説明

防食性能劣化検知センサー並びにそれを備えた給湯暖房システム及び設備機器

【課題】腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を高精度及び高感度で検知する防食性能劣化検知センサーを提供する。また、冷却液に腐食抑制剤を添加する時期を適切に制御し、設備機器を構成する配管の腐食を未然に抑制する防食性能劣化検知センサーを備えた給湯暖房システム及び設備機器を提供する。
【解決手段】防食対象材料の腐食を抑制する腐食抑制剤が添加された溶媒に含まれる腐食抑制剤の濃度変化を電極表面被膜抵抗変化にて検知する防食性能劣化検知センサー7であって、溶媒に溶解した腐食抑制剤と反応し、表面に腐食を抑制する防食被膜を形成する検知電極1と、検知電極1から所定の間隔を隔てて対向配置される対極2と、検知電極1と対極2との間に、高周波の交流電圧を印加する交流電源3とを有し、検知電極1表面及び検知電極1と対極2との間のインピーダンスの値に基づいて、腐食抑制剤の防食性能の劣化を検知するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分を含む雰囲気中で使用される金属材料の腐食、特に冷却液を循環する給湯暖房システム、熱交換器を配備した空調システム等の配管に使用されている金属材料の腐食を抑制するために添加される腐食抑制剤を含む冷却液における防食性能劣化を検知するセンサー並びにそれを備えた給湯暖房システム及び設備機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
給湯暖房システムや空調システム等の設備機器は、システムを構成する配管などの金属材料の腐食を抑制するため、冷却液に腐食抑制剤を添加することで腐食を抑制するようにしたものが提案されている。しかし、この設備機器は、経年使用などによって腐食抑制剤の濃度が低下してしまうと、冷却液の防食性能が劣化してしまい、金属材料の腐食が進行してしまう。そして、金属材料の腐食が進行すると、金属材料に貫通孔に至る孔食が発生し、結果として冷却液漏れにより熱交性能が著しく低下してしまうということがあった。
したがって、このような設備機器における冷却液漏れによる熱交性能の低下を防止するためには、システムを構成する配管などの金属材料の腐食を抑制する、もしくは冷却液の防食性能が低下しないように腐食抑制剤の濃度を適正に制御する必要がある。
【0003】
そこで、水分を含んだ雰囲気における電子機器を構成する金属材料の腐食を抑制するために、電子機器材料と同じ材料から構成される模擬電極を設置し、そのインピーダンス測定により模擬電極の腐食速度を測定し、電子機器の腐食状況を監視する腐食監視装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
また、高電気絶縁性冷媒を用いた冷却装置の電子機器に使用される金属材料の腐食を抑制するために、冷媒循環路中の電子機器基板上に設けた電極のインピーダンスを測定することで冷却装置の腐食環境を定量化する腐食環境定量装置が提案され、冷媒の液質を容易に高精度高感度で定量化している(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−291952号公報(たとえば、請求項1、明細書の3頁下段左欄〜4頁下段左欄及び図1参照)
【特許文献2】特開平5−126776号公報(たとえば、明細書の段落[0019]〜[0025]参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、対象電極に対して電気化学インピーダンス測定を行うことにより腐食速度を評価するものである。この特許文献1に記載の技術は、電極の反応抵抗の大小で検知把握するために電極表面にて一定量反応が進む、すなわち腐食される必要がある。特に、腐食速度の大きい系においては腐食損傷量も大きくなってしまうので、腐食抑制剤の再添加では対応できず、未然に系の腐食を抑制することができない。
【0006】
特許文献2に記載の技術は、抵抗の大きい高電気絶縁性冷媒における防食性能低下は抵抗減少の形として大きく変化するため、防食性能が低下したことの検知が可能となっている。しかし、特許文献2に記載の技術では、腐食抑制剤や不凍液成分が添加されて、抵抗が小さくなっている冷却液においては、腐食抑制剤の濃度低下に対応する抵抗値の変化も小さくなってしまうので、防食性能低下を検知することが困難となっている。
【0007】
また、腐食抑制剤等の塩の添加された冷却液の抵抗値は温度依存性を持つ。具体的には同濃度の冷却液においても温度が上昇すると冷却液の抵抗は上昇し、温度が低下すると抵抗が減少する。したがって、冷却液の抵抗変化を検知しながら防食性能を管理する場合、冷却液の温度に対応した抵抗補償機能を別に取り付ける必要があり、設置に伴うコスト・設置空間等を考慮しなくてはならなかった。
【0008】
本発明は、上記のような課題の少なくとも1つを解決するためになされたもので、腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を電極表面被膜抵抗変化にて高精度及び高感度で検知する防食性能劣化検知センサーを提供することを第1の目的としている。
また、冷却液に腐食抑制剤を添加する時期を適切に制御し、給湯暖房システムを構成する配管の腐食を未然に抑制する防食性能劣化検知センサーを備えた給湯暖房システム及び設備機器を提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る防食性能劣化検知センサーは、防食対象材料の腐食を抑制する腐食抑制剤が添加された溶媒に含まれる腐食抑制剤の濃度変化を電極表面被膜抵抗変化にて検知する防食性能劣化検知センサーであって、溶媒に溶解した腐食抑制剤と反応し、表面に腐食を抑制する防食被膜を形成する検知電極と、検知電極から所定の間隔を隔てて対向配置される対極と、検知電極と対極との間に、高周波の交流電圧を印加する交流電源とを有し、検知電極表面のインピーダンスの値に基づいて、腐食抑制剤の防食性能の劣化を検知するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る防食性能劣化検知センサーは、検知電極表面及び検知電極と対極間のインピーダンスの値に基づいて、腐食抑制剤の防食性能の劣化を検知するので、腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を高精度及び高感度で検知することができる。また、冷却液に腐食抑制剤を添加する時期を適切に制御し、給湯暖房システム及び設備機器を構成する配管の腐食を未然に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る防食性能劣化検知センサーを備えた給湯暖房システムの概要構成の一例を示す図である。
【図2】図1に示す防食性能劣化検知センサーの概要構成の一例を示す図である。
【図3】図2に示す防食性能劣化検知センサーの電極表面の被膜形態に対するインピーダンス応答を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係る防食性能劣化検知センサーにおいて、印加する交流電圧に対するインピーダンスの実数成分の周波数依存性を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態4に係る防食性能劣化検知センサーの電極サイズに対する電極表面被膜抵抗値を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態5に係る防食性能劣化検知センサーの電極間距離に対するインピーダンス応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る防食性能劣化検知センサー7を備えた給湯暖房システム100の概要構成の一例を示す図である。図2は、図1に示す防食性能劣化検知センサーの概要構成の一例を示す図である。なお、図2における点線で囲われた部分は、図1に示す防食性能劣化検知センサー7に対応している。
防食性能劣化検知センサー7は、たとえば給湯暖房システム100のような設備機器に備えられるものである。そして、この設備機器の配管を循環する冷却液5(溶媒)に含まれる腐食抑制剤の濃度を検知するものである。
【0013】
[給湯暖房システム100の構成]
給湯暖房システム100とは、熱源機で生成される熱を利用して、たとえば風呂、洗面室、及び台所などへの給湯や、部屋の暖房などをすることができるものである。
図1に示すように、給湯暖房システム100は、熱交換器などで構成される冷却対象材15、冷却液5を搬送する循環ポンプ8、冷却液5に含まれる腐食抑制剤の濃度を検知する防食性能劣化検知センサー7、冷却液5が循環する循環路9、循環路9の一部をバイパスして防食性能劣化検知センサー7に接続されるバイパス路10及びバイパス路11、防食性能劣化検知センサー7から冷却液5の防食性能に関わる情報を受け取るコントローラー12、後述の送液ポンプ14に腐食抑制剤を供給する腐食抑制剤制御システム13、循環路9に腐食抑制剤を供給する送液ポンプ14を有している。これらのうち、冷却液5の循環回路を構成している循環ポンプ8、循環路9、バイパス路10、11及び冷却対象材15は、防食対象物(防食対象材料)である。つまり、冷却液5と接触する可能性があるものが、防食対象物である。
なお、防食性能は、冷却液5に含まれる腐食抑制剤の濃度に対応する。
【0014】
冷却対象材15は、温度の高い物体と低い物体の間で効率的に熱を移動させる室内外の熱交換器、温度や湿度を調整し送風機で空調場所へ送風するファンコイル、発生する過剰な熱を発散するラジエーター、そして循環供給用の冷却液5を貯蔵する給湯タンクなどに対応するものである。冷却対象材15は、一方が循環ポンプ8の吸引側に接続され、他方が循環ポンプ8の吐出側及びバイパス路11を介して防食性能劣化検知センサー7に接続されている。
循環ポンプ8は、循環路9、バイパス路10及びバイパス路11に流れる冷却液5を循環させるものである。循環ポンプ8は、その吸引側が冷却対象材15の流出側に接続され、その吐出側が冷却対象材15の流入側及びバイパス路10を介して防食性能劣化検知センサー7に接続されている。この循環ポンプ8は、たとえば容量制御可能なポンプなどで構成するとよい。
【0015】
防食性能劣化検知センサー7は、電気化学インピーダンス測定を利用して、防食性能劣化に伴う後述の検知電極1に形成される防食被膜の状態の変化を検知し、冷却液5に含まれる腐食抑制剤の濃度を検知するものである。防食性能劣化検知センサー7は、一方がバイパス路10を介して循環ポンプ8の吐出側に接続され、他方がバイパス路11を介して冷却対象材15の流入側に接続されている。防食性能劣化検知センサー7の詳細については、後述の[防食性能劣化検知センサー7の構成]に記載している。
循環路9は、各種機器を接続する配管である。この循環路9は、バイパス路10及びバイパス路11を介して防食性能劣化検知センサー7に接続され、また、送液ポンプ14に接続されている。さらに、循環路9には、冷却対象材15及び送液ポンプ14が接続されている。
バイパス路10及びバイパス路11は、一方が循環路9に接続され、他方が防食性能劣化検知センサー7に接続されており、循環路9の一部をバイパスする配管である。
そして、後述の防食性能劣化検知センサー7の検知電極1は、上記の防食対象物を構成する配管などに使用される金属材料と同材料で構成される。これらの防食対象物の金属材料としては、たとえば銅、アルミ、ステンレス鋼などを採用するとよい。
【0016】
コントローラー12は、防食性能劣化検知センサー7から冷却液5の防食性能に関わる情報を受け取るとともに、その防食性能に関わる情報に基づいて、送液ポンプ14の動作(運転又は停止)を制御する。具体的には、コントローラー12は、防食性能に関わる情報として、交流電源3が電極22に印加した交流電圧と、この交流電圧に対する電流応答とを受け取る。そして、この交流電圧と電流応答に基づいてインピーダンスを測定し、そのインピーダンスに基づいて送液ポンプ14の動作を制御する。
腐食抑制剤制御システム13は、循環路9に送液ポンプ14を介して接続され、循環路9内を流れる溶媒(冷却液5)に腐食抑制剤を供給するものである。なお、コントローラー12と腐食抑制剤制御システム13とは、図1に図示されるように、それぞれ別々の構成として説明したが、いずれかが両方を兼ね備える構成としてもよい。
送液ポンプ14は、循環路9に接続されており、腐食抑制剤制御システム13から供給される腐食抑制剤を、循環路9に供給(添加)するものである。この送液ポンプ14の運転は、コントローラー12によって制御される。
【0017】
[防食性能劣化検知センサー7の構成]
図2に示すように、防食性能劣化検知センサー7は、交流電源3、交流電源3と電極22を接続するリード線4、及び電極22とリード線4の一部を収納している筐体6を有している。この防食性能劣化検知センサー7は、一対の電極22を有し、給湯暖房システム100の循環路9を流れる冷却液5が流入可能となっている。そして、防食性能劣化検知センサー7は、この電極22に対して交流電圧を印加させ、その電流応答から抵抗成分(インピーダンス)を抽出する電気化学インピーダンス測定を利用して、防食性能劣化に伴う防食被膜の状態の変化を検知する。この防食被膜の状態の変化を検知することによって、防食性能劣化検知センサー7は腐食抑制剤の濃度を検知できるものである。
【0018】
電極22は、自身を含めた電極間のインピーダンスを測定する電極である。電極22は、給湯暖房システム100の循環路9と同材料から構成される検知電極1と、検知電極1へ通電する対極2とを有している。
検知電極1は、給湯暖房システム100の冷却液5の循環回路(防食対象物)を構成する配管に使用される金属材料と同材料から構成されている。検知電極1は、冷却液5の循環回路を構成する配管に使用される金属材料に応じて銅、アルミ、ステンレス鋼などで構成するとよい。検知電極1は、腐食抑制剤が添加された冷却液5に浸されることにより、表面に厚さ数nmから数十nm程度の電極表面被膜(防食被膜)で覆われる。
対極2は、冷却液5を介して検知電極1に電流を流すための電極である。この対極2は、検知電極1から所定の間隔を隔てて、対向配置されている。また、対極2は、化学的安定性が高く電流が流れても腐食しにくい金属から構成されている。具体的には、対極2は、金、白金、チタンなど電気化学的に貴な(化学反応を起こしにくい)金属で構成するとよい。
【0019】
交流電源3は、電極22に対して交流電圧を印加するものである。この交流電源3は、リード線4を介して電極22に接続されている。
リード線4は、交流電源3と電極22とを接続するものである。
筐体6は、電極22とリード線4の一部を収納し、かつ密閉空間を保つことにより、周囲から外乱因子の入らないようにするものである。これにより、防食性能劣化検知センサー7がより正確なインピーダンス測定を行えるようになっている。
【0020】
[給湯暖房システム100の動作説明]
給湯暖房システム100には、上記のように、冷却液5を流すための循環路(配管)である循環路9に循環ポンプ8が接続されており、冷却液5が循環している。循環ポンプ8の吐出側から送り込まれる冷却液5の一部は、循環路9の一部をバイパスして接続される防食性能劣化検知センサー7にバイパス路10を介して流れ込み、その後バイパス路11を介して循環路9に再び流れ込む。また、他の一部は、循環路9を流れて、バイパス路11から流れ込む冷却液5と合流する。
防食性能劣化検知センサー7は、このバイパス路10を介して流れ込んだ冷却液5の防食性能をインピーダンス測定から検出している。このインピーダンス測定の詳細については、後述の[防食性能劣化検知センサー7の動作説明]に記載する。
【0021】
防食性能劣化検知センサー7の検出結果は、コントローラー12が受け取る。そして、コントローラー12は、該検出結果に基づき、送液ポンプ14の運転を制御させる。ここで、このコントローラー12は、防食性能劣化検知センサー7が検出する抵抗値(インピーダンス)の上限値及び下限値に基づいて、送液ポンプ14の運転(運転又は停止)を制御する。
すなわち、冷却液5の防食性能が低下し、防食性能劣化検知センサー7の検知電極1に形成された電極表面被膜が破壊されると、該破壊箇所に電解液(冷却液5)が浸透する。これにより、抵抗(インピーダンス)が減少したときの抵抗値を抵抗下限値(インピーダンス下限値)する。この下限値になるとコントローラー12は、送液ポンプ14を運転させて、腐食抑制剤を冷却液5に供給させる。
また、冷却液5に腐食抑制剤が供給されることにより電極表面被膜破壊箇所が修復され、防食性能劣化検知センサー7が検出する抵抗が上昇する。この抵抗上昇は電極表面被膜が完全に修復されるまで継続するので、抵抗上昇が停止したときの抵抗値を抵抗上限値(インピーダンス上限値)とする。抵抗上限値を上回ると、コントローラー12は、送液ポンプ14を停止させて、冷却液5への腐食抑制剤の供給を停止させる。
【0022】
送液ポンプ14から腐食抑制剤が供給されて適正な防食性能に制御される冷却液5は、循環路9を流れて冷却対象材15に流れ込む。そして、冷却対象材15を流れた冷却液5は、送液ポンプ14の吸引側に送り込まれる。
以上のサイクルにより、給湯暖房システム100は、防食性能劣化検知センサー7の電極22のインピーダンス応答から、冷却液5における腐食抑制剤の濃度を適正に管理し、防食性能を維持することができる。
【0023】
[防食性能劣化検知センサー7の動作説明]
防食性能劣化検知センサー7は、検知電極1及びその対極2に対して交流電圧を印加させることにより、その電流応答から抵抗成分を抽出する電気化学インピーダンスを測定し、その測定結果から防食性能劣化に伴う防食被膜の状態の変化を検知する。すなわち、電極表面の状態の変化を検知することによって、防食性能劣化検知センサー7は腐食抑制剤の濃度を検知できるものである。
電流応答から抽出される抵抗成分は、その印加する交流電圧の周波数の高低によって、その大きさが変化する。高周波数領域における電流応答から抽出される抵抗成分は、電子の授受を伴わない電気的抵抗成分(溶液抵抗)が検出される。
一方、低周波数領域に移行するにつれ、電流応答から抽出される抵抗成分として、電子の授受を伴う電極反応の抵抗成分(電荷移動抵抗)や、電極表面に到達する反応物質の拡散に依存する化学反応の抵抗成分(ワールブルグインピーダンス)が現れるようになる。
【0024】
本実施の形態1に係る防食性能劣化検知センサー7は、電極表面被膜及び被膜破壊箇所に侵入した冷却液5の溶液抵抗を見るため、高周波電圧を電極22に印加して、高周波数領域の抵抗成分を抽出する。これにより、周波数が高い分だけ電極22表面において腐食反応などの電極反応を生じさせることを抑制することができるので、より正確に電極表面被膜の抵抗を抽出することができる。なお、交流電源3は、その電圧値を所定の値とする。交流電圧の印加周波数及び交流電圧を所定の値にすることにより、抽出される抵抗値は電極表面の状態に対応する。
【0025】
すなわち、腐食抑制剤が適正な濃度に保たれ検知電極1の芯材の腐食を抑制する電極表面被膜が形成されている時期(腐食抑制時期)においては、その抵抗値は高くなる。
一方、腐食抑制剤濃度が低下し電極表面被膜が徐々に破壊され、冷却液5が破壊箇所に侵入する段階(孔食萌芽時期、孔食萌芽状態)では、溶液抵抗より抵抗の大きい電極表面被膜が破壊されているので、腐食抑制時期と比較すると抵抗値が減少する。
さらに、電極表面被膜の破壊が進行し孔食が生成する段階(腐食領域)では、検知電極1の電極表面被膜下の芯材が冷却液5に接するようになるため、冷却液5よりも抵抗の小さい金属芯材の抵抗の影響により、孔食萌芽時期と比較すると抵抗値がさらに減少する。
【0026】
ところで、電極表面被膜が破壊され孔食が発生する腐食領域になると、腐食抑制剤を供給して、冷却液5に含まれる腐食抑制剤の濃度を適正な値に制御しても、電極表面被膜は修復されず腐食が進行してしまう。その理由は次の通りである。孔食萌芽時期は、電極表面被膜が破壊されているものの冷却液5と接触しているために冷却液5の防食性能が適正であれば破壊箇所が修復される。これに対し、いったん孔食が形成されると孔食内部では腐食抑制剤の含まれた冷却液5が届かずにアノード反応が進行し、水の加水分解により生成した水素イオンのために酸性条件下で腐食反応が進行するため、腐食抑制剤を添加しても孔食発生を抑制することはできないためである。
【0027】
そこで、コントローラー12は、防食性能低下の検知ポイントを孔食萌芽時期としている。つまり、防食性能劣化検知センサー7が検知する抵抗値が、孔食萌芽時期の電極表面被膜の抵抗値(下限値)になると、コントローラー12は、送液ポンプ14を運転させて、冷却液5に腐食抑制剤を供給させる。つまり、給湯暖房システム100は、冷却液5に腐食抑制剤を添加する時期を適切に制御することができるので、上記防食対象物の腐食を未然に抑制することができる。
また、コントローラー12は、防食性能が完全に回復した検知ポイントを、抵抗上昇の停止したときとしている。つまり、防食性能劣化検知センサー7が検知する抵抗値の上昇が停止する抵抗値(上限値)となると、コントローラー12は、送液ポンプ14を停止させて、冷却液5への腐食抑制剤の供給を停止させる。つまり、給湯暖房システム100は、冷却液5に腐食抑制剤が過剰に添加されることを抑制することができる。
【0028】
[冷却液5(溶媒)について]
検知電極1と対極2の間に流れる冷却液5は、給湯暖房システム100を構成する循環路内を流れる水系溶媒である。そしてこの冷却液5には、上記防食対象物及び検知電極1を構成する金属の腐食を抑制する腐食抑制剤が添加されている。なお、寒冷地では冷却液5が凍らないよう不凍液が添加される場合がある。
【0029】
[腐食抑制剤について]
腐食抑制剤には、ベンゾトリアゾール、8−キノリノールなどの沈殿被膜型腐食抑制剤、テトラアルキルアンモニウムなどの吸着被膜型腐食抑制剤、亜硝酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、ポリ燐酸ナトリウムなどの酸化被膜型腐食抑制剤が採用される。
腐食抑制剤は、防食対象物を構成する材料に応じて最適な腐食抑制剤を用いることが好ましい。つまり、防食対象物が銅で構成されている際には、腐食抑制剤としてベンゾトリアゾールなどの沈殿被膜型を採用し、防食対象物が鉄で構成されている際には、亜硝酸ナトリウムなどの酸化被膜型の腐食抑制剤を採用するとよい。
【0030】
次に、腐食抑制剤による検知電極1の表面の防食メカニズムについて説明する。検知電極1を構成する金属が冷却液5に溶出し、腐食抑制剤と反応することにより、検知電極1の表面に電極表面被膜が形成される。そして、この電極表面被膜が検知電極の表面に形成されると電極表面被膜によって検知電極1が覆われるため、検知電極1の更なる溶解(溶出)が抑制される。
そして、検知電極1の表面の電極表面被膜では、検知電極1の溶解反応と生成反応が繰り返されている。これらの反応が平衡状態にある間は、検知電極1からの金属溶出が抑制されるので、検知電極1は安定に存在できる。一方、冷却液5に含まれる腐食抑制剤が分解などによりその濃度が減少する、もしくは検知電極1を腐食させる腐食イオンが混入するなどが生じた場合には、平衡状態が崩れて溶解反応が支配的になり、結果として腐食反応が進行する。
【0031】
次に、腐食抑制剤による検知電極1の表面の反応について具体的に説明する。
たとえば、防食対象物を構成する配管は銅で構成されており、また、防食性能劣化検知センサー7の検知電極1も、銅で構成しているものとする。さらに、給湯暖房システム100を循環する冷却液5は水系溶媒であり、また冷却液5には不凍液としてのプロピレングリコールと、銅の腐食抑制剤としてのベンゾトリアゾール(BTAH)が添加されているものとする。
ベンゾトリアゾールは、以下の反応により冷却液5中で解離し、陰イオンBTA- となる。そして、冷却液5中に溶解した銅イオンCu+ と錯体を形成し、銅表面に無電荷の高分子錯体の沈殿被膜[Cu-BTA]n を形成する。
BTAH → BTA- +H+
nCu+ +nBTA- → -[Cu-BTA]n -
この沈殿被膜が、電極表面被膜となり給湯暖房システムを構成する金属である銅の腐食を抑制する。
【0032】
図3は、図2に示す防食性能劣化検知センサー7の検知電極1の被膜形態に対するインピーダンス応答を示す図である。そして、図3は電極表面被膜の被膜形態と、防食性能劣化検知センサー7のインピーダンス応答との相関を確認したものである。なお、電極22には、10kHzの交流電圧を印加し、そのインピーダンス応答を検出しているものとする。また、図3では、インピーダンス応答の値について、電極表面被膜Aに対するインピーダンス応答を1とした時の値で表している。
【0033】
防食性能劣化検知センサー7の筐体6内を満たす冷却液5として、銅の防食に充分な濃度となるようベンゾトリアゾールを添加した冷却液5A、銅の電極表面被膜の破壊が始まる濃度となるようベンゾトリアゾールを添加した冷却液5B、及び銅の電極表面被膜が破壊され、銅電極芯材が露出する濃度となるようベンゾトリアゾールを添加した冷却液5Cの3種類の冷却液5を準備した。電極表面被膜の形態は、これらの冷却液5A〜Cのそれぞれに対応したものとなる。
すなわち、腐食抑制剤濃度の高い冷却液5Aに対して電極表面被膜が緻密な電極表面被膜A、濃度の低下した冷却液5Bに対して表面被膜の破壊が開始した状態の電極表面被膜B、さらに濃度の低下した冷却液5Cに対して表面被膜の下から電極芯材が露出した状態の電極表面被膜Cが形成される。
図3から電極表面被膜の形態に対応したインピーダンス応答が検出され、冷却液5中のベンゾトリアゾール濃度が低下して電極表面被膜の破壊が進行するほど電極の抵抗値が減少することがわかる。
【0034】
また、インピーダンス応答の測定の後に、冷却液5B、5Cに充分なベンゾトリアゾールを添加して電極表面抵抗の変化を調べたところ、冷却液5Bについては、抵抗値が冷却液5Aにおける電極表面の抵抗値まで上昇した。しかし、冷却液5Cの電極表面抵抗は低いままであった。これより、電極表面被膜の破壊が進行し銅芯材が露出してしまうと、腐食抑制剤としてのベンゾトリアゾールを添加しても電極表面被膜が修復されないことを確認した。つまり、防食対象物が腐食して、銅芯材が露出してしまうと、腐食抑制剤を添加しても修復することができないということである。
【0035】
さらに、冷却液5A〜Cのそれぞれに対して上記インピーダンス測定とは別に、検知電極1の電極電位を測定したところ、冷却液5中のベンソトリアゾール濃度が低下して電極表面被膜の破壊が進行するほど、電極電位が降下することがわかった。この電極電位は、電極表面被膜の破壊状態を示している。すなわち、電極表面が完全な電極表面被膜で覆われている時は、電位の高い電極表面被膜の影響により電極電位が高い状態にあるのに対し、ベンゾトリアゾール濃度が低下し電極表面被膜が破壊され始めると下地の銅芯材の影響があらわれ電位が下降する。そして、銅芯材が露出するまで電極表面被膜が破壊されると、その電極電位は銅電位に限りなく近くなる。
【0036】
本実施の形態1に係る防食性能劣化検知センサー7は、電極表面被膜が形成される検知電極1及び対極2に高周波電圧を印加し、その電流応答から抵抗成分(インピーダンス)を抽出するものである。これにより、本実施の形態1に係る防食性能劣化検知センサー7は、抵抗成分が主に電子の授受を伴わない電気的抵抗成分(溶液抵抗)となるので、腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を電極被膜抵抗変化として高精度及び高感度で検知することができる。したがって、たとえば不凍液などが添加されて抵抗が小さくなっている冷却液5においても、防食性能の劣化を検知することができることは言うまでもない。
【0037】
また、上記のように防食性能劣化検知センサー7が、検知電極1に形成される防食被膜の形成状態の変化から、腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を高精度及び高感度で検知し、そして、コントローラー12が、防食性能低下の検知ポイントを孔食萌芽時期としている。つまり、本実施の形態1に係る給湯暖房システム100は、冷却液5に腐食抑制剤を添加する時期を適切に制御することができるので、防食対象物の腐食を未然に抑制することができる。
【0038】
実施の形態2.
防食性能劣化検知センサー7の筐体6内に流れる冷却液5の水質(環境)と、給湯暖房システム100内を循環する冷却液5の水質とは、防食性能劣化検知センサー7に接続されるバイパス路10、バイパス路11、循環ポンプ8、及び筐体6の寸法サイズに応じて変化する。このように、防食性能劣化検知センサー7の筐体6内に流れる冷却液5の水質(環境)と、給湯暖房システム100内を循環する冷却液5の水質とが対応しなくなると、検知電極1の腐食と給湯暖房システム100を構成する循環路の腐食が対応しなくなる。これにより、給湯暖房システム100の循環路に腐食抑制剤を添加する時期を適切に制御し、腐食を未然に抑制することができなくなる恐れがある。
そこで、本実施の形態2に係る給湯暖房システム100は、検知電極1がさらされる環境と、給湯暖房システム100の防食対象物がさらされる環境とを略同様にすることを考慮したものである。
【0039】
なお、本実施の形態2では、実施の形態1との相違点を中心に説明するものとする。また、本実施の形態2における防食性能劣化検知センサー7及び給湯暖房システム100の構成は、実施の形態1と同じであるので図1及び図2を用いて説明する。
【0040】
検知電極1及び給湯暖房システム100の防食対象物の腐食に影響を与える因子としては、冷却液5の温度、流速、溶存酸素濃度、腐食イオン、及び腐食抑制剤の濃度などである。なお、冷却液5に添加する腐食抑制剤に関しては、実施の形態1と同様、ベンゾトリアゾールを採用した。また、冷却液5の温度、流速に関しては、筐体6において、保温方式・ポンプ流量・寸法設計を調整し、防食対象物がさらされる環境と同様になるよう設計した。さらに、冷却液5の温度並びに流速に依存する溶存酸素濃度(溶解度)に関しては、上記のように冷却液5の温度並びに流速を調整して、防食対象物がさらされる環境と同様としている。
【0041】
そして、検知電極1がさらされる環境と、給湯暖房システム100の循環路内の環境との双方における腐食イオン、及び腐食抑制剤の濃度を測定した。なお、防食性能劣化検知センサー7の筐体6内に流れる冷却液5の水質の調査にあたり、冷却液5サンプルの採取は、給湯暖房システム100の運転中に行った。
【0042】
腐食イオンに関しては、銅を腐食させる腐食イオンに注目し、運転時に混入する可能性のあるものとして炭酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオンを取り上げ、それらについてイオンクロマト分析によりそれらの濃度を測定した。
冷却液5に含まれる腐食抑制剤の濃度に関しては、紫外吸収スペクトル分析により測定した。
【0043】
冷却液5サンプルの分析の結果、腐食イオン・腐食抑制剤共に防食性能劣化検知センサー7と防食対象物を流れる冷却液5について同濃度であることを確認した。
これより、防食性能劣化検知センサー7に接続されるバイパス路10、バイパス路11、循環ポンプ8、及び筐体6の寸法サイズについて、検知電極1と防食対象物を流れる冷却液5の温度及び流れが同じになるよう設計することにより、検知電極1がさらされる環境と、給湯暖房システム100の循環路内の環境とを略同様とすることができる。
【0044】
本実施の形態2に係る給湯暖房システム100は、防食性能劣化検知センサー7の検知電極1を模擬電極として確実に機能させることができる。これにより、本実施の形態2に係る給湯暖房システム100は、冷却液5に腐食抑制剤を添加する時期を適切に制御することができるので、給湯暖房システム100の防食対象物の腐食を未然に抑制することができる。
【0045】
実施の形態3.
防食性能劣化検知センサー7の電極表面被膜の抵抗成分(インピーダンス)は、印加される交流電圧の周波数が低くなるほど、電極表面被膜の抵抗は変化していないにも関わらず増加するようになる。抵抗成分は、実数成分と虚数成分から構成される位相を持つ抵抗として表されるが、そのうちの実数成分において印加する交流電圧の周波数が高周波数側から低周波数側に移行するにつれて、溶液抵抗だけでなく、電荷移動抵抗、及びワールブルグインピーダンスが現れてしまうためである。
つまり、印加する交流電圧の周波数が高周波数側から低周波数側に移行するにつれて、抵成分の実数成分には、電気伝導に対応する抵抗(電極内の電導の抵抗も含む)だけでなく、電極における電子授受の速度に対応する電気抵抗(電荷移動抵抗)、及び電極界面に到達する反応物質の拡散速度に対応する拡散抵抗(ワールブルグインピーダンス)が現れてしまうということである。
そこで、本実施の形態3に係る防食性能劣化検知センサー7及びそれを備えた給湯暖房システム100は、交流電源3から印加する交流電圧の周波数について考慮したものである。
【0046】
図4は、本発明の実施の形態3に係る防食性能劣化検知センサー7において、印加する交流電圧に対するインピーダンスの実数成分の周波数依存性を示す図である。ここで、インピーダンス応答は、同材料を用いた場合においても電極面積(表面積)に応じて変化する。したがって、図4では、検知電極1の電極面積(表面積)を規格化した時に検出されるインピーダンス応答の実数成分を1とし、各周波数における抵抗値を計算したものである。なお、本実施の形態3では、実施の形態1、2との相違点を中心に説明するものとする。
【0047】
図4に示すように、周波数が高周波数領域にあるとき、抵抗実数成分はほぼ1を示しているのに対し、10kHz付近から抵抗実数成分が増加し始め、1kHzを越えると増加の勾配が急になっている様子が確認された。具体的には、抵抗実数成分が電気伝導に対応する抵抗を示すためには、印加する交流電圧の周波数が、1kHz以上、好ましくは10kHz以上であるとよい。
【0048】
つまり、印加する交流電圧の周波数が1kHz以上、好ましくは10kHz以上(高周波数領域)とすると、防食性能劣化検知センサー7のインピーダンス応答を、電極表面被膜の抵抗変化に対応させることができる。つまり、本実施の形態3に係る防食性能劣化検知センサー7は、印加する交流電圧の周波数を上記のように設定することで、インピーダンス応答を電極表面被膜の抵抗変化に対応させることができるので、検知電極1に形成される防食被膜の状態の変化を高精度及び高感度で検知することができる。これにより、腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を高精度及び高感度で検知することができる。したがって、たとえば不凍液などが添加されて抵抗が小さくなっている冷却液においても、防食性能の劣化を検知することができることは言うまでもない。
【0049】
また、上記のように防食性能劣化検知センサー7が、検知電極1に形成される防食被膜の状態の変化から、腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を高精度及び高感度で検知し、そして、コントローラー12が、防食性能低下の検知ポイントを孔食萌芽時期としている。つまり、本実施の形態3に係る給湯暖房システム100は、冷却液5に腐食抑制剤を添加する時期を適切に制御することができるので、防食対象物の腐食を未然に抑制することができる。
【0050】
実施の形態4.
防食性能劣化検知センサー7の電極表面被膜の抵抗値は、対極2に対する検知電極1の表面積に応じて変化する。つまり、防食性能劣化検知センサー7の検知電極1において、電極面積を最適化することで、電極表面抵抗変化をより高精度高感度に検出することができる。
そこで、本実施の形態4に係る防食性能劣化検知センサー7及びそれを備えた給湯暖房システム100は、対極2に対する検知電極1の表面積について考慮したものである。
【0051】
図5は、本発明の実施の形態4に係る防食性能劣化検知センサー7の電極サイズに対する電極表面被膜の抵抗値を示す図である。図1で説明した防食性能劣化検知センサー7の検知電極1として、後述の5種類を準備し、それぞれの電極表面被膜の抵抗値を測定した。
サイズ1.対極2よりも110%表面積が大きい検知電極1。
サイズ2.対極2よりも105%表面積が大きい検知電極1。
サイズ3.対極2と同表面積の検知電極1。
サイズ4.対極2よりも表面積が95%小さい検知電極1。
サイズ5.対極2よりも表面積が90%小さい検知電極1。
なお、対極2との距離及び冷却液5温度は一定となるように設計することにより、検知電極1と対極2間の冷却液5の溶液抵抗を一定に制御している。そして、このように制御された状態にて、5種類の電極に交流電圧を印加しその電流応答から電極表面被膜の抵抗値を導出した。なお、図5における検知電極1の表面積は対極2の表面積を100とした時の値で、また、電極表面抵抗はサイズ1の検知電極1の抵抗を1とした時の値で表す。なお、本実施の形態4では、実施の形態1〜3との相違点を中心に説明するものとする。
【0052】
図5に示すように、検知電極1の表面積を小さくすることにより、電極表面被膜の抵抗値が大きくなることがわかった。特に、対極2の表面積に対して検知電極1の表面積が95%以下になるとその度合いは顕著となった。電極表面被膜の抵抗が大きいほど、冷却液5の防食性能が低下したときに生じる表面被膜破壊に伴う抵抗変化の値は大きくなる。つまり、電極表面被膜の抵抗が大きいほど、防食性能劣化検知センサー7の検知精度及び感度を高くすることができる。
【0053】
本実施の形態4に係る防食性能劣化検知センサー7は、検知電極1の表面積を対極2の表面積よりも小さくする、好ましくは検知電極1の表面積を対極2の表面積の95%以下にすることにより、検知電極1に形成される防食被膜の状態の変化を、高精度及び高感度で検知することができる。これにより、腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を高精度及び高感度で検知することができる。したがって、たとえば不凍液などが添加されて抵抗が小さくなっている冷却液においても、防食性能の劣化を検知することができることは言うまでもない。
【0054】
また、上記のように防食性能劣化検知センサー7が、検知電極1に形成される防食被膜の状態の変化から、腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を高精度及び高感度で検知し、そして、コントローラー12が、防食性能低下の検知ポイントを孔食萌芽時期としている。つまり、本実施の形態4に係る給湯暖房システム100は、冷却液5に腐食抑制剤を添加する時期を適切に制御することができるので、防食対象物の腐食を未然に抑制することができる。
【0055】
実施の形態5.
検知電極1と対極2の間の冷却液5の溶液抵抗は、検知電極1の表面積、冷却液5の導電率及び検知電極1と対極2間の距離によって決まる。検知電極1の表面積及び冷却液5の導電率は、所定の値に設定可能である。そこで、検知電極1と対極2間の距離を最適化することにより冷却液5の溶液抵抗を制御することができる。
そこで、本実施の形態5に係る防食性能劣化検知センサー7及びそれを備えた給湯暖房システム100は、検知電極1と対極2間の距離について考慮したものである。
【0056】
図6は、本発明の実施の形態5に係る防食性能劣化検知センサー7の電極間距離に対するインピーダンス応答を示す図である。図1で説明した防食性能劣化検知センサー7の検知電極1と対極2間の距離を、以下の5種類に設定したものを準備し、それぞれの電極表面被膜の抵抗値を測定した。
距離1.検知電極1の電極長に対して110%の距離に設定。
距離2.検知電極1の電極長に対して105%の距離に設定。
距離3.検知電極1の電極長と同長の距離に設定。
距離4.検知電極1の電極長に対して95%の距離に設定。
距離5.検知電極1の電極長に対して90%の距離に設定。
なお、測定にあたっては、検知電極1の表面積を対極2よりも大きく設計することにより、検知電極1の電極表面被膜の抵抗を小さくし、電極間の溶液抵抗の変化をより検知しやすくするようにした。この状態において、検知電極1と対極2間について5種の距離におけるインピーダンスを測定した。なお、図6における電極間距離は、検知電極1の電極長を100とした時の値で、また、各インピーダンス応答の値は、電極間距離を距離1とした時のインピーダンス応答を1とした時の値で表している。なお、本実施の形態5では、実施の形態1〜4との相違点を中心に説明するものとする。
【0057】
図6に示すように、検知電極1と対極2間の距離を小さくすることにより、電極表面被膜の抵抗を含んだインピーダンス応答は小さくなることがわかった。特に、検知電極1の電極長に対して電極間距離が95%以下になると、インピーダンス応答の減少の度合いは、顕著となった。ここで、電極22間の冷却液5の抵抗が小さいほど、全抵抗に対する電極表面被膜の抵抗が大きくなる。これにより、全抵抗値の変化に対する、冷却液5の防食性能が低下したときに生じる表面被膜破壊に伴う抵抗変化の値が大きくなる。したがって、電極22間の冷却液5の抵抗が小さいほど、防食性能劣化検知センサー7の検知精度及び検知感度を高くすることができる。
【0058】
本実施の形態5に係る防食性能劣化検知センサー7は、検知電極1と対極2間の距離を検知電極1の電極長よりも短くする、好ましくは検知電極1と対極2間の距離を検知電極1の電極長の95%以下とすることにより、検知電極1に形成される防食被膜の状態の変化を、高精度及び高感度で検知することができる。これにより、腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を高精度及び高感度で検知することができる。したがって、たとえば不凍液などが添加されて抵抗が小さくなっている冷却液においても、防食性能の劣化を検知することができることは言うまでもない。
【0059】
また、上記のように防食性能劣化検知センサー7が、検知電極1に形成される防食被膜の状態の変化から、腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を高精度及び高感度で検知し、そして、コントローラー12が、防食性能低下の検知ポイントを孔食萌芽時期としている。つまり、本実施の形態5に係る給湯暖房システム100は、冷却液5に腐食抑制剤を添加する時期を適切に制御することができるので、防食対象物の腐食を未然に抑制することができる。
【0060】
なお、給湯暖房システム100は、防食性能劣化検知センサー7が冷却液5の防食性能が低減したと検知した際には、ユーザーに音声などで報知するように構成してもよいことは言うまでもない。
また、給湯暖房システム100は、防食性能劣化検知センサー7が、検知電極1に形成される防食被膜の状態の変化から腐食抑制剤の劣化(濃度の減少)を高精度及び高感度で検知することができるので、冷却液5の抵抗変化を検知しながら防食性能を管理したり、冷却液5の温度に対応した抵抗補償機能を別に取り付けたりする必要がない。つまり、防食性能を管理したり、冷却液5の温度に対応した抵抗補償機能を別に取り付けたりすることによってコストアップをしてしまうことがない。
【0061】
実施の形態1〜5に記載の内容は、適宜組み合わせてよいことは言うまでもない。また、本発明は、冷却水などの溶媒が循環する他の設備機器に適用することもできる。
【符号の説明】
【0062】
1 検知電極、2 対極、3 交流電源、4 リード線、5 冷却液、6 筐体、7 防食性能劣化検知センサー、8 循環ポンプ、9 循環路、10、11 バイパス路、12 コントローラー、13 腐食抑制剤制御システム、14 送液ポンプ、15 冷却対象材、22 電極、100 給湯暖房システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防食対象材料の腐食を抑制する腐食抑制剤が添加された溶媒に含まれる前記腐食抑制剤の濃度変化を電極表面被膜抵抗変化にて検知する防食性能劣化検知センサーであって、
前記溶媒に溶解した前記腐食抑制剤と反応し、表面に腐食を抑制する防食被膜を形成する検知電極と、
前記検知電極から所定の間隔を隔てて対向配置される対極と、
前記検知電極と前記対極との間に、高周波の交流電圧を印加する交流電源とを有し、
前記検知電極表面のインピーダンスの値に基づいて、前記腐食抑制剤の防食性能の劣化を検知する
ことを特徴とする防食性能劣化検知センサー。
【請求項2】
前記交流電圧の周波数は、10kHz以上とした
ことを特徴とする請求項1に記載の防食性能劣化検知センサー。
【請求項3】
前記検知電極は、
その表面積が、前記対極の表面積より小さくなるように構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の防食性能劣化検知センサー。
【請求項4】
前記検知電極は、
その表面積が、前記対極の表面積の95%以下となるように構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の防食性能劣化検知センサー。
【請求項5】
前記検知電極と前記対極の電極間距離は、前記検知電極の電極長より短い
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の防食性能劣化検知センサー。
【請求項6】
前記検知電極と前記対極の電極間距離は、前記検知電極の電極長の95%以下とした
ことを特徴とする請求項5に記載の防食性能劣化検知センサー。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の防食性能劣化検知センサーと、
溶媒によって加熱又は冷却される冷却対象材と、
前記溶媒を循環させる循環ポンプと、
前記冷却対象材と前記循環ポンプとを含んで形成された前記溶媒が循環する循環路と、
前記循環路の一部をバイパスして前記防食性能劣化検知センサーに接続されるバイパス路と、
前記循環路及び前記バイパス路を構成している防食対象材料の腐食を抑制する腐食抑制剤を、前記循環路に供給する送液ポンプと、
前記防食性能劣化検知センサーの検知結果に基づいて、前記送液ポンプの動作を制御するコントローラーとを有した
ことを特徴とする給湯暖房システム。
【請求項8】
前記コントローラーは、
前記検知電極の孔食萌芽状態におけるインピーダンスの実数成分を下限値とし、
前記防食性能劣化検知センサーの検知結果が前記下限値になると、
前記送液ポンプを運転させる
ことを特徴とする請求項7に記載の給湯暖房システム。
【請求項9】
前記コントローラーは、
前記検知電極のインピーダンスの実数成分の上昇が停止したときを上限値とし、
前記防食性能劣化検知センサーの検知結果が前記上限値になると、
前記送液ポンプを停止させる
ことを特徴とする請求項7に記載の給湯暖房システム。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の防食性能劣化検知センサーを備えた
ことを特徴とする設備機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−220288(P2012−220288A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84949(P2011−84949)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】