説明

防食剤としての炭酸第四級アンモニウムおよび重炭酸第四級アンモニウムの使用、腐食を抑制するための方法、およびこれら薬剤を用いる防食性コーティング

防食剤としての、炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムおよびそれらの混合物を開示する。本発明は、1以上の炭酸第四級アンモニウムまたは重炭酸第四級アンモニウムを含む組成物を適用することにより、金属表面の腐食を抑制するための方法に関する。本開示は、また、これらの化合物を含む、金属サブストレート用の防食性コーティング、これら防食性コーティングを有する金属サブストレート、およびこれら化合物を含む水性洗浄溶液に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、防食剤としての炭酸第四級アンモニウムおよび重炭酸第四級アンモニウムの使用に関する。
【0002】
金属表面が、水であろうと湿り空気であろうと、水と接触するプロセスにおいて、そこには常に腐食の危険が存在する。これは、金属自体が腐食を起こしやすく、コーティングされていない場合に、特に問題となる。
【0003】
腐食を起こしやすい金属の例は、合金鉄製の打抜き金属の自動車部品、機械加工されたスチール部のような摩り減った表面、鋳鉄製の機械部品において見出される。腐食抑制剤(または防食剤)は、何年にも渡り知られているが、大抵は未だに不適切である。1つの鍵となる不適切さは、水溶性の不適切さである。殆どの腐食抑制剤は、長鎖脂肪酸および誘導体から生成され、しばしば、乏しい水溶性を有する。これは、油およびガス製造、石油精製および金属加工での使用におけるように、金属表面が、水と油の双方に接触する際に特に問題となる。
【0004】
石油化学処理自体が、冷却システム、製油ユニット、パイプライン、蒸気発生装置、および油またはガス製造ユニット等の、腐食抑制剤についての幅広い取り組み課題となっている。
【0005】
金属(金属容器、装置金属部品、装置表面、パイプラインおよび流体を貯蔵するために用いられる装置等)、特に鉄を含む金属の腐食の速度を減ずるために、腐食抑制剤が、金属に接触する流体に典型的に加えられる。流体は、ガス、スラリーまたは液体であり得る。
【0006】
ミネラルスピリットおよびケロシン等の、金属および金属部品を洗浄するための伝統的な溶媒は、揮発性有機炭素(VOC)に対する懸念から、近年、水溶性配合物に取って代わられている。金属部品を洗浄するための水を基とする配合物へのこの動きは、問題がないわけではない。水は、グリースまたは油性残渣を容易に可溶化せず、また水自体が、金属部品自体の腐食を著しく増進し得る。加えて、配合物は、典型的に、マイクロエマルジョンとして用いられ、これは、洗浄プロセス中での安定化のために、さらなる界面活性剤の使用を必要とする。モルホリンが、腐食保護を提供するために、これら洗浄配合物中でしばしば用いられる。しかしながら、モルホリンは、洗浄には殆ど寄与せず、また、これは良好な界面活性剤でないために、マイクロエマルジョンを安定化しない。さらに、モルホリンは、違法ドラッグを調製するために用いられ得るために、規制された製品である。
【0007】
第四級アンモニウム化合物は、腐食抑制剤として、限られた用途が見出されている。米国特許第6,521,028号は、腐食抑制剤としての、プロピレングリコール溶媒またはプロピレングリコールエーテル溶媒中での特定のピリジニウム塩およびキノリニウム塩の使用を開示する。
【0008】
米国特許第6,080,789号および第6,297,285号は、消毒薬としての、炭酸第四級アンモニウムの使用を開示する。
【0009】
米国特許第4,792,417号は、塩素イオンおよび任意に銅イオンを含む水溶液および/または極性有機溶液と接触するステンレススチールの応力腐食を抑制するための組成物を開示する。この組成物は、特定の第四級アンモニウムアルキルカーボネートまたは第四級アンモニウムベンジルカーボネートの水溶液または極性有機溶液を含む。
【0010】
金属表面への良好な親和性を有し、且つ水溶性で油溶性である腐食抑制剤への要求がなお存在する。加えて、洗浄能力および/または界面活性剤能力を付加した新規な腐食抑制剤への要求が存在する。これらが加えられる最終的な配合物に、抗菌保護をも与える腐食抑制剤が、特に有利であろう。
【0011】
ここに、炭酸第四級アンモニウムおよび重炭酸第四級アンモニウムが、金属の腐食を抑制することが見いだされた。
【0012】
本発明は、(a)炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物の少なくとも1種および(b)任意に溶媒を含む組成物の、腐食を抑制する有効量を適用することにより、金属表面の腐食を抑制するための方法に関する。この方法は、油田における、および金属加工における下げ孔への使用に特に有用である。
【0013】
他の態様は、金属サブストレートのための防食性コーティングである。このコーティングは、炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物の少なくとも1種、およびコーティング材料を含む。典型的に、炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物は、コーティング材料中に分散させる。好ましい態様によれば、コーティングは、また、抗菌効力も示す。コーティングは、防食性の炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物の抗菌有効量を、または異なる抗菌剤の抗菌有効量を含み得る。
【0014】
さらに他の態様は、その表面上に本発明の防食性コーティングを有する金属サブストレートである。
【0015】
さらに他の態様は、防食性洗浄溶液としての、炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物の少なくとも1種の腐食抑制有効量を含む水溶液の使用である。この水性洗浄溶液は、水を基とする金属洗浄剤であり得る。
【0016】
さらに他の態様は、防食性の金属加工流体としての、炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物の少なくとも1種の腐食抑制有効量を含む水溶液または非水性溶液の使用である。
【0017】
さらに他の態様は、粉末冶金における腐食抑制剤としての、炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの組み合わせの少なくとも1種の腐食抑制有効量を含む水溶液または非水性溶液の使用である。
【0018】
腐食抑制剤組成物
本発明は、金属サブストレートの腐食の抑制に関する。本明細書中で用いられる「腐食の抑制」という語は、限られないが、一般的に、金属が、水若しくは空気、またはこの2つの組み合わせに曝された際の、金属表面の酸化の防止またはその酸化の速度の減少を含む。金属の酸化は、電気化学反応であり、一般的に、表面からの金属の減少、または金属の表面における酸化生成物の蓄積を生ずる。本明細書中で用いられる「金属」という語は、限られないが、スチール、鋳鉄、アルミニウム、金属合金およびそれらの組み合わせを含む。1つの態様において、金属サブストレートは、エアゾール缶である。
【0019】
本発明において有用である炭酸第四級アンモニウムは、限られないが、式
【化3】

【0020】
を有するものを含む。式中、RおよびRは、それぞれ独立して、C1−20アルキル基、またはアリール置換されたC1−20アルキル基(たとえば、ベンジル基)である。RおよびRは、同じであり得るか、異なり得る。
【0021】
「アリール置換されたアルキル基」という語は、フェニルエチル(アルキル基が窒素原子に結合している)またはベンジルのような、1以上の芳香族炭素環、特にフェニル環により置換されたアルキル基を指す。同様に、「アリール置換されたC1−20アルキル基」という語は、1以上の芳香族炭素環により置換されたC1−20アルキル基を指す。
【0022】
「Cn−mアルキル基(例えば、C1−20アルキル基)」という語は、n〜m(例えば、1〜20)の炭素原子を有する、全ての直鎖アルキル基または分枝アルキル基を指す。
【0023】
1つの態様によれば、RおよびRは、C4−20アルキル基、またはアリール置換されたC4−20アルキル基である。
【0024】
好ましい態様によれば、Rは、C8−12アルキル基、またはアリール置換されたC8−12アルキル基である。
【0025】
より好ましい炭酸第四級アンモニウムは、炭酸ジ−n−デシルジメチルアンモニウムのような、炭酸ジデシルジメチルアンモニウムである。
【0026】
炭酸ジデシルジメチルアンモニウムは、4重量パーセント以下のメタノールまたはエタノール等のアルコールを含有する水中50重量パーセント溶液として入手できる。この溶液は、わずかにフルーティーな匂いを有する黄色/オレンジの液体である。
【0027】
適切な重炭酸第四級アンモニウムは、限られないが、式
【化4】

【0028】
を有するものを含む。式中、RおよびRは、炭酸第四級アンモニウム(I)について上記した意味および好ましい意味を有する。
【0029】
好ましい重炭酸第四級アンモニウムは、重炭酸ジ−n−デシルジメチルアンモニウムのような、重炭酸ジデシルジメチルアンモニウムである。
【0030】
上記した炭酸第四級アンモニウムおよび重炭酸第四級アンモニウムを、米国特許第5,438,034号および国際公開第WO 03/006419号に記載されるような、当該技術分野において知られる方法により調製することができる。
【0031】
炭酸第四級アンモニウムおよび重炭酸第四級アンモニウムは、平衡状態にある。重炭酸塩および炭酸塩の濃度は、これらが含まれる溶液のpHに依存して変化する。
【0032】
好ましい態様において、炭酸第四級アンモニウム(I)中のRおよびR、並びに/または重炭酸第四級アンモニウム(II)中のRおよびRは、同じC1−20アルキル基を意味する。
【0033】
より好ましい態様において、炭酸第四級アンモニウム(I)中のRおよびR、並びに/または重炭酸第四級アンモニウム(II)中のRおよびRは、C10アルキル基を示し、最も好ましくは、n−C10アルキル基を示す。
【0034】
他の好ましい態様において、炭酸第四級アンモニウム(I)中のR、および/または重炭酸第四級アンモニウム(II)中のRは、メチル基を示す。より好ましくは、RおよびRは、メチル基を示す。
【0035】
さらの他の好ましい態様において、炭酸第四級アンモニウム(I)中のR、および/または重炭酸第四級アンモニウム(II)中のRは、ベンジル基またはフェニルエチル基を示す。
【0036】
上記した炭酸第四級アンモニウムおよび重炭酸第四級アンモニウムは、腐食抑制剤として単独で用いられ得るか、腐食抑制剤配合物中に配合され得る。
【0037】
伝統的な塩化第四級アンモニウムと異なり、本明細書中に記載する、炭酸塩および重炭酸塩を基とする第四級アンモニウム化合物は、低い腐食性質を有するばかりでなく、腐食抑制剤としても作用する。
【0038】
炭酸塩および重炭酸塩は、全ての濃度において水中で混和性であり、高い油溶性を有し、および金属表面への高い親和性を有する。加えて、炭酸塩および重炭酸塩は、水性溶液中の、フレグランスオイルおよび親油性物質等の油の溶解度を高める。
【0039】
炭酸第四級アンモニウムおよび重炭酸第四級アンモニウムのための適切な溶媒は、極性溶媒(水および水混和性極性溶媒等)、グリコール、グリコールエーテル(プロピレングリコール等)およびそれらの混合物を含む。
【0040】
任意に、1以上のさらなる界面活性剤を、本組成物中に含むことができる。適切な界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤(本明細書中に記載される炭酸第四級アンモニウムおよび重炭酸第四級アンモニウム以外)、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびそれらの混合物を含む。このような界面活性剤の非限定的な例は、アミンオキシド、直鎖アルコールエトキシレート、第二級アルコールエトキシレート、エトキシレートエーテル、ベタイン、6〜22の炭素原子を含有する脂肪酸、上記脂肪酸の塩およびこれらの混合物である。例えば、界面活性剤は、ノニルフェノールエトキシレートであり得る。
【0041】
炭酸第四級アンモニウムおよび重炭酸第四級アンモニウム腐食抑制剤は、水と油の混合物を含む、水環境および油環境において(例えば、油田における、および金属加工における下げ孔での使用において)、金属の腐食を抑制する。油環境において見出される油の非限定的な例は、石油蒸留物である。石油蒸留物の例は、限られないが、ケロシン画分、ホワイトスピリット画分および炭化水素画分を含む。金属加工において、水性溶液、および水−油混合物若しくはエマルジョンが、しばしば、潤滑のために(金属加工ツールの潤滑のため等)用いられる。
【0042】
ビルダー、着色剤、香料、フレグランス、洗浄剤およびそれらの混合物等の、他の従来的な添加剤を、防食性組成物中に含めることができる。
【0043】
金属サブストレートに適用される炭酸第四級アンモニウムおよび/または重炭酸第四級アンモニウムの量は、腐食抑制有効量、すなわち、金属サブストレートの腐食を防止しまたはそのの速度を減じる量である。腐食抑制有効量は、意図される使用に応じて変化し得、当業者により決定され得る。
【0044】
どのような特定の理論によっても拘束されることを望むものではないが、水性溶液において、本明細書中に記載される炭酸第四級アンモニウム/重炭酸第四級アンモニウムは、これらが、カチオン性界面活性剤としても作用し、従って、金属の表面に移動するために、金属への自然な親和性を有すると考えられる。ひとたび表面に適用されると、炭酸第四級アンモニウム/重炭酸第四級アンモニウムは、酸素および/または空気が、金属表面のさらなる酸化を引き起こすことを妨害する。
【0045】
典型的に、腐食抑制組成物は、希釈し得る濃縮形態、または直ちに使用できる形態のいずれにおいても供給され得る。一般的に、直ちに使用できる形態は、全組成物の100重量パーセントに基づいて、約0.005重量パーセント〜約1.00重量パーセントの炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物を含有する。好ましくは、直ちに使用できる形態は、全組成物の100重量パーセントに基づいて、約100ppm〜約1000ppmの炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物を含有する。好ましくは、最終的な使用希釈物は、全使用希釈物の100重量パーセントに基づいて、約100ppm〜約500ppmの炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物を含有する。
【0046】
限られないが、コーティング、沈着、浸漬、浸透、はけ塗、スプレー、モップ拭き、洗浄等を含む、当該技術分野において知られる任意の手段により、組成物を金属サブストレートに適用することができる。
【0047】
好ましい態様において、金属サブストレートは、スチール、鋳鉄、アルミニウム、金属合金およびそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0048】
コーティング
上記した、防食性の炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムおよびそれらの混合物を、金属サブストレートのための防食性コーティング中に取り込むことができる。本発明のコーティングは、コーティング材料を含む。好ましくは、炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物を、コーティング材料中に溶解または分散する。
【0049】
適切なコーティング材料は、限られないが、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂、ブチラール樹脂、フタル酸樹脂のような有機樹脂、イソシアネート樹脂およびブタジエン樹脂等のような硬化性樹脂、並びにワニス、ポリウレタンに基づく低VOC溶媒コーティング、およびロジン脂肪酸ビニル系エマルジョン(rosin fatty acid vinylic emulsion)のような水を基とするコーティングを含む。コーティングは、当該技術分野において知られる方法により形成され得る。
【0050】
本発明のコーティングは、例えば、塗料、下塗および工業的コーティングであり得る。
【0051】
コーティング中に存在し得るさらなる成分は、限られないが、UV安定剤、キュアリング剤、硬化剤、難燃剤およびそれらの混合物を含む。
【0052】
水性溶液および非水性溶液(洗浄溶液および金属加工流体を含む)
上記した腐食抑制剤組成物は、これらの溶液を用いて洗浄される金属部品、特にスチールの腐食を遅らせ、且つ最小限にするための水性洗浄溶液の成分として、特に有用である。これらは、水性または非水性の金属加工流体の成分として有用であり、および粉末冶金において腐食抑制剤として用いられる水性溶液または非水性溶液の成分としても有用である。腐食抑制剤組成物は、また、これらが適用される金属等のサブストレートに、抗菌保護を提供する。本発明の目的上、「洗浄溶液」という語は、例えば、プロセス装置の内部金属表面のような金属表面の洗浄において用いられる水性の酸性溶液またはアルカリ性溶液を指す。これらの洗浄溶液は、典型的に、約1〜約10の範囲のpHを有する。例示的な洗浄溶液とその使用は、種々の特許、例えば、米国特許第3,413,160号、第4,637,899号、再発行特許第30,796号および再発行特許第30,714号に開示される。本発明の洗浄溶液組成物は、該溶液と接触する金属の腐食を抑制する有効量で存在する上記組成物である腐食抑制剤と共に、アルキレンポリアミンポリカルボン酸、ヒドロキシ酢酸、ギ酸、クエン酸およびそれらの混合物若しくはそれらの塩から成る群から選択される少なくとも1種の有機酸を含み得る。例示的な有機酸は、N,N,N’,N’−エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、テトラアンモニウムEDTA、ジアンモニウムEDTA、N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N’,N’−エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)およびそれらの塩を含む。これらの水性洗浄溶液は、典型的に、約1〜約10のpHを示す。腐食抑制剤(すなわち、炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物)の例示的な量は、約0.05重量パーセント〜約1重量パーセントである。例示的な有機酸洗浄溶液は、米国特許第6,521,028号に記載されるものを含む。
【0053】
本発明の腐食抑制剤組成物は、また、次亜塩素酸塩による、および無機酸例えば硫酸またはリン酸による金属の腐食を抑制するための水性洗浄溶液中で用いられ得る。これらの洗浄溶液は、これら無機酸による金属の腐食を抑制するに十分な本発明の腐食抑制剤の量を含む。腐食抑制剤の例示的な量は、約0.05重量パーセント〜約1重量パーセントである。
【0054】
本発明の腐食抑制剤は、化学洗浄操作中のクリーンなベースメタルの過剰な腐食を防止する、または少なくとも最小限にする。腐食抑制剤組成物は、洗浄剤として有機酸を用いる数多くの洗浄溶液中で、幅広いpH範囲に渡って有利に用いられ得る。
【0055】
洗浄溶液は、しばしば、鉄金属からのスケールおよび錆の除去において用いられる。しかしながら、該溶液は、しばしば、洗浄されるシステムの必須部分として存在する他の金属と接触する。これら金属の例は、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金等を含む。
【0056】
本発明の腐食抑制剤組成物は、有利に、水性洗浄溶液と接触するまたは水性洗浄溶液により接触される金属の、酸が誘起する腐食を抑制するに十分な量で用いられる。1つの態様によれば、本発明の腐食抑制剤組成物は、約73.2g・m−2・d−1(0.015 1b/ft/day)未満の、またはこれに等しい腐食速度を与えるに十分な量で用いられる。腐食抑制剤組成物は、洗浄溶液と洗浄される金属を接触させる前に、洗浄溶液中に溶解または分散され得る。
【0057】
以下の例は本発明を説明するが、これらに限られない。全ての割合とパーセンテージは、他に述べない限り、重量により与えられる。
【0058】
例1
本実験の目的は、エンジン洗浄剤配合物による脂ぎった汚れの除去を試験することであった。7.5gの植物油(クリスコ(Crisco)(登録商標)、J.M.スマッカー社(The J. M. Smucker Co.)、オービル(Orville)、オハイオ)と、0.1gのカーボンブラックの混合物を、液化するまで加熱した。0.5gの加熱された混合物を、金属クーポン(Q−パネルラボプロダクツ(Q-Panel Lab Products)、クリーブランド、オハイオから入手できる0.813×25.4×76.2mm(0.032”×1”×3”)寸法のスチールクーポン)上に散布し、乾燥させた。続いて、金属クーポンを、以下の表1に詳細に述べる、モルホリンまたは炭酸ジデシルジメチルアンモニウム/重炭酸ジデシルジメチルアンモニウム(DDACB)を含む50mlの配合物中に部分的に浸した。1時間後、金属クーポンを配合物から取り出し、水ですすいだ。視覚的評価を、どれくらいの脂ぎった汚れが、金属クーポンの浸した部分から除かれたかについて行った。結果を、表1に述べる。
【0059】
表1に示される通り、マイクロエマルジョン中で、モルホリンを炭酸ジデシルジメチルアンモニウムで置き換えると、配合物安定性および洗浄能力の双方において有意な改善が生じた。両方とも炭酸ジデシルジメチルアンモニウムを含む配合物AおよびBは、金属クーポンから脂ぎった汚れを100%除去し、且つ1相を保ったのに対し、両方ともモルホリンを含み、炭酸ジデシルジメチルアンモニウムを含まない配合物CおよびDは、20%のみ脂ぎった汚れを除去し、且つ相は2つの不透明な相に分離した。
【表1】

【0060】
Aromatic200(商標登録)は、テキサス、ヒューストンのエクソンモービルケミカル(ExxonMobil Chemical)から入手できる、芳香族炭化水素の混合物である。
【0061】
Exxate(登録商標)700は、テキサス、ヒューストンのエクソンモービルケミカルから入手できる、オキソ−ヘプチルアセテートである。
【0062】
Dowanol(登録商標)DpnBは、ミシガン、ミッドランドのダウケミカル(Dow Chemical)から入手できる、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテルである。
【0063】
Neodol(登録商標)91−6は、テキサス、ヒューストンのシェルケミカルズ(Shell Chemicals)から入手できる、6の平均エトキシ化度(アルコール1モル当たり、6モルの酸化エチレン)を有する、エトキシ化されたC9−11アルコールの混合物である。
【0064】
例2
冷間圧延スチールクーポン(0.813×25.4×76.2mm(0.032”×1”×3”)寸法の軟鋼クーポン(Q−パネルラボプロダクツ、クリーブランド、オハイオ))を、ねじ蓋を有する、120ml(4オンス)のガラスの広口瓶中で、脱イオン水または水道水のいずれかの中に、並びに100若しくは1000ppmの炭酸/重炭酸ジデシルジメチルアンモニウム(DDACB)混合物を含む脱イオン水、または100若しくは1000ppmの炭酸ジデシルジメチルアンモニウム/重炭酸ジデシルジメチルアンモニウム(DDACB)混合物を含む水道水のいずれかの中に完全に浸した。各溶液は、2つのクーポン(それぞれ、クーポン1〜10およびA〜J)を用いて試験された。1週間後、クーポンを取り出し、脱イオン水または水道水のいずれかですすぎ、柔らかなナイロンブラシで軽くブラシをかけた。その後、クーポンを窒素流下で乾燥し、検量した。結果を、下記の表2に述べる。重量の違いを、重量減少については(−)として、重量増加については(+)として表現した。全ての重量の違いは、それぞれのクーポンの最初の重量に基づいて、パーセントで与えられる。
【表2】

【0065】
表2に示す通り、1000ppmの炭酸ジデシルジメチルアンモニウム/重炭酸ジデシルジメチルアンモニウムを含む溶液は、本質的に金属クーポンの重量の減少がないことにより証明される通り、1週間後も分解しなかった。これらのサンプルについて、沈降物形成は観察されなかった。他の試験溶液は、褐色になり、ガラス瓶の底に沈降物が見られた。1時間後、脱イオン水に晒された冷間圧延スチールクーポン上には腐食が観察されたが、一方、1000ppmの炭酸ジデシルジメチルアンモニウム/重炭酸ジデシルジメチルアンモニウムを含む脱イオン水に晒されたクーポン上には、1週間後も、腐食が観察されなかった。
【0066】
例3
脱イオン水(58.2%w/w)、界面活性剤(オクチルジメチルアミンオキシド(40%活性)、FMB−A08(登録商標)、ロンザ社(Lonza, Inc.)、フェアローン、ニュージャージー)(8.0%w/w)、並びに第四級化合物(ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)、または炭酸ジデシルジメチルアンモニウム/重炭酸ジデシルジメチルアンモニウム混合物(DDACB))の50%水性溶液(33.8%w/w)を互いに混合した。
【0067】
水中の1:256希釈の混合物(660ppmの活性第四級アンモニウム化合物)を、DDACおよびDDACBの腐食抑制性質を評価するために用いた。冷間圧延スチール板(0.813×25.4×76.2mm(0.032”×1”×3”)寸法のスチールクーポン(Q−パネルラボプロダクツ、クリーブランド、オハイオ))を、それぞれの水性溶液中に浸し、室温で9ヶ月間観察した。
【0068】
図1および2は、それぞれ、90分および30日間水性溶液中に室温で放置した後の板の写真である。見て取れる通り、DDAC溶液中の板は、たった90分後にも腐食が始まっており、30日後にはひどく腐食された。対して、DDACB中の板は、30日後でさえも、全くもって腐食を示さない。
【0069】
図3および4は、総合して9ヶ月間、水性溶液中に室温で放置した後の板の写真である。見て取れる通り、DDACB溶液中の板は、腐食を示さないのに対して、DDAC溶液中の板は、完全に腐食された。比較目的で、第四級アンモニウム化合物を含まない脱イオン(DI)水中に浸した、同じ冷間圧延スチールの片を示す。DI水中、たった5時間後でさえも、板は、腐食の若干の兆候を示す。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】室温で90分後の、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)溶液中の、または炭酸ジデシルジメチルアンモニウム/重炭酸ジデシルジメチルアンモニウム(DDACB)溶液中の冷間圧延スチール板の写真。
【図2】室温で30日後の、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)溶液中の、または炭酸ジデシルジメチルアンモニウム/重炭酸ジデシルジメチルアンモニウム(DDACB)溶液中の冷間圧延スチール板の写真。
【図3】室温で9ヶ月後の、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)溶液中の、または炭酸ジデシルジメチルアンモニウム/重炭酸ジデシルジメチルアンモニウム(DDACB)溶液中の冷間圧延スチール板の写真。5時間後の、脱イオン水中の冷間圧延スチールのサンプルも示す。
【図4】室温で9ヶ月間、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド溶液中に、または炭酸ジデシルジメチルアンモニウム/重炭酸ジデシルジメチルアンモニウム溶液中に浸漬した後の、および室温で5時間、脱イオン水中に浸漬した後の冷間圧延スチール板の写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムおよびこれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1種の第四級アンモニウム化合物、および
(b)任意に、溶媒
を含む組成物と金属サブストレートを接触させる工程を包含する金属サブストレートの腐食を抑制するための方法。
【請求項2】
前記炭酸第四級アンモニウムが、式
【化1】

(式中、Rは、任意にアリール置換されたC1−20アルキル基、およびRは、任意にアリール置換されたC1−20アルキル基)を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記重炭酸第四級アンモニウムが、式
【化2】

(式中、Rは、任意にアリール置換されたC1−20アルキル基、およびRは、任意にアリール置換されたC1−20アルキル基)を有する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記RおよびRが、同じC1−20アルキル基である請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記RおよびRが、C10アルキル基である請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記RおよびRが、n−C10アルキル基である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記炭酸第四級アンモニウムが、炭酸ジデシルジメチルアンモニウムであり、および前記重炭酸第四級アンモニウムが、重炭酸ジデシルジメチルアンモニウムである請求項5に記載の方法。
【請求項8】
が、メチルである請求項2または3に記載の方法。
【請求項9】
およびRが、メチルである請求項7に記載の方法。
【請求項10】
が、ベンジルまたはフェニルエチルである請求項2または3に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が、アミンオキシド、直鎖アルコールエトキシレート、第二級アルコールエトキシレート、エトキシレートエーテル、ベタイン、6〜22の炭素原子を含む脂肪酸、6〜22の炭素原子を含む脂肪酸の塩およびこれらの混合物から成る群から選択される界面活性剤をさらに含む請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記界面活性剤が、ノニルフェノールエトキシレートである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記金属サブストレートが、油環境にある請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記油環境が、石油蒸留物を含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記石油蒸留物が、ケロシン画分、ホワイトスピリット画分、炭化水素画分およびそれらの混合物から成る群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が、ビルダー、着色剤、香料およびフレグランスから成る群から選択される少なくとも1つの成分をさらに含む請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記金属サブストレートが、スチール、鋳鉄、アルミニウム、金属合金およびそれらの組み合わせから成る群から選択される請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
(a)炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物の少なくとも1種、
(b)コーティング材料
を含む金属サブストレートのための防食性コーティング。
【請求項19】
前記炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物が、前記コーティング材料中に分散される請求項18に記載の防食性コーティング。
【請求項20】
少なくとも1つの表面上に、請求項18の防食性コーティングを有する金属サブストレート。
【請求項21】
防食性洗浄溶液としての、炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物の少なくとも1種を含む水性溶液の使用。
【請求項22】
防食性金属加工流体としての、炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物の少なくとも1種を含む水性溶液または非水性溶液の使用。
【請求項23】
粉末冶金における腐食抑制剤としての、炭酸第四級アンモニウム、重炭酸第四級アンモニウムまたはそれらの混合物の少なくとも1種を含む水性溶液または非水性溶液の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−505221(P2007−505221A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529932(P2006−529932)
【出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005704
【国際公開番号】WO2004/106589
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(592233462)ロンザ インコーポレイテッド (15)
【Fターム(参考)】