説明

防食機能付コネクタ

【課題】複数本の電線と端子との接触部位の腐食を、一括して効率よく抑制することが可能な防食機能付コネクタを提供する。
【解決手段】導体52を有する複数の電線50の端末に装着され、かつ、その導体52を構成する金属と異なる金属により構成される端子10と、ハウジング20と、防食体30と、を備える。端子10は、電気接触部12と、電線圧着部14とを有する。ハウジング20は、各電気接触部12が挿入される複数の端子挿入孔22と、端子挿入孔22の後ろ側に位置してこれらの端子挿入孔に跨る形状の防食体収容空間24とを画定する。防食体30は、ゲル状体からなり、防食体収容空間24に漏出なく収容される保形性を有するとともに、各電気接触部12が当該防食体30を突き破って端子挿入孔22に挿入されるのを許容しかつその挿入完了状態で電線圧着部14を包んで当該電線圧着部への水分の浸入を抑止する粘性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれが導体を有する複数の電線の端末にそれぞれ装着される複数の端子を含むとともに、当該電線の導体を構成する金属と当該端子を構成する金属とが互いに異なる異種金属である場合にもその異種金属同士の接触による腐食を有効に抑止できる防食機能付コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導体を有する電線の端末には、その導体を構成する金属と同系の金属(一般には銅または銅合金)からなる端子が装着されるのが一般的であったが、近年、軽量なアルミニウム系材料からなる導体を有する、いわゆるアルミ電線の使用に伴い、当該電線の導体を構成する金属と端子を構成する金属との相違に起因する腐食、すなわち、異種金属同士が接触することによる腐食が問題となっている。例えば、電線に含まれるアルミニウム製導体に銅製の端子が圧着された場合、銅の標準電極電位は+0.34Vであり、アルミニウムの標準電極電位は−1.66Vであることから、前記導体と前記端子との間に2.00Vもの大きな標準電極電位差が存在することになる。従って、両者の接触部位に、例えば雨天時の走行や洗車、或いは結露などによって水分が付着すると、電気的に卑であるアルミニウム導体のイオン化が進行してその腐食が進行することになる。
【0003】
このような腐食を防ぐための手段として、従来は、異種金属同士の接触部位に対し、耐水性の塗装、熱収縮チューブの被着、あるいは樹脂のインサートモールド成形を施すことで、その接触部位への水分の付着を方防止する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−285983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の従来技術は、いずれも、端子一つずつに対して施される処理であるため、端子数の増大に伴ってその処理のために要する時間及びコストは著しく増大する。このような不都合を回避する手段として、複数本の端子をまとめて防水コネクタのハウジングに収容することにより、一括防水することが考えられるが、このような防水コネクタのハウジングは、端子同士の嵌合部位も含めた端子全体を防水するために当該ハウジング内への水分の浸入を完全排除するように設計されていることから、高価かつ大型である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の事情に鑑み、複数本の電線とこれらに接続される端子との接触部位の腐食を、高価かつ大型の防水ハウジングを用いることなく、一括して効率よく抑制することが可能な防食機能付コネクタを提供することを目的とする。
【0007】
この目的を達成するための本発明に係る防食機能付コネクタは、それぞれが導体を有する複数の電線の端末にそれぞれ装着され、かつ、その導体を構成する金属と異なる金属により構成される複数の端子と、これらの端子を一括して収容するハウジングと、前記端子と前記電線の導体との接触部位の腐食を防ぐための防食体と、を備える。前記各端子は、相手方の端子と嵌合して電気的に導通するように接触する電気接触部と、この電気接触部の後ろ側に位置し、前記電線の端末に圧着されて当該電線の導体と電気的に導通するように接触する電線圧着部とを有する。前記ハウジングは、前記各端子の電気接触部がそれぞれ当該端子の軸方向に沿って挿入される複数の端子挿入孔と、これらの端子挿入孔の後ろ側に位置してこれらの端子挿入孔に跨る形状を有し、前記防食体を収容することが可能な防食体収容空間とを画定する。前記防食体は、前記防食体収容空間に漏出なく収容される保形性を有するとともに、前記各端子の電気接触部が当該防食体を突き破って当該端子に対応する端子挿入孔に挿入されるのを許容しかつその挿入完了状態で当該端子の電線圧着部と電線の導体との接触部位を包んで当該接触部位への水分の浸入を抑止する粘性を有するゲル状体からなる。
【0008】
この防食機能付コネクタでは、当該防食機能付コネクタに含まれる端子の電線圧着部と当該電線圧着部が圧着される電線の導体との接触部位の防食が、共通の防食体によって効率よく一括的に抑止される。すなわち、当該防食体に各端子の電気接触部を押し込んで当該防食体を突き破らせながら当該電気接触部をこれに対応する端子挿入孔に挿入するという、通常のコネクタにおける端子挿入作業と同じ作業を行うだけで、前記防食体がそれぞれの端子の電線圧着部と電線の導体との接触部位を包む防食状態を形成することが可能である。また、前記防食体はこれを前記各端子の貫通を許容しかつその貫通状態で電線圧着部と電線の導体との接触部位を包むものであればよく、従来の防水コネクタのようにハウジング内への水分の浸入を完全排除する必要がないので、当該ハウジングの著しい大型化や著しいコストの上昇を伴うことなく、前記各接触部位の防食が達成される。
【0009】
前記端子としては、前記電気接触部と前記電線圧着部との間に、当該電線圧着部と前記電線の導体との接触部位よりも大きな断面を有して前記防食体と密着する断面拡大部を有するものが、好適である。この断面拡大部は、前記防食体との密着により、当該防食体内での前記接触部位の保護をより確実にする。
【0010】
この防食機能付コネクタは、さらに、前記端子挿入孔に前記電気接触部が挿入された状態の端子を係止するために前記ハウジングに取付けられるリテーナを備えてもよい。このリテーナは、前記各端子挿入孔への前記電気接触部の挿入を許容する挿入許容位置と、当該端子挿入孔に当該電気接触部が挿入された状態で当該端子挿入孔からの当該電気接触部の離脱を阻止するように当該端子を係止する係止位置との間で移動可能となるように前記ハウジングに取付けられる。そして、この場合に、当該リテーナを利用して前記防食体による前記各接触部位の防食機能を向上させることが可能である。具体的には、前記リテーナが前記挿入許容位置から前記係止位置に移動するのに伴って当該リテーナが前記ハウジングと協働して前記防食体を圧縮するように当該リテーナの取付位置が定められればよい。このリテーナによる防食体の圧縮は、前記各端子または各電線と前記防食体との密着度合いを高め、これにより当該防食体が当該電線圧着部内への水分の浸入を阻む機能を高めることができる。
【0011】
また、前記防食体を構成するゲル状体の保形性が比較的高い場合、当該防食体は、これを前記端子の軸方向に沿って貫通するスリットを有し、このスリットに沿って前記端子の電気接触部が挿通されるものでもよい。このスリットは、当該スリットへの端子の挿入時に当該スリットの幅方向について前記端子がぶれるのを抑制し、これにより当該端子をこれに対応する端子挿入孔に案内する機能を発揮して当該端子の挿入作業を容易にする。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、複数本の電線とこれらに接続される端子との接触部位の腐食を、高価かつ大型の防水ハウジングを用いることなく、一括して効率よく抑制することが可能な防食機能付コネクタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係るコネクタの断面側面図であって図2のI−I線断面図である。
【図2】前記コネクタの背面図である。
【図3】前記コネクタの斜視図である。
【図4】図1のIV−IV線断面図である。
【図5】図1のV−V線断面図である。
【図6】前記コネクタの端子が電線の端末に装着された状態を示す斜視図である。
【図7】前記コネクタのハウジング及びこれに収容される防食体を示す、図1相当の断面側面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線断面図である。
【図9】図7のIX−IX線断面図である。
【図10】前記コネクタのハウジングに当該コネクタの端子を挿入した直後の状態を示す断面側面図である。
【図11】図10のXI−XI線断面図である。
【図12】図10のXII−XII線断面図である。
【図13】(a)は前記コネクタの端子の断面拡大部を示す断面正面図、(b)及び(c)は当該断面拡大部の変形例を示す断面図である。
【図14】前記コネクタの防食体の例であって横方向に延びるスリットが形成されたものを示す斜視図である。
【図15】前記コネクタの防食体の例であって複数個所に十文字状のスリットが形成された例を示す斜視図である。
【図16】前記コネクタの防食体の例であって当該防食体が複数のブロックに分割されて互いに隣接する層同士の間にスリットが形成されたものを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態では、本発明に係る防食機能付コネクタとして図略の雄コネクタと結合可能な雌コネクタを開示するが、本発明はこれに限定されない。例えば、雄コネクタや、複数の電線同士を短絡させるためのジョイントコネクタ、複数のアース用電線をアース部位に一括接続するためのアース用コネクタなどにも本発明は適用可能である。
【0015】
図1〜図10に示すコネクタは、複数の雌型の端子10と、これらの端子10を一括して収容するハウジング20と、防食体30と、リテーナ40とを備える。
【0016】
前記各端子10は、図6にも示すように、導体52及びこれを被覆する絶縁被覆54を有する複数の電線50の端末にそれぞれ装着されるとともに、当該導体52を構成する金属と異なる金属により構成される。この実施の形態では、電線50としてその導体がアルミニウムからなる、いわゆるアルミニウム電線が用いられるのに対し、前記各端子10は銅または銅合金からなる板材により構成される。
【0017】
前記各端子10は、図略の相手方の雄端子が嵌入されることにより当該雄端子と電気的に導通するように接触する電気接触部12と、この電気接触部12の後ろ側に位置する電線圧着部14とを有し、電線圧着部14は、一対の導体バレル15と、その後方に位置するインシュレーションバレル16とを有する。一方、前記各電線50には、その端末部分における絶縁被覆54を除去して導体52を露出させる処理が施されている。前記導体バレル15はその露出した導体52を抱き込むようにして当該導体52に圧着され、前記インシュレーションバレル16はその露出した導体52の後方における絶縁被覆54を抱き込むようにして当該絶縁被覆54に圧着される。
【0018】
さらに、この実施の形態に係る端子10では、前記電気接触部12と前記電線圧着部14との間に断面拡大部13が形成されている。この断面拡大部13は、後述の防食体30との密着を確実にするために端子10の断面を拡大するように樹脂成形物が付加されたものであり、前記導体バレル14と前記電線50の導体52との接触部位における断面よりも一回り大きい断面(ここでは図4に示すような矩形に近い断面)を有する。
【0019】
具体的に、この実施の形態に係る断面拡大部13は、図13(a)に示すように、前記端子10を構成する金属板のうち前記電気接触部12と前記電線圧着部14との間に位置する中間部分13aと、これに充填される樹脂成形物13bとにより構成される。前記中間部分13aは、特定方向(図では上向き)に開放された有底断面を有し、前記樹脂成形物13bは当該中間部分13a内に例えば圧入されることによって固定される。
【0020】
この断面拡大部13の形状は、前記樹脂成形物13bの形状を変更することで自由に設定することが可能である。例えば図13(b)に示すように樹脂成形物13bの上半部の断面形状を外向きに凸の曲線、例えば半円とすることで、この樹脂成形物13bが後述の防食体30から受ける面圧を均等化することができる。さらに、図13(c)に示すように前記樹脂成形物13bの幅方向両端が前記金属板の中間部分13aの両端縁を上から覆う形状であれば、断面拡大部13の外形をより滑らかにすることが可能になる。
【0021】
前記ハウジング20は、合成樹脂等の絶縁材料からなり、図7に示すように、複数の端子挿入孔22と、防食体収容空間24とを画定する形状に成形されている。前記各端子挿入孔22は、コネクタの前後方向(図7では左右方向)に沿って互いに平行に延び、その後端側から前記各端子10の電気接触部12が当該端子10の軸方向に沿って挿入されることが可能である。各端子挿入孔22の前方には、当該端子挿入孔22に挿入された雌型の電気接触部に対して嵌入されるべき相手方の雄型電気接触部、いわゆるタブ、が外側から挿通される端子挿通孔23が形成されている。
【0022】
また、ハウジング20は、前記各端子挿入孔22に挿入される端子10のうちの電気接触部12を係止する位置にそれぞれランス26を有する。この実施の形態では、前記各電
気接触部12にその底面から下方に突出する被係止片17が形成される一方、各ランス26は、当該電気接触部12の挿入時に前記被係止片17と接触することにより当該被係止片17から退避する方向に撓み変形して当該被係止片17の通過を許容し、その通過後、すなわち電気接触部12の挿入完了後に弾性復帰して前記被係止片17を後方から係止する舌片状をなす。
【0023】
前記防食体収容空間24は、前記各端子挿入孔22の後ろ側(図7では右側)に位置してこれらの端子挿入孔22に跨る形状、換言すれば、後方から見て全ての端子挿入孔22を包含する形状を有する。この実施の形態では、前記防食体収容空間24の後ろ側にも、前記各端子挿入孔22に対応した複数の端子受入れ孔28が設けられている。換言すれば、前記防食体収容空間24は、端子軸方向に並ぶ端子挿入孔22と端子受入れ孔28とを当該端子軸方向と直交する方向に横切るように、形成されている。また、この防食体収容空間24の位置は、前記各端子10の電気接触部12が前記端子挿入孔22に挿入された状態で当該端子10の電線圧着部14が(本発明では少なくとも電線圧着部と電線の導体との接触部位が)前記防食体収容空間24内に位置するように、設定されている。
【0024】
前記防食体30は、ゲル状体からなり、前記防食体収容空間24に収容される。この防食体30を構成するゲル状体は、前記各端子10が挿入される前の段階で前記防食体収容空間24に対応した外形(この実施の形態では略直方体形状)を保持して前記防食体収容空間24に漏出なく収容されるだけの保形性を有する一方、前記各端子10の電気接触部12が当該防食体30を突き破って当該電気接触部12に対応する端子挿入孔22に挿入されるのを許容しかつその挿入完了状態で当該端子10の電線圧着部14及びこれが圧着される電線50の導体52を包むことにより当該電線圧着部14と当該導体52との接触部位への水分の浸入を抑止する程度の粘性を有する。具体的に、このゲル状体としては、シリコーンゲル、アクリレートゲル、ウレタンゲル、オレフィン系ゲル等が好適である。
【0025】
この実施の形態では、前記端子10及び前記電線52のアセンブリにおいて、前記接触部位の前後の部位がその全周にわたって前記防食体30に密着することにより、当該防食体30内での前記接触部位の封止が達成される。具体的に、前記接触部位よりも前側の領域では、当該接触部位よりも大きな断面を有する断面拡大部13の外周面が前記防食体30に密着し、前記接触部位よりも後ろ側の領域では、前記端子10の後端のすぐ後ろに位置する電線50がその全周にわたって前記防食体30に密着する。
【0026】
前記リテーナ40は、前記各端子挿入孔22に挿入された電気接触部12をそれぞれ二重係止するために前記ハウジング20に取付けられる。具体的には、図7及び図10に示すように前記各端子挿入孔22への前記電気接触部12の挿入を許容する挿入許容位置(仮係止位置)と、この挿入許容位置よりも上側の位置であって図1に示すように当該端子挿入孔22に当該電気接触部12が挿入された状態で当該端子挿入孔22からの当該電気接触部12の離脱を阻止するように当該電気接触部12を係止する係止位置(本係止位置)との間で移動可能となるように、前記ハウジング20に取付けられる。
【0027】
このリテーナ40は、底壁42と、この底壁42の左右両側から立ち上がる左右の側壁44と、これらの側壁44よりも前方に位置する端子係止部46とを有する。前記側壁44の上端には内向きに突出する被係止突起45が形成される一方、ハウジング20の左右外側面には、外向きに突出する仮係止突起25Aと、この仮係止突起25Aのすぐ上側の位置で外向きに突出する本係止突起25Bとが形成されている。前記仮係止突起25Aは、前記被係止突起45に対してその下側から係合することにより前記リテーナ40を前記挿入許容位置に仮係止する位置に設けられ、前記本係止突起25Bは、前記被係止突起45に対してその下側から係合することにより前記リテーナ40を前記係止位置に本係止する位置に設けられている。
【0028】
端子係止部46は、各端子挿入孔22に対応する複数の係止突起46aを有する。これらの係止突起46aは、図7及び図10に示すように前記リテーナ40が挿入許容位置にあるときに前記端子挿入孔22の底面以下に没入して当該端子挿入孔22への電気接触部12の挿入を許容する一方、当該挿入後の状態で図1に示すように前記リテーナ40が係止位置まで上げられることにより前記端子挿入孔22の底面よりも上側に突出して当該端子挿入孔22に挿入された電気接触部12を後方から拘束してその抜けを阻止するように、形成されている。
【0029】
さらに、このリテーナ40の各位置について、当該リテーナ40が挿入許容位置にあるときは図8,図9,図11及び図12に示すように当該リテーナ40の底壁42が前記防食体収容空間24内の防食体30から下方に離間する一方、当該リテーナ40が当該挿入許容位置から係止位置まで上げられるのに伴って図4及び図5に示すように前記底壁42が前記防食体30の下面に押付けられてこの防食体30をハウジング20の天壁(防食体収容空間24の上側の壁)との間で上下方向に圧縮するように、当該リテーナ40の取付位置(前記各位置及びリテーナ40の形状が設定されている。
【0030】
次に、このコネクタの使用手順の例及びその作用を説明する。
【0031】
1)各端子10の電線圧着部14が対応する電線50の端末に圧着される。具体的には、前記電線圧着部14のうちの導体バレル15が各電線50の端末において露出する導体52に圧着され、インシュレーションバレル16が当該導体52のすぐ後ろ側に位置する絶縁被覆54に圧着される。前記のように、前記導体52はアルミニウムからなり、前記導体バレル15を含む端子10全体が銅または銅合金により構成されているため、当該導体52と当該導体バレル15との接触部位に水分が付着すると、電気的に卑であるアルミニウム導体のイオン化が進行してその腐食が進行することになる。この腐食は、後に詳述する防食体30により抑止される。
【0032】
2)一方、ハウジング20では、当該ハウジング20にリテーナ40を装着する前の段階で当該ハウジング20の防食体収容空間24内に防食体30が装填されることが可能である。その装填後にリテーナ40はハウジング20に装着される。初期段階では、当該リテーナ40は図7,図8及び図9に示す挿入許容位置に仮係止される。
【0033】
3)各端子10の電気接触部12が、ハウジング20における各端子挿入孔22に挿入される。具体的に、当該電気接触部12は、まずハウジング20の後端の端子受入れ孔28に挿入され、さらに防食体収容空間24内のゲル状体からなる防食体30を突き破ってから前記端子挿入孔22内に挿入される。この挿入が完了した状態、すなわち、図10〜図12に示す状態において、前記各電気接触部12はこれと対応するランス26により一次係止される一方、当該電気接触部12の後ろ側の電線圧着部14及びこれが圧着される電線50の端末は、当該電気接触部12が突き破ったゲル状の防食体30によって包まれた状態になる。
【0034】
このように電線圧着部14及び電線50の端末を包み込む防食体30は、前記電線圧着部14における導体バレル15と前記電線50における導体52との接触部位に外部から水分が浸入するのを有効に抑止し、これに起因する当該接触部位での腐食(この実施の形態では特にアルミニウム製の導体52の腐食)を効率よく一括的に抑止する。この防食体30は、特に水分の浸入の阻止が求められる前記接触部位を局所的に、しかも、全ての端子10について包括的に、保護するものであるから、従来の防水コネクタのようにハウジング内への水分の浸入を完全排除するための構造を有するものと異なり、ハウジングの著しい大型化や著しいコストの上昇を伴うことなく、前記各接触部位の防食を行うことがで
きる。
【0035】
特に、この実施の形態では、前記端子10と前記電線50とのアセンブリのうち前記接触部位の前後の部位(具体的には、当該接触部位よりも大きな断面を有する断面拡大部13及び端子10の直後方の電線50)がその周囲の防食体30と全周にわたって密着することにより、当該防食体30内での前記接触部位の封止が達成される。
【0036】
4)前記各端子10の挿入が完了した後、リテーナ40が前記挿入許容位置から係止位置に向けて押し上げられる。これにより、リテーナ40の被係止突起45はそれまでの位置すなわち仮係止突起25Aに係合される位置から本係止突起25Bに係合される位置に移行し、これにより、リテーナ40は図1,図4及び図5に示される係止位置に本係止される。この係止位置にあるリテーナ40の端子係止部46は、当該端子係止部46に含まれる各係止突起46aが各電気接触部12の後端を後方から拘束することにより、全ての端子10を一括して二次係止する。その際、当該リテーナ40の底壁42がハウジング20の天壁とともに防食体30を上下方向に圧縮することにより、前記各電線圧着部14や前記電線50と前記防食体30との密着度合いを高め、これにより、当該防食体30が前記電線圧着部14と前記電線50の導体52との接触部位への水分の浸入を阻む機能が高められる。具体的には、前記防食体30の粘度が高くて当該防食体30と前記端子10や前記電線50との間に多少の隙間があっても、当該防食体30の前記圧縮により前記隙間が埋められ、もしくは減縮される。これにより、当該電線圧着部14や当該導体52への外部からの水分の浸入を抑止する度合いが高められる。
【0037】
なお、本発明においてリテーナ40は必須のものではなく、仕様に応じて適宜省略され得るものである。また、防食体30の形状及び大きさは、前記電線圧着部14と前記電線50の導体52との接触部位を包んで保護することが可能な範囲で自由に設定が可能であり、前記端子10の個数や配列などに応じて設定されればよい。
【0038】
また、本発明に係るコネクタは、その端子として、当該端子が装着される電線の導体と異なる金属からなるものを少なくとも含んでおればよく、これに該当しない端子も併せて含むものを除外する趣旨ではない。例えば、本発明に係るコネクタは、装着されるべき電線を構成する導体と異なる金属からなる複数の端子(例えばアルミニウム製導体を有する電線に装着される銅製または銅合金製の複数の端子)と、装着されるべき電線を構成する導体と同じ金属からなる端子(例えば銅または銅合金製導体を有する電線に装着される銅または銅合金製の端子)とを併有するものであってもよい。
【0039】
また、本発明に係る防食体を構成するゲル状体の保形性が比較的高い場合、当該防食体は、これを前記端子の軸方向に沿って貫通するスリットを有し、このスリットに沿って前記端子の電気接触部が挿通されるものでもよい。このスリットは、当該スリットへの端子の挿入時に当該スリットの幅方向について前記端子がぶれるのを抑制し、これにより当該端子をこれに対応する端子挿入孔に案内する機能を発揮して当該端子の挿入作業を容易にする。
【0040】
具体的に、前記スリットは、例えば図14に示すように、互いに平行に延びるように形成された(同図では水平方向の)複数本のスリット32であってもよいし、図15に示すように各端子の挿通位置に対応する位置にそれぞれ十文字状に形成された(つまり互いに交差する複数の方向に形成された)スリット34であってもよい。前者のスリット32は、このスリット32に挿入される端子に対し、当該スリット32の幅方向(図14では上下方向)についてのぶれを抑制することができ、後者のスリット34は、それぞれのスリット34に挿入される端子に対し、当該スリット34の複数の幅方向(図15では上下方向及び左右方向)についてのそれぞれのぶれを抑制することができる。
【0041】
あるいは、図16に示すように、防食体30が複数の(図16では3つの)ブロック30a,30b,30cに分割され、これらのブロック30A,30B,30Cが組み合わされた結果として互いに隣接するブロック同士の間にそれぞれスリットが形成されてもよい。当該ブロックは、互いに異なる複数の方向(例えば図16の上下方向および左右方向)にそれぞれ分割されたものでもよく、その場合には、図15に示されるスリット34と同様に、互いに交差する複数の方向に延びるスリットを形成することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 端子
12 電気接触部
13 断面拡大部
14 電線圧着部
15 導体バレル
16 インシュレーションバレル
20 ハウジング
22 端子挿入孔
24 防食体収容空間
30 防食体
30a,30b,30c 防食体を構成するブロック
32,34 スリット
40 リテーナ
42 リテーナの底壁
46 端子係止部
46a 係止突起
50 電線
52 導体
54 絶縁被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防食機能付コネクタであって、
それぞれが導体を有する複数の電線の端末にそれぞれ装着され、かつ、その導体を構成する金属と異なる金属により構成される複数の端子と、
これらの端子を一括して収容するハウジングと、
前記端子と前記電線の導体との接触部位の腐食を防ぐための防食体と、を備え、
前記各端子は、相手方の端子と嵌合して電気的に導通するように接触する電気接触部と、この電気接触部の後ろ側に位置し、前記電線の端末に圧着されて当該電線の導体と電気的に導通するように接触する電線圧着部とを有し、
前記ハウジングは、前記各端子の電気接触部がそれぞれ当該端子の軸方向に沿って挿入される複数の端子挿入孔と、これらの端子挿入孔の後ろ側に位置してこれらの端子挿入孔に跨る形状を有し、前記防食体を収容することが可能な防食体収容空間とを画定する形状を有し、
前記防食体は、前記防食体収容空間に漏出なく収容される保形性を有するとともに、前記各端子の電気接触部が当該防食体を突き破って当該端子に対応する端子挿入孔に挿入されるのを許容しかつその挿入完了状態で当該端子の電線圧着部と前記電線の導体との接触部位を包んで当該接触部位への水分の浸入を抑止する粘性を有するゲル状体からなる、防食機能付コネクタ。
【請求項2】
請求項1記載の防食機能付コネクタであって、前記端子は、前記電気接触部と前記電線圧着部との間に、当該電線圧着部と前記電線の導体との接触部位よりも大きな断面を有して前記防食体と密着する断面拡大部を有する、防食機能付コネクタ。
【請求項3】
請求項1または2記載の防食機能付コネクタであって、前記端子挿入孔に前記電気接触部が挿入された状態の端子を係止するために前記ハウジングに取付けられるリテーナをさらに備え、このリテーナは、前記各端子挿入孔への前記電気接触部の挿入を許容する挿入許容位置と、当該端子挿入孔に当該電気接触部が挿入された状態で当該端子挿入孔からの当該電気接触部の離脱を阻止するように当該端子を係止する係止位置との間で移動可能となるように前記ハウジングに取付けられ、当該リテーナが前記挿入許容位置から前記係止位置に移動するのに伴って当該リテーナが前記防食体を圧縮するように当該リテーナの取付位置が定められている、防食機能付コネクタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の防食機能付コネクタにおいて、前記防食体は、これを前記端子の軸方向に沿って貫通するスリットを有し、このスリットに沿って前記端子の電気接触部が挿通される、防食機能付コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−55029(P2013−55029A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3992(P2012−3992)
【出願日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】