説明

防食性複合体およびその製法

【課題】 優れた耐酸性とひび割れ抵抗性を併せ持ち、腫れや剥れもない防食性複合体を提供する。
【解決手段】 カルシウムアルミネート系化合物と高炉水砕スラグ微粉末を含有するモルタルまたはコンクリートの表面に有機−無機複合型塗膜養生剤をコーティングした防食性複合体であり、モルタルまたはコンクリートがフライアッシュ、シリカフューム、パルプスラッジ焼却灰、下水汚泥焼却灰、および廃ガラス粉末のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。有機−無機複合型塗膜養生剤が合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、および膨潤性粘土鉱物を含有するものが好ましく、有機−無機複合型塗膜養生剤の膨潤性粘土鉱物が合成フッ素雲母であることが好ましい。また、カルシウムアルミネート系化合物と高炉水砕スラグ微粉末を含有するモルタルまたはコンクリートの表面に有機−無機複合型塗膜養生剤をコーティングする防食性複合体の製法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築分野において使用される防食性複合体、特に、下水道処理施設などに使用される防食性を有するモルタルやコンクリートに関する。
【0002】
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【背景技術】
【0003】
近年、下水処理施設を中心に、コンクリート構造物の硫酸による劣化事例が増加している。このような背景を受けて、コンクリートの硫酸劣化に関する研究も以前にも増して多く見受けられるようになった。硫酸劣化の対策としては、耐酸性に優れる樹脂を塗膜する方法や、耐酸性のモルタルで断面修復する方法が採用されている。
耐酸モルタルとして、ポルトランドセメントとともに、高炉スラグやフライアッシュ、シリカフュームなどを多量に混和したモルタルが提案されている(特許文献1)。
一方、ポルトランドセメントとならんでアルミナセメントが知られている。アルミナセメントはカルシウムアルミネート系化合物を主成分とする水硬性材料である。カルシウムアルミネート系化合物はポルトランドセメントと比較して、初期強度発現性に優れ、塩化物浸透に対する抵抗性や耐酸性にも優れるという特徴があるが、水和物の転化(コンバージョン)による長期強度の低下を防止する方法としては、高炉水砕スラグ、フライアッシュおよびシリカフュームなどを併用する方法が提案されている(特許文献2、特許文献3)。
また、有機−無機複合型塗膜養生剤が開発されている(特許文献4)。
【0004】
【特許文献1】特開2000-128618号公報
【特許文献2】特開昭60-180945号公報
【特許文献3】特開平01-141844号公報
【特許文献4】特開2002-274976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、防食性複合体について種々検討を重ねた結果、カルシウムアルミネート系化合物と高炉水砕スラグ微粉末を含有するモルタルまたはコンクリートの表面に有機−無機複合型塗膜養生剤をコーティングすることにより、優れた耐酸性とひび割れ抵抗性を併せ持ち、塗膜層の腫れや剥れのない防食性複合体が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、(1)カルシウムアルミネート系化合物と高炉水砕スラグ微粉末を含有するモルタルまたはコンクリートの表面に有機−無機複合型塗膜養生剤をコーティングした防食性複合体、(2)モルタルまたはコンクリートがフライアッシュ、シリカフューム、パルプスラッジ焼却灰、下水汚泥焼却灰、および廃ガラス粉末のうちの少なくとも1種を含有する(1)の防食性複合体、(3)有機−無機複合型塗膜養生剤が合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、および膨潤性粘土鉱物を含有する(1)または(2)の防食性複合体、(4)有機−無機複合型塗膜養生剤の膨潤性粘土鉱物が、合成フッ素雲母である(1)〜(3)のいずれかの防食性複合体、(5)有機−無機複合型塗膜養生剤の使用量が100〜500g/mである(1)〜(4)のいずれかの防食性複合体、(6)カルシウムアルミネート系化合物と高炉水砕スラグ微粉末を含有するモルタルまたはコンクリートの表面に有機−無機複合型塗膜養生剤をコーティングする防食性複合体の製法、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の防食性複合体は、優れた耐酸性とひび割れ抵抗性を併せ持ち、腫れや剥れもないなどの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のカルシウムアルミネート系化合物は、CaOとAlを主成分とする化合物を総称するものであり、特に限定されるものではない。その具体例としては、CaO・2Al、CaO・Al、12CaO・7Al、11CaO・7Al・CaF、3CaO・Al、3CaO・3Al・CaSOなどと表される結晶性のカルシウムアルミネート類や、CaOとAl成分を主成分とする非晶質の化合物が挙げられる。これらの中で、CaO/Alモル比が1〜2にあるものを選定することが、可使時間の確保の観点から好ましい。
【0009】
カルシウムアルミネート系化合物を得る方法としては、CaO原料とAl原料をロータリーキルンや電気炉などによって熱処理して得る方法が挙げられる。カルシウムアルミネート系化合物を製造する際のCaO原料としては、例えば、石灰石や貝殻などの炭酸カルシウム、消石灰などの水酸化カルシウム、あるいは生石灰などの酸化カルシウムを挙げることができる。また、Al原料としては、例えば、ボーキサイトやアルミ残灰と呼ばれる産業副産物のほか、アルミ粉などが挙げられる。
【0010】
カルシウムアルミネート系化合物を工業的に得る場合、不純物が含まれることがある。その具体例としては、例えば、SiO、Fe、MgO、TiO、MnO、NaO、KO、LiO、S、P、およびFなどが挙げられる。これらの不純物の存在は本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならない。具体的には、これらの不純物の合計が10%以下の範囲では特に問題とはならない。
【0011】
また、不純物化合物としては、4CaO・Al・Fe、6CaO・2Al・Fe、6CaO・Al・2Feなどのカルシウムアルミノフェライト、2CaO・FeやCaO・Feなどのカルシウムフェライト、ゲーレナイト2CaO・Al・SiO、アノーサイトCaO・Al・2SiOなどのカルシウムアルミノシリケート、メルビナイト3CaO・MgO・2SiO、アケルマナイト2CaO・MgO・2SiO、モンチセライトCaO・MgO・SiOなどのカルシウムマグネシウムシリケート、トライカルシウムシリケート3CaO・SiO、ダイカルシウムシリケート2CaO・SiO、ランキナイト3CaO・2SiO、ワラストナイトCaO・SiOなどのカルシウムシリケート、カルシウムチタネートCaO・TiO、遊離石灰、リューサイト(KO、NaO)・Al・SiOなどを含む場合がある。本発明ではこれらの結晶質または非晶質が混在していても良い。
【0012】
本発明のカルシウムアルミネート系化合物の粒度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積で3000〜9000cm/gの範囲にあり、4000〜8000cm/g程度のものがより好ましい。3000cm/g未満では強度発現性が充分でない場合があり、9000cm/gを超えるようなものは取り扱いが困難な場合がある。
【0013】
本発明の高炉水砕スラグ微粉末は、カルシウムアルミネート系化合物のコンバージョンによる強度低下を防止する効果や耐酸性を担う。高炉水砕スラグ微粉末の粉末度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積で3000〜9000cm/g程度の範囲にある。
【0014】
本発明では、高炉水砕スラグ微粉末などの潜在水硬性物質のほかに、ポゾランを使用できる。ポゾランは、カルシウムアルミネート系化合物のコンバージョンによる強度低下を防止する効果や耐酸性を向上させる効果を助長する役割を担う。ポゾランは、特に限定されるものではなく、フライアッシュ、シリカフューム、パルプスラッジ焼却灰、下水汚泥焼却灰、廃ガラス粉末などが挙げられる。中でも、フライアッシュやシリカフュームの使用が好ましい。
フライアッシュとシリカフュームの粉末度は、特に限定されるものではないが、通常、フライアッシュについては、ブレーン比表面積で3000〜9000cm/g程度の範囲にあり、シリカフュームについては、BET比表面積で2〜20m/g程度の範囲にある。
【0015】
本発明のカルシウムアルミネート系化合物と高炉水砕スラグ微粉末(以下、セメント組成物という)の配合割合は、特に限定されるものではないが、通常、カルシウムアルミネート系化合物は30〜80部であり、50〜70部が好ましく、高炉水砕スラグ微粉末は20〜70部であり、30〜50部が好ましい。
また、ポゾランは、必要に応じて、高炉水砕スラグ微粉末の一部に置換して用いることが可能である。カルシウムアルミネート系化合物が30部未満であったり、高炉水砕スラグ微粉末が70部を超えると、強度発現性が十分でなくなる場合があり、カルシウムアルミネート系化合物が90部を超えたり、高炉水砕スラグ微粉末が10部未満であると、コンバージョンによる強度低下が発生したり、十分な耐酸性が得られない場合がある。
【0016】
本発明の有機−無機複合型塗膜養生剤とは、合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、および膨潤性粘土鉱物を主成分とし、さらに架橋剤を含有するものである。
【0017】
本発明の合成樹脂水性分散体としては、一般的には合成樹脂エマルジョンであり、芳香族ビニル単量体、脂肪族共役ジエン系単量体、エチレン系不飽和脂肪酸単量体、およびその他の共重合可能な単量体の内から1種または2種以上を乳化重合して得られるものである。例えば、スチレンを主体としたスチレンブタジエン系ラテックス、スチレンアクリル系エマルジョンやスチレンと共重合したメチルメタクリレートブタジエン系ラテックス、エチレンアクリルエマルジョンである。合成樹脂エマルジョンには、カルボキシル基またはヒドロキシ基を有するものがより望ましい。
ここで、乳化重合は、重合すべき単量体を混合し、これに乳化剤や重合開始剤などを加え水系で行なう一般的な乳化重合方法である。
膨潤性粘土鉱物との配合安定性を得るには、アンモニア、アミン類、およびカセイソーダなどの塩基性物質を使用し、pH5以上に調整したものが好ましい。
合成樹脂水性分散体の粒子径は、一般的に100〜300nmであるが、60〜100nm程度の小さい粒子径のものが好ましい。
【0018】
本発明の水溶性樹脂としては、加工澱粉またはその誘導体、セルロース誘導体、ポリ酢酸ビニルの鹸化物またはその誘導体、スルホン酸基を有する重合体またはその塩、アクリル酸の重合体や共重合体またはこれらの塩、アクリルアミドの重合体や共重合体、ポリエチレングリコール、およびオキサゾリン基含有重合体などが挙げられ、そのうちの1種または2種以上の使用が可能である。
水溶性樹脂として、純水への溶解度が常温で1%以上であるものであれば良く、樹脂単位重量当たりの水素結合性基またはイオン性基が10〜60%であることが好ましい。また、平均分子量は2000〜1000000が好ましい。
水溶性樹脂の使用量は、合成樹脂水性分散体の固形分100部に対して、固形分換算で0.05〜200部が好ましい。0.05部未満では防湿性が低下する場合があり、200部を超えると防湿性が著しく低下する場合がある。
【0019】
本発明の膨潤性粘土鉱物としては、スクメタイト属に属する層状ケイ酸塩鉱物が挙げられる。例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、合成フッ素雲母、ベントナイトなどである。これらは天然品、合成品、および加工処理品のいずれであっても使用可能であるが、中でも合成フッ素雲母が好ましい。そのうち、日本ベントナイト工業会、標準試験方法 JBAS−104−77に準じた方法での膨潤力が20ml/2g以上の粘土鉱物が好ましい。また、イオン交換当量が100g当たり、10ミリ当量以上ものが好ましく、60〜200ミリ当量以上ものがより好ましい。さらに、そのアスペクト比が50〜5000のものが好ましい。アスペクト比とは、電顕写真により求めた層状に分散した粘土鉱物の長さ/厚みの比である。
膨潤性粘土鉱物の使用量は、合成樹脂水性分散体の固形分100部に対して、1〜50部が好ましい。1部未満では防湿性が低下しブロッキングが生じやすくなる場合があり、50部を超えると塗膜養生剤の膜の変形能力が低下する場合がある。
【0020】
架橋剤としては、水溶性樹脂や合成樹脂水性分散体が有するカルボキシル基、アミド基、および水酸基などの親水性官能基と反応して、架橋、高分子化(三次元網目構造)、または疎水化するものであり、カルボキシル基と付加反応を起こすオキサゾリン基を有するものが水溶性樹脂をも兼ねるので好ましい。
架橋剤の使用量は、合成樹脂水性分散体と水溶性樹脂の合計の固形分100部に対して、固形分換算で0.01〜30部が好ましい。0.01部未満では防湿性が低下する場合があり、30部を超えると防湿性やブロッキング防止性が頭打ちになる。
【0021】
本発明では、合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、および膨潤性粘土鉱物を混合して、また、さらに架橋剤を反応させて、有機−無機複合型塗膜養生剤を調製する。
有機−無機複合型塗膜養生剤の合成方法は、水溶性樹脂と膨潤性粘土鉱物をあらかじめ水中で混合した後に、合成樹脂水性分散体と架橋剤を混合する方法が好ましい。
【0022】
有機−無機複合型塗膜養生剤をコーティング(被覆)する方法は、均一に養生被覆膜が形成できる方法であれば特に限定されるものではなく、撒布したり、塗布したり、吹付けたりすることが可能である。
有機−無機複合型塗膜養生剤は、水平のモルタルやコンクリート部材であれば、ブリーデング終了後に撒布や被覆することが可能である。また、撒水などの水に関する養生が終了後、できるだけ早い時期に被覆することがひび割れ低減効果を得るために望ましい。
このような有機−無機複合型塗膜養生剤の例としては、東亞合成社の「CA2」シリーズを用いることができる。
【0023】
有機−無機複合型塗膜養生剤の使用量は、特に限定されるものではないが、1m当たり、100〜500gの範囲で使用することが好ましく、150〜400gがより好ましい。50g未満ではひび割れ抵抗性の向上効果や耐酸性向上効果が十分でなく、500gを超えてもさらなる効果の向上が期待できない。
【0024】
本発明では、モルタルやコンクリートにポリマーを配合することが、耐酸性の向上の観点から、また、付着強度の向上の観点から好ましい。
本発明で言うポリマーとは、特に限定されるものではない。ポリマーは大別すると、水性ポリマーディスパージョン、水溶性ポリマー、液状ポリマー、再乳化型粉末樹脂の4種類となる。その具体例としては、例えば、水性ポリマーディスパージョンとしては、天然ゴムラテックス、合成ゴムラテックス、樹脂エマルジョン、混合ディスパージョンが分類される。この中には、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、メタクリル酸メチルブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリアクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル、スチレンアクリル酸エステル、ポリプロピオン酸ビニル、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、アスファルト、パラフィン、混合ラテックス、混合エマルジョンなどが挙げられる。水溶性ポリマーとしては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル酸カルシウム、アクリル酸マグネシウムなどが挙げられる。液状ポリマーとしては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂などが挙げられる。再乳化型粉末樹脂としては、例えば、スチレンブタジエンゴム、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニルビニルバーサテート、スチレンアクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0025】
ポリマーの使用量は、特に限定されるものではないが、通常、セメント組成物100部に対して、固形分換算で、1〜10部が好ましく、3〜7部がより好ましい。1部未満では、付着強度の改善効果、物質遮断性およびひび割れ抵抗性が充分に得られない場合があり、10部を超えて使用すると、凝結遅延や初期強度発現性が悪くなる場合がある。
【0026】
本発明では、モルタルやコンクリートに繊維質物質を配合することがひび割れ抵抗性を向上させる観点から好ましい。
本発明で言う繊維質物質とは、特に限定されるものではないが、その具体例としては、例えば、ビニロン繊維、セルロース繊維、アクリル繊維などの有機系繊維、炭素繊維、スチールファイバー、ワラストナイト繊維、ガラス繊維などの無機系繊維などが挙げられる。本発明ではこれらのうちの1種または2種以上が使用可能である。
【0027】
繊維質物質の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、セメント組成物100部に対して、0.1〜3部が好ましく、0.3〜2部がより好ましい。0.1部未満では、ひび割れ抵抗性が十分に得られない場合があり、3部を超えて使用してもさらなる効果の増進が期待できず、分散性が悪くなる場合がある。
【0028】
本発明のセメント組成物の粒度は、使用する目的・用途に依存するため特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積で3000〜8000cm/gが好ましく、4000〜6000cm/gがより好ましい。3000cm/g未満では強度発現性が十分に得られない場合があり、8000cm/gを超えると作業性が悪くなる場合がある。
【0029】
本発明では、本発明のセメント組成物の他に、公知のセメントを併用しても良い。公知のセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱などの各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、またはシリカを混合した各種混合セメント、また、石灰石粉末などや高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、廃棄物利用型セメント、いわゆるエコセメントなどが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上が併用可能である。
【0030】
本発明では、砂や砂利などの骨材の他に、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ等の混和材料、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、凝結調整剤、ベントナイトなどの粘土鉱物、ならびに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体などのうちの1種または2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0031】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0032】
混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、およびナウタミキサなどの使用が可能である。
【0033】
以下、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0034】
「実施例1」
カルシウムアルミネート系化合物と高炉水砕スラグ微粉末を表1に示すように配合してセメント組成物を調製した。次いで、JIS R 5201に準じてモルタルを調製し、表面に有機−無機複合型塗膜養生剤を1m当たり200gの割合で塗布した。この硬化体のひび割れ抵抗性の確認やモルタルの腫れや剥れの観察および耐酸性試験を行った。なお、比較のために、本発明のセメント組成物の代わりに普通ポルトランドセメントを用いた場合や、収縮低減剤を表面に塗布するのではなくモルタルに混和して使用した場合についても同様に行った。結果を表1に併記する。
【0035】
<使用材料>
カルシウムアルミネート系化合物(1):市販のアルミナセメント、電気化学工業社製、CaO・Alを主成分とする、ブレーン比表面積5000cm/g
カルシウムアルミネート系化合物(2):12CaO・7Al、試薬1級の炭酸カルシウムと酸化アルミニウムをモル比で12対7の割合で混合し、1350℃で3時間焼成する工程を2回繰り返して合成、ブレーン比表面積5000cm/g
カルシウムアルミネート系化合物(3):非晶質12CaO・7Al、カルシウムアルミネート(2)に試薬1級のシリカを3%添加して、1650℃で溶融後、急冷して合成、ブレーン比表面積5000cm/g
カルシウムアルミネート系化合物(4):カルシウムアルミネート(1)とカルシウムアルミネート(2)の等量混合物、ブレーン比表面積5000cm/g
高炉水砕スラグ微粉末:関東エスメント社製、エスメント、ブレーン比表面積4000cm/g
有機−無機複合型塗膜養生剤:東亞合成社製、商品名「CA202」、アクリル樹脂−フッ素雲母の複合型
普通ポルトランドセメント:市販品の3種を等量ずつ混合したもの
水:水道水
細骨材:JIS R 5201で使用する標準砂
【0036】
<測定方法>
ひび割れ抵抗性試験:50cm×50cmのコンクリート板にモルタルを10mmの厚さで塗りつけ、温度20℃、相対湿度40%の環境で1日間放置し、ひび割れの発生具合を観察した。◎はひび割れが全くなし。○はひび割れ幅0.05mm以下のひび割れが1本のみ発生。−はひび割れが1本であるがひび割れ幅が0.05mmを超えた場合、△はひび割れが2本発生。×はひび割れが3本以上発生。
耐酸性:7%濃度の硫酸溶液に供試体を3ヶ月間浸漬し、供試体の外観の変化や質量減少から耐酸性を評価した。×は外観の変化が著しく、かつ、質量変化率が±5%以上の場合、△は外観の変化が著しいか、あるいは、質量変化率が±5%以上のいずれか一方を満たす場合、○は外観の変化と質量変化ともに上記条件に該当しない場合とした。
腫れ・剥れの観察:上記耐酸性試験後において、目に見えて腫れが認められ、かつ、硬化体表面に剥れが発生した場合は×、腫れまたは剥れのいずれかが認められた場合は△、いずれも認められず健全な状態であった場合を○とした。
【0037】
【表1】

【0038】
表1より、本発明の防食性複合体は、優れた耐酸性とひび割れ抵抗性をもち、腫れや剥がれがないことがわかる。
【0039】
「実施例2」
カルシウムアルミネート系化合物(1)50部と、高炉水砕スラグ微粉末40部と各種のポゾラン10部を表2に示すように配合してセメント組成物としたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0040】
<使用材料>
ポゾランA:市販のフライアッシュ、ブレーン比表面積4000cm/g
ポゾランB:市販のシリカフューム、BET比表面積15m/g
ポゾランC:市販のパルプスラッジ焼却灰、ブレーン比表面積4000cm/g
ポゾランD:市販の下水汚泥焼却灰、ブレーン比表面積9000cm/g
ポゾランE:市販の廃ガラス粉末、ブレーン比表面積4000cm/g
ポゾランF:ポゾラン物質Aとポゾラン物質Bの等量混合物、ブレーン比表面積14000cm/g
【0041】
【表2】

【0042】
表2より、本発明の防食性複合体は、優れた耐酸性とひび割れ抵抗性をもち、腫れや剥がれがないことがわかる。
【0043】
「実施例3」
カルシウムアルミネート系化合物(1)50部と、高炉水砕スラグ微粉末40部とポゾランF10部とを配合したセメント組成物を使用し、有機−無機複合型塗膜養生剤の使用量を表3に示すように変化したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0044】
【表3】

【0045】
表3より、本発明の防食性複合体は、優れた耐酸性とひび割れ抵抗性をもち、腫れや剥がれがないことがわかる。
【0046】
「実施例4」
カルシウムアルミネート系化合物(1)50部と、高炉水砕スラグ微粉末40部とポゾランF10部とを配合し、これらの合計100部に対して、表4に示すようにポリマーを固形分換算で配合してセメント組成物としたこと以外は実施例1と同様に行った。なお、付着試験も行った。結果を表4に併記する。
【0047】
<使用材料>
ポリマーα:市販のスチレンブタジエンゴム系ポリマー
ポリマーβ:市販のポリアクリル酸エステル系ポリマー
ポリマーγ:市販のエチレン酢酸ビニル系ポリマー
ポリマーΔ:市販の酢酸ビニルビニルバーサテート系ポリマー
【0048】
<測定方法>
付着試験:JIS A 1171に準じて、材齢28日の付着強度を測定した。
【0049】
【表4】

【0050】
表4より、本発明の防食性複合体は、優れた耐酸性とひび割れ抵抗性をもち、腫れや剥がれがなく、付着強度が高いことがわかる。
【0051】
「実施例5」
カルシウムアルミネート系化合物(1)50部と、高炉水砕スラグ微粉末40部とポゾランF10部とを配合し、これらの合計100部に対して、表5に示すように繊維質物質を配合したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0052】
<使用材料>
繊維質物質(1):市販のビニロン繊維、長さ6mm、径200μm
繊維質物質(2):市販のアクリル繊維、長さ6mm、径200μm
繊維質物質(3):市販のセルロース繊維、長さ200μm、径30μm
繊維質物質(4):市販のカーボン繊維、長さ6mm、径200μm
繊維質物質(5):市販のワラストナイト繊維、長さ600μm、径40μm
【0053】
【表5】

【0054】
表5より、本発明の防食性複合体は、優れた耐酸性とひび割れ抵抗性をもち、腫れや剥れがないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の防食性複合体は、優れた耐酸性とひび割れ抵抗性を併せ持ち、腫れや剥れがない。さらに、付着性にも優れるため、土木および建築用途に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート系化合物と高炉水砕スラグ微粉末を含有するモルタルまたはコンクリートの表面に有機−無機複合型塗膜養生剤をコーティングした防食性複合体。
【請求項2】
モルタルまたはコンクリートがフライアッシュ、シリカフューム、パルプスラッジ焼却灰、下水汚泥焼却灰、および廃ガラス粉末のうちの少なくとも1種を含有する請求項1記載の防食性複合体。
【請求項3】
有機−無機複合型塗膜養生剤が合成樹脂水性分散体、水溶性樹脂、および膨潤性粘土鉱物を含有する請求項1または2記載の防食性複合体。
【請求項4】
有機−無機複合型塗膜養生剤の膨潤性粘土鉱物が合成フッ素雲母である請求項1〜3のいずれか1項記載の防食性複合体。
【請求項5】
有機−無機複合型塗膜養生剤の使用量が100〜500g/mである請求項1〜4のいずれか1項記載の防食性複合体。
【請求項6】
カルシウムアルミネート系化合物と高炉水砕スラグ微粉末を含有するモルタルまたはコンクリートの表面に有機−無機複合型塗膜養生剤をコーティングすることを特徴とする防食性複合体の製法。

【公開番号】特開2007−1803(P2007−1803A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183176(P2005−183176)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】