Life-Time)になることが表示される。絶縁材の破断はカソード電位が卑方向に閾値を越える時間として
【0133】
【数17】

【0134】
および
【0135】
【数18】

【0136】
に従って計算する。
【0137】
ステップ30(430):アノード電流の異常有無の判定
ステップ17(417)およびステップ18(418)において計算した、アノード電流の変化速度や加速度が正値、または、負値の値で推移している場合は、異常発生の可能性があるとして、ステップ31(431)を行う。異常発生の可能性がない場合は、ステップ38(438)を行う。
【0138】
ステップ31(431):アノード電流の閾値到達までの時間計測
ステップ17(417)、ステップ18(418)によりアノード電流の変化速度や加速度が求まると、アノード電流値が閾値を越えるまでの時間を計測する。これは、アノード電流変化速度MAHと加速度MAαとアノード電流MAを用いて、
【0139】
【数33】

【0140】
【数34】

【0141】
によりTint時間後の電流値Aを求める。加速度が0の場合は、速度のみを用いて計算する。ここでは、
【0142】
【数6】

【0143】
【数7】

【0144】
となる時間Tintを求めることになる。
【0145】
ステップ32(432):アノード電流に関する異常進行事例の検索とパラメータ平均値の計算
事例データ検索/格納部105では、アノード電流変化の速度、加速度と異常進行の事例データを対応付けた事例データを検索し、事例データに記載された速度値および加速度値を用いて、速度の平均値Hrefおよび加速度の平均値αrefを求める。事例データの検索キーは、変化速度と、変化加速度であり、それぞれ、事例データに記載された変化速度と加速度の差が、あらかじめ決められた閾値ε15およびε16以内にある場合は一致したとみなす。とくに含水量など土壌性質に地域特徴がある場合は、異常発生ステーションのIDも検索キーとなる。
【0146】
ステップ33(433):異常進行確率の計算
異常抽出部112では、ステップ32(432)で求めた平均値を用いて異常異常発生確率を求める。アノード電流の変化速度と加速度に応じて異常確率を計算する。例えば、異常確率はガウス分布に従うと考えることにより、
【0147】
【数22】

【0148】
【数23】

【0149】
を各事例ごとに計算し、大きい方の値を採用し異常発生確率とする。P(Ki)は異常の内容iに対する頻度Kiから、
【0150】
【数21】

【0151】
より計算される。
【0152】
図18はアノード電流の時間変化解析の方法を示す。アノード電流が1301、1302、1303、1304の順番に移動している。1305は電流の閾値であり、アノード電流は1306の範囲において、継続的に減少することを示す。このため変化速度1308で関連する事例データ1307が検索され、発生頻度を集計すると、陽極劣化および浸水の可能性があり(1309)、それぞれ、異常発生確率を
【0153】
【数22】

【0154】
【数23】

【0155】
によって確率値を求めた結果が1310である。
【0156】
ステップ34(434):降水量に基づく異常判定
アノード電流は、地面の含水量の変化に伴って変化する。このため、ステップ17(417)、ステップ18(418)で求めたアノード電流の変化速度、加速度が、正値または、負値で変化する場合には、気象データ検索部104は、降雨量データを検索する。そして、計測時点からあらかじめ決められた期間における過去の降水量データを取得して、降雨量を集計する。また、事例データに記載された異常発生日(Date)603から過去の一定期間における降雨量の平均値Rrefを
【0157】
【数27】

【0158】
求める。
により求める。ここで、Riは事例データiに関連して検索された降水量である。カソード電位の取得時期に対して検索された降雨量データをRとすると、降水量による異常発生確率を
【0159】
【数28】

【0160】
により計算し異常発生確率とする。そして、降水量を考慮していない場合の異常発生確率Pを用いて、
【0161】
【数35】

【0162】
【数36】

【0163】
により求める。Ciは重み付け係数であり、
【0164】
【数32】

【0165】
の制約がある。C1とC2はパイプラインの置かれた状況に応じて決定する。
【0166】
図19は降水量を考慮した異常の照合の方法を示す。この場合は、1401〜1404のカソード電位の変化に伴い、有効範囲1405に対して許容境界に値被きつつある電流に対して、変化速度または変化加速度を検索キーとして事例データ1406を検索し、各事例データの日付1407から過去にさかのぼり降水量を検索し累計する(1408)、アノード電流の異常に対し、降水量を検索し累計した結果と照合して異常発生確率1409が導き出された。
【0167】
ステップ35(435):回復判定
アノード電流は、迷走した場合、その要因が取り除かれると回復する。そのため、ステップ17(417)による短期パラメータを参照し、それが一定の変化速度、加速度を有する場合、あらかじめ決められた時間内で、変化前に回復するかどうかの有無を捉える。短期解析および長期解析の両方に関して、速度や加速度が正値から負値、または、負値から正値に変化し、アノード電流が正常値に回復した場合は、回復と判定する。アノード電流は、設備周辺に鉄道などのような電気を発生する施設などがあると、迷走電流の影響が現れる。
【0168】
ステップ36(436):修理方法の検索
アノード電流の異常発生確率が0.5以上となり異常と判定された場合には、修理案生成部113が過去対処データベース121より、対処方法を検索する。
【0169】
修理案は、異常発生確率値にしたがって異なる。たとえば、アノード陽極の劣化による異常と判定された場合には、例えば、
異常発生確率値:0〜0.8:交換の必要なし
異常発生確率値:0.8〜1.0:アノード陽極の交換を行う。
に従って、修理案をパイプライン管理ユーザに提示する。
【0170】
ステップ37(437):トレンドグラフの生成
カソード電位と同じようにトレンド表示データ生成部115は、アノード電流の時間変化グラフデータを生成する。図20はアノード電流変化のトレンドグラフである。アノード電流の時間変化1501、1502、1503が時間変化の順に表示される。異常発生の可能性がある範囲1504が明示され選択すると、異常発生の確率が0.53(53%)であり、アノード陽極劣化進行の可能性(Event)と絶縁材の交換は4年後になることが表示される。
【0171】
ステップ38(438):電源電流の短期変化パラメータの取得
電源電流についても変化解析を行う。電源/変圧器209の部品の故障については、突発的な故障と電力供給関連部品の逐次的な劣化に伴う漸近的な電流値の減少が起こりうる。与えられた時間範囲内の電源電流値の変動を
MC[t]、MC[t-T]、MC[t-2T]、・・・・MC[t-kT]
とする。変化解析部108においてDC値が減少していることが認められれば、現在の値MC[t]があらかじめ決められた閾値を越える場合には、異常の候補とみなす。さらにトレンド解析部110では、変化のスピードと加速度を、
電源電流の変化速度MCHと加速度MCαを、
【0172】
【数37】

【0173】
【数38】

【0174】
より求める。変化速度、
MCH[t]、MCH[t-T]、MCH[t-2T]、・・・・
が一定であれば一定のトレンドを有するとみなす。Tは計測の間隔を示す。なお、環境雑音の影響もありえるため、
MCH[t]の最大値および最小値をMCHmax、MCHminとすると、
【0175】
【数39】

【0176】
の場合には、一定の変動とみなす。γはあらかじめ決められた閾値である。なお、環境雑音の影響を排除するため、複数の中から最大値MCHmax、MCHminを間引いてその中から、新たにDCHmax、MCHminを求めてもよい。
加速度についても
MCα[t]、MCα[t-T]、MCα[t-2T]、・・・・
として、その最大値、最小値をDCαmax、DCαminとすると、
【0177】
【数40】

【0178】
の場合には、加速変化とみなす。同様にγ2はあらかじめ決められた閾値である。なお、速度や加速度がそれぞれあらかじめ決められた閾値γ3およびγ4に関して−γ3から+γ3、および−γ4から+γ4の範囲にある場合には、異常なしとみなす。
【0179】
ステップ39(439):電源電流の長期変化パラメータ取得
ステップ38(438)での電源電流の取得時間よりも長い時間の間で、あらかじめ決められた時間間隔により電源電流値を取得する。例えば、短期解析の場合、データ取得の時間間隔をTとすると、長期解析では、T’(T’<T)となる。また、解析のための時間幅は、短期解析の場合よりも長くする。このため、過去のデータは短期解析の場合よりもさらに過去にさかのぼってデータを利用し、速度と加速度を計算する。
【0180】
ステップ40(440):電源電流の異常事例の検索とパラメータ平均値の計算
ステップ38(438)、ステップ39(439)において、電源電流の変化速度MCHまたは加速度MCαが一定の値を示す場合、事例データ検索/格納部105は、過去異常履歴データベース120から電流電源異常に関する事例データ601を検索する。検索キーは電源電流の変化速度と加速度である。異常発生ステーションのIDはこの場合は検索キーとして使用しない。類似データ照合部111は、速度、加速度の差の絶対値が、それぞれあらかじめ決められた閾値であるγ5とγ6以内にあれば一致したとみなし事例データを選択する。そして、異常発生事例データに記載された変化速度と、加速度の平均値Hrefおよびαrefを計算する。
【0181】
ステップ41(441):電源電流異常の判定
ステップ38(438)およびステップ39(439)において、電源電流の変化速度や加速度が正値、または、負値の値で変化している場合は、異常発生の可能性があるとして、ステップ42(442)を行う。異常変動がない場合は、ステップ45(445)を行う。
【0182】
ステップ42(442):異常発生確率の計算
異常抽出部112では、ステップ40(440)にて計算した、変化速度および変化加速度の平均値(Hrefおよびαref)を用いて異常発生確率を求める。例えば、異常発生はガウス分布に従うと考え以下の式により異常確率を計算する。
【0183】
【数41】

【0184】
【数42】

【0185】
ここで、σHはHrefの標準偏差、σαはαrefの標準偏差を示す。また、P(Ki)は異常の内容iに対する頻度Kiから、
【0186】
【数21】

【0187】
より計算される。MCHおよびMCαは変化速度値と加速度値である。異常発生確率は、事例ごとに最新の電源電流データから求めた速度MCHおよび加速度MCαについて求め、大きいほうの値を採用する。
【0188】
図21は電源電流の時間変化の解析方法を示す。電源電流が1601、1602、1603、1604の順番に移動している。電源電流は1605の範囲において、継続的に減少することを示す。このため変化加速度1607を検索キーとして関連する事例データ1606が検索され、発生頻度を集計すると、コネクタ劣化およびコネクタ破損の可能性があり(1608)、それぞれ、異常発生確率を
【0189】
【数41】

【0190】
【数42】

【0191】
によって確率値を求めた結果が1609である。
【0192】
ステップ43(443):修理方法の検索
電源/変圧器が異常と判定される場合には、修理案生成部113は過去対処データベース121より、対処方法を検索する。修理案は、異常発生確率値にしたがって異なる。例えば、異常発生確率値に従って
異常発生確率値:0〜0.2:修理の必要なし
異常発確率値:0.2〜0.5:電源/変圧器設備の回路チェックを行う。
異常発確率値:0.5〜1.0:接続端子部品の交換を行う。
として、異常発生確率値に従って修理案を選択する。
【0193】
ステップ44(444):トレンドグラフの生成
トレンド表示データ生成部115は、電源電流の時間変化を表示するデータを生成する。そして、表示装置118に表示する。このとき、異常発生確率に従って警告生成部116は、異常発生確率と推定する問題の発生要因を表示する。図22はトレンド表示の例である。1701、1702、1703の順番に時間経過による電源電流の動きが表示されており、範囲1704において、電源電流は異常があると表示される。1705は異常発生確率(0.56)と問題の発生要因(接続端子の劣化)および接続端子の寿命(6ヶ月)を表示している。
【0194】
ステップ45:(445):結果のデータベース登録
事例データ検索/格納部105は、カソード電位、アノード電流、電源電流の異常解析結果のパラメータを事例データ601の形式に記載して過去異常履歴データベース120に新規登録する。
【0195】
新しい事例に基づく解析手法を追加する場合も、図4〜図9のステップに追加していくことは容易である。
【0196】
パイプラインの異常の判定を行った場合、上記したステップ28(428)においてカソード電位の異常から絶縁材の異常が推定された結果となった場合を考える。この場合、埋設パイプラインの掘り返しを行い、絶縁材を交換するかどうかの判断を行う必要がある。直ちに埋設パイプラインの掘り返しなどを行い実際に異常があるかどうかの判定を支援するため、パイプの内外に存在する腐食などの欠陥の存在を照合し、腐食の存在するパイプ部位の安全率を計算することにより、交換を急ぐべきかどうかの確率を求める。図23に、腐食とカソード電位を重畳した結果を示す。腐食データはパイプ欠陥データ検索部103より腐食データベース122から検索する。腐食データはパイプラインの距離に関連づけて管理されるため、同じく距離で管理されるカソード電位と位置的な照合を行うことができる。また、腐食データと、カソード電位データの重畳結果は、解析結果判定部114で腐食の危険性を解析した後、トレンド表示データ作成部115を通して表示装置116に表示される。1801はカソード電位データ、1802は個々の腐食データの分布である。横軸はパイプラインの距離、縦軸については、腐食の場合は、腐食のパイプ断面を時計と見て断面を展開した位置を示す。腐食分布はパイプの円形断面を時計に見立てて表示することになる。内部の色やパターン表示によって腐食部分のパイプ安全率が表される。安全率SIは、
【0197】
【数43】

【0198】
によって求める。ここで、Pmaop最大許容圧力、Pcorrは腐食部分の最大許容圧力である。これにより、SIが1.2以上(超臨界圧力)または0.9以上(臨界圧力)異常の腐食を選択し、その上流・下流方向に一定距離範囲のパイプ区間の中に、カソード電位の異常が含まれるかどうかを検索する。そして、カソード電位を用いて求めた絶縁材の異常発生確率をP、パイプの安全率SIとの関係として、
SI>1.2(超臨界状態)の場合:パイプを即時交換する
0.9<SI<1.2(臨界状態)、P>0.5の場合:パイプの交換を推奨する。
0.9<SI<1.2(臨界状態)、P<0.5の場合:絶縁材の交換を推奨する。
SI<1.2(安全状態)、P<0.5の場合:絶縁材の交換を保留する。
のようにすることができる。
【0199】
このように、カソード電位の異常が判定されたときにパイプラインの異常と比較することによってパイプ絶縁材のための掘り返しを行うかどうかを判定する。このアルゴリズムフローを図24−図25に示す。
【0200】
ステップ1(ステップ1901):カソード電位の収集
上記したステップ1(401)、ステップ2(402)と同じように、カソード電位データを収集する。
【0201】
ステップ2(ステップ1902):カソード電位の異常検知
カソード電位の異常検知事例と照合して異常発生確率を計算する。異常発生確率が0.5以上の場合はステップ3(1903)を実行し、0.5未満の場合は終了する。
【0202】
ステップ3(ステップ1903):絶縁材異常判定
絶縁材が異常である確率Pが0.5以上の場合、事例データのEvent(異常の内容)609を集計する。
【0203】
ステップ4(ステップ1904):絶縁材の異常判定
絶縁材の異常発生確率が0.5であれば、ステップ4(1904)を行い、0.5以下である場合は終了する。
【0204】
ステップ5(ステップ1905):腐食データの検索
絶縁材の異常区間を含む近傍区間の腐食データを、パイプ欠陥データ検索部103が腐食データベース122より検索する。
【0205】
ステップ6(ステップ1906):腐食の危険度の判定
腐食がカソード電位異常発生地点の近くに発生していてもそれが必ずしも危険であるとは限らない。そのため、腐食の危険度を計算する。腐食の安全率は、
【0206】
【数40】

【0207】
より求める。
【0208】
【数43】

【0209】
において、Pmaopはパイプ鋼材の形状や材質から計算するが、Pcorrは、国の規制によって異なるが確定された式として提示される。そして、この安全指数SIがあらかじめ決められた閾値を越える場合には危険腐食とする。
【0210】
ステップ7(ステップ1907):異常電位近傍の危険腐食の検出
危険腐食が、カソード電位異常の近傍にあるかどうかを判定する。とくに、電位異常の範囲を測定点からあらかじめ決められた距離を閾値として設定し、その距離範囲に含まれる安全率SIが1.2以上の腐食を危険腐食として検索する。
【0211】
ステップ8(1908):腐食進行速度の検索
臨界状態以上(SIが1.2以上)の危険腐食が検知され、絶縁材料の異常発生確率があらかじめ決められた値(例えば0.5)異常の場合、腐食の進行速度に関するデータが腐食データベースに含まれる場合には、腐食進行速度のデータを取り出し、腐食が超臨界状態に達するまでの時間を計測し、パイプ破断までの時間も合わせて表示する。
【0212】
ステップ9(1909):絶縁材修理の優先付け
絶縁材交換の優先順位を決定する。たとえば、以下の方法により優先付けを行う。
・パイプ安全率が1.2以上のパイプは絶縁材の優先度1(最高優先度)とする。
・パイプの安全率が1.2未満の場合は、安全率を0.1ずつ減少させ、その安全率に一致するパイプについて絶縁材異常の確率の大きな順番に優先度を割り振る。
【0213】
以上により、事例ベースに基づくカソード防食による異常検知を行うことが可能となる。
【0214】
パイプラインが長大になる場合には、パイプラインの区間ごとに管理を行うことがある。このため、さらに、ネットワーク化によって、パイプライン全体のカソード電位、アノード電位などのパイプライン部分解析結果をパイプライン全体の管理につなげることが可能となる。通信ネットワークを介して、現場から地域管理部署、さらにはパイプライン全体を統括する部署へ送ることになる。カソード防食の階層型ネットワーク構成を図26に示す。
【0215】
この図では、パイプライン現場管理所、地域パイプライン管理所、全パイプライン管理所の3階層から構成されるが、さらに階層が増えてもよい。最下位の階層は、現場であるコンプレッサーステーション、ポンプステーション(2001、2002)である。コンプレッサーステーションは天然ガスなどの気体輸送の場合、ポンプステーションは石油などの流体輸送を行う。中間の階層となる2003、2004は、パイプラインの地域管理所である。最上位の階層2005はパイプライン全体の管理組織となる。パイプラインが一箇所しかなければ、本社と地域管理所は同一となることがある。
【0216】
コンプレッサーステーション2001、2002は管理範囲にあるパイプラインのカソード防食関連データを収集する。パイプライン2015に設置された計測ステーション2006、2007、2008から得られるカソード電位、アノード電流、電源電流データは、ゲートウエイを介して、リアルタイムデータサーバ計算機2010に送られる。そして、解析・監視計算機2011にて図4に示したカソード防食データ解析アルゴリズムフローを行い、結果を上位にある地域管理事務所2003、2004のリアルタイムデータサーバ計算機2012に送る。
【0217】
地域管理所2003、2004は第2の階層であり、解析・監視計算機2011は管理管理範囲のパイプライン全体の、カソード電位の異常を判断し、修理に対して優先づけを行う。これらのデータはさらに上部の階層である全パイプライン管理所(2005)のリアルタイムデータサーバ計算機2014に送られて、会席・監視装置2013ではパイプライン全体の異常を参照し、保有するパイプラインについて修理の優先付けを行う。この結果に基づいてパイプライン修理などの予算配分を行うことができる。
【0218】
パイプライン現場管理所2001、2002では、パイプライン割れなどの確率が高いと判定された場合、パイプライン輸送を一時的にとめて、代替パイプラインに切り替えることが考えられる。このような場合は、事例データよりパイプライン破断が疑われ、異常発生確率が、例えば0.8を越えた場合、代替ラインへの切り替えを行う。このため、ネットワークデータ出力部117では、異常発生確率を解析結果判定部114より取得して0.8を越えている場合、パイプラインのバルブ操作を行うSCADA(監視型制御システム:Supervisory Control And Data Acquisition)に異常発生のパイプラインの位置情報を送る。図27に、パイプラインの切り替えを示す。SCADAでは、図27(a)に示すように、パイプライン2101の場所2106において、カソード電位の短時間での急速な変化によりパイプライン割れの可能性が検知された場合、SCADA2104は、パイプ割れの情報をデータ解析装置217に相当する2103から受け取り、ブロックバルブ2104、2105の切り替えを行う。こうして、パイプライン2101はパイプライン2102に切り替えられる。図27(b)はパイプライン2101からパイプライン2102の切り替えが行われた状態を示す。
【0219】
上記の実施例では、強制電流方式の場合を示したが、犠牲アノード方式に適用することも容易である。この場合は、電源電流に対する実施は省略されることになる。
【0220】
なお、上記実施例では、図4から図9のフローを一括して説明したが、状況により、必要な項目のみを抜き出して処理を行っても良い。例えば、短期変化、長期変化のパラメータ取得など、必ずしも全工程必須ではなく、異常の状態などに応じて、適宜選択すれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0221】
本発明に示したカソード防食計測の自動化は長距離パイプラインへ適用をはかることができる。とくに天然ガス、石油などのパイプラインのように地中に埋設される場合に有効である。さらにエチレンや、水などのパイプラインにも適用することにより、パイプライン割れなどにより、発生する有毒性液体、気体の漏れや爆発を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0222】
【図1】カソード防食関連データ解析機能の構成を示す図である。
【図2】カソード防食関連データ解析ネットワークの構成を示す図である。
【図3】自動計測データの構成を示す図である。
【図4】カソード防食データ解析アルゴリズムフロー(その1)を示す図である。
【図5】カソード防食データ解析アルゴリズムフロー(その2)を示す図である。
【図6】カソード防食データ解析アルゴリズムフロー(その3)を示す図である。
【図7】カソード防食データ解析アルゴリズムフロー(その4)を示す図である。
【図8】カソード防食データ解析アルゴリズムフロー(その5)を示す図である。
【図9】カソード防食データ解析アルゴリズムフロー(その6)を示す図である。
【図10】カソード電位の閾値判定解析の方法を示す図である。
【図11】事例データの構成を示す図である。
【図12】アノード電流の閾値判定解析の方法を示す図である。
【図13】カソード電位の変化解析の方法を示す図である。
【図14】カソード電位とアノード電流の相関を用いて解析を行う方法を示す図である。
【図15】時期を考慮したカソード電位の変化解析の方法を示す図である。
【図16】降水量を考慮したカソード電位の変化解析の方法を示す図である。
【図17】カソード電位のトレンド表示を示す図である。
【図18】アノード電流の変化解析の方法を示す図である。
【図19】降水量を考慮したアノード電流の変化解析の方法を示す図である。
【図20】アノード電流のトレンド表示を示す図である。
【図21】電源電流の変化解析の方法を示す図である。
【図22】電源電流のトレンド表示を示す図である。
【図23】腐食データとカソード電位の位置関係を示す図である。
【図24】腐食データとの照合アルゴリズムフロー(その1)を示す図である。
【図25】腐食データとの照合アルゴリズムフロー(その2)を示す図である。
【図26】階層型カソード防食ネットワークシステムの構成を示す図である。
【図27】SCADAによるパイプライン切り替えを示す図である。
【符号の説明】
【0223】
101・・・データ収集部、102・・・履歴データ格納部、103・・・パイプ欠陥検索部、104・・・気象データ検索部、105・・・事例検索/格納部、106・・・タイマ、107・・・データ収集命令発信部、108・・・変化解析部、109・・・データ検索部、110・・・トレンド解析部、111・・・類似データ照合部、112・・・異常抽出部、113・・・修理案生成部113、114・・・解析結果判定部、115・・・トレンド表示データ作成部、116・・・警告表示部、117・・・ネットワークデータ出力部、118・・・表示装置、119・・・時系列計測データベース、120・・・過去異常履歴データベース、121・・・過去対処データベース、122・・・腐食データベース、201・・・リアルタイム計測部、202・・・パイプライン、203・・・計測ステーション、204・・・電圧計測器、205・・・電流計測器、206・・・通信ネットワーク、207・・・自動計測装置、208・・・参照用電極、209・・・電源/変圧器、210・・・アノード陽極、211・・・電流プローブ、212・・・絶縁材、213・・・電力線、214・・・データ解析部、215・・・ゲートウエイ装置、216・・・データ収集装置、217・・・データ解析装置、218・・・履歴データ格納装置、219・・・気象データ検索装置、220・・・事例データ検索装置、221・・・パイプ欠陥データ検索装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を輸送する埋設パイプラインの防食データを解析するシステムであって、
前記パイプラインを計測する複数の計測ステーションから、カソード、アノード及び電源の少なくとも何れかの電位または電流値を取得する手段と、
前記電位または電流値の変化速度及び変化加速度を算出する手段と、
前記算出された変化速度及び変化加速度と、過去異常履歴データベースに記録された過去の異常発生時に記録した事例データとを照合する手段とを有し、
前記照合する際、予め決められた閾値内で一致していれば、過去発生した異常の発生確率に基づいて、異常発生確率を計算する解析部とを有することを特徴とする防食データ解析システム。
【請求項2】
更に、所定の期間内での降水量データを取得する手段を有し、
前記解析部は、前記過去の事例データにおける降水量データを用いて、降水量を考慮した前記異常発生確率を計算することを特徴とする請求項1記載の防食データ解析システム。
【請求項3】
更に、前記解析部は、過去の所定の時期における異常発生確率を用いて、時期的変化を考慮した前記異常発生確率を計算することを特徴とする請求項1記載の防食データ解析システム。
【請求項4】
前記変化速度及び変化加速度を算出する手段は、予め定められた時間内の変化分を算出する短期解析と、前記時間よりも長い時間内の変化分を算出する長期解析の双方を算出することを特徴とする請求項1記載の防食データ解析システム。
【請求項5】
更に、前記解析部は、前記変化速度及び変化加速度から異常進行確率を算出することを特徴とする請求項1記載の防食データ解析システム。
【請求項6】
前記解析部は、前記変化速度及び変化加速度が、所定時間内で変化前に回復するかどうかを判定し、回復しない場合、前記異常発生確率を計算することを特徴とする請求項1記載の防食データ解析システム。
【請求項7】
前記電位または電流値は、カソード電位と、アノード電流と、電源電流であることを特徴とする請求項1記載の防食データ解析システム。
【請求項8】
前記変化速度及び変化加速度を算出する手段は、前記カソード電位、前記アノード電流、前記電源電流それぞれについて、予め定められた時間内の変化分を算出する短期解析と、前記時間よりも長い時間内の変化分を算出する長期解析の双方を算出することを特徴とする請求項7記載の防食データ解析システム。
【請求項9】
前記異常発生確率及びパイプ安全率から、前記パイプラインのパイプまたは絶縁材を交換すべきかどうかを提示することを特徴とする請求項1記載の防食データ解析システム。
【請求項10】
前記解析部は、前記閾値を越える場合には、異常が発生したと考えられるパイプ区間の欠陥データを検索し、腐食の危険性によって決まる安全率の順番に従って、修理の優先順位を決定することを特徴とする請求項1記載の防食データ解析システム。
【請求項11】
更に、前記パイプラインのバルブ操作を行う制御システムを制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記異常発生確率が所定値以上の場合、前記制御システムへバルブ操作の信号を送ることによりバルブの開閉を行い、異常発生したパイプライン以外の輸送パイプラインに流体輸送を切り替えることを特徴とする請求項1記載の防食データ解析システム。
【請求項12】
前記防食データ解析システムは、階層別に管理され、上位階層では、下位階層よりも広範囲のパイプライン範囲での結果に基づいて、前記パイプラインの異常確認や修理順序のための優先付けを行えるようにしたことを特徴とする請求項1記載の防食データ解析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−53161(P2011−53161A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204235(P2009−204235)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】