説明

防黴性を有するポリエステル繊維

【課題】防黴剤を含有する繊維であって、防黴性、防黴性の耐久性ともに優れ、また、防黴剤を含有することによる繊維の着色(黄変)も防ぐことができ、各種の衣料用、生活用品用途に好適に使用することができる防黴性を有するポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】防黴剤としてトリアゾール系有機化合物を含有するポリエステルが繊維表面の少なくとも一部に配されたポリエステル繊維であって、トリアゾール系化合物の含有量が繊維質量に対して0.1〜3.5質量%であることを特徴とする防黴性を有するポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアゾール系有機化合物の防黴剤を含有するポリエステルを繊維表面の少なくとも一部に配したポリエステル繊維であって、織編物や不織布等の布帛や繊維構造物にすることで良好な防黴性能を付与することができる防黴性を有するポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特にポリエステル繊維は、その優れた機械特性及び化学特性を有するため、衣料、産業資材等、様々な用途に使用されている。近年、消費者の健康、衛生、快適性に対する意識の高まりにより、種々の防黴性繊維が実用化されている。
【0003】
その中でも、例えば寝装具やエアコンフィルター、水処理フィルター等の用途においては、繊維に付着した有機物等を栄養分として黴が繁殖しやすいため、防黴性が強く求められている。
【0004】
従来、繊維構造物に各種機能剤を固定化する方法として、浸漬法、スプレー法、コーティング法、パッド法等の後加工法が知られており、特許文献1には防黴剤を含む処理液を後工程にて付与した防黴性繊維構造物が提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの繊維構造体は表面に防黴剤を固着させているため、摩擦、磨耗、洗濯等により防黴剤が脱落しやすく、防黴性能の耐久性に問題があった。
【0006】
また、優れた防黴性を有する防黴剤として、塩化ベンザルコニウム、8-キノリノール、クレゾール等に代表される有機系防黴剤があるが、これらは一般に耐熱性に乏しく、溶融紡糸時に熱劣化、分解して防黴性能が低下したり、分解物による繊維の着色(黄変)が生じたりするという欠点があるため、繊維中への含有は難しかった。
【0007】
特許文献2には、防カビ抗菌作用を有する化合物として、アルカリ性無機化合物とその他無機化合物からなる複合化合物(炭酸カルシウム粒子とアルミナ、シリカを焼成した複合化合物)を含有する抗菌防カビ性ポリエステル繊維が記載されている。
【0008】
特許文献2記載のポリエステル繊維は、防カビ抗菌作用を有する化合物をポリエステル中に含有させて溶融紡糸して得られたものであるが、このポリエステル繊維が含有する防カビ剤は無機系化合物からなるものであり、防カビ性、防カビ性の耐久性ともに不十分であり、防カビ剤を含有することによるポリエステル繊維の着色の改善も不十分なものであった。
【0009】
一方、ポリエステル繊維が使用される用途として、各種フィルター、メッシュシート用途には、融点の異なる2種類のポリマーを用いて、高融点ポリマーを芯成分とし、低融点ポリマーを鞘成分とした芯鞘型熱接着性繊維が多く利用されている。このような熱接着性繊維においても、防黴性を有するものが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−70935号公報
【特許文献2】特開2004−91998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記課題を解決するものであり、防黴剤を含有する繊維であって、防黴性、防黴性の耐久性ともに優れ、また、防黴剤を含有することによる繊維の着色(黄変)も防ぐことができ、各種の衣料用、生活用品用途に好適に使用することができる防黴性を有するポリエステル繊維を提供することを技術的な課題とするものであり、また、熱接着性を有し、各種フィルター、メッシュシート用途にも好適に使用することができる防黴性を有するポリエステル繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、次の(1)、(2)を要旨とするものである。
(1)防黴剤としてトリアゾール系有機化合物を含有するポリエステルが繊維表面の少なくとも一部に配されたポリエステル繊維であって、トリアゾール系化合物の含有量が繊維質量に対して0.1〜3.5質量%であることを特徴とする防黴性を有するポリエステル繊維。
(2)アルキレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルAと、防黴剤としてトリアゾール系有機化合物を含有するポリエステルBからなり、ポリエステルAを芯部にポリエステルBを鞘部に配した芯鞘型複合繊維であって、ポリエステルBの融点はポリエステルAの融点より低く、トリアゾール系有機化合物の含有量が繊維質量に対して0.1〜3.5質量%であることを特徴とする防黴性を有するポリエステル繊維。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防黴性を有するポリエステル繊維は、防黴剤としてトリアゾール系有機化合物を用い、これをポリエステル中に含有させて溶融紡糸して得たものであるため、紡糸操業性よく得ることができるものであり、防黴性及び防黴性の耐久性に優れるとともに、繊維の着色(黄変)も生じることがなく、品位に優れるものである。また、本発明の防黴性を有するポリエステル繊維は、鞘部を構成する低融点ポリエステルに防黴剤を含有させたものであるため、熱接着性を有し、バインダー繊維として布帛やメッシュシート等に用いることが好適なものであり、熱接着処理することによって、防黴剤を含有する低融点ポリエステルが溶融し、布帛やメッシュシートに防黴剤を付着させることができ、良好な防黴性を付与することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の防黴性を有するポリエステル繊維は、防黴剤としてトリアゾール系有機化合物を含有するポリエステルが繊維表面の少なくとも一部に配されたものである。つまり、本発明のポリエステル繊維は、防黴剤を含有するポリエステルのみからなる繊維(単一成分型の繊維)及び防黴剤を含有するポリエステルと他のポリマーとからなる複合繊維であって、防黴剤を含有するポリエステルが繊維表面の少なくとも一部に配された複合繊維形状のものが挙げられる。
【0015】
本発明のポリエステル繊維においては、防黴剤を含有するポリエステルが繊維表面に存在しているので、防黴剤の効果を十分に発揮させることができ、防黴性に優れた効果を奏することができるものである。
【0016】
複合繊維形状の本発明のポリエステル繊維としては、防黴剤を含有するポリエステルを鞘部、他のポリマーを芯部に配した芯鞘型複合繊維、防黴剤を含有するポリエステルと他のポリマーを貼り合せたサイドバイサイド型の複合繊維、防黴剤を含有するポリエステルが他のポリマー中に島部となって存在し、かつ島部が繊維表面部分に非連続で複数個存在する海島型の複合繊維等が挙げられる。
【0017】
防黴剤の効果を十分に発揮させるためには、複合繊維形状の中でも防黴剤を含有するポリエステルが繊維表面の全部を覆うように配置されていることが好ましく、防黴剤を含有するポリエステルを鞘部、他のポリマーを芯部に配した芯鞘型複合繊維とすることが好ましい。
【0018】
まず、単一成分型の本発明のポリエステル繊維について説明する。
本発明のポリエステル繊維を構成するポリエステルとしては、アルキレンテレフタレート単位を主体とするものが好ましく、ポリアルキレンテレフタレートとしては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略記)、ポリプロピレンテレフタレート(以下、PPTと略記)等が挙げられる。
【0019】
これらの単独重合体を用いてもよく、また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の酸性分、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシ)ベンゼン等のジオール成分等を共重合したものを用いてもよい。
【0020】
また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリエステル中には酸化防止剤、艶消し剤、着色剤、滑剤、結晶核剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0021】
次に、複合繊維形状の本発明のポリエステル繊維について説明する。
防黴剤としてトリアゾール系有機化合物を含有するポリエステルと他のポリマーからなるものであるが、両ポリマーともに上記した単一成分型の本発明のポリエステル繊維と同様にアルキレンテレフタレート単位を主体とするものが好ましい。
【0022】
複合繊維形状の本発明のポリエステル繊維を芯鞘型の複合繊維とする場合、芯部をアルキレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルA、鞘部を防黴剤としてトリアゾール系有機化合物を含有し、かつポリエステルAより低融点のポリエステルBとすることが好ましい。
【0023】
鞘部のポリエステルBを低融点とすることにより、熱接着性を有する繊維とすることができる。そして、本発明のポリエステル繊維を用いて、織編物や不織布等の布帛や繊維構造物とした後に熱接着処理することによりポリエステルBを溶融させて、ポリエステルB中の防黴剤を芯部のポリエステルAからなる繊維表面に付着させたり、他の繊維とともに布帛や繊維構造物とした場合は他の繊維表面に付着させることができ、布帛や繊維構造物等に優れた防黴性能を付与することが可能となる。
【0024】
一方、鞘部となるポリエステルBは、ポリエステルAの融点より30℃以上低いものであることが好ましく、中でも40℃以上低いことが好ましい。ポリエステルAとポリエステルBの融点の差が30℃未満であると、ポリエステルBを熱接着処理により溶融させる際、ポリエステルAの融点に近い温度で熱接着処理されることとなり、芯部のポリエステルAも大きく収縮して寸法安定性が低下したり、芯部のポリエステルAの軟化、熱変性、強度低下を引き起こすこととなりやすい。
【0025】
ただし、芯部のポリエステルAと鞘部のポリエステルBの融点差が大きすぎると、紡糸温度が鞘部のポリエステルBにとって過度に高いものとなるため、ポリエステルBが熱劣化し、紡糸操業性が悪化したり、接着強力が低下したりする。このため、芯部と鞘部の融点差は100℃以下とすることが好ましく、中でも80℃以下とすることが好ましい。
【0026】
鞘部となるポリエステルBを融点の低いものとするには、ポリエステルAで共重合成分として用いることができるものを共重合したPETやPBTとすればよいが、中でも結晶性を示すものが好ましい。
【0027】
ポリエステルBが結晶性を示すものであると、本発明のポリエステル繊維の熱収縮率を低くすることができ、織編物等の布帛や不織布等に用い、熱接着処理した際の繊維の収縮を小さくすることができ、寸法安定性よく布帛や繊維構造物等の製品を得ることが可能となる。
【0028】
このような結晶性を有するポリエステルBとしては、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、かつ、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含有する共重合ポリエステルが好ましい。
【0029】
まず、脂肪族ラクトン成分を共重合する場合、その共重合量は全酸成分に対して20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。脂肪族ラクトン成分の割合が少ないと結晶性はよくなるが、融点が高くなりやすい。一方、20モル%より多いと結晶性が低下し、紡糸時に単糸密着が発生して製糸性が悪くなりやすい。
【0030】
脂肪族ラクトン成分としては、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、特に好ましいラクトンとしては、ε−カプロラクトン(ε−CL)が挙げられる。
【0031】
1,4−ブタンジオール成分を共重合する場合、全グリコール成分に対して30〜70モル%となるようにすることが好ましい。共重合量が30モル%未満であったり、70モル%を超えると、融点が上がる傾向となり、本発明で規定する範囲外のものとなりやすい。
【0032】
アジピン酸成分を共重合する場合、その共重合量は全酸成分に対して、20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。アジピン酸成分の共重合量が10モル%未満であると、結晶性はよくなるが、融点が高くなりやすい。一方、20モル%より多いと結晶性が低下し、紡糸時に単糸密着が発生して製糸性が悪くなりやすい。
【0033】
上記のような1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分は、ポリエステルB中に少なくとも一成分が共重合されていればよく、二成分以上が共重合されているものでもよい。
【0034】
そして、ポリエステルBは融点が170〜210℃のものであることが好ましい。融点が170℃未満であると、紡糸性が悪化したり、延伸時に十分な熱処理を行うことができず、熱収縮率の高い繊維となりやすい。一方、融点が210℃を超えると、熱接着処理時に高温での熱処理が必要となりコスト高となる。また、熱接着処理時にポリマーの熱分解が起こりやすくなる。
【0035】
なお、ポリエステルAは融点が220℃以上のものであることが好ましく、中でも240〜280℃のものが好ましい。
【0036】
さらに、ポリエステルBは、ガラス転移温度(Tg)が20〜80℃、結晶開始温度(Tc)が90〜140℃のものが好ましい。Tgが20℃未満であると、溶融紡糸時に単糸密着の発生により製糸性が悪くなりやすい。一方、80℃を超えると、高温で延伸熱処理することが必要となり、延伸による塑性変形と同時に部分的な結晶化が始まり、芯部と鞘部との間で結晶化に差異が生じるため、繊維構造にムラが生じ、糸切れが発生する等延伸性が低下する。
【0037】
また、Tcが90℃未満であると、熱延伸工程で結晶化が進行してしまうため、延伸斑が生じ、延伸性が悪化したり、次の熱処理工程において安定な結晶構造を再構築することが困難となり、十分な強度を有する繊維を得ることが困難となりやすい。
【0038】
一方、Tcが140℃を超えると、融点が210℃を超えることとなり、熱接着性繊維として不適当となる。
【0039】
本発明のポリエステル繊維は、単一成分型の繊維の場合は繊維を構成するポリエステル中に防黴剤を含有しているものであり、複合形状の繊維の場合は、繊維表面に配されるポリエステル中に防黴剤を含有しているものである。
【0040】
そして、本発明における防黴剤としては、トリアゾール系有機化合物を用いるものであり、中でもトリアゾール系有機化合物を層間に担持させた層状珪酸塩を用いることが好ましいものである。
【0041】
トリアゾール系有機化合物は優れた防黴性を示すものであり、溶融紡糸時の熱劣化が生じにくいものであるため、ポリエステル中に含有させて溶融紡糸することができ、得られた繊維は防黴性に優れるとともに、防黴性の耐久性にも優れたものとなり、さらには、熱変性に伴う繊維の着色(黄変)を抑制することができる。
【0042】
中でも、トリアゾール系有機化合物を層間に担持させた層状珪酸塩を防黴剤として使用すると、トリアゾール系有機化合物が無機化合物の層間に担持されていることから、さらに熱劣化の生じにくいものとなる。このため、この防黴剤をポリエステル中に含有させて溶融紡糸すると、得られた繊維はさらに防黴性に優れるとともに、防黴性の耐久性にも優れたものとなり、熱変性に伴う繊維の着色(黄変)もより抑制することが可能となる。
【0043】
トリアゾール系有機化合物としては、α−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−α−(1,1−ジメチルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル−エタノール、β−(4−クロロフェノキシ)−α−(1,1−ジメチル-エチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール等を用いることが好ましい。
【0044】
層状珪酸塩としては、結晶層単位が互いに積み重なって層状構造を呈している珪酸塩であれば特に制限されることなく用いることが可能であり、脆雲母族、合成雲母等を用いることが好ましい。
【0045】
このようなトリアゾール系有機化合物からなる防黴剤としては、大和化学工業社製の『バイオデン』が挙げられる。また、トリアゾール系有機化合物を層間に担持させた層状珪酸塩の防黴剤としては、東亞合成社製の『カビノン800』が挙げられる。
【0046】
そして、防黴剤は単一成分型、複合繊維形状の場合ともに、含有量は繊維質量に対して0.1〜3.5質量%とするものであり、中でも0.3〜2.5質量%とすることが好ましい。防黴剤の含有量が0.1質量%未満では十分な防黴性が得られず、一方、3.5質量%を超えると製糸性が悪化しやすく、また、防黴剤の熱変性による繊維の着色(黄変)が生じやすくなるため好ましくない。
【0047】
本発明のポリエステル繊維は、繊維の着色(黄変)が生じにくいものであるが、その色調は、ミノルタ社製の色彩色差計CR−100を用いて測定したb値が6.0以下であることが好ましく、中でも4.5以下であることが好ましく、さらには2.5以下であることが好ましい。なお、b値は繊維の黄−青系の色調(+は黄味、−は青味)を示す値であり、0に近いほど黄味が少なく、繊維として好ましい色調である。また、本発明のポリエステル繊維を筒編みした筒編地を測定するものとする。
【0048】
また、本発明のポリエステル繊維を複合繊維とする場合は、トリアゾール系有機化合物を含有するポリエステルと他のポリマーとの割合は、質量比で20/80〜80/20とすることが好ましく、中でも30/70〜70/30とすることが好ましい。
【0049】
本発明のポリエステル繊維は、長繊維としても短繊維としてもよく、またマルチフィラメント、モノフィラメントのいずれであってもよい。
【0050】
また、本発明のポリエステル繊維の横断面形状(繊維の長さ方向に対して垂直に切断した断面の形状)は、通常の丸断面のほか、扁平断面、多角形、多葉形、ひょうたん形等の各種の異形のものであってもよい。
【0051】
本発明のポリエステル繊維は、織編物や不織布等の布帛にする際には、単独で用いて(100%使用して)布帛にしても、他の繊維とともに用いて布帛にしてもよい。本発明のポリエステル繊維を芯鞘型の複合繊維であって、熱接着性を有するものとする場合、布帛にした後に熱接着処理することによりポリエステルBは溶融して接着成分となり、熱接着処理後は芯部のポリエステルAが主体繊維となるものである。
【0052】
次に、本発明のポリエステル繊維の製造方法について説明する。
単一成分型のポリエステル繊維とする場合は、防黴剤を含有するポリエステルを押出機に導入して溶融し、通常の紡糸装置を用いて溶融紡糸を行う。複合繊維形状のポリエステル繊維とする場合は、防黴剤を含有するポリエステルと他のポリマーとをそれぞれ別々の押出機に導入して溶融し、常用の複合紡糸装置を用いて複合紡糸する。
【0053】
そして、紡糸した糸条を冷却、固化した後、2000m/分以上の高速紡糸により延伸することなく半未延伸糸として巻き取るPOY法、あるいは、2000m/分以上の高速紡糸法、または、2000m/未満の低速紡糸で溶融紡糸し、一旦捲き取った後、糸条を延伸熱処理する二工程法、または、一旦捲き取ることなく連続して延伸を行う一工程法により得ることができる。延伸を行う際には、目的とする繊維の物性や用途に応じて、延伸倍率、温度等を適宜設定すればよい。
【0054】
なお、ポリエステル中に防黴剤を含有させる方法としては、粒子状態でポリエステルの重合段階や紡糸段階で添加する方法や、ポリエステル中への高濃度添加によってマスターバッチ化した後に他のポリエステルとチップブレンドする方法や、各々計量した後に溶融ブレンドする方法等を挙げることができる。
【0055】
また、短繊維とする際には、溶融紡糸し、冷却、油剤を付与した後、糸条を延伸することなく一旦巻き取る。この未延伸糸を数十万〜二百万dtexの糸条束に集束して、延伸熱処理を行う。続いて、押し込み式クリンパーにより必要に応じて機械捲縮を施した後、ECカッター等のカッターで目的とする長さにカットして短繊維とする。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例における特性値の測定及び評価は以下の通りに行った。
(a)極限粘度
フェノールと四塩化エタンの当質量混合液を溶媒とし、温度20℃で測定した溶液粘度より求めた。
(b)融点
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。融点ピークが不明瞭なものはホットステージ付きの顕微鏡を用いて流動開始温度を目視にて測定した。
(c)防黴性
JIS Z−2911に基づいて試験を行った。得られたポリエステル繊維を筒編みした筒編地(50×50mm)を試験片とした。試験片を1000mlのビーカーに入れ、ビーカーの底にゴム管を差し入れ、これを通して水を1000ml/minの割合にて連続24時間注ぎ込んだ。次いで、試験片を取り出し、別の1000mlビーカーに満たした精製水の中で振って洗い、更に1回精製水を取り替えて同様にして洗った。試験片を取り出して精製水を切り、平板培地の培養面の中央に接着するように置き、混合胞子懸濁液を培養面と試験片との面に均等に1mlまきかけ、蓋をして、温度28℃の環境下にて14日間培養した。
培地として、精製水=1000ml、硝酸アンモニウム=3.0g、燐酸カリウム=1.0g、硫酸マグネシウム=0.5g、塩化カリウム=0.25g、硫酸第一鉄=0.002g、寒天=25gの組成のものを使用した。
黴の種類として、アスペルギルス ニゲル、ペニシリウム シトリナム、ケトミウム グロボスム、ミロテシウム ベルカリアを使用した。
なお、実施例9〜16、比較例5〜6においては、得られたポリエステル繊維を筒編みした筒編地をポリエステルBの融点+10℃の温度で熱接着処理を行い、ポリエステルBを溶融させた後の筒編地(50×50mm)を試験片とした。
(1)防黴性の初期評価は、14日間培養した培地(試験片面)の黴の生育状況により、以下の4段階で行った。
◎:黴の生育が試料面の10%未満
○:黴の生育が試料面の10%以上40%未満
△:黴の生育が試料面の40%以上70%未満
×:黴の生育が試料面の70%以上
(2)防黴性の耐久性評価は、試験片を家庭用洗濯洗剤を2g/l濃度で含有する40℃の水溶液で5分間洗濯し、流水洗を2分間行って脱水し、更に流水洗を2分間行って脱水した後、乾燥する操作を50回繰り返した(50回洗濯)。そして、上記と同様にして14日間培養し、(1)と同様に4段階で評価した。
(d)紡糸操業性
24時間連続して紡糸を行い、操業中の切れ糸回数(1錘あたり)により、以下の3段階で評価した。
○:切糸無し
△:切糸1〜2回
×:切糸3回以上
(e)色調
得られたポリエステル繊維を筒編みし、未染色の状態でミノルタ社製の色彩色差計CR−100を用いてb値を測定した。
【0057】
実施例1
極限粘度0.68、融点256℃のPETに防黴剤を0.6質量%となるように溶融混練したポリエステルを用い、このポリエステルを常法によりチップ化し、防黴剤を含有するポリエステルを得た。防黴剤としてトリアゾール系有機化合物を層間に担持させた層状珪酸塩である『カビノン800』を用いた。
防黴剤を含有するポリエステルチップを押出機に供給し、溶融紡糸装置を用いて紡糸温度285℃で溶融紡糸を行った。このとき、孔径0.25mmの紡糸孔を24孔有する紡糸口金を用いた。そして、紡出された糸条を冷却し、油剤を付与した後、速度3000m/分のローラで引取り(紡糸速度3000m/分)、巻き取った。得られた半未延伸糸を90℃の加熱ローラを介して1.6倍に延伸し、さらに150℃のヒートプレートで熱処理を行った後に巻取り、56デシテックス/24フィラメントの防黴性を有するポリエステル繊維(単一成分型)を得た。
【0058】
実施例2〜3、比較例1〜2
繊維中の防黴剤の含有量が表1に示す値となるように、ポリエステル中の防黴剤の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル繊維(単一成分型)を得た。
【0059】
実施例4
芯部を形成するポリエステルとして、極限粘度0.68、融点256℃のPETを用いた。
鞘部を形成するポリエステルとして、極限粘度0.68、融点256℃のPETに実施例1と同様の防黴剤を1.2質量%となるように溶融混練したポリエステルを用いた。
両ポリエステルをそれぞれ別々の押出機に導入して溶融し、常用の複合紡糸装置を用い、芯鞘質量比が芯/鞘=50/50となるようにして複合紡糸した以外は実施例1と同様にして溶融紡糸、延伸を行った。そして、56デシテックス/24フィラメントの防黴性を有するポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0060】
実施例5〜6、比較例3〜4
繊維中の防黴剤の含有量が表1に示す値となるように、鞘部のポリエステル中の防黴剤の添加量を変更した以外は、実施例4と同様にしてポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0061】
実施例7〜8
芯部と鞘部の芯鞘質量比(芯/鞘)を表1に示す値となるように変更した以外は、実施例4と同様にしてポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0062】
比較例5
トリアゾール系有機化合物の防黴剤に代えて、ケイ酸塩を主成分とする防黴剤(石塚硝子社製『イオンピュア』)を用いた以外は、実施例1と同様にして防黴性を有するポリエステル繊維(単一成分型)を得た。
【0063】
実施例1〜8、比較例1〜5で得られたポリエステル繊維の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1から明らかなように、実施例1〜8のポリエステル繊維は、防黴性及び防黴性の耐久性ともに優れており、b値が小さく色調にも優れていた。また、紡糸操業性よく得ることができた。
一方、比較例1及び比較例3のポリエステル繊維は、防黴剤の含有量が少なすぎたため、防黴性及び防黴性の耐久性ともに劣るものであった。比較例2、4のポリエステル繊維は、防黴剤の含有量が多すぎたため、b値が高く色調に劣るものであり、紡糸操業性にも劣るものであった。比較例5のポリエステル繊維は、トリアゾール系有機化合物からなる防黴剤を用いなかったため、防黴性能が不十分であり、b値も高く色調に劣るものであった。
【0066】
実施例9
芯部を形成するポリエステルAとして、極限粘度0.66、融点256℃のPETを用いた。
鞘部を形成するポリエステルBとして、酸成分としてテレフタル酸100モル%、ジオール成分としてエチレングリコール50モル%、1,4−ブタンジオール50モル%を共重合した共重合ポリエステル(極限粘度0.67、融点180℃)を用いた。
ポリエステルAとポリエステルBをそれぞれ別々の押出機に導入して溶融し、常用の複合紡糸装置を用い、芯鞘質量比が芯/鞘=50/50となるようにして複合紡糸した。
防黴剤として実施例1と同様の『カビノン800』を用い、ポリエステルBを押出機に導入して溶融させる際に防黴剤を添加し、繊維中の防黴剤の含有量が0.6質量%となるように含有させた。
そして、紡糸温度285℃で溶融紡糸を行った。このとき、孔径0.25mmの紡糸孔を24孔有する紡糸口金を用いた。そして、紡出された糸条を冷却し、油剤を付与した後、速度3000m/分のローラで引取り(紡糸速度3000m/分)、巻き取った。
得られた半未延伸糸を70℃の加熱ローラを介して1.85倍に延伸し、さらに145℃のヒートプレートで熱処理を行った後に巻取り、56デシテックス/24フィラメントの防黴性を有するポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0067】
実施例10
鞘部を形成するポリエステルBとして、酸成分としてテレフタル酸100モル%、ジオール成分としてエチレングリコール30モル%、1,4−ブタンジオール70モル%を共重合した共重合ポリエステル(極限粘度0.67、融点200℃)を用いた以外は、実施例9と同様にしてポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0068】
実施例11
鞘部を形成するポリエステルBとして、酸成分としてテレフタル酸100モル%、ジオール成分としてエチレングリコール70モル%、1,4−ブタンジオール30モル%を共重合した共重合ポリエステル(極限粘度0.67、融点200℃)を用いた以外は、実施例9と同様にしてポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0069】
実施例12
芯部を形成するポリエステルAとして、極限粘度0.85、融点225℃のPBTを用い、紡糸温度を265℃とした以外は、実施例9と同様にしてポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0070】
実施例13〜14、比較例6〜7
繊維中の防黴剤の含有量が表2に示す値となるように、ポリエステルB中の防黴剤の添加量を変更した以外は、実施例9と同様にしてポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0071】
実施例15〜16
芯部と鞘部の質量比(芯/鞘)を表2に示す値となるように変更した以外は、実施例9と同様にしてポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0072】
実施例9〜16、比較例6〜7で得られたポリエステル繊維の特性値及び評価結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2から明らかなように、実施例9〜16のポリエステル繊維は、防黴性及び防黴性の耐久性ともに優れており、b値が小さく色調にも優れていた。また、紡糸操業性よく得ることができた。
一方、比較例6のポリエステル繊維は、防黴剤の含有量が少なすぎたため、防黴性及び防黴性の耐久性ともに劣るものであった。比較例7のポリエステル繊維は、防黴剤の含有量が多すぎたため、b値が高く色調に劣るものであり、紡糸操業性にも劣るものであった。
【0075】
実施例17
極限粘度0.68、融点256℃のPETに防黴剤を1.5質量%となるように溶融混練したポリエステルを用い、このポリエステルを常法によりチップ化し、防黴剤を含有するポリエステルを得た。防黴剤としてトリアゾール系有機化合物である『バイオデンNPBconc』を用いた。
防黴剤を含有するポリエステルチップを押出機に供給し、実施例1と同様にして溶融紡糸、延伸を行い、56デシテックス/24フィラメントの防黴性を有するポリエステル繊維(単一成分型)を得た。
【0076】
実施例18〜19、比較例8〜9
繊維中の防黴剤の含有量が表3に示す値となるように、ポリエステル中の防黴剤の添加量を変更した以外は、実施例17と同様にしてポリエステル繊維(単一成分型)を得た。
実施例20
芯部を形成するポリエステルとして、極限粘度0.68、融点256℃のPETを用いた。
鞘部を形成するポリエステルとして、極限粘度0.68、融点256℃のPETに実施例17と同様の防黴剤を3.0質量%となるように溶融混練したポリエステルを用いた。
両ポリエステルをそれぞれ別々の押出機に導入して溶融し、常用の複合紡糸装置を用い、芯鞘質量比が芯/鞘=50/50となるようにして複合紡糸した以外は実施例17と同様にして溶融紡糸、延伸を行った。そして、56デシテックス/24フィラメントの防黴性を有するポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0077】
実施例21〜22、比較例10〜11
繊維中の防黴剤の含有量が表3に示す値となるように、鞘部のポリエステル中の防黴剤の添加量を変更した以外は、実施例20と同様にしてポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0078】
実施例23〜24
芯部と鞘部の芯鞘質量比(芯/鞘)を表3に示す値となるように変更した以外は、実施例20と同様にしてポリエステル繊維(複合繊維形状)を得た。
【0079】
【表3】

【0080】
表3から明らかなように、実施例17〜24のポリエステル繊維は、防黴性及び防黴性の耐久性ともに優れており、b値が小さく色調にも優れていた。また、紡糸操業性よく得ることができた。
一方、比較例8及び比較例10のポリエステル繊維は、防黴剤の含有量が少なすぎたため、防黴性及び防黴性の耐久性ともに劣るものであった。比較例9、11のポリエステル繊維は、防黴剤の含有量が多すぎたため、b値が高く色調に劣るものであり、紡糸操業性にも劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
防黴剤としてトリアゾール系有機化合物を含有するポリエステルが繊維表面の少なくとも一部に配されたポリエステル繊維であって、トリアゾール系化合物の含有量が繊維質量に対して0.1〜3.5質量%であることを特徴とする防黴性を有するポリエステル繊維。
【請求項2】
アルキレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルAと、防黴剤としてトリアゾール系有機化合物を含有するポリエステルBからなり、ポリエステルAを芯部にポリエステルBを鞘部に配した芯鞘型複合繊維であって、ポリエステルBの融点はポリエステルAの融点より30℃以上低く、トリアゾール系有機化合物の含有量が繊維質量に対して0.1〜3.5質量%であることを特徴とする防黴性を有するポリエステル繊維。
【請求項3】
防黴剤として用いるトリアゾール系有機化合物が、トリアゾール系有機化合物を層間に担持させた層状珪酸塩である請求項1又は2記載の防黴性を有するポリエステル繊維。


【公開番号】特開2010−138534(P2010−138534A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53547(P2009−53547)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】