説明

防食方法

【課題】チタン箔を鋼構造物の表面に密着させることができ、より優れた防食能を鋼構造物に付与することができる防食方法の提供。
【解決手段】鋼構造物の表面をチタン箔で被覆して防食する防食方法であって、前記鋼構造物を構成する鋼材の表面上に塗料を塗布して塗料層を形成する塗布工程と、前記塗料層の表面上であって、前記鋼材が有する溶接ビード部の上以外の部分に、前記チタン箔を被覆する被覆工程と、前記塗料層の表面上であって、前記チタン箔が被覆されていない部分に、チタンテープを貼り付ける貼付工程とを具備する防食方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁、桟橋などの海洋構造物に代表される鋼構造物は、時間の経過とともに腐食して錆を生ずる。そして、腐食による肉厚減少に伴い構造物としての強度が低下し、また景観を損なう。よって、何らかの防食対策が必要となる。
【0003】
防食対策には様々な方法が考えられるが、なかでも優れたものとして、鋼構造物の防食対象面をチタンの薄板で被覆する方法が挙げられる。チタンは耐食性が高いので、防食対象面に防食能を付与できる。
例えば特許文献1には、鋼構造物の鋼材表面を耐食性金属薄板で被覆する防食方法において、該金属薄板の端部および継ぎ目の下部に防水性粘着テープを有し、前記鋼材表面と前記金属薄板の間の、前記防水性粘着テープを有する以外の部分は、接着剤を塗布してある鋼構造物の防食方法が記載されている(請求項3、4等参照)。そして、このような防食方法は、施工が容易でかつ安価であり、超長期の耐食性を維持できる方法であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−81800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば特許文献1に記載のような方法でチタン箔を被覆しても、鋼構造物に十分な耐食性を付与することはできなかった。本発明者がこの原因について検討したところ、鋼構造物が通常有する溶接ビード部が、鋼構造物の表面にチタン箔が密着することを妨げるためと考えられた。チタン箔と鋼構造物とを密着させることができず、これらの間に隙間が生じれば、ここに水や空気が浸入して、鋼構造物は腐食する。
【0006】
本発明は、チタン箔を鋼構造物の表面に密着させることができ、より優れた防食能を鋼構造物に付与することができる防食方法を提供することを目的とする。また、チタン箔を鋼構造物の表面に密着させるだけではなく、さらに、チタン箔を剥がれ難い状態とすることで、さらに優れた防食能を鋼構造物に付与することができる防食方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討し、上記課題を解決する方法を見出し、本発明を完成させた。
本発明は次の(1)〜(4)である。
(1)鋼構造物の表面をチタン箔で被覆して防食する防食方法であって、前記鋼構造物を構成する鋼材の表面上に塗料を塗布して塗料層を形成する塗布工程と、前記塗料層の表面上であって、前記鋼材が有する溶接ビード部の上以外の部分に、前記チタン箔を被覆する被覆工程と、前記塗料層の表面上であって、前記チタン箔が被覆されていない部分に、チタンテープを貼り付ける貼付工程とを具備する防食方法。
(2)前記被覆工程が、半硬化状態の前記塗料層の表面上であって、前記鋼材が有する溶接ビード部の上以外の部分に、前記チタン箔を被覆する工程であり、前記貼付工程が、半硬化状態の前記塗料層の表面上であって、前記チタン箔が被覆されていない部分に、チタンテープを貼り付ける工程である、上記(1)に記載の防食方法。
(3)前記塗布工程の前に、さらに、前記鋼構造物を構成する鋼材の表面上の錆および付着物を除去する素地調整工程を具備する、上記(1)または(2)に記載の防食方法。
(4)前記鋼材がスパイラル鋼管またはUO管からなる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の防食方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チタン箔を鋼構造物の表面に密着させることができ、より優れた防食能を鋼構造物に付与することができる防食方法を提供することができる。また、本発明の好ましい態様によれば、チタン箔を鋼構造物の表面に密着させることができるだけではなく、さらに、チタン箔を剥がれ難い状態とすることで、さらに優れた防食能を鋼構造物に付与することができる防食方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a−1)はUO管からなる鋼材の概略正面図であり、図1(a−2)はスパイラル鋼管からなる鋼材の概略正面図であり、図1(b)は図1(a−1)のA−A’における概略断面図であり、図1(c)は図1(b)におけるX部分の概略拡大図である。
【図2】図2は、本発明の防食方法が具備する各工程を説明するための概略正面図および概略断面図である。
【図3】図3は図2(b−4)におけるY部分の概略拡大図である。
【図4】図4はチタン箔を貼り付ける面積が大きいスパイラル鋼管の概略正面図である。
【図5】図5は図2(b−5)におけるZ部分の概略拡大図である。
【図6】図6は、本発明の実施例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、鋼構造物の表面をチタン箔で被覆して防食する防食方法であって、前記鋼構造物を構成する鋼材の表面上に塗料を塗布して塗料層を形成する塗布工程と、前記塗料層の表面上であって、前記鋼材が有する溶接ビード部の上以外の部分に、前記チタン箔を被覆する被覆工程と、前記塗料層の表面上であって、前記チタン箔が被覆されていない部分に、チタンテープを貼り付ける貼付工程とを具備する防食方法である。
【0011】
本発明において鋼構造物とは、海洋構造物、河川鋼構造物、港湾鋼構造物、埋設鋼構造物等であり、具体的には、橋梁、桟橋、タンク、配管等である。
【0012】
また、本発明において鋼構造物を構成する鋼材とは、前記鋼構造物の一部を構成する部材、部品または部位である。鋼構造物を構成する鋼材としては、例えば、橋梁や桟橋における基礎(鋼管杭)や桁が挙げられる。例えば海洋に建設された橋梁や桟橋の基礎や桁(特に水際部分)は腐食しやすいが、本発明の防食方法を適用して防食することができる。
本発明の防食方法は、鋼管杭のような鋼管からなる前記鋼材に適用することが好ましい。具体的にはUO管やスパイラル鋼管からなる前記鋼材に適用することが好ましい。UO管やスパイラル鋼管からなる前記鋼材に本発明の防食方法における被覆工程および貼付工程を適用することで、前記鋼材の表面にチタン箔を隙間なく密着させ、その結果、優れた防食能を付与することができる。
【0013】
また、本発明において鋼構造物を構成する鋼材は、溶接ビード部を有するものである。すなわち、本発明の防食方法は、鋼構造物を構成する鋼材であって溶接ビード部を有するものに適用する。通常、鋼管からなる鋼材は溶接ビード部を有する。
【0014】
溶接ビード部について図1を用いて説明する。
図1は、鋼構造物の建設後、ある程度の時間が経過し、表面に錆や付着物が付いた鋼材から錆や付着物を除去したもの、すなわち、後述する素地調整工程に供した後の前記鋼材を示している。具体的には、図1(a−1)は鋼材がUO管からなる場合の鋼材10の概略正面図を示し、図1(a−2)は鋼材がスパイラル鋼管からなる場合の鋼材10’の概略正面図を示している。また、図1(b)は図1(a−1)のA−A’における概略断面図であり、図1(c)は、図1(b)に示されるX部分を拡大した概略図である。X部分は、UO管製造の際に形成される溶接痕を含む溶接ビード部101を示している。
本発明において溶接ビード部とは、UO管やスパイラル鋼管に代表される鋼管を製造する際に形成される溶接痕を含む部分を意味し、図1(c)に示す場合のように、腐食によって線状の溶接痕である凸部1011を挟むように凹部(1012、1013)が形成されている場合には、凸部に加えて凹部を含む部分を意味するものとする。また、本発明の防食方法は鋼構造物の部品として用いる未だ組立前のもの、または腐食していない鋼構造物の鋼材に適用することもできるが、このような場合は、溶接ビード部は図1(c)に示すような凹部(1012、1013)は有さないので、凸部のみを溶接ビード部とする。
【0015】
鋼構造物を構成する鋼材が表面に溶接ビード部を有する場合、その溶接ビード部の上に直接チタン箔を密着させることは困難である。また、溶接ビード部の上に接着剤等を薄く塗り、その上にチタン箔を密着させることも同様に困難である。凹部または凸部が存在するために前記鋼材の表面(または接着剤の表面)とチタン箔との間に隙間が生じ、ここに水や空気(酸素)が浸入するので鋼構造物が腐食してしまう。
本発明の防食方法は上記を考慮し、溶接ビード部の上以外の部分にチタン箔を被覆し、溶接ビード部の上についてはチタンテープを貼り付けることで、溶接ビード部の上にチタン箔を貼り付けた場合に形成される隙間をなくし、防食することができる。また、好ましい態様によれば、それに加えて、チタン箔を剥がれ難い状態にすることができ、さらに高度に防食することができる。
【0016】
本発明の防食方法は、上記のように、塗布工程と、被覆工程と、貼付工程とを具備するものであるが、前記塗布工程の前に、前記鋼構造物を構成する鋼材の表面の錆および付着物を除去する素地調整工程をさらに具備することが好ましい。
以下に、本発明の防食方法が具備する各工程について図を用いて詳細に説明する。なお、図2における(a−1)、(a−2)、(a−3)、(a−4)および(a−5)の各図は、スパイラル鋼管である鋼材20に本発明の防食方法を適用して防食する操作を示す概略正面図であり、それら各図のB−B’、C−C’、D−D’、E−E’およびF−F’における概略断面図が各々(b−1)、(b−2)、(b−3)、(b−4)および(b−5)である。また、図2(b−4)におけるY部分の拡大図が図3であり、図2(b−5)におけるZ部分の拡大図が図5である。
【0017】
<素地調整工程>
素地調整工程について説明する。
図2(a−1)および(b−1)に示すように、建設後、ある程度の時間が経過した鋼構造物を構成する鋼材20の表面には、通常、錆等31(錆および付着物を意味する)が付く。
本発明の防食方法では、鋼構造物を構成する鋼材の表面の錆および付着物を除去せずに、すなわち、鋼構造物を素地調整工程に供さずに塗布工程に供してもよいが、素地調整工程に供し、鋼構造物を構成する鋼材の表面上の錆および付着物を除去した後に、塗布工程に供することが好ましい。錆および付着物を完全に除去することで、鋼材と塗料との密着性が向上して防食性を高めることができるからである。
【0018】
素地調整工程は、鋼構造物を構成する鋼材における所望の部位(本発明の防食方法を適用する部位)の表面の錆および付着物を除去する工程である。錆および付着物を除去する方法は特に限定されず、例えばスクレパーやエアー工具(エアー工具としては例えばディスクサンダー、ワイヤーホイル、チッパが挙げられる)を用いて除去する方法が挙げられる。また、サンドブラスト処理して錆および付着物を除去してもよいが、その処理条件を調整し、粉じんの発生を抑制しつつ行うことが好ましい。
【0019】
なお、本発明において付着物とは、鋼構造物を構成する鋼材における所望の部位の表面に付着している不要物であって、錆以外のものを意味するものとする。例えば貝殻などの海生生物等が付着物に該当する。
【0020】
鋼構造物を構成する鋼材を素地調整工程に供すると、錆等31が除去された図2(a−2)および(b−2)に示すような状態とすることができる。
【0021】
<塗布工程>
塗布工程について説明する。
本発明の防食方法は、前記鋼構造物を構成する鋼材の表面上に塗料を塗布して塗料層を形成する塗布工程を具備する。ここで鋼材の表面は溶接ビード部を含む。すなわち、図2(a−3)および(b−3)に示すように、溶接ビード部33の表面にも塗料を塗布し、塗料層35を形成する。
【0022】
塗料は適度な粘度を有し、前記鋼構造物における鋼材の鉛直面(表面)に塗布しても、当該鉛直面に留まることができ、鋼材およびチタン箔と密着させるものであれば特に限定されない。例えば硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的には、例えばポリエチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂などを用いることができる。
【0023】
また、塗料は無溶剤塗料であることが好ましい。後述する方法で塗布する際、作業者が中毒を起こさないからである。また、水際で塗布作業を行う場合に水質汚染が生じないからである。
【0024】
塗料層を形成した後であってチタン箔を貼り付ける前における塗料層の厚さは特に限定されないが、0.1〜3mmであることが好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましく、1mm程度であることがさらに好ましい。また、塗料層の単位面積当たりの質量は100〜1000g/m2であることが好ましく、300〜700g/m2であることがより好ましく、400〜600g/m2であることがより好ましく、500g/m2程度であることがより好ましい。塗料層がこのような厚さまたは質量であると、より防食性に優れる均一な厚さの塗料層を形成し易いからである。塗料層の厚さが薄すぎたり、塗料層の単位面積当たりの質量が小さ過ぎたりすると、防食性が不十分になる場合がある。塗料層の厚さが厚すぎたり、塗料層の単位面積当たりの質量が大き過ぎたりすると、均一な厚さの塗料層を形成し難い。
【0025】
塗料層は、塗料を、例えば刷毛やヘラを用いた従来公知の方法で、前記鋼構造物を構成する鋼材の表面に塗布して形成することができる。
【0026】
また、塗料層を形成する前に、前記鋼構造物を構成する鋼材の表面に1以上の下地層を形成し、その上に塗料層を形成してもよい。下地層は、例えば、有機ジンクリッチペイント、無機ジンクリッチペイント、エポキシ樹脂などを用いて形成することができる。下地層は例えば500〜700g/m2の単位面積当たりの質量で形成することが好ましく、600g/m2程度であることがより好ましい。このような下地層を形成するとより高度な防食能を付与することができるので好ましい。
なお、下地層は塗料層と同様の方法で形成することができる。
【0027】
<被覆工程>
被覆工程について説明する。
本発明の防食方法は、前記塗料層の表面上であって、前記鋼材が有する溶接ビード部の上以外の部分に前記チタン箔を被覆する被覆工程を具備する。
【0028】
被覆工程では、図2(a−4)および(b−4)に示すように、塗料層35の表面上にチタン箔40を密着させるように貼り付ける。ここで塗料層35における溶接ビード部33の上に形成された部分が露出するように、溶接ビード部33の上にはチタン箔40を付けない。
【0029】
チタン箔を貼り付ける際には、チタン箔と塗料層との間に隙間ができないようにする。例えばチタン箔の端から押し付けるように塗料層へ密着させていったり、チタン箔の表面にヘラを押し当ててチタン箔を塗料層へ押しつけるようにしたりすると、チタン箔と塗料層とを密着することができるので隙間ができ難い。
【0030】
また、前記塗布工程に供して塗料層を形成した後、塗料層が完全に硬化する前に、すなわち塗料層が半硬化している状態でチタン箔を貼り付けると、チタン箔と塗料層とを密着させ易いので好ましい。
また、塗料層が半硬化の状態でチタン箔を密着させると、塗料層を構成する塗料の一部が溶接ビード部の上へ移動する。例えばチタン箔の表面にヘラを押し当ててチタン箔を塗料層へ押しつけるようにしてチタン箔と塗料層とを密着させると、溶接ビード部の上に塗料が多く移動する。図3は図2(b−4)におけるY部分の概略拡大図であり、半硬化状態の塗料層35へチタン箔40を押しつけて密着させることで、溶接ビード部の上に塗料が移動し、当該部分の塗料層35の厚さが厚くなっている状態を示している。この図に示すような状態とすると、溶接ビード部の凹部に塗料が完全に埋まり、後述する貼付工程において貼り付けるチタンテープと塗料層と溶接ビード部との表面を密着させることができ、また、後述するようにチタンテープを貼り付けることで、チタン箔を剥がれ難くすることができるので好ましい。溶接ビード部の上の塗料層が薄いと、その凹凸形状の影響で、塗料層の表面にチタンテープを密着させるように貼り付けることが困難となる。
【0031】
なお、半硬化状態の塗料層とは、完全には硬化しておらず、ある程度の流動性を有している状態の塗料層を意味するものとする。前述のように、塗料層の表面へチタン箔を押しつけることで図3に示すように塗料層を構成する塗料の一部が移動し、溶接ビード部の上の塗料層の厚さが、溶接ビード部の上以外の塗料層の厚さよりも厚くなる塗料層は、半硬化状態の塗料層である。
【0032】
チタン箔の厚さは特に限定されないものの、0.01〜1mmであることが好ましく、0.05〜0.2mmであることがより好ましく、0.1mm程度であることがさらに好ましい。この程度の厚さであると、はさみを用いて所望の形状に容易に加工できるからである。また、チタン箔は厚すぎても薄すぎてもコストが高まる傾向があるからである。
【0033】
また、被覆工程では、前記鋼材が有する溶接ビード部の上以外の部分の全てに前記チタン箔を被覆することを要さない。すなわち、被覆工程では、前記塗料層の表面上であって、前記鋼材が有する溶接ビード部の上以外の部分の少なくとも一部に、前記チタン箔を被覆する。この点について図4を用いて説明する。図4は、スパイラル鋼管の表面に塗料層を形成した後、チタン箔を貼り付けた状態を示す概略正面図である。
例えば図4に示す態様のように、鋼材(スパイラル鋼管)における防食対象面の表面積が大きい場合、その表面をある程度の部分に分割して、チタン箔(401、402、403)を貼り付けることが好ましい。作業効率が高まるからである。ここで隣り合うチタン箔同士(チタン箔401とチタン箔402、およびチタン箔402とチタン箔403)の間隔をL1とすると、L1は10〜50mmであることが好ましく、15〜35mmであることがより好ましく、20〜30mmであることがさらに好ましい。貼付工程によって、よりチタン箔を剥がれ難くすることができるからである。なお、図4において同じ記号で表されるチタン箔は、一枚のチタン箔であることを意味する。つまり、図4に示す態様では、3枚のチタン箔(401、402、403)が貼り付けられている。また、前述の溶接ビード部を避けるように貼り付けた1枚のチタン箔における間隔L2は、10〜50mmであることが好ましく、15〜35mmであることがより好ましく、20〜30mmであることがさらに好ましい。
【0034】
<貼付工程>
貼付工程について説明する。
本発明の防食方法は、前記塗料層の表面上であって、前記チタン箔が被覆されていない部分に、チタンテープを貼り付ける貼付工程を具備する。
【0035】
貼付工程では、図2(a−5)および(b−5)に示すように、チタン箔40が被覆されておらず塗料層35が露出している部分にチタンテープを貼り付けて、塗料層35の露出している部分を覆う。また、図4に示すように隣り合うチタン箔同士に間にL1の間隔を有する場合は、この間隔から露出している塗料層35も覆うように前記チタンテープを貼り付ける。塗料層が露出している部分によりも、やや大きめの前記チタンテープを貼り付け、図5に示すように、チタンテープ50とチタン箔40とが付くようにすることが好ましい。例えば図4で示すL2が20mm程度の場合、幅が100mm程度の帯状のチタンテープを貼りつけると、チタンテープとチタン箔とが付く面積が十分確保できるので好ましい。
【0036】
また、前記塗料層が半硬化している状態で前記チタンテープを貼り付けることが好ましい。前記塗料層が未だ半硬化の状態で前記チタンテープを貼り付けると、図2(b−5)におけるZ部分の概略拡大図である図5に示すように、貼り付けたチタンテープ50とチタン箔40との間に、塗料層35の一部が入り込んだ状態とすることができる。このような状態となると、チタン箔40はより剥がれ難い。このように塗料層の一部がチタンテープとチタン箔との間に入り込むように、塗料層が露出している部分によりも、やや大きめの前記チタンテープを貼り付け、図5に示すように、チタンテープ50とチタン箔40とが付くようにすることが好ましい。例えば図4で示すL2が20mm程度の場合、幅が100mm程度の帯状のチタンテープを貼りつけると、チタンテープとチタン箔との間に塗料層の一部が入り込む面積を十分に確保できるので好ましい。
【0037】
チタンテープは、チタン製の薄膜であるチタン薄膜の一方主面に粘着剤からなる粘着層が形成されたものである。粘着剤は、前記塗料層の表面および前記チタン箔に貼り付けた場合に、容易に剥がれないものであれば特に限定されない。チタンテープとして、例えば帯状に加工したチタン薄膜の一方主面にブチルゴム系等の従来公知の接着剤等の粘着剤からなる粘着層を形成したものが挙げられる。
チタンテープにおける粘着層およびチタン薄膜の厚さや大きさは特に限定されず、例えばチタン薄膜は前記チタン箔と同様の厚さであってよい。粘着層の厚さは例えば0.75mm程度であってよい。
【実施例】
【0038】
研究所内の実験用桟橋鋼管杭における水際部分に本発明を適用した。鋼管杭は断面が円形(直径600mm)のスパイラル鋼管からなるものである。
【0039】
初めに、鋼管杭に本発明の防食方法を適用するに際して足場を設置した。具体的には図6に示すように、鋼管杭60に水中足場用治具61を取付け、単管パイプ62により組立て、足場板63を固定し、潜水士68が作業するための足場を設置した。水中足場用治具61には、端部に複数の浮64を付けた回収用シート65を敷き、錆等が海69の底へ落ちないようにした。図6において斜線部は防食対象面601を示し、この円周方向の表面積(側面積)は7.35m2であった。
【0040】
[素地調整工程]
次に、スクレパーおよびエアー工具ならびに必要に応じてエアーサンダーを使用して、鋼管杭の防食対象面(図6では601で示される斜線部)の表面に付いた海洋生物および積層錆を除去した。
【0041】
[塗布工程]
次に、防食対象面の表面に、無溶剤型の塗料である水中硬化型エポキシ樹脂塗料(パーマスターWE300下塗、中国塗料株式会社製)を、刷毛を用いて塗布し塗料層を形成した。塗布量は500g/m2とした。
【0042】
[被覆工程]
次に、半硬化状態の塗料層の表面にチタン箔を貼り付けた。チタン箔は予めはさみを用いて加工し、図4に示したような、スパイラル鋼管の溶接ビード部の上以外に貼り付けることできる形状とした。このようなチタン箔を3枚用意し、図4に示したように、溶接ビード部の上を避けるように鉛直方向に3枚のチタン箔を貼り付けた。上下方向のチタン箔同士の間隔(図4でL1で示される幅)は20mmとした。
貼り付けに際しては、チタン箔と塗料層との間に海水や空気が極力入らないように、チタン箔を塗料層の表面に押し付けながら貼り付けた。貼り付けが終わった後、溶接ビード部の上の塗料層は、図3に示したように、他の部分よりも厚い状態となっていることを目視により確認した。
また、チタン箔の厚さは0.1mmであり、防食対象面に貼り付けた場合の鉛直方向の幅が350mmのものである。また、溶接ビード部の上のチタン箔が被覆されていない部分の幅(図4においてL2で示される幅)は、20mmであった。
【0043】
[貼付工程]
次に、溶接ビード部の上に図2(a−5)に示したように、チタンテープを貼り付けた。この貼り付けは塗料層が半硬化状態の間に行った。チタンテープは厚さ0.1mm、幅100mmのチタン薄膜の一方主面に0.75mmの厚さでブチルゴム系接着剤を塗布したものである。
また、上下方向のチタン箔同士の間隔(図4でL1で示される間隔)にも、同じチタンテープを貼り付けた。
このようなチタン箔の貼り付けにより、図5で示したように、塗料層の一部がチタンテープとチタン箔との間に入り込み、チタン箔がより剥がれ難くなったことを確認した。
【0044】
このような本発明の防食方法を適用することで、実験用桟橋鋼管杭における水際部分の防食対象面に、高度な防錆能を付与することができた。
【符号の説明】
【0045】
10、10’ 鋼材
101 溶接ビード部
1011 凸部
1012、1013 凹部
20 鋼材
31 錆等(錆および付着物)
33 溶接ビード部
35 塗料層
40 チタン箔
50 チタンテープ
501 チタン薄膜
502 粘着層
60 鋼管杭
601 防食対象面
61 水中足場用治具
62 単管パイプ
63 足場板
64 浮
65 回収用シート
68 潜水士
69 海


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物の表面をチタン箔で被覆して防食する防食方法であって、
前記鋼構造物を構成する鋼材の表面上に塗料を塗布して塗料層を形成する塗布工程と、
前記塗料層の表面上であって、前記鋼材が有する溶接ビード部の上以外の部分に、前記チタン箔を被覆する被覆工程と、
前記塗料層の表面上であって、前記チタン箔が被覆されていない部分に、チタンテープを貼り付ける貼付工程と
を具備する防食方法。
【請求項2】
前記被覆工程が、
半硬化状態の前記塗料層の表面上であって、前記鋼材が有する溶接ビード部の上以外の部分に、前記チタン箔を被覆する工程であり、
前記貼付工程が、
半硬化状態の前記塗料層の表面上であって、前記チタン箔が被覆されていない部分に、チタンテープを貼り付ける工程である、請求項1に記載の防食方法。
【請求項3】
前記塗布工程の前に、さらに、前記鋼構造物を構成する鋼材の表面上の錆および付着物を除去する素地調整工程を具備する、請求項1または2に記載の防食方法。
【請求項4】
前記鋼材がスパイラル鋼管またはUO管からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の防食方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−206754(P2011−206754A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79936(P2010−79936)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000227261)日鉄防蝕株式会社 (31)
【Fターム(参考)】