説明

降塵装置

【課題】被検物の両面に対して、実使用時に近似した塵の自然付着、自然剥離を実現することができる降塵装置を提供すること。
【解決手段】降塵装置は、内部を密閉状態にすることが可能なハウジングと、密閉状態にあるハウジング内部に、一定量の塵を散布する降塵部と、ハウジング内部に配設され、少なくとも一つの被検物を保持する保持部と、を有し、保持部は、被検物の各端面が略鉛直方向に沿って延出し、かつ該被検物が帯電しない状態で被検物を保持する構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材等の被検物の防塵性能を評価するために、該光学部材等に対して塵を散布する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光学部材等は、その表面に塵が付着すると結像性能等が劣化し、ひいては該光学部材等が実装される装置が本来の性能を発揮できなくなることが知られている。そこで、近年、フッ素系の防汚膜や帯電防止膜といった薄膜を該表面に蒸着させることにより、光学部材等における塵の付着を低減しようという試みがなされている。
【0003】
上記のような光学部材等に関する、塵の付着具合を定量的に検査するためには、該光学部材等に対して一定量の塵を散布する降塵装置が必要となる。従来の降塵装置は、例えば以下の特許文献1に開示される。
【0004】
【特許文献1】特開2003−168277号公報
【0005】
上記特許文献1に開示される装置は、ディスクカートリッジに収納された光ディスクの防塵性を検査するための降塵装置である。該降塵装置は、塵容器、該容器内の塵を装置内部に充満させるためのファン、該容器やファンの上方に位置する被検物載置用金網を有する。特許文献に示す装置では、被検物が金網上に載置された状態で、塵の散布が行われる。
【0006】
しかし、上記特許文献1に開示される装置は、被検物を金網に伏せて載置した状態、つまり水平状態で塵の散布が行われる構造上、以下の点が指摘される。第一に、塵を付着させることができる被検面は、上方に露出している面だけであり、金網と対向する(接触する)側の載置面に塵を付着させることはできない。第二に、塵を付着可能な片面において、塵は自然な状態で付着(自然付着)するのではなく、正確には該片面に堆積している。
【0007】
また実際には、被検物に一時的に誘引され付着しても自重によって自然に剥離(自然剥離)する塵が存在するが、特許文献1に開示される装置ではこのような自然剥離する塵を無視した構成になっている。そこで、より実使用時に近似した塵の付着状態を実現できるような装置が強く要望されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の諸事情に鑑み、本発明は、被検物の両面に対して、実使用時に近似した塵の自然付着、自然剥離を実現することができる降塵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に係る降塵装置は、内部を密閉状態にすることが可能なハウジングと、密閉状態にあるハウジング内部に、一定量の塵を散布する降塵部と、ハウジング内部に配設され、少なくとも一つの被検物を保持する保持部と、を有し、保持部は、被検物の各端面が略鉛直方向に沿って延出し、かつ該被検物が帯電しない状態で被検物を保持することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の降塵装置によれば、該保持部は導電性ある材料からなり、接地されていることが望ましい。また、請求項3に記載の降塵装置によれば、保持部は、被検物の一部領域を挟持することにより該被検物を保持しており、該一部領域は、該被検物が装置等に実際に搭載される際の有効径外である(請求項3)。
【0011】
請求項4に記載の降塵装置によれば、降塵部は、被検物の上方から塵を散布するように構成されている。
【0012】
また、請求項5に記載の降塵装置によれば、少なくとも、降塵部における塵吹き出し口から最短経路で被検物に向かう塵が被検物に付着するのを妨げるカバー部を有することができる。このように構成することにより、塵吹き出し口から吹き出された塵が直ちに被検物に付着する現象が低減され、より自然な(実使用状態に近い)付着状態を再現することが可能になる。
【0013】
なお、請求項6に記載の降塵装置によれば、塵吹き出し口が被検物の上方にある場合、カバー部は、少なくとも前記被検物の上方を覆うことが望ましい。
【0014】
また、請求項7に記載の降塵装置によれば、ハウジング内部の底面は粘着性を有していることが望ましい。これにより、一度底面に落ちた塵が再度舞い上がり被検物に付着する現象が有効に防止される。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明にかかる降塵装置によれば、被検物を鉛直方向に沿って配設すると共に、該被検物が帯電しないように構成される。これにより、散布された塵が被検物に自然付着する、あるいは付着した塵が自重により自然剥離するといった現象を実現することができる。つまり、本発明によれば、被検物への塵の付着状態を、実使用状態に極めて近似させることができる。また、上記構成により、一度の塵散布によって、被検物の両面に効率よく塵を付着させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の降塵装置について説明する。図1は、実施形態の降塵装置10の全体を概略的に示す図である。図1では、説明の便宜上、降塵装置10の外周(ハウジング1)を一部透過して示し、内部を可視状態にしている。降塵装置10は、防塵検査に先だって、光学部材等の被検物20を塵が付着可能な状態に曝すための装置である。なお、防塵検査とは、被検物20表面に付着した塵の大小や個数に基づき、製品としての良否判定を行う検査のことをいう。図1に示すように、降塵装置10は、ハウジング1、降塵機構2を有する。
【0017】
本実施形態の降塵機構2は、本体2Aと吹き出し部2Bを有している。本体2Aはハウジング1外部に位置している。本体2Aは、試験用の塵が充填される容器や該容器に充填された塵を排出(散布)するスプレー機構を有する。本体2Aから延出する吹き出し部2Bは、先端部位がハウジング1内部の上方に位置している。
【0018】
本実施形態のハウジング1は、降塵機構2から吹き出される塵がまんべんなく散布されるように円錐台状を呈している。ハウジング1内部には、被検物20を保持するための保持部材3、被検物20近傍を覆うカバー4が設置されている。なお、保持部材3、カバー4はハウジング1に対して着脱自在に構成されている。
【0019】
保持部材3は、導電性の高い材料により構成されており、図示しないが接地されている。従って、保持部材3により保持される被検物20は、帯電することはない。なお、本実施形態では、保持部材3は、被検物20において、被検物20が完成品としての装置に実装された場合に利用される最大領域(有効領域)外の領域を挟み込むことで保持する。つまり、保持部材3による保持が、実使用時における塵の付着状態を実現する妨げになったり、有効領域を傷つけたりするおそれはない。
【0020】
また、保持部材3は、通常使用状態にある降塵装置10において、被検物20における端面が略鉛直方向に沿うように、換言すれば該端面が降塵装置10の底面10Gに対して略直交するように、被検物20を保持する。なお、降塵装置10の通常使用状態とは、降塵装置10が水平な台上に安定して設置された状態をいう。また、被検物20の端面とは、該被検物20が完成品としての装置に実装された場合に利用される面、例えば光学フィルタの場合、光束が入射する側の面と射出される側の面をいう。従って、いわゆるコバ面はここでの端面には含まれない。
【0021】
カバー4は、吹き出し部2Bから散布された塵が直接被検物20に向かってしまい、実使用状態における状態よりも過度に塵が付着する現象を防止するために設けられている。より詳しくは、カバー4は、少なくとも吹き出し部2Bから最短経路を経て被検物20に向かう塵を遮るように配置構成される。本実施形態では、図1に示すように、吹き出し部2Bは被検物の上方に位置している。そのため、カバー4は、天板4aおよび該天板の下部から放射状に延出する複数の脚部4aによって形成されている。そしてカバー4は、天板4aおよび脚部4bによって規定される空間内に被検物20(および保持部材3)が収まるように配置される。つまり、カバー4の天板4aは被検物20(および保持部材3)を上方から覆う状態となる。これにより、吹き出し部2Bから最短経路を経て被検物20に向かう塵は、天板4aによって有効に遮られる。
【0022】
また、ハウジング1は、被検物20等を設置または除去するための開閉扉5を有する。一般に、開閉扉5は、閉じた状態において、ハウジング1内部の密閉性が担保されるように構成されている。
【0023】
さらに、ハウジング1内部の底面10Gは、粘着性を有している。例えば、本実施形態では、底面10Gの略全域に粘着シートが貼付されている。これにより、一旦、底面10Gに落ちた塵は、粘着シートによって底面10Gに付着する。従って、底面Gに落ちた塵が、再び舞い上がり被検物に付着するといった現象を防止することができる。なお、近年光学部材が実装される装置、例えばデジタルカメラ等においては、ハウジング内面にダストリムーバブル機能として作用する粘着シート等が配設されている。上記実施形態のように、底面10Gに粘着シートを貼付することにより、より実使用状態に近似した環境下での塵付着処理が実現される。
【0024】
以上のように構成された降塵装置10を用いて被検物20に塵を付着させる処理について説明する。まず、降塵装置10の開閉扉5から、保持部材3によって保持された被検物20、カバー4が順次ハウジング1内部に設置される。設置が完了すると、開閉扉5は閉められ、ハウジング1は密閉状態になる。また、降塵機構2の本体2A内には、塵としての粒状材が所定量充填される。
【0025】
該粒状材は、実使用状態において、被検物20の端面に付着したことにより、最も性能に影響を与えやすいと想定される比重およびサイズを持つものが選択される。詳しくは、比重やサイズがあまりにも大きい粒は、被検物20端面に当接しても自重によって付着することなく落下してしまうため、検査用の塵としては不適格である。また比重やサイズがあまりにも小さな粒は、実使用上光学的に影響を及ぼさないため検査用塵としては不適格である。そこで、本実施形態では、比重2.6g/cm3、最も多い粒径が40μmである珪砂を検査用塵として採用している。
【0026】
以上の準備が整った状態で、降塵機構2が駆動され、吹き出し部2Bから珪砂が散布される。散布された珪砂は、ハウジング1内で循環しつつ、ハウジング1全体に充満する。
【0027】
なお本実施形態では、珪砂がハウジング1全体に充満した状態における散布濃度が実使用状態に近似するように設定される。具体的には、本実施形態のハウジングは、上底の径Dtが85mm、下底の径Duが120mm、高さHが145mmを想定するため、容積は、1,207,800mm3である。降塵機構2に充填される珪砂の量は、5.5±0.05mgである。つまり、ハウジング1内での散布濃度は、4.5×10-6mg/mm3である。
【0028】
上記の通り、被検物20は、保持部材3によって、端面が略鉛直方向に沿うように保持されている。また、保持部材3自体が接地されているため、被検物20が帯電することはない。従って、該端面では、珪砂の自然付着および自然剥離が繰り返される。つまり、実使用状態に極めて近い状態で、珪砂の付着や剥離がなされる。さらに、端面が略鉛直方向に沿うように保持されているため、一度の塵散布で、両面の付着状態を実現することができる。
【0029】
珪砂がハウジング1全体に充満した状態で所定時間放置した後、被検物20は、開閉扉5から取り出される。取り出された被検物20は、次工程に搬送され、製品としての良否判定が行われる。概説すると、次工程では、被検物20端面が撮像される。そして、撮像結果に基づいて、塵の付着状態が検査され、検査結果に基づいて良否判定が行われる。
【0030】
以上が本発明の実施形態である。なお、本発明に係る降塵装置は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、以下に述べるような変形をしても上記構成と同様の効果を奏することができる。
【0031】
例えば、上記実施形態では、ハウジング1内に設置される被検物20は一枚のみであるが、複数枚設置しても良い。但し、被検物を複数枚設置する場合には、各被検物において互いに対向する各端面間に所定の間隔が設けられるように留意する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態の降塵装置の全体を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ハウジング
2 降塵機構
3 保持部材
4 カバー
10 降塵装置
20 被検物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を密閉状態にすることが可能なハウジングと、
密閉状態にある前記ハウジング内部に、一定量の塵を散布する降塵部と、
前記ハウジング内部に配設され、少なくとも一つの被検物を保持する保持部と、を有し、
前記保持部は、前記被検物の各端面が略鉛直方向に沿って延出し、かつ該被検物が帯電しない状態で前記被検物を保持することを特徴とする降塵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の降塵装置において、
前記保持部は、導電性ある材料からなり、接地されていることを特徴とする降塵装置。
【請求項3】
請求項2に記載の降塵装置において、
前記保持部は、前記被検物の一部領域を挟持することにより該被検物を保持し、
前記一部領域は、前記被検物の有効領域外であることを特徴とする降塵装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の降塵装置において、
前記降塵部は、前記被検物の上方から前記塵を散布するように構成されていることを特徴とする降塵装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の降塵装置において、
少なくとも、前記降塵部における塵吹き出し口から最短経路で前記被検物に向かう前記塵が前記被検物に付着するのを妨げるカバー部を有することを特徴とする降塵装置。
【請求項6】
請求項5に記載の降塵装置において、
前記カバー部は、少なくとも前記被検物の上方を覆うことを特徴とする降塵装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の降塵装置において、
前記ハウジング内部の底面は粘着性を有していることを特徴とする降塵装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−145214(P2008−145214A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331462(P2006−331462)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】