説明

防食接着剤組成物

本発明は、電子部品に使用されるような、防食特性を有し、腐食性表面への接着が向上した接着剤組成物に関する。これらの組成物によって、特に、高温および/または高湿度に長期間にわたって暴露される場合において、耐食性が非常に向上した基板が得られる。また、導電性基板に使用した場合、この組成物は良好な初期およびその後の導電率を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品に使用されるような、防食特性を有し、腐食性表面への接着性が向上した組成物に関し、一実施形態においては、初期導電率および全体にわたる導電率の安定性が向上した提供する組成物に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
本発明は、ラジカル硬化性樹脂、フィラーおよびアゾ化合物を含む防食接着剤組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の一実施形態では、コーティング組成物中の全固形分を基準として、ラジカル硬化性樹脂は、組成物の約5重量%〜約95重量%の量で存在し、フィラーは、組成物の約2重量%〜約95重量%の量で存在し、アゾ物質は、組成物の約0.1重量%〜約10重量%の量で存在する。
【0004】
他の実施形態では、ラジカル硬化性樹脂は、組成物の約10重量%〜約60重量%の量で存在し、フィラーは、組成物の約5重量%〜約85重量%の量で存在し、アゾ化合物は、組成物の約0.2重量%〜約5重量%の量で存在する。特に指定のない限り、本明細書に記載されている重量%はすべて、コーティング組成物中の固形分の全重量を基準としている。
【0005】
また、本発明の組成物は、腐食を防止するために金属基板をコーティングする方法に関する。この方法は、前記防食接着剤組成物を金属基板に塗布するステップと、それを好ましくは室温で乾燥するステップとを含む。
【発明の効果】
【0006】
このコーティングされた基板は、加熱下で第2の基板に接着させ、硬化して組み立て部品を形成し、最小限の部品の腐食で、または部品の腐食なしに、高温高湿の環境などの苛酷な環境に暴露することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
電子デバイスにおいて、導電性素子は、導電性接着剤によって、互いに接着することができる。例えば、ワイヤレスカードは、導電性接着剤を使用して、厚い金属支持体、特にアルミニウムおよびアルミニウム合金から形成されたものに接着することができる。回路基板またはカードは、導電性接着剤によって、金属ヒートシンクなどの金属基板に接着的および電気的に直接結合することができる。ある用途では、導電性接着剤の連続層によって、部品の連続導電性表面を金属支持体に接着することができる。他の用途では、個々の、分離した、通常は同一平面上の導電性接着剤の複数の層によって、部品の選択領域、例えばカードまたは回路基板表面の電気接点を金属支持体に接着することができる。この場合、各分離した層は、基板の電気接点1つと結合する。また、導電性接着剤を使用して、ICチップを基板に接着することができ(ダイ接着剤)、また、回路アセンブリをプリント配線板に接着することもできる(表面実装導電性接着剤)。
【0008】
例えば、PETおよび紙類のような低コストの基板が一般的である無線自動認識(RFID)に用いられるReel to Reel方式の連続プロセスが用いられるような、大量用途では、異なる特性を有する導電性接着剤が必要である。一般的なRFID用途用のアンテナメタライゼーションは、Agインクを印刷するか、アルミニウムをエッチングするか、銅をエッチングまたは蒸着(VD)することができる。RFIDインレイは、アンテナおよびRFIDシリコンチップから成り、これらは通常、異方性導電性接着剤または非導電性接着剤を使用して組み立てられる。RFIDインレイを製造する方法は、ダイストラップの使用を含む。ダイストラップは通常、PET基板上に金属リード線が伸びるダイから成る。ダイストラッププロセスは、走行するウェブ上の所定のパターンのパッド上に等方性導電性接着剤を塗布し、ウェブを止めることなくダイストラップを配置し、その後、例えば加熱炉内で硬化して確実に結合することを伴う。ダイストラップは、Reel to Reelの組み立てにおいて連続的に処理することができ、接着中の加圧は必要としない。
【0009】
非貴金属表面に導電性接着剤を使用する場合、導電性接着剤と金属表面の間の界面で金属酸化物、水酸化物、および他の腐食生成物が生成し、接着剤の電気的および機械的安定性が損なわれることがあり、その結果として、関係する電子デバイスの性能および信頼性に悪影響が及ぶことがある。これは、特に高温高湿に暴露されると、酸化アルミニウムが水酸化アルミニウム(Al(OH))になるアルミニウムの場合に、高湿の環境でよく起こる。この酸化アルミニウムから水酸化アルミニウムへの転化の結果、酸化物層の厚さが変化して、接着剤/酸化アルミニウム界面の機械的結合が弱くなる。このような転化はまた、接着による界面の電気抵抗が相当に増大し、最終的には接着されている表面(接着剤とアルミニウム)が機械的に分離するということになることがある。
【0010】
本出願人は、本発明の防食接着剤組成物にアゾ化合物、ラジカル硬化性樹脂およびフィラーを含めると、電気化学的腐食が低減または抑制され、電気抵抗の増加が防止されることを見出した。さらに、本発明の防食接着剤組成物は、公知の腐食防止剤を添加する必要がない。
【0011】
非限定的な一態様では、本発明の防食接着剤組成物は、金属/接着剤の結合に関連する腐食を低減する、または無くす。
【0012】
一実施形態では、防食接着剤組成物は、約130℃未満の温度で迅速に硬化し、金属基板に安定に接着する1成分系である。
【0013】
他の実施形態では、フィラーが導電性フィラーである場合、本発明は、金属基板上および金属基板間に強い電気的接続を形成する防食接着剤組成物を提供する。この防食接着剤組成物は、その接着が長期間にわたって高湿の環境に暴露された場合であっても、金属基板の酸化を防止し、良好な導電性を維持する。
【0014】
一実施形態では、金属基板は、非貴金属基板である。
【0015】
他の実施形態では、金属基板は、アルミニウムである。
【0016】
一実施形態では、本発明の防食接着剤組成物は、重合開始剤であり、アゾ開始剤として知られているアゾ化合物を含む。
【0017】
他の実施形態では、アゾ開始剤は、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、および2,2’−アゾビス(メチルイソブチレート)から選択される。
【0018】
さらに他の実施形態では、アゾ開始剤は、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)であり、これはDuPontから商品名VAZO(登録商標)52で市販されている特許物質である。
【0019】
非限定的な一態様では、ラジカル硬化性樹脂は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、およびポリエステル樹脂からなる群より選択される。
【0020】
他の非限定的な態様では、ラジカル硬化性樹脂は、アクリル樹脂である。
【0021】
本発明の一実施形態では、コーティング組成物中の全固形分を基準として、ラジカル硬化性樹脂は、組成物の約5重量%〜約95重量%の量で存在し、フィラーは、組成物の約2重量%〜約95重量%の量で存在し、アゾ物質は、組成物の約0.1重量%〜約10重量%の量で存在する。
【0022】
他の実施形態では、ラジカル硬化性樹脂は、組成物の約10重量%〜約60重量%の量で存在し、フィラーは、組成物の約5重量%〜約85重量%の量で存在し、アゾ化合物は、組成物の約0.2重量%〜約5重量%の量で存在する。特に指定のない限り、本明細書に記載されている重量%はすべて、コーティング組成物中の固形分の全重量を基準としている。
【0023】
一実施形態では、フィラーは、導電性フィラーである。
【0024】
他の実施形態では、この導電性フィラーは、透明導電性フィラーである。
【0025】
さらに他の実施形態では、この透明導電性フィラーは、インジウム・スズ酸化物はんだである。
【0026】
他の実施形態では、導電性フィラーは、銀、銅、ニッケル、金、スズ、亜鉛、白金、パラジウム、鉄、タングステン、モリブデン、カーボンブラック、炭素繊維、アルミニウム、ビスマス、スズ、ビスマス−スズ合金、カーボンナノチューブ、銀被覆ガラス、グラファイト、導電性ポリマー、金属被覆ポリマー、およびこれらの混合物から選択される。
【0027】
非限定的な一態様では、本発明の防食接着剤組成物は均一なペーストであり、ディスペンス、ジェッティング、ステンシル印刷、スクリーン印刷、またはあらゆる公知の塗布方法によって塗布することができる。RFIDの場合、防食接着剤組成物は、ストラップの配置および熱硬化の前に、アンテナパッドに塗布することができる。
【0028】
また、本発明の組成物は、腐食を防止するために金属基板をコーティングする方法に関する。この方法は、防食接着剤組成物を金属基板に塗布するステップと、乾燥するステップとを含む。一実施形態では、室温で乾燥する。このコーティング剤は、ドクターブレード、はけ塗り、スプレー、ステンシル印刷またはスクリーン印刷、および他の通常のコーティング技術によって基板に塗布することができる。コーティングされた基板は、加熱下で第2の基板に接着させ、硬化して組み立て部品を形成し、最小限の部品の腐食で、または部品の腐食なしに、高温高湿の環境などの苛酷な環境に暴露することができる。
【0029】
非限定的な一態様では、本発明の防食接着剤組成物は、腐食しやすい消費製品すべてに使用することができる。
【0030】
一実施形態では、本発明の防食接着剤組成物は、光電池デバイスおよび/またはRFIDデバイスに使用することができる。
【0031】
任意で、本発明の防食接着剤組成物は、さらに、界面活性剤、硬化促進剤、重合禁止剤、希釈剤、活性溶剤などの通常の添加剤を、組成物の特性に悪影響を及ぼさない量で、含むことができる。溶剤の場合、防食接着剤組成物がスプレーされるか、はけ塗りされるか、その他の方法によって塗布されるかに応じて種々の溶剤を使用することができる。例えば、はけ塗りのために固形分が多いコーティング剤が望ましい場合、ジメチルエステル混合物、例えばコハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチルおよびアジピン酸ジメチルの混合物のような蒸気圧が低い溶剤を使用して、組成物の可使時間を延ばすことが有利である。組成物中の溶剤の量は、使用する溶剤、および所望のコーティング剤の粘度に依存する。低揮発性の有機化合物(voc)コーティング剤が望ましい場合、低濃度の溶剤が使用できるように、例えば固形分と溶剤の比が約50:50〜40:60であるように、一般に、コーティング剤をはけ塗りすることが必要である。
【0032】
本発明をより詳細に説明するために、下記の実施例を実施した。
【実施例】
【0033】
表1に示す防食接着剤組成物を以下のようにして調製した。
【0034】
各実施例について、プロペラ攪拌機を備えた混合容器に樹脂の混合物を加えた。表1に示す開始剤を添加し、均一な溶液が得られるまで混合した。次いで、記載したフィラーを添加し、20〜30分間、混合した。その後、この混合物を真空チャンバー中、>71cmHgの圧力で5分間、脱気した。
【0035】
【表1】

【0036】
「Luperox−10」は、Elf Atochem N.Aから市販されている、無臭ミネラルスピリット中の75重量%のtert−ブチルペルオキシネオデカノエートである。
【0037】
次いで、実施例1、2、3および4の防食接着剤組成物で形成した接着層の電気特性を、オームメーターを使用して、蒸着Cu/エッチングAlの基板[短絡ストラップ(蒸着したCu)/アンテナ(エッチングしたAl)組立品として作製された]を横切る抵抗を測定することによって試験した。この組立品を、85℃、相対湿度85%に維持された湿潤チャンバー中に暴露し、初期抵抗および14日後の抵抗を測定して、高湿度条件下での接着層の電気特性への影響を求めた。
【0038】
実施例1、2、3および4の防食接着剤組成物の電気特性を表2に示す。この結果は、この温度および湿度条件下では、アゾ開始剤を含む防食接着剤組成物が、パーオキサイド開始剤を含む防食接着剤組成物よりも、Al、Cu表面の接触抵抗が安定であることを示している。
【0039】
【表2】

【0040】
実施例5および6として表3に示す防食接着剤組成物の例は、表1に示す実施例と同様にして調製した。
【0041】
【表3】

【0042】
この結果は、本発明の防食接着剤組成物を使用すると、異なるグレードのエッチングAlについて、85℃/85%RHの高温高湿の条件下、14日後まで接着部の抵抗が非常に安定であることを明確に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ラジカル硬化性樹脂、(b)フィラー、および(c)アゾ化合物を含む、防食接着剤組成物。
【請求項2】
前記アゾ化合物がアゾ開始剤である、請求項1に記載の防食接着剤組成物。
【請求項3】
前記アゾ化合物が、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、および2,2’−アゾビス(メチルイソブチレート)からなる群より選択される、請求項2に記載の防食接着剤組成物。
【請求項4】
前記アゾ化合物が、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)である、請求項3に記載の防食接着剤組成物。
【請求項5】
前記フィラーが、導電性フィラーである、請求項1に記載の防食接着剤組成物。
【請求項6】
前記導電性フィラーが、透明導電性フィラーである、請求項5に記載の防食接着剤組成物。
【請求項7】
前記透明導電性フィラーが、インジウム・スズ酸化物はんだである、請求項6に記載の防食接着剤組成物。
【請求項8】
前記導電性フィラーが、銀、銅、ニッケル、金、スズ、亜鉛、白金、パラジウム、鉄、タングステン、モリブデン、カーボンブラック、炭素繊維、アルミニウム、ビスマス、スズ、ビスマス−スズ合金、カーボンナノチューブ、銀被覆ガラス、グラファイト、導電性ポリマー、金属被覆ポリマー、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項5に記載の防食接着剤組成物。
【請求項9】
ラジカル開始剤をさらに含む、請求項1に記載の防食接着剤組成物。
【請求項10】
前記ラジカル開始剤が、パーオキサイド開始剤である、請求項9に記載の防食接着剤組成物。
【請求項11】
約5重量%〜約95重量%のラジカル硬化性樹脂、約2重量%〜約95重量%のフィラー、および約0.1重量%〜約10重量%のアゾ化合物を含む、請求項1に記載の防食接着剤組成物。
【請求項12】
約10重量%〜約60重量%のラジカル硬化性樹脂、約5重量%〜約85重量%のフィラー、および約0.2重量%〜約5重量%のアゾ化合物を含む、請求項11に記載の防食接着剤組成物。
【請求項13】
前記ラジカル硬化性樹脂は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、およびポリエステル樹脂からなる群より選択される、請求項1に記載の防食接着剤組成物。
【請求項14】
前記ラジカル硬化性樹脂が、アクリル樹脂である、請求項13に記載の防食接着剤組成物。
【請求項15】
腐食を防止するために金属基板をコーティングする方法であって、
a)請求項1に記載の防食接着剤組成物を準備するステップと、
b)この防食接着剤組成物を金属基板に塗布するステップと
を含む方法。
【請求項16】
防食接着剤組成物を硬化する追加のステップを含む、請求項15に記載の金属基板をコーティングする方法。
【請求項17】
請求項1に記載の防食接着剤組成物を含む、消費製品。

【公表番号】特表2010−528153(P2010−528153A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509435(P2010−509435)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/063493
【国際公開番号】WO2008/147683
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(391008825)ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン (309)
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D−40589 Duesseldorf,Germany
【Fターム(参考)】