説明

防食被膜及びその製造方法

防食組成物は、改善された接着性及び耐久性、並びに紫外線保護特性を有する金属基板上で、相互作用し被膜を形成するように選択された、3種の異なるシランの混合物を含む。防食組成物を製造する方法は、シランを混合し、さらにシラン混合物と他の混合物とを組み合わせて防食組成物を得ることを含む。超音波処理は、混合物の様々な成分を混合する好ましい方法とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[背景]
腐食による材料の劣化には、各種産業を通じて困難な問題点が残っている。材料の腐食による年間損失額は、米国単独で約3500億USドル、すなわち国内総生産の3〜4%になると予想されている。それに応じて、防食被膜等の開発に関して巨大な産業が出現した。
【0002】
しかしながら、金属及び合金の防食を実現する成功した被膜の開発は困難な課題であり、その一部の原因は、環境保護局(EPA)が環境上好ましくない化学薬品の使用に制約を課したことにある。たとえば、アルミニウム及びその合金は、薄いクロメート化成皮膜あるいはクロメート処理されたプライマーによって従来保護されてきたが、EPAは、それに関連する健康リスクが生じるため、これらの皮膜とプライマーの使用に対して制約を設けている。
【0003】
残念なことに、クロメート化成皮膜の代替物も別の問題に直面している。有機・無機セラミック・ポリマーハイブリッド(つまりセラマー)材料は環境上の安定性に優れているが、厳しい気候におけるその長期使用については疑問の余地がある。これらのハイブリッド被膜に付随した自由体積によりパーコレーション経路が生じてイオンや電解質が基板材料に到達して、腐食が始まることが多い。多くの有機物被膜は、それらの微多孔構造により湿気の内部拡散を受けやすく、さらに太陽光の存在下に劣化する傾向がある。無機物被膜は、比較的不透水性であり、太陽による劣化に耐性があるものの、柔軟な基板上で砕けやすく、亀裂が入る可能性がある。シリコーン系被膜は、炭化水素の含有量が比較的高いことにより基板との十分な接着性を確保することができるが、湿気によって引き起こされた剥離により機能しなくなる傾向がある。防食被膜を使用すべき材料でさえも性能の低下を招いてしまう可能性がある。たとえば、アルミニウム材料への防食被膜の接着は、むき出しのアルミニウム表面の最上部に不活性酸化物層が急速に形成されて、妨害される可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
[概要]
防食組成物、及びシランの混合物を利用して防食組成物を製造する方法の実施形態を開示する。この防食組成物は、様々なタイプの金属を被覆し、腐食に対して保護するために使用することができる。
【0005】
いくつかの実施形態では、防食組成物は、3種のシランの第1の混合物を含む。第1のシランはメチルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン又はトリメチルアセトキシシランであってもよい。第2のシランはメチルトリメトキシシランであってもよい。第3のシランはテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランであってもよい。
【0006】
いくつかの実施形態では、防食組成物を製造する方法は、様々な混合物を調製し組み合わせて防食組成物を製造することを含む。この方法は、3種のシランを含む予備混合物を調製するステップを含むことができる。第1のシランはメチルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン又はトリメチルアセトキシシランであってもよい。第2のシランはメチルトリメトキシシランであってもよい。第3のシランはテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランであってもよい。この方法は、中間混合物を調製するステップをさらに含むこともできる。中間混合物は予備混合物及び第1の補助的な混合物を含むことができる。第1の補助的な混合物はアルカリ金属塩を含むことができる。この方法は、コロイド懸濁液を調製するさらなるステップを含むことができる。コロイド懸濁液は、中間混合物及び第2の補助的な混合物を含むことができる。第2の補助的な混合物はチタンアルコキシドを含むことができる。この方法は、防食組成物を調製するステップをさらに含むこともできる。防食組成物は、コロイド懸濁液及び第3の補助的な混合物を含むことができる。第3の補助的な混合物は、スズ触媒又はチタン触媒を含むことができる。
【0007】
上記はいくつかの開示された実施形態の様々な態様の概要であることを理解されたい。したがって、開示の範囲はすべてのそのような態様を含む必要はなく、又は上記の背景技術で言及したすべての問題点に対処するか若しくは解決する必要はない。さらに、明細書が進むにつれて明らかとなってくる開示された実施形態の他の態様がある。
【0008】
本明細書に記載の対象についての以上の及び他の特徴、実用性及び利点は、添付図面に図示したように特定の実施形態の以下のさらに詳細な説明から明らかになるであろう。この点で、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって決定されるべきであって、所定の主題が、この概要の中で言及したいずれか又はすべての特徴若しくは態様を含んでいるかどうか、又は背景技術で言及したどのような問題点にも対処しているかどうかではないことを理解されたい。
【0009】
好ましい他の実施形態を、添付図面に関連して開示する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】組成物内で使用されるシランと、本明細書に記載の方法との相互作用の可能な様式を示す。
【図2】本明細書に開示した防食組成物を製造する方法を詳述するフローチャートである。
【図3】被覆及び未被覆アルミニウム合金クーポンを3.15wt%NaCl溶液に30日間浸漬した後の一連のVIEEW画像である。
【図4】被覆及び未被覆アルミニウム合金クーポンを10%ハリソン溶液に30日間浸漬した後の一連のVIEEW画像である。
【図5】被覆及び未被覆アルミニウム合金をシングルトン(Singleton)のCCT−10サイクル腐食試験室で8日間暴露した後の一連のVIEEW画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[詳細な説明]
本明細書に記載の防食組成物は、3種の異なるシランの第1の混合物を通常含む。3種のシランは相互作用して防食組成物の基礎である網状組織を最終的に形成することができる。所望の網状組織を作製するために、特定のシランを第1の混合物に選択することができる。
【0012】
第1の混合物に含まれる第1のシランは、メチルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン又はトリメチルアセトキシシランであってもよい。第1のシランは、化合物内のメチル基及びアセテート基の存在によりこの群から選択することができる。防食組成物の網状組織の合成の一部として、メチル基は、シランを含有するアセテート基の容易な加水分解を誘起することができる。
【0013】
第1の混合物に含まれる第2のシランはメチルトリメトキシシランであってもよい。第1のシランと同様に、メチルトリメトキシシランは、メチル基の存在、及び第2のシラン中のメトキシ結合の加水分解を促進するメチル基の能力により第2のシランとして選択することができる。
【0014】
第1の混合物に含まれる第3のシランはテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランのいずれかであってもよい。第3のシランは、第1のシラン及び第2のシランの加水分解後に形成されたシラノールを架橋することができ、最終的に防食組成物の網状組織を形成することができるシランとして選択することができる。
【0015】
第1の混合物の中で使用されるそれぞれのシランは約90%〜約99%の純度であってもよい。第1の混合物内のそれぞれのシランの量は、一般に上記の網状組織を形成するいずれかの量であってもよい。いくつかの実施形態では、第1のシランは第1の混合物の約3.0%〜約10.0%であってもよく、第2のシランは第1の混合物の約2.0%〜約8.0%であってもよく、第3のシランは第1の混合物の約0.5%〜約3.0%であってもよい。これらの量からの逸脱は防食組成物の好ましくない特徴をもたらす可能性がある。たとえば、防食組成物中の第1のシランの量が過剰であると、この防食組成物で被覆した場合、基板が腐食される可能性がある。第2のシランの量が過剰であると、障壁特性が貧弱な被膜をもたらす可能性がある。第3のシランの量が過剰であると、防食組成物によって形成された被膜に亀裂を生じる可能性がある。
【0016】
第1の混合物は、3種のシラン間の相互作用を促進するために1つ又は複数の溶剤をさらに含むことができる。適当な溶剤であればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、溶剤は、イソプロパノール、メタノール、エタノール、ブタノール又はこれらのいずれかの組み合わせであってもよい。第1の混合物における溶剤の量は、第1の混合物の約79.0%〜約94.5%であってもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、防食組成物は混合物をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、第2の混合物は防食組成物の一部として第1の混合物に含まれる。第2の混合物は、アルカリ金属塩を通常含むことができる。アルカリ金属塩はpH調節剤として機能することができる。適当なアルカリ金属塩であればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、アルカリ金属塩は重炭酸ナトリウム又は重炭酸カリウムのいずれかであってもよい。第2の混合物は超純水をさらに含むこともできる。アルカリ金属塩の量は、第2の混合物の約2.0%〜約15.0%であってもよく、超純水の量は、第2の混合物の約85.0%〜約98.0%であってもよい。
【0018】
防食組成物の一部として含むこともできる第3の混合物は、チタンアルコキシドを通常含むことができる。組成物に紫外線防護性を付与するために、チタンアルコキシドを組成物に含めることができる。チタンアルコキシドは組成物の網状組織に組み入れることができる。適当なチタンアルコキシドであればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、チタンアルコキシドはチタン(IV)エトキシド又はチタン(IV)メトキシドであってもよい。第3の混合物は溶剤をさらに含んでもよい。適当な溶剤であればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、溶剤は、イソプロパノール、メタノール、エタノール、ブタノール又はこれらのいずれかの組み合わせであってもよい。チタンアルコキシドの量は、第3の混合物の約0.1%〜約2.0%であってもよく、溶剤の量は、第3の混合物の約98.0%〜約99.9%であってもよい。
【0019】
防食組成物の一部として含むこともできる第4の混合物は、スズ触媒又はチタン触媒を通常含むことができる。適当なスズ触媒又はチタン触媒であればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、スズ触媒は、ジブチルスズジラウレート、ジ−n−ブチルジアセトキシスズ、ジブチルスズジイソオクチルマレエート、ジ−n−ブチルビス(2,4−ペンタンジオネート)スズ、ジ−n−ブチルブトキシクロロスズ、ジオクチルスズジラウレート、ジメチルスズジネオデカノエート、及びビス(ネオデカノエート)スズであってもよい。いくつかの実施形態では、チタン触媒は、チタン2−エチルヘキサオキシド、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシドビス(エチル−アセトアセテート)、チタントリメチルシロキシドであってもよい。スズ又はチタン触媒は、防食組成物の硬化過程を増強させるために使用することができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、第4の混合物は、第2の溶剤及び共溶剤をさらに含むことができる。適当な溶剤であれば、第4の混合物においていずれも使用できる。いくつかの実施形態では、第2の溶剤は、イソプロパノール、メタノール、エタノール、ブタノール又はこれらのいずれかの組み合わせであってもよく、共溶剤はジエチルエーテルであってもよい。共溶剤は、その表面洗浄能力のために第4の混合物において使用することができる。スズ又はチタン触媒の量は、第4の混合物の約0.05%〜約0.20%であってもよく、第2の溶剤の量は、第4の混合物の約30.0%〜約50.0%であってもよく、共溶剤の量は、第4の混合物の約50.0%〜約70.0%であってもよい。いくつかの実施形態では、第2の溶剤の量は、第4の混合物の40.02%〜約40.03%であってもよく、共溶剤は、第4の混合物の約59.88%〜約59.97%である。
【0021】
すべての4つの混合物が防食組成物に使用される場合に、第1の混合物の量は、防食組成物の約50.0%〜約80.0%であってもよく、第2の混合物の量は、防食組成物の約0%〜約10.0%であってもよく、第3の混合物の量は、防食組成物の約5.0%〜約25.0%であってもよく、第4の混合物の量は、防食組成物の約5.0%〜約25.0%であってもよい。いくつかの実施形態では、第1の混合物の量は、防食組成物の約63.0%〜約70.0%であってもよく、第2の混合物の量は、防食組成物の約3.0%〜約4.0%であってもよく、第3の混合物は、防食組成物の約13.0%〜約17.0%であってもよく、第4の混合物の量は、防食組成物の約13.0%〜約17.0%であってもよい。
【0022】
図1に関して、4つの混合物間の可能な反応機構を示す。
【0023】
本明細書に記載の防食組成物を製造する方法は、様々な混合物を調製し、その混合物を組み合わせて最終的に防食組成物を得ることを通常含むことができる。図2に関して、この方法は、3種の異なるシランの予備混合物を調製するステップ200と、予備混合物の中間混合物とアルカリ金属塩を含む第1の補助的な混合物とを調製するステップ210と、中間混合物とチタンアルコキシドを含む第2の補助的な混合物とのコロイド懸濁液を調製するステップ220と、コロイド懸濁液とスズ又はチタン触媒を含む第4の補助的な混合物との防食組成物を調製するステップ230とを通常含むことができる。
【0024】
ステップ200から始めると、予備混合物は、3種の異なるシランをともに組み合わせることにより調製することができる。予備混合物は、上記においてさらに詳細に述べた第1の混合物とよく似たもの、又は同一のものであってもよい。上記においてさらに詳細に述べた第1の混合物と同様に、予備混合物は、イソプロパノールのような溶剤をさらに含むことができる。
【0025】
3種のシランをともに組み合わせることを含む、予備混合物を調製する方法であればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、予備混合物の調製は、シラン間の相互作用を促進するために、容器中で3種のシランを組み合わせてこの材料を超音波処理してもよい。超音波処理は混合物を超音波処理することができるいずれの装置によっても行なうことができる。超音波処理は任意の適当な時間、行なってもよい。いくつかの実施形態では、超音波処理を約2.0分間〜約30.0分間、好ましくは約15分間行なう。
【0026】
ステップ210に関しては、中間混合物は予備混合物と第1の補助的な混合物とを組み合わせることにより調製することができる。第1の補助的な混合物は、上記においてさらに詳細に述べた第2の混合物とよく似たもの、又は同一のものであってもよく、混合物中のアルカリ金属塩の存在を含む。さらに、第2の混合物に関して上記したように、第1の補助的な混合物は超純水を含むことができる。アルカリ金属塩と超純水を組み合わせることを含む、第1の補助的な混合物を調製する方法であればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、第1の補助的な混合物の調製は、容器中でアルカリ金属塩と超純水とを組み合わせてこの材料を超音波処理することを含むこともできる。超音波処理は混合物を超音波処理することができるいずれの装置によっても行なうことができる。超音波処理は任意の適当な時間、行なってもよい。いくつかの実施形態では、超音波処理を約2.0分間〜約30.0分間、好ましくは約15分間行なう。
【0027】
予備混合物と第1の補助的な混合物を組み合わせることを含む、中間混合物を調製する方法であればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、中間混合物の調製は、容器中で予備混合物と第1の補助的な混合物とを組み合わせてこの材料を超音波処理することを含むこともできる。超音波処理は混合物を超音波処理することができるいずれの装置によっても行なうことができる。超音波処理は任意の適当な時間、行なってもよい。いくつかの実施形態では、超音波処理を約2.0分間〜約60.0分間、好ましくは約30分間行なう。
【0028】
ステップ220に関しては、コロイド懸濁液は中間混合物と第2の補助的な混合物とを組み合わせることにより調製することができる。第2の補助的な混合物は、上記においてさらに詳細に述べた第3の混合物とよく似たもの、又は同一のものであってもよく、混合物中のチタンアルコキシドの存在を含む。さらに、第3の混合物に関して上記したように、第2の補助的な混合物は溶剤を含むことができる。チタンアルコキシドと溶剤を組み合わせることを含む、第2の補助的な混合物を調製する方法であればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、第2の補助的な混合物の調製は、容器中でチタンアルコキシドと溶剤とを組み合わせてこの材料を超音波処理することを含むこともできる。超音波処理は混合物を超音波処理することができるいずれの装置によっても行なうことができる。超音波処理は任意の適当な時間、行なってもよい。いくつかの実施形態では、超音波処理を約2.0分間〜約30.0分間、好ましくは約15分間行なう。
【0029】
中間混合物と第2の補助的な混合物を組み合わせることを含んでいるコロイド懸濁液を調製する方法であればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、コロイド懸濁液の調製は、容器中で中間混合物と第2の補助的な混合物とを組み合わせてこの材料を超音波処理することを含むこともできる。超音波処理は混合物を超音波処理することができるいずれの装置によっても行なうことができる。超音波処理は任意の適当な時間、行なってもよい。いくつかの実施形態では、超音波処理を約2.0分間〜約60.0分間、好ましくは約30分間行なう。
【0030】
ステップ230に関しては、防食組成物はコロイド懸濁液と第3の補助的な混合物を組み合わせることにより調製することができる。第3の補助的な混合物は、上記においてさらに詳細に述べた第4の混合物とよく似たもの、又は同一のものであってもよく、混合物中のスズ又はチタン触媒の存在を含む。さらに、第4の混合物に関して上記したように、第3の補助的な混合物が溶剤と共溶剤を含むことができる。スズ又はチタン触媒、溶剤と共溶剤を組み合わせることを含む、第3の補助的な混合物を調製する方法であればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、第3の補助的な混合物の調製は、容器中でスズ又はチタン触媒、溶剤、及び共溶剤を組み合わせ、この材料を超音波処理することを含むこともできる。超音波処理は混合物を超音波処理することができるいずれの装置によっても行なうことができる。超音波処理は任意の適当な時間、行なってもよい。いくつかの実施形態では、超音波処理を約2.0分間〜約30.0分間、好ましくは約15分間行なう。
【0031】
コロイド懸濁液と第3の補助的な混合物を組み合わせることを含む、防食組成物を調製する方法であればいずれも使用できる。いくつかの実施形態では、防食組成物の調製は、容器中でコロイド懸濁液と第3の補助的な混合物とを組み合わせて、この材料を超音波処理することを含むこともできる。超音波処理は混合物を超音波処理することができるいずれの装置によっても行なうことができる。超音波処理は任意の適当な時間、行なってもよい。いくつかの実施形態では、超音波処理を約2.0分間〜約60.0分間、好ましくは約30分間行なう。
【0032】
本明細書に記載の方法によって製造された防食組成物は通常無色透明な液体であってもよい。いくつかの実施形態では、組成物を着色するために顔料を組成物に添加してもよい。防食組成物の粘度は比較的低く、通常、水の粘度とほぼ同等であってもよい。防食組成物が低粘度であるため、組成物が、被覆される基板中の隙間に入り込むことが可能になる。
【0033】
基板は、任意の適当な方法によって本明細書に記載の防食組成物で被覆することができる。いくつかの実施形態では、組成物を基板上に噴霧又は塗布するか、又は基板に組成物を浸漬被覆することができる。組成物が基板に塗布された後、この組成物は基板上で硬化し被膜を形成することが可能になる。この被膜は、通常、被覆の30分以内に指触乾燥性良好となり、被覆の3時間以内に取り扱いが可能になる。周囲条件下に置かれて、被膜は、被覆の12時間前後以内にほとんど完全に硬化し、約6日の後に最高の強度とすることができる。すべての硬化過程は40〜60℃のような高温で硬化することにより加速することができる。前述のように、硬化過程はまた、スズ又はチタン触媒の利用により加速することができる。得られた被膜は、通常、基板の表面上の透明で、固い薄膜であってもよい。いくつかの実施形態では、被膜の厚みは、約2μm〜約5μmであってもよい。
【0034】
基板に防食組成物を塗布することにより形成されたこの被膜は、基板と共有結合を形成して良好な接着を確保し、剥離しないよう保護してもよい。たとえば、アルミニウム基板を被覆する場合には、組成物は、ヒドロキシル官能基があらわになるようにアルミニウム基板表面の酸化物層をエッチングしてもよい。その後、組成物の反応性の官能基は、基板の官能基と安定な化学結合を形成することができる。
【0035】
金属基材であればいずれも防食組成物で被覆することができ、様々な金属の合金を含む。前述のように、防食組成物はアルミニウムとアルミニウム合金の基板の被覆に特に役立つことがわかった。
【0036】
防食組成物によって製造された基板上の被膜は、被覆基板にさらに有益な特性を付与するために、特別に開発した保護膜で被覆してもよい。
【実施例】
【0037】
下記のそれぞれの実施例については、2インチ×2インチのクーポンを、本明細書に記載の防食組成物で浸漬被覆した。60℃で15日間硬化させる浸漬試験に使用するクーポンを除いて、被覆クーポンを一晩風乾し、次いで、60℃で5時間加熱した。その後、実験作業に必要になるまで、被覆クーポンは相対湿度2%の乾燥箱(McDry)に保管した。周囲条件下で24時間風乾し、次いで、40℃〜60℃で2時間加熱し、最終的に周囲条件下で48時間置いたクーポンに対しても下記に述べたものと同様の結果を得た。
【0038】
実施例1
屋外暴露及び腐食調査
合計12枚のアルミニウム合金クーポンを、この試験に使用した。4枚の2インチ×2インチ6061Alクーポン、4枚の2インチ×2インチの2024Alクーポン及び4枚の2インチ×2インチの7075Alクーポンである。それぞれのセットのうち1枚のクーポンは何も処理をせず、それぞれのセットのうち2枚のクーポンは防食組成物で被覆し、それぞれのセットのうち1枚のクーポンは被覆して印を刻みつけた。全12枚のクーポンを試験架台に搭載し、ハワイ大学ハワイ腐食研究所によって設立されたビッグアイランド(ハワイ島)の高高度マウナロア試験場に暴露した。この試験場は、太陽輻射光への暴露が高レベルであることから選択した。クーポンは4か月の暴露の後に回収した。
【0039】
それぞれのクーポンは、4か月の暴露期間前後にVIEEW装置を使用して走査した。暴露前後のVIEEW走査の目視比較では、防食組成物に被覆されたクーポンに見て分かるほどの破損の無いことが判明した。
【0040】
実施例2
浸漬試験
試薬級化学薬品と固有抵抗18ΜΩ・cmの超純水を使用して3.15重量%のNaCl溶液を調製した。3.5g/lの硫酸アンモニウム及び0.5g/lの塩化ナトリウムを超純水に加えることによりハリソン溶液を調製した。ハリソン溶液は10%の濃さに希釈した。
【0041】
NaCl浸漬
3種の異なるアルミニウム合金(2024Al、6061Al、及び7075Al)の3枚のクーポンのセットを、上述の防食組成物で被覆して、上記したように調製した3.15重量%のNaCl溶液に30日間浸漬した。同じアルミニウム合金の未被覆クーポンも、比較のために同時に浸漬した。図3は、30日間浸漬後の被覆(C)クーポン及び未被覆(UC)クーポンのVIEEW分析を示す。未被覆クーポンは腐食により深刻な表面の損傷を受けたが、被覆クーポンは影響を受けなかった。被覆クーポンの縁部のわずかな腐食は、浸漬被覆プロセスの際の被膜の縁部の欠陥による可能性がある。
【0042】
ハリソン溶液浸漬
9枚のアルミニウム合金(2024Al、6061Al及び7075Al)の被覆クーポンと3枚の未被覆クーポンのセットを、Q−Sunに60時間暴露した。9枚の被覆クーポンのうちの6枚と3枚の未被覆クーポンを、上記したように調製したハリソン溶液に引き続き浸漬した。紫外光に暴露しなかった追加の6枚の被覆クーポンも、上記したように調製したハリソン溶液に浸漬した。クーポンは30日間浸漬した後に回収した。その後、すべてのクーポンは、超純水で洗浄して風乾し、その時点で、それぞれのクーポンについてVIEEW画像を撮影した。図4は、様々なサンプルについて撮影したVIEEW画像を示す。それぞれのサンプルは、アルミニウム合金タイプ及びそれが被覆されていたか(C)、未被覆であったか(UC)、紫外線暴露されていたか(E)、又は紫外線に暴露されてなかったか(UE)で標識する。
【0043】
紫外線暴露した被覆クーポンも紫外線暴露していない被覆クーポンのどちらにも腐食の様子がまったく見られず、防食組成物が紫外線暴露の後でさえ、浸漬条件下で不透水性の被膜として作用したことを示唆する。未被覆クーポンは深刻な腐食を受けた。
【0044】
実施例3
促進耐候腐食試験
3種のタイプの被覆アルミニウム合金クーポン(2024Al、6061Al及び7075Al)を、プラスチック架台に搭載して、シングルトンのCCT−10サイクル腐食試験室で促進暴露環境下に8日間暴露した。それぞれのセットからの1枚の被覆クーポンには、意図的な被膜欠陥のところで腐食の影響を検討するために印を刻みつけた。比較目的のために、同じアルミニウム合金の未被覆クーポンを同時に暴露した。GM9540Pに準拠して、試験を行なった。暴露後のクーポンのVIEEW画像を図5に示す。
【0045】
未被覆クーポンは、腐食による深刻な表面損傷を受けたが、被覆クーポンは影響されなかった。被覆クーポンの縁部のわずかな腐食は縁部の欠陥による可能性がある。印を刻みつけた被覆クーポンは、かき傷の部分で腐食したが、これらの印を刻みつけた部分に隣接する被膜剥離の様子がまったく見られなかった。
【0046】
ここに開示した本発明の原理を適用し得る多くの可能な実施形態を考慮すると、図示した実施形態は単に本発明の好ましい例にすぎず、本発明の範囲を限定するものではないと認識すべきである。むしろ、本発明の範囲は下記の特許請求の範囲によって定義される。したがって、本発明者らは、これらの特許請求の範囲及び精神内のものすべてを、本発明として請求する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン及びトリメチルアセトキシシランからなる群から選択される第1のシランと、
メチルトリメトキシシランからなる第2のシランと、
テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランからなる群から選択される第3のシランと、
を含む第1の混合物を含む防食組成物。
【請求項2】
アルカリ金属塩を含む第2の混合物をさらに含む、請求項1に記載の防食組成物。
【請求項3】
前記アルカリ金属塩が重炭酸ナトリウム又は重炭酸カリウムである、請求項2に記載の防食組成物。
【請求項4】
チタンアルコキシドを含む第3の混合物をさらに含む、請求項2に記載の防食組成物。
【請求項5】
前記チタンアルコキシドがチタン(IV)エトキシド又はチタン(IV)メトキシドである、請求項4に記載の防食組成物。
【請求項6】
スズ触媒又はチタン触媒を含む第4の混合物をさらに含む、請求項3に記載の防食組成物。
【請求項7】
前記スズ触媒が、ジブチルスズジラウレート、ジ−n−ブチルジアセトキシスズ、ジブチルスズジイソオクチルマレエート、ジ−n−ブチルビス(2,4−ペンタンジオネート)スズ、ジ−n−ブチルブトキシクロロスズ、ジオクチルスズジラウレート、ジメチルスズジネオデカノエート、及びビス(ネオデカノエート)スズからなる群から選択され、前記チタン触媒が、チタン2−エチルヘキサオキシド、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシドビス(エチル−アセトアセテート)、チタントリメチルシロキシドからなる群から選択される、請求項6に記載の防食組成物。
【請求項8】
前記第1の混合物が第1の溶剤をさらに含む、請求項1に記載の防食組成物。
【請求項9】
前記第1の溶剤が、イソプロパノール、メタノール、エタノール及びブタノールからなる群から選択される、請求項8に記載の防食組成物。
【請求項10】
前記第4の混合物が、第2の溶剤及び共溶剤をさらに含む、請求項6に記載の防食組成物。
【請求項11】
前記第2の溶剤が、イソプロパノール、メタノール、エタノール及びブタノールからなる群から選択され、前記共溶剤がジエチルエーテルである、請求項10に記載の防食組成物。
【請求項12】
前記第1のシラン、前記第2のシラン及び前記第3のシランのそれぞれが、純度約90%〜約99%である、請求項1に記載の防食組成物。
【請求項13】
前記第1の混合物が、3.0%〜10.0%の第1のシラン、2.0%〜8.0%の第2のシラン、及び0.5%〜3.0%の第3のシランを含む、請求項1に記載の防食組成物。
【請求項14】
前記第2の混合物が、2.0%〜15.0%のアルカリ金属塩を含む、請求項2に記載の防食組成物。
【請求項15】
前記第3の混合物が、0.1%〜2.0%のチタンアルコキシドを含む、請求項4に記載の防食組成物。
【請求項16】
前記第4の混合物が、0.05%〜0.20%のスズ触媒又はチタン触媒を含む、請求項6に記載の防食組成物。
【請求項17】
防食組成物を製造する方法であって、
メチルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン及びトリメチルアセトキシシランからなる群から選択される第1のシランと、
メチルトリメトキシシランからなる第2のシランと、
テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランからなる群から選択される第3のシランと、を含む予備混合物を調製するステップと、
前記予備混合物及び第1の補助的な混合物を含む中間混合物を調製するステップであり、前記第1の補助的な混合物がアルカリ金属塩を含むステップと、
前記中間混合物及び第2の補助的な混合物を含むコロイド懸濁液を調製するステップであり、前記第2の補助的な混合物がチタンアルコキシドを含むステップと、
前記コロイド懸濁液及び第3の補助的な混合物を含む防食組成物を調製するステップであり、前記第3の補助的な混合物が、スズ触媒又はチタン触媒を含むステップと、
を含む方法。
【請求項18】
前記予備混合物が第1の溶剤をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記予備混合物を調製するステップが、前記第1のシラン、前記第2のシラン及び前記第3のシランを超音波処理するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の補助的な混合物が超純水をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の補助的な混合物が、前記アルカリ金属塩及び前記超純水を超音波処理することにより調製される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の補助的な混合物が第2の溶剤をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記第2の補助的な混合物が、チタンアルコキシドと前記第2の溶剤を超音波処理することにより調製される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第3の補助的な混合物が、第3の溶剤及び共溶剤をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記第3の補助的な混合物が、前記第3の溶剤、前記共溶剤及び前記スズ触媒又は前記チタン触媒を超音波処理することにより調製される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記中間混合物を調製するステップが、前記予備混合物及び前記第1の補助的な混合物を超音波処理するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
前記コロイド懸濁液を調製するステップが、前記中間混合物及び前記第2の補助的な混合物を超音波処理するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項28】
前記防食組成物を調製するステップが、前記コロイド懸濁液及び前記第3の補助的な混合物を超音波処理するステップを含む、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−516538(P2013−516538A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548011(P2012−548011)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/059730
【国際公開番号】WO2011/084346
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(501052498)ユニヴァーシティー オブ ハワイ (2)
【Fターム(参考)】