説明

限外濾過膜および製造方法

【課題】2種類以上のポリマー溶液から形成され、少なくとも1つの層が限外濾過膜である、一体型多層平坦シート膜を提供すること。
【解決手段】本発明は、複数のポリマー溶液を支持体上に共流延または逐次流延して、多層液体シートを形成することと、前記シートを液体凝固浴中に浸漬して相分離させて少なくとも1つの限外濾過層を有する多層複合膜を形成することとによって形成された、少なくとも1つの限外濾過層を有する一体型多層複合膜に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2種類のポリマー溶液から形成される少なくとも1つの限外濾過層を有する多層複合膜、およびこのような膜の新規製造方法を提供する。この膜は、全量限外濾過への使用に特に適している。
【背景技術】
【0002】
限外濾過膜および微孔質膜は、圧力駆動式濾過方法に使用されている。膜による分離方法の分野の当業者であれば、微孔質膜と限外濾過膜とを容易に区別でき、一般に、それらの用途およびそれらの構造の側面に基づいて区別される。微孔質膜および限外濾過膜は、独立した異なる製品として製造され、販売され、使用されている。用語において一部重複しているが、商業界においては、これらは別々の存在であり、このように扱われている。
【0003】
限外濾過膜は、主として、タンパク質、DNA、デンプン、および天然または合成ポリマーなどの可溶性高分子の濃縮またはダイアフィルトレーションに使用される。大部分の用途では、限外濾過が接線流濾過(TFF)方式で実施され、この場合、供給液体が膜表面を透過し、膜の孔径よりも小さな分子は透過し(濾液)、残り(保持液)が膜の第1の側の上に残留する。流体も透過するので、効率的なTFF操作を維持するために保持液流を再循環させるか保持液流に加える必要がある。TFF法を使用する利点の1つは、膜の面全体を流体が常に流れるので、膜表面およびその付近で付着物と溶質の分極とが減少する傾向にあり、これによって膜の寿命が延長されることである。
【0004】
微孔質膜は、主として、全量濾過方式において液体または気体の流れから固体、細菌、およびゲルなどの粒子を除去するために使用される。全量濾過とは、流体の流れ全体がフィルタを通過して濾過され、再循環流および保持液流が存在しない濾過を意味する。フィルタを通過しないあらゆる材料は、フィルタ上面上に残留する。
【0005】
一般に限外濾過膜は、スキンを有する非対称の膜であり、通常これは支持体上に形成され、膜構造の永続部分として残留する。支持体は、不織布または織布あるいは予備成形された膜であってよい。
【0006】
微孔質膜は、支持された形態、または支持されていない形態で製造される。通常、支持体は、支持体中に形成された膜または膜の一部を有し、限外濾過膜のように支持体上に有するのではない。
【0007】
早期のセルロース系、ナイロン、およびポリフッ化ビニリデンの微孔質膜は、対称であり、大部分はスキンが形成されていなかった。現在では、ある程度非対称の微孔質膜が製造されており、これらの一部にはスキンが形成されている。
【0008】
これら2種類の膜は孔径によって区別できるように思われるが、後述するようにこの場合はそうではない。理由は、これらが異なる用途で使用され、異なる特性決定方法が必要であるからである。通常使用される方法では絶対孔径測定が行われず、複数の異なる方法では直接比較することが不可能である。
【0009】
微孔質膜と限外濾過膜とは類似しているにもかかわらず、それらの開発の歴史は非常に異なっている。したがって、これらの間の許容される区別が2つ以上存在することも驚くべきことではない。
【0010】
微孔質膜は、1929年にサートリアス・ウェルケ(Sartorius Werke)(ドイツ)によるジグモンディ(Zsigmondy)の研究から工業的に開発された。これらは現在「エアキャスト(air cast)」膜と呼ばれるものであり、湿った雰囲気中でポリマー溶液の薄層を蒸発させることによって形成された。これらの膜は以前も現在も対称型であり、一般にはスキンがない。細菌の除去または保持に使用されていたため、これらは保持する細菌の大きさによって評価が行われた。この方法では、μmの単位で孔径の評価が行われた。
【0011】
微孔質膜の評価に使用される一般的な方法はバブルポイント試験である。この方法は、微孔質膜をホルダー内に取り付け、試験液体に浸する。膜の一方の側からガス圧力を加え、一定速度で圧力を増加させる。下流側からの気泡の最初の流れが現れたときを、最大孔隙の尺度とする。より高い圧力において、大部分の孔隙から液体が押し出されると、このフォームオールオーバーポイント(foam all over point)(FAOP)に到達する。これらはASTM F316−70およびANS/ASTM F316−70(1976年に再承認)に記載されている。
【0012】
限外濾過膜は、ロブ(Leob)およびスリラーヤン(Sourirajan)の逆浸透膜開発研究の副産物である。アラン・マイケルズ(Alan Michaels)は、最初の基本的なUF膜および装置が最初に市場に現れたのが1965年であると確定した。UF膜は浸漬流延方法によって製造され、およびスキンが形成され非対称である。最初の工業用途は、タンパク質の濃縮に関し、膜は、保持されるタンパク質の分子量、すなわち、膜の分子量カットオフ評価(MWCO)によって評価された。
【0013】
タンパク質を使用する試験に基づく膜の評価は現在も行われているが、一般的な方法では多糖(デキストラン)またはポリエチレングリコールなどの狭い分子量分布を有する非タンパク質高分子が使用される。たとえば、非特許文献1を参照されたい。
【0014】
1960年代および1970年代に膜の用途が開発されるにつれて、UF膜の孔径が大きくなり、MFの孔径が小さくなった。このようなことが生じたため、当業者はこれら2種類の膜を区別し始めたのであり、最も初期の文献には限外濾過としか記載されていなかったことは歴史的観点から興味深い。ケスティング(Kesting)の非特許文献2、およびロンズデール(Lonsdale)の非特許文献3の両方が、1936年におけるフェリー(Ferry)の主要総説に限外濾過が限外濾過膜および精密濾過膜の両方を意味すると記載されていることに言及している。ケスティングは、「限外濾過という用語は年がたつにつれて意味が変化している」と述べている。実際、1982年におけるの総説においてさえも、パッシュ(Pusch)は、非特許文献4において、0.005μから1μをふるい分けする膜を意味するものとして限外濾過を使用している。ケスティングは、表2.9(45ページ)で、UFが10から1000Å、0.01から0.1μmであり、MFが1000から100,000Å、0.1から10μmであるとしている。
【0015】
ドール−オリバー(Dorr−Oliver)の1969年の図表によると、微孔質が0.03μから10μを超えるまでの範囲で、UFが0.002μから10μの範囲となっている。最近のあるハンドブックの章、非特許文献5では、このことが「MF、UF、およびROの間での文献における混乱を反映している」と主張している。1975年、ポーターは、非特許文献6において、UFは0.001から0.02μmの範囲に及び、MFは0.02から10μmの範囲に及ぶと提案した。ロンズデールは参考2でこのことに言及しており、ポーターは参考4でもこの定義を使用している。
【0016】
チェリヤン(Cheryan)の非特許文献7には、UFおよびMF(引用されていない)に関するポーターの範囲と、ドール−オリバーの図表を参照したと思われる図表との両方が記載されている。非特許文献8において、デービスはMFとして0.02から10μmを与えており、クルカミらはUFを10から1000Å、0.001から0.1μmと記載している。孔径範囲の別の例は、非特許文献9によるものであり、これによると、UFは0.01から0.1μmであり、MFは0.1から10μmである。ゼーマン(Zeman)の非特許文献10には、UFが0.001から0.1μmの範囲であり、MFが約0.02から10μmの範囲である図表が記載されている。
【0017】
本発明に関して、本発明者らは、非特許文献11の定義に基づいて微孔質膜と比較して限外濾過膜を定義する。
【0018】
「72.精密濾過:0.1μmを超える粒子および溶解した高分子が排除される圧力駆動膜系分離方法」。
【0019】
「75.限外濾過:0.1μmより小さく約2nmよりも大きい粒子および溶解した高分子が排除される圧力駆動膜系分離方法」。
【0020】
限外濾過膜の定義は、この機能、およびこの機構に基づいている。限外濾過膜は、溶液中の大きさが約0.1μm未満の可溶性高分子の濃縮およびダイアフィルトレーションが可能であり、通常4時間を超え最長24時間の長時間で接線流方式で連続動作可能である。微孔質膜は、0.1μmを超える粒子の除去が可能であり、全量濾過用途に使用することができる。一般に微孔質膜では、可溶性高分子が膜を透過することができる。
【0021】
浸漬流延による限外濾過膜製造方法は公知である。簡潔な議論が、非特許文献12で行われている。一般にこれらの製造は:a)特殊で十分に制御された調合のポリマー溶液を調製するステップと、b)このポリマー溶液を薄いフィルムの形態で基材上に流延するステップと、c)得られたポリマー溶液のフィルムを非溶媒中で凝固させるステップと、d)場合によりこの限外濾過膜を乾燥させるステップとからなると説明されている。
【0022】
限外濾過膜の一般的な形態は、膜の孔径が膜の厚さ内の位置の関数として変化する非対称膜である。最も一般的な非対称膜は、孔径が一方の表面から他方に向けて増加する勾配構造を有する。薄い表面領域すなわちスキンに保持能力が集中しているため、非対称膜は損傷が起こりやすい。膜スキンは、表面孔隙が貫通している薄い密集した表面である。しかし、流れを予備的に濾過し膜の詰まりを軽減する機能を果たす、より大きな孔隙の表面に濾過される供給流を接触させると生産性が増加することが分かった。
【0023】
限外濾過膜、特に非対称膜の製造分野の当業者は、大きな(膜孔径に対して)中空多孔質構造を含む膜が、中空構造を含まないように製造した膜と比較して性質が劣ることを知っている。これらの中空構造は、「マクロボイド」と呼ばれることがあるが、当技術分野で他の用語も使用される。捕捉効率が非常に高い膜を得ようと努力する当業者は、このような中空構造を含まない膜の製造を好んでいる。
【0024】
おそらく、単層構造の最も直接的な変形が、結合していない多層の積層体である。積層体は同じまたは異なる膜の複数の層から製造することができるが、これらは欠点を有する。各層は独立した製造方法で製造する必要があるため、コストが増加し、製造効率が低下する。20μm未満などの非常に薄い膜は、容易に変形し、しわが生じるため製造および取り扱いが困難である。これに加えて、薄い層を有する最終製品の製造が非効率的である。結合していない積層体は、プリーツフィルタなどの最終的な濾過装置を製造する間にも分解することがあり、これは流れおよび濃度が不均一となる原因となる。多層多孔質膜構造を形成する他の方法も公知である。特許文献1には、あらかじめ形成された微孔質膜の上に薄い限外濾過膜を流延することによって製造される複合限外濾過膜が記載されている。特許文献2には、微孔質基材に第2の微孔質層をコーティングすることによって、2層複合微孔質膜を形成する方法が記載されている。これらのプロセスは、あらかじめ形成された膜の上に別の膜を形成する2つの独立した膜形成ステップを必要とし、さらに、あらかじめ形成された基材の孔隙内に流延溶液が過度に浸透するのを防止するため、プロセスで使用することができるポリマー溶液の粘度が制限される。
【0025】
特許文献3には、ポリマー材料の支持体上の第1の層を基材上に注ぎ、続いて、それぞれの連続する中間先行層中に濁りが生じる前に、第1の層の上にポリマー材料溶液の1つ以上のさらなる層を注ぐことによって製造され、ポリマー材料溶液の各中間先行層の粘度は先行層の粘度以下となる、微孔質膜の製造方法が記載されている。微孔質膜に関する特許文献4は、複数のポリマー溶液を支持体上に同時に共流延して多層液体シートを形成するステップと、このシートを液体凝固浴中に浸漬して相分離させて多孔質膜を形成するステップとによる一体型多層多孔質膜の製造方法を提供している。特許文献5には、連続的に移動するコーティング面に対して、少なくとも2つのポリマードープ供給スロットを有する少なくとも1つのドープ適用装置を動作可能なように配置するステップと;各ドープ供給スロットからポリマードープを、連続的に移動するコーティング面上に適用して、複数の層のポリマードープコーティングをコーティング面上に形成するステップと;複数のドープゾーン層を転相発生環境と接触させて、未乾燥のマルチゾーン転相微孔質膜を形成するステップと;続いて膜の洗浄および乾燥を行うステップとで構成される少なくとも2つのゾーンを有する連続で支持されていないマルチゾーン転相微孔質膜を形成する方法が開示されている。これらの構造において、各層またはゾーンは微孔質膜である。特許文献6には、熱可塑性樹脂を含有する多層微孔質膜であって、開放孔隙比が高い粗い構造層と、開放孔隙比が低い微細構造層とを含み、前記粗い構造層が、5.0μ以上の厚さを有する1つの膜表面中に少なくとも存在し、前記微細構造層の厚さが全体の膜厚さの50%以上であり、前記粗い構造層と前記微細構造層とが一体となるよう形成される多層微孔質膜が記載されている。微細構造はスキンを有さない。この構造は1種類の溶液から形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第4,824,568号明細書
【特許文献2】米国特許第5,228,994号明細書
【特許文献3】米国特許第5,620,790号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第20030217965号明細書
【特許文献5】米国特許第6,706,184号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第20040023017号明細書
【特許文献7】米国特許出願第10/145,939号明細書
【特許文献8】米国特許第5,444,097号明細書
【特許文献9】米国特許第5,736,044号明細書
【特許文献10】国際公開第01/89673号
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】限外濾過膜および装置の排除プロファイル試験(A rejection profile test for ultrafiltration membranes and devices),BIOTECHNOLOGY 9(1991)941−943
【非特許文献2】合成ポリマー膜、構造的観点(Synthetic Polymer Membranes A Structural Perspective),ロバート(Robert)E.ケスティング(Kesting),ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)1985
【非特許文献3】「膜技術の発展」(The Growth of Membrane Technology),K.ロンズデール(Lonsdale),J.Membrane Sci.10(1982)81
【非特許文献4】合成膜−製造、構造、および応用(Synthetic Membranes−Preparation,Structure,and Application),W.パッシュ(Pusch)およびA.ワルシュ(Walch) Angew.Chem.Int.Ed.Engl.21(1982)660
【非特許文献5】化学エンジニアのための分離技術ハンドブック第3版セクション2.1膜濾過(Handbook of Separation techniques for Chemical Engineers−Third Edition,Section 2.1 Membrane Filtration),M.C.ポーター(Porter)、マグローヒル(McGraw−Hill)1996
【非特許文献6】正しい膜の選択(Selecting the Right Membrane),M.C.ポーター(Porter),Chem Eng、Sci.71(1975)55
【非特許文献7】限外濾過ハンドブック(Ultrafiltration Handbook),M.チェリヤン(Cheryan),テクノミック・パブリッシング・カンパニー(Technomic Publishing Co),26章−導入および定義(限外濾過)(Chapter 26−Introduction and Definitions (Ultrafiltration)S.S.クルカミ(Kulkami)ら31章定義(精密濾過)(Chapter 31− Definitions(Microfiltration))R.H.デービス(Davis)1986
【非特許文献8】膜ハンドブック(Membrane Handbook),デービス(Davis),ファンノストランド・アンド・ラインホルド・デート(Van Nostrand and Reinhold DATE)
【非特許文献9】高分子工業科学百科事典(Encyclopedia of Polymer Science and Engineering),第9巻(Volume 9)512ページ、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons)1987
【非特許文献10】精密濾過および限外濾過(Microfiltration and Ultrafiltration),L.ゼーマン(Zeman)およびA.ジドニー(Zydney),マーセル・デッカー・インコーポレイテッド(Marcel Dekker,Inc)1996,p13
【非特許文献11】Pure Appl.Chem.1996,68,1479に発表された国際純正応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry)(IUPAC),「膜および膜プロセスの用語」(Terminology for membranes and membrane processes)
【非特許文献12】精密濾過および限外濾過:原理および応用(Microfiltration and Ultrafiltration:Principles and Applications)マーセル・デッカー(Marcel Dekker)(1996);L.J.ゼーマン(Zeman)およびA.J.ジドニー(Zydney)編著
【発明の概要】
【0028】
(発明の要旨)
本発明は、2種類以上のポリマー溶液から形成され、少なくとも1つの層が限外濾過膜である、一体型多層平坦シート膜を含む。この膜の製造方法も本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】共流延コーティングヘッドを示す。
【図2a】2層膜の層の位置を示す。
【図2b】2層膜の層の位置を示す。
【図3】蛍光ビーズの濾過結果を示す。
【図4a】実施例1および2の膜の走査型電子顕微鏡写真画像を示す。
【図4b】実施例1および2の膜の走査型電子顕微鏡写真画像を示す。
【図4c】実施例1および2の膜の走査型電子顕微鏡写真画像を示す。
【図4d】実施例1および2の膜の走査型電子顕微鏡写真画像を示す。
【図5】実施例3の膜の走査型電子顕微鏡写真画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
一実施態様では、本発明は、微孔質膜層と結合している、スキンを有する非対称限外濾過膜層を含み、この結合部は、結合部の近傍における微孔質層の孔径から、結合部の近傍の限外濾過層の孔径まで変化する孔径の勾配を有する。
【0031】
一実施態様では、本発明は、限外濾過層の緻密孔隙側と結合している微孔質膜層を含み、この結合部は、結合部の近傍における微孔質層の孔径から、結合部の近傍の限外濾過層の孔径まで変化する孔径の勾配を有する。
【0032】
一実施態様では、本発明は、第2の非対称限外濾過膜層と結合している、スキンを有する非対称限外濾過膜層を含み、この第2の限外濾過膜は平均捕捉孔隙が、スキンを有する非対称の第1の層よりも大きく、この結合部は、結合部の近傍における第2の限外濾過層の孔径から、結合部の近傍の第1の限外濾過層の孔径まで変化する孔径の勾配を有する。
【0033】
一実施態様では、本発明は、
少なくとも2つの供給出口を有するポリマー溶液適用装置を、移動キャリア面に対して動作可能なように配置するステップ、
各供給出口に異なるポリマー溶液を供給するステップ、
前記溶液を前記移動キャリア面上に適用して、多重層コーティングを前記キャリア上に形成するステップ、および
前記多重液体層を相分離させて未乾燥の多層限外濾過膜を形成するステップとを含み、
前記多重層は適用される連続した層の間で実質的に時間間隔なしで供給される、一体型多層複合限外濾過膜の形成方法を含む。
【0034】
本発明では、バイオテクノロジーから誘導される医薬の製造過程で製造される、製造タンパク質含有溶液からウイルス粒子を除去するための方法における本発明の膜の使用もさらに実現され、この膜は、それぞれ、ウイルス粒子の通過を実質的に防止することができ、タンパク質の通過を実質的に可能とする。
【0035】
(発明の詳細な説明)
本発明は、複数のポリマー溶液の支持体上に共流延して多層液体シートを形成するステップと、このシートを液体凝固浴中に浸漬して相分離させて多孔質限外濾過膜を形成するステップとによって製造される、少なくとも1つの限外濾過層を有する一体型の多層の複合膜である。形成後、この多孔質膜を洗浄して、溶媒および他の可溶性材料を除去する。続いてさらに抽出して不安定材料を減少させ、続いて場合により乾燥させることができる。
【0036】
本発明を実施できるようにするため、本発明者ら、大きく異なる膜形成溶液から一体型多層構造を形成する基本的な問題を克服する必要があった。本発明者らは、異なる膜層の構造および形成の違いに関する実際的な問題に直面した。従来技術で、多層微孔質膜の製造方法が開示されているが、この技術では、膜形成溶液および膜形成の機構、ならびに各層の膜構造が非常に類似している。
【0037】
本発明においては、限外濾過(UF)層と微孔質(MF)層との間の孔径の差は、大きさの程度によって区別することができる。また、UF層およびMF膜の形成速度は異なり、凝固浴中ではUFの形成が顕著に速い。本発明の膜の製造に関して生じうる潜在的および実際の問題としては以下のものが挙げられる。
【0038】
コーティングされる最後の溶液がUF形成溶液である場合、十分な膜を形成するのに十分な速度で微孔質形成層に凝固液が浸透するには、膜の形成が速すぎ高密度すぎる場合がある。凝固剤の最上層への拡散が遅すぎる場合、下にある微孔質層の形成が妨害され、孔径を制御できなくなる。さらに、コーティングされたシートが凝固浴から出る前に、下にある層が固化できないことも起こりうる。
【0039】
MF形成溶液がUF形成層の上にコーティングされる場合、微孔質層の形成は、UF層の形成の影響を大きく受ける。これによってスキン面の形成が妨害され、UF層が独立して流延される場合に得られる孔径とは異なる孔径になる。
【0040】
2種類の膜の粘度範囲の間の不一致によって、他の問題も発生しうる。通常、UF膜形成溶液は、MF膜よりもはるかに高い粘度である。粘度が異なる多層のコーティングは、多孔質膜の製造の問題を悪化させるだけである。
【0041】
本発明者らは、主要な変量がある限定された範囲内で、実際的な性質を有する一体型の多層共流延複合限外濾過膜を製造できることを発見した。
【0042】
簡単にするため、多層共流延複合限外濾過膜の製造方法を、2膜の例で説明する。しかし、3つ以上の層も同じ方法で製造することができる。好ましい方法は、2つのポリマー溶液を調製するステップを含み、各層で1つの溶液が使用される。浸漬流延によって多孔質膜を形成するための溶液は、通常、ポリマーと、溶媒と、膜の最終孔径および孔隙の性質(すなわち、%多孔度、孔径分布など)を調節および制御するための添加剤とからなる。親水性、伸び、弾性率などの物理的性質を調節するために、他の添加剤が使用されることもある。
【0043】
好ましいポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ナイロン(ナイロン66など)、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリールスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート、セルロース、再生セルロース、セルロースエステル(酢酸セルロースまたは硝酸セルロースなど)、ポリスチレン、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、アクリルまたはメタクリルポリマーのコポリマー、またはこれらのあらゆる混合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
使用される溶媒としては、たとえば、ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラメチル尿素、アセトン、ジメチルスルホキシド、およびリン酸トリエチルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
多数のポロゲンの例が当技術分野で使用されており、ホルムアルデヒド、種々のアルコールおよび多ヒドロキシ基化合物、水、種々のポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ならびに塩化カルシウムおよび塩化リチウムなどの種々の塩などの化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
その他の添加剤の例としては、濡れ性を改善するための界面活性剤、および最終膜の機械的性質を変化させるために使用される主要膜ポリマーと相溶性であるポリマーが挙げられる。
【0047】
これらの溶液を調製した後、移動キャリアに適用される。最終的な膜に取り付けられるウェブを有さない、支持されていない膜の場合、このキャリアは通常は、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチックフィルム、またはポリエチレンがコーティングされた紙、または形成された膜を容易に除去できる類似の平滑な連続ウェブである。
【0048】
適用は、あらゆる標準的な方法によって実施することができる。この目的は、第1の溶液をキャリア上にコーティングし、第2の溶液を第1の溶液の上にコーティングすることである。非常に好ましい方法は、各コーティングの間で実質的に時間をかけずに2つの層がコーティングされる共流延である。これは、ロール装置上の二重ナイフ、加圧二重スロットコーティングヘッド、または当産業で公知である前または後計量コーティング装置を使用して行うことができる。共流延とは、ある流延層と次の流延層との間で実質的に時間間隔なしで互いに同時に個々の層が流延されることを意味する。この方法は、特許文献4に詳細に記載されている。層の結合部において制御された孔径の領域を形成できるので、共流延は本発明の重要な側面である。従来技術では、非常に明確な境界線が連続する流延層の間に形成される。より開放された構造からより緻密な構造に遷移する孔径の変化が大きいと、界面において捕捉される溶質の蓄積が望ましくないほど速くなり、その結果流速が顕著に減少することがある。おそらくは、隣接する共流延ラッカーが部分的に混合されるため、または2つの隣接する共流延ラッカーの間の界面の高剪断力のため、共流延法を使用すると、鋭い界面に代って、2つの隣接する層の間の孔径の変化がより小さくなりうる。このような界面帯域は、多層膜の全体の構造の維持挙動に有益であり、したがって一部の用途においては好ましい。しかし、共流延技術を使用する場合でも、希望するなら、材料および適用方法の適切な選択によって、層の間に鋭い、すなわち非常に明確な境界線を形成することもできる。
【0049】
本発明の膜は、好ましくは前計量コーティング法を使用して製造される。前計量コーティングは、堆積されるコーティング溶液が正確な量でコーティングヘッドに供給されるコーティングである。層の高さは層の計量後に構造の厚さが設定されるドクターブレードなど一部の後適用手段(一般に「後計量法」と呼ばれる)により設定されるのではなく、この堆積によって設定される。前計量という用語は、構造を形成する方法の中でダイコーティング、スライドコーティング、およびカーテンコーティングに使用される。本発明では、好ましくは二重ナイフボックス(double knife box)または二重スロットダイが使用される。希望するなら、後計量適用も使用することができる。
【0050】
図1は、多層膜を流延するための多重層形成装置10を示している。図に示されるように、この装置は、2層液体膜を形成するように設計されており、それぞれ流延される各層に対応する溶液14および16を含む2つのチャンバ50および60を有する。希望するなら、追加の共流延層を形成するために、追加のチャンバを加えることができる。この装置は、前壁20および後壁40を含み、前壁および後壁の間に分割壁30を有する。分割壁によって2つのチャンバの容積が画定される。示されていないが、2つの側壁によってこの装置が完成する。操作時は、この装置が典型的な膜流延装置上に固定され、静止した装置の下を支持ウェブ18が移動または通過し、2つの溶液が間隙または出口80および90を通って供給される。2つの層の厚さは、間隙設定80および90によって示される移動するウェブと出口との間の距離(間隙)設定によって制御される。最終的な液体層の厚さは、間隙距離、溶液粘度、およびウェブ速度の関数となる。通常、装置の後壁は、支持体のしわまたは傷を防止するために支持体上で短い距離に維持される。後壁間隙、支持体速度、および溶液粘度は、後壁間隙を通って溶液が漏れるのを防止するために、実際には調整される。溶液の性質のため、または最終的な膜の性質をさらに制御するために必要であれば、この装置は、各チャンバに独立に、または装置全体に、加熱または冷却手段を取り付けられ得る。
【0051】
スロットダイは、小さな断面の出口スロットを有する、閉じられたリザーバーからなる。押出機もしくは容積式ポンプ、または場合により加圧容器によって、コーティング剤がリザーバー中に一定速度で供給され、ダイに入るすべての流体は、圧力によってスロットを通ってリザーバーから押し出され、移動するキャリアウェブに移動する。スロットは、移動するキャリアウェブに対して垂直に配置される。多重層コーティングには、個々のリザーバーを有するダイ、関連する供給方法、および各層の出口スロットが必要となる。
【0052】
移動するウェブ上に層がコーティングされた後、ポリマーに対しては非溶媒であり、溶媒およびポロゲンとは混和性である液体中に、液体シートを有するキャリアを浸漬する。これによって相分離が起こり、多孔質膜が形成される。
【0053】
形成された複合膜を次に、通常はキャリアから分離し、洗浄して残留溶媒およびその他の材料を除去する。次に、膜を乾燥させることができる。通常、限外濾過膜は、グリセリンなどの湿潤剤を使用して乾燥され、最初に、洗浄した膜を5重量%から25重量%の濃度のグリセリン水溶液中に浸漬して、過剰の液体を除去した後で、乾燥ステップに送られる。乾燥は、大部分の水が除去され、孔隙の破壊を防止するのに十分なグリセリンが残留するような方法で行われる。
【0054】
多層液体シートの凝固において、凝固は、最初に凝固浴と接触する液体膜表面から起こり、続いて多層液体シートの引き続く層でも起こる。凝固剤が層に拡散すると、各層によって凝固剤が希釈されて変化する。このような凝固剤の性質の変化は、各層および最終多層膜の膜形成に影響する。各層の多の層に対する層厚さ、組成、および位置は、膜の構造および性質に影響を与える。1種類の層溶液から形成される場合、または1種類の層の積層体から形成される場合とは異なるように、各層が形成される。
【0055】
別の実施態様では、各流延の間である時間を開けて、先に流延された層の上に連続的に2つまたはそれ以上の層が逐次流延されるため、早期に流延された層である程度相分離が生じうる。プロセスの他のすべてのステップは、共流延の実施態様で記載したものと同じである。逐次流延のこの実施態様では、共流延方法のみを使用する実施態様と類似したUF含有構造を形成することができる。
【0056】
これらの多層膜を説明しやすくするため、図2aおよび2bを参照する。当業者の一般的な慣習であるが、非対称膜の「最上面」として、最小孔径を有する表面が示されている。本発明者らは基本的にこの慣習を使用する。スキンを有する非対称限外濾過膜層を有し、スキン面と接触する他の層が存在しない多層膜の場合、スキンを有する非対称限外濾過膜層が第1の層、または最上層となり、2、3などと番号が付けられる層が続く。これは図2aに示されている。一貫性をもたせるために、微孔質膜が非対称限外濾過層の上の最上層となる場合、微孔質層が第1の層として示され、限外濾過層が第2の層となり、以下同様となる。これは図2bに示されている。同様に命名法を説明する別の方法は、第1の側が最上層となる、すなわち、既に流延されている多層液体シートのキャリア上にコーティングされた最後の溶液であることを示すことである。
【0057】
本発明の多層膜は、同等に製造された単層膜を積み重ねたものと同じではない。層を一体に結合させるため、ある層から次の層で孔径が遷移する領域が存在する。この構造を説明するため、例として2層膜を有する以下の装置を使用する。単層膜は、第1の側、第2の側およびこれらの間の多孔質構造からなる。同様に、2つの膜の積層体は、第1の側、第2の側およびこれらの間の多孔質構造を有する第1の層、ならびに第1の側、第2の側およびこれらの間の多孔質構造を有する第2の層からなる。本発明の2層膜について、第1の層は、第1の側および第2の等価の側を有する。この等価の第2の側は、この層が単層膜である場合の第2の側であるが、ここでは2つの層が一体となって結合したものの一部である。同様に、第2の層は、等価の第1の側と、第2の側と、これらの間の多孔質構造とを有する。2つの等価の側は、結合することによって結合した厚さを形成し、すなわち2つの層の間に遷移帯域を形成する。
【0058】
非対称限外濾過膜は、上流または高圧側で開放した孔隙面または大きな孔隙面を有する全量濾過に使用される場合がある。このような使用の重要な用途は、バイオテクノロジーによる治療薬の製造におけるプロセス溶液からのウイルス粒子の除去である。このことは、特許文献7に記載されている。
【0059】
全量濾過の利点は簡単であることである。加圧供給流を膜の一方の側と接触させて、流体を通過させながら、除去すべき材料は膜によって捕捉される。相対的に、接線流濾過(TFF)では、加圧供給流は膜表面に対して接線方向に向かい、供給流の一部は膜を通過し、残りの保持液は、通常は補給供給材料が加えられて再循環されるか、供給タンクに戻される。TFFでは、追加のポンプ装置が必要であり、流れの適切な比率および圧力を維持するためにコントローラがさらに必要となる。しかし、限外濾過膜を使用する全量濾過は、膜が透過特性を失うのが早くて使用できなくなる傾向にあるため、一般には使用されない。
【0060】
本発明者らは、本発明の多層限外濾過膜が、従来技術の限外濾過膜に対して非常に改善された性質を有することを発見した。この改善の明確な理由は、膜の構造にあるが、以下の議論によって本発明の範囲が限定されるべきではない。本発明者らは、結合領域における孔径の遷移が、改善された性質の重要な役割を果たしていることを知った。
【0061】
これは図3に示されており、本発明の膜の一例の、微孔質層と結合したスキンを有する非対称限外濾過膜を、あらかじめ形成された微孔質膜上に限外濾過層を流延することで製造された2層ポリフッ化ビニリデン(PVDF)限外濾過膜(マサチューセッツ州ビルリカのミリポア・コーポレーション(Millipore Corporation of Billerica、Massachusetts)より入手可能なバイアソルブ(Viresolve)(登録商標)膜)と比較している。
【0062】
図3は、全量方式で開放孔隙側から蛍光ポリスチレンビーズを濾過するために使用した後の膜の断面図を示している。31nm、60nm、および170nmのビーズ径で3回の試験を実施した。
【0063】
本発明の膜を使用して31nmの粒子で試験する場合、濾過した粒子は限外濾過層の厚さ全体に分散する。しかし、2層PVDFの場合、膜の小さな孔隙の表面のすぐ下に粒子が集中する。この表面は流動する孔径が限定されるので、集中した粒子層はこれらの孔隙を詰まらせやすく、透過に対して悪影響が生じる。
【0064】
60nmの粒子による試験の場合、粒子は限外濾過層を離れ、結合領域に拡散して分布する。2層PVDFの場合、粒子は、PVDF膜の微孔質基材と限外濾過層との結合部またはその付近で集中した層を形成する。
【0065】
170nmの粒子の試験でも同様の結果が見られる。本発明の膜は、スキンから離れた拡散層中に粒子を捕捉する。2層PVDFはこの場合も、2層の結合部で集中した層中に粒子を捕捉する。
【0066】
これらのすべての場合で、本発明の膜は、拡散した形態で粒子を捕捉し、これによって、孔隙の詰まりの影響が分散し、濾過流が増加し、寿命が延長される。
【0067】
本発明の一実施態様では、新規方法において特許文献8の教示を使用する。特許文献8は、微孔質膜を形成するために、下の臨界溶液温度(LCST)を示すポリマー溶液の使用を教示している。LCSTよりも高温までLCST溶液を加熱すると相分離が起こる。このステップが、多層液体膜が形成された後の本発明のプロセスに含まれることで、得られる膜層の構造をさらなる変化および制御が行われる。本発明の1つ以上の溶液がLCST溶液となる。LCSTよりも高温まで溶液を上昇させる温度、および溶液をLCSTよりも高温に維持する時間によって、膜層の最終孔径が制御できることが分かった。さらに、液体層中に温度勾配が存在すると、対応する孔径勾配が生じる。
【0068】
本発明では、LCST溶液の使用が、種々の構造を得るために利用される。
【0069】
スキンを有する非対称層の第1の層が第2の微孔質層の上にある二重層複合限外濾過膜がLCST溶液を使用して製造される場合、第1の層の好ましい溶液は、約15%から約30%のポリマー固形分のポリマー含有率を有し、より好ましい範囲約20%から約25%のポリマー固形分である。溶液に関連するすべての%値は、溶液の重量%によるものである。微孔質層について、ポリマー溶液は、溶液の重量に対して約10%から約20%のポリマー固形分のポリマー含有率を有し、より好ましい範囲は約15%から約18%のポリマー固形分である。第1の層溶液のLCSTは好ましくは約70℃から約150℃である。第2の層について、LCSTの範囲は好ましくは約40℃から約60℃である。第1の層の厚さは約2μmから約100μm、好ましくは2μmから約50μmであり、より好ましい範囲は約2μmから約25μmである。微孔質の第2の層は厚さが約50μmから約200μmの範囲であり、好ましい厚さは約80μmから約150μmであり、より好ましい範囲は約100μmから約125μmである。共流延複合膜の全体の厚さは約52μmから約300μmの範囲が好ましく、好ましくは約75μmから約200μmの範囲であり、より好ましい範囲は90μmから約120μmである。LCST溶液がLCSTより高温に上昇される温度、およびLCSTより高温に維持される時間によって孔径が決定される場合、当業者であれば、日常的な試行錯誤によって、特定のプロセス設備を操作するための最適条件を決定できる。溶液の加熱は、数種類の方法によって実施することができる。ポリマー溶液層がコーティングされた支持体は、平板、ブロック、または棒などの加熱された表面上で運搬することができる。好ましい方法は回転加熱ドラムの使用である。赤外加熱またはマイクロ波エネルギーなどの非接触方法によって加熱を実施することもできる。コーティングされたウェブの温度上昇に加熱ドラムが使用される場合、キャリアウェブの厚さおよび断熱特性、ならびにポリマー溶液厚さが、所望の孔径を得ることに関係する。続いて、ドラム温度および加工速度を決定し制御して、所望の膜が得られる。加熱面の温度は、前述のように装置および製造プロセス条件によって決定される。
【0070】
微孔質の第1の層および第2の限外濾過層について、第1の層に好ましい溶液は、約10%から約20%のポリマー固形分のポリマー含有率を有し、より好ましい範囲は約12%から約16%のポリマー固形分である。溶液に関連するすべての%値は、溶液の重量%によるものである。第2の限外濾過層について、ポリマー溶液は約15%から約30%のポリマー固形分のポリマー含有率を有し、より好ましい範囲は約20%から約25%のポリマー固形分である。第1の層の溶液のLCSTは好ましくは約40℃から約60℃である。第2の層について、LCSTの範囲は好ましくは約70℃から約120℃である。第1の層は約2μmから約50μmであり、より好ましい範囲は約5μmから約25μmである。限外濾過膜の第2の層は、好ましい厚さが約80μmから約150μmであり、より好ましい範囲は約100μmから約125μmである。全体の厚さは約90μmから約120μmの範囲が好ましい。前述の場合と同様に、当業者であれば、日常的な試行錯誤によって、設備を操作するための最適条件を決定できる。
【0071】
限外濾過形成溶液から2つの層を形成することが望ましい場合、上記パラメータは、個々の層の組成およびプロセスパラメータを得るためのガイドを提供する。
【0072】
一実施態様では、第1の層は、1つの層として流延した場合にスキンを有する非対称限外濾過膜が得られる条件下で、溶液から形成される。第2の層は、1つの層として流延した場合には微孔質膜が得られる。このようにして得られる構造は、微孔質層上のスキンを有する非対称限外濾過膜であり、それらの間に一体となった遷移帯域を有する。好ましい方法では、層が流延される両方の溶液がLCSTを有し、限外濾過層の方が高いLCSTを有する。流延された多層液体シートは、第2の(微孔質)層のLCSTよりも高温であるが第1の(限外濾過)層のLCSTよりは低温であるあらかじめ計画された温度に加熱され、続いて沈殿浴中に浸漬される。これによって、限外濾過層が微孔質層の上に形成され間に遷移帯域が形成されることが分かった。
【0073】
この実施態様の好ましい変形は、限外濾過層がLCSTを有さない、または測定可能なLCSTを有さず、微孔質層溶液がLCSTを有する場合に実施することができ、同じ全体構造が得られる。
【0074】
いずれもLCSTを有さないが、必要な限外濾過層および微孔質層の組み合わせがそれぞれ形成される2つの溶液を使用することも可能である。
【0075】
実施例3に示される一実施態様では、膜は、浸漬前の形成された溶液層の加熱に使用されるドラム温度よりも高いLCSTを有する溶液から形成される最上層の限外濾過膜と、このドラム温度よりも低いLCSTを有する溶液から形成される最低層とから形成される。この例では、試験装置の制限のために測定不可能なために、UF層溶液のLCSTは150℃を超えていると推定される。驚くべきことに、ドラム温度が微孔質層溶液のLCSTとほぼ等しい場合、2つの層の間の勾配が観察されにくくなる。しかし、こうして形成された複合膜は、あらかじめ形成した微孔質膜上に限外濾過層を流延して製造された2層膜(バイアソルブ、ミリポア・コーポレーション)の機能を果たす。限定しようと意図するものではないが、バイアソルブ膜製造方法では、最上層の最低層への相互侵入が生じ、図3に関連して議論した種類の結果になると、現在のところ本発明者らは推測している。しかし、実施例3の膜は、1つのステップで形成されているため、2つの層の界面において同じ種類の「ボトルネック」は存在しない。実際、これは鋭い勾配であるが勾配を有し、本発明の膜として本明細書に記載されるように機能する。
【0076】
一実施態様では、第1の層は微孔質層であり、好ましくは薄く、すなわち厚さが5から30μmの間であり、第2の層は、限外濾過層が得られる条件下で溶液から形成される。非常に好ましい実施態様では、微孔質層および限外濾過層が、LCSTを有する溶液から形成され、限外濾過層溶液のLCSTの方が高温である。微孔質層溶液のLCSTよりも高温であるが、限外濾過層溶液のLCSTよりも低温に加熱されると、微孔質層が相分離する。引き続く浸漬によって、微孔質構造が固定され、限外濾過溶液の相分離が起こって多層膜が形成される。この実施態様の好ましい変形は、限外濾過層がLCSTを有さないが、微孔質層溶液はLCSTを有する場合に実施することができ、同じ全体構造が得られる。いずれもLCSTを有さないが、必要な限外濾過層および微孔質層の組み合わせがそれぞれ形成される2つの溶液を使用することも可能である。
【0077】
一実施態様では、1つの層として流延した場合にスキンを有する非対称限外濾過膜が形成される限外濾過膜形成溶液の2つの層から、多層限外濾過膜が形成される。
【0078】
類似の方法では、上の臨界溶液温度(UCST)(UCSTよりも低温まで冷却した場合に相分離する)を有する溶液を使用して本発明の膜を製造することができ、加熱状態で多層液体膜に成形され、冷却することで相分離が行われる。LCSTおよびUCSTの両方の実施態様において、前述の凝固剤中に浸漬することによってさらに相分離させることができる。
【0079】
遷移帯域または領域の制御は、本発明において重要である。有用な遷移帯域を得るために、本発明者らは、各層、特に第1の層の厚さ、ならびに粘度差が大きくなりすぎないような2つの溶液の相対粘度、および膜の形成、すなわち固化の相対時間を制御することが望ましいことを発見した。上記の変量は、他の実施者にガイドを提供するが、溶液の組合わせおよび使用される特定の設備の各々について、本明細書の記載とは異なることがあり得ることを理解すべきである。
【0080】
本発明は、製造タンパク質含有溶液からウイルスを除去するための高分解能膜による方法を提供し、この方法は特に、迅速に実施される能力(すなわち、流速で測定される)、および効率(すなわち、対数減少値LRVで測定される)によって特徴づけられる。
【0081】
この方法の実施は、製造タンパク質含有溶液を、本発明の複合限外濾過膜を収容する濾過装置に、前記タンパク質が前記複合膜を通過するのに十分な条件下で通過させるステップを含み、これによって前記タンパク質含有溶液を汚染する特に対象となるウイルスは、前記非対称膜の通過が実質的に妨げられ、溶液から実質的に除去される。
【0082】
本明細書において使用される「製造タンパク質含有溶液」は明確に定義された用語である。天然タンパク質含有物を有する溶液(たとえば、天然微生物の含有物を有する水)とは対照的に、ヒトの介入および他の溶液精製プロセスの実施などの結果、「製造」溶液中のタンパク質含有物は量が多くなり、このため前記溶液中の主要溶質が前記タンパク質となる。
【0083】
複合膜に関して、本発明の方法を実施するためにいくつかの基準を満たす必要がある。第1に、それぞれが実質的に親水性である必要がある。第2に、この複合膜は、対象ウイルスの通過を実質的に防止しながら、バイオテクノロジーで製造されたタンパク質は実質的に通過できる必要がある。
【0084】
ウイルス除去方法とは異なるがこれに関連して、本発明は、界面で接する1、2または3つの複合限外濾過膜から形成されたひだ付き管を含む濾過カプセルも提供する。おそらく他の応用も可能であるが、この製品構造は、耐久性、信頼性、コスト、ならびに使用および取り替えの容易さの点において、本発明のウイルス除去方法の実施に非常に効果的であることが分かった。
【0085】
以上の点から、本発明の重要な目的は、高分解能でウイルスを製造タンパク質含有溶液から除去する方法を提供することであり、特に比較的大型のウイルス(たとえば、マウス白血病ウイルス)に対して、または比較的小型のウイルス(たとえば、パルボウイルス)から、6を超える対数減少値で効率的に実施することができる。
【0086】
本発明の別の重要な目的は、前記ウイルス除去方法の実施に有用な濾過カプセルを提供することである。
【0087】
本発明の別の目的は、ウイルスを溶液から除去するための装置を提供することであり、この装置は、濾過材料を収容するのに適したハウジングを含み、濾過する流体を受け入れる入口と濾液を取り出すための出口とをさらなる特徴とし、濾過材料は1、2または3つの空隙のない複合膜を含み、「最も緻密な」側が下流と面するように上流層の方向が決められている。
【0088】
一般に、「緻密側が下流」に向かう方向で膜がひだ付き構造で配列して多重非対称限外濾過膜を組み込むことによって、得られる濾過カプセルは、良好なウイルス捕捉能力を有し、良好な流量も維持することが分かった。これらは、本発明の方法の基礎となる教示のすべてを使用しなければ十分なレベルが得られない場合があるが、このような高度の実現(特にウイルス捕捉に関して)はすべての場合で常に必要となるわけではなく、たとえば、ある非医薬精製用途の場合、ウイルス対数減少値が2を超える必要はない。
【0089】
好ましい構造に関して、本発明の濾過カプセルは、管状ハウジングと、前記ハウジング内に実質的に同軸上に封入されるひだ付き濾過管とを含む。濾過カプセルの管状ハウジングは、中を流れる流体プロセス流を収容し運搬するように構成され、したがって、流体入口および濾液出口が設けられる。流体プロセス流は、ひだ付き濾過管の上流にあり、流体入口を通って濾過カプセル内に導入される。ひだ付き濾過管の下流で、流体プロセス流は、濾液出口を通って濾過カプセルから放出される。
【0090】
管状ハウジングに使用される材料は、意図する用途に大きく依存する。ポリエチレンポリプロピレンなどの射出成形可能な熱可塑性材料が最も有力な候補である。しかし、金属、ガラス、およびセラミックスの使用も考慮される。生物医薬的タンパク質産物のウイルスクリアランスへの使用を検討する場合、選択される材料は、流体(たとえば、溶媒)、および付随する環境要因(たとえば、温度および圧力)に適合すべきであり、低いタンパク質結合特性を有するべきである。この点において好ましい材料はポリプロピレンである。
【0091】
一般に濾過装置は、ほとんどの濾過プロトコルにおいていくつかの構造的および機能的基準を満たす必要がある場合が多いので、ハウジングおよびあらゆる内部構成要素を含めた全体の構造を簡単にすることはできそうにない。1つの連続および一体の構造は可能であるが、ほとんどの場合、管状ハウジングは数個の協働する組立部品を含み、典型的には上部シェルおよび1または2つのエンドキャップを含む管状ハウジングを含む。
【0092】
ひだ付き濾過管は、操作中に流体入口と濾液出口との間を流れる流体プロセス流を分割するように、管状ハウジングの内部に配置される。ひだ付き濾過管は、本発明の非対称膜の少なくとも1つの層で構成される。好ましくは、流体入口を通って前記ハウジング内に導入される流体が、開放側を通ってそれぞれの非対称膜を通過し始めるような方向に、1つ以上の層のすべてが向けられる。
【0093】
濾過管のひだは、波形または放射状配置に構成されることができ、ループ型断面、またはW字型断面などの折り返し断面を有することができる。本明細書で使用される場合、用語「ひだ」または「ひだ付き」は、このようなすべての断面形状を含むことを意図している。占有体積に対して、ひだ付き構造では、流入流体プロセス流に対して、平坦シートを使用して得られるよりも広い表面積が得られる。このことは、流量が最大となることが望ましい場合、特に高分解能ウイルスクリアランスのプロトコルが扱われる場合に、特に好都合である。
【0094】
ひだ付き濾過管は、交換可能なカートリッジ内に充填される。少なくとも理論的には、カートリッジを媒介せずに濾過カプセル内にひだ付き濾過管を取り付ける、交換する、またはその他のことが可能であるが、実際には、煩わしくおよび/または厄介な分解手順を行わずに、および/または濾過カプセル全体を排気する必要なしに、消費したひだ付き濾過管を容易に交換可能にすることによって商業的および環境的利点が得られる。この交換は、エンドキャップを上部シェルから外すことと、消耗したフィルタカートリッジを、摩擦によって係合している濾液出口から抜き取ることと、そこに新しいカートリッジを充填することと、キャップを閉めることとによって実施される。
【0095】
交換可能なカートリッジを一体となって形成する外部および内部支持体を使用することによって、1つまたはそれ以上の管状ひだ付きシートは、濾過カプセル内の相対的に固定された管状構造内に維持される。これらの支持体は剛性材料でできており、ひだ付き濾過管周囲の領域からの流体の内向きの流れを、膜を通して管の中心に向かわせ、続いて最終的に濾過カプセルから排出させるための均一な分散孔が設けられている。
【0096】
交換可能なフィルタカートリッジの構造および機能に関するさらなる詳細は、特許文献9を参照することができる。特に主題の中で、この特許には、シート膜および深さフィルタの両方を含む複合フィルタカートリッジが記載されている。このような複合フィルタの側面は、本明細書で定義される本発明の意図および範囲から逸脱することなく、本発明の濾過カプセルの構造に組み込むことができる。
【0097】
ウイルスをタンパク質溶液から除去するために、対象となるタンパク質および1種類以上のウイルスを含有する溶液について、限外濾過膜の1つまたはそれ以上を使用する濾過ステップが行われ、これはTFF方式またはNFF方式のいずれかで実施することができる。いずれの方式でも、一般に直径が20から100ナノメートル(nm)のウイルスを膜上に捕捉しながら、タンパク質は膜を通過できる条件下で、濾過が実施される。さらに、溶液の濾過が完了すると、膜に水または水性緩衝液溶液をフラッシュして、あらゆる捕捉されたタンパク質を除去する。フラッシングステップを使用することによって、ウイルスを実質的に含有しないタンパク質溶液が高収率で得られる。
【0098】
(実施例)
(曇点)
目視による曇点の温度を使用して、所与の組成のポリマー溶液のおおよその下の臨界溶液温度を求める。これは、加熱によってポリマー溶液が1相から2相に相分離する温度である。
【0099】
この手順は、加熱浴中の透明容器中に入れられた少量のラッカー試料を加熱し、溶液が曇り始める温度を観察することを含む。この手順は、浴中の温度計で示される温度が、ラッカー試料中の温度と同じになるように十分ゆっくりと行う。
【0100】
(自動勾配バブルポイント)
ABP試験器は、限外濾過膜および微孔質膜のバブルポイント測定に使用される自動圧力勾配装置である。ABPバブルポイントは、作業者によって目視で観察される「フォームオールオーバー」圧力である。
【0101】
(Vmax)
Vmaxは、詰まりによってほぼ0の流れまで流量が減少するまでに膜が濾過できる溶液の量の尺度である。Vmaxは、所定の圧力で溶液を濾過し、時間の関数として濾過された体積を記録することによって測定される。時間/体積が体積に対してプロットされる。この傾きの逆数がVmaxである。
【0102】
(ウイルス粒子捕捉試験)
ステンレス鋼ホルダー(マサチューセッツ州ビルリカのミリポア(Millipore,Bilierica,MA)カタログ番号XX44 047 00)中で1枚の47mmのディスクを使用し、30psidの一定圧力で試験を行い、コンピュータのデータ収集パッケージで自動的にデータを収集した。膜は、ミリ−RO(Milli−RO)水で濡らした。すべての試験は、緩衝剤を2から5分間フラッシュして膜を平衡化させて開始し、透過率を測定した。供給圧力に対して開放孔隙側を使用して膜を試験した。すべての候補について、1mg/mLのヒト血漿IgG(バイエル(Bayer)、ロット番号648U035)および10pfu/mLのPhi−X174(プロメガ(Promega)、カタログ番号11041mロット番号7731801)を10mMの酢酸緩衝液(pH5.0)中に含む溶液で試験した。対象となるバクテリオファージPhi X174の粒子について、それらの宿主細菌を使用したプラークアッセイによって評価した。一連の希釈によって濃度を決定した。透過濃度の供給濃度に対する比の対数に負号をつけたものとして、LRVを計算する。
【実施例1】
【0103】
実施例においては、以下のように溶液調製を行った。
【0104】
ポリエーテルスルホン(PES)膜を、ポリマーのポリエーテルスルホン(PES)のラデル(Radel)A200樹脂(ソルベイ(Solvay))溶媒のN−メチルピロリドン(NMP)、および非溶媒のトリエチレングリコール(TEG)からなる溶液から流延した。この溶液は室温では均一であるが、加熱すると相分離する。溶液が相分離し始める温度を曇点温度と呼び、この温度は、溶液の組成の関数であり、水の濃度に対して非常に敏感である。原材料、特にTEG、および最終溶液の大気への曝露を最小限にすることが重要である。ポリマーは、たとえば150℃で3時間あらかじめ乾燥させるべきである。
【0105】
混合は2段階で行う。最初に、ポリマーを、全量のNMPと一部のTEGとの混合物に加える。これを、溶液が透明になるまで、約50℃から80℃の間に加熱しながら混合する。温度を約30℃から約50℃の間まで下げる。次に残りのTEGを加えて最終溶液を形成する。
【0106】
第1のポリマー溶液は、17%のPES(ラデルA200)を29.2%のNMPおよび53.8%のTEG中に溶解して調製した。得られた曇点は50.2℃であった。
【0107】
第2のポリマー溶液は、22%のPES(ラデルA200)を28.1%のNMPおよび49.9%のTEG中に溶解して調製した。さらにNMPを加えて(最終溶液の6.3%)、曇り点を83.6℃に到達させた。
【0108】
これら2つの溶液を、スロットダイコーターを使用して特許文献10に記載のように共流延した。第1の溶液の流延厚さは、最終層厚さが145μmとなるように調整する。第2の溶液の流延厚さは、最終層厚さが15μm、または全体の膜厚さの約10%となるように調整する。
【0109】
55℃の水性浸漬浴に浸漬される前に、第1の溶液が、この曇点より高温の流延ドラム上で迅速に加熱されるように形成条件を選択する。このとき、第2の溶液は、この曇点の温度に到達しない。この結果、第1のポリマー溶液から微孔質層が形成され、第2のポリマー溶液から限外濾過層が形成される。最終的な膜の性質は、ドラム温度の調整によって変動し、望ましくないマクロボイドの形成を回避するため第2の層の厚さは最小限にされる。
【0110】
得られた構造および性質を以下に示す。捕捉性は高いバブルポイントによって示され、空隙のないUF層および緻密なUF表面は走査型電子顕微鏡画像(図4aおよび図4b)によって明確に見ることができる(ドラム温度45℃が示されている)。UFからMPへの遷移はあまり明確ではなく、このことは、処理量を最大化するためには好都合となりうる。
【0111】
【表1】

【0112】
この表のデータから、ドラム温度を低下させるとウイルス捕捉が増加することがわかる。捕捉UF層のLCSTは、使用されるあらゆるドラム温度よりもはるかに高く、UF溶液をこの程度に加熱することによって膜形成に影響が生じることは予想していないため、このドラム温度の影響は予想外である。しかし、データから分かるように、ドラム温度を58℃から45℃に低下させると、2桁を超える大きさでウイルス捕捉が増加する。
【0113】
試料5を、あらかじめ形成された多孔質膜の上に限外濾過層を流延して2つの区別可能な層を有する複合膜を形成することにより製造した2層膜(ミリポアPPVG膜)と比較した。以下の結果は、透過性およびBAPバブルポイントは類似しているが、本発明の膜(試料5)が非常に改善されたVmax性および良好なウイルス除去性を有することを示している。
【0114】
【表2】

【実施例2】
【0115】
22%のPES(ラデルA200樹脂)を28.1%のNMPおよび49.9%のTEG中に溶解することによって第1のポリマー溶液を調製した。もたらされた曇点は48.6℃であった。
【0116】
14%のPES(ラデルA200 樹脂)を29.2%のNMPおよび56.8%のTEG中に溶解することによって、第2のポリマー溶液を調製した。さらに3%のNMPを加えて、曇点を59.3℃に到達させた。
【0117】
これら2つの溶液を、実施例1に記載のように共流延した。第1の溶液の流延厚さは最終層厚さが140μmとなるように調整した。第2の溶液の流延厚さは最終層厚さが13μmまたは全体の膜厚さの8%となるように調整した。
【0118】
第1の溶液が、曇点よりも低温の45℃の水性浸漬浴中に浸漬する前に、曇点よりも高温の55℃の加熱ドラムに迅速に曝露されるように、形成条件を選択する。この結果、第1のポリマー溶液からマクロボイドのないUF層が形成され、第2のポリマー溶液から薄い微孔質層が形成された。
【0119】
得られたバブルポイントは比較的高く、プロセス条件をさらに変動させることによってより高いレベルが得られると考えられる。得られた構造は以下に示され、空隙のないUF層および開放されたMP表面が、走査型電子顕微鏡画像(図4cおよび4d)において明確に見ることができる。
【0120】
非常に驚くべきことに、これらの条件によって、マクロボイドがなく、非常に多孔質の微孔質表面を有する膜が得られた。ドラム温度は、限外濾過層のLCSTよりも高温であったが、微孔質層のLCSTよりも低温であった(限外濾過層のLCSTより低いドラム温度では、空隙を有する限外濾過層が得られた)。しかし、実施例2の膜の表面は、非常に表面多孔度が高かった。これらの結果は、本発明者らの予想に反している。さらに、これより、本発明以前の最先端のものと比較すると、本発明の膜は、新規であり、進歩性があることが分かる。
【実施例3】
【0121】
17%のPES(ラデルA200)を29.2%のNMPおよび53.8%のTEG中に溶解することによって第1のポリマー溶液を調製した。もたらされた曇点は43℃であった。これは最低部すなわち支持微孔質層となる。
【0122】
21%のPES(ラデルA200)を37%のNMPおよび42%のTEG中に溶解することによって第2のポリマー溶液を調製した。150℃を超えるので曇点は測定できなかった。これは最上部の限外濾過層となる。
【0123】
これら2つの溶液を、特許文献10に記載のように共流延した。第2の溶液を第1の溶液の上に重ねた。第1の溶液の流延厚さは最終微孔質膜層厚さが160μmとなるように調整した。第2の溶液の流延厚さは、約30μmまたは全体の膜厚さの約20%であった。
【0124】
55℃の水性浸漬浴に浸漬される前に、層状の溶液が、この曇点付近の範囲の温度の流延ドラム上で迅速に加熱されるように形成条件を選択した。第2の溶液は、この曇点の温度に到達しなかった。この結果、第1のポリマー溶液から微孔質層が形成され、第2のポリマー溶液から限外濾過層が形成される。最終的な膜の性質は、ドラム温度の調整によって変動し、望ましくないマクロボイドの形成を回避するため第2の層の厚さは最小限にされる。
【0125】
得られた構造および性質を以下に示す。捕捉性は高い捕捉によって示され、空隙のないUF層および緻密なUF表面を走査型電子顕微鏡画像によって明確に見ることができる(ドラム50℃が示されている)。UFからMPへの遷移が実施例1よりも明確に観察されるが、得られた処理量への影響はなかった。
【0126】
【表3】

【0127】
実施例1と同様に、ドラム温度を低下させると、ウイルス捕捉が増加する。35℃におけるLRVは、他の実験で見られる傾向と一致しなかった。これらの条件を繰り返すと、形成された膜はLRVが5となり、Vmaxは約20となった。
【実施例4】
【0128】
18%のPES(ラデルA200)を30.2%のNMPおよび51.8%のTEG中に溶解することによって第1のポリマー溶液を調製した。得られた曇点は56℃であった。これは最低部すなわち支持微孔質層となる。
【0129】
23%のPES(ラデルA200)を37%のNMPおよび42%のTEG中に溶解することによって第2のポリマー溶液を調製した。150℃を超えるので曇点は測定できなかった。これは最上部すなわち限外濾過層となる。
【0130】
これら2つの溶液を、特許文献10に記載のように共流延した。第2の溶液を第1の溶液の上に重ねた。第1の溶液の流延厚さは最終微孔質膜層厚さが155μmとなるように調整した。第2の溶液の流延厚さは、約10μmまたは全体の膜厚さの約6%であった。
【0131】
55℃の水性浸漬浴に浸漬される前に、層状の溶液が、この曇り点付近の範囲の温度の加熱面上で迅速に加熱されるように形成条件を選択した。第2の溶液は、この曇点の温度に到達しなかった。この結果、第1のポリマー溶液から微孔質層が形成され、第2のポリマー溶液から限外濾過層が形成される。最終的な膜の性質は、ドラム温度の調整によって変動し、望ましくないマクロボイドの形成を回避するため第2の層の厚さは最小限にされる。得られた性質を以下に示しており、より高い表面温度で比較的高い捕捉および高いVmaxの両方が得られることが分かる。
【0132】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の側および等価の第2の側を有する少なくとも1つの第1の多孔質膜層、および等価の第1の側および第2の側を有する少なくとも1つの第2の多孔質膜層を含み、前記第1の層と前記第2の層との結合部は一体となっており、前記第2の層の前記等価の第1の側から前記第1の層の前記等価の第2の側までの多孔度の遷移帯域を有し、前記層の少なくとも1つは非対称限外濾過膜である、支持されていない一体型多層複合限外濾過膜。
【請求項2】
前記第1の層がスキンを有する非対称限外濾過膜層であり、前記第2の層が微孔質膜層である、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記第1の層がスキンを有する非対称限外濾過膜層であり、前記第2の層が非対称限外濾過膜層である、請求項1に記載の膜。
【請求項4】
前記第1の層が薄い微孔質限外濾過膜層であり、前記第2の層が非対称限外濾過膜層である、請求項1に記載の膜。
【請求項5】
前記第1の層がスキンを有する非対称限外濾過膜層であり、前記第2の層が非対称限外濾過膜層であり、前記第1の限外濾過膜層が前記第2の限外濾過膜層よりも大きいMWCOを有する、請求項1に記載の膜。
【請求項6】
生物医薬の製造過程におけるタンパク質からのウイルスの高流量流体分離を実施するために適したウイルス除去方法であって、
(a)ハウジングを含む濾過装置を提供するステップ(前記ハウジングは、流体入口および濾液出口を有し、少なくとも2種類のポリマー溶液膜から形成される少なくとも1つの限外濾過層を有する少なくとも1つの多層複合膜を収容する。)、
(b)製造タンパク質含有溶液を提供するステップ(前記溶液中の主要溶質は前記タンパク質であり、前記溶液は前記ウイルスによって汚染される傾向にある。)、および
(c)前記複合膜のそれぞれを前記タンパク質が実質的に通過し前記濾液出口を通って前記ハウジングから排出されるのに十分な条件下で、前記製造タンパク質含有溶液を前記濾過装置に流すステップ(これによって、前記製造タンパク質含有溶液を汚染する前記ウイルスは、前記非対称膜の通過を実質的に妨害され、前記溶液から実質的に除去される。)を含み、
(i)前記複合膜は、それぞれ親水性であり、
(ii)前記複合膜は、それぞれ前記ウイルスの通過を実質的に防止し、前記タンパク質の通過を実質的に可能にすることができ、
(iii)前記複合膜は、それぞれ緻密側および開放側を有し、前記緻密側の平均表面孔径が前記開放側の平均表面孔径よりも小さく、
(iv)前記流体入口を通って前記ハウジング中に導入された流体が開放側を通って最初の非対称膜に通過し始めるように、前記最初の複合膜が方向付けられており、
(V)前記複合膜は、請求項1に記載の一体型多層複合限外濾過膜である、
前記方法。
【請求項7】
前記複合膜がひだ付き管を形成する、請求項6に記載のウイルス除去方法。
【請求項8】
前記複合膜のそれぞれが組成および多孔度において実質的に同一であり、対数減少値(LRV)が6を超え、タンパク質の透過が98%を超える、ウイルス除去方法の性能が可能となるように、各前記非対称膜の前記多孔度が画定される、請求項6に記載のウイルス除去方法。
【請求項9】
ウイルス除去方法への使用に適した濾過カプセルであって、流体プロセス流を流すことができる管状ハウジングを含み、前記ハウジングは、流体入口および濾液出口を有し、さらに、少なくとも2種類のポリマー溶液膜から形成された少なくとも1つの限外濾過層を有する1、2または3つの、界面で接する多層複合膜で構成されたひだ付き管を収容し、前記ひだ付き管は、前記流体入口と前記濾液出口との間の前記プロセス流内部に配置されていて、
前記複合膜のそれぞれは、
(a)実質的に親水性であり、
(b)ウイルスの通過を実質的に防止することができ、
(c)緻密側および開放側が設けられ、前記緻密側の平均孔径は前記開放側の平均孔径よりも小さく、
(d)前記流体入口を通って前記ハウジング中に導入された流体が各非対称膜をこの開放側を通って通過し始めるように方向付けられており、更に
前記複合膜は、請求項1に記載の一体型多層複合限外濾過膜である、
前記濾過カプセル。
【請求項10】
前記方法に使用される前記濾過装置が請求項9に記載の濾過カプセルである、請求項6に記載のウイルス除去方法。
【請求項11】
前記非対称膜のそれぞれがタンパク質を実質的に通すことができる、請求項9に記載の濾過カプセル。
【請求項12】
各非対称膜がポリエーテルスルホンで構成されている、請求項9に記載の濾過カプセル。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−13898(P2013−13898A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−213886(P2012−213886)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【分割の表示】特願2008−181065(P2008−181065)の分割
【原出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(504115013)イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン (33)
【Fターム(参考)】