説明

防食塗料組成物

【課題】重金属を含有しない無公害防錆顔料を用い、かつ該顔料を種々のバインダー樹脂に配合しても鉛化合物やクロム酸化合物と同等またはそれ以上の防食性能を発揮する防食塗料組成物を提供する。
【解決手段】カルシウム成分とりん成分とからなり、かつその両成分中のカルシウムとりんとの原子比率(Ca/P=m)が0.50<m<1.00である単一物又は混合物を、180〜350℃で焼成してなる縮合りん酸カルシウムを含み、重金属を含まない無公害防錆顔料を、バインダー樹脂固形分100質量部に対して前記縮合りん酸カルシウム換算で1〜50質量部含有することを特徴とする防食塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無公害であり、鉛やクロム等の重金属を含有しない防食塗料組成物に関するものであり、更に詳しくは、特定組成の無公害防錆顔料を使用することにより、全てのバインダー樹脂が適応できる塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、防錆顔料として鉛化合物、クロム酸化合物が広範囲に使用されて来た。これらは優れた防錆効果を有する反面、その毒性が問題となり、無公害防錆顔料の開発が盛んに行われている。しかしながら、鉛化合物やクロム酸化合物と同等の耐久性を有する無公害防錆顔料の開発は充分に行われてはいない。
【0003】
塗料を塗装する物体は多種多様であり、それに対応する塗料形態も数多くある。従って塗料に配合される防錆顔料も、塗料形態、バインダー樹脂形態によって異なってくる。
【0004】
バインダー樹脂がアルキド樹脂や塩化ゴム系樹脂の場合、亜酸化鉛やシアナミド鉛、塗料中で樹脂との反応を防止するため表面活性を下げた無公害防錆顔料が使われる場合が多く、これら表面活性を下げた無公害防錆顔料は、防食性にマイナス効果をもたらし、鉛系やクロム系と同等の防食性を示しにくい。バインダー樹脂がエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂の場合、ストロンチウムクロメートやクロム酸鉛、クロム酸亜鉛やりん酸亜鉛、トリポリりん酸アルミニウム(特許文献1、2参照)が使われている。樹脂による腐食因子の遮断効果が大きく、防錆顔料の効果は著しくないが、更に防錆顔料の効果が顕著になれば、高耐久性塗料となり、塗料業界で要望されている薄膜化、省工程化につなげることができる。
【特許文献1】特開平8−283619号公報
【特許文献2】特開2003−113482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、重金属を含有しない無公害防錆顔料を用い、かつ該顔料を種々のバインダー樹脂に配合しても鉛化合物やクロム酸化合物と同等またはそれ以上の防食性能を発揮する防食塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カルシウム成分とりん成分とからなり、かつその両成分中のカルシウムとりんとの原子比率(Ca/P=m)が0.50<m<1.00である単一物又は混合物を、180〜350℃で焼成してなる縮合りん酸カルシウムを含み、重金属を含まない無公害防錆顔料を、バインダー樹脂固形分100質量部に対して前記縮合りん酸カルシウム換算で1〜50質量部含有することを特徴とする防食塗料組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、重金属を含有しない無公害防錆顔料を用い、かつ該顔料を種々のバインダー樹脂に配合しても鉛化合物やクロム酸化合物と同等またはそれ以上の防食性能を発揮する防食塗料組成物が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明に用いる無公害防錆顔料における縮合りん酸カルシウムの防錆作用に関する詳細な機構は不明であるが、縮合りん酸カルシウムが、腐食雰囲気下において水にわずかに溶解し、生じた縮合りん酸イオンが金属に対するキレート力が非常に強いため、鉄表面に不動態皮膜を形成し、錆の発生を防止するものと考えられる。
【0010】
本発明で使用される縮合りん酸カルシウムは、カルシウム成分とりん成分とからなり、かつその両成分中のカルシウムとりんとの原子比率(Ca/P=m)が、0.50<m<1.00の範囲にある単一物又は混合物を用いることが必要であり、好ましくは、単一物又は混合物中のカルシウムとりんとの原子比率mが、0.60<m<0.80の範囲にある混合物を用いることが望ましい。
【0011】
単一物又は混合物中のカルシウムとりんとの原子比率(Ca/P=m)が、m≦0.50の場合には、縮合りん酸イオンの溶出量が過剰となり、塗膜のふくれが生じ、防錆効果を低下させるため、好ましくない。また、その原子比率mが、m≧1.00の場合には、不動態皮膜形成に必要な縮合りん酸イオンの溶出量が低すぎ、また縮合りん酸カルシウムを製造しにくくなるため、好ましくない。
【0012】
本発明に用いられる縮合りん酸カルシウムは、下記式(1)、
Caxy(Pn3n+1z (1)
(式中、xは、1〜4の実数であり、yは、0〜2の実数であり、zは、1〜2の実数であり、nは、2〜6の整数であり、かつ、2x+y=(n+2)zである。)
で表される化合物であることが望ましい。
【0013】
ただし、式(1)の縮合りん酸カルシウムは、任意の数の結晶水を持つ化合物も含む。
【0014】
式(1)で表される縮合りん酸カルシウムとしては、CaH227や、Ca227、Ca32(P272、Ca42(P3102、Ca4619などが代表的なものであり、これら単一又はそれらの混合物であることが望ましい。
【0015】
このような式(1)で表される縮合りん酸カルシウムは、主にX線回折法を用いて決定することができる。
【0016】
本発明に用いられる縮合りん酸カルシウムは、単一の結晶状態であっても、種々の結晶状態(非晶質も含む)の混合物であってもさしつかえない。
【0017】
本発明に用いる無公害防錆顔料の構成成分である縮合りん酸カルシウムは、前述のカルシウム成分とりん成分との混合物を、180〜350℃の温度で焼成し、好ましくは、200〜290℃の温度で焼成することが望ましい。焼成温度が180℃より低いと、りん酸の縮合が起こらず、縮合りん酸カルシウムは得られない。また、焼成温度が350℃より高いと、生成した縮合りん酸カルシウムの多くがメタりん酸カルシウムに転じてしまうため、防錆性を有する縮合りん酸カルシウムは得られない。
【0018】
カルシウム成分とりん成分との混合物の焼成時間は、特に制限はないが、例えば、1〜30時間が好ましい。また、焼成後の縮合りん酸カルシウムは、用途等に応じて粉砕や分級などの操作を行ってもよい。
【0019】
りん成分としては、例えば、正りん酸や、ポリりん酸、亜りん酸、五酸化二燐等が好適に挙げられる。また、カルシウム成分としては、例えば、カルシウム単体や、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、りん酸一水素カルシウム、りん酸二水素カルシウム、りん酸三カルシウム、ピロりん酸カルシウム、ピロりん酸二水素カルシウム等が好適に挙げられる。なお、硝酸カルシウムや、酢酸カルシウム、塩化カルシウムは、焼成物中に水可溶性のイオンが残存し、顔料の防錆性が低下する傾向にある。
【0020】
次に、本発明者は、亜鉛を含まない無公害防錆顔料を開発するため、縮合りん酸カルシウムと組み合わせる固体塩基の探索を行った結果、アルカリ土類金属化合物が良好な防錆性を向上させる効果を示すことを見出した。アルカリ土類金属化合物としては、カルシウムや、マグネシウム、ストロンチウム等の酸化物や、水酸化物、ケイ酸塩、炭酸塩などが挙げられ、いずれも良好な防錆性を示すが、特にマグネシウムの化合物を用いるのが望ましい。
【0021】
アルカリ土類金属化合物の量は、無公害防錆顔料全体に対して、0〜90質量%、より好ましくは、0.1〜60質量%である。従って、この場合、縮合りん酸カルシウムの量は、無公害防錆顔料全体に対して、10〜100質量%、より好ましくは、40〜99.9質量%である。特にアルカリ土類金属化合物として塩基性の強い酸化物や、水酸化物を用いる場合は、無公害防錆顔料全体に対して、アルカリ土類金属化合物は、0.5〜20質量%であることが望ましい。また、このアルカリ土類金属化合物は、1種又は2種以上で使用してもよい。
【0022】
縮合りん酸カルシウムの混合比率が、上記範囲より少ないときは、防錆作用を発揮する要因となる縮合りん酸イオンの溶出量が少なくなり、防錆効果が十分ではなく、またその比率が上記範囲より多くなると、アルカリ土類金属化合物の減少により、縮合りん酸カルシウムが有する固体酸性を中性化することができなくなるため、縮合りん酸カルシウムに基づく防錆効果が低下する傾向にある。
【0023】
アルカリ土類金属化合物は、縮合りん酸カルシウムと混合して、又はその混合物を焼成して、使用することができる。
【0024】
また、本発明に用いる無公害防錆顔料は、上述の縮合りん酸カルシウム及び、それとアルカリ土類金属化合物との混合物に、更にケイ素化合物を混合してもよい。ケイ素化合物を混合すると、素地金属の腐食生成物を固定化でき、防錆効果の向上のため好ましい。ケイ素化合物としては、一般にコロイダルシリカ、湿式法や気相法で合成されたシリカ、又、二酸化ケイ素の形でシリカを含有する天然鉱物なども使用可能であり、特に限定されない。使用するケイ素化合物の量は、無公害防錆顔料全体に対して、一般に、0〜80質量%、好ましくは、0.5〜50質量%である。
【0025】
本発明に用いる無公害防錆顔料は、上述の縮合りん酸カルシウムの単独使用、又はアルカリ土類金属化合物との併用で十分な防錆効果を発揮するものであるが、更にキレート能を有する有機ホスホン酸又はカルボン酸、及び/又はそれらの中和塩を含有させると相乗効果が現れ、防錆効果は更に優れたものになる。
【0026】
本発明に用いる無公害防錆顔料に使用されるキレート能を有する有機ホスホン酸として、例えば、ニトリロトリスメチレンホスホン酸や、ニトリロトリスエチレンホスホン酸、ニトリロトリスプロピレンホスホン酸、ニトリロトリスジエチルメチレンホスホン酸等のアミノアルキレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラエチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラプロピレンホスホン酸等のエチレンジアミンテトラアルキレンホスホン酸、メタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、プロパン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸等のアルキル−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、2−ヒドキシホスホノ酢酸等が挙げられる。また、キレート能を有するカルボン酸として、例えば、クエン酸や、リンゴ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、イタコン酸、マレイン酸、グリコール酸、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、サリチル酸、スルフォサリチル酸、アントラニル酸、N−メチルアントラニル酸、3−アミノ−2−ナフトエ酸、1−アミノ−2−ナフトエ酸、2−アミノ−1−ナフトエ酸、1−アミノアントラキノン−2−カルボン酸、タンニン酸、没食子酸等が挙げられる。
【0027】
また、それら有機ホスホン酸又はカルボン酸の中和塩としては、上記化合物のアルカリ金属や、アルカリ土類金属、アルミニウム、アンモニウムイオン、又はアミノ基等で全部又は一部中和されたものが挙げられる。
【0028】
なお、キレート能を有する有機ホスホン酸又はカルボン酸及び/又はそれらの中和塩の量は、特に限定されないが、好ましくは、無公害防錆顔料全体に対して、一般に0〜20質量%、好ましくは、2〜15質量%である。
【0029】
上記縮合りん酸カルシウムと、アルカリ土類金属化合物、有機ホスホン酸又はカルボン酸及び/又はその中和塩との混合に際しては、乾式混合や、湿式混合のいずれも採用することができる。特に、無公害防錆顔料を防錆塗料に適用する場合、アルカリ土類金属化合物によるアルカリ成分が樹脂と反応し、ゲル化や増粘するおそれがあるときには、湿式混合法でこれらの成分をあらかじめ湿式反応させておき、その乾燥物を焼成あるいは粉砕等により使用しても良い。
【0030】
本発明に用いる無公害防錆顔料は、顔料粒子の分散性あるいは防錆塗料に適用する場合のビヒクルとの混和性を考慮して、必要に応じ表面処理を施してもよい。表面処理方法は、前記目的を達成するために行われる常法を用いることができ、例えば、高級脂肪酸若しくはその誘導体、酸性りん酸エステル若しくはその誘導体、ロジン酸若しくはその誘導体、又はシランカップリング剤から選ばれた1種又は2種以上で表面処理されたものであってもよい。
【0031】
高級脂肪酸若しくはその誘導体としては、例えば、カプリン酸や、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸若しくはそれらの金属塩又はアミド等、酸性りん酸エステル若しくはその誘導体としては、例えば、モノメチルアシドホスフェート、ジメチルアシドホスフェート、ジエチルアシドホスフェート、メチルエチルアシドホスフェート、n−プロピルアシドホスフェート、イソプロピルアシドホスフェート、n−ブチルアシドホスフェート、イソブチルアシドホスフェート等、ロジン酸若しくはその誘導体としては、例えば、ロジン酸、天然ロジン又はその金属塩又はアミド等、シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニル・トリス(β−メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0032】
本発明におけるバインダー樹脂の具体例としては、油性樹脂、アルキド樹脂、塩化ゴム系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシエステル樹脂、ウレタン樹脂、ふっ素樹脂、湿気硬化型ポリウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、ブチラール樹脂等である。塗料、樹脂の形態は、溶剤系、水系、無溶剤系いずれでもさしつかえない。本発明に用いる新規な無公害防錆顔料は、バインダー樹脂固形分100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは3〜40質量部配合される。更に、本発明においては塗料構成成分として、樹脂−防錆顔料−素材を複合化し、密着性を向上させるためにシランカップリング剤を配合するのが好ましい。
【0033】
該シランカップリング剤の具体例を挙げると、γ−クロロプロピルトリメトキシシランや、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル・トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン等が代表的なものとして挙げられる。シランカップリング剤はバインダー樹脂100質量部に対して0.1〜8質量部、好ましくは1〜5質量部添加する。0.1質量部未満の場合、複合化の効果は弱く、一方8質量部を超えると塗料安定性が低下する傾向にある。
【0034】
本発明における、新規な無公害防錆顔料の他に、場合によっては有機系、無機系の防錆剤を配合しても良い。有機系防錆剤の具体例としては、鋼材表面を不働態化し、電位を均一にする作用のある導電性ポリアニリン、塗膜と鋼材の密着性を強固にする2−ベンゾチアゾチオコハク酸や、ジフェニルチオカルバゾン、N,N−ジフェニルエチレンジアミン、S−ジフェニルカルバジド、フェノシアゾリン、1,5−ジフェニル−3−チオカルボヒドラジド、1,4−ジフェニル−3−チオセミカルバジド、チオカルボアニライド、チオベンズアニライド、チオアセトアニライド、2−メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾセレナゾール、2−メルカプトベンゾキサゾール、5−メルカプト−3−フェニルチアジアゾール−2−チオン、2−(o−ヒドロキシフェノール)ベンゾチアゾール、2,2’−ジチオビス−(ベンゾチアゾール)、ジメチルヒダントイン、ピロール−2−カルボキシアルデヒド、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアゾール、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、2−メルカプトチアゾリン、2−アミノチアゾール、3,5−ジメチルピラゾール、ヒスチジン、1,10−フェナントロリン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等が代表的なものとして挙げられ、これらは一種もしくは二種以上の混合物として用いられる。また、無機系防錆剤としては、アルミニウム粉末、亜鉛粉末の他、りん酸アルミニウムや、りん酸亜鉛、亜りん酸亜鉛、亜りん酸カリウム、亜りん酸カルシウム、亜りん酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、りんモリブデン酸亜鉛、りんモリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、ハイドロカルマイト等の防錆顔料が代表的なものとして挙げられ、これらは一種もしくは二種以上の混合物として用いられる。但し、クロム系、鉛系は毒性等の観点から好ましくない。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例及び比較例により、具体的に説明する。但し、本発明の範囲は、これらの実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における濃度や含有量を示す、「%」や「部」は、特に断らない限り、「質量%」や「質量部」である。
【0036】
[1.縮合りん酸カルシウムAの合成]
炭酸カルシウム100gと、市販の85%りん酸173gと(Ca/Pの原子比率は、0.67)をフラスコに採り、攪拌しながら80℃で3時間反応させた。この反応液を放冷後、温度を250℃に設定した乾燥機にて、30時間焼成し、縮合りん酸カルシウムAを合成した。この縮合りん酸カルシウムAは、CaH227やCa42(P3102等の混合物である。
【0037】
[2.縮合りん酸カルシウムBの合成]
炭酸カルシウム100gと、市販の85%りん酸154gと(Ca/Pの原子比率は0.75)をフラスコに採り、攪拌しながら80℃で3時間反応させた。この反応液を放冷後、温度を250℃に設定した乾燥機にて、30時間焼成し、縮合りん酸カルシウムBを合成した。この縮合りん酸カルシウムBは、CaH227や、Ca32(P272、Ca42(P3102等の混合物である。
【0038】
[3.縮合りん酸カルシウムCの合成]
炭酸カルシウム100gと、ポリりん酸113.7gと(Ca/Pの原子比率は0.74)をフラスコに採り、攪拌しながら80℃で3時間反応させた。この反応液を放冷後、温度を230℃に設定した乾燥機で、30時間焼成し、縮合りん酸カルシウムCを合成した。この縮合りん酸カルシウムCは、Ca227や、CaH227等の混合物である。
【0039】
上記縮合りん酸カルシウム/アルカリ土類金属化合物/有機ホスホン酸又はカルボン酸及び/又はその中和塩とバインダー樹脂(硬化剤を含む)およびシランカップリング剤の塗料配合を表1に示す。
【0040】
表1に示した無公害防錆顔料、バインダー樹脂をジルコニアビーズ(φ1.5mm)とともにサンドミルを用いて30分間分散させて塗料化した。試験片作製時に、規定量の硬化剤成分およびシランカップリング剤を配合し、均一になるまでディスパーで攪拌した。
【0041】
[試験片の作製]
脱脂、研磨した冷間圧延鋼板JIS G3141 SPCC−SB(0.8t×70×150mm)に上記塗料を乾燥膜厚が50μmとなるようエアースプレー塗装し、室温で2週間乾燥させて試験片を得た。
【0042】
[試験片の評価]
(1)複合サイクル試験
試験片の下半分に、カッターナイフを用いて素地に達するクロスカットを入れ、
JIS K 5621に準じて複合サイクル試験を36サイクル実施後クロス
カット部のさび、ふくれ幅を判定した。
【0043】
<判定基準>
◎:異常なし、○:片側2mm以下、△:片側3〜5mm
×:片側6〜10mm、××:片側テープ幅
【0044】
(2)噴霧試験
試験片の下半分に、カッターナイフを用いて素地に達するクロスカットを入れ、
JIS Z 2371に準じて塩水噴霧試験を550時間実施後クロスカット部
のさび・ふくれ幅を判定基準とした。
【0045】
<判定基準>
◎:異常なし、○:片側2mm以下、△:片側3〜5mm
×:片側6〜10mm、××:片側テープ幅
【0046】
(3)塩水浸漬後の分極抵抗値
各試験片にアクリルリングを装着し、中に3%食塩水を満たし、240時間後に
金属素地と塗膜界面の分極抵抗を測定した。
【0047】
分極抵抗の測定は北斗電工(株)/大日本塗料(株)製の塗膜
下金属腐食診断装置を用いて行なった。分極抵抗が高い程、金属界面に水が浸透
しておらず、塗膜の密着性が良く、塗膜の防食効果が大きい。
【0048】
<判定基準>
◎:100MΩ・cm以上、○:10〜99MΩ・cm
△:1〜9MΩ・cm、×:0.9MΩ・cm以下
評価結果を表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
注1)アクリル樹脂溶液
樹脂の水酸基価80mgKOH/g、数平均分子量12000、固形分65%
注2)アクリルシリコン樹脂溶液
アルコキシシリル基を含むアクリル樹脂、数平均分子量12000、
固形分50%
注3)エポキシ樹脂溶液
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量450、固形分50%
注4)大豆油変性アルキド樹脂溶液
油長62、固形分70%
注5)ふっ素樹脂溶液
樹脂の水酸基価45mgKOH/g、数平均分子量7000、固形分65%
注6)湿気硬化型ポリウレタン樹脂
住友バイエルウレタン(株)製商品名「スミジュールE21」
固形分100%
注7)エポキシ樹脂
油化シェルエポキシ社製商品名「エピコート816A」 固形分100%
注8)有機錫溶液
ジブチルチンジラウリレートのキシレン溶液、固形分14%
注9)ポリアミドアミン樹脂溶液
アミン価75mgKOH/g、固形分24%
注10)イソシアネート溶液
ヘキサメチレンジイソシアネートの酢酸ブチル溶液、固形分25%
注11)ポリアミン水溶液
エアープロダクト社製商品名「Epilink Dp700」
アミン価300mgKOH/g、固形分55%
【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム成分とりん成分とからなり、かつその両成分中のカルシウムとりんとの原子比率(Ca/P=m)が0.50<m<1.00である単一物又は混合物を、180〜350℃で焼成してなる縮合りん酸カルシウムを含み、重金属を含まない無公害防錆顔料を、バインダー樹脂固形分100質量部に対して前記縮合りん酸カルシウム換算で1〜50質量部含有することを特徴とする防食塗料組成物。
【請求項2】
前記縮合りん酸カルシウムが、下記式(1)、
Caxy(Pn3n+1z (1)
(式中、xは、1〜4の実数であり、yは、0〜2の実数であり、zは、1〜2の実数であり、nは、2〜6の整数であり、かつ、2x+y=(n+2)zである。)
で表される化合物である請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項3】
前記無公害防錆顔料が、更に、アルカリ土類金属化合物を含む請求項1〜2のいずれかに記載の防食塗料組成物。
【請求項4】
前記無公害防錆顔料が、更に、キレート能を有する有機ホスホン酸もしくはカルボン酸、又はそれらの中和塩を含む請求項1〜3のいずれかに記載の防食塗料組成物。
【請求項5】
前記無公害防錆顔料が、更に、シランカップリング剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載の防食塗料組成物。

【公開番号】特開2006−143806(P2006−143806A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333212(P2004−333212)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】